秋の空、大爆発
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/10/15 21:49



■オープニング本文

 開拓者だって人間だ。
 小さな事でいらいらすることもあれば、かっと頭に血が上ることだってあるだろう。
 季節はそろそろ、秋。
 夏の暑さはやっと収まり、朝夕は涼しい風が吹く。
 胸に貯まった不満や怒りは、この際さっぱりと吐き出して、新しい季節を迎えようじゃ無いか!

 ここは理穴の首都、奏生。その郊外にある理穴重臣の保上明征のお屋敷だ。
 そこに一人の居候がいた。
 発明家兼開拓者の中務佐平次である。
 実験と、そして爆発をこよなく愛する彼……は、ぼんやりと秋の空を見上げていた。

「………ああ、何故……周りはみんな……僕を残して、行ってしまうのだ……」

 ……台詞だけを聞いていれば、生き残った戦士の嘆き、かと思えるが。
 何のことは無い、大親友の保上明征に恋人、とさらに養子まで出来たとかで。
 さらに、親しくしているギルド受付の利諒という青年も、最近恋人が出来たらしい。

 日々、裏山を爆発で穴だらけにしたり、新発明を試しているこの珍奇な青年。
 当年とって28歳。実はそこそこ見た目は良いのだが、性格と言動が非常に残念。
 一に爆発、二に爆発、三四も爆発で、五に実験……という感じの体たらくである。
 それ故、さっぱりきっぱりモテないとかで……というか、最近は出会いすら無いらしい。

 だが、からりと高く晴れ渡る秋の空の下、いつまでも腐っているわけにはいかない。
 そう、自分から動き出さなければ始まらないわけで……。
「よし! こんな気分は一新しなくては! ……とりあえず、爆発だ!!」
 ……モテる努力は良いんだ、とか思わず突っ込みたくなるが、まぁ好きな事したら気も晴れるのだろう。

 というわけで、またしてもギルドに妙な依頼が張り出されることになった。
「溜まった鬱憤を発散しよう! 爆破耐久実験、参加者大募集!」

 というわけで、どうする?
 ってかどうするもこうするも、好きにしたらいいんじゃない?


■参加者一覧
レヴェリー・ルナクロス(ia9985
20歳・女・騎
アレーナ・オレアリス(ib0405
25歳・女・騎
シーラ・シャトールノー(ib5285
17歳・女・騎
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎
不破 イヅル(ib9242
17歳・男・砲
宮坂義乃(ib9942
23歳・女・志


■リプレイ本文

●非モテがここに
 その日開拓者が約束の場所へと向かっていると。
 集合地点の近くで、大きな大きな火柱がどーんと上がった。

「……やっぱりあの人はいつも通りね。でも如何して私はまた此処に立っているのかしら」
 火柱と、一拍遅れて聞こえてきた爆音とその衝撃に髪をゆらしつつ。
 レヴェリー・ルナクロス(ia9985)は呟いて天を仰いだ。
 そんなレヴェリーを見て、シーラ・シャトールノー(ib5285)は首を傾げて。
「あら、レヴェリーさんは今回の依頼人をご存じなのかしら?」
「……ええ、一応何度か依頼でご一緒したことがあるわね。雪の実験、湖の実験……」
 指折り数えたレヴェリーは、かくりと肩を落として。
「訓練として都合が良いのは事実ですけど……お父様、お母様。私は頑張ります!」
 はふーと盛大なため息をついてから、遠く故郷の両親を思ってぐっと自身を奮い立たせるのだった。
 そんなレヴェリーを眺めるシーラ。
「……なんだか大変な人なのかしら?」
 と、料理道具を背負い直して、改めて目的地の荒梅田山実験場を眺めてみれば。
 ずばーん、もう一つ巨大な火柱が。
「……まぁ、何にせよ。一筋縄では駄目な依頼のようね」

 そして現場に開拓者たちはやってきた。
 荒梅田山、理穴の重臣保上明征氏の邸宅裏にある山の名前だ。
 屋敷のある側には木々があるようだが、その裏手は禿げ山気味。
 かつては石切場などがあったらしく、すり鉢状に凹んだ幾つかの開けた広場があるようだ。
 ずどーん、火柱が上がる。おそらく大砲や銃器、爆薬などによるもののなのだろう。
 そんな爆炎をうっとりと見ながら、依頼人は佇んでいた。
 耳栓をとった依頼人、中務佐平次は開拓者たちに気が付いたのだろう、くるりと振り向いて。
 目と目があう瞬間、駆け出す人物が。

