騙されたっ!!
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: イベント
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/09/27 19:57



■オープニング本文

 騙された!!!

 こんちくしょう! あの商人め、最初から胡散臭いと思ってたんだ……ハゲ治らないじゃねーか!
 もう、くやしい! ちょっと試しに買ってみたけど、さっぱり効果が無いどころか逆に太ったわ!
 うう……こんなのに騙されるだなんて恥ずかしい…………でも胸が大きくなるって期待したのに!

 この神楽の都には開拓者相手にいろいろな商売をする輩が居る。
 もちろん良い人も居れば、悪い人もいる。
 今回はそんなお話。

 最近話題になったのはちょっとした行商の男。
 その弁舌は立て板に水の如し。そして福福しい雰囲気は思わず信頼したくなるような人物だった。
 彼はよく通る声を張り上げて、は今日も商品を売っていた。
「さあさ、お立ち会い。お急ぎで無い方は、是非聞いていってくださいませ」
 朗々と声を響かせて、商人はその仲間と共に荷台の上に姿を現す。そして、
「わたくし、名をエンサイと申す商人で御座いますが、今日は皆様に是非知って頂きたい商品が……」
 といった具合で始めるわけだ。
 彼が売る商品は様々だ。どれも小さなビンに入った飲み薬だったという。
 ある薬は、一粒飲めばみるみる背が伸びる、という触れ込み。
 別の薬は、これは泰国渡りの仙薬で飲めば途端に痩せる効果が、とのことだった。
 場所を変えて、方々で売り歩くこと一週間ほど、多くの客がその薬を買ってみたという。
 薬の種類は、他にも「ジルベリア渡来の惚れ薬」「美白美容の特効薬」「古より伝わるハゲ治し」……
 その他諸々があったという。

 で、この全部がさっぱり効かないニセ薬であった。
 さぁ、怒り心頭でその商人を探す開拓者たち。だがすでに彼らは行方を眩ませていた。
 おそらく今頃は、自分たちから巻き上げた金を手に、高笑いだろう。
 逃がすものか、そんな開拓者の執念はついにその商人たちの尻尾を掴んだ。
 彼らは、馬車に乗って神楽の街から東へと街道をばく進中だという。
 時間が無い、朋友を使う許可を取っている暇は無いだろう。

 ならば、走って追いかけよう。
 奴らを逃がすわけにはいかないのだ。


■参加者一覧
/ 柚乃(ia0638) / エルディン・バウアー(ib0066) / 岩宿 太郎(ib0852) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / リリアーナ・ピサレット(ib5752) / エルレーン(ib7455) / ラグナ・グラウシード(ib8459) / 緋乃宮 白月(ib9855


■リプレイ本文

●みんなのきぼう
 開拓者たる者、その胸に一つや二つの夢や野望を秘めているものだ。
 とても小さな夢かも知れない。他人からすれば他愛もないちっぽけな夢でも立派な夢だ。
 とても大きな野望かも知れない。もちろん、どんな野望や大きな夢を抱くのも自由だ。
 だが夢や希望、野望は手の届きにくいものである。
 そんな時、ふっと救いの手がさしのべられたらどうだろう?
 きっと誰でも試してみたくなるに違いない。そして、その救いの手が本物ならば万々歳。
 夢に一歩近づけたり、小さな希望が叶ったり、野望への確かな展望が開けることだろう。
 ……だが、その救いの手が偽物だったら?
 その時の悔しさ、悲しさは何倍にもなるだろう……今回は、そんなお話。

