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■オープニング本文 天儀の武天国、その山中に小さな庵が一つ。 そこには、若いながらも偏屈な一人の彫刻家が住んでいた。 周囲はあまり人の踏み込まない山、それも禿げ山だ。 何故彼がこんな所に住んでいるのかというと、その山では良い石が取れるのだという。 小さいものから大きな者までざまざまな石の飾りや石像を作るその男。 名を、藤多文吾郎(ふじた ぶんごろう)というその男は、じつはかつてサムライであった。 小さな領主に使える普通のサムライだったのだが、アヤカシとの戦いで足を負傷。 それ以来、片足を引きずるようになってしまいそのためサムライは引退したのだという。 だが、彼には彫刻の才能があった。 そのため、故郷からほど近いその場所でほそぼそと彫刻家業を続けているのである。 引退してから十年近く経つが、彼はかつてそれなりの腕のサムライだった。 故に、足は不自由でもアヤカシは怖くない。 それにこのあたりは人や動物が余り居ないからか、アヤカシの話自体もとんと聞かない。 そんな環境で、ただ静かに過ごすその彫刻家。彼はその日も、のみと木槌を握って石を掘っていた。 そこに一人の客が。にたにたと気味の悪い笑顔を浮べる黒い肌の男だった。 客は、彼の彫刻を眺めて、ただ一言。 「……いいね。これは良い彫刻だ。実に良い……是非ともボクのためにも作品を作って欲しいな……」 それだけ言い残して彼は去った。 後に残されたのは、脳裏に残る薄気味の悪い笑みと、彼の赤く輝く瞳の印象だけ……。 ……数日後、頼んでいた石像を受け取りに来た商人は驚いた。 偏屈ながら、頼まれた仕事はきっちりこなす几帳面な男である藤多の庵が荒れに荒れていた。 そこかしこに乱雑にばらまかれた書き付け。石像の完成予想図や、言葉の羅列がそこかしこに。 そして砕かれた石像、どれもこれもが乱暴に粉砕されており、周囲に散らばっていた。 その作業場の中央には一心不乱で石を掘る藤多。 その姿は数日前に商人が見たものとは一変していた。 頬がこけ、その瞳は炯々と輝き、まるで取り憑かれたように石を掘り続ける藤多。 みれば、指や腕は連日の激務のためか血すらにじんでいるようだ。 だが、彼は掘り続けていた。 見るもおぞましい姿の像を。もつれ絡まる冒涜的な触手の群れや狂気に満ちた人面の群れ。 崩れ溶けた生物、歪んだ人間の肢体、正体不明の化物の集合体、そんなおぞましい像がそこには合った。 「ふ、藤多さん! な……何を作っているんですか……」 あまりの不気味さに目を背けた商人がそうこえをかけると、藤多は振り向いて。 「……ああ、いつもの……傑作が出来そうですよ。これは、本当の傑作です……」 そうとだけつぶやくと、また彼は像に向き合い作業を続けるのだった。 不気味に思った商人はすぐ山を下り、次の日再び庵に医者や他数人の人間と共に向かった。 するとそこに藤多の姿は無かった。 書き置きが一つ。 『この像では小さすぎる。あれはもっと素晴らしく偉大で巨大だった』 彼は山中に姿を消してしまったのだ。残されたのは、あの狂気の像が一つだけ。 こうして依頼が出された。目標は彫刻家の藤多を探して救い出すこと。 さて、どうする? 「ああ、良い出来です。もっと魂をこめて造るんですよ。魂の叫びと狂気こそがなによりも素晴らしい……」 昼夜を問わず、ただひたすらに山中の崖に向かってのみを振るう藤多とそれを見つめる黒い男。 藤多は崖の石壁に巨大ななにかを刻みつけていた。 それは大勢の狂気に問われた人間が群れをなして巨大な人の姿を造っているおぞましい像であった。 「……傑作作りを邪魔させませんよ。丁度良い、貴方が相手をしてあげなさい」 陶然と像を眺めていた黒い男は、そう言ってだれかに指示を出す。 すると、のっそりと木々の間から体を起こす巨大な影。岩で造られた巨大な人形の姿が。 岩人形はのしのしと山を徘徊しだし、あとにはのみが石を打つ音だけが響くのだった。 |
