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■オープニング本文 「荷物運びの手伝いを頼みたいんですけど」 とある日、ギルドを訪れたのは実直そうなまだ若い商人だ。 彼は、武天の田舎にある村から、武天の芳野という街に荷物を運ぶそうで、その手伝いが必要だとか。 途中の道中が危険だという話は聞かない。 また、荷物が特別に、高価だとか狙われているというわけではない。 ならば何故に8人もの開拓者が必要か、とギルドの係員が問えば、 「……はい、普通の荷と違ってゆっくり行く必要があるし、その分手がかかるんですよ」 「普通の荷と違って?」 「はい。あれ? 言ってませんでしたっけ……荷物は、子犬と子猫なんです」 芳野の街でも犬や猫の需要はある。番犬やネズミ取り、それにもちろん愛玩用に。 この商人は地方で犬猫を買い、それを大きな街へと売りに行くのを商売としているである。 こういった商人の中には、犬猫をあまり大事に扱わない者もいるのだが彼は別。 特製の馬車を二台用意してあり、それには日除けの覆いや、風通しの良い柵が備え付けられているという。 その馬車に犬と猫、それぞれを乗せて運ぶのだが、子犬や子猫は手がかかるのだ。 餌や水の準備はしっかりしているが、運ぶのに数日かかるのでその分彼1人では大変というわけで。 「出来れば、動物が好きな人がいいんですけどね……お願いできますか?」 さて、どうする? |
■参加者一覧
露草(ia1350)
17歳・女・陰
誘霧(ib3311)
15歳・女・サ
フレス(ib6696)
11歳・女・ジ
ラグナ・グラウシード(ib8459)
19歳・男・騎
中書令(ib9408)
20歳・男・吟
雲雀丘 瑠璃(ib9809)
18歳・女・武
至苑(ib9811)
24歳・女・武
獅子ヶ谷 仁(ib9818)
20歳・男・武 |
■リプレイ本文 ●しらないひと、いっぱい? かたかたと車輪が小さな音を立てながら進む。とてもゆっくりとだ。 その荷台の上で。 「……えーっと、生後二ヶ月前後は、一番大事な時期で……」 手引き書を見つめている誘霧(ib3311)。そんな彼女の足下に忍び寄る影が。 好奇心旺盛な子猫が一匹、なによんでるの? とばかりに膝によじよじ。 「……遊びの中から社会の秩序や狩りの仕方を学び……」 よじよじ登り、ふと誘霧の服からぶら下がる紐を発見。 ていやー、と小さなあんよでぺしぺし、噛み付こうともがもが。 「……人間との接し方が……もっきゃーーー!」 叫ぶ誘霧に見上げる子猫。どしたの? あそんでくれるの? とつぶらなお目々で見上げていたり。 「遊ぶ! 遊ぶの!! そういうのは遊んでるうちに自然と覚えるものなんだよ!!」 あそぶ、あそぶのー! 子猫も誘霧に呼応して、もきゃっと飛びついたり。 馬車の荷台の上は、大体こんな感じであった。 「あはぁ………か、かわいすぎるぅ……」 ころんころんと転がったり、すぴーと寝ている子犬たち。 そんなもふもふ毛玉たちを眺めてうっとりとため息をつく『男』が1人。 大柄で凛々しいこの騎士の名はラグナ・グラウシード(ib8459)だ。 このデレデレの様子で分かるように、彼は『きゅーと』なものにめっぽう弱いらしい。 とりあえずはまだ眺めるだけだが、すでに骨抜きのようであった。 「……かわいいがゲシュタルト崩壊しそうなんですが、どうしましょう」 げしゅたるとほうかい、だなんて難しい言葉で呟く露草(ia1350)もやはり骨抜きだ。真顔だが。 自分の尻尾を掴もうとして、ころんころんと前転している子猫を見て、思わず笑顔を浮べているところで。 そんな開拓者たちをのせて、馬車はすすむのであった。 今回、開拓者たちの仕事はこの子猫や子犬たちの世話だ。 なんとものどかな依頼。そしてそんな依頼には、心底動物好きな面々が集まっているようであった。 「……夏都彦、子犬や子猫たちに、しつけは必要ですか? 用を足すとかの」 御者の夏都彦に尋ねたのは中書令(ib9408)だ。 貴人のような雰囲気のこの男性、まさに白皙の美青年という風情だがそんな彼の懐には子犬が一匹。 