●姉妹の話
「リィムナ。そんなに飲んだら……」
「大丈夫! もう絶対おねしょしないから♪」
 お姉さんとその妹の会話だ。
 ごくごくと飲み物を飲むリィムナ・ピサレット(ib5201)はにっこり笑顔。
 とても幼く見える可愛らしい少女リィムナ、彼女の小さな悩みは……おねしょだとか。
 だが、彼女には自信があった。なにせ今日、おねしょの治る薬を手に入れたのだ!
「……本当ですか?」
 訝しげに妹の笑顔を見つめる姉はリリアーナ・ピサレット(ib5752)。
 眼鏡をきらりと光らせて、んくんくと飲み物を飲んでいる妹を心配そうに見つめて。
「本当に大丈夫だよ! もしやったら、お仕置きフルコースしてもいいよ♪」
 自信満々にリィムナは応えて、それからやっと姉に促されお布団に入るのだった。
 そしてこのちびっ子はすぐさま夢の世界へ。
 それを見届けた姉、リリアーナはそっと彼女の布団を離れるのだった。
 彼女の手にも、小さな薬の小瓶があった。
 小瓶の中身は『荒鷹陣で空を飛べるようになる薬』……非常に狭い範囲に向けられた薬のようだ。
 だがしかし、泰拳士たちの中には『荒鷹陣』に魅せられた者も密かに多いという。
 その技の力強さ、見事さ、美しさ……それに新たな力が加わるのだ。非常に素晴らしい。
 というわけで、こっそりとリリアーナは薬を飲み干すと試してみるのだが。
 ……残念、飛びません。
「考えて見れば当たり前ですね」
 しかし気落ちした様子も無く、ほうと一息つくリリアーナ。
「もし荒鷹陣で飛べるとしても……不撓不屈の精神と、たゆまぬ鍛錬の結果でなくてはなりませんから」
 きっぱりと決意を胸に、彼女は手にした小瓶と決別するのだった。
 なんというか、此処まで来れば脱帽である。
 これほどの決意ならば、いつかそのうち彼女が空を舞う日も来るかも知れない。
 そういうわけで、リリアーナは再び妹の元へもどって。
 そして翌朝。

「ううぅぅ、嘘つき−!!」
 恥辱と怒りで真っ赤に顔を染めたリィムナ。彼女はお姉ちゃんの監視の下、神楽の街を一周していた。
 どうやらお仕置き中らしい。
 背には濡れたお布団。それを背負った状態でふらふら進むリィムナ。
 これは、姉のリリアーナによるお仕置きフルコースの一環だとかで。
「ほら、泣いてる暇はありませんよ。まだまだお仕置きは続くのですから」
「うええええん!」
 泣き出しつつあるリィムナに、お姉ちゃんは容赦しないのだった。
 だが、そんな二人の耳に飛び込んできたのは詐欺師が逃げたという話。
 どうやらこの願いを叶えるニセ薬は、いろいろと被害を出していたようだ。
「あの詐欺師めぇ……姉ちゃんにお仕置きされちゃったじゃない! 絶対許さない!」
 泣いていたリィムナは怒りですっくと立ち上がる。すると姉のリリアーナも、
「詐欺師を恨んではいませんが……悪事は悪事、捕えましょう」
 どうやら二人の意見は揃ったようだ。
「……それに騙された事が露見すると姉としての沽券に……」
 まぁ、ちょろっと別の考えもあるようだが、ともかく二人は詐欺師を追いかけ始めるのだった。

●がっかりした二人
「……効果、なかった……」
 朝起きて、鏡を眺めて大ショックな面持ちの少女は柚乃(ia0638)だ。
 年頃の少女なら、いろいろと体型や身長の悩みがあったのだろうか? 否、そうではなかった。
 彼女が夢見たその薬は『一日もふらさま体験の薬』……不可思議な薬である。
 だが、このもふらさまたちを愛する開拓者たちが多いのは事実で、彼女もそれを夢見たのだろう。
 しかし薬は真っ赤な嘘。
 楽しみだった分、落胆は大きいもので、彼女は心底悲しんでいた。
 だが、その悲しみはただここで凹んでいて晴れるものではない。悪は、成敗せねば。
 そういえば、ちらりとギルドで噂を聞いた。詐欺師の薬売りが逃げたらしい。
 ならば追いかけるまで。柚乃は笑顔のまま、めらめらと怒りを燃やして、街道を走り出した。
「……袴の裾が、短めなのは動きやすいように。柚乃、走るのは得意です」
 巫女や吟遊詩人の技を使うこの少女、たしかに雰囲気では大人しそうな印象を受けるだろう。
 だが、志体持ちは超人である。軽やかに、まさしく風のように彼女は街道を走っていくのだった。

