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■オープニング本文 神楽にて。 開拓者が集うこの町は、賑やかな場所だ。 行商の張り上げる声、店の呼び込み、人の行き交う雑踏の音。 しかし、日が落ちて夜になれば、しんと音は消えて。 ただ、煌々と月の光が照らすのみである。 そんな中、灯りを片手に帰路を急ぐ男の姿が。 少々賭け事に熱くなってしまい、気づけばすでに真夜中。 しかし手元には金はなく、しぶしぶ帰路についたのだが‥‥。 角の暗がりに、不意に気配を感じて視線を向ければ、暗がりに立つ男の姿。 「‥‥っと! なんだよ、脅かすなよ‥‥」 驚いたのをごまかすためにも、笑顔を浮かべて暗がりの男に話しかける。 すると生気のない男のひび割れた唇から、きしるような鈍い声が帰ってきた。 「‥‥恐怖ヲ‥‥死ニ到ル‥‥怖レヲ抱ケ‥‥」 次の瞬間、どんっ、と叩かれたような感覚。 焼けるような痛み、体から熱が逃げていくような寒さ。 そして、意識は暗闇に落ちていく‥‥。 いつの間にか抜き払った右手の刃からは血を滴らせて男は立ち尽くしていて。 笑みを浮かべるでも無く、ただただふらりと消え去ったのであった。 続く数日にわたって、辻斬りの被害が続き、その界隈では夜の人通りは途絶えた。 一体何者が、何の目的で? こうして、開拓者達にその辻斬り退治の依頼が出された。 さて、どうする? |
■参加者一覧
樹邑 鴻(ia0483)
21歳・男・泰
戦部小次郎(ia0486)
18歳・男・志
香坂 御影(ia0737)
20歳・男・サ
輝夜(ia1150)
15歳・女・サ
千王寺 焔(ia1839)
17歳・男・志
侭廼(ia3033)
21歳・男・サ
伊予凪白鷺(ia3652)
28歳・男・巫
幽(ia4278)
14歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●夜を前に 「少々お聞きしたいことがございます。よろしいでしょうか?」 横合いからかけられた穏やかな声に、その町娘さんはくるりと振り向いて 「はいはい、なんでしょ‥‥ひっ!」 紳士的な口調で、自分に声をかけてきたのは白虎頭の偉丈夫だった。 くちをぱくぱくさせながら、びっくり魂消た様子の町娘さんに対して、その虎頭、伊予凪白鷺(ia3652)は。 「いやいや、これは失礼。こう見えて怪しい者ではございませんよ?」 大丈夫ですかな、とばかりに手をさしのべるそんな不審人物の白鷺だが、町娘さんはなんとか落ち着いたようで。 どうやらこの白虎頭の怪人物は、開拓者のよう、最近このあたりを騒がす辻斬りの話を聞きたい様子であった。 それが理解できれば、まだ少し警戒気味ながらも、噂好きな町娘さんは話をすることを了承し。 「それはありがたい。では、少々団子などをつまみつつ‥‥」 そういって白鷺は、町娘さんから辻斬りの話を聞くため、近くの団子屋に娘さんを誘うのであった。 聞けた話は、あくまで噂に伝わるもの程度だけだったが、どの辺りなのかという話はやはり近所の人間ならば詳しく。 いくつか、詳しい場所の話を知ることができ、その場所を手にした地図に記す白鷺であった。 そして団子と冷やした麦茶をすすりつつ、一通り話を聞いた白鷺は、立ち去る町娘さんを見送り。 「辻斬り‥‥ふむ、やはりただの一般人、とは思えませんね‥‥」 炎天下、もこもこの白虎頭は晴天の空を見上げて、汗もかかずにつぶやくのであった。 