八極轟拳の荷を奪え!
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/10/22 19:04



■オープニング本文

 泰国に、八極轟拳という名の流派がある。
 力こそ全てだと豪語する長『轟煉』を筆頭に、力ある泰拳士が揃っているこの門派。
 だが、彼らの力は完全なる実力主義だ。
 すなわち力がある者が偉く、弱者は価値が無いという苛烈な社会を作り上げているのだ。
 だが、彼らはその武力で一地方を支配している。
 近隣の領主たちも、快く思って居ないだろうが面と向かって敵対は出来ないのだ。
 なにせ、事を構えれば何千もの力ある泰拳士が領地を襲うかも知れない。
 しかも幹部と呼ばれる者たちや、轟煉の力はそれこそ化け物だ。
 力こそ全てと言ってはばからない彼らの武力は恐ろしい。だから誰も文句を言えないのだ。
 八極轟拳の支配領域に、名前はついていない。
 彼らも自ら名乗りもしていないのだ。だが、その中身は修羅の国であった。
 力なき者は圧政に耐え凌ぐしか無く、力がある者だけが美味い汁を吸う。
 金を出して媚びへつらう者も居て、そいつらがまた弱者を苦しめる。
 鉱山等での強制労働すらまかり通る八極轟拳の国、彼らに抵抗する人間は居ないのだろうか?

 とある街道を馬車が走っていた。
 護衛らしき徒歩の泰拳士たちが馬車の周囲にいる。総勢20名前後だろうか。
 その数を見ても、馬車の荷が貴重なものだと分かるだろう。
 馬車の荷は八極轟拳の幹部たちへの貢ぎ物だ。
 その中身は、甘い汁を吸おうと八極轟拳に媚びる悪徳商人たちが弱者から吸い上げた金品である。
 過去にはこうした荷を狙った反抗勢力による襲撃が何度かあったらしいが、今ではそれも無いようで。
 一応護衛の一団は馬車を守っているが、その表情に緊迫感は無いようだ。
 といっても、全員が八極轟拳の拳士である。
 生半可な腕前では、力が全てと標榜する八極轟拳の拳士にはなれないはずだ。
 今回、開拓者はこの荷物を狙うこととなる。

 八極轟拳に抵抗する人間はいないのか? その答えは、否。
 八極轟拳の支配に抵抗する反抗勢力は存在する。だが彼らも力を失い疲弊している状況だ。
 その状況にあって、真っ向から八極轟拳に喧嘩を売れる戦士たちが居た。
 それが開拓者だ。
 今回は、もしかすると反撃の狼煙となるかも知れない。
 だが敵は強力だ。心して当たらなければならないだろう。

 さて、どうする?
 


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
小伝良 虎太郎(ia0375
18歳・男・泰
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
雲母(ia6295
20歳・女・陰
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
アレーナ・オレアリス(ib0405
25歳・女・騎
長谷部 円秀 (ib4529
24歳・男・泰
中書令(ib9408
20歳・男・吟


■リプレイ本文


「ここでも八極轟拳ですか……」
 淡々と、長谷部 円秀 (ib4529)は心中で呟いた。
 彼はすでに幾度か八極轟拳と事を構えたことがある泰拳士だ。
 力のみを求める八極轟拳は、長谷部の志と相容れない者たちである。
「……ここで逃がせばまた、繰り返すだけでしょう。ならば、やはり此処で討ち果たさなければ」
 そう思う長谷部。だが、考えるのはここまで。
 今回は、短期決戦になるだろう。そのため、すでに準備は整っていた。
 八極轟拳の馬車が通る経路、その場所はすでに判明している。
 そして、開拓者たちはそれを倒木で足止めしてから一気に撃破することにしたようだ。
 作戦も決まった。ならばあとは動くだけだ。

「……荷を奪うのであれば、こちらも荷車を用意しては如何ですか?」
「そうだね。ボクや飛鈴は相手の足止めのために向こうの車輪を破壊するつもりだし」
 中書令(ib9408)の提案に頷く水鏡 絵梨乃(ia0191)。
 まず一つ、用意されたのは敵を倒した後に捕縛した敵の拳士や金品を運ぶための荷車だ。
 これは、襲撃箇所から少し離れた場所に隠しておかれることとなった。
 ちなみに、泰国でギルドを介して荷車を借りたらしいが、その際に一悶着あったよう。
「今回の報酬はいらないって言ってるだろ」
「……賞金ですから受け取りを拒否されても困ります。寄付したいならご自分でどうぞ」
 ギルドは寄付の受付窓口ではありませんから、と断られたのは村雨 紫狼(ia9073)だ。
 報酬はいらない、という事らしいが今回の報酬は八極轟拳の拳士にかけられた賞金である。
 その支払いを拒否するのは自由だが、そこまでは面倒をみられないというわけで。
 とにもかくにも、開拓者たち一行は現地に向かうのだった。

