山賊撃破の逆落とし
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/07/30 18:52



■オープニング本文

 武天にある商業の街、芳野。その周囲に大きな問題が持ち上がっていた。
 芳野の街の海側には、海弦山という場所があるのだが、その周囲に山賊集団が住み着いたのだ。
 常ならば、開拓者の集団や芳野の領主によって征討されるはずである。
 だが、今回はどこでどう集まったのか、山賊や盗賊、ごろつきの類いがあつまってかなりの大所帯。
 なんと150近くの大集団と化しているというのだ。
 芳野の領主とその部下たちで真っ向から成敗するとなれば、それはもう小さな戦だ。
 相応の被害が出ることになってしまうだろう。
 そこで問題となったのが、その巨大賊集団の潜んでいる場所だ。
 かつては、戦いでも使用されたという海弦山周辺は守るのに向いている地形なのだ。
 特に現在、賊集団が潜んでいるのは後ろを高い崖に守られた山中の谷間である。
 どうやら奴らはここを拠点として居座るつもりのようだ。
 確かに、芳野は芳野自体も豊かな土地であり周囲には農業の盛んな村も多い。
 このままでは、近いうちに賊たちも動き出すだろうし、そうなれば被害は拡大するのが目に見えている。

 そこで、芳野の若き領主代行、伊住穂澄は考えた。
 まず一部少数精鋭部隊が後ろの山を越え崖を下って内部攪乱を行う。
 それに連動し、芳野の領主麾下の兵によって一気呵成に攻勢に出て賊集団を討つのだ。
 となると重要なのはこの精鋭部隊だ。
 崖下りの逆落とし、そして危険な敵陣中央での攪乱作戦をこなせる人材。
「……危険ですが、ここは協力を頼みましょう。開拓者の皆さんならきっと、成し遂げてくれるはずです」
 開拓者への信頼厚いこの領主代行は、そう言ってギルドへと連絡をいれるのだった。

 ギルドとの協議の結果、開拓者は最大で8名ほどが募集されることとなった。
 さらに、戦力の増強のために、相棒を連れて行くことが今回は求められている。
 しかし、作戦では敵に見つかってはならない。となれば大型の飛行朋友は不向きだ。
 炎龍、甲龍、駿龍や鷲獅鳥、そして足場の悪さで土偶ゴーレムは今回、推奨されない。
 また、同じ理由でアーマーや滑空艇の使用も厳しいだろう。
 推奨されるのは騎乗可能な相棒の中で、そこそこ小型の霊騎。
 あとは同行可能な小型の相棒や人間と同じ大きさのからくり。そして召還系だろう。

 さて、どうする?


■参加者一覧
川那辺 由愛(ia0068
24歳・女・陰
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
酒々井 統真(ia0893
19歳・男・泰
荒屋敷(ia3801
17歳・男・サ
野乃原・那美(ia5377
15歳・女・シ
からす(ia6525
13歳・女・弓
ジルベール・ダリエ(ia9952
27歳・男・志
神座真紀(ib6579
19歳・女・サ


■リプレイ本文

●崖の上の猛者
「しっかし……こんな険しい崖駆け下りろやなんて、穂澄さんも人の悪いこっちゃ」
 やれやれと肩をすくめるジルベール(ia9952)。
 彼はそんなことをつぶやきながら相棒の霊騎ヘリオスに、なぁと同意を求めてみたり。
 そんな言葉にも、ヘリオスは何処吹く風で、かつかつと蹄で岩肌を叩いていた。
 それはまるで、早く戦わせてくれ、と言っているようで。
 ちょっとやんちゃなその相棒にジルベールは苦笑を浮べて、
「そう慌てなさんな。もう少し待てば、すぐに走らせやるからな」
 そしてジルベールは、愛馬ヘリオスの手綱に「馬賊の幸運の首飾り」を結びつけて。
「これで準備完了や。じゃ、頼むでヘリオス」
 そしてジルベールはひらりとヘリオスの鞍にまたがって、崖の下に視線を向けるのだった。
 崖の上にはジルベールを始め、8組の開拓者が居た。
 8名の開拓者と相棒たち。その面子は様々で迅鷹、からくり、霊騎、管狐、猫又、忍犬に羽妖精が揃っている。
 それに加えてまだ姿を見せていない相棒も居るようだ。
 だが、全員目的は同じ。眼下で群れている悪逆の輩を打ち倒すことだ。

