その一歩が命取り?
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/10/17 20:11



■オープニング本文

 武天の山岳部には、貴石や金属の原石が取れる鉱山が点在している。
 その中の一つ、希少な貴石が取れる小さな鉱山。そこにほど近い村が今回の依頼の現場だ。
 村は、長い山道を登った先のかなり標高の高い場所にある。
 村に至る道は一つだけ、山肌に沿うようにしてくねくねと伸びる狭い道だけである。
 さらに最後に難所がある。それは深い渓谷をつなぐ細い橋だ。
 長年手入れされ、頑丈なその吊り橋。
 村の職人が欠かさず手入れをしているようで造りはしっかりしているらしい。

 その山道と吊り橋に小鬼のようなアヤカシがかなりの数現れてしまったのだ。
 小鬼といえばもっとも弱いアヤカシの一種として有名である。
 数が多ければ苦戦することもあるだろうが、一対一なら恐ろしくない。
 だが、此処に現れた小鬼のアヤカシは少々普通とは違っていた。
 武器を持っていないのだが、その代わり両手両足がまるで猿の手足のようだとか。
 大きく器用で、それで岩肌を駆け上ったり、吊り橋にぶら下がったりすると言うのだ。
 それが邪魔で今、村は孤立してしまっているらしい。
 なので、急いでこの猿小鬼たちを退治しなければならない。
 それが今回の依頼だ。

 危険な場所での戦いになるだろう。心して安全確保をしつつアヤカシを撃破しなければならない。
 身の軽さを活かしたり落下防止用の装備を整えるなど、様々な手が考えられるはずだ。
 さて、どうする?


■参加者一覧
玲璃(ia1114
17歳・男・吟
慄罹(ia3634
31歳・男・志
アレーナ・オレアリス(ib0405
25歳・女・騎
杉野 九寿重(ib3226
16歳・女・志
椿鬼 蜜鈴(ib6311
21歳・女・魔
杜 茂実(ib7172
20歳・男・サ


