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■オープニング本文 相撲、それは競技としての側面もあるが、祭事としての側面もある。 天下泰平や五穀豊穣を願い行われる相撲、神や精霊に納める奉納相撲。 それがここ芳野で行われようとしていた。 だが、お祭り好きの芳野の街。ちょいといろいろ派手にしてみようと考えて、そこで……。 「よし、ただの奉納相撲じゃつまらない。アーマーや龍の相撲、って見てみたくないか?」 「アーマーは分かるけど、龍? どこが地面に付いたら負けなんだ?」 「えーと、背中とか翼が付いたら負け、ってことで」 「折角なら、土偶とか。あとはカエルのジライヤとか……人妖や妖精の相撲は?」 「それも可愛いな……折角だ、開拓者さんたちが使う相棒のいろんな種類で企画してみよう!」 というわけで、企画先行お祭り騒ぎ……もとい、派手に賑わう奉納相撲が企画されたとか。 場所は武天にある商業の街、芳野。 祭りが好きなそんな街の外れにある六色の谷、そこの大きな神社が会場だ。 一般人同士の相撲に、志体持ちの相撲。 それに加えて今年は、賑やかさ重視ということで、いろいろな相棒たち向けの会場が設けられたのだ。 さて、どうする? |
■参加者一覧 / 礼野 真夢紀(ia1144) / 菊池 志郎(ia5584) / 鈴木 透子(ia5664) / からす(ia6525) / エルディン・バウアー(ib0066) / 岩宿 太郎(ib0852) / 无(ib1198) / エルレーン(ib7455) / 華角 牡丹(ib8144) / ラグナ・グラウシード(ib8459) / 音羽屋 烏水(ib9423) |
■リプレイ本文 ● 天気は晴れ、季節は夏、場所は武天の芳野という街。 そこで、今日は非常に目出度い祭事が行われようとしていた。 といっても堅苦しい物では無いようだ。 賑やかにお祭りを開き、相撲を捧げ、天下泰平を願うというようなものだとか。 お祭り好きの芳野らしい、のんきな奉りの奉納相撲である。 そんな相撲の奉りは、すでになかなかの盛り上がりを見せているようであった。 芳野からほど近い六色の谷、そこにある古い神社が今回の会場だ。 精霊を奉り、巫女たちが日々の祭事をつとめる神聖な神社。 そこも今日ばかりは、出店が並び立ち、賑やかな歓声が響いているようだ。 それもそのはず、通常の奉納相撲の何倍も大きな土俵がズドンと境内の真ん中に。 それを囲む観客たちも、いつもの何倍もいるようである。 彼らは今日は龍の相撲が見られると聞いて、いつも以上に集まっているのだ。 天儀の人々にとって龍は身近で、頼りになる存在である。 良き友として、そして時には頼りになる戦士として傍らにいてくれるのが龍たちである。 その龍と、深い絆で結ばれているのが開拓者たち。 彼らがわざわざ龍を使っての相撲をとってくれるというのだ、見に行かないわけが無い。 というわけで、この大盛況というわけである。 「いやぁ、うっかりうっかり……まさか寝坊するとは」 そんな祭りの中、ぱたぱたと大通りを行く男が1人。 どうやら、時間に遅れたようで急ぎの様子。だがそんな男を追いかける影があった。 すらりとした姿の駿龍が一匹。しかものんびり気味の男を何となく追い立てるような雰囲気だ。 一応急いでる様子の男、无(ib1198)を鼻先でぐいぐいと押すその龍は風天。 器用に眼を細めて、主である无を責めるような表情なのだが…、 「あ、うん、いや、悪かった。そんな目で見ないでくれ。風天」 困ったなと、風天を宥め賺せる无は、どうにもさっぱり危機感は無いようであった。 これもまた、龍と人との関係だ。気心知れた間柄だからこそ、こうして心を許せるというわけで。 