「一緒に戦うのは久しぶりだね。なんだかとても楽しみだな」
 肩の上に迅鷹の花月をとまらせ、その喉を指先でくすぐっていた水鏡 絵梨乃(ia0191)がそういえば、
「ああ、久々に組んで戦えそうだな。ますます気合いが入るし……」
 応えつつ、ぱしんと拳を打ち合わせる酒々井 統真(ia0893)。彼は崖下を見下ろして。
「……おーおー、寄せ集めもこんだけ揃うと壮観だな。突っ込み甲斐があるってもんだ」
「そうだね。ま、ほとんどが一般人だから、本気が出せると良いんだけど」
 にっと笑う酒々井に、しれっと怖いことを返す水鏡。
 二人は歴戦の泰拳士だ。飄々と軽口の応酬をしているが、その実、微塵の油断も奢りもないようだ。
 そんな様子を眺めて、かくりと首をかしげるからくりが一人。
 酒々井を主と付き従うからくり、桔梗はその名の通り、桔梗色の瞳をぱちぱちと瞬いて。
「……護衛、の必要は無さそうですね。泰拳士のお二人についていくのは私には少し厳しいようですし」
 本当なら護衛が出来れば良いのですがと、少々寂しそうにつぶやく桔梗。
 彼女は自分が降りるための荒縄の調子を確かめつつ、戦意十分の主に頼もしそうに見つめるのだった。

「敵陣のど真ん中かあ。ゾクゾクするな」
 がしゃりと大きな魔槍砲を装填しながら、にやりと笑う荒屋敷(ia3801)。
 彼は、酒々井や水鏡とは別の場所で待機していたい。
 崖の上の開拓者は、どうやら三隊別れて待機しているようである。
 それぞれが別の方向から崖を下って連携するのが作戦のようで。
「出来れば、命までは奪いとうないけど……そうも言ってられんか」
 はあと眼下にうじゃうじゃといる群盗を見て、ため息をつく神座真紀(ib6579)。
 すると荒屋敷は神座に顔を向けて、
「ふむ、俺も普段は不殺主義だが、たまにはバァァ! ってな」
 血しぶきをバッと、なんて剣呑な事を言う荒屋敷だったがそれに神座は頷いて。
「やっぱりそうやねぇ。領主代行のお嬢ちゃんも、賊は投降してもほとんど獄門行きって言うてたしな」
 夏の生ぬるい風に羽織をはためかせつつ、装備している長巻をすらりと構えるのだった。
 そんな二人の後ろに控えているのは小柄な相棒たちだ。
 くぁ、と大きく口を開けてあくびをしたのは猫又の博嗣。荒屋敷の相棒だ。
 その隣でつられて、ふぁ、と大あくびするのは羽妖精の春音。こちらは神座の相棒である。
「おいそろそろ準備するぞ、博嗣!」
 そう荒屋敷が呼べば、博嗣は無言でぴょんと跳ねると彼の肩の上に。どうやらそこが定位置のようだ。
 そんな様子を見て、神座も自分の相棒に呼びかけようしたのだが、春音はかくんと眠りかけだったり。
「……起きぃや、春音。そろそろ降りる準備をせんと」
「まだ、眠いですぅ」
 くしくしと目を擦りつつ、眠そうにてくてく歩み寄る春音。
 彼女は羽を広げ幸運の光粉を神座に振りかける。すべてが少しだけ幸運になるという羽妖精の特技だ。
 これで準備は整った。
 荒屋敷と神座の2人も、静かに合図の瞬間を待つのだった。

