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■オープニング本文 何事にも、始まりがある。 だから、開拓者としての歩みにも、もちろん第一歩がある。 その日、神楽の町の開拓者ギルドを尋ねたのは、まだわずかに幼さの残る少年だった。 名を、暁丸(アカツキマル)と言うこの少年、新米開拓者であるという。 歳の頃は14。子供と言うには大きいが、青年と言うにはまだ若い。 粗末な装備、腰には安物の刀、しかし決意を瞳に、胸を張って受付にやってくると、 「依頼を受けに来た!」 そう、受付の青年に告げるのであった。 まず最初に、少年の生い立ちについて少々触れておこう。 彼は、武天のとある場所にある傭兵砦にて育てられた孤児である。 幼い頃、たった六歳の彼は、弟の黄昏丸(タソガレマル)を抱きかかえたところを保護された。 それ以来、孤児を引き取り育てているその砦にて、弟と共々育てられたのだ。 2人とも志体の持ち主であったため、小さい頃から訓練し、このたび兄は晴れて開拓者に。 そういうわけで、こうして初依頼となったわけである。 さて、弟も一緒に今回は神楽の町に着いてきているようだが、まだ弟は8歳。 とりあえず、留守番をさせつつ、こうして初依頼である。 「それじゃ、こんなところでどうかな? 最初の依頼なら、そこまで危険なのは避けて‥‥」 「む、俺は危険なのでも、大丈夫だぞ?」 とは強がりつつも、勧められた依頼に目を通す暁丸。 内容は、とある山村のそばにて、大蟷螂のアヤカシを退治せよというものだ。 数は少なく、まだそこまでの被害も出ていないので、気をつければそこまでの危険は無いはず。 「‥‥うむ、相手にとって不足は無い‥‥ぞ」 少々緊張気味だが、こうして暁丸の初依頼はきまったのである。 そこでもちろん、依頼には他にも同行する開拓者が必要だ。 ということで、受付の青年は、壁にさらなる開拓者の参加を募集した。 ただ、そこには一筆を添えて。 多少楽な依頼であると思われるので、依頼への参加経験が少ない開拓者を求む、と。 さて、どうする? |
■参加者一覧
静雪 蒼(ia0219)
13歳・女・巫
風雲 梓(ia0668)
21歳・女・志
葛切 カズラ(ia0725)
26歳・女・陰
錐丸(ia2150)
21歳・男・志
侭廼(ia3033)
21歳・男・サ
琴月・志乃(ia3253)
29歳・男・サ
幻斗(ia3320)
16歳・男・志
海藤 篤(ia3561)
19歳・男・陰 |
■リプレイ本文 ●出発の朝 「じゃあな、良い子にしてるんだぞ、黄昏丸」 「うう‥‥行ってらっしゃい、兄者‥‥」 そう新米開拓者・暁丸は弟に告げて。 弟の黄昏丸はまだ8歳、見送る姿もどこかしょんぼりとしているようで。 彼も弟も、武天のとある町の近くにある傭兵砦の出身である。 その名の通り、傭兵たちが暮らす場所で、素質ある若者を育てる場所でもあった。 いうなれば、その砦が住む場所を持たない傭兵たちにとっての故郷であると言えよう。 そこでは引退した傭兵達を長老とし、今もなお数多くの傭兵を抱える小さな村のような場所で。 彼ら兄弟は、幼い頃に孤児となり、志体を持っていたがゆえに、それ以来その傭兵砦で育てられたのだ。 ゆえに、2人とも幼い頃から、傭兵としての訓練を積んでいるのである。 そしてこの度、兄の暁丸は長老達に勧められたのもあり、開拓者として独り立ちしてみようと考えたのだが。 そこで、問題となったのが弟の黄昏丸である。 しっかりと訓練を積んでいるために、生き抜く術はすで十分学んでいる弟だが、如何せんまだ8歳だ。 体を作り、技をさらに高めるために、もう数年必要だと傭兵砦の長老達も考えているようで。 