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■オープニング本文 夏、熱い日差しの下で、つめたく冷えた酒をぐいっと一杯。 夏、夜の蒸し暑い空気の中で、熱々の肴と一緒にもう一杯。 年中通じて酒は人生を豊かにするものだが、夏はまた格別の風情がある。 だが、薬も過ぎれば毒となるように、百薬の長もまた過ぎれば毒。 具体的に言うならば、飲み過ぎた朝は二日酔いになるのが必然だ。 ある朝、貴方ははっと見覚えのない場所で目を覚ます。 何処かの路地裏。ひとけの無い川縁。古びた建物の軒下。誰も居ない草原の真ん中。 前日の記憶は曖昧だ。 たしか、どこかで酒を飲んでいたような……良い気分で酔っ払っていたような……。 そこではっと気付く。 大事なものが無い! 懐の財布、自分の得物、貴重な装備かはたまたもっと大事な形見の品とか。 ……どうやらあの店でしてやられてしまったようだ。 まだまだ体調は最悪だ。 頭はがんがん痛いし、酒は残っている。 胸はむかむか、視界は回るし足取りだって定かではない。 だがしかし、大事なものを取り戻すためにはあの店に戻らなければ。 こんな目にあわせてくれた店だ。きっちりとお礼をしなければならないのだ。 さて、どうする? |
■参加者一覧
犬神・彼方(ia0218)
25歳・女・陰
レヴェリー・ルナクロス(ia9985)
20歳・女・騎
猫宮 京香(ib0927)
25歳・女・弓
アルウィグィ(ib6646)
21歳・男・ジ
ケイウス=アルカーム(ib7387)
23歳・男・吟
煌星 珊瑚(ib7518)
20歳・女・陰
朱宇子(ib9060)
18歳・女・巫
工藤 緑太郎(ib9852)
22歳・男・泰 |
■リプレイ本文 飲み過ぎた朝 リプレイ リテイク版 ●宴の夜 「あっはっは、中々ぁ良質なぁ酒揃えてんじゃぁねぇか!」 犬神・彼方(ia0218)の高笑いが響く夏の夜。 ここは神楽の都に新しく出来たうわばみ亭だ。 「いやー、楽しいもんだな! ジルベリアの酒まで揃っているとは……良い店だな!」 犬神の声に応えて、酒杯を掲げたのは工藤 緑太郎(ib9852)。 心酔するジルベリア渡来の小説のように強い酒を痛飲中、グラスを掲げて。 「それになにより、美人が多いっ!」 「あら、褒めても何も出ませんよ♪」 彼の隣には店の女性給仕たちが。かなりの薄着で、『ないすばでぃ』な女性ばかりだ。 目尻が下がり、鼻の下が伸びきっている緑太郎。 今にもぴょ〜んとおねーさんたちの谷間めがけて飛び込みそうで。 そんな彼を見て大笑しつつ、犬神が声をかけたのは、にこにこと大人しく酒を飲んでいる女性だ。 「おお、確かに目の保養がぁ出来る別嬪揃いなぁのは嬉しいねぇ。なぁお嬢ちゃん!」 「……確かに、こうして皆さんで飲むのも、楽しいですね」 問われて、にこりと笑顔を浮べたのは朱宇子(ib9060)だ。 彼女は依頼の話など開拓者同士だから出来る話題で盛り上がっているようで。 「もう、依頼が上手くいったからってはしゃぎ過ぎよ、京香!」 「あらあら、折角の機会なんだしお酒も美味しいわ。ちょっとぐらい羽目を外してもいいじゃない」 レヴェリー・ルナクロス(ia9985)と猫宮 京香(ib0927)らも輪の中で大はしゃぎ。 「そうそう、時には羽目を外すのもいいものですよ〜……では折角ですし、僭越ながら一曲」 そこで楽器を奏で始めたのはケイウス=アルカーム(ib7387)だ。美しい楽の音が響けば踊りも追加。 踊り手はアルウィグィ(ib6646)、女性と見まごう美しいジプシーの妙技に拍手喝采。 「こんなに盛り上がる酒の席は久しぶりだ! ほんっと、今日は来て良かったねぇ。なぁ、犬神さん」 「おお、俺ぇもそう思ってたんだぁ、煌星、俺ぁ彼方で良いぜ。さぁ、もっとおかわりおかわぁり!」 「だったら私も珊瑚で良いさ。応、飲もう飲もう!」 煌星 珊瑚(ib7518)は犬神と意気投合しているようで、酒はますます進むのだった。 