「……うん、君までそんな顔をすることはないだろう?」 と、无が話しかけたのは懐の尾無狐。管狐のナイに向かってで。 とにもかくにも、可能な限りのんびり急いだ无は、相撲会場へとやってくるのだった。 はてさて、時刻に後れてどうなることかと思ったのだが、そこは祭りの鷹揚さ。 「ああ、別に飛び入りでもなんでも構いませんよー。丁度お相手も捕まりそうですし!」 というわけで、无と風天はその日何番目かの龍相撲に出場と相成ったわけであった。 「お、相手が決まったみたいだな! がんばれよ、レギ!」 ラグナ・グラウシード(ib8459)がそういって、ぽんぽんと背を叩けば、轟と吼え応える駿龍のレギ。 どうやら无と風天の相手は、このラグナとレギ組のようだ。 奇しくもお互い駿龍同士。だが、人にも個性があるように、龍にも個性がありその差は千差万別だ。 珍しくレギは轟と吼え闘志もあらわだが、基本レギは冷静な質のようだ。 対する風天は、遊び好きで曲芸飛行を好む悪戯好きという。 すでに朝から数度、普通の奉納相撲も執り行われているが、いよいよ祭りの大本命。 龍の相撲が始まるとあって、会場も大いに盛り上がり。 龍の相撲は、レギと風天による一番を持って幕開けとなるようであった。 ● 「さあさ、此度行われますは開拓者の相棒たちによる奉納相撲っ!」 べけべん、三味線の音も勇ましく、口上上げるは1人の少年だった。 黒い翼をばさりと広げ、大いに場を盛り上げるその三味線の音は音羽屋 烏水(ib9423)のもの。 「勝てば嬉し、負けても楽しっ。大いに賑わい、愛あり和む姿を篤とご覧あれっ♪」 わあっと上がる歓声に応え、口上三味線、いつも以上に冴え渡る。 だが、盛り上がりはそれだけではなかった。 「某、あまり騒がしい所は苦手もふが……この賑わいは嫌いではないもふ」 土俵によっこらしょと上がった行司、立派な装束に白足袋草履、見事な行司姿の“もふら”がそこに居た。 「本当なら、立ち上がるのも大変もふが……行司役の大役ならば仕方ないもふ」 それがし口調のこのもふらは、三味線奏でる音羽屋の相棒、もふらのいろは丸である。 「それに、祭りは風物詩もふ。それならば行司も吝かではないもふ」 というわけで、なんと龍の相撲で行司はもふら。 この嬉しい驚きにさらに観客たちは歓声を上げて盛り上がるのであった。 ……というか主に爆笑と、子供と女性陣の可愛い〜! という黄色い声援だったのだがそれはそれ。 とにもかくにも、こうしていよいよ龍の相撲が始まろうとしていた。 さてさて、いよいよ始まる最初の一番。駿龍のレギと風天の相撲。 龍の相撲はいかなる物になるのか興味津々の観客を前に、いよいよその二匹の龍は姿を現すのだった。 もふら行司のいろは丸の進行のもと、粛々と土俵入りは終わって、いよいよ立会い。 「はっけよーい……残ったもふ!」 と、なんとも気合いの入るような気の抜けるようなかけ声とともに、いよいよ二匹は激突するのだった。 まず仕掛けたのはレギ。 相撲ならば、最初はぶちかましかがっぷり組んでの四つ相撲というところだが、彼らは龍だ。 レギが仕掛けたのは距離を詰めての翼の一撃、懐に潜り込んで下から顔を狙っての一撃だ! ばっと広がる翼の一撃に風が逆巻き歓声が上がる。 間近で見る龍の迫力ある動きは、血湧き肉躍る興奮を呼ぶのだ。 だが、それを受ける風天。さすが経験では数段上。受ける寸前でくるりと宙返り。 空を飛ぶのは無しだが、これは単なる飛び上がり、ともふら行司も続行判定。 さて、ひらりと攻撃を躱した風天。もちろん防御ばかりではない。 ばさりと広げた翼が放ったのは突風の一撃だ。 もちろん、真空の刃を放つほどでは無く、相手の体勢を崩させるためだ。 