■参加者一覧
百舌鳥(ia0429)
26歳・男・サ
叢雲 怜(ib5488)
10歳・男・砲
駆魔 仁兵衛(ib6293)
14歳・男・サ
破軍(ib8103)
19歳・男・サ
弥十花緑(ib9750)
18歳・男・武 |
■リプレイ本文 ●恐ろしい石像 「しっかし、不気味な石像だな。昔の像は普通なのにな」 ひょろりとした青年が工房の中央に鎮座している石像を調べていた。 斜めに咥えた煙管をゆらゆらさせつつ、こんこんと石像を叩いてみたり、細工の様子を調べてみたり。 百舌鳥(ia0429)がそんな風に石像を調べていれば、それを窺う少女がひとり。 「ん? あんたもこれを調べるかい?」 「うーん、こんな石像、アヤカシになって動きそうで嫌なのだぜ」 きっぱりと少女、もとい、少女と見まごう少年は首を振って応える。 「たしかになぁ。しかし、こんな奇妙なアヤカシは聞いたこともないけどな」 「……アヤカシってより悪夢に出てきそうなのだぜ」 叢雲 怜(ib5488)はそういって、自分は書き置きを調べてくると別の部屋へ。 残された開拓者たちも、不気味そうにその石像を眺めるのであった。 集まった開拓者は五名。彼らはまず彫刻家の庵の調査を始めていた。 案内したのは彫刻家の知り合いである商人だ。 「純な向上心やったら、そうも口挟まんのやけども」 じっと石像を眺めてから、ぽつりと弥十花緑(ib9750)はつぶやいた。 まだ余り見かけない武僧の彼は、床に落ちた一枚の書き付けを拾って、裏返してみて。 すると其処にはまるで悪夢から登場したような異形が。 うごめく塊に、明らかに人の顔が埋まり込んだもの。 崩れかけた人の叫び顔、悲鳴さえ聞こえそうな表情の数々の試作。 「……それに、無有羅の名前まで並んでは穏やかやないなぁ……ああ、恐ろし」 書き付けを畳み、ため息をつく弥十。そんな彼の言葉に顔を上げたのは駆魔 仁兵衛(ib6293)だった。 「……ふん、冥越のアヤカシは全部俺の仇だ。そんな奴にこれ以上、誰かをどうにかさせてたまるか」 同じように種々雑多な書き付けや手記を眺めていた駆魔はそう吐き捨てた。 まだ若いサムライの駆魔は冥越に縁があるらしい。 そのため、冥越を滅ぼした冥越八禍衆のうち一体である無有羅には怒りを感じているようで。 「……たしかに、駆魔さんの言うとおりやね。よっしゃ、俺もそっちを手伝おか」 「お、だったらその棚を頼むを。昔の書き付けに石切り場の地図とかあるかなって思ってさ」 「なるほど。ほんなら、地図や場所を示したようなものを重点的にさがしましょか」 2人は雑多な書き付けの山を一枚一枚確認していくのだった。 そしてどたばたと庵の中を家捜ししているところに、ふらりと戻ってきたのは破軍(ib8103)だ。 彼は、同業者に当たってみるということで、商人の紹介を受けてすこし出かけていたようだ。 だが、その甲斐あって収穫があったようで。 「……同業者によると、この山の中で良質な石が出る場所は限られているらしい」 破軍はそう切り出した。 聞けば、広いこの地区の山々の中で、岩を切り出す場所はある程度限られているのだという。 それに、それぞれの彫刻家たちは、自分の好む岩質の素材が産出する場所を探すいう話で。 「あ! それならさっきいくつか見つけたぞ。山の名前や崖の様子の書き付け!」 駆魔がそういって、どたばたと一枚の書き付けを持ってくる。 一同、そろってのぞき込む。