そんなこんなで大盛り上がりしていれば時間はあっとうまに経っていく。 すると、いつしかケイウスの楽の音は途絶え、アルウィグィの踊りも止まっているようだ。 見ればさっきまで二人ではしゃいでたレヴェリーと京香も突っ伏して寝てる。 珊瑚も朱宇子も椅子にもたれて寝息を立てて。 そして緑太郎に至っては、羨ましいことにおねーさんの胸元に顔を埋めて寝こけている様子。 「おやぁ? どうした皆ぁ……ぁー? なんだぁ、急に眠く……っ……何、しやがっ……」 そして、最後の一人である犬神は、急にくらりと視界が揺らいで……そして何も分からなくなった。 ●飲み過ぎた朝 蝉の声が聞こえる。うるさいほどに。 いつの間にか朝になっていたようだ、そう思ってアルウィグィは目を開けた。 まだ早朝とはいえが、暑い夏の朝。 周囲は粗末な板壁、地面は踏み固められた土の路。どうやらそこで寝ていたようだ。 ぽんと土を払い立ち上がる。ここは裏長屋の一角のようだ。目の前には井戸がある。 釣瓶を降ろして水をくみ、冷たい井戸水で顔を洗って、もう一度、今度は喉を潤して。 ちょうどそんな時、この長屋の住人らしきおばちゃんたちがやってきた。 井戸で顔を洗っている異国人に驚くおばさんたち。アルウィグィは彼女たちに顔を向けると、 「……嗚呼、井戸を勝手に使用してすいません。ところで、ここが何処だか教えて頂けますか?」 そう尋ねたのだった。 木陰でぱちりと目を覚ました朱宇子。お酒の余韻でまだふわふわと世界は揺れているようだ。 だが、なにか違和感が。その違和感に誘われるまま、髪に手をやると、 「え、あれ、え……? な、い……嘘ッ!?」 一気に酔いが覚めて彼女は立ち上がった。 大事な大事な髪飾り、彼女の母が彼女のために選んでくれたその髪飾りがないのだ。 血の気が引いて、そして同時にかっと頭に血が上る。あれだけは、なんとしても、取り返さなければ。 「そういえばあのお店……ギルドにぼったくりのお店があるって伝わってたみたいだけど……」 弾かれるように踏み出す朱宇子。流れそうになる涙をぐっとこらえて彼女は走り出すのだった。 「……んー、んぁ?」 ケイウスが目を覚ましたのは、人気の無い路地裏だ。 猫がつんつんと彼の足先をつついていたようで、目を覚ました彼に驚いてぴゅっと逃げていったり。 「なんで俺はこんな所に寝てるんだ?」 首を傾げつつ、体を起こすケイウス。だが、懐がどうにも軽い気がする。 「……財布が無い! う、ブローチも無い!!」 外套を留めているブローチは、師匠からの餞別に貰ったもので、大切な物なのだ。 「絶対に取り返す!! っぅぅう………お、大声出したら……頭が……」 威勢良く立ち上がったケイウスは痛む頭を抱えつつ、ふらふらと歩き出した。 「ま、まずは店の場所を……お、あれは昨日の……アルウィグィだったかな? おーい……いててて」 頭痛に耐えつつケイウスはアルウィグィを発見、2人は合流して。 「……そうですかブローチと財布を。私も財布を盗られましたよ。諸々の支払いがあるのに、困りました」 はぁとため息をつっくアルウィグィ。そして二人は連れ立って店へ向かうのだった。 「金は良い……いや、良くないが、また稼げば良いのだから」 路地裏のゴミ捨て場で目を覚ました緑太郎。 彼は起きて直ぐに、大事な物が盗まれたことに気が付いた。 「……あれは今の俺を形作ってくれたものだ」 ごみをはたき落として、スーツを整え直しネクタイの歪みを直す緑太郎。 「俺を支えているのが、あの小説とその主人公だ。だから強く優しく、そしてタフに生きようと思ったんだ」 こきこきと肩を慣らして、一歩を踏み出す緑太郎。どうやら酔いは醒めたようで。 「親父が買ってくれた、家族と俺をつなぐ唯一の品……さて、取り返しに行きますか」 いつもと変わらず、飄々と路地裏を歩む緑太郎。 だが、彼の内は怒りで燃えていた。いつもは二枚目半の緑太郎。 だが今日の彼はひと味違うよう。怒りは彼を確かにハードボイルドに仕上げているのだった。 「う、ううっ、京香……もう無理。