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■オープニング本文 開拓者、彼らの生活も様々だ。 日々都会で暮らし、毎日忙しく働く者。 仲間と共に常にあり、賑やかに日々を過ごす者。 だが、そんな者たちばかりでは無い。 理穴と武天の境界近く、大きな街道からも離れた開けた平野にて。 ここは、周囲数十里四方に渡って集落どころか人家も無い無人の荒野だ。 数時間歩けば、一応街道があるはず。 だが、その街道から離れてしまえば、まばらな木々が生い茂る無人の山野が広がっている。 土壌が悪いのだろうか、あまりまとまった植物も生えて居らず、まさしく荒れ地といった様子だ。 あまり大きな川や水場も無く、ごろごろと石塊も転がっている。 貴方は、たまたまそんな場所にいた。 なぜか? 一人旅の途中か。修行の最中か。それとも個人的な理由からか。 ともかく、貴方は孤独にその荒野をさすらっていた。 そんなとき、ふと気付いたのはある痕跡だ。 人の物とはとうてい思えない巨大な足跡。深々と地面をえぐる大きな痕跡。 おそらく、岩人形と呼ばれるアヤカシの足跡に違いないだろう。 周囲に人家は無く、すぐに被害が出るわけではない。 だが、アヤカシの痕跡を知りつつも、それを逃すわけにはいかない。 放置すれば、何が起こるか分からないからだ。 貴方は孤独にその足跡を追いかけることにしたのだった。 さて、どうする? |
■参加者一覧
相川・勝一(ia0675)
12歳・男・サ
ペケ(ia5365)
18歳・女・シ
ネオン・L・メサイア(ia8051)
26歳・女・シ
サーシャ(ia9980)
16歳・女・騎
胆(ib3217)
30歳・男・サ
田中俊介(ib9374)
16歳・男・シ |
■リプレイ本文 ● 荒野にたたずむ影が一つ。 「……やっぱりこれはアヤカシの痕跡だよな。しかし、このアヤカシはどこまで行ったのやら」 しゃがみ込んで、地面に深々と刻まれた大きな足跡を確認する田中俊介(ib9374)。 視線を上げれば、その足跡はずっと遠くまで続いているようで。 「この大きさから考えて……やっぱり岩人形とかだよなぁ。一人じゃさすがに無理だし」 とりあえず、周囲を窺いながら歩き始める田中はそうつぶやいて。 「途中で、誰か見つけられると良いんだけど……ま、とりあえず急ごうっと」 そういうと、すたすたと駆け出すシノビの田中であった。 広々とした荒野は所々が起伏があり、さらには視界を遮る邪魔な木立もわずかながらある。 どれもやせ細った木々だが、それでも邪魔なことは邪魔だ。 しかし、速力に優れるシノビはそんなものも何のその。一度走り出せばまるで風のように進む。 木々の枝を掴んでひょいと着地、そのまま大きく跳躍して木立を越える。 先に転がる巨石があれば、片手をかけて這い上がり、またまた大きく跳躍して距離を稼ぐ。 そしてしばらく進めば、田中の鋭敏な感覚は自分の先を行く人たちの話し声に気付いた。 「おっと……他の開拓者たちかな? だったら良いんだけど…………ちょっと後を付いていって見るか」 そう言うと、足音を潜めこっそりと距離を詰める田中。 はてさて、その気配は一体誰のものかというと……。 話は前日に戻る。 手にした槍を杖代わりに、荒野を進んでいる少年は相川・勝一(ia0675)であった。 荒野に身を置く理由は様々だが、今回彼は修行の一人旅の途中。 まるで少女のように小柄で細身の彼だが、こう見えてかなり腕利きのサムライだ。 そんな修行の旅の途中、ふらりと荒野を進んでいた相川は田中と同じ痕跡に気付いた。 「あれ、これは……アヤカシの足跡?」 地面に刻まれた四角いへこみをじっと眺める相川。 確認してみれば、一直線にその足跡が続いているようだ。 どうやら数日前の雨でぬかるんだためか、しっかり足跡が残っているよう。 その深さやはっきりしている様子からも、この足跡が出来てからまだそう時間は経っていないだろう。 