そして白鷺と同じく、昼の間に開拓者達はそれぞれ情報収集をしていた。 といっても、それほど難しいものではなく。 夜になれば最近は人通りが途絶える周囲の一画、まだ、立ち並ぶ家も少ない寂れた地区が主らしく。 一刻やそこら歩けば簡単な地図が書けるという狭い地区での事件だということが改めて分かったようである。 ある程度情報が集まれば、後は作戦にうつるという段階で。 開拓者達は、情報交換もかねて再度集合し、作戦を再確認していた。 警戒する組は、戦える程広い場所で待機し、囮となる開拓者が辻斬りを引き連れてくるのを待つ。 辻斬り相手には、至極当然な作戦である。 だが、今回一番気がかりなのは、この辻斬りがいかなるものであるかという点であった。 おそらくはアヤカシであろうというのが一行の共通見解なのだが、まだまだアヤカシには分からないことが多く。 様々な推測が可能であるがゆえに、まずは見極めることが大事になるだろう、というのが皆の意見のようで。 「呪われた妖刀、っていうなら所持欲の一つも掻き立てられるがね‥‥アヤカシだとすると、即廃棄だな」 夕暮れ間近、作戦決行まで集まって時間をつぶす一行のなかで、ふとそう言ったのは香坂 御影(ia0737)だ。 刀と縁の深い生活をしていたようで、話を聞いて複雑な面持ちのよう。 「でもまぁ、そんなのが居ちゃぁ、おちおち夜遊びも出来ないってもんだなぁ?」 そんな樹邑 鴻(ia0483)の言葉に、 「まったくだな、おちおち酒も飲んでられねぇな」 と侭廼(ia3033)は、徳利を傾けつつにぃっと笑いながら言うのだった。 ともかく、一行は夜を前に再度作戦を確認した。 あくまで辻斬りは1人だけのよう、なにかが背後で暗躍していない限り数では開拓者が勝る。 しかし、だからといって油断は禁物だ。 如何に常人より優れた資質を持つ開拓者たちといえど、致命傷を受ければ死ぬのは同じ。 刀の一撃で、首と胴体が泣き別れになれば、如何に開拓者といえど死ぬのは当たり前のことなのだ。 そして、おそらく今回の敵が、開拓者を殺めるほどの力を備えているだろうことを彼らは感じていた。 いよいよ、日は落ちて、開拓者達は作戦にとりかかるのであった。 ●月夜の凶刃 提灯を片手に、黒服で闇夜に溶け込むような姿でたたずむのは千王寺 焔(ia1839)だ。 傍らには侭廼、彼ら2人は共に、辻斬りが現れそうな場所として皆で当たりをつけた界隈を歩いていた。 猫背気味に背を曲げて、外套で装備を隠しつつ、のっそりと進む侭廼。 そんな2人は、暫く進んでから、一度足を止めた。 2人で連れ立って歩いているのが問題なのか、襲ってくる気配は無いようで、少々作戦変更である。 侭廼が先行、それを影ながら焔が援護するという形で、危険は増すがそれぞれが距離を置いて移動することに。 危険度はさらに増し、緊張感は高まるのだが、侭廼はぐびりと酒を一口。 「‥‥あんた、こんなときも呑んでるのか?」 思わず焔はそう聞くが 「なぁに、酒の匂いでもしてたほうが、酔っぱらいだと思って、辻斬りも油断するかもしれないしなぁ?」 飄々と侭廼はそう言って、笑みを浮かべ、すたすたと歩き出し、 「そうか、ならいいが‥‥警戒だけは怠るなよ」 そんな焔の言葉に、ひらひらと手を振って応える侭廼であった。 月が出て、辺りを照らすが、闇は深く。 光の届かない深い闇がそこかしこにあれば、まるでそこは奈落に続く深い穴のよう。 ぽっかりと何も見えない闇に周りを囲まれて、ただ灯りはうっすらと辺りを照らす提灯と月だけで。 そして、葦が生い茂る川沿いの小路を進んでいる侭廼は、気配を感じた。 