【混夢】戦え!
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: イベント
EX
難易度: 普通
参加人数: 11人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/08/27 21:50



■オープニング本文

※このシナリオは【混夢】IFシナリオです。
 オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

 大きな大きな戦争が起きた。
 闘っているのは白虎軍と黒龍軍。その戦いは何十年、何百年と続いたのだ。
 だが何事にも終わりはある。
 その最後の戦いが、いままさに始まろうとしているのだ。
 戦いを率いるのは、綺羅星のごとく居並ぶ将軍たち。
 それぞれが一万の軍勢を率いて、数十万の軍勢となりぶつかり合おうとしていた。
 戦力は互角。優れた知略に武力は今まさに、激突寸前。

 伝説に残る戦いが始まろうとしていた。


●ルール
 ・依頼参加者は、全員が一万の軍勢を率いる将軍となって戦闘に参加する。
 ・参加者は最大25名。白虎と黒龍の両軍はそれぞれ12か13名の将軍を擁することになる。
 ・各将軍が率いる軍は全員同じく一万人によって構成されている。
 ・一万人の軍勢は騎兵と歩兵と弓兵の混成軍だが、歩兵・騎兵・弓兵に特化することが可能。
 ・歩兵は騎兵に強く弓兵に弱い。騎兵は弓兵に強く歩兵に弱い。弓兵は歩兵に強く騎兵に弱い。
 ・また、特化をしない混成軍という形で、特に弱点が無い構成にすることも可能。
 ・参加するPC=将軍は一騎当千。単騎で1000人の一般兵と互角。
 ・これらのルールにしたがって、両軍が激突し勝敗を決する依頼である。


■参加者一覧
/ 緋桜丸(ia0026) / 鷲尾天斗(ia0371) / 鴇ノ宮 風葉(ia0799) / 九竜・鋼介(ia2192) / からす(ia6525) / 不破 颯(ib0495) / 无(ib1198) / バロネーシュ・ロンコワ(ib6645) / エルレーン(ib7455) / 破軍(ib8103) / ラグナ・グラウシード(ib8459


■リプレイ本文


 悠然と、払暁の空を一頭の龍が旋回していた。
 龍を駆るのは紅の髪の将軍。敵軍からは金獅子の将と恐れられる緋桜丸(ia0026)だ。
 眼下には自分の部下たちが、その数兵力は一万。
 一万の軍勢、それは、圧倒的な暴力だ。
 兵士は隊伍という言葉にもあるように五人を最低単位として組織される。
 それが二十集まれば百人隊だ。百人隊は、古今東西を問わず戦場での基本的な戦術の単位となる。
 作戦行動を起こすのに兵士が百人居れば十分と言えるからだろう。
 そして、その百人隊が十集まることで千人隊を形成する。これはもう立派な軍勢だ。
 1000の兵士は拠点を攻め落とすのにも十分な数なのである。
 その千人の軍勢を十個、それが一万人の軍勢だ。
 今回、その圧倒的な戦力が、たった一人の将の采配によって動くわけである。

 緋桜丸は、視線を上げて戦場全体を見回してみた。
 緋桜丸ら黒龍軍は総数およそ20万。それも後方支援部隊以外の兵士だけでその数だ。
 対する白虎軍もほぼ同数。龍の背から彼方に視線を向ければ、その兵たちが見える。
 今回、戦場は大きく分けて二つの盤面に別れたと、緋桜丸は見ていた。
 一つは緋桜丸の部隊も配されているこの平野だ。
 戦力的に白虎軍が優勢のようだ。では、その分の黒龍軍の戦力はどこにいったのだろうか? 
 それは、山岳地帯だ。
 黒龍軍の主攻はどうやら山岳地帯で布陣したようだ。対する白虎軍の主戦力は、ここ平野部に集中している。
 両軍、人家が残る場所を戦闘行為に巻き込みたくなかったようで、まるで示し合わせたかのようなこの布陣。
 黒龍は山地が主攻、平地が防御。白虎は真逆で山地が防御、平地が主攻となったわけである。
「……2匹のヘビが、お互いの尻尾に噛み付こうとしてる、ってところか」
 ただ一人、空に悠々と弧を描きつつ、戦場の様子を眺め呟く緋桜丸。
 そんな彼が、じっと探しているのは、ある一人の男であった。
 いよいよ日は登り、ついに両軍は動き始める。そんな中、紅の獅子は静かに獲物に探して。
「見つけたぞ……危険な芽は、早めに摘んでおくのが良い」
 獲物に狙いを定めた緋桜丸。それとほぼ時を同じくして、両軍はついに激突するのだったた。