「見つけた以上、このままにはしておけないですね」 そう考えた相川は、とりあえず痕跡を追うことにしたのだった。 だが歩きながら考える。この足跡はおそらく岩人形と言われる大型のアヤカシの痕跡だ。 それなりの経験はあると言えども、さすがに一人では難しいだろう。 さて、どうしたものかと考えていると、前を行く人影が。 迷い無く足跡を追いかけているのは弓を背にした弓術士らしい女性だ。 相川はたっと駆け出し近づいてくのだが、ふと彼は前を行く女性に見覚えがあるのに気がついた。 彼女の背で揺れている括られた緑色の髪やその出で立ちは、よく知った女性に良く似ている。 あれは……と相川が思ったその時、足音に気付いたのだろう。警戒しつつ当の女性が振り向く。 「……ぁ! やっぱり、ね、ネオンさん! ネオンさんがどうしてここに?」 「真逆、こんな場所でお前に逢うとは思わなかったぞ?」 応えた女性はネオン・L・メサイア(ia8051)、どうやら二人は知り合いのようだ。 「じゃあ、ネオンさんも一人でこの荒野に?」 「ああ、偶には狩人として働かねば、感覚が鈍ってしまうと思ってな」 「なるほど……ネオンさんが居てくれて助かりましたけど、二人で大丈夫でしょうか?」 不安からか、思わず尋ねる相川。だが、それに対してネオンは首を振って、 「いや、私たちがこうして遭遇したのだからな。此の荒野の何処かに、まだ仲間がいるかもしれんぞ」 そういって、二人はさらに足跡を追い始めるのだった。 相川は野外活動に長けた弓術士のネオンに導かれつつ、足跡を追っていた。 だが、もうじき夕暮れという時間になってぴたりとネオンが足を止める。 「……? どうしたんですか、ネオンさん。まだ日暮れにはすこし時間がありますけど」 「いや、この調子では野営をすることになると思ってな。それならば早めに準備をしなければ」 「でも、足跡は大丈夫なんですか? 消えちゃったり、アヤカシが人里に出たり……」 「ふむ、それは大丈夫だろう。この天気だ、しばらく雨は降らないだろうし、周囲には人里は無い」 「なるほど、それなら大丈夫ですね。じゃ、僕も手伝いますよ!」 というわけで、二人は野営の準備をするのだった。 といっても準備は簡単だ。開拓者はその名の通り野外生活に関してもいっぺん通りの事が出来る者が多い。 今回は木立の影に子型の天幕を張って、簡単に夜を明かし、早朝から動くことにしたようで。 「よし、明日は早くなるからな。この場所なら邪魔されることも無いだろう」 そういって、天幕の中から手招きするネオン。そう、天幕は2人用だったのだ。 「……や、あの、ネオンさん?! 僕は一人で寝ますので……」 「はははははっ。如何した勝一? 別に遠慮しなくても良いんだぞ、ん?」 はしっと手を捕まれてずるずる引きずり込まれる相川。 どうやらちょっと人恋しかったネオンは、こうして相川にちょっかいをかけて楽しんでいるようだ。 「そんなネオンさん、抱きつかないでくだ……あ、ちょ、背中に当たってますよー?!」 「はははは、夏とはいっても荒野だと夜は冷え込むかも知れないしな」 なんてことを言われつつ、羨ましくもオモチャにされている相川であった。 そして、やっと閑話休題。相川とネオンは、次の日も朝早くからアヤカシの痕跡を追っていた。 相川は微妙に寝不足そうだが、とりあえず支障は無いようで。 じりじりとお日様が昇るお昼頃、ふと足を止めたのは今度もネオンだった。 足跡は徐々にはっきりしてきている。どうやら追いついてきているようだ。 だが、ネオンが足を止めたのはアヤカシの痕跡に関してでは無かった。 「……さっきから後をつけているのはだれだ?」 振り向いたネオンがじっと視線を向けていえば、ひょっこり出てくるのは田中だった。 「あははは、ばれたかー」 「わっ! ど、どちらさまですか?」 「ん? 僕も君たちと同じ開拓者の田中だよ。ちょっとした悪戯心だったんだ……」 飄々と応える田中は、ぎろりと彼を見つめているネオンを相川を見比べて、 「……だから、そこの君。