八極轟拳の策謀を砕け
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/08/13 21:58



■オープニング本文

 泰国の一地方を支配する流派、八極轟拳。
 弱肉強食の世こそがすべてだと標榜するその流派は、多くの人々を苦しめていた。
 だが、そんな支配に対抗する開拓者たちの働きにより、解放された街がある。
 街の名は、レイアン。
 八極轟拳の支配領域の端にある小さな街で、街道が東西に走る交易の要である。
 そこは以前、ジャモンとラウジャという二人の幹部が治めて居たのだが、それを開拓者が撃破。
 現在、街は再建を進めつつあるという。
 八極轟拳に正面から喧嘩を売りたい領主は居ないようで、街の支配権は空白のまま。
 一応、市民が合議制で街の運営を進めているようだが、防衛戦力はまだまだ揃っていない。
 そこで、新たに幹部に名を連ねたとある八極轟拳の拳士が、功を成そうと行動を開始した。
 名をサイハン(才凡)、腰の後ろに2本の泰剣を装備した長身の男である。
 部下を集めて、彼は近くの街道沿いに潜伏。
 大々的に街に攻め入って、再び支配権を取り戻そうと言うわけだ。

 だが、お粗末なことにこの潜伏は思いっきりばれていた。
 レイアンの街も、いつ八極轟拳が戻ってくるか分からないので、周辺の警戒を行っていたのだ。
 その結果、サイハンの独断専行作戦が判明。急遽対処する必要が生じた。
 レイアンの街でも独自で治安維持のため、いろいろと対処はしている。
 たとえば、兵士を雇い入れたり、近くに存在する泰拳士の門派に援護を頼んだりしているのである。
 だが、今回は時間が足りない上に、街を戦場にしたくない。
 そこで、開拓者たちに依頼が出された。
 幸い、今ならば先手を打てる。
 街に再び八極轟拳が戻ってこないように、彼らの企みを砕こうではないか。

 さて、どうする?


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
朝比奈 空(ia0086
21歳・女・魔
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
霧崎 灯華(ia1054
18歳・女・陰
秋桜(ia2482
17歳・女・シ
藤丸(ib3128
10歳・男・シ
杉野 九寿重(ib3226
16歳・女・志
長谷部 円秀 (ib4529
24歳・男・泰


■リプレイ本文

●情報収集
 町は祭りの活気に沸いていた。
 祭りの本格的な開始はまだ先だが、すでに小さな催しも始まり、町は祭り一色だ。
 この祭りは、レイアンの町にとって復活を象徴するものでもあった。
 八極轟拳の支配は、単純が故に厳しかった。
 弱者を救うという配慮は一切無く、さらに八極轟拳に味方する者だけが得をする社会。
 そんな環境からやっと解放された現在。
 いまだに、八極轟拳に対する恐怖が癒えたわけではないが、それでも町は復活しつつあったのだ。
 それ故に、今回一番不味いことは、八極轟拳の襲撃が迫っていることを町で知られてしまうことだ。
 町は復興しつつあるとはいっても、それは八極轟拳がいないからこそ。
 祭りも町は八極轟拳の支配から逃れている、と大々的に知らしめるのが目的なのだ。
 だからこそ、今回は町の人間は、余計な騒ぎを引き起こさないようにと開拓者に依頼を出した。
 もし、町中で戦闘が起こったりすれば祭りは台無しになってしまうだろう。
 そのために開拓者たちはまず、それぞれの正体を隠すことから始めたようだ。

「こんなところかな? 随分と目立たなくなったと思うけど〜」
「ありがとう。これで多少は動きやすくなったな……気を引き締めていかないと」
 藤丸(ib3128)によって、変装をほどこされて、がらりと印象を変えた水鏡 絵梨乃(ia0191)。
 彼女はぽきぽきと気合い十分に指を鳴らしながら、鏡で自分の姿を確認した。
 この水鏡はすでに何度かこの八極轟拳と事を構えている。
 そのため、万が一顔が知られていたときのために変装をしたようだ。
 目立つ髪は付け毛によって黒髪に。一見すれば普通の地味な旅人といった様子になっていて。
「さて、まずは敵の待機場所を特定するところからか」
 そう水鏡が問いかければ、藤丸も頷いて
「うん、まずは町中の敵を探さないとね〜」
「藤丸はなにかあてがあるのか?」
「うん、依頼を出してきた町の人にばれてるぐらいだから、潜入もどきは詰めが甘い奴らなんだろーし」
 そういって、これからの行動について語る藤丸。
 どうやら藤丸は、シノビの聴覚をつかって敵を探すつもりのようだ。
 それに水鏡は頷いて、自分も歩き回って手下を探してみると説明して。
 こうして二人は、集合場所を離れるのだった。