■リプレイ本文


「何処にでもアヤカシはいるものですが、このような厄介な地形にさえ適応したものが出てくるとは……」
 ほう、とため息をつきつつ山道を見上げるアレーナ・オレアリス(ib0405)。
 彼女たち六名の開拓者は、これから山を昇ろうとするところだった。
「まだ麓なのに険しい道だな。皆、準備は出来たか? ……じゃあ帰るか」
「おや、おんしは帰りたいのかえ?」
「ふっ、冗談だ」
「ほほほ、こちらも冗談じゃ。此度は命を預け合う仲間じゃしの。皆、世話になりおる」
 杜 茂実(ib7172)の冗談に、からからと笑いながら椿鬼 蜜鈴(ib6311)が応え、一同は山道へと進む。
 すると、すぐに道は険しく狭くなってくるのだが、それしきで参る開拓者では無かった。
 とんとんと、狭い道を進みながら時折片手で岩壁に打ち付けられた鎖を掴んで。
 くるりと振り向いては後方を確認するのは先程冗談を飛ばしていた杜だ。
 彼は鼬の獣人だという。
 獣人、この天儀においては神威人と呼ばれる彼らは、自然の多い場所で暮らす者が多いという。
 それゆえか、彼も山道を苦にする様子も無く、身軽に昇っているようで。
 その後ろの続くのは、腰まである漆黒の髪とそこからピンと覗いた犬耳の杉野 九寿重(ib3226)だ。
「こんな狭い道を狙って人を襲うとは、狡猾な性質なのが明らかですね」
 小柄な彼女もまた同じく神威人で、山道を苦にした様子は無い。
 志士の杉野は周囲の物音や気配を注意深く窺いながら、杜の後を付いていくのだった。
 その次に続くのは3人の女性……いや、2人の女性と、女性と見まごう男性1人だ。
「できる限りの落下防止の策は考えてきましたが……これは効果あるでしょうか?」
 女性にしか見えないこの男性は玲璃(ia1114)。彼は、首の首飾りを仲間に向けた。
「ふむ、それは白き羽毛の宝珠じゃな? 確か高空より落下したときに効果を発揮するというが……」
 玲璃の問いに首を傾げるのは彼女と共に一行の列の中程に居る椿鬼だ。
「まっすぐに下まで落ちたなら効果があるかもしれませんが、この崖は斜面になっていますからね」
 そして2人を護るようにすぐ後ろに控えるのは、騎士のアレーナだ。
 守りの技に長けた騎士は術者を護るのに適任なのでこの配置のようで。
「ふむ、確かに宝珠が効果を発揮するかどうかわからぬのう?」
「ええ、途中の枝や岩に打ち付けられたときにも効果を発揮するかどうか分かりませんからね」
 過信は禁物です、とアレーナや椿鬼に言われて、なるほどと頷く玲璃。
「それならばやはり、落下を徹底的に避けなければなりませんね。私もなるべく支援しますね」
 そういってにっこり笑う玲璃。やはりどこからどう見ても女性にしか見えないのであった。
 そしてその後ろで、そんな会話を耳にしつつ、殿を務めているのは慄罹(ia3634)だ。
 ふっと吹いた風に彼の肩口に垂らした三つ編みの髪が揺れて。
 志士である慄罹、ひとつ気になるのは彼の武器だった。
 慄罹は志士であるが、変幻自在の棍術を得意としていた。
 棍といえば泰拳士にとっての得意武器という印象だが、志士はさまざまな武器を扱う技を持つ。
 そのため棍を使うのも不思議ではない。
 現に、慄罹は泰国の伝説にある英雄、豹子頭の異名があるとか。
 だが、今回彼が斜めがけにして身につけているのは、弓であった。
「……慄罹は志士であったな? 志士は弓も良く使うというが、長弓は邪魔ではないかね?」
 椿鬼がふと振り向いて尋ねれば、ふと慄罹は笑って首を振って。
「確かにこの弓はちぃと長すぎて使い道が無いと思ってたんだがな……」
 そういって彼は肩から弓を取り出すと、きりっと矢をつがえて、調子を見つつ。
「……ま、ちょっと面白い使い方を思いついてな。試すのには丁度いいかもしれねぇ、というわけさ」
「なるほどのう。じゃが、おんしの矢はわらわの放つ矢と違うからの。後ろからぷすり、やめておくれ」
「む? 弓を持って居るようには見えないが……」
「ふふふ、わらわの矢はアヤカシ以外を穿ちはせぬ、特別製の矢じゃからのう」
 からからと笑う椿鬼に、心配無用だと不敵な笑みを向ける慄罹。
 そうこうするうちに、一行は山の中腹までやってきていた。
 もうじき、山道は一番険しい場所へとさしかかる。
 そこの幅は人1人がぎりぎり通れるほどの狭さで、命綱も山の岩肌に打ち付けられた鎖や綱のみだ。
 開拓者たちは、それぞれが用意した荒縄や落下防止の手段を執りだして準備をする。
 いざとなれば、直接岩肌に綱の端の苦無を打ち込んだり、鎖や木立に絡めて落下を止めるためだろう。
 だが、やはり最も警戒するのはアヤカシだ。
 すでにこのあたりならば現れてもおかしくないはずなのである。
「……では、そろそろ瘴索結界を使いますね。あまり長くは持ちませんが、橋までは維持できるでしょう」
 玲璃の言葉に、頷く一同。
 周囲のどこから遅いかかってくるか分からない猿小鬼に対して、一つ目の防備はこの術だった。
 巫女の技、瘴索結界。名前の通り瘴気を探る結界だ。
 アヤカシの瘴気を感知するこの術は、この場において高い効果が期待できるといえるだろう。
 しかし、
「アヤカシの数が多いですから、なかには結界に反応せずに近寄ってくるものもいるかもしれませんね」
 するりと忍刀を抜き放って周囲を警戒する杉野。
 ピンと立った耳は周囲の音を窺っているようで、ときおりぴくっと動かしながら。
「私も時折心眼で警戒することにしますね。玲璃様、アヤカシが近付いてきたら教えてくださいね」
「はい、承りました……それでは進みましょうか」
 そういって、一行は慎重に先を急ぐのだった。


 すでに山道の下は崖、落ちれば無事では済まないほど険しい高さへと一行はやってきていた。
「恐怖抱いてたら自然と体がすくんじまう……こういう時は開き直るのが一番だな」
 すうっと大きく息を吸いこんで、ふうと吐き出し深呼吸をする慄罹。
 高所が故に、自然とこわばってしまう体を解きほぐし、緊張しつつも萎縮しないようにと気構えて。
「何とも足場が危険な場所じゃて。益々気を付けねばのう?」
 飄々と、桃色の髪を谷風になびかせて、椿鬼はそういってからしばし考え込んで、
「……しかし、斯様な道程の先に街が在るとはの」
「ええ、そこに住む人たちのためにも、完全討伐して安全にして上げたいですね」
「うむ、その意気じゃ。さて、無駄話もそろそろ仕舞じゃな……」
 杉野の言葉に、笑顔を浮べて応えた椿鬼は、ふと顔を引き締めて。
 経験豊富な彼ら開拓者は、その勘働きでもってアヤカシが来るであろうと予測していた。
 そして、その予感は的中する。
「……来ました。前方と後方からそれぞれ3匹ほど……そして下方の岩肌を昇ってくるのが4匹です」
 一番に反応したのは玲璃の結界だ。一同はさっと臨戦態勢をとりながらも移動を続ける。
 同時に、杉野も心眼を発動。探り漏らしの無いことを確認してぴたりと忍刀を構える。
 そして、ついにアヤカシたちが襲いかかってきた。