お隣のお姉さんに睨むのを止めてくれるように頼んでくれない?」 手を合せて、ひっと笑いながらつかみ所なく頼む田中。 そんな様子に、思わず相川とネオンは、顔を見合わせるのだった。 ● 相川とネオン、そして予期せぬ同行者となった田中がアヤカシの痕跡を追っている、丁度その頃。 別の場所でもアヤカシの痕跡を求める開拓者がいた。 彼女の名前はサーシャ(ia9980)だ。 しばらく開拓者稼業を離れていたため、今回は復帰のための調整だとか。 そのため、調整の最後の仕上げとして、荒野をうろつくアヤカシの噂を聞いてここにやってきたのだ。 「うまく、見つかるといいのですけどね〜」 のほほんとつぶやくサーシャ。目を細め、にこにこと笑顔を浮べていればいかにもなご令嬢という様子だ。 だが、彼女の装備がそんな想像を全力で否定していた。 ハーフプレートの鎧に身を包み、兜に外套を身に纏った様子はまさしく重装備の騎士。 そして、装備した嵐の大剣「テンペスト」すら小さく見えるようなその体格もまた別格だ。 そんな彼女も、幾度かの野営の果てに、アヤカシを追っていた。 がしゃりがしゃりと金属音を立てつつ一歩一歩進むサーシャ、彼女は他の開拓者とは遭遇しなかった。 だが、幸か不幸か彼女は荒野の彼方に動く影を発見。 それは大柄な彼女よりもさらに大きな姿、目標の岩人形だ。 岩人形は、特に目標もなくただのしのしと歩いている。あれならすぐに追いつけるだろう。 そこでサーシャは、静かに距離を詰めつつ、ひとまずは岩人形を泳がせることにしたようだ。 岩人形との戦いは調整の最後の仕上げだが、一人で戦うにはやはりかなりの強敵だ。 他の仲間が見つかるにしろ、一人で挑むにしろ、もうすこし後でも大丈夫と考えたのだろう。 「さて、しばらく観察してみましょうか……」 そんなサーシャの反対側、アヤカシが進む先にもう一人、岩人形に気付いている開拓者がいた。 「こんなところに好んで住むあのジイさんは、よっぽど人間嫌いなのです」 ぶちぶち文句をつぶやきながら、荒野を歩いているのはシノビの女の子、ペケ(ia5365)だ。 じつはこの荒野にも、住んでいる人が居たというのである。 住んでいるのは隠居している偏屈な老人だとかで、ペケはその老人を訪ねた帰りであった。 手紙を届ける依頼だったようで、依頼は無事終わり。 さああとは帰るだけ、と思っていたのだが。 「…………アレはデカイ移動物ですね」 感覚の鋭いシノビだからこそ気付いたのだろう。ペケは遠くからまっすぐ移動してくる岩人形を発見。 「もしかしてゴーレム? あうあう不味いですよ」 さすがにシノビ一人では岩人形は倒しきれないかも知れない。 そんなことを考えた彼女はふと、思い出してくるりと振り向いた。 まっすぐ進む岩人形、その進む先にはもうほとんど見えないが老人の隠居住まいがあったはずだ。 「本格的に不味いですね……何とかしないと……おや?」 少し近づいて、さらに岩人形を観察するペケ。すると彼女はいくつかの事に気付いた。 岩人形の足跡を追って、一直線に急ぐ3人組。 そして、別方向からやはり岩人形の元へまっすぐ向かってくる騎士の姿。 さらにもう1人。のっそりとこちらに近づくもう一つの影。 これならば、何とかなるかもしれない。そう考えたペケは、 「さすが開拓者です。神出鬼没ですね……まったく、あのジイさんにも感謝して欲しいものです」 ペケは、つぶやきながらいつも緩みがちな褌を締め直し、両手の籠手をぎゅっと握りしめると。 「ふぅ、行きますか!」 一気に駆け出すのだった。 ● 岩人形は、やっと自分の敵が近づいてくることに気がついた。それも複数だ。 だが岩人形は慌てない。そもそもあまり頭が良くないのだが、岩人形はただでさえ頑丈だ。 すこしの攻撃程度ではびくともしない。 敵が来ればなぎ払ってやると身構えれば、そこにまず攻撃をしかけたのはペケだった。 シノビの速力でそのまま攻撃を仕掛ける秘技奔刃術で一気に接近して、忍拳の一撃を放つ。 