さすがに一緒に仕事に行くことは出来ず、ただし仕方がないので神楽の町までは一緒に着いてきたようで。 そして、いよいよ、兄はこれから初仕事。 一緒に行く、とだだをこねていた弟も、開拓者たちと共に過ごしつつ、いろいろと教えてもらうことにしたようで。 ほっとひと安心しつつ、初めての依頼への緊張感を改めて感じる暁丸なのであった。 さて、協力者として集った8名の開拓者。 緊張の面持ちの暁丸の前に集まれば、まずは挨拶だ。 「暁丸はん、みなはん、宜しゅうおたの申しますぇ〜。うちも初めての冒険よって一緒にがんばりまひょ♪」 ぺこんとお辞儀しつつ挨拶すれば、ぴょこぴょこ揺れる二つにくくった長い青の髪。 静雪 蒼(ia0219)がそう挨拶して、じっと下から見上げれば、暁丸もよろしくと返して。 これくらいから開拓者をしている子もいるんだなぁとどこか微笑ましげである。 そして、ばしばしと肩を叩かれたので振り向けば。 「まー、俺らも初依頼とかの奴らの方が多いしな。肩肘張らずやろーぜ」 酒の入ったひょうたん片手に背の高い男の姿、慌てて視線を上にやればにやりと返す侭廼(ia3033)。 他にも頼りがいのありそうな面々の姿を見て、暁丸が思い出すのは傭兵砦の兄貴分たちで。 少し緊張が解けるように思える暁丸であった。 さて、一行は目的地に向かって出発するのだが。 依頼に向かうとなれば、やはり色々と考えてしまう暁丸であった。 ギルドから持ってきた資料なんかを見ながら、大蟷螂相手に自分は大丈夫だろうかと難しい顔をしていれば。 「誰でも皆初めはそんなもんよ。ま、最初から緊張しててもしゃあないさ。締めるとこは締めて気楽にいこか」 琴月・志乃(ia3253)にはそういわれ。 「あたしも初陣に近い状態だから、まぁ、似たようなものかね」 風雲 梓(ia0668)も、そういって大丈夫だと、落ち着いた様子である。 開拓者、と一言に言っても来歴は様々なのである。 ある程度の年齢に達してから、開拓者の道を歩む人もいれば、幼い頃から開拓者になるものもいて。 開拓者としては初心者でも、それぞれの落ち着きにも差が出るのもあたりまえ。 ということで、妙に落ち着いた周りの雰囲気のなか、一行は村へと進むのだった。 道中、手渡されたのは紐と石を繋いだもので。 「これは‥‥いわゆる、紐分銅だな」 「お、暁丸はん、使い方わかるんどすか、なら丁度や。暁丸はんはこれを後ろから投げてもらえへんやろか?」 蒼がそういえば、 「おう、人数を考えれば、前衛は十分居るからな、暁丸は弓とかで援護を頼みたいところだな」 と、侭廼も。 「ということは俺は遊撃、前衛の支援と後衛の守りというところか?」 「そうや。状況よぉ見て穴んなるとこに行っておくれやす。身ぃ軽ぅおすから頼むんよ」 蒼がはっきりとそう言うので、なるほどと思わず頷く暁丸であったり。 初心者が多いといえども、ちゃんと策を立て、それぞれの役割分担をしておく余裕があるようで。 これにはもちろん、暁丸も了解したと、さらにいくつか紐分銅を新しく作りつつ。 「傭兵砦では、こういう罠の使い方も練習したからな。でも、実はこういうのは弟の方が得意なんだ」 「へぇ、弟くんは小さいのにしっかりしてんだな」 といいつつ、酒をあおる侭廼であったり。と、そんなこんなで、一行は村へとたどり着くのであった。 ●村にて 村に着けば、早速仕事、まったく開拓者も楽じゃない。 「村の周りでアヤカシが出ると聞きましたが、具体的にはどの辺りなのでしょうか?」 最初にそう、村のまとめ役に切り出したのは海藤 篤(ia3561)だ。 穏やかで礼儀正しくそう聞かれれば、村の人達も進んで協力したくなるもので。 目撃された場所と、地形、どれくらいの数が居たのかというのもすぐに判明するのだった。 