その余波で、風が吹き抜け観客の座布団が舞い散る! だがこれも龍の戦いの醍醐味と観客は大興奮。 突風の一撃に、ぐらりと体勢を崩されたレギ。 彼はなんと闘志のあらわれか、翼をぎゅっとたたんで一気に体当たりだ。 「そこだレギ! どすこい!」 まさしく相撲のぶちかまし、強烈な一撃が風天を捕らえると思えたのだが……そこで風天は弐連牙だ。 体勢が崩れ気味での体当たりだったためか、踏み込みがわずかに不十分。 その足下を狙っての突っ張りと足払いに、レギは見事ひっくり返された。 勝者は、風天。惜しくもレギは破れたのだが、見事な戦いを繰り広げた両者には惜しみない拍手が。 「惜しかったな。でも良い戦いだったぞ」 そういってレギの楼をねぎらうラグナに、レギはなんだか面倒くさそうに伸びをして大あくび。 対して風天は、体全体で勝利の喜びを表して、くるりと空を大きく一回りするのだった。 ● そして相撲の試合は続く。 今日は派手な龍の相撲。だがどうやら続く一番は違うようだ。 龍用の土俵の中に、普通の大きさの土俵が準備された。 となると、今度の相撲は人ぐらいの大きさの者同士によるものだろう。 ジライヤ? からくりの人形? そう観客が首をかしげていると。 「もふ〜、何をすればいいでふ? 僕、お相撲さん?」 もふもふとやってきたのは、エルディン・バウアー(ib0066)の相棒、もふらのパウロと、 「え、えぇ〜……面倒くさいもふよ、我輩やりたくないもふ」 エルレーン(ib7455)の相棒、もふらのもふもふがやってきた。 そう、次なる試合はもふら同士の相撲だ。行司ももふらという3もふらの相撲なのである。 だがしかし、行司が、ちゃっと軍配を構えて見据えるのだが、もふらたちはなかなかやる気を見せない。 「両者、ちゃんと構えないとだめもふよ?」 一応、行司のもふら丸が、そういって見ても、あっちでもふもふ、こっちでもふもふ。 というか、もふらはまるっともふ毛団子なので、何処が下なのか、土が付いてるのかどうかわからない。 「……お主も無理強いされた口もふか? まったく、もふら使いの荒い連中もふねぇ」 と、もふもふ不満げなのははエルレーンの相棒もふもふだ。 その言葉に思わず心外だとエルレーンが土俵外から柳眉を逆立てかけるのだが、 「ふふふ、そうとはかぎらないもふよ。もふふふふ、こういうときはふてぶてしく笑うのでふ」 もふふふと笑い返すのは、対戦相手のパウロであった。 パウロが含み笑いをすれば、もふもふはもふぅーとため息をついて。 そしていろは丸は、もふもふとはっけよいの合図をして、さらに数分。 そろそろ観客たちも眠くなってきた頃に、やっと両者準備が整っていよいよ立会いとなったのである。 「はっけよーい……のこったもふ!」 いろは丸行司の声と共に、両者気合いの……いまいち入ってないてこてこ走りでぽふんと激突。 やわらかーい激突音と、もちもちもふもふ柔らかいぶちかまし。 ぼよんぼよん、もいんもいん、行司も交えてもっふもふ。 これでは相撲と言うよりは押しくら饅頭だ。勝負なんて付かないのでは、そう観客が危惧したそのとき、 「……とは言え、ただ負けるのもイヤもふ!」 やる気を出したのは、なんと不満げだったもふもふだった。 無理矢理だったとはいえ、土俵でこうしてぶつかりあい? をしていれば気合いも入ったのだろう。 「わぁ! もふもふ、がんばってー!!」 土俵外から、相棒のエルレーンの声が飛び、もふもふはますますやる気十分。 しゃきーんとその短い前足を使って、怒濤のつっぱりだ! 「どすこいどすこもふ〜っ!」 ぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふ。 ちなみに、対するパウロ。さっきのぽよぽよが気に入ったのか『もふもふの毛皮』発動中だ。 