「……なんと、中務殿は私と同じ哀しみを持つ同志であったか!」
 佐平次に向かって走り出したラグナ・グラウシード(ib8459)。
 爆風の余韻が彼の頬を流れる滂沱の涙を吹き散らす。そう、このラグナはモテない非モテ騎士だとか。
「おや、ラグナさん。お久しぶりで……はっ、もしかしてラグナさん。貴方も私と同じ……」
「ああ、その通りだ中務殿。同じ孤独な魂を持つ同志よ……」
 がっしと手を取り合う二人の男。なにか感じ合うものがあったのだろう。
 よれよれの謎な服装にアクセサリー過多、話題は爆破と発明だけという残念美形、中務佐平次。
 背中にウサギのぬいぐるみ、うさみたんを背負ったラブリー大好きな偉丈夫、ラグナ・グラウシード。
 2人とも外見は決して悪くはないのに、言動行動その他いろいろが原因なのでは?
 仲間の開拓者はこっそりそう思うのだが、悲しいかな、本人たちはさっぱり気付かないようで。
 そして、盛り上がる二人を見て、
「なにやらよからぬ気がたちこめているようですね……」
 ぽつりとアレーナ・オレアリス(ib0405)が呟いた。
「依頼人がアヤカシになる前に、手を差し伸べてさしあげねばならないようですわね」
「アヤカシに?! ……でも、モテないのも度が過ぎると、あり得なくは無いの……かしら?」
 アレーナの突飛な心配に、思わずレヴェリーもツッコミ損ねたどころか、疲れたように頷くのだった。

 そして顔合わせもそこそこに、実験の準備が始まった。
「中務殿、これは何処に置いたらいいですか?」
「ああ、そちらの丸太は剣技の威力を試す時に使いましょうか。あと、敬語じゃ無くて良いですよ〜」
 宮坂 玄人(ib9942)は修羅の膂力か、ひょいひょいと丸太を運んで配置していたり。
 名前は男性風だが、この宮坂……歴とした女性である。
 そんな彼女は、じーっと佐平次を眺めてみる。なんだか存外に明るいようだ。
 丸太は安く手に入ったんですよー、と話しかけてきたりしつつ、楽しげである。
「一つの事に没頭できる人は嫌いじゃないが……まあ、なんにせよ落ち込んでないならいいか」
 どうやら爆破実験が出来るのがなにより楽しいらしく、意外と佐平次は元気なようだ。
 そして準備も終わったのでとりあえず宮坂は試したいことがあるようで。
「さて、宮坂さんは何をするんですか?」
 わくわく顔で尋ねる佐平次であった。
 その間、他の開拓者は後方に控えて次の実験の準備をしているようだ。
「……これでポトフの準備はいいわね。おやつには焼いてきたアップルパイでも出そうかしら?」
「あら? それなら折角ですし、お茶の用意でもしましょうか」
 料理を用意するシーラに、お茶会の準備をするアレーナ。実験以外の準備も進んでいるようある。
 で、佐平次と宮坂のところはというと。
「……ふむふむ、志士の技の炎魂縛武の調査ですか。どういう技なんですか?」
「んー、武器に炎を纏わせる技なんだが、熱を感じたことはないから、どういうものか調べようと思って」
 ということで、宮坂は炎魂縛武を発動してみるのだった。
 大柄な宮坂がぴたりと刀を構えると、その刀の周囲を燃える炎が取り巻いた。
 おそるおそるそれに可燃物を近づけたり手を近づけたりするのだが、
「ふむふむ、やっぱり熱は感じませんね。精霊力による幻影やその余波といったところでしょうか?」
「なるほど。じゃあやっぱり本物の炎じゃ無いわけか。なら、次はその破壊力を試してみようか」
 そういって、丸太や巻き藁へと刀を振り、その威力を試し始める宮坂とそれを記す佐平次であった。