 最初の激突は激しいものとなった。
 平野での両軍の激突、数万の軍勢が真っ向から向き合い、ぶつかり合う。
 その中でも、高名な将軍たちが率いる軍勢は、やはり並では無かった。
「今日で最後かぁ。ま、どう転ぼうがお仕事がんばるだけだわなぁ」
 へらりと笑う青年は不破 颯(ib0495)だ。彼は白虎軍において弓で双璧と恐れられる稀代の弓使い。
 そのためか、彼の率いる兵も皆弓矢を装備した弓兵たちだ。
 迫る黒龍軍の兵士たち。だが、不破は笑みを崩さなかった。
 一つ、彼には信頼の置ける部下たちが居る。その兵士たちが全員が弓を構え、狙いを定める。
「……さぁて野郎共。最後の戦だ。派手に行くぞ…………弓兵の真価、見せてやろう!」
 その言葉と共に、ざぁっと豪雨のような音がした。
 それは一万本の矢が空を駆ける音だ。それが、黒龍軍の部隊へ降り注ぐ!
 まさしく矢の雨、だが黒龍軍の兵士たちは止まらない。数千が傷つき、息絶えたのにもかかわらずだ。
 軍勢は屍を踏み越え、白虎軍の陣営へと迫り来る。
 だが、それでもなお不破の表情から笑みは消えていなかった。
「じゃあ、次のお仕事は、と……」
 兵士たちが交代で次々に矢の雨を降らし続ける中、不破も矢を引き絞りバーストアローを放った。
 たった一矢のみで黒龍軍の先鋒を粉砕し、さらに敵陣を中央突破する不破の矢。
 それが作り出した敵陣の隙間に、向かう軍団があった。
「……よし。あとは任せたよ」
「おう、任された! 悪ィが突破させてもらうぜ、天下の大将軍……鷲尾天斗様がなァ!!」
 不破の言葉を受け、怒濤の勢いで騎馬を進める軍勢は鷲尾天斗(ia0371)率いるものだ。
 片手に名刀、片手に短銃。隻眼の将は自軍先頭で部隊を率いながら声を上げる。
「突っ込むぞ! 周りは全部獲物だ……刈り尽くせ!!」
 吼える鷲尾に呼応して、その部下一万も熱気を帯びた。
 彼が率いるのは速度と突破力に優れる騎兵七千と、容赦なく残党を刈りつつ進む歩兵三千だ。
 その活躍はまさしく戦場の死神。
 さらに、鷲尾には明確な目標があった。それは指揮系統を混乱させること。
 つまり、優先して将校、将軍たちを刈り取るつもりなのだ。
 不破の援護があるとはいえ、それは戦力をすりつぶす下策では無いのか?
 否、鷲尾は戦力的に弱い部隊を見抜く戦術眼を持っていたのである。

 この平野部の戦いに戦力を集中した白虎軍。大勢の将軍たちの中で、名だたる将は4名存在した。
 そのうちの二名が不破と鷲尾だ。そして残る将たちもまた動こうとしていた。
「ふふん! 私に刃を向けたこと、後悔させてやる!」
 騎兵部隊を率いるラグナ・グラウシード(ib8459)。彼の軍は敵の弓兵を狙っていた。
 速度に優れる騎兵は弓兵の天敵だ。装甲と速度でラグナの部隊は黒龍軍の弓兵を粉砕していく。
 戦場の死神として、縦横に暴れ回る鷲尾に対して、こちらのラグナはまた違う戦い方をしていた。
「さあ! 疾風のように駆け抜けろ、我らに仇なす者を吹き飛ばせ!」
 騎兵の強みは速度と突破力だ。だが弱点はその勢いを止められること。天敵は重装の歩兵たちだ。
 そのために、ラグナは自らが先陣を切って、天敵の重装歩兵を自身で倒し続けていた。
 強韻に将軍首を狙う鷲尾と、戦力を温存し、冷静に弓を封じていくラグナ。
 この二軍の活躍によって平野部での先頭は、白虎軍が優位に立っていた。