ただでさえもっふもふのパウロがますます最強もっふもふ。そんな気分のパウロは無敵だった、たぶん。 「ぬー、負けないもふっ! どすこいどすこいどすこいもふ〜っ!!」 ぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふぽふ。 なんというか、ほほえましい戦いが続き、どこで決着なんだろうといろは丸が困っていれば。 ころりん。 土俵から転がり出たのは、パウロだった。 もっふもっふのまま、勝ち負けを忘れてのほほんとしていたパウロ。 地道なもふもふのつっぱりで、いつしか土俵から押し出されていたのだ。 「わあぁ! すごいねえもふもふ! えらいえらい!」 大いに頑張ったもふもふをぎゅっと抱きしめてねぎらうエルレーン。 そして、一方の負けてしまったパウロは、眼をぱちくりしつつ。 「うーん、残念だったもふ〜」 「いやいや、頑張りましたよ。お疲れ様でした」 にっこりと笑う相棒のエルディン。神父様と慕う彼に、もふもふと撫でられてご満悦なのであった。 ● のんきな2番目が終わり、次はいよいよ3番目。 今度はまたしても龍同士の対戦という訳で、先ほどの盛り上がりとはまた違う意味で熱気十分。 だが、駿龍同士の対戦と違い、今回はまた毛色の違った対戦となったようである。 「いい鈴麗。今日は空を飛んじゃ駄目。神様にお供えする相撲するから」 そう相棒の鈴麗に語りかけているのは礼野 真夢紀(ia1144)。 細身の駿龍の中でも特に小柄な鈴麗は、それに応えて小さく喉を鳴らして。 一方対する相手はどっしり大柄の甲龍。岩宿 太郎(ib0852)とその相棒、ほかみである。 「しっかし、相撲的にはツノはやっぱ禁じ手だよな、武器だもん」 そう言って、甲龍の頭の角兜を外し、代わりにそこにはなんと大きなリボンを。 「危なくないように緩衝材にと、アレもメスだしリボンくらいアクセントにつけといてやるか」 というわけで、小柄な駿龍対、妙にかわいらしく着飾った甲龍の対戦になったのである。 さて、いよいよ立会いとなったのだが、実は両者それぞれ作戦があった。 小柄な鈴麗は、捕まったら負けと思って、機動力でかき回す戦法。 対するほかみ。ぶちかましは危ないと見たのか、どうやらうっちゃり狙いのようだ。 さて、この戦い方の差が勝敗にどう現れるのか。それは立ち会ってみれば分かるだろう。 いよいよ今日3つめの立会い。 だんだんと慣れてきたらしく行司姿も板に付いてきたいろは丸の号令の元、時間いっぱいである。 「はっけよーい、のこったでもふ!」 気合いのはいったかけ声と同時に、どっしりと受けの姿勢のほかみ。 対する小兵の鈴麗は、相手が動かないと分かった途端、するするっと身軽に距離を詰める! うっちゃり狙いのほかみ、相手が組み付いてこないならさてどうしよう。 そのとき、ほかみの脳裏に浮かんだのは、主である岩宿の言葉だ。 『まあ俺とは違ってほかみは飛べる!』 たしかに、龍だから飛べるだろう。今回飛行してはだめだが、飛び上がるぐらいなら大丈夫だったはず。 『いざとなればフライングボディアタックでもすればいいんじゃあないかな!』 というわけで、ほかみは、一気呵成に大技突貫! なんと、甲龍の重量を生かしての体当たりだ! 迫るほかみ、それをうけるのか鈴麗。場内が騒然としたそのとき、飛んだのは礼野の声だ。 「……躱して!」 瞬間、鈴麗は翼を広げて一気に加速。飛び上がらずに横移動にその加速を使ったのだ。 ひらりと紙一重でほかみの組み付きを避けた鈴麗。ここから反撃だ。 今この一瞬を全力で、とばかりに、ほかみを横から思いっきりのぶちかまし。 速度と体重を乗せての一撃が、組み付きにいって躱されて体勢の崩れたほかみにぶちあたる。 