 すでに他の開拓者たちもそれぞればらばらに動き出していた。
 開拓者たちは、自分たちの存在が八極轟拳にばれることを非常に強く警戒しているようだ。
 その選択は正しい。
 八極轟拳側は、まだ自分たちの企みがばれていないと思っているのだ。
 もし開拓者たちが自分たちの企みを防ごうと動き回っていると知れば、即襲撃を仕掛けてくるだろう。
 そうなってしまえば祭りは大混乱になってしまうはずだ。
 そうさせないために、開拓者はじわじわと敵への包囲網を縮めていくのだった。

「そうカ。やつらは二日おきに来るんだナ……うむ、助かったゾ店主殿」
 小さな食料品店から出てきたのは梢・飛鈴(ia0034)。何か情報を得たようだ。
 彼女が調べていたのは、敵の潜伏者たちの動きに関して。
 普段愛用している面を付けず、ふらりふらりと往来を歩きながらの情報収集であった。
 開拓者たちは、潜伏中の八極轟拳の下っ端に対する包囲網を縮めていた。
 そんな梢が戻っていくのは、町の片隅にある小さな宿だ。
 宿の入り口には、開拓者仲間への目印の外套が一枚。梢が掲げたものだ。
 そんな宿に梢が戻ってくるとそこには先客が。
「お帰りなさい。情報は手に入りましたか?」
「ああ、ある程度絞り込めたゾ。これなら、潜伏中の手下の動きは追えると思ウ」
 部屋にいたのは杉野 九寿重(ib3226)、彼女も情報集めの途中だとか。
「そちらハ?」
「ええ、祭りの様子を見てきました」
 そこで、杉野が語ったのは祭りの様子についてだった。
 もうじき祭りがさらに盛り上がるという時期で、町は熱気を増しているようで。
 その中で、杉野が気付いたのは何処かまだ固さの残る人々についてだった。
「やはり、表向きは平穏でも、裏ではいろいろあるものですね」
 すでに八極轟拳の支配はないのだが、やはり恐れがあるようで、警戒している人が多いらしい。
「やはり大切なのは一般市民の安らかな平穏ですし、有るべき姿に立ち返るお手伝いをしたいですね」
 そう言う杉野に、梢は頷いて。
 二人もまた、さらに敵の本拠を探るために再び情報を集めに行くのだった。

●騒動勃発
 すたすたと祭りで賑わう町中を進む水鏡。
 彼女は、見かけた手下の一人を追いかけていた。
 どうやらその手下は、町中に配備された清璧派の泰拳士らを警戒しているよう。
 あきらかにバレバレの様子で、稚拙に清璧派の拳士をうかがう敵の手下。
 それをこっそりと追跡する水鏡だったのだが、
「……お久しぶりですね、えっちゃん」
 そっとそんな水鏡の背中にかけられた声。それは、朝比奈 空(ia0086)のものだった。
「ああ、空か。びっくりした」
 振り返った水鏡は、ちらりと笑みを返して、朝比奈に今の状況を説明する。
「なるほど。今はまだこちらには全く気付いていないわけですね。かなりお粗末な感じもしますね」
「ああ。祭りの護衛を担当しにきた開拓者や清璧派の拳士たちばかり警戒してるみたいでね」
 そう説明する水鏡。こうして水鏡と朝比奈はこのお粗末な手下を追いかけ続けるのだが、
「……どうやら、拠点に帰らないつもりみたいですね?」
「そうみたいだな。もう襲撃も近いんだろうし、これじゃ本拠地が分からないかも……」
 そう水鏡は言えば、朝比奈は首を振って。
「でも、町のこちら側に手下の潜伏先があるということは。敵の拠点もこちら側ってことですよね」
 そういえば、丁度暗くなり始めてきた時刻。ふと二人に近づく姿が、
「……そういうわけで、わたくしは街道筋を調べて参りますね」
 現れたのは秋桜(ia2482)だった。
 夜になったので、闇に紛れて行動する予定の彼女はそういって町の外に。
 少ない情報から本拠地を探るために、先行するのだった。