 そして最後の一組は、騎乗しているジルベールの横に控えた2人の女性。
「……地獄を見せてきた連中に、今度はあたし達が見せてやる番ね」
 赤い瞳を炯々と輝かせてつぶやく川那辺 由愛(ia0068)。
 最近鬱憤がたまっていたとかで、かなり好戦的な笑みを浮べている川那辺だが、
「うんうん、あれだけたくさんいればいっぱい斬れそうだから、楽しめそうだね♪」
 隣の野乃原・那美(ia5377)も、大概危険な言葉をつぶやいていたり。
 今にも戦いたくてうずうずしている2人を尻目に、ヘリオスは肩をすくめて、
「いやはや、今回はやる気の多いもんが多いな〜。ま、俺らも負けないけどな」
 と、霊騎のヘリオスをぽんぽんと撫で、戦意を高めるのだった。
 そんなジルベールは、ぐるりと一同を見回す。
 それぞれが準備を整えたようで、ジルベールの視線に応えて合図をしたり頷いたり。
 そして、ジルベールが最後に視線を向けたのはからす(ia6525)。
 自分の背よりも長大な弓を手にしているのだが、それ以上に重要なのは彼女のもう一つの役割だ。
 今回、連動して挟撃作戦をとる芳野の正規軍への合図をからすは担当するのだ。
「こっちの準備は終わったで。そっちは準備はええか?」
「ああ、問題ない。降下時の支援と狼煙銃での合図、両方とも任せてくれ」
 その言葉に、ジルベールは頷き返してから、愛馬ヘリオスの手綱を取ると、
「それじゃ、そろそろ行こか………よっしゃ、突っ込むで!」
 その言葉と共に、一気に開拓者7名とその相棒たちは崖に身を躍らせて降下を始めるのだった。

●親分、崖から開拓者が!
 逆落しの奇襲、そこで重要なのは敵の不意を突くことに集約される。
 こんな崖を越えて敵が来るわけがないという敵の油断を利用するわけだ。
 今回は、それに加えて開拓者たちは非常に少数精鋭である。
 だからこそ、百を超える賊徒に見とがめられず崖を下り始められたのだ。
 もちろん、それは簡単ではない。だが開拓者たちはそれぞれ工夫を凝らし一気に崖を下り始めるのだった。

 先頭を突っ切るのは、霊騎ヘリオスにまたがったジルベールだ。
 さすがは霊騎、しかもジルベールとの絆の深いヘリオスだ。
 高飛びに悪路走破を活用し一気に崖を降りていく。
 その横をつかず離れず付いていくのは、シノビノの野乃原と忍犬の楓だ。
「さって、いっぱい人を斬るのだ♪ 楓、一気に行くよ〜♪」
 途中の木々を足場に三角跳で距離を稼いで、1人と1匹は風のように崖を降りていく。
 この二組に並ぶ速度で降りていくのは、泰拳士の水鏡だ。
 彼女は背中から光翼を生やし、滑空しながら崖を降りているのだ。
 これは迅鷹の花月と『友なる翼』で同化しているからこそ出来る芸当である。
 最速なのはこの3名。他の面々もそれに続く。
 覚悟を決めて、岩肌を伝い身軽に飛び降りていく川那辺や荒屋敷。
 降ろした荒縄に時折つかまって勢いを殺す酒々井とその相棒の桔梗や神座。
 そして、ついに先を行く3名が地上へ到達寸前。
 戦いの始まりを告げたのは、ジルベールのバーストアローだ。
 片手に装備した特殊な機械弓、アームクロスボウから放たれた矢が衝撃波を巻き起こす。
 反応する暇もなく、なぎ倒される賊たち。あっという間に敵陣は大混乱だ。
 そのど真ん中、崖を蹴って高飛びでバーストアローで出来た空隙に飛び込むヘリオスとジルベール。
「ヘリオス! 思いっきり暴れるで〜」
 先陣を切ったジルベールたちは、そのまま焙烙玉を放り投げ、さらなる混乱を誘うのだった。
 そこに、残る2人が到着。
「な、なんなんだ手前らっ!」
「おや、こんばんはー」
 ひらりと賊の眼前に舞い降りたのは光翼を生やした水鏡だ。
 そこは、ちょうどなにやら車座になって賭け事でもやっていたらしき男たちのど真ん中。
 慌てて、押っ取り刀で武器を掴もうとする賊たちだったが、
「……じゃ、挨拶代わりに」
 そんな状況でも、慌てず騒がず構えを取った水鏡が、ずしんと震脚で地面を強く踏みつければ。
 ズドンと爆音。
 崩震脚のすさまじい衝撃波が、ぐるりと周囲を取り囲んだ賊をまとめて吹き飛ばすのだった。
 そして、野乃原はというと。
「ちくしょうっ! やつらどこから来やがった!」
 右往左往している賊たちの中で、そこそこ早くに混乱から立ち直った賊が1人。
 周囲を見回して、開拓者に立ち向かおうとするのだが、その背後に影が一つ。次の瞬間とすんと衝撃。
 賊は、きょとんと自分の胸から生えた血塗りの刃を見つめ、そこでやっと自分が刺されたと理解した。
「……ぐ、し、死にたく……」
「人を殺しておいて自分達は死にたくない、とか馬鹿な事は言わないよね♪」
 崩れ落ちる賊をとんと押しのけて、野乃原は両手に血刀を構える。
 すると賊たちは腰でも抜かしたのか、立ち上がりもせずに這いずって逃げようとする。
「ひ、ひぃぃ!!」
「さあ、君たちの斬り心地、教えて♪ そうだ、楓……競争しようか?」
 しかし、それを許さない野乃原。彼女は心底楽しそうな笑みを浮べて刃を振るうのだった。