もう私は飲めないから〜……」 「ほらほら、レヴェリーさん、そんなこと言わずにもう一杯〜……」 とある路地裏。仲良く眠りこけているのはレヴェリーと京香だ。 ああ、夏の日差しが丁度心地良い……心地良い? まだ日は高くないとは言え、この陽気。本当ならば暑いはずだ。 では、何故か。……それは二人とも下着姿だったからである。 「……むぅ、もう飲めにゃ……はっ?! ……私は確か……って、ぇええ?! 京香、起きて京香!!」 「……あ、あら〜? 一体ここは……あら、レヴェリーさん、その格好は?」 「その格好もどの格好もないわよ! 盗まれたのよっ! あの店で! 昨日! 酔っ払って!!」 「あらあら、それは大変ね〜。でも、レヴェリーさん、下着姿に仮面だけだなんて……」 「そんなこと言ってる場合じゃ無いわ! 京香、貴方もよ!」 そこでやっと京香も自分が下着姿だと気付いたようだ。 ざわり、京香の背後に黒いオーラが渦巻いた気がした。そのまま京香はゆらりと立ち上がる。 「……んふふ〜、こんなことをする悪人には遠慮はいりませんね〜?」 「待って京香! 此のままでは二人とも変質者の仲間入りよ。せめて何か羽織る物を……」 京香の手をしっかりとつかみ、周囲を見回すレヴェリー。 すると、彼女らからちょっと離れた場所がもぞもぞと動いた。 そこにあるのは解れたムシロの山。そこからにょきっと突き出したのは手足だった。 「……いてて、久々に飲み過ぎたかも……」 さらに、にゅっと頭が。声の主は、珊瑚だ。彼女はきょろきょろと周囲を見回して京香たちに気付いて。 「お、あんたらは昨日の……って、なんで下着姿なんだ?」 「説明すると長くなるわね〜。でも珊瑚さん、あなたの方がもっと……」 京香に言われて珊瑚は気が付いた。自分の状況は、下着姿よりもっと開放的であった。 なんと、ムシロの簀巻きオンリー。防御力はゼロだ。いろんな意味で攻撃力は高いが。 「……って、下着まで! 結構良い下着なのに……と、とりあえず、着るものを借りるか……」 珊瑚の言葉に、レヴェリーと京香も頷くのだった。 そして数分後。まだ人気の無い早朝、偶然彼女たちに気付いたおばちゃんから下着だけを借りた珊瑚。 上着は手に入らず、このまま時間を浪費すれば人通りが増えてしまうだろう。今は急ぐことが重要だ。 そういわけで、3人は下着の上からムシロを羽織って早朝の街をこっそり駆けていた。 「ふ〜ん……ってことは、あたしの服なんかもそいつらが……このあたしに喧嘩でも売ってんのかねぇ」 「ええ、全くです……よくも此んな辱めを……」 「んふふ〜、お仕置きですよ〜」 ぎりと歯がみする珊瑚、赤面するレヴェリー。そして笑顔のまま怒髪天を衝いている京香。 そして3人は、とうとう店の前までやってくるのだった。 いざ突撃。だが、彼女らの前に大柄な影が一つ。 「……やぁっと着いたぞぉ。ありゃぁ先代の形見の大事な羽織だ」 ずしんずしんと地響きでもしそうな勢いで歩くのは犬神彼方。 「俺ぇの大事な羽織を盗むとぉはねぇ……後悔してぇもしたりねぇぐらいのお仕置きが必要そうだぁな」 そこで犬神はレヴェリーたち3人に気が付いて、 「おぉ? どぉやら、俺ぇだけじゃなかった見たいだぁな……一緒ぉにいくかね」 「ええ、お仕置きを。これでもかとして差し上げましょうね」 彼方の言葉に、にっこりと微笑む京香。4人の女性はずらりと揃って、店の正面に立つのだった。 ●因果応報 ちょうど4人の女性陣が店の前に集合しているとき、店の裏口に向かう者たちもいた。 正面から他の仲間が踏み込もうとしているのをケイウスが超越聴覚で気付いて。 彼はアルウィグィと共に裏口へ。すると彼らの前を進む1人の女性が。 朱宇子だ。ぐっと拳を握りしめて裏口へ一目散に進んでいる。 3人は合流し、行動を共にすることに。そして裏口の前に来たのだが、 「さて、どうやって踏み込むか……と、誰か来るぞ」 ケイウスが気付いて隠れようとしたのだがすこし遅かった。 がちゃりと裏口を開けて顔をだす用心棒の一人。 こちらは巫女に吟遊詩人、そしてジプシーだ。接近戦では不利……と思ったのだが。 