 だが、ここで黒龍軍が反撃に出る。
「あー、メンドくさっ……さっさと済ませましょーよ、殺し合いなんか、さ」
 ぼやきながらも騎乗で部下を率いる小柄な女将軍、鴇ノ宮 風葉(ia0799)。
 彼女は、冷静に戦場の動きを捉えていた。
 自軍は押されつつある。ならば今は反撃の時だ。
 自軍中央、深く侵攻し将たちを刈り続けている鷲尾。損耗は大きいようだがまだ勢いは止まっていない。
 騎兵特化の鴇ノ宮であれば、その勢いを止められるかも知れない。
 だが、彼女は首を振った。今攻めるのはそこではない。
「必要なのは武力でも頭でもないわ。引き際と攻め際を見抜いて、そこに賭ける勝負強さ、ってやつよ」
 そう、彼女の狙いは、鷲尾の部隊の後方。戦力を削りに来ているラグナだ。
「さぁ、みんな。あたしに付いてくるのよ! 策はある、心配はいらないわよ」
 にやりと笑みを浮べ、静かに全軍を動かす鴇ノ宮。
 彼女はそのまま、鷲尾の軍へと肉薄する。そして……そのまま、真横を通過した。
「分かってるわよ。あんたの軍は、その勢いを維持するために、大物を避けてるでしょう」
「はっ! 貴様の首より、楽に落とせる首を先に取ってから、後の楽しみに取っておくのさ!!」
 鴇ノ宮の言葉に、吼えて返す鷲尾。
 鴇ノ宮は、あえて本陣の守りを先、最適の時を選び戦力を投入したのだ。
 ラグナの軍勢がこのまま戦力差を崩していけば、黒龍軍の中央戦場が瓦解する。
 それを防ぐ布石の一手、それが鷲尾の軍勢を素通りしての正面突破であった。
 その突撃を真っ向から受けたラグナは軍勢の足が止まる。
 奇しくも両軍騎兵特化。その突進力のままぶつかり合う。
「さぁ、劫火絢爛に行くわよ。……今っ!」
 鴇ノ宮の才は、その戦術眼にあった。必要な行動を、最適の時機で行うことの出来るその戦術眼。
 彼女の軍勢はラグナの軍勢とぶつかるとき、敢えて先頭の陣を斜陣に組み替える。
 そのままラグナの軍勢の突進力を横にそらしてしまっうのだった。
 騎兵の利点である突進力故に、騎馬は方向転換に時間がかかる。
 彼女は、敵軍を斜陣で一度横にそらし、自軍は、そのまま敵陣の一部を削りとる!
 策は成った。だが……思わぬ伏兵がそこで登場した。
「……やれやれ、なの……突っ走っていくおばかさんがいたら、ふぉろーが大変だね」
 騎兵に効果が薄くとも、降り注ぐ矢の雨。それはエルレーン(ib7455)の部隊による一撃だった。
 稼いだのはほんのわずかな時間。
 重武装の騎馬兵部隊は矢では止まらない。だが、そのわずかな時間でもラグナは持ち直した。
 彼はさらに加速、巨大なカーディナルソードを掲げて犠牲を恐れず突破し距離を稼ぐ。
 鴇ノ宮に、自軍の横っ腹は抉られたが、まだまだ本隊は健在だ。
 さらに、エルレーンの援護がある。状況は一気に逆転だ。
「……いいか、投降した者には追撃せず、剣も向けるな! ……反した者は私が斬るッ!」
 ラグナはそうとだけ告げて、再び乱戦へと舞い戻る。それに呼応するエルレーン。
「さあ! この空が真っ黒になるまで……降らせちゃえ、地獄の雨を!」
 ざぁっと降り注ぐ矢の雨、だがそれを受けても鴇ノ宮は揺るがない。
「ふふん、やっと手応えが出てきたわね。ま、いいわ。相手してあげる」
 鴇ノ宮は、そのままラグナの部隊に攻撃され半壊してた他の部隊を掌握。
 部隊を再編して、二対一の戦いにもかかわらず、不敵に笑うのだった。


 一方その頃、山地では全く異質な戦いが繰り広げられていた。
 戦力は、平地と逆に黒龍軍有利。
 だが、それ以上に絶対的な差があった。
 名も無き将たちと、兵士の数では、そこまで大きな差は無い。
 せいぜい、1万ほど黒龍軍が優位といった程度だろう。
 だが違うのは、名のある将軍の差が。
「ふふ、これほどまで苦しい戦いになるとは思わなかったな……だが」
 そういって部下を見回すのはからす(ia6525)だ。
 白虎軍、名を響かせる将軍は彼女一人だ。
 しかし、闘わなければならない。ならばあがき、策を弄するまでだ。
「……だが、生きるぞ。諸君」