ぐっとこらえるほかみだったが、そこで鈴麗はだめ押しの突進、チャージの一撃。 もんどり打って転げる両者、軍配は小兵、鈴麗にあがるのだった。 両者、見事な取り組みで、場内は騒然。 慢心せずに、がっしりと構え迎え撃ったほかみに、そのわずかな隙をついた鈴麗。 すばらしい取り組みに、観客たちは歓声を上げて、両者を褒め称えたのだった。 ● そして、いよいよ相撲も後半戦。四つ目の取り組みは、ちいさなちいさな土俵が用意されていた。 ぐるりと囲む観衆たちからも、なんだなんだとざわめく小ささ。 それもそのはず、第四戦は人妖と羽妖精の相撲だったのだ。 「あのね、おすもうの勉強したんだよ! ごっつんこするんだよね!」 豪奢な着物姿の女性に連れられて、現れたのは天儀風の人妖。 主の名は華角 牡丹(ib8144)、とある妓楼の花魁でもあるという美貌の開拓者だ。 そして、彼女の人妖の名は芙蓉。花魁の主の禿をつとめるという着物姿の少女人妖である。 「相撲は伝統文化でありんすから、芙蓉にも経験を」 「さっきの凄かったー! 龍さんたちもごっつんこ、って。牡丹……あ、姐さんもしたことある?」 「……わっちはやったころありんせんよ」 そういって、賑やかに語らう華角と芙蓉。なかなかに華やかな2人であった。 だが、対する2人も中々に個性的だ。 「しーちゃん、うたがんばってくるねー!」 元気よく飛び跳ねながら土俵に向かうのはジルベリア風の服装の羽妖精だ。 名前は天詩というらしい。そんな彼女にしーちゃんと呼ばれた主、名は菊池 志郎(ia5584)。 彼は、にこにこと天詩を見送りながら手を振って。 「ええ、がんばっていらっしゃい」 そういって送り出すしーちゃん、もとい菊池志郎。 芙蓉は、いかにも天儀風だ。黒髪黒目、和風の装束が良く似合う楚々とした美人さん。 対する天詩は、活発そうなジルベリア風の美少女。金の髪に緑の瞳、そして白い羽が目を引いている。 そんな2人は、観客の歓声の応え小さな手を振ってこたえて。 実をいうと人妖と羽妖精、人妖の方が少々大柄なのだが、今回はお互い少女である。 それほど体格差は大きくないようで、かわいらしい衣装のままの相撲勝負となりそうだ。 「それじゃ、怪我に気をつけてはっけよいもふ」 ちょっと離れた場所から、行司のいろは丸が見守る中、歓声たちの歓声を受けていよいよ4番目。 「はっけよーい、のこったもふー!」 わぁっと歓声が巻き起こり、可憐で小さな少女が2人。 小さな小さな土俵の上で、かわいらしい相撲勝負が始まるのだった。 まず、えいやっと近寄ったのは黒髪の芙蓉だ。 「えっとね、始まったら体当たり! あとは足ひっかける! それと一本釣りがやりたいのー!」 試合前にそう姐さんと慕う華角花魁に語っていた芙蓉。どうやら狙いは体当たりからの一本背負い。 相手の天詩よりはちょっぴりお姉さんな芙蓉、体格で有利と見てえいっと体当たりなのだが。 「わっ! えぇっと、受け止めてえいっと横に投げるっ!」 対する天詩、ほわほわの金髪に白い羽とくれば、のんびり屋さんな見た目だが、じつは結構活発だとか。 真っ向から芙蓉をぱっしりうけとめ、体当たりを受けてもぱたぱたと羽ばたいて体勢を整える。 こうして両者がっしり組み合う形に。 えいえいと横に投げようとする天詩。足を引っかけようとしてわたわたする芙蓉。 かわいらしい戦いに、大いに会場が盛り上がるのだった。 息を切らして、接戦を繰り広げる2人。だが、勝負は意外な形で決着を迎えた。 足を引っかけようとしていた芙蓉、その足が絡んでもつれる形の2人。 思わず、芙蓉を突き放し、体勢を整えようとする天詩が、ぱたぱたっと可愛い羽を羽ばたかせれば。 「はっ、いまだ必殺! 芙蓉一本釣り!!」 ふわっと体を浮かせた天詩の手をぱしっとつかんだ芙蓉、ころりんと勢いのまま一本背負い! 