ガキンと岩を穿つ強烈な一撃、本来ならあまり攻撃力の高くないシノビだが、ペケの一撃は強烈だった。 だが、さすがの岩人形。岩を削られても平気な顔で、巨大な腕を振るう。 そこに殺到したのは、サーシャだ。 「助太刀しますわ。前衛は、お任せください」 ずいと踏み込んで、嵐の名を冠した大剣を振りかざすサーシャ。 彼女にとってその大剣は、攻撃のための武器であり、同時に防具でもあった。 岩人形の豪腕を引きつけ、剣でいなす。迫る一撃を恐れずに、横からの力を加えて攻撃をそらすのだ。 そのまま、くるりと半回転。一撃をいなした勢いのまま、さらに踏み込んで強烈な反撃! 岩と刃が火花を散らし、耳障りな音を立てながら、岩の肌にひびが入る。 サーシャが前に立てば、ペケは周囲でその攪乱だ。 飛び回りながら拳をがつんがつんと浴びせていく。そこにさらに援護がやってきた。 「アヤカシ、はっけーん」 飛び込んできたのは田中。彼は距離を取って打剣で手裏剣を放つ。それに気を取られた岩人形。 「隙ありだ! 食らえ、聖なる槍の一撃を!」 たたみかけたのは相川だ。グングニルを投げて牽制し、そのまま彼も接近。 抜き放った長巻による払い抜けの一閃だ。 前衛がサーシャと相川の2人になる。こうなれば開拓者は俄然有利だ。 さらにだめ押しなのはネオンの矢。 「いいぞ、勝一。そのまま引きつけてくれ……此れは実に歯応えのある獲物だな」 優れた弓術士のネオンは、的確に岩人形に刻まれたペケの打撃の痕へ矢を放っていく。 その一つ一つが小さくひび割れ、あっというまにぼろぼろになっていく岩人形。 岩人形はそこでやっと気付いた。目の前の敵は自分を倒しうる強敵だと。 だが、もう遅かった。 あともう一押し。そう彼らが思ったときに、最後の一撃が。 岩人形の間合いに踏み込んで、武器を振りかざしたもう1人の開拓者の姿が。 彼は胆(ib3217)という獣人だ。 一言も声を発さず、淡々と武器を振りかざす姿は異様であったが、それでも同じ開拓者。 胆がさらなる前衛として、武天長巻で岩人形の一撃をはじき、凌いでいる今こそが好機。 一気に他の開拓者たちはたたみかける。 「これで終わりっ!」 早駆で死角に回り込んだ田中は、岩人形の足に手裏剣を一発。 胆が前衛で凌ぐのと連動して岩人形の動きが止まる。 「勝一! 攻撃を合わせろ!」 「はいっ! 一気に押し切ります!」 そこにネオンの声と、彼女が放った矢が。彼女が撃ち抜いたのは岩人形の膝頭だ。 びしりとひび割れて砕ける膝。そこに相川の強烈な一撃がたたき込まれれば、膝が粉砕。 ぐらりと傾きついには倒れる岩人形。そこに飛び込むペケは連打で岩人形の核を暴き出す。 そこを壊せば岩人形は終わりだ。もちろん岩人形も抵抗をするが、その腕を胆が長巻でたたき伏せ抑える。 「では、これでとどめです」 薄く目を開き岩人形の体の上に飛び乗ったサーシャは、剣を振り下ろす。 その一撃に核を砕かれ、岩人形はタダの石塊へと戻るのだった。 こうして不意の遭遇戦は終わった。 胆は、現れたときと同じで何も言わずに姿を消した。 そして、ネオンはもう一度荷物を整えると、もっと肥沃な土地に向い狩りの続きをするようで。 「それじゃあ僕はここで……」 「さて勝一、序だから我に付き合え」 「……って、えぇぇ!? あの、ネオンさん!? ちょ、どうしてこうなったー!?」 「はははは、遠慮は要らないぞ。また一緒に天幕で夜を明かそうではないか」 「えぇ! そ、そんなこというとまた誤解されますよ〜」 そう言いながら、ずるずるネオンは相川を引きずっていって。 そんな様子をじーっと見送る田中に、思わずとなりのペケが、 「……羨ましい、とか思ってますか?」 「へ? いやいや、そういうわけじゃ……」 にまっと笑って問うペケに、慌てて首を振る田中。 「あらあらまあまあ」 サーシャがそんな2人を眺めていたり。 ともかく、偶然の積み重ねで遭遇し、協力した開拓者たちは、また再びそれぞれの道へ。 岩人形の脅威は取り除かれ、荒野には再び平和と静寂がやってくるのだった。 |