 暴れに暴れる三者。
 文字通り人馬一体で矢を放つ高軌道のジルベール。
 酔拳の技の冴えのまま、ふらりふらりと賊を殴り飛ばしていく水鏡とそれを援護する迅鷹の花月。
 そしてシノビの本領を発揮し、忍犬の楓と共に容赦なく賊を刈り取っていく野乃原。
 だが、賊は数だけは多かった。
 決死で抵抗をし始めたようで、彼らが気付いたのは崖を降りる後続の開拓者たちだ。
「たかが3人に良いようにやられるつもりか!! 後続が来るぞ、弓ぃ! 構えっ!!!」
「妨害されないように死ぬ気で抑えろ。討ち取った奴には褒美をだすぞ!」
「裏の崖だ崖! 崖を狙いやがれ!! 今ならうち放題だぁ!!」
 ぎゃあぎゃあと吼えているのはおそらく幹部たちだろう。
 だが烏合の衆でも頭が付けば多少はマシになるもので、賊たちは手に弓を構え始めた。
 狙いは、崖を降りきろうとしている川那辺、酒々井、荒屋敷、神座たち。
 矢が放たれようとしたその時、妨害は崖の上から飛んできた。
「まずは一矢。さて、次なる手は……」
 崖下を弓で射撃して妨害してから、彼女が呼び出したのは管狐のシャオだ。
『サアからすヨ。我に命ずがよい』
「では命ず、『好きに暴れよ』」
 からすの一命とともに、飛来する管狐シャオ。そのまま敵陣の前に姿を見せるとまずは雷撃。
 シャオが視線を向ければ、次々に乱れ飛ぶ飯綱雷撃を放ち、さらに一喝。
「我コソハ雷獣招雷鈴也! 雷ト共ニ我ガ名ヲ一生のトラウマとするがイイ!!」
 雷と共に宣う怪しい管狐。
 それに気を取られている隙に、残る開拓者たちも崖下に降り立っていたのだった。

●となりの大乱闘
「あちちっ!! でも、無事降りられたで……春音、行くでっ!」
 縄を掴んで摩擦で熱くなった手をふうふうと冷ましつつ、神座は相棒に声をかける。
 すると、ぱたぱたと自前の羽で降下してきて羽妖精の春音は、
「……疲れて眠いですぅ」
「あほか、本番はこれからや!」
 その言葉と共に大上段に得物の長巻「焔」を構える神座。
 すらりと背の高い神座にとっても、背より長い長巻を振るえば炎の幻影が巻き起こる。
 賊たちは、警戒しているのか距離を取っていたのだが、
「そこの雑魚山賊! 女のあたしに玉無し思われとうなかったらかかってきぃや。纏めてぶっ飛ばしたる!」
 咆哮の啖呵を受けて賊たちも一気に攻め寄せるが、それを迎え撃つ神座であった。

 そして、同じく降下した荒屋敷。降り立ったときには周囲はすでに敵まみれだった。
 だが荒屋敷の目には剣呑な光。敵を前に戦意も最高潮のようで。
「集まってるなぁ! へへへ、盛り上がっていこうじゃんかよっ。うおおおおお!」
 魔槍砲を手にさらに敵陣に切り込んでいく荒屋敷。その肩の上から猫又の博嗣もカマイタチを放って。
 周りの賊たちも次々に荒屋敷に打ちかかる。だが雑魚の攻撃はかすりもせずにすべて弾かれて。
「よっしッ!合わせろ博嗣! 皆殺しだ!!」
 そしてそのまま荒屋敷は吼えた。すると博嗣が閃光を放った。
 その瞬間を狙って槍撃連動式の魔槍砲が轟音を上げて炎を吹き上げ、そのまま荒屋敷は回転切り!
 閃光、轟音、爆炎が大きく輪を描き。
「……と、美味くいったな! さて、次は同じようにやられたいのはどいつだ?」
 砲撃で賊たちは再起不能。だが、荒屋敷は足を止めず、次の獲物を探して魔槍砲を振るうのだった。