意表を突かれた天詩は、思わず空中でくるんと一回転して、ぺたりと尻餅。 後れて芙蓉もくるりと眼を回して、僅差で勝者は芙蓉。決まり手は見事一本背負い! 「わぁ、やったやった。勝ったよー!!」 全身で喜びを表現する芙蓉に、 「あはは、負けちゃった。でもうた、すごく楽しかったよ!」 そういってかわいらしく笑顔を向ける天詩。 2人の可憐な一戦に、会場中から惜しみない拍手が送られるのだった。 ● 「そろそろ疲れたもふよ」 ふいーと息をつくのは行司のもふら、いろは丸。 そんないろは丸の背中をぽむぽむっと叩いてねぎらう音羽屋は、 「お疲れ、いろは丸! じゃが、次が最後の大一番じゃ! もう一踏ん張り、盛り上げていくぞぃ!」 そうして響き渡る三味線の音。 「さあさあ、此度の奉納相撲もいよいよ大一番、滅多に見られぬ大勝負、とくとご覧じろ!!」 今日一番の盛り上がりの中で威勢良く響いた口上と共に、二匹の龍が土俵入りするのだった。 まずやってきたのはどっかりと大柄な甲龍だ。 全身黒金の輝きに赤い鬣赤い瞳、どっしり構えた姿でゆったりと土俵入り。 この龍の名は獅子鳩。からす(ia6525)の相棒である。 ちなみに、当のからす本人はというと、観客席のさらに向こうに小さな野点の茶席が一つ。 獅子鳩が集中できるようにとの配慮らしい。 対するのは駿龍の蝉丸。主は鈴木 透子(ia5664)なのだが……どうも様子が通常の龍とは異なっていた。 何より目立つのは蝉丸がかけた相棒用の色眼鏡と胸の銅鏡だ。 ひらりと空中から急降下して、土俵にさっと着地。 華麗な空中機動に派手な登場、外連味たっぷりの様子と相まって大喝采を浴びる蝉丸であった。 「目立ちたいだけでしょう……」 ちょっとあきれ気味の相棒、鈴木であったが、蝉丸はそんな言葉も何処吹く風。 それを受けても動じない仁王立ちの獅子鳩。一鳴きして尻尾をぶんと振るって威風堂々仁王立ち。 両者そろい踏み、ついに最後の立会いがいま、始まろうとしていた。 「いよいよ今日の大一番もふ! はっけよい、のこったっ! もふっ!」 気合い十分のいろは丸のかけ声とともに、一気に動き出す蝉丸と獅子鳩。 しかし、次の瞬間蝉丸の取った行動は、皆の予想を覆す奇策だった! 最初から、ひらりと降り立った場所から策が始まっていたのだ。 太陽と正対していた蝉丸、なんと太陽光を胸の銅鏡で跳ね返すとそれを獅子鳩に。 目を眩ませる作戦のようだ。なるほど、そのために自分は色眼鏡を装備していたのだ。 そして、目が眩んだと見るやいなや、チャージで一気に距離を詰める蝉丸。 「あ、ずるっこ」 思わずその主である鈴木がつぶやいてしまうのだが、これも作戦だ。 しかし、目を眩まされた獅子鳩もまだ諦めていない。 眼をくらまされたと分かるや否や腰をどっしり落として頭を下げて、受けの姿勢だ。 相手は軽量の駿龍、それにたいして受けに回れば不意を突かれてもしのげる。 その姿勢でしっかと受け止めるつもりだったようだ。 だが、目が眩んでは狙いが定まらないはず、このまま押し勝とうと一気につかみかかる蝉丸。 このまま、再び小兵が大兵を倒す番狂わせ、金星がでるのか! だが、そこで一つ蝉丸に失策があった。 体格で勝る獅子鳩相手に、押し勝とうとしてしまったのである。 目を眩ませた隙に、切り返しや投げ、足取りを狙うなら勝機があっただろう。 だが、甲龍の獅子鳩はどっしりと構えて敵の攻撃を受けることに長けた龍だったのだ。 目が眩んでいてもがっしと組んでしまった瞬間、勝負は分からなくなってしまった。 わずか有利は蝉丸か。だがそれを耐える獅子鳩。火花が散るような力比べの始まりだ。 だが、押し相撲となれば、やはり甲龍が有利。 蝉丸、惜しいところで逆に押し負け、軍配は獅子鳩! 