●モテない二人
 実験は進む。
「あんたも確か砲術士だって話だよな。だったら火薬の扱いは得意だろう?」
「ええ、人一倍普段から火薬を扱っているつもりですよ。火薬を使うんですか?」
 不破 イヅル(ib9242)の実験を手伝う佐平次。
 不破は訥訥と準備を進めていた。どうやらなにか爆発物の実験をするようだ。
「……やるからには徹底的に、だな。此処ならいくら爆破させても文句は出ないみたいだろうし」
 そして不破が用意したのは、壺に詰められた火薬とその上に油の入った革袋だ。
「なるほど……火薬と可燃物による炎上装置、といったところですか! これは楽しみですね」
 わくわくと見守る佐平次。不破は十分離れて、その壺を銃で射貫くのだが。
 ちゅんと1発目が命中。着火せずに不発。
「……あらら、用意した火薬は安定性が高いものでしたから、上手く火花で着火しなかったみたいですねぇ」
「ふむ、ならばもう一発、だ……」
 そして打ち込むこと数発。上手く火花で着火したようでぼんと火薬が燃え上がった。
 銃弾によって火薬の壺には穴が開いていたが、それでも密閉空間だ。
 そこで火薬に火がつけば一気に燃焼、上にのせられた革袋を燃やし油に火をつけた。
 そのまま火が吹き上がり火のついた油が周囲に散らばるのだが……。
 ぱたぱたと燃える油は飛び散りそれほどの規模にはならなかったようだ。
「……地味だな」
「ええ、やっぱり油だけじゃなくて他の可燃物も足した方が良いかもしれませんね!」
「あー、そういうのも用意があるのか?」
「ええ、基本は精霊力を活用した方が便利ですからあまり研究は進んでませんけどね」
 炭の粉や、より燃焼力が高いという噂の火薬などを準備する佐平次であった。
 その後、騎士たちがグレイブソードを試したり、大いに破壊行動を繰り返した開拓者たち。
 一仕事終えたらおやつの時間、皆でシーラお手製のアップルパイをかじりつつ。
 時折はぁとため息をつく佐平次が、ふと気になって話しかけたのはレヴェリーだった。
「其れにしても、今日はなんだか元気が無いわね……如何かしたのかしら?」
「あー、それはですねぇ……実は最近、居候先の親友に奥さんが出来ましてね〜」
 あははと笑いながら語る佐平次。居候の身としては肩身が狭いのもあるのだが……。
 実は、養子も得て家族仲良くやっている親友が少しばかり羨ましくなったらしい。
「いやぁ、別に追い出されるわけじゃないので、平気なんですけどね……でも鬱憤晴らしもかねて爆発を、と」
「……そこで何故爆発に結びつくのか、さっぱり理解出来ないけど……まぁ気持ちは分からなくもないわね」
 レヴェリー、何となく親身になって頷いてみるのだが。
 もう一人、彼女以上に共感する男が。もちろん、ラグナだ。
「無理もない。私も幾度、この世の不公平を恨んだことか……なあ、うさみたんもそう思うだろう?」
 ラグナは、隣に座らせたうさぎのぬいぐるみにそう語りかけ、
「あはは、別段私も相手が欲しい、とか思わないんですけどね。実験と爆破で毎日忙しいですし」
 佐平次は、どうやらモテるための努力なんかをするつもりはさっぱり無いようで。
「……なんというか、前途多難ですね。お二方とも」
「励まそうとか話を聞いてみようと思ったのは、間違いだったみたいね……」
 アレーナは困ったように笑い、シーラは肩を落として。
 そんな感じに匙を投げた開拓者の様子を見て、不破は。
「あー……うん……まぁ落ち込むことはあっても……頑張れ?」
 と、とりあえず同情してみるのだった。
 そして宮坂は、何も言えずにぽんと肩に手を置いて。
「……え? どうしたんですか皆さん」
 さっぱり分かってない佐平次。皆は、ああ、これじゃあモテないのも納得だなぁと思い直すのだった。

●最後はやっぱり爆発
「とりあえず、最初は普通の素振りね……はぁっ!!」
 ハルバード片手に大岩を切りつけるレヴェリー。大きく振るった一撃が岩を粉砕する。
 それを見て、おおと他の開拓者たちは喝采だ。さすが経験豊富な騎士だ、その破壊力は並大抵では無い。
「それじゃあ次は、ハーフムーンスマッシュを試してみるわね……はっ!」
 そういって次は立ち並ぶ丸太の中に踏み込むレヴェリー。
 一撃二撃、三連撃! 半月の弧を描いて振り抜かれるハルバード、一瞬遅れて切り倒される丸太の群れ。
「こんな所かしら――って、きゃああああっ!?」
 大きく振り抜いたレヴェリー、なんだか勢い余ってすってんころりん、いろいろこぼれたりはだけたり。
 それを眺める開拓者……特に、男性陣。秋ながらも薄着のレヴェリーのそんな様子に大喝采。
 佐平次も喝采しつつ、大いに喜んでいるようだ。
 と、このように佐平次は健全な男子であるのだが、別に今、新たな出会いを求めているのでは無いようだ。
 単に、親友に彼女が出来たのが、なんだか羨ましかっただけなのだろう。
 子供っぽい反応だと言うことは実のところ、本人も分かって居るようであった。
「でも、もし意中の相手が出来たなら、自分の話ばかりでは無く相手の話を聞こうとしなければダメですよ?」
 存外普通の人だったんですね、と思いつつアレーナが諭せば、佐平次と、あと何故かラグナも頷いていたり。
 しかし、そんなアレーナの手には、大きな大きな抱え大筒が。
「……えーとアレーナさん? それはなんでしょうか」
「抱え大筒ですわ。私、ちょっとした淑女のたしなみとして爆破も少々……」
 アレーナも普通の人とは言えないのでは、と思わないでは無いがそれはそれ。
 とりあえず鬱憤晴らしを続けることにしたようだ。