 同じく薬を飲んでがっかりした少年が一人。
「ニセ薬だったんですね……」
 今日ばかりは、いつもぴんと立っている耳もぺたんと寝かせてしょんぼりする緋乃宮 白月(ib9855)。
 猫の獣人である彼は、尻尾もてれんと力なく垂れ下がり、薬の空き瓶を眺めていた。
 彼には沢山の相棒がいる。
 黒い翼の迅鷹に駿龍、猫又にからくり、そして深緑色の羽妖精だ。
 彼が手にした薬は『どんな朋友とでも会話ができる様になる秘薬』である。
 そして薬が偽物だと分かった彼の落胆はやはり深かった。
 相棒たちと心が通じていないわけではない。
 だが、言葉で語り合えない龍や迅鷹とすこしだけ会話してみたかったのだ。
 いつもと同じく、見つめ返してくる相棒たちを見つめてから、彼も走り出す。
「……ニセ薬でみなさんを騙すなんて許せません!」
 怒りを胸に彼も噂にしたがって、詐欺師を追うのだった。

●なぜかボロボロの二人
 普段とは違う世界を見たい、そんな小さな夢に手を出してしまった男が一人。
「うちの教会、助祭をしている義妹のティアラの方が強いんですよ」
 そんな悩みを告げるのはエルディン・バウアー(ib0066)だ。
 怒られてばかりだとかで、そんな彼が手に入れた薬は『優しく寛容になる薬』。
 これを、義妹に飲ませてみたそうだ。
 そうすれば、女性信者との会話がナンパにしか見えないと怒られることもないはずだろう、と思ったそうだ。
 だが薬は偽物で……妹へ向かって、笑顔倍増で話しかけたエルディン。
 帰って来たのは、いつもの数倍の鉄拳と蹴りだったとか。
「……薬屋さんの嘘つき−! おかげで晩御飯抜きになりましたよ!!」
 ぼろぼろの体を引きずるようにして、街道を急ぐエルディン。
 とりあえず、あの詐欺師には一泡吹かせてやらねばならないだろう。
 と、街道を急ぐ彼が見付けたのは、先を行く男。
 どうやら知り合いのようなのだが……どうも様子がおかしい。
 槍を杖代わりにしつつ、全身包帯まみれ。まるでアル=カマルに出るミイラ男たちのようだ。
「おや? 太郎殿も被害に?!」
「……ああ、エルディンさんか。うう、今日もボッコボコにされたーーー!! 騙されたーー!!」
 吼える岩宿 太郎(ib0852)。彼がこんな姿になったのは、ある強敵との戦いの結果であった。
 強敵、と書いて『とも』と読む。岩宿のその好敵手は、朋友の甲龍、ほかみである。
「朋友と立場逆転できる秘薬っておっちゃんいってたのに!」
 ずいぶんとまた、狭い需要に向けての薬だが、それこそが岩宿が必要としていた薬なのだ。
 彼のことを食料と思っているらしき相棒の甲龍相手に、今日こそはと彼は薬を与えてみたそうだ。
 だが、結果はボッコボコ。
「……希望を持って戦った分余計に手酷くやられてご飯取られたーーー!」
 というわけである。
「野郎生かしちゃおけねぇ! 半死半生全身包帯生傷一杯杖必須! お前もこのザマにしてやろうか!」
「……とりあえず、急ぎましょうか」
 ぼろぼろの二人は、懸命に先を急ぐ之だった。

●そして、絶望する二人
「なんで! なんでようっ!」
 かしゃんと甲高い音を立てて割れる小瓶。ああ、なぜこの世界はこんなにも無情なのか。
 はらはらと、絶望にうちひしがれる少女の頬を涙が伝う。
 彼女の名前はエルレーン(ib7455)。
 手に入れた薬は……『胸が大きくなる薬』だった。
 だが、その甘ったるい薬をいくら飲んでもさっぱり効果無し。
 夢を抱くのは自由だ。だが叶わなければ夢は、まるで呪いのように主を蝕むだろう。
 なんで、と幾度も自問する。だが彼女の控えめな胸は、いつものままに控えめだ。
 平原は平和に平原のままだったのである。
「うぎゃああああおおおおおお!!」
 そして少女は吼えた。怒りが臨界点を超えたのだ!
 もうこの悔しさと怒りはぶつけるしかない。
「くっ……いんちきしたなぁあ! ころすころすころす!!」
 そういって少女は一陣の風になったのであった。