それ駆魔と弥十が書き付けの山から探し出したものだった。 そこには、彫刻家が見つけた山中のとある場所に関する書き付けだ。 山のどの場所にその崖があるという覚え書きなのだが、問題なのはその山の場所だ。 「……でも、これだけじゃ、肝心なその山の場所がわからないな」 首をかしげる百舌鳥。 たしかに彼の言うとおり、山の名前はあるのだが、それがどの場所にあるかが分からない。 そもそも、その山の名前自体が、この近辺で有名なのか。 はたまた彫刻家が勝手に付けたのかすらわからないのだが。 「大丈夫なの。さっき、別の部屋調べてたら地図が出てきたの」 叢雲が取り出したのは、古びた地図。その地図にはところどころ点や名前が書き込んであって。 「ほら、ここにその山の名前がある」 叢雲が指さす先には、確かに書き付けにある山の名が。 これでどうやら目的地は判明したようだ。 「……じゃ、ぼちぼち行くとしましょうかね」 飄々と告げて、腰を上げる百舌鳥。 彼に続いて、他の開拓者たちも装備を調えて動き出すのだった。 ●それぞれの役割 「像を作りたいんなら石のある場所、それも一番大きい奴……か」 つぶやく弥十、開拓者たち五名は山道を進んでいた。 地図によれば、目的地まで行くにはあまりかからないだろうとのことだが。 「……ま、それのおかげで場所がわかったんやけどね」 「うう、あんな夢に出そうな石像の大きな奴なんて、想像したくもないのだぜ」 辟易とした様子の叢雲に、思わず弥十や駆魔が笑いつつ、ふと弥十が言う。 「……やっぱり、書置きの『あれ』て、朱書きの……無有羅のことなんやろか」 弥十が、先ほどの駆魔との話でも出た無有羅の話を出せば、 「ああ、たぶんそうだろう。以前……別の依頼の状況と今回は似ている」 応えたのは寡黙に殿をつとめていた破軍だった。 「おや。破軍さんは無有羅に会ったことがあるんで?」 「いや、会ったことはないが、奴に狂乱状態にさせられた開拓者を助けたことがある」 百舌鳥の問いに、答える破軍。 彼が言うには、その時の狂乱状態の雰囲気と今回彫刻家が残したものが似ているという。 そんな話をしながら、進んでいた一同。 「……ちょっと待って」 一同を止めたのは、叢雲だった。その言葉にぴたりと開拓者たちは足を止めて姿勢を低くした。 開拓者たちは志体のため、優れた近くや身体能力を備えている。 その中でも、砲術士はその狙撃のためにも優れた視力を磨いていると言って良いだろう。 その叢雲の言葉だ。たとえ見た目は幼くても、優れた腕前を誇る彼の言葉に仲間は信じたのである。 「……なにか、見つけましたか?」 小さくささやく弥十に頷く叢雲。 彼が指さす方角に一同が目をこらせば、そこには木々の間をうろうろと動く大きな岩の人形が。 「……どうする。やり過ごすか?」 「いや、近すぎるな。目的の山はもうすぐ近くだ。捜索中や救出中に邪魔されかねない」 煙管を咥えたままの百舌鳥が問えば、地図を手にした破軍は首を振る。 すると、そんな状況で前に出たのは叢雲と弥十の2人だった。 「ほなら、俺は石人形のお相手を務めさせて貰います」 「うん、2人で捜索の間引き離してみるの。大丈夫、周囲の地形は頭に入ってるから」 弥十は大薙刀を手に進み出れば、叢雲も一目で業物と分かるマスケットを手に進み出る。 百舌鳥、駆魔、そして破軍の三名は、任せたとだけ言い置いて、道を急いで。 そして、ようやく彼ら開拓者に気付いたのか、ぐるりとこちらを向いて歩み寄ってくる岩人形だが。 「……お人形さん、どこ行く気や」 武僧の技、一喝で弥十が足止めをすれば、それ以上近づけなくなる岩人形。 その隙に、叢雲は構えたマスケットで射撃。強烈な弾丸が岩人形の岩肌を抉るが、 「……うーん、さすがに硬いや。