「‥‥恐怖ヲ‥‥」 がさがさにかすれた声にはまるで生気が無く。 いつの間にか現れたその男はすでに手に刀を握っていた。 距離は、数歩踏み込めば間合いという距離。 もちろん、侭廼は即座に背を見せて、巧妙に距離をとりつつ逃げ出したのだった。 その様子をうかがう焔も同時に目的地まで引き返し始めて。 作戦はいよいよ動き出したのだった。 ばたばたと足音を立てて駆け抜ける侭廼、彼は路地を抜けて、開けた場所に走り出て。 広い道へと路地はつながっていたのだが、その周囲には家の影もなく、まだ開発されていない一画のようだ。 「‥‥来たぞっ」 小さくも響く声は、焔。先ほど侭廼と共に戻ってきてから、相手の様子を心眼で警戒していたようで。 その言葉の通り、路地から姿を見せる人影は、白刃を抜いた辻斬りの姿だ。 話に聞いた以上にぼろぼろの着流し姿に、濁った瞳。生気の失われた肌は到底生者とは思えなく。 そして、路地から辻斬りが踏み出した瞬間、その足下を薙ぐ槍の一撃! 「‥‥くっ、避けられたか‥‥」 横合いから、機をうかがって槍で一撃したのは戦部小次郎(ia0486)だ。 業物の槍を軽々と振るうも、辻斬りはその槍の一撃を飛び越えて回避、しかし、そこには開拓者達が待ち構えていた。 小次郎は槍を構えなおし、 「ここいらで年貢の納め時としましょうか」 静かに告げるも、辻斬りの反応は無く。 「‥‥どうやら、遣い手の方はすでに死んでいるようだ。それならば早々に退場してもらわねばな」 小柄ながらくぐってきた死線は数知れず、落ち着きをもってそう言ったのは輝夜(ia1150)。 見るからに生気が無い辻斬り本人は、表情すら変えず。 心眼を使うまでもなく、死者に等しいことが見て取れたようである。 となれば、問題なのは刀で。 「‥‥まったく‥‥刃の方ばかりギラギラさせやがって。覇気が無いのも困り者だな?」 弱い月明かりの中ですら、怪しく輝くその白刃を見つつ鴻はそういって。 そして、ぎしりと拳を握りこみつつ告げる。 「でもまぁ、正体が分かれば、後は全力で倒すのみ‥‥ってな」 そしてじりじりと開拓者達は、その辻斬りに向かって包囲を狭めるのだった。 だが次の瞬間、開拓者達は虚を突かれた。 生気が無い使い手だからこそ、行動に移るときの力みを開拓者達は見逃したのだ。 本来、刀を使うのであれば、どのように動くかがその足運びや目線からある程度推測できるものだ。 しかし、意思もなく生気もないそんな死者の体を刀が突き動かすようにしているとすれば。 その動きの予想は困難を極めるだろう。 一足飛びに、移動した辻斬りは、低い位置からの横薙ぎの一撃。 狙ったのは、一行の中でもっとも小柄かつ若い幽(ia4278)だった。 「くっ!!」 慌てて腰の業物を引きぬきつつ横からの一撃を受ける。 かろうじて受けが間に合ったのは、彼女が前に出ず、防御と回避に専念すると身構えていたからだろう。 鞘から抜きかけた刀で辛くも一撃を受け、一瞬の驚愕から解放された次の瞬間。 まだ若いとはいっても彼女も立派な開拓者だ。 勢いよく業物を抜き放つ勢いで相手の刀をそらし、その流れのままに強打を放つ。 刀先にかすかな感触、一撃はかろうじて、腕をかすめたようだ。 しかし、それごときで止まる辻斬りではなかった。 機を逃がさず横合いから攻撃した焔、素早い踏み込みで放たれた巻き打ちの一撃はなんとかわされる。 辻斬りは、幽の刀を払う勢いのまま後ろに飛びすさり焔の一撃を回避したのだ。 包囲されてるのにもかかわらず、辻斬りは気圧された様子も見せずに動き回り。 