 対する黒龍軍。なんと名のある武将の数は4名だ。
 その中核を占めるのは、斥候を縦横に放ち山野を進む无(ib1198)。
 そして、地の利を最大限に活かして立ち回る破軍(ib8103)だ。
「これが現時点での敵戦力の配置だ。ここの敵部隊が後方との連携に不備が生じているようだ」
 无は、自身も含め、数多くの斥候を放ち、すでにこの山野における敵配置をつかんでいた。
 その知らせを受けて応えるのが破軍の部隊。
 彼らが活かすのは地の利だ。
「ふん。ならばそこから攻めるとしよう。三軍から五軍、出るぞ」
 破軍の指示に従って、軍勢が動き出す。破軍は、その軍を小規模な部隊に分けていた。
 だが、それは小部隊による侵攻では無い。なんと、小部隊それぞれが小規模な陣地を形成するのだ。
 敵の上を取り、小陣地を作りそこからの弓攻撃を主に敵軍を刈り取っていく破軍。
「地の利は我等に有り! 猛者共よ。我等の力を見せ付けよ!」
 その動きはまるで移動する小要塞だ。
 破軍の部隊は、山野のありとあらゆる場所を拠点に作り替えるのである。
 弓と槍の部隊で小陣地を作り、そこからのつるべ打ちで敵を混乱させる。
 そして、敗走する部隊が出れば、それを二千の騎兵が刈り取っていくのだ。
 だが、この破軍の作戦も无の情報力があってこそ。
 破軍と无の作戦がかみ合って、彼らは圧倒的な優位で白虎の部隊を倒していくのだった。

「……やはり一筋縄ではいかないか」
 そんな中、慎重に情報収集を進めていた无の部隊があるものを発見する。
 それは敵軍の中央深く。絶対的な優位で戦いを繰り広げていた黒龍軍の前に姿を現した。
 高台に位置したそれは、いつの間にか築かれた本陣。からすが作り上げた簡易砦だった。
 からすの選んだ策は防衛戦。
 拠点があれば、三倍の兵力差までは耐えられるという戦術思考で、からすは守りを固めたのだ。
「さて、どこまでいけるか……なに、心配するな諸君。玉砕なんぞはしないさ」
 からすは、眼下に続々と集まる白虎の軍勢を見ながら、部下たちに告げる。
「我々の策は、ここで時間を稼ぐこと。成すべきことを成せば、あとは投降するだけだ」
 そういって、お茶をひと啜り。
 年齢不詳ながら、時折老成した思想を覗かせるこの指揮官は、自軍だけを見ているのでは無かった。
 戦場全体を見据え、彼女はこの策を選択したのだ。
 そして、ついに黒龍軍の総攻撃が始まった。
 からすは愛用の弓を手に、楼閣に昇って、狙いを定める。
「……まぁ、それでもすこしはあがくとしよう。指揮官亡き軍なぞ烏合の衆だ」
 そういって狙うのは、敵軍の将校たち。
 彼女は冷酷に弓を引き絞り、上方からの狙撃で、敵の指揮系統を分断にかかるのだった。