でもそれなら三式強弾撃をお見舞いするのだぜ……時間稼ぎ頼める?」 「はいな。一喝もうまく入りましたし、頑張ってみましょ」 2人は連携して、岩人形を引きつけ時間を稼ぐのだった。 そして、道を進む三名の開拓者たち。目的地はもうすぐだ。 「……なんだあれ……」 思わずつぶやく駆魔。その崖には、人の身の丈の二倍ほどの大きさの巨大な像が彫られていた。 ●像の前で その像は、まるで何かを叫ぶかのように両手をあげた異形の人型をしていた。 顔はない。頭はまるで天に向かって逆立つ焔のようだ。 不定形で、揺らめく何かを象っている。その中に、はっきりと彫られているのは人の顔だ。 頭部だけではない、全身に人の顔が彫られている。 その顔もまた不気味だ。あるものは笑い、あるものは泣き、そして叫んでいる。 そして、人型もそれ自体がまた不気味だった。すべての縮尺が狂っているかのようなその姿。 ねじれ、歪みながらも、確かに人としての形をしているところがますます冒涜的で……。 像を目にして、あっけにとられていた開拓者ははっと我に返った。 崖の前に、だれかが倒れている。 「……あれだ!」 駆けだした駆魔に、百舌鳥と破軍も続けば、そこに倒れていたのはやはり目標の彫刻家であった。 周囲を警戒する百舌鳥。 手には発見を知らせるために商人から貰った狼煙銃があるが、まだ使えない。 彫刻家がすぐに動かせるかどうか、まだ分からないから。そして周囲になにがいるかもしれない。 破軍は急いで彫刻家の応急手当を始めていた。 どうやら、彼は崖に像を彫るための簡素な足場から落ちたようだ。 幸いそれほど高さは無かったので、大事には至っていないが彫刻家の文吾郎は憔悴しきっていた。 「……これはひどいな」 手当を急ぐ破軍、それもそのはず。 文吾郎の両手は傷だらけなうえに、はっきりと分かるほど衰弱状態なのだ。 おそらく飲まず食わずでずっと作業していたのだろう。 岩肌に削られた像の所々にも血がこびりつき、ますます不気味さを増している。 だが、彼はまだ手にした鑿と鎚を手放していなかった。 手当をしようとして、それを離させようと破軍が試みる。 すると、彫刻家の文吾郎が目を開けてつぶやいた。 「………じゃま、を……しないでくれ……」 「そんなこと言ってると、死んじまうぞ!」 思わず声を荒げた駆魔に、文吾郎は薄く笑みを浮べると、 「ふ……ふふ……あの続きが彫れないなら、もう死んでも構わ……」 「死ぬなって、悲しくなるだろ」 駆魔はそうきっぱりと言うと、無理矢理に竹の水筒で甘酒を飲ませながら話しかける。 「なりふり構わず創りたいものがあるなら、アヤカシなんかじゃなくて自分の貯めに創りなよ」 もう暴れる力も無いのか、甘酒を口にしつつ文吾郎は駆魔に視線を向けて、 「それが創作者だって、誰ぞも言ってたぜ……自分の理想のためってなら、止めはしないけどさ」 駆魔はそういって像を見上げて、心底嫌そうな顔をして、 「……これはそんな理想とは違うだろ」 そう言い切った駆魔。そんな言葉になにか迷う様子を見せる文吾郎。 どうやら、無理矢理植え付けられた狂気と本来の創作者としての意識の板挟みになっているようだ。 だが、文吾郎が何かを言う前に、彼はかくんと力を失った。どうやら気絶してしまったようだ。 「好都合だ。このまま運んでしまおう」 そういって、気絶した文吾郎を担ぎ上げようとする破軍。だがそこに声が投げかけられた。 「……まだ像が完成していないんですよ。その人は置いていって貰いましょうか」 ずいと現れたのは、着流し姿の青年だ。一見、見目麗しいと言える青年だが肌の色が異様。 隅から隅まで、濃淡のない漆黒のその姿。その青年は、にたりと笑顔を浮べるとそういった。 