「さて、貴殿の好きな爆破実験もちゃんとしようではまいか!」
「ええ! こちらは不破さんの案をアレーナさんの大筒で爆破してみますよ」
「うむ、本当ならいちゃつくバカップル共を景気よく爆発させたいのだけどな!」
「…………(めをそらし)」
 本気だか冗談だか分からないラグナの言葉を受け流しつつ佐平次は続く大きな実験に取りかかった。
 用意したのは、大量の火薬と密閉度の高い壺。さらに微細な石炭粉と大量の油を追加して。
 まず実験はラグナから。
「……行くぞ! 死ねえええええッ! りあじゅうううううッ!」
 裂帛の気合い……というか奇声とともに、踏み込んで一撃。用意した石製の壁が衝撃で粉々になる。
 さすがはオーラを纏った騎士の一撃だ。その破壊力は凄まじかった。
 続いて佐平次。同じぐらいの壁を爆発物の前に置いて、対比する実験のようだ。
 爆発物は不破の案を強化したもので準備は万端だ。すると、佐平次にすすっと近寄る不破。
「……中務、女性には縁が無くても、決め台詞とかと共に爆炎を背負えば、子供の人気は得られるぞ?」
「はぁ、そういうもんですかねぇ……それならば一つやってみましょうか」
 そして、実験が始まった。
 用意された大量の火薬と油へ、打ち込まれたのはアレーナの抱え大筒。放たれたのは、炸裂弾だ。
 炸裂弾とは、内部に火薬を仕込んだ砲弾のことで、命中地点で爆発する。
 爆発によって生じる破片で攻撃するものなのだが、今回の目標地点は可燃物の山だ。
 曲線を描いて飛んでいった炸裂弾が山に命中して……。
 どん! まず光と音が。砲弾の炸裂と共に火薬が着火、壺で圧を高められ一気に燃焼、爆発。
 その爆発による熱と光が広がったのだ。
 続いてやってきたのは爆発の余波、衝撃と熱だ。
 爆発で生じた炎が、一気に炭の粉や油を着火、軽いそれらは爆風で一気に上昇し巨大な火柱に。
 それによって生じた膨大な熱が爆風と共に一気に周囲を駆け抜けたのだ。
 それを背に受けながら佐平次は叫ぶ。
「……リア充爆発しろ!」
 佐平次の格好いいポーズと共に背後で爆発がちゅどーん! 木っ端微塵に砕ける壁、そして静寂。
「……おお! これはなかなか良い気持ちですねぇ!」
 はしゃぐ佐平次を見て、もう打つ手無しだと一同は苦笑するのだった。

「まぁ、時には鬱憤晴らしや愚痴も大事だけど……限度はあると思うぞ」
「限度ですか?」
「ああ、爆破もほどほどにと……うちの師匠なんて、愚痴の手紙が毎回巻物みたいな長さで来るんだ」
 だから鬱憤晴らしとはいえほどほどにしないとダメだぞ、と宮坂が言えば、
「でも中務さんから爆発をとったら何も残らないわ。だから個性として……まあ、元気は出たみたいね」
 はぁと、疲れた様子でシーラはそう言って。意外と辛辣な事をいってる気がするが、
「確かに久々に巨大な爆発を起こせて、なんだか元気になってきましたよ!」
 と佐平次が言うので、もう打つ手無しだとあきらめ顔で見ていたり。
 ちなみに、今は皆で実験後にシーラの用意した料理をわしわし食べているところだ。
「修行になるのだからいいけど……それで佐平次さん、明日は何をやるのかしら?」
「明日はまた今日のをもう一巡繰り返してみましょう。それぞれの武器の威力と爆破の比較とかもしないと!」
「……もう、私は何でこの依頼を受けたのか自分が分からないわ……」
「おお、それなら是非手伝って貰いたいことが! 新型の装甲に関して何ですけどね……」
「今回は、普段と随分調子が違うと思ったのに……もう、すっかり何時も通りね」
「へ? そうですかね?」
 すっかり元気になった佐平次に、レヴェリーは思わず机に突っ伏しながらそういうのだった。