「‥‥こんなところかしらね? 村の西側の森の中、数は最低でも2匹、と」 全く、どれだけ飢えてんのよ、私‥‥と1人つぶやくのは葛切 カズラ(ia0725)で。 彼女は、依頼経験も豊富なようで、今回は手伝い中心と割り切っているよう。 皆で手分けして、依頼の村から集まった情報をまとめ、とりあえず行動は決まったようである。 「さて、それではそろそろ行きますか?」 隊列の前衛に立つ幻斗(ia3320)がそういえば皆も頷き、いよいよ一行は森へと踏み込むのであった。 ●森での行動 「‥‥こんなところかな? 虫相手にどれだけ罠が聞くかわからないが‥‥」 「獣相手なら、経験はあるんだけどな」 梓がつぶやけば、隣で同じく罠の準備をしていた暁丸も頷きつつ。 一行は森の中でとりあえず罠をところどころに仕掛けていた。 周囲を前衛が警戒する中、大蟷螂が目撃された辺りを中心に罠を張る一行。 暁丸は、背中に弓を背負って、肩にはお手製の分銅付き投げ縄をかけて。 さらには村で少量ながら手に入った鳥もちの袋も腰にと、完全装備である。 開拓者一行は、固まって警戒を強めつつ、時刻はすでに昼過ぎ。 森に入ってから数刻が経過していた。 森の木々のつくる木陰で、直接日が当たらないとはいえ、夏の空気はじっとりと暑く。 「しかし、こう暑いとかなわんなぁ‥‥」 ふぅと溜息をつく志乃、さらに一行は森の奧へと進もうとするのだったが、 「‥‥待った。なんか居るな‥‥みんな、警戒しとけよ」 すたすたと皆の先頭を進んでいた前衛役の錐丸(ia2150)が、ぴたりと脚を止めて。 周囲に目を配ってから、虎の子の心眼を使ってさらに周囲を警戒。 すると、錐丸はすこし離れた樹の太い枝の上に気配を感じて。 「ちっ、厄介なことに、枝の上だ!」 錐丸が刀を抜いてそっちの方向を指せば、向こうもこちらに気づいたようで。 きりりと梓が弓を引き絞り、射ようとしたその瞬間。 「飛びやがるのか! 厄介だな」 にやりとしつつ侭廼は前に出て、同じく守りのために前に出る前衛たち。 そこに枝の上から木々の間を滑空してきた大蟷螂だったが。 「そうはさせませんよ」 冷静な声は篤、放った符は呪縛と化して、大蟷螂の羽へと絡みつき、途中で失速した蟷螂はどさっと地面に落ちて。 「なるほど、これが開拓者の戦い方か‥‥」 声と共に飛ぶ、手製の分銅投げ縄。暁丸は、地面に落ちた大蟷螂の片方の鎌に上手く分銅を絡めて。 どうやら気に入らないらしい大蟷螂、がじがじと絡みついた縄に噛みついて切ろうとしているのだが。 その隙を逃す開拓者達ではない。 カズラの式による霊魂砲の一撃が直撃すれば、さらにたたみかける前衛。 侭廼がまずは一刀、さすがに縄を切るのを諦めて、片方の鎌を振り上げる大蟷螂だが、そこに錐丸が援護。 振り上げた鎌の一撃をなんと蹴りの一撃で横に払いつつ、刀で一撃。 「よっしゃ、これでとどめや!」 志乃がその膂力を生かした一撃を体にたたきつければ、強固な虫の外皮といえどもさすがに保たず倒れるのだった。 しかし、まだ戦いは終わらない。 「後ろから、もう一匹来ましたよ!」 油断せずに心眼を使い、もう一匹の接近に気づいたのは幻斗だ。 気づかなければ、後衛の術師たちが襲われるところだったのだが、間に合ったようで。 さらに、暁丸はあることに気づく。 「大丈夫、後ろから来た奴の足下にはさっき仕掛けた罠がある」 その言葉の通り、子供の背丈以上ある大蟷螂が進もうとすれば、べったりと鳥もちを塗った縄がべたりと脚に張り付き。 「好機だな、暁丸殿も弓で援護を」 梓が言えば、暁丸も一本、分銅投げ縄を投げてから弓を構えて、鳥もちでじたばたしている大蟷螂に矢で足止め。 