惜しくも敗れた蝉丸を、鈴木はねぎらいつつ、 「目立てたからいいでしょ」 と言えば、どこか蝉丸も満足そうに喉を鳴らして。 一方の獅子鳩。どっしりと大一番を勝利で飾った人気者に、からすはすっと近寄ると、 「お疲れ様」 そう声をかければ、獅子鳩は、キュルルルと声を上げて応えるのだった。 こうして相撲は無事終了。 お祭り騒ぎの一連の勝負が終わって、どうやら奉納相撲は大成功とのこと。 となれば、もしかするとこうした機会はまたやってくるのだろうか、そんなことを考えていれば。 「のう、皆々一緒に祭り見て回らんかのっ? 朋友たちも褒美欲しがり、人気にもなるじゃろうしなっ」 提案したのは行司もふらのいろは丸の相棒、音羽屋だ。 この提案を皆はもちろん快諾。 今日の名勝負をつとめた相棒たちの面々を連れ回し、その日は賑やかに祭りを楽しむのだった。 「これだけの仕事をしたもふから、美味しい食べ物を所望するもふ」 「そうもふ〜、もっふっふ〜、神父様〜、ご褒美ちょうだいでふ〜」 「今日はいっぱい食べるもふ〜!」 順にいろは丸にパウロ、そしてもふもふのもふら3人衆は、屋台の真ん中にでんと構えてこういえば。 「おう、さっきは楽しい相撲だったぜ! たらふく食わせてやる!」 「おや、そっちのは行司のもふらちゃんね! なかなかいい行司っぷりだったわよ!」 あっというまに人だかり。 皆が食べ物を持ってきてくれたようで、パウロの主、エルディンは白旗を上げずにすんだとか。 「へー、枇杷が好きなんだ〜。ちょっと待ってて、いま持ってくるね!」 こちらは礼野と鈴麗、どうやら子供たちに人気のようで、枇杷を貰ってご満悦。 「かっこいー!」「すげー!」 わんぱく坊主たちに人気名のはきらきら装備の蝉丸。 ますますふんぞり嬉しそうな蝉丸に、思わず鈴木は苦笑したり。 そして、からすは勝利力士の獅子鳩に子供たちを乗せて飛んで上げたりと大盤振る舞い。 「わかったわかった、あとでもふらたちと同じように沢山食わせて上げるからな!」 岩宿は、ほかみにねだられて、ちょっとなだめつつ、まずは子供たちの相手をしてみれば。 子供たちが次々にリンゴ飴やら水飴を持ってきてくれて、思わずほかみと一緒に困った顔をしてみたり。 「ねぇ、飴ちゃん買って、ね?」 「おや、美人の姉さんに美人の小さい嬢ちゃん! こっちに寄っといで! おまけするよ」 「わ、やったー! 飴ちゃんたっくさんだ!」 こちらは華角花魁と人妖の芙蓉。飴細工屋の主人から、良い相撲だったとお土産沢山とか。 そして、同じように向こうでは羽妖精の天詩と菊池が。 「ね、しーちゃん。もうちょっと聞いてて良い?」 「うん、お相撲頑張ったしね」 どうやら羽妖精の天詩は、祭り囃子がお気に入りのようで、くるくると夕闇の中の踊りを真似してみたり。 まだまだ祭りは続くようだ。 「梅雨晴れに 捧げて祭る ……杏飴」 ぽつりと、風流を好む変わり種のもふら、いろは丸が一句詠めば。 「杏飴あるもふか? まだ食べてないもゆよ〜!」 もふもふが思わず杏飴を探してみたり。笑い合う開拓者と相棒たち、それに芳野の人々。 そんな彼らを眺めながら、无はさらりと一筆。相撲の様子と彼らの様子を一枚の瓦版に仕上げるのだった。 試合の取り組みに、その流れ、試合後の盛り上がりにそれぞれの相棒たち。 丹念な筆致で描かれた彼らの様子は生き生きとしていて、その場に居るかのような文章ばかり。 「さて、これはあとで街に寄贈しましょうか。と、そのまえに、まだお祭りは楽しめそうですね」 そういって、龍の風天とともにまつりに加わる无と管狐。 街の人々と開拓者、それにそれぞれの相棒たち。 種族は違えど、祭りが楽しいのは皆同じ。 夜遅くまで彼らの大盛り上がりは続くのであった。 |