なんだか彼が気に入ったようで、すっぽり抱かれたままで離れようとしないとか。 仕方なく、中書令はその子犬を抱きかかえたまま、要点の確認中で。 「んー、ほとんどの子は覚えてますが、まだ小さいですから失敗する子も居ますし、お願いします」 「わかりました。では次の休憩で、子犬たちは用足しに連れて行った方がいいかもしれませんね」 「ええ、ではそろそろ一度休憩しましょうか」 というわけで、夏都彦は馬車を止めるのだった。 もう一台の馬車も続いて止まる。こちらの御者は至苑(ib9811)だ。 「夏都彦さん、そろそろ休憩ですか?」 「ええ、まだ早い時間ですけどそろそろ一度御飯がてら小休止しましょうか」 「了解しました。もしよろしければ、そちらの馬車の御者も交代しましょうか?」 至苑はこやかなほほえみを浮べて、夏都彦に提案する。 今回、開拓者たちは交代で馬車の御者を買って出たようだ。 「だって皆が仔犬と仔猫をかまえないのはふこうへ……」 ごほごほと露草はごまかして、 「……皆でお世話することで、人見知りにならないようにしてなくては!」 ということらしい。 「旅は数日ですし、ゆっくり出来る時間も必要かと思いまして。遠慮無く言ってくださいね」 「いやはや、ありがとう御座います。それじゃ、その時はまたお願いしますね」 夏都彦は至苑に礼を言いつつ、馬車を街道脇の草原に寄せて立ち木に馬をつなぐのだった。 さて、休憩となれば開拓者たちは忙しく働き出す。 馬車の上の広いといえどもやはり檻だ。せめて休憩中ぐらいは窮屈な思いをさせたくない。 そんなわけで、休憩中は子犬と子猫は馬車から降ろすことになっていた。 もちろん、脱走防止の布柵を周囲に巡らせつつだが。 「さ、遊んでおいでー……夏都彦さん、今のうちに檻の方に寒冷紗を張っておくよ」 くるくると荒く平織の布を取り出して、馬車の檻に張っていくのはフレス(ib6696)である。 彼女はこの夏の暑さ対策にいろいろと案を出したようで。 「ああ、助かります。さて、馬車の掃除は馬に水を飲ませがてらやっておきますから」 「えっと、それじゃにゃんことわんこの世話の方に行ってくるよ」 「はい。よろしくお願いしますね」 フレスも夏都彦に送り出されて、他の仲間たちの元に向かって。 すると丁度子犬と子猫を皆、下ろし終わったようで、子犬と子猫が元気に駆け回っていた。 思わずその様子をほうっと眺めているフレス。するとフレスの足下に黒い子犬が一匹。 ちょっとのんびりした性格のその子犬。じーっとフレスを見上げる。 「ん? 君はどうしたのかな? お水飲む?」 じー、見上げる子犬。どうやらフレスの長い黒髪が気になるようだ。 気付いたフレス、ふりふりとまるで尻尾のようにその黒髪を振ってみる。 わぁ、なかまだーと眼をきらきらさせる黒子犬。わふわふとその髪の毛の尻尾を追いかけてみたり。 「……なんでこんなに仕草だけで人を和ませること出来るかなぁ……」 思わずうっとりと呟くフレス、そんなフレスの黒髪にもふっと顔を埋めて満足げな黒子犬であった。 子猫たちはぺたっと地面に伏せて、お尻をもにもにと振っている。獲物を見つけたのだ。 の前で揺れるふさふさの尻尾。仲間の証……。 揺れる金の尻尾。それは雲雀丘 瑠璃(ib9809)のものだった。 ちなみに当の雲雀丘、彼女は足下でしっぽをぶんぶか振っている子犬の背を撫でていた。 「可愛いですわね。頑張ってお世話をさせてもらいますね」 そして、気付かない雲雀丘の尻尾を虎視眈々と……いや、こねこにゃんにゃんと狙う視線。 子猫たちは、一斉に飛びかかった! もっふもふの尻尾にていていと飛びつく子猫たち、ぺしぺし叩いたり抱きついてけりけりと蹴ってみたり。 「あっ! や尻尾があっても、あなたたちのお母さんじゃないですからね」 と振り向いたら、子猫たちは尻尾に掴まってわーいと大はしゃぎだ。よじよじ昇る子まで居る始末。 「ってきゃぁっ!! 尻尾は玩具じゃ……」 慌てた雲雀丘、どうにか子猫たちをどうしようと悩んでいたら、あっといまにもっと集まって来て。 