 そして、そんな秋桜が街道を急いで行くその横で、城壁を見上げる女性が一人。
「たまには、攻める側になって考えるのも悪くないわね」
 襲撃に関して、考えを巡らせて霧崎 灯華(ia1054)だ。
 まだ修復途中の城壁を見上げて、霧崎は襲撃が発生したときの対抗策を練っていて。
 しかし、丁度その時、にわかにレイアンの町中が騒がしくなっていた。
 それは、祭りのざわめきとはまた違った騒ぎだ。
「……なんだか嫌な予感がするわね。大事じゃないと良いんだけど」
 そういって壁の中にとって返す霧崎。
 すると、町はにわかに混乱状態であった。

 発端は不幸な偶然であった。
 開拓者の一人、長谷部 円秀 (ib4529)は潜伏中の手下の一人を見つけると、
「八極轟拳への入門を希望してるのだが」
 そう声をかけたのである。
 これにはその手下、大いに驚いた。
 なにせ、自分たちの正体がばれているとはちっとも思って居なかったのだ。
 思わず首を捻る手下。
「な、なんで俺のことを八極轟拳の拳士だって……」
 長谷部は、このまま上手く味方に入り込めれば、潜伏場所を引き出せると思って居たのだ。
 もちろん、それが出来たらもっと事態は上手く運んだだろう。
 だが、そこで問題となったのはこの会話を聞いていた人間が他にもいたということだ。
 それは、町の人たちだった。
 偶然、八極轟拳への入門だとか、自分がその拳士だとかという話が聞こえてきたのだ。
 それはすぐさま噂話となって町中に広まってしまった。
 八極轟拳の人間がこの町にいるらしい。
 それが分かっただけでも、状況は一変してしまった。
 
 本当にそうなのか知ろうとする人。町から早くも逃げ出そうとする人。
 状況が分からずただ右往左往する人。混乱を鎮めようと奔走する人。
 それらがごちゃ混ぜとなって町は大混乱へと陥った。

●大混乱の中で
 長谷部は、手下の一人について、彼らの潜伏場所まで連れて行かれようとしていた。
 だが、その最中騒がしくなる町中。
 八極轟拳の手下たちは、あつまってなにが起きているのか、相談を始めた。
 すこし離れて取り残される長谷部、そんな長谷部にすっと近づいて紙切れをこっそり手渡す人物がいた。
 開拓者の仲間の藤丸だ。
 小さな紙切れには、(八極轟拳のことが町に広まって混乱が起きている)とあった。
 このままでは、事態がどう転ぶか分からない。
 そうおもって長谷部が身構えた時、どうやら手下たちも行動を決めたようだ。
「悪いな新入り。お前は信用ならないし、入門は無しだ」
 そういって手下たちが取り出したのは、狼煙銃だった。
 はっと気付いたときには遅かった。混乱する町に上がる赤い照明弾。
 ますます混乱が拡大する中で、長谷部は武器を手に近寄ってくる手下らに対して、構えを取って。
「やっぱりお前は開拓者か!」
 そういって襲いかかってくる手下ら3人。それを長谷部は迎え撃つのだった。

 町は祭りの盛り上がりも忘れて、大混乱が起きていた。
 それを鎮めようと奔走するのは、清璧派の拳士や町中の警備を担当していた開拓者たちだ。
 その開拓者たちにすっと藤丸は近づいて紙を手渡した。
 そこに、八極轟拳の本隊による襲撃が迫っているが、その対処はこちらでする、とあった。
 混乱を鎮めようと奔走している開拓者や清璧派の拳士たちには余裕はない。
 襲撃への対策は、今まで潜伏していた開拓者たちの働きにゆだねられたのだった。

 照明弾の赤色は即座に襲撃を開始するべし、の意。
 街道に別れて潜んでいたサイハンとその部下たちは、狼煙銃を見て即座に行動を開始した。
 なにかが町で起きたために、襲撃が早まったのだろう。
 だが、彼らは暴力によってのみ価値を見いだす八極轟拳の拳士たちだ。
 暴力を振るう機会がやってきたことに、愉悦を感じながら町へと殺到するのだった。
 だが其れを待ち受ける開拓者たちがいた。
「皆さん、サイハンとその部下がもうじきこちらから来ます。迎え撃ちましょう」
 先行して彼らの本拠を探していた秋桜。
 彼女はサイハンらを発見し、先んじてレイアンの壁外、街道沿いに集合した開拓者と合流した。
 長谷部と藤丸以外の開拓者は、町が混乱に陥ると同時に町のそとへ集合していた。
 すべては襲撃へ対抗するため。
 先手を取って撃退することは出来なかったが、迎え撃つのには間に合ったようだ。
「町に入らせず、ここで一気にカタつけられるといいんだけどね」
 符を手に笑う霧崎は、そういって術を準備すれば、丁度泰拳士の一団がこちらへと迫ってくるのが見えた。
 先頭には、双剣を手にした泰拳士、サイハンの姿が。
 そのまま突っ込んでくるサイハンたちとそれを向かえうつ開拓者。
 一気に激戦が始まるのだった。