「……ほう……手前が無有羅か」 「おや、私のことをご存じですか? いやはや、私のことを知る人なんて残っていないとおもってました」 からからと笑いつつ言う無有羅。その様子に、駆魔はぎりと歯がみしつつ前に出た。 「……冥越のアヤカシは八禍衆だろうが雑魚だろうが一匹残らず俺の仇だ」 「おお!それじゃあ、私と戦いたいというのですか?」 喜色満面でそう答える黒い青年。だが、駆魔は首を振って 「……確かに、今すぐ斬り殺してやりたいが、俺じゃ無理だ。ここは逃がしてくれねぇかなあ」 「ははは! 命乞いですか……まぁ、私も別に戦いが好きなわけではないですしねぇ」 そういうとにやりと笑いを浮べて。 「……そうだ。その彫刻家の青年を置いていってくれるなら、逃げて良いですよ」 その言葉に、開拓者たちは覚悟を決めるのだった。 ●決着と逃走 「……そんなに像が大事なのか?」 「ええ、そりゃもう! こんな大作は久々ですからね」 急に破軍が放った問いかけに、無有羅は答える。だが次の破軍の行動は無有羅の予想を超えていた。 「ふん……随分と洒落た趣味のようだな」 次の瞬間、破軍はナイフを放った。無有羅に向かってではない、像に向かってだ。 修羅の強靱な筋力で放たれたナイフは、見事像の頭部に命中し、ざっくりと刺さった。 「な……何をしたのか、分かっテイルノカァ!!!」 その言葉と共に、無有羅の頭部が『爆ぜた』。 大きく口を開けたその勢いのまま、口中から無数の触手がほとばしり出る。 それはみるみるうちに頭を覆い尽くし、文字通り怒髪天を突くように、ゆらゆらと揺れて。 無有羅は、青年の体のまま頭部だけが、資料で伝えられる触手の集合体に変貌したのである。 『狂気ノ結晶ヲ壊シタノダ。償ッテモラウゾ!!』 その言葉と共に、無有羅の触手が3人を襲う。 だが、駆魔は文吾郎を担いで、駆け出し、破軍は触手の群れを切り払う。 そして、百舌鳥は体を盾にして触手の攻撃から文吾郎や仲間をかばおうとする。 『ハ、ハハハハハ! 仲間ヲ守ルカ! ソンナ美談ハ相応シクナイナ!! ハハハ、行ケ行ケ!』 急に攻撃を辞める無有羅。そのまま触手でささったナイフを抜き取ると、それを破軍に投げ返して、 『今日ハ、見逃シテアゲマショウ! セッカクの傑作ニ、コレ以上傷ヤ物語ハ欲シクナイ』 そして、人の形に戻りながら赤い目を輝かせて、 「また会いましょう。貴方たちの顔、覚えましたからね」 「……それはこっちの台詞だ無有羅。手前の顔と名、忘れねぇぞ」 殿に立っていた破軍は、ナイフを受け止めると、仲間と一緒に山を下り始めるのだった。 「……合図だ! 撤退するよ……閃光練弾を放つね!!」 「助かりました。それじゃ、戻りましょ」 大薙刀に、霊戟破で精霊力を纏わせて一撃する弥十。 決定打にはならないが、岩人形の気を引くには十分だ。 そして直ぐに距離をとれば、そこに叢雲の閃光練弾が。広がる閃光と爆発。 2人は、すぐさま引き返し途中で、他の三名と無事合流。 なんとか5人の開拓者は山中の庵を経由し、商人と共に、近くの町まで戻るのだった。 「……これで、とりあえず大丈夫やと思います」 文吾郎に浄境で治療を施していた弥十。どうやら命に別状はないらしい。 「そんなに大変なことがあったんだね。無有羅なんてヤバイアヤカシに顔を覚えられなくて良かったよ」 「……ま、無有羅は仇だから、俺は顔を覚えられても平気だけどな」 叢雲の言葉に、自分は平気だと答える駆魔。 そんな少年たちのやり取りに、やっと他の開拓者たちも肩の力を抜くのだった。 なお、後日岩人形は別の開拓者たちが弥十らの報告を受け退治したようだ。 その際、崖の像の再調査も行われた。しかし崖の一部が抉られるようにして、像は消えていたという。 |