「捕虜は手厚く保護するのだぞ。攻めあぐねているとはいえ、まだこちらが有利なのだ。焦ることはない」
 悠然とそう語る无。彼は尾無狐を傍らに置いて、静かに戦況を見据えていた。
 事実、无は焦っていないのだ。
 死者をなるべく出さずに勝つ、それが彼の目的だ。
 そのため、強攻策に出られず今だからすの城は落とせない。
 それは破軍も同じだった。
「ふん、暴れられないのは鬱憤がたまるが……それもそろそろのはずだな」
 腕組みをし、不満げに呟く破軍。だが无も破軍もあるものを待っていた。
 それは、他の仲間だ。この山岳戦に黒龍軍は大将軍を4名もつぎ込んでいるのだ。
 まだ姿を見せない二人と、その軍勢。それは、すでにからすの城後方へと回り込んでいたのである。
「いよいよですね、皆さん」
 先頭に立つのは、楚々とした女将軍だ。
 名はバロネーシュ・ロンコワ(ib6645)。彼女は、緒戦からこの状況を読んでいた。
 戦力的に優位な自軍に対し、白虎軍がどういう策を取るか。
 それはおそらく防衛戦。しかも名のある武将、からすが居るならば、築城の手を使うに違いないと。
 ならば、さらに手を打てば良いだけだ。伏兵として侵攻し戦闘行動を避ける。
 幸い、破軍と无の連携により山地戦の支配権は自軍に傾いている。
 そう判断したバロネーシュは、最初から兵を伏せてからすの砦の一番脆い場所へと狙いを定めていた。
「今までは、隠れながら小勢を相手にしていましたが、今度の相手は大物です」
 そういって見上げるのは、山肌を活かして作り上げた簡易の城だ。
 相手もなかなかのもの。そうバロネーシュは思うものの、それでもなお自分の策の成功を確信していた。
 そして、彼女は部隊を再編成。歩兵を中心に城攻めの布陣を組むと。
「では、まずは号砲といきましょう……ブリザーストーム!」
 進軍を開始するバロネーシュ軍。一気に山肌の守りを魔法で突き崩し、軍勢は山を駆け上っていく。
 呼応して、正面に陣取った破軍と无の部隊も城攻めに加勢。
 一気に一夜城は黒龍軍の手に落ちる。それもそのはず、からす軍の抵抗が意外と少なかったのだ。
 それはすべてからすの判断によるものであった。
「……死して何になる? それに我らの軍勢は役割を果たしたのだ」
 そういってほくそ笑むからす。
 からすは目的を果たした。たった一人の将の働きで、三人もの将を引きつけたのだ。
 无がそのままこの砦を抑え、バロネーシュと破軍は部隊を再編。
 二人の軍勢は合流し平野に向かって進軍。
 黒龍軍の主力がいよいよ混戦状態の平地へと打って出るのだった。