「さぁ〜出番よ神薙! 派手に殺りなさい、怠けたら承知しないわよ!」
 着地した川那辺が召還したのはなんと巨大な蝦蟇、ジライヤの神薙だ。
 しゃがんでいても人の背丈に並ぶ巨大な蝦蟇は、ぎょろりと目を動かすと、
「由愛様は相変わらず、蝦蟇使いが荒いっすなぁ」
 そう言いながら、呵々大笑。そのまま向かってくる賊たちに武器を振るって突っ込んでいくのだった。
 ジライヤは強力だが、弱点が一つある。それは召喚中は、召喚者が無防備になることだ。
 川那辺も例外ではない。だがそこにひらりとやってくるのは野乃原。
「来たわね、那美。守りは任せたわよ」
「うん! 近づく山賊はしーっかり斬っておくから任せて♪」
 忍刀を血降りしつつ応える野乃原、2人は連携しながらのしのし進軍を開始するのだった。

 そして、最後の1人酒々井は、ひらりと着地するとそのまま悠々と進む。
 雑魚の攻撃は、交わすまでもない。軽く払って拳で反撃。それで終わりだ。
 倒した敵は次々に相棒の桔梗が縛り上げていくようで。
 そんな酒々井の背後を狙う1人の男が居た。賊たちのまとめ役、かつては山賊の長だった男だ。
 槍を手に、そろりそろりと雑魚たちに紛れて近づく志体持ちのその男。
 槍の間合いなら有利に戦えるだろう、そう思って渾身の一撃を放ったのだが。
「……甘いな。そんな一撃ハエが止まらぁ」
 背拳を習得した泰拳士に、背後からの攻撃の意味はなかった。
 酒々井は、敵の渾身の一撃を軽々と脇で挟み込むと、そのまま回転してへし折って。
 そして向き合うと、目にもとまらぬ三連撃。
 人中、喉、鳩尾の急所に拳が突き刺さり、幹部は一撃で撃破されるのだった。
 烏合の衆を厄介なモノにしている志体持ちの幹部たち。
 彼らはたった8人の開拓者に対して反撃をしようと試みていた。だが、それはどれも無謀。
「もらったぁ!」「くらえぇ!」
 下品な声を上げて、水鏡を2人で襲う幹部たち。
 だが、片方の幹部は花月のスカイダイブが直撃、そしてもう1人の攻撃はひらりと酔拳で回避。
 そしてそのまま転反攻の一撃、上段蹴りが綺麗に幹部の頭を直撃し、幹部は昏倒するのだった。
「ぐへへへっ! 往生際が悪い、大人しくくたばりなぁ!」
「あはは、今日はいっぱい斬れて楽しいのだ〜♪ 楓も嬉しいよね♪」
 眼前の敵を次々になぎ倒していく川那辺の相棒、ジライヤの神薙と援護する野乃原。
 その戦い振りに、賊たちは恐れをなしはじめていた。
 だが、其れを許さない幹部が檄を飛ばす。
「下がるなっ! 相手はたった数人だ、一気に襲いかかって殺せ!」
「囲んで攻めろ、遠くから一気に槍を投げるんだ!」
 後ろの方でぎゃあぎゃあと騒ぐ幹部たちだが、それを狙って動く開拓者たちが。
「下っ端の後ろに隠れて震えてんのか?」
 矢を放ち牽制しながら挑発するジルベール。そのまま、武器を太刀に持ち替えて。
「てめぇ! たった数人で全員が倒せると思ってるのか!」
「……自分より弱いもんで周囲固めて、まるで猿山のボス猿やなぁ、ああ? よく吼える猿やなぁ」
 挑発を受けて思わず前に出た幹部に一気に近づくと、紅焔桜の一撃で打ち倒すのだった。
 こうしてほとんどの幹部が倒されてしまえば、もう賊たちは烏合の衆。
 するとその時、天高く狼煙銃が照明弾が上がり、にわかに歓声が巻き起こった。
 それは、賊たちの陣地正面から攻め寄せる芳野の兵の鬨の声だ。
 浮き足立つ賊たち。それに開拓者たちは一喝。
『コノひよっこ共メ! 国ニ帰ッテ母親ニ泣キツくが良イワ!』
 好き勝手暴れていたからすの相棒シャオがだめ押しに罵倒し、雑魚たちの戦意を砕けば、
「……こうなりたくないなら武器捨てて降伏しぃや」
 太刀の一撃で事切れた幹部を前に、雑魚たちに最後通牒を突きつけるジルベール。
「はよ降参しい。これ以上刃向かったって勝てんのは分かるやろ」
 春音に敵を混乱させ、なるべく命を奪わないよう長巻の柄で賊を強打し昏倒させる神座。
 ジルベールや神座の言葉に、賊たちは次々に武器を捨て、投降するのだった。