だが開拓者達の攻撃も止まらなかった。 「皆様、ゆめゆめ油断なされませんよう‥‥」 距離を取り、白鷺が神楽舞によって仲間を援護しつつ、さらに攻防は続いていた。 「死体みてぇだからな、つぶしても文句はねぇだろ?」 両手に構えた二刀流から地断撃を放つ侭廼。 それを軽々とかわす辻斬り、あくまで個人の技量では圧倒的のようで。 しかし、開拓者達は力を合わせて戦う術を知っているのだ。 白鷺の援護もあり、さらに続く次なる攻撃は、辻斬りが侭廼の地断撃を避けた先で待ち構えていた。 「‥‥逃がさないよ」 力強く刀を振るうのは御影、力をためた渾身の一撃を振るって。 しかし、辻斬りは身軽にその一撃を回避しあるいは受けてそらし、反撃に出ようとするのだが。 「そうはさせんよ」 辻斬りの攻撃を受けるのは輝夜、手にした盾と刀で攻撃をさばき受け流す。 ただ切り結ぶだけなら、疲れを知らない辻斬りのほうが有利だったろう。 だからこそ、彼らはこうして牽制しつつ機をうかがっていた。 数度の攻防の後、大きく攻撃をそらされて体勢を崩した瞬間、 どんと、勢いよく突き出されたのは小次郎の黒い槍の穂先だ。 味方を傷つけないよう、鋭く放たれた突きの一撃は辻斬りの太ももを貫いて。 しかし、なんと辻斬りは動きを止めなかった。 死した体のためか、まだ動けるようなのである。 だが、骨と肉を貫かれれば動きは鈍るもので、そこに追撃をしたのは幽。 小柄ゆえに、下からすくい上げるように放つ一撃は刀を狙い、辻斬りはその一撃を回避できず刀で受けて。 さらに体勢を崩した辻斬りに向かっていたのはいつの間にか距離を摘めた侭廼。 刀を挟み込むように両刀を振るい、避けられなかった辻斬りの刀を押さえつける。 そして、 「皆が夜を楽しむためだ。逝っとけ!」 走り込んだ鴻による渾身の気功掌が、刀を握る辻斬りの手に炸裂。 刀を握るための拳を破壊され、がしゃりとその古びた刀は地に落ちて。 それと同時に、今までその刀を振るっていた使い手は、どさっと地面に崩れ落ちるのだった。 見れば、使い手はすでに死して暫く経っているような様子で。 残されたのは、未だ怪しくぎらつく刀だけであった。 ●瘴気の刃 「やっぱりアヤカシの刀が死者を動かしていたという所だろうか」 輝夜がそういって不気味に刀を見やれば、 「そのようだな。この体はどうやら無理に動かされていたようだ」 御影も、そういって 槍で突かれたにもかかわらず血を流していない使い手の体を見やり。 そして一行の視線は、不気味な刀の元に。 「‥‥あの刀、どうしたらいいかなぁ‥‥」 不安げに視線を送る幽、するとすいっと焔が刀に近寄って 「‥‥俺がやる」 ひょいと刀を取り上げた。 ちらりと危険なのではないかと一同は不安な表情を浮かべるのだが。 どうやら平気なようで、焔が幾度か刀を道ばたの大きな石にたたきつければ刀は真っ二つに折れて。 すると、刀は瘴気へと化してゆっくり消えていくのだった。 「‥‥他に、お怪我をなされた方はおられませんか?」 白鷺は、無事依頼を終えた後、怪我をした仲間の傷を治療していた。 剣戟のさなかで、軽い傷を追う者も多かったようで、なかなか忙しく。 さらに残された死体に関してもギルドを通じて話が付いたようであり。 空が白々と明るくなり始める頃には、やっと依頼のすべてが片付いたようであった。 「‥‥さて、飲み直すか?」 にっと笑って侭廼が言えば、皆も笑みを浮かべて。 ぴんとはった緊張の糸はやっと解けたよう、無事依頼は解決し、皆も解散するのであった。 |