所々に矢を受けて、弱った大蟷螂に、最後は志乃の地断撃が直撃、2匹目も倒されるのだった。 「‥‥これでもう全部か?」 動くものがいなくなった周囲の様子をうかがいつつ、つぶやく暁丸。 しかし、全員まだ警戒を続けていた。 あくまで、最低二匹‥‥そしてその予想はあたった。 「もう一匹、上だ!」 心眼を使って警戒をした梓が、気づいて矢を向ければ、最初の一匹と同じく飛びかかってくる大蟷螂。 とっさにはなった矢は惜しくも外れ、まっすぐその大蟷螂は一行に突っ込んできそうであった。 その光景を見据える暁丸、危険な一瞬だが、その心におびえは無かった。 それぞれ違う生い立ちや考え方の開拓者であるが、それぞれ背中を預けられる相手であることだけは信じられて。 だからこそ、危険な一瞬にも目をそらさず、手にした矢を向けて放ったのだった。 矢はまっすぐ、大蟷螂の細い胴体に突き立った。 もちろん、それだけでは大蟷螂は止まらないが。 「てめぇの相手はこっちだぜ!」 とっさの咆哮を放つ侭廼、大蟷螂は思わず狙いを侭廼に向けてしまい。 「‥‥誰かを守るために己を犠牲にすんなよ」 ひやりとした一瞬を感じたからか、そう告げながら前衛に躍り出る錐丸。 素早い踏み込みで、侭廼に向けられた大蟷螂の鎌を横合いから一撃。 瘴気から生じた常の生物とは似て非なるアヤカシだが、生物の形をしているからには弱点も同じで。 関節を強かに切りつけられて攻撃は中断、ぐらりと大蟷螂は体勢を崩す。 カズラの毒蟲、梓の弓、さらには蒼まで暁丸に教えてもらったとおりに分銅縄を投げつけて。 「‥‥逃がしません」 逃げようとした大蟷螂を束縛するのは篤の呪縛符。 そして、動けなくなった大蟷螂の眉間に突き立つ暁丸の矢がとどめとなったようで。 どさっと倒れるアヤカシは、ゆっくりと瘴気へと化して地へと消えていくのだった。 ●終わり良し 「こんな怪我、酒のんで寝てれば直るぜ?」 「あかんて、ちゃんと治しておかんと‥‥天地の遠き初めよ世間は常なきものと語り継ぎ‥‥」 侭廼が受けた軽傷を蒼が癒したりしつつ、一行は最後の警戒に当たっていた。 一応、三体の大蟷螂を倒してからも、周囲を警戒して森を探索。 何度か心眼を使って、調査したものの、どうやらもうアヤカシはいないようであった。 そのことを村に告げて、一行は神楽の町へと帰路について。 無事依頼を解決しての帰路となれば足取りも軽く、篤がニコニコと暁丸に話しかける。 「暁丸さん、依頼成功してよかったですね」 「ああ、最後の一匹はさすがに焦ったけど‥‥やっぱり協力して戦うと強いんだな」 傭兵砦でも、同じく協力の重要性は教わっていても、いざ実地となると足並みもそろわないことが多いのだが。 どうやら今回は、皆上手く協力して事に当たれたからこそ、無事依頼が成功したようで。 「‥‥帰ったら、打ち上げでもしますか?」 幻斗は、自身の友人でもある錐丸や志乃にもどうしましょうと聞きながら、そう提案すれば。 「そうだな。初依頼終了の酒盛りたぁ良い感じだ。暁丸の弟も呼んで盛大にやるか?」 と、侭廼も言って。 「初陣祝いの宴会か。それなら私は、菓子や料理を作ろうか」 「それなら拙者も手伝いますよ」 梓が言えば、幻斗もどうやら菓子作りが好きだと判明したり。 そんなことを言いながら、神楽の町に戻ってきた一行。 暁丸は、みんなと宴会をしようと弟の黄昏丸が待っている家まで戻ってくれば。 どうやら帰ってきたのに気づいて、駆け寄ってくる黄昏丸に向かって、 「‥‥ただいま。良い子にしてたか?」 初依頼が無事終わり、ほっと一安心。 まだ、少しの時間はかかるだろうけど、いつか黄昏丸とも今回のように、背中を任せて依頼を受けたいな。 そんなことを考えながら、暁丸は泣き笑いの弟の頭をぐしゃぐしゃと撫でるのであった。 |