「人の平穏の為じゃ。害にしかならぬアヤカシは散るが良い」
 一同の中程、椿鬼は下方より接近してくる猿小鬼に向かってブリザーストームを向けた。
 轟と噴き出す烈風と吹雪、その氷雪に包まれてアヤカシ立ちは凍らされたたき落とされていく。
 だが、身軽に2匹ほど逃れたのだろう、谷風で吹き散らされた吹雪の向こうから強襲。
 そこに立ちはだかったのはアレーナだ。
 すでに、岩肌に縄と連結した苦無を突き刺し、命綱代わりにしてなんと谷に向かって跳躍。
 すぐに綱を支点に、ひらりと体を引き戻し椿鬼と玲璃の傍らに着地して。
「そうはさせませんよ。守らせて頂きます」
 一体を刀で迎撃し、飛びかかってきたもう一体をガード。
 生まれた隙を仲間たちは逃さない。玲璃は錫杖を振るい、椿鬼は苦無でその猿小鬼を一撃。
 二発の攻撃でひるんだ猿小鬼は、続くアレーナの一撃で谷底へと転落していくのだった。
 そして列の後方。3匹もの猿小鬼の猛攻に晒されるかと思われた慄罹だが。
「……狭い道だからそこ有効ってな」
 放ったのは瞬風波だ。風の刃を放ち一直線上の敵を攻撃する技が、追いすがる猿小鬼を巻き込む。
 狭い山道を一気に駆け抜けた風の刃が一気に2匹の猿小鬼を吹き飛ばす。
 だが、まだ一体。一気に距離を詰め、壁面を足場に飛びかかってくるのだが。
 それを前にしても慄罹は焦らない。手にしているのは長い弓だけ。
 矢をつがえていない弓、それを大きく振るって飛びかかってくる猿小鬼を慄罹は打ち据えたのだ。
「こんな使い方をする奴、きっと俺くらいだろうな」
 苦笑を浮べながら、長弓をまるで棍のように振り回す慄罹。
 打撃武器として作られていない弓なので、本当の棍ほどの威力は無いだろう。
 だが、振るっているのは棍術に長けた慄罹だ。長い弓を起用に古い、変幻自在の棍術を披露する。
 風を裂きひゅんと音を立てて振るわれる細い弓、それが猿小鬼を打った。
 あまり多用してしまえば武器が壊れてしまうこともあるだろう。
 だが、慄罹は最低限の足捌きで猿小鬼の攻撃を回避し、返す一撃でびしりと弓で小鬼の足を払って。
「これで終わりだ……まあ使えなくはないな」
 そのまま体勢を崩した小鬼を弓で突き飛ばし、崖下に落とすのであった。