 そして現地にて、一つ問題が持ち上がっていた。
「後方の木々の準備は出来ましたが……護衛の一部が先行して街道の先を調べているようですね」
「この面子だから、相手に同情しないではなかったガ……そう一筋縄ではいかないカ」
 アレーナ・オレアリス(ib0405)の報告に、どうするかと首を捻る梢・飛鈴(ia0034)。
 開拓者たちは、見晴らしの悪い場所であらかじめ木を切り倒しておく予定であった。
 その木で前方を塞いでから、さらに後方を塞ぎ一気に攻めるという算段だったらしいが……。
「となると、引きつけてから木を倒す必要があるようですね……そうだ」
 同じく首を捻っていた長谷部は、ふと顔を上げると鴇ノ宮 風葉(ia0799)に案を告げて。
「……という感じに、ギリギリまで引きつけて、というのは?」
「あによ円兄ぃ。あたしの腕が信じられないっての? 大丈夫よ、無理ならヌリカベで代用するし」
「ならば大丈夫でしょう。幾人か前方に伏せて、機を窺えば」
 鴇ノ宮の術で木を倒すのをぎりぎりにして対応することにしたようで。
 これにて現地での打ち合わせも終了。後は、遠くに見える馬車を静かに待つだけで。
「強い者が手に入れ、弱い者が奪われる……よくある理屈過ぎて、面白みがないわねぇ」
 ふぁとあくびをこぼす鴇ノ宮。彼女のように退屈を押し殺して参加する開拓者も居れば、
「確かに自然の掟は弱肉強食だけど、だからといって弱い人を虐げていいとは思わない!」
 そう力強く告げる小伝良 虎太郎(ia0375)。
「強い力があるなら他の人達を守る為に使えばいいじゃないか!」
 同じ泰拳士でありながら、力で人を虐げる敵が許せないのだろう。
 小伝良のように強く怒っている開拓者もいるようだ。一方、
「なんで牛ぐるみなのかって? まーあんなのに目をつけられたらメンドいやんけー」
 正体を隠すためだろう、牛の着ぐるみ姿で意気揚々と配置につく村雨のような者も居れば、
「随分と悪いことをしているみてえだなっ! ケンカを売りに行くぜぃ!」
 ルオウ(ia2445)のように、八極轟拳を知る仲間たちからその悪評を聞きやる気を燃やす者もいた。

 そして、いよいよ馬車が近付いてきた。
 いの一番に気付いたのは、高台に身を潜めていた中書令だ。
 超越聴覚を使い、音によって接近に気付いたのだろう。オレアリスと共に指示を仲間たちに送って。
「……馬鹿みたいに暴れるのは他の連中がやりゃいいさ」
 雲母(ia6295)は淡々と。器用に片腕で弓を保持しながら木々の間に身を潜めるのだった。


 八極轟拳は、何度も繰り返しているように力こそ全ての集団だ。
 それ故に、弱き者を虐げ、力ある自分たちこそが至上だと過信しているのだろう。
 だが、同時に彼らは拳士であり、八極轟拳の内部でも常にそれぞれの武力は試され続けているのだ。
 八極轟拳の一員だからといって、慢心すればすぐに力で勝る同輩に追い落とされるだろう。
 それ故に、彼らは鍛錬を怠らない。それが死に直結するからだ。
 正義や道義とは全く無縁の集団ながら、力こそ全てを標榜するからこそ、優れた拳士が集まる集団。
 それが八極轟拳である。
 今回の開拓者の面々は、その経験や戦闘力で見れば歴戦の猛者たちばかりだ。
 だが、それでも油断は禁物だと彼らは理解していた。
 そして、いよいよ八極轟拳の馬車は襲撃予定の場所へと到着。
 開拓者たちは一気に行動を開始した。