「はわわっ……あの、ちょっとっ、ううう〜っ」 ついには子犬たちも混ぜて〜と飛びついて、尻尾を嘗めたりくるまってみたり。 ついには雲雀丘は諦めてなすがまま。ふるもっふにされるのであった。 「あっはっは、それにしても可愛いなぁヲイ、子犬も子猫もコロコロして……」 獅子ヶ谷 仁(ib9818)が雲雀丘の大わらわの様子に笑っていたり。 するとあぐらで据わって居る獅子ヶ谷に近づく子猫と子犬たちが。 「道中よろしくな」 ひょいと指をだしてみる獅子ヶ谷、かぷっと噛み付いてみる子犬。 「お、やったなぁ? よっと。お礼に撫でてやろう」 抱き上げて撫でて可愛がる獅子ヶ谷。故郷では犬を飼っていたらしく手慣れた物だ。 こんな風に、開拓者たちは子犬や子猫と親しくなっていくのであった。 ●ごはんくれるし、あそんでもくれるんだよ! 「さあ、みんな。ごはんですよ〜」 何度目かの休憩。御飯をあげているのは至苑だ。 わーいと子犬子猫たちがそれぞれの小皿に群がっていく。 そろそろ夕方だ。今日はこのまま馬車で野営ということになりそうだ。 「はい、他の子の文はとっちゃだめですよ?」 至苑は皆に行き渡るように注意しつつ、ふと見ればちょっと離れた場所に一匹だけうろうろしている子猫が。 どこで食べたら良いんだろう? と迷っている様子だ。 「……おいで。はい、ちゃんと食べて大きくなるんだよ」 たべていいの? これ、ぼくの? にぁと小さく鳴いて見上げる子猫に、至苑ははいと小皿を差し出て。 もくもくと食べつつ、ときおり至苑を見上げてにあにあと鳴く子猫に、彼女は眼を細めるのだった。 「さあ、日が暮れる前にお散歩に行きますよ〜」 ご飯が終わった子犬たちを連れて小散歩に行こうとする露草。 「あ、ちょっと待って〜。首輪代わりにこんなものを付けてあげたらどうかな?」 見分けが付くように相棒用のスカーフを持ってきたのは誘霧だ。 彼女が、みんなにパートナースカーフを付けてあげれば、露草が、そこにそっと紐を付けて。 「さ、これでよしと。今のうちから慣れておいた方がいいよね?」 「ええ、もっと触られるのに慣れたり……それに散歩が楽しいって事を覚えて貰わないといけませんから!」 そういって露草は、改めて子犬たちを散歩に連れて行くのだった。 もちろん他の開拓者たちも夕暮れの中、精一杯子猫や子犬たちと遊んでいた。 「目覚めよ、野生!」 ぬいぐるみをもにもに動かす誘霧。それに呼応して子猫たちの野生が爆発! 所狭しと走り回ってごろんごろんと転がって。時には他の子にぶつかったり、うにゃっと喧嘩になったり。 でもそんなときは、 「めっ! 喧嘩しちゃだめだよ?」 しっかりと叱ってから、ちゃんと言うことが聞けたら思いっきり撫でてあげる誘霧であった。 そして、やっぱり大柄だからか、なついて貰えなかったラグナ。しょんぼりと肩を落としていたら、 「……ラグナさん、一緒にブラッシングはどうかな?」 「む、できるかな」 フレスに誘われて、柔らかい木製の櫛を手に、ラグナも子猫の毛を梳くのに挑戦するのだった。 「はい、大人しくしてるんだよ。……うん、良い子だね。ほーら、キレイになったね」 にこにこと、子猫に話しかけながらフレスは手慣れた様子で梳いてあげて。 すると子猫も気持ちよいのか、もっともっととぐいぐい頭を押しつけて、お腹を見せつつごろん。 そんなフレスと子猫を見て、ラグナもおそるおそる手を伸ばした。 ラグナをじっと見ているのは真っ白な子猫。手を伸ばされて、思わず身構える。 ラグナ、そんな様子に思わず目に涙。にゃう? どうしたの? と白猫さんは心配げ。 おそるおそる白猫さんはラグナにちかよると、その手にすりすりと頭を寄せて。 「お、おおぅ……向こうから近づいてきてくれるとは……」 そして白猫さんもころんとお腹をみせてみたり。ラグナはやっと櫛をてにその柔らかい毛を梳いてみる。 にあぁ、子猫が鳴いた。 「う、うぅ……い、痛くは…ない、よな?」 にぃ、だいじょぶ。でも、せなかのほうをおねがいするのにゃ。 そんな感じでころんと転がる白猫。ラグナはもう、白猫を撫でて毛を梳いてあげるのだった。 