●依頼を済ませば
 無事依頼は終了。というか、ほとんど抵抗らしい抵抗もなく芳野の兵は盗賊集団を撃破した。
 なんと50名以上もの賊が、投降したという。
 賊として人を殺傷したり、極悪な行いをした賊たちは、予定通り獄門送りになるだろう。
 だが、中にはまだそうした非道な行いに加わっていない賊も幾ばくかいたようで。
「ほな、もしかすると獄門送りには、ならんっつうことやな」
「ええ、もちろんそれ相応の償いはして貰いますけど」
 神座の言葉に応えているのは依頼主の芳野領主代行、伊住穂澄であった。
 神座は、疲れて寝ている春音を抱きかかえ、
「よう頑張ったな……」
 とその髪を撫でつつも、ふっと物思いにふけって。

「やっぱりこの海弦山のあたりは、豊かなところやから目ぇ付けられやすいんかね」
「そうですね。守りに向いた地形も多いですし、近々いろいろと調査をしようと思っているんですけど」
 ジルベールは以前、このあたりを別の依頼で訪れたことがあるとか。
 そこで、そんな話を領主代行の伊住穂澄と話していたのだが、
「さ〜って那美。飲みに行きましょうか」
「うん、一緒にお酒飲むのだ♪ あ、楓にもご馳走買ってあげるね♪」
 うきうきとはしゃぐのは川那辺と野乃原。
 どうやら2人は近場の芳野でお酒でも買って酒盛りでもするようだ。
 そんな陽気な雰囲気に、思わず難しい話をする気も失せて、
「……ほな、ヘリオスもなんか買うてくか? 穂澄さん、なんかいいもんありますかね?」
「う、うーん……霊騎のヘリオスさんが好きなものって何なんでしょう……?」
 と、思案顔の伊住穂澄。
 それを横目に、役目を果たしたからすは、
「お疲れ様」
『マアマアの手応えだったナ……しかし、からすヨ。今聞こえたのダガ、コノ近くに美味イ酒があるソウダ』
 川野辺と野乃原の話を耳にしたのか、管狐のシャオがそんなことを言い出したり。
 とにもかくにも依頼は終わって、一同は思い思いに帰路につく。

「おい、博嗣。いつまで俺の肩に乗ってるつもりだ?」
 まだ肩に乗っかりっぱなしの猫又に、思わず荒屋敷がそう言っても、くあっとあくびを返すだけの博嗣。
「やっぱりあれぐらいじゃ、まだまだ暴れたりない感じだねえ。ほとんどが一般人だったし」
「ああ、1人2人は良い殺気の籠もった攻撃をしてきたんだが、あれじゃ足りないな」
 水鏡と酒々井のそんなやり取りに、ついて行けませんとばかりにからくりの桔梗はちょっとだけあきれ顔。
 そんな3人の頭上を我関せずとばかりに迅鷹の花月がくるりと輪を描いて飛んでいたり。
 ……たぶん芋羊羹が欲しいという自己主張だろう。
 そして、最後に神座は春音を抱えたまま、ちらりと戦場のあとを振り返って
(……罪人とは言え彼らの明日を奪った事、それは忘れたらあかん……)
 小さく、自戒を込めて心に刻み込むのだった。