「一気に行くわよ!」
 あらかじめ倒す方向を決めて、切り込みを入れておいた木に鴇ノ宮のアークブラストが直撃。
 数本纏めて木がへし折れてどんと街道へと転がった。
 あまりきっちりと倒すことは出来ないのは承知だ。
 だが、その隙間を塞ぐように結界呪符による白い壁が出現。
 これで、道の前方は一瞬でふさがれた。
「襲撃かっ! 護衛は堅守。他は散開して対処しろ!! 馬車は後退させ……」
 敵も声をあげ、対処しようとするのだが。
「……逃がすわけには参りませんよ」
 すこし離れた場所で、抱え大筒を準備していたアレーナ。彼女はその簡易大砲の一撃を馬車後方の路面へ。
 路面が大きく抉られ、さらにあらかじめ切れ込みの入っていた木々が倒壊。
 後方も不完全ながらふさがれることとなった。
 八極轟拳の拳士たちはすぐに動き出す。ある者は散開。ある者は馬車の近くで守りの構え。
 だが、その中で腕利きらしい数名がそれぞれの倒木へと一気に向かった。
「倒木を破壊して一気に抜けるぞ!」
 どうやら木を破壊して前方か後方のどちらかから一気に抜けるつもりのようだ。
 向かってくる腕利きとまずは馬車前方で激突が発生した。
「荒ぶる鷹の小伝良虎太郎、賞金首の八極轟拳を狩りにきた!」
「ぬぅ! こしゃくな……開拓者か!」
 小伝良は真荒鷹陣で牽制しつつ一気に躍りかかる。
 小柄ながらその一撃は強烈、だが対する敵拳士もなかなかの腕利きのようだ。
 蛇拳の構えで小伝良の出方を窺い、じりじりと距離を測る。
 ここで馬車に逃げられてしまえば一環の終わり。
 他の開拓者も小伝良に続き、敵の数を減らすため一気に襲いかかるのだった。
「大人数相手は好きじゃないんだがナ……名乗りもいらんナ。行くぞ」
 もふらの面をかぶり、瞬脚で一気に距離を詰めた梢。彼女もまた超級の泰拳士だ。
 だが、敵は同じ泰拳士。ある程度、梢の技や行動が予測が出来るのだろう。
 回避を高め、一撃を食らわないように立ち回る敵拳士。
 泰拳士同士の戦いは、回避をしながら拳と蹴りの応酬になるものだ。
 お互いに相手の手を知るからこそ、なかなかに決定打が出ないのだが、梢には策が。
 相手の機動力を殺すために、絶技・絶破昇竜脚を出す時を窺いつつ、数名を相手に渡りあうのだった。
 同時に、梢と同じく後方から距離を詰めたのは水鏡だ。
 こちらはどっしと足を止めて待ち構える様子。転反攻での反撃を警戒して敵は命中に長けた布陣で接近。
 さらに命中に優れた槍や棍を構えて、一気に水鏡へと打ち込もうとする。
 だが、そこで水鏡は乱酔拳。ゆらりと酒精の力を借りて変幻自在の動きを見せ、敵の連係攻撃を回避。
 だが、状況は開拓者不利と言えるだろう。
 それぞれ数名を相手に拮抗しているとはいえ、敵の方が数は多い。
 なんとかこちらの戦力が削られる前に、敵の数を減らしていかなければ、不利になるばかりだ。
「サムライ、ルオウ! 見参っ! どっからでもかかってきやがれえ!」
 敢えて危険を知りつつも咆哮を使い一気に接近するルオウ。
 そこに咆哮を受け、あるいは複数で襲いかかり殲滅しようと群がる敵拳士。
 それを相手にルオウは、くるりと身を翻しコマのように回転する。
「回転、剣舞! 足狩り!」
 虚を突いた足への峰打ち! だが、敵拳士たちもさすがだ。気力を使って強引な回避!
 ひらりと飛び上がりルオウへ反撃。ルオウは決定打こそ防ぐが、じりじりと後退。
 そこに飛び込んできたのは全身牛の着ぐるみ、村雨だ。
 背後を突こうと飛びかかったのだろう。だが、泰拳士には背後からの攻撃に対処する背拳がある。
「ホントに何者だって顔すんなDQNどもがーっ! ただのカワイイ牛さんじゃボケェェェッグェ!」
 と、突飛な咆哮を上げつつ、一気に距離詰めたのだが、背拳で気取られ棍で反撃。
 鳩尾に棍がめり込み、ひっくり返る村雨。
 村雨も百戦錬磨のサムライだ。しかし泰拳士への背後攻撃はまずかったよう。
 反撃され痛打を食らう村雨。このまま一角が崩れれば危険度はますます増えるだろう。
 だが、そこで自体を打破したのは、やはり仲間たちの援護だった。

