山登る鬼
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
無料
難易度: やや難
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/08/06 19:38



■オープニング本文

 山、それは畏怖を感じさせる聖域。
 人を寄せ付けぬ険しさと、その威風堂々たる景色は人に感銘を与えるもので。
 山そのものが、神聖なものであると考えられるのも不思議ではないのである。

 さて、武天の国の片隅にて。
 その土地の人間から、それと知られた立派な山があった。
 その山の頂上が六つに分かれているように見えるところから『六剣山』と呼ばれているとか。
 踏み込む人はそう多くないのだが、その土地の人間はその山を大事に思っているようである。
 だが、その山にアヤカシの姿が。
 鎧鬼と呼ばれる強力なアヤカシがその山で目撃されるようになったのである。
 どこからやってきたのか、それは分からない。
 しかし、いつの間にかその山の山頂付近に、その大きなアヤカシは、小鬼を従えて居座ったようである。
 いつ、そのアヤカシたちが山を下りてきて人に害を為すか分からない。
 それに、村人達からも大事に思われているその山に、アヤカシが住み着くことも困ったことで。

 そういうことで、依頼が出された。
 山に巣くうアヤカシを一掃してくれ。

 さて、どうする?


■参加者一覧
俳沢折々(ia0401
18歳・女・陰
木戸崎 林太郎(ia0733
17歳・男・巫
九重 除夜(ia0756
21歳・女・サ
立風 双樹(ia0891
18歳・男・志
巳斗(ia0966
14歳・男・志
柳生 右京(ia0970
25歳・男・サ
紫鈴(ia1139
18歳・女・巫
空(ia1704
33歳・男・砂
蔡王寺 累(ia1874
13歳・女・志
凛々子(ia3299
21歳・女・サ


■リプレイ本文

●夏の野山は青々と
 夏、青い空、白い雲、じめじめとした長雨の季節も終わり、蝉の声響く。
 山、木の緑、鳥の声、ただあるだけで畏怖を呼び起こす未踏の聖域。
 そんな季節、獣道しかないような山の麓に、開拓者が集っていた。
 数は10、皆装備を固めていて。
 登山前提の今回の依頼、脚周りの注意や、水分補給もぬかりなく。
 中には、資金難の開拓者も居るようだが、どうやら仲間の協力もあって装備は皆万全のようだ。
 しかも、通常の登山では無い。
 依頼の目的はあくまでもアヤカシ退治、ゆえに登山のための装備だけでなく武装も必要だ。
 身を守るための防具に、消耗品、さらには鋼の武器までも。
 ただ、彼らは常人ではない。
 志体を持つ開拓者だからこそ、常人なら不可能な装備を身につけて、こうして依頼に挑むことが出来るわけである。