 そして残るは前方の攻防。3匹の猿小鬼を待ち受けるのは杜と杉野の2人だ。
「こっちだ、かかってこい!」
 咆哮を上げて小鬼をおびき寄せる杜。まんまと咆哮を受けて、小鬼が一匹飛びかかる。
 その脇をすり抜けて、背後から狙おうとするのこる二匹。そこには杉野がするりと距離を詰めた。
 杜は一匹を引きつけたまま、刀を振るって一気に押し込む。
 足場は悪いながらもさすがの身のこなしであっという間に一匹を追い詰めそのまま斬り飛ばして崖底へ。
 その背後を狙う猿小鬼。だがそれを許さない杉野。
 杉野に気付いて、反撃してくる猿小鬼だが、それを虚心でするりとかわし返す忍刀の一撃。
 残りは一匹、死角から狙おうと飛び上がり岩肌を賭け抜けて背後を取ろうとするのだが。
「甘いな」
「そうはさせませんよ」
 慄罹の矢、アレーナの放った手裏剣が猿小鬼に命中。最後の一体までもがあっさり倒されるのだった。
 だが、これで攻撃は終わりでは無かった。
 倒した数は全部で10、まだ残りは半数いるはずだ。
 油断無く、玲璃の結界が周囲には張り巡らされていたのだが、それを捉えたのは杉野の心眼だった。
「……! 皆様、前方に二匹まだいます! 上の方でなにか……」
「一体何を……っ岩です! 岩を落とそうとしています!」
 杉野の言葉に視線を向けた一同。気付いたのは玲璃だ。
 二匹の猿小鬼は一行の前方、山肌の岩に取り憑いてそれを引きはがそうとしていた。
 元来、あまり不安定な岩はこのあたりには少ないはずだ。
 だが、アヤカシたちはある程度、獲物の人間を待ち構えてのだろう。
 ずるがしこく、岩を選んでそれに細工をしていたようだ。
 とっさに反応したのは先頭の杜。一気に狭い山道を駆け上がり、落下してくる岩の下へ。
 同時に、一番最初に感づいた玲璃、杜へと近付きながら巫女の術を発動!
 落下する岩を受け止めようとする杜の前に幾重にも重なる氷の花弁が現れた。
 玲璃の氷咲契だ。それが氷を受け止め勢いを殺す。そのまま、落下してくる岩を杜が全力で支えた。
 細身の杜、だが彼は強力を発動して力を込める。
 細い腕がぐっと一気に隆起し、細いながらもねじった鋼線の束のように筋肉が浮かび上がる。
「ぉぉおおお!!」
 そのまま一気に岩を押し返し、岩は崖下へ落下するのだった。
 だが、まだ二匹の猿小鬼が残っていた。二匹は一気に飛びかかって来る。
 狙いは、杉野や杜のさらに後方だ。
 一匹をアレーナが捉え刀で斬り飛ばす。だがもう一匹が椿鬼へ。
「群がる輩はこの投扇刀で切り裂いて……む?」
 するとその一匹は椿鬼の横をすり抜けて、慄罹へと飛びかかった。
 慄罹はそれを迎撃するため弓を構えて一撃。だが小鬼はしぶとく、はじき飛ばされながらも慄罹を掴んだ。
「ちぃ! しぶといな」
 だが、慄罹は慌てなかった。
 行雲流水、あるがままに流れに逆らわずにとんと崖から飛び、空中で棍代わりの弓を小鬼にたたき込む。
 吹き飛ぶ小鬼。そしてそのまま慄罹は、空中でヴァイブレードナイフを抜き放ち。
 それをぎりぎりで、足場の岩にたたき込むのだった。
 震動しながらじじじと岩に食い込むナイフ。
 だが、勢いのせいか刃は慄罹の体を支えきれず、一瞬崖下へと吸いこまれそうになるが、
「捕まりゃ! 多少は持つはずじゃ」
 急に崖から伸びる蔦。椿鬼のアイヴィーバインドによって生み出された魔法の蔦が慄罹を捉えたのだ。
 間一髪で転落を免れた慄罹は、ひょいと体を引き上げて、やっと一行は一安心するのだった。

 そして一行はその後、妨害も無く吊り橋へとやってきた。
「残るは数匹ですね……視界も開けていますし、もう大丈夫でしょう」
 丹念に結界を張り巡らす玲璃。すでに大勢は決したと言って良いだろう。
 玲璃の精霊の唄が仲間の怪我を癒やし、一行はほぼ無傷。
 確かに場所は危険な吊り橋だ。
「……こうした狭い場所では、突き、ですね」
 ひらりと飛びかかってきた小鬼の攻撃を避け、寝かせた忍刀に炎魂縛武を宿し一閃。
「鎌鼬の本領発揮だ」
 ぐんと足場の板に体重をかけ、吊り橋のしなりを利用する杜。
 反動でひょいと飛び上がって攻撃を回避し、そのまま身軽に猿小鬼の背後を取る見事な動き。
 まさしく鎌鼬だ。そのまま、ひゅんと両手の刃を振るって一丁上がり。
 そして、残る猿小鬼を狙い撃ちするのは椿鬼。
「残りはわらわの矢で打ち落としてやろうかの。これがわらわの矢じゃ」
 そういって椿鬼が放つのはホーリーアロー。歌うように呪文を唱え、アヤカシを射貫いて。
 あっという間に、難関と思われた吊り橋での戦いは決着を迎えるのだった。

 その後、慎重に周囲を探し、倒し漏らしが無いか調べた後、彼らは依頼の村へとたどり着いた。
 岩山に張り付くようにして作られた小さな集落。
 だがそこにも確かに人の営みがあるようで。
 アヤカシを倒してくれたことを感謝し、小さな宴が開拓者たちへの感謝として行われるのだった。
「これで安全を取り戻せましたね。厄介ですし、こういったアヤカシが増えないと良いんですけど」
 宴席で、赤々と燃える囲炉裏の光を眺めつつ、暖かい汁物を手にぽつりとアレーナが言えば。
「ええ、でもまたアヤカシが現れたら、またその時も推参しますから」
 そういって微笑を浮べる若き杉野。
 その横で、物は試しとこの土地の酒に挑戦し、その強さにひっくり返る杜とその様子に笑う慄罹。
 静かに酒杯を傾ける椿鬼、せっかくならと皆に言われて歌を披露する玲璃。
 開拓者たちはその活躍に見合う、のどかで心休まる一時を、それぞれの形で楽しむのだった。