「……片腕ってのも、ま、慣れたらどうにでもなるな」
 木々の間に身を隠し、矢を放つ雲母。
 彼女は隻腕ながらも、義手や口を使って器用に矢を放っていた。
 もちろん、本来両手で放つ弓だ。ある程度技が鈍っていたのもあるだろう。
 そのためか、敵の拳士は弓を回避し、伏兵が居る事を悟った。
 だが、そこに雲母の弓の絶技、月涙が炸裂。回避すればまだ助かったのかも知れない。
 しかし敵拳士は矢を払おうと構え、月涙はその受けをすり抜けて拳士を穿った!
 同時に、馬車の周囲で守りの構えの拳士に氷の一撃が突き刺さる。
 距離をとった鴇ノ宮のアイシスケイラスが突き刺さったのだ。
 だが敵もさすがだった。技を食らった泰拳士たちは、一撃では倒れず、生命波動で回復をもくろむ者も。
 その隙を逃さなかったのは長谷部だ。
 瞬脚で一気に距離をつめた。狙いは馬車だ。
 だが、馬車の車輪を壊すのであれば、強力な攻撃が必要になるだろう、その時間はない。
 ならばどうするか? 長谷部は、馬をつなぐ綱と長柄を一気に破壊し、馬の尻を叩いて走らせる!
 これで馬車は動けなくなった。
 となれば、時間制限は無くなった。あとは何とか敵拳士を殲滅すれば良いだろう。
 村雨が一度反撃され、少し追い詰められているとは言え、まだ戦力は拮抗気味だ。
 距離をとっている雲母や鴇ノ宮へ気功波が飛んでいるが、この二人の援護は的確だった。
 鴇ノ宮は優れた術師であり、その技は的確に敵を攻撃し戦闘力を奪いつつあった。
「……悪いわね。本当に強い奴ってのは、「奪わない」ってことも出来るわけ」
 だが、敵拳士たちもそれを受けつつ、戦闘力を失わずに反撃。
 同じように雲母の居場所もまだつかめていないのだが、それでも回避で何とか耐え凌いでいた。
 やはり敵が予想以上に手強い。このままではまだ開拓者が不利なのは変わらないと思われたのだが。
 やはり拮抗を崩したのは仲間の援護だった。
 加勢したのは、アレーナと中書令だ。
 アレーナは刀を手に一気に攻めかかる。彼女は騎士だ。
 泰拳士の技を受け止めて足止めが可能な防御の技に長けていた。
 アレーナが加わり敵の数が分散。そこに中書令の剣の舞が響く。
 仲間全ての攻撃力を強化する中書令の楽の音。これが拮抗を完全に崩した。
 一撃一撃の威力がわずかにでも増せば、それがじわじわと差を産んでいく。
 破軍を込めた強烈な蹴りで、梢は二名の膝を一気に蹴り壊した。
 乱酔拳からの転反攻は、威力を増し一気に棍使いの棍をへし折り水鏡は反撃に映り、絶破昇竜脚。
 小伝良は、好機と判断。敵の腕利きと一気に距離を詰めてなんと荒鷹天嵐波。
 中書令の夜の子守歌が響けば、ほとんどは抵抗するが1人が昏倒。支援が次々に成功していく。
 一気に敵の数名が倒れた。こうなれば後は将棋倒しのように勝負がついていくのだった。
「この刀は、人を斬らない。アヤカシと闘うための相棒だ。番屋へつきだしてやっかんな、覚悟しな」
 不殺を胸に、ルオウは峰打ちで一気に押し切る。剣気での威圧でひるませてからの連打が決まる。
 そして逃げようとする者が出始めたのだが、それをアレーナと長谷部が一気に捕捉し撃破。
 戦況は完全に開拓者の勝利へと傾いた。
 そして最後は、残党を鴇ノ宮の術と雲母の矢が倒していき、そして戦場は静かになった。
 村雨が倒されかけ、囮の役割を果たしたことも功を奏したのだろう。
 上手く自害した一部の拳士以外、十数名の拳士を捕縛、開拓者たちは依頼を成功させるのだった。

 用意した荷車に奪取した金品と捕縛した拳士は乗せられ連れて行かれることとなった。
 アレーナの進言もあり、この拳士たちは八極轟拳への抵抗のため、尋問されることになるだろう。
 これからさき、戦況がどう動くかは謎だ。
 だが、そのきっかけになるかも知れないこの依頼。
 開拓者たちは、八極轟拳の鼻っ柱を見事にへし折ることに成功したと言えるだろう。
 もちろん、本格的な戦いはこれからだが……。
「フム、この前幹部を倒し損ねた鬱憤をここで晴らそうと思ったんだがナ……」
「そうですね。強い拳士とと戦えるのは個人的には楽しみだったんだけど……」
「物足りんナ」
「ええ、物足りませんね」
 笑い合う梢と水鏡。どうやら開拓者たちの戦意は十分。
 きっと、すぐに次の戦いが、向こうからやってくるだろう。