 そして、まるで鏡写しのようにもう一人。
「くっ……ちっとも効かんではないかッ!」
 ぱりーんと甲高い音を立てて、素焼きの小瓶は壁にたたきつけられた。
 怒りが胸を焼き、腹の底が煮えくりかえる。
 ラグナ・グラウシード(ib8459)は、深い深い絶望と激しい怒りを感じていた。
 恋人が出来ないことを悩むこの青年。怒りの矛先が『りあじゅう』たちに向くほどその怒りは根深い。
 そんな彼が救いを求めた薬はもちろん『女にモテる薬』……もちろん偽物だった。
 嬉々として薬を飲んでナンパに繰り出すも、ハズレ。5回連続で失敗だ。
 くすくすと笑いながら去って行く女性達の背を追って、彼は気付く。やはり薬は効果無し。
 そして怒りが彼の臓腑を焼き尽くし……。
「うぎゃああああおおおお!」
 そしてこの青年も吼えた。奇しくも彼が敵対中の妹弟子、エルレーンと同じように吼えた。
「卑怯者め……我が大剣にて真っ二つにしてくれようッ!」
 そして最後の一人、大剣使いの騎士も追跡に加わって。

 怒りの開拓者八名。怒りと悲しみと、その他諸々の思いと共に詐欺師を追いかけるのであった。

●事の顛末
 街道を一目散に駆け抜ける開拓者たち。彼らは馬より早かった、はるかに。
 全力で走る開拓者と荷物と人を乗せて進む馬車の速度だ。すぐに逃げる詐欺師が見えてきた。
 戦闘を進むのは、やはり全力で怒りの化身となって走っていたエルレーンとラグナだ。
 だがこの二人、ここでやっと併走しているお互いの姿に気付くのだった。
 憎き詐欺師は目の前なのだが……。
「ふん! ……貴様のことだ、どうせその平らな胸をどうとかいう薬を騙されて買ったのだろう」
 ふふんと笑うラグナ。にやりとエルレーンの平原な胸を見て嘲笑する。
 二人は喧嘩中の兄妹弟子関係なのだ。
 だが、そんな売り言葉に買い言葉。エルレーンはきっと柳眉を逆立てて、
「うるさい! どうせ、『女の子にモテる薬』とか言われて買ったんでしょ、馬鹿ラグナ!」
「なんだと!!」
「なによっ!!!」
 普段から喧嘩上等のこの二人……両者共に戦闘力の高い開拓者同士。
 怒りの矛先は、なぜにかお互いに向いたようで、世にもど派手な大喧嘩が始まるのだった。
 大げんかを始めた先頭の二人。
 それを追いかけていたのはピサレット姉妹だ。妹のリィムナはおねしょ布団を背負ったままだ。
 さらにその後を追うのは柚乃、並んで緋乃宮。
 最後尾は、包帯グルグルの岩宿と二枚目に拳の後がくっきり残るエルディンだ。
 さぁ、どうなるか。少々派手な大げんかのせいで、詐欺師を取り逃すか?
 ……もちろんそんなことには成らなかった。
「皆、一気に追いかけよう」
 激しく響く鈴の音、柚乃の奏でたファナティック・ファンファーレだ。
 それは志体の神経を激しく揺さぶり、彼らにさらなる力を与える吟遊詩人の妙技だ。
 岩宿とエルディンの体に力がこもり加速する。
 そしてラグナとエルレーンも、他の開拓者に気付いて大げんかをいったん中断して。
「……一時休戦だ」
「……そうね。詐欺師を追うのが先だわ!」
 二人もさらに速度を上げて追いすがり、ついに開拓者一行は詐欺師の馬車に追いつくのだった。