 その暫く前、からすが貴重な時間を稼いでいるその間に、平野の戦いは決着へと向かっていた。
 鴇ノ宮の軍勢がラグナとエルレーンの軍勢相手に、乱戦を繰り広げている時である。
 平野の戦いで、有利なのは白虎軍。その中で黒龍の軍勢に最大の被害を与えているのは鷲尾の軍勢であった。
 後方に不破の部隊を残し、敵陣中央での大暴れ。
 落とした将軍首の数は数知れず、だが、それを待ち受ける軍勢があった。
 疲弊した鷲尾とその軍勢の前に姿を現したのは、機動力に劣るが防御力に優れる方形陣。
 古代からあらゆる戦場でその効果を発揮してきた古い戦術だ。
 突進力に優れる騎馬を長槍で待ち受け、盾で矢を凌ぐ防御の陣形である
「……やっと会えたな、鷲尾。待ってたぞ」
 龍から飛降り、方形陣を率いて眼前に立ちはだかったのは緋桜丸だ。
 盾と長槍で構成された方形陣、その兵力数は六千。陣中央には四千の弓兵を配し盤石の構えだ。
 騎馬を待ち受けるのは盾の壁と槍の林。
 その方形陣が、いきなり鷲尾の眼前に出現したのだ。
 鷲尾とその騎馬兵団は、誘い込まれたのだ。
 緋桜丸は、龍を使い鷲尾の行動を常に観察していた。そして、仲間の軍勢すら使って彼を待ち受けたのだ。
「お前の武勇、いや、蛮勇もここまでだ……凶眼の鷲尾」
 鷲尾の兵団は方形陣に激突する。突破力に優れる騎馬は方形陣に絡め取られ、歩兵は矢の餌食となった。
 だが、鷲尾はその顔に笑みを浮べる。確かに窮地だ。だが目の前に居る緋桜丸。
 彼は大将首にも等しい大物だ。
「……はっ、ここまでだァ?! 違うな、ここでお前は返り討ちだ!! ハァッ!!」
 軍馬を走らせ、一気に肉薄する鷲尾。だが、迎え撃つ槍の林がそれを絡め取る。
「人馬一体でなければただの兵……観念しろ」
 馬を倒され、地に落ちる鷲尾。だが、鷲尾の闘志はそれでも揺るがない。
「ご託はもういい……決着をつけるぜェ! 首、置いてけェ!!!」
「なら、引導を渡してやる……覚悟っ!!」
 一騎当千の将軍同士がついには切り結ぶ。緋桜丸の地断撃が飛び、巻き込まれれば命は無い。
 だが、馬を失った鷲尾は不利。短銃で牽制し剣を振るうが、その技は精彩を欠いていた。
 好機と見た緋桜丸、一気にたたみかける。
 シャムシールを振り回す鷲尾。その刃の乱撃をかいくぐり、数多の傷を負いながら肉薄。
 そして緋桜丸は二刀を構え、一気に払い抜けからの焔陰。
 血を流し、紅に体を染めながらもついには鷲尾を倒した! ……かに思えた。
 だが、鷲尾は剣をはじき飛ばされ、片腕を失いながらも、懐から短銃を引き抜いた。
 緋桜丸の刃が肩口に突き刺さる。だがそれでも鷲尾は止まらない。
「俺を止めたかったら……首を斬らねェとな!」
 そのまま刃に貫かれつつも、肉薄しゼロショット。その銃弾が緋桜丸を撃ち抜いた。
「………ここまでか。俺の負けだ、この首持ってけ」
「はっ、バカ抜かせ……俺ももう動けねぇよ」
 両者相打ちし、そのまま崩れ落ちる二人の将軍。
 白虎軍最大の戦力、鷲尾天斗は緋桜丸に討たれ、また緋桜丸もその方陣は健在ながら鷲尾に討たれたのだ。
 時を同じくして、エルレーンとラグナの軍勢を前に、鴇ノ宮軍は撤退を始めていた。
「引き際を識るのも良い将のつとめよね。さ、ここは引くわよ」
 騎兵の機動力を活かして撤退を始める鴇ノ宮。
 これにて、平野部の決戦において白虎軍の圧倒的有利な状況が出現した。
 白虎軍は鷲尾を討たれたとはいえ、兵数で勝り将はいまだに3人残っている。
 緋桜丸軍が残した方陣はたしかに厄介だ。
 しかし、それを冷酷に刈り取ろうと近づくのは不破とエルレーンの弓兵部隊。
 弓兵の波状攻撃を食らわし、戦列が崩れたときにラグナの騎馬兵団がそこを急襲する。
 そのまま押し切れば平野での戦闘が白虎軍圧勝で終わると思えたその時、
「……その手はくわない、の……私と闘いたかったら、こそこそしないで出てきなよぉ!」
 エルレーンの軍勢が、向きを変えた。
 狙う先は平野部後方、山岳地帯との接触点である。
 そこから一気ににじみ出たのは、なんと無傷の一万の兵力。九竜・鋼介(ia2192)の軍勢だ。
 山野部での戦闘を圧倒的有利のうちに終えた黒龍軍。
 だが、からすの遅延策にはまり主力はまだ山の中だ。
 その中でも、九竜の部隊だけが、平野での戦闘に向けて進軍していたのだ。
「ここで一気呵成に加勢……ってね。さあ、俺たちは孤立無援。ここで突破しなきゃ命がないぞ」
 にやりと笑うダジャレ好きの将、九竜。そんな軽口も慣れたもの、混成部隊が一気に弓兵に躍りかかる。
 白虎軍の弓兵たちは慌てて向きを変えようとするが、九竜の混成軍の方が早かった。
 弓兵が牽制、時間を稼ぎ騎馬兵が突貫、隊列を崩す。
 そして、そのあとから本隊、歩兵部隊が弓兵たちを蹂躙していく。
 混成軍ならではの弱点のなさで、まさしく部隊後方に楔となって九竜軍は侵攻を始めるのだった。
 エルレーンの軍を助けようとラグナの軍が向きを変えようとする。
 だが、そこに襲いかかるのは緋桜丸の残した方陣だ。
 強固な方陣は盤石の防御で耐え凌ぎ反撃の機をうかがっていたのである。
「おお、これは丁度良かった。緋桜丸の部隊か……あの部隊と呼応する作戦を請おう……かな」
 そのまま九竜は、周辺の残存兵力をまとめ上げる。
 将軍が居ないのと居るのではやはり戦術の練度が桁違いだ。
 みるみるうちに大兵力へと拡大し、九竜はラグナとエルレーンの両軍と激突。
「ここで、戦力を吸収して、そのまま急襲……ん? 盾兵、構えろ!」
 だが、九竜は敵軍中央にさらなる弓兵部隊が出現したのを号令を飛ばした。
「……隙あり、だ」
 現れたのは、いまだ健在だった弓兵特化兵団、不破の部隊だ。
 狙うのは将軍格。からすと並ぶ弓の名手である不破が月涙で九竜を狙う。
 だがなんとか防御が間に合った九竜。盾部隊を失いながらもいまだ健在だ。
「九死に一生。だが、凌いだからにはこのまま弓部隊に反撃……いや弓師に一勝、だな」
 死線にありながらもダジャレは外せない。
 九竜の部隊はそのまま、一気に反撃に出るのだった。