感動の涙を、滂沱と流しながら。 にゃ? おにーさん、どうして泣いているのにゃ? そんなラグナを心配げに見上げる白猫だったとか。 「いやー、これだけ数がいるとやっぱり圧巻だな」 そしてそろそろ夜にさしかかり、夜行性の子猫たちはちょっとそわそわしだしていた。 そんな子猫や子犬を前に、自ら用意した玩具を並べる獅子ヶ谷。 小さな鞠、結び目を作った縄、ぬいぐるみや布きれなんかをぱたぱたと振ってみれば、みんな大はしゃぎだ。 「しかし、やっぱり昔飼ってたから、俺は犬派だな」 丁度露草が散歩から連れ帰ってきた子犬たちも交えて獅子ヶ谷は大わらわ。 ならばと猫じゃらしを1本、ラグナに手渡して。 「だから、猫はそっちに任せたぜ」 すると、猫たちはわーいとラグナに殺到。猫じゃらしをもとめてぴょんぴょん飛びついていく。 「……あぁ……夢みたいだ」 さらにラグナは感動の涙を浮べるのであった。 ラグナが頑張って子猫たちの相手をしている間に、フレスとや至苑は檻の中をキレイに掃除していた。 今夜はここが寝床になるはず、開拓者たちも子猫と子犬に混じって休むことになるだろう。 「私も手伝うわね。やっと解放された……」 「あ、雲雀丘さん。大丈夫ですか?」 「うん、大丈夫ですわ……でもこの子は離れてくれないけど」 手伝いに来たのは雲雀丘。 さっきまで尻尾や耳を子猫たちにはもはもされていたのだがやっと解放されたよう。 まだ一匹、彼女の頭の上にぺたんとくっついて、耳をかじかじしている子が居るのだが。 「こ、この後もしばらくこんな感じになるのでしょうか?」 「うーん、その子も気に入ってるみたいだし、たぶん寝るときも一緒に居るんじゃないかな?」 フレスが応えれば、なんとも困ったような嬉しそうな表情を浮べるしかない雲雀丘であった。 そして、遊び疲れた子猫と子犬たちは、中書令の歌声で眠り始めていた。 なかにはふらふらと出歩こうとする子もいるが、 「まだまだ悪戯っ子だな……ほら、皆と一緒に休むんだぞ」 獅子ヶ谷ははぐれた子を抱きかかえ、そっと輪の中心に戻す。 中書令は優しく子犬や子猫たちに夜の子守歌を聴かせるのだった。 月明かりの下、丸まって眠る子猫を膝に抱いて、露草は子犬たちの好物を手帳に書いていた。 「……これからこの子たちを引き取るお家に、教えてあげられたら、と思って」 そして誘霧は子犬たちをぎゅっと抱きしめたままで、いっしょにすやすやと休んでいて。 フレスも一緒に、その隣で寝息を立てているようだ。 子猫や子犬たちも、誘霧とフレスの温もりが心地良いのである。 そして、ラグナはようやく慣れてくれた白猫を膝にのせたまま、動くに動けずにやけっぱなしだ。 雲雀丘は、いまだに頭に茶色の子猫をのせたまま。 どうやらそこが気に入ったようで、仕方なく彼女もそのまま寝ることにしたようで。 そしてその夜も、中書令の歌声が微かに響きつづけるのであった。 ●おわかれは、かなしいかもしれないの 「皆、どうか幸せに暮せよ」 にこやかに送り出す獅子ヶ谷。とうとう開拓者たちは目的地に到着した。 楽しい日々は残念ながらこれで終わり。開拓者たちは、寂しい思いを胸に、子犬と子猫を送り出すのだった。 「……わんわもにゃーにゃも、皆元気でねー!」 「……し、幸せになるんですよー!」 うるうると目を潤ませる誘霧と露草。 「幸せにねー」 思わずフレスも一緒に女の子3人はうるうると子供たちを送り出して。 だが、彼女ら以上に泣きながら送り出しているのは、 「ううっ……さ、さらばだ……う、うさみたん……さみしいな、別れというものは…」 もちろんラグナだ。頑張って笑顔を浮べつつも、眼は真っ赤。 思わず背中のウサギのぬいぐるみに話しかけていたり。 夏都彦の仕事は終わった。彼は、子猫や子犬たちが付けていたスカーフ手にしていた。 「あの子達は皆、この数日間楽しそうでしたよ。このスカーフ、思い出に持っててください」 「……どうか飼い主の許でも、元気に、幸せに暮らせますように」 「きっと大丈夫ですよ。あんなに人なつっこい子ばっかりでしたから」 至苑の言葉に、夏都彦は笑顔を浮べて応えるのだった。 |