 まず飛びかかったのは二人の泰拳士だった。
 超人的な脚力で一気に馬車を飛び越して、くるくると空を舞う二人。
 リリアーナと緋乃宮だ。
「もう、逃げられませんよ」
「ここまでです! 大人しく捕まって下さいっ!」
 告げるリリアーナと緋乃宮。そして奇しくも空に二人の荒鷹陣がそろった! 
 ぴたりとそろった指先は翼のよう、鷹の幻影が見えるほどの技の冴えに馬はおもわず棒立ちである。
 緋乃宮は器用に暴れる馬を抑えると、落ち着かせて馬車をぴたりと停止させる。
 その隙に追いつく他の仲間たち。
「そこの馬車、止まりなさい!」
 エルディンがアイヴィーバイントで馬車の車輪を絡め取れば、
「おまえらもマミーになれ−!!!」
 ぐあっと飛びかかり荷台に飛び乗ったのは、包帯姿の岩宿だ。
 その迫力に、ぽてんと女詐欺師が気絶する。
「開拓者たちか! へっ、ニセ薬に騙されるようなバカばっかり……」
 そういって、挑発しようとした用心棒の脳天をかすめて、巨大な火炎弾が飛んでいった。
 一瞬の後、後方で大爆発。ごうと爆風が吹き抜ける。
「……絶対に許さないんだからね!!」
 びしりと詐欺師たちを指さしつつ、メテオストライクを放ったリィムナは半べそでそう言って。
 そのすきに、そーっと逃げようとしていた当の詐欺師の背中に白霊弾が直撃。
 放ったのは柚乃だ。直撃された詐欺師のエンサイは、ごろごろと鞠のように地面を転がって。
 そのまま、追いついたエルレーンにげしっと踏まれてがっちりと確保されるのだった。
「……で、やるのか?」
 真紅の特大剣を向けるラグナに、髪の毛をこげさせた用心棒は首を全力で振って。
 こうして詐欺師は一網打尽になるのだった。

「ふんだ!」「ふん!」
 ふんとお互いにそっぽを向くエルレーンとラグナ。
 とりあえず喧嘩は一時棚上げのようで。二人はきりきり詐欺師連中を縛り上げて。
 そんな彼らにびしっと告げるのは布団を背にしたリィムナだ。
「番所に突き出してや………姉ちゃん?」
「さ、もう後は皆さんに任せて、お仕置きの続きですよ」
「え……やだ! お仕置きはもう嫌だー!」
 言いかけたリィムナ、ずりずりとリリアーナに引きずられていったり。
 リリアーナとしてもこの場に長居して余計な事を言われるよりは、妹のお仕置きを優先したのだろう。
「残りは……お尻叩き500回とお灸を30壮ですよ。フルコース、と言ったのは自分なのですからね」
「うえええん!」
 そしてリィムナの悲しげな泣き声が遠ざかっていったり。

 で。
 荷台に残っていたニセの薬をぐびぐび飲んでいるのは岩宿だ。
「……疲れたら甘いモノだ! これで疲れた心と体を目一杯癒やして……まだまだ俺は頑張れる!」
 単なる砂糖水を大量摂取中。まぁ、元気になっているようで、いいのではないだろうか。
 その横で、おそらく薬の元である砂糖の袋をひょいひょいと持って行くエルディン。
 賞金首に対して、時には独立裁量も許される開拓者たちだ。
 悪者からちょっとぐらい砂糖や砂糖水を取り上げてもだれも文句をいうはずもないわけで。
「……さて、この砂糖は没収と……これでお菓子でも作って、ティアラのご機嫌でもとりますか」
 どうやらエルディンは帰ってからのことを考えて居るようだ。
 そして、山と積まれたニセ薬を前に、思い出したのかしょんぼりと肩を落とす緋乃宮。
「……せっかく、朋友達と色々お話できると思ったのに……」
 なおさら口惜しさが募るというもの。だがきっと彼の思いは朋友たちに伝わるはずで。
 柚乃は、小さな小瓶を手に取った。
 そこには『背が伸びる薬』の文字が。
「……んーと、これも偽物ですもんね」
 それをぽいっと放り出して、ほうと一息。
 とりあえず、怒れる開拓者たちは諸悪の根源にきっちりと反撃し、詐欺師をばっちり捕獲。
 ちょっとばかりの悔しさと、大きな怒りのくすぶりを胸に、またいつもの日常に戻っていくのだった。

「なによ、なんか文句あるの、馬鹿ラグナ!」
「ふん、貴様こそ私を馬鹿にするのか? この大平原の小さな胸が!」
「言ったわね!」
「悪いか!!」
 ……エルレーンとラグナの喧嘩はまだ継続中のようだが、とりあえず話はここまで。
 どうやらしばらくいろいろと心に傷を残しそうだ……頑張れ、開拓者!