 20名近くの泰拳士は一気に突破を狙って突っ込んできた。
 だが、その中の一人の足下で術が発動。朝比奈のフロストマインだ。
「油断しすぎ……ですね。こんな稚拙な手に掛かるとは」
「嘗めるな女っ! 術者如きが……」
「……一撃の重さならひけを取るつもりはないですよ」
 そういってアイシスケイラスを放つ朝比奈。その一撃が、さらに一発で拳士を倒す。
 その強烈な攻撃に思わず八極轟拳の拳士たちの足が止まった。
 そこに突貫する小柄な影。杉野が刀を手に、一気に距離を詰める。
 小柄な少女とみても侮らず必殺の蹴りを放つ拳士、だがそれを杉野は防盾術で凌ぐ。
 彼女の剣技の冴えは本物だ。そのまま、紅蓮紅葉の一撃を放つ杉野。
 他の開拓者たちも次々に攻めに転じていた。
 敵を逃がさないようにと、煙遁を展開したのは秋桜だ。そこに手裏剣を放ってまずは牽制。
 視界を奪われて混乱する拳士たち。
 たたみかけたのは霧崎だ。呪声の攻撃が容赦なく拳士たちを悶絶させていく。
 開拓者たちの戦力は盤石だった。このままでは負ける! そう拳士たちは覚悟し、決死の反撃に出た。
 だが、それを迎え撃つ二人の拳士が。
 腕利きとおぼしき槍使いらの攻撃をひらひらと酔拳で躱すのは水鏡。
 酔拳と転反攻によって、二人の槍使い相手に互角以上の大立ち回り。
 そして、ついに攻勢に転じたサイハンと激突したのは梢だった。
「拳士の弱点は拳士がよくしるって奴ダ」
 そう言って梢が狙ったのは、サイハンの足だった。
 だが、サイハンはなんと其れを足で受け止める。
 双剣使いに見えたサイハン。じつはその剣は囮なのだ。
 証拠に彼の無骨な脚甲は使い込まれている。サイハンは蹴り技使いだったのだ。
 だが、対する梢も凄腕の拳士。
 真っ向から衝突する上段蹴り。空中で交差し、そのまま絶破昇竜脚の応酬だ。
 腕前はほぼ互角。梢は乾坤一擲のの旋蹴落を脳天に放つ。
 だがそれをサイハンがかろうじて受け止める。
「……ちぃ! 奴らを止めろ!」
 そこでサイハンはなんと逃げ出した。梢は追いかけるが手下がそれを止める。
 そのままサイハンは町中に逃げ込んでしまうのだった。
 追うことも出来ずに開拓者たちは手下らと激突。
 そこにさらにくわわったのは、開拓者の藤丸と長谷部だった。
 二人は町中の手下らを撃破してきたようだ。
 奔刃術で接近し、そのまま風神で手下をなぎ倒した藤丸。
 彼らの協力もあって、開拓者たちは手下らを全員何とか撃破し、急いでサイハンを追うのだった。

 町中に逃げ込んだサイハン。
 武器や、目立つ装備すら投げ捨て隠れようとしていた。
 だが、その眼前に立ちはだかる男の姿。
「!? ……ああ、お前は幹部会で見た……丁度良い、助けてくれ!」
 そうサイハンが近寄ったのだが……。

 慌てて町中に戻りサイハンを探す開拓者たち。
 町中の混乱は、清璧派の拳士や開拓者たちの尽力によって落ち着きつつあった。
 ならば後はサイハンだけ。
 町中を探す開拓者たち、やっとサイハンが見つかった。……物言わぬ骸として。
 こうして、いくつかの謎を残したまま、依頼は終わった。
 幸いにもサイハンの襲撃は無事防がれた。
 だが、これからますます開拓者と八極轟拳は韻念を深めて行くだろう。