 九竜の部隊は戦力的には決定打にかけていた。
 だが、それで良かったのだ。
 平野部での戦闘が長引けば、間に合う戦力が居た。
 山岳地帯から次々に出現するのは、破軍とバロネーシュの兵団だ。
 山岳戦で多少兵数を削られてはいるが、ほぼ無傷。いまだ戦力は高いと言って良いだろう。
 先陣を切るのは破軍の兵団。馬が少ないその兵団は槍を構えて突貫だ。
 向かう先はラグナの一軍。
 ラグナは新たに出現した兵団に向けて、最後の反撃に出た。
「貴殿も万を率いる武将……逃げはしまいな?!」
 不利を悟ったのだろう。一騎打ちを狙うラグナ。
 だが、ラグナの兵団とラグナ自身もすでに疲弊していた。
 迎え撃つのは破軍、鬼の将と恐れられる黒龍軍の将だ。
「逃げるわけが無かろう……貴様の軍、貴様もろとも食らいつくしてくれる!」
 山を一気に駆け下り速度を活かして騎馬兵と槍兵が激突する。
 騎馬特化のラグナに対して、破軍は若干の有利。
 そして破軍もまた一気にラグナに肉薄し、そのまま怒濤のように兵団ごと飲み込み叩きつぶす!
 白虎軍の中核を担い続けたラグナはここで脱落。
 さらに決定打となったのがバロネーシュの軍だ。
「さぁ、残りは私たちに任せていただきましょうか。ここまで温存した兵力。すべて投入させていただきます」
 戦場を迂回し、さらに白虎軍側面から攻撃を仕掛ける歩兵と弓兵部隊。
 その登場は、中央の平野での戦いに決着を付ける一手だった。
 しかも、黒龍軍はいまだに戦力が山岳地帯に残っている。
 からすの砦を奪い布陣する无の部隊だ。
「……決着、だ。我らの誇りのための戦は、ついに決したのだな」
 言葉少なく告げる无に、彼の傍らの尾無狐は彼の顔を見上げる。
 そのまま无の軍も出撃。投降した兵を捕虜として保護し、戦後処置に努めるためだ。
 勝者は黒龍軍。これにて勝敗は完全に決したのであった。

 戦場の趨勢を決めたのは、いくつかの手だ。
 両軍、それぞれ主戦場が真っ二つに分かれたこの戦い。
 その中で、山岳戦の圧倒的な不利をささえたのはからすの戦術だ。
 本陣防備の拠点防衛を行っていなければ、山岳戦はもっと短期間で決着してしまっただろう。
 そうなれば、黒龍軍が圧倒的有利で決着していたはずだ。
 対して平野の戦いでは白虎軍が圧倒的有利の状況。
 それを支えたのは鷲尾の凶暴さと後方支援の数々だ。
 弓兵を率いた不破とエルレーンの采配。それが鷲尾の破壊力を援護したのである。
 だが、それを真っ向から待ち構える緋桜丸の一手。これが鷲尾の作戦を破壊したのだ。
 そのまま鷲尾を放置していれば、圧倒的な戦力差のまま平野部での決着が付いていただろう。
 もちろん、その時には鷲尾軍も半壊したのだろうが、平野にはその他、ラグナとエルレーンの軍もいる。
 鷲尾を止めるためには、4軍を同時に相手にするような戦術が必要になるはずだった。
 だが、鷲尾を最も危険だと見た緋桜丸は見事にその軍を阻害した。
 さらに黒龍軍の九竜は、山岳戦での自軍の有利さをまるで識っていたかのように行動したのだ。
 もし、九竜の迂回作戦が間に合わなければ、決着は山岳戦へと移っていただろう。
 その場合、両軍の被害はさらに増したはず。それを止めたのが九竜の策である。
 ……だが戦争には正義も悪も無く、正解も不正解も無い。ただ勝者と敗者が存在するだけだ。
 これにて戦は決着。そしてすべては兵と将軍たちの夢の跡になるのであった。