「………成敗、致しますっ!!」 一番最初に動いたのは朱宇子だった。涙目で、放ったのは白霊弾。 「て、てめぇら昨日のぐほっ!!」 不意打ちで直撃された用心棒は昏倒、3人は首尾良く裏口から中に入り込むのだった。 入り口から踏み込んだ4人。怒りの表れか、ドアを蹴り壊してのご入店。 「なっ! 何しやがる……って、昨日の!!」 店内にたむろしていたのは店主とその部下と用心棒、それと隅っこの方で縮こまっている給仕たちだ。 だが、入ってきたのが女だけ四人だと気付いて、店主はにやりと笑顔を浮べた。 「これはこれはお客様、そんなに慌てて何か忘れ物でも?」 「なぁにが忘れ物でも、だ。俺ぇたちから盗んだぁ物、きっちり返してぇ貰おうかぁ!」 「……へっ、もういいや。たかが女が四人だ遠慮はいらねぇ、全員のしちまえ!」 下卑た声と共に下着姿の3人を見て、好色な笑みを浮べつつ武器を抜く用心棒たち。 だが、彼らは不運だった。彼らの前に居る四人の開拓者は皆、一騎当千の猛者たちだったのだ。 ずしりと巨漢の用心棒が迫る。だが犬神も背では負けていない。 「……俺ぇの羽織、さっさぁと返せぇこの野郎!」 陰陽師の犬神、がっと用心棒の襟をつかんで引き寄せ、鼻っ面に頭突き、一撃で昏倒。 負けてないのは背だけでは無い。犬神一家の家長は強かったようで。 「私の装備、返しなさい……!」 仮面で下着姿のレヴェリーに掴みかかってくる用心棒。 対するレヴェリー、なんと綺麗な脚線を跳ね上げて上段蹴り一発! 揺れる胸、まぶしい太もも。そしてへし折れる用心棒の鼻の骨。桃源郷から地獄である。 「もう悪いこと出来ない身体にしてあげますよ〜!」 部屋の片隅に自分の得物を発見した京香。だがクロスボウには矢が装填されていなかった。 矢が無ければどうにもできないだろう、と近づいてくる用心棒。 その頭をクロスボウの柄で痛打。さらに強烈な蹴りが股間に突き刺さる。 用心棒は京香の肢体を脳裏に焼き付けたまま、昏倒するのだった。 「へっ、陰陽師一人でなにができる!」 珊瑚を侮って近づいてくる用心棒。身包みはいだときに装備で陰陽師だと知ったのだろう。 だが、珊瑚はそのまま近づくと霊青打。拳が赤光を帯びて、 「ふざけるな、とっとと返しなっ!」 強烈な拳が顎を打ち抜いて用心棒はあっさりと轟沈。あっという間に半分近くの用心棒が昏倒したのである。 店長とその部下は裏口に逃げようとする。だがそこには3人の開拓者が立ちふさがっていた。 ぎゅっと取り戻した髪飾りを握りしめている朱宇子。どうやら盗品は見つかったようだ。 それだけでは無い、アルウィグィの手には帳簿が。それをめくり、 「……なかなか阿漕な商売をしてた見たいですね。証拠はここに」 こうして進退窮まった店長、 「女を人質にしろ!!」 卑劣にも店の給仕たちを人質にして逃げようと考えたのだ。だがそれは遮られた。 「はーい、そこまで。大人しく捕まってくれないかなぁ、まだ頭痛くてさ」 楽器を取り戻したケイウスの夜の子守歌が用心棒を眠らせる。さらに、窓からひらりと飛び込む影が。 「女を人質にしようだなんて、卑劣極まりないな。女は何も聞かずに守ってやるのが、イイ男だ」 緑太郎は刃物を振りかざす店長の前に立ちはだかって迎撃。。 皆の怒りを代弁して、強烈な連打が店長の顔に突き刺さる。 こうして、うわばみ亭は壊滅。こってり開拓者の復讐を食らった後でお縄になるのだった。 「よ、よかった……本当に、よかっ……」 涙を流して喜んでいる朱宇子。彼女だけでは無い、一同無事に奪われた物を取り戻しほっと一息で。 「……良かったな。俺もこれを取り戻せて良かった」 そういってブローチを付け直すケイウス。そんな様子を見つつ、京香は言う。 「さて、レヴェリーさん迎え酒でもしに行きましょうか〜。今度は盗まれない場所で〜」 「京香……飲み直すより先に服。服を着ましょう……」 そんな二人を見て、朱宇子は目を瞬いて。 「……こんな目に遭ったら、暫くお酒は遠慮したいです、よね?」 その言葉に、京香とレヴェリー以外の一同はうんうんと頷くのだった。 |