 とにもかくにも、開拓者達は早朝から山登りをしていた。
「‥‥借金返済のためなら、山登りもつらくないっと‥‥遊郭送りは勘弁だな」
 ジルベリア渡りのブーツを履いて、ざくざく山道を上るのは凛々子(ia3299)。
 時刻は早朝、まだ朝露で草木は濡れている時刻、ちちちと鳥が鳴く声以外は開拓者たちの話し声だけ響く。
「遊郭送りだなんて‥‥大丈夫ですよ。いくつか依頼をこなせばすぐにでも‥‥」
 といいつつ、おはじきで歩いた道に印をつけているのは紫鈴(ia1139)。
 近隣の中では、それなりに厳しい山とはいえども、裾野には森が広がる六剣山。
 上の方は岩肌が覗くが、おおむね自然が豊かな山麓といえるだろう。
「全く、山の上なんて面倒な場所に出たアヤカシも居たモンだな‥‥猿と何とかは高い場所が好きってヤツか?」
 ヒヒッと軽口を叩く空(ia1704)は、面倒くさそうに山を登りつつ、ふと隣を見れば。
「‥‥‥‥」
 無言で登る九重 除夜(ia0756)が。
 仮面と鎧にその表情は隠されて、さっぱり分からなく。
「まァ、山登りも楽じゃねぇな」
 自分の顎をさすりつつ、山の頂を見上げる空であった。
 さて、ちょこちょこと小休止を挟みつつ進む一行。
 周囲に危険の気配は無く、のんびり山登りといった調子であれば、話に花が咲くのは道理で。
「山登りは大変だけど、悪いことばかりじゃないよね。一つに、一般人を巻き込むことが無い」
 俳沢折々(ia0401)はちょこんと倒れた木を椅子にして腰掛けて、そう言えば、
「ええ、全くですね。被害が出ないうちに知らせを受けることが出来たのですし」
 こくんと頷いて応える紫鈴。
 その横で、近場の猟師からもらった山の大まかな地図を広げつつ、山を見上げる蔡王寺 累(ia1874)。
「成る程、六剣山とは良く言ったものですね」
 確かに、山を見上げれば、峰がぎざぎざと 六つの頂点に分かれているようで。
 それぞれはそれほど高いわけではなく、まるで獣の牙のような形である。
 同じく、累の隣で山を見上げるのは立風 双樹(ia0891)。
 彼は、冥越の山村出身だとか、山は慣れたもののようで、若いながらもしっかりと準備をしていて。
「これからはますます道が険しくなりそうですね」
 竹の水筒に入れた水を飲みつつ、
「山登りを甘く見てはいけません。拙速よりも巧緻を重んじて下さい。山路は何が起きても不思議では無いんですから」
 そして、彼らは再び山を登り始めるのであった。

 山の裾野は、大きな木々が生い茂り、その枝葉に日光が遮られるのか木々のしたには落ち葉がつもるだけで。
 それほど草は多くないので歩きやすかったのだ、一行は斜面が徐々に級になる場所にさしかかりつつあった。
 崖という程ではないが、徐々に斜面がきつくなれば木々は減り、まばらに細い木が突き出すように生え。
 茂みや草が生い茂る斜面を一行はそれぞれの武器でがさがさとかき分けながら進むことになるのであった。
 獣道を上手くつかって、山の斜面を進みながら、まだそこまでの消耗は無く。
 無理して急がないこと、大人数で慎重に助け合いながら登ること、適当に休憩を挟むこと。
 用意周到な開拓者たちの策は問題なく機能しているようであった。

 山の様子は、森の中だった最初とは違い、遠くの景色まで徐々に見渡せるようになってきていた。
 自分たちが登ってきた山道を遠くに望み、連なる遠くの山々や谷を流れる小川の様子。
 まだ、生き物の気配の多い山の中、遠くからも近くからも、蝉の声がこだまし鳥の歌も聞こえて。
「‥‥はいきんぐは大好きですが、依頼ですから楽しむわけにもいけませんね」
 遠くの山に視線を向けて、巳斗(ia0966)はふと苦笑を浮かべつつ隣の木戸崎 林太郎(ia0733)に言えば。
「ええ‥‥しかしこういう景色を見ると、山は聖域だと改めて感じますね」
 急がず慌てず、しかししっかりと脚を動かして山を登っていけば、ますます景色は壮大に。
 遠くまで見渡せるということは、普段の生活ではなかなか出来ないこと。
 飛行船に乗ればまた違うのだろうが、人のみで下界を見下ろす気分になれる山にはやはり畏怖を感じるもので。
「だからこそ、畏れの象徴であるアヤカシが集うのでしょうか‥‥」
 林太郎はそう言って、山の頂に視線を向けるのだった。
 徐々に山の斜面には大きな岩が増え、木々が減っていた。
 足場も麓のように柔らかい土ではなく、ましては中腹のように草が生い茂るわけではなく。
 細かい岩と、そこに生える地衣類で滑りやすく、険しい足場となっていた。
 動物たちもそこまで数が居ないのだろう、鳥や虫の声も遠く。
 開拓者たちは、ひしひしと緊張感を感じるのであった。

 鋭く視線を周囲に向けるのは柳生 右京(ia0970)。
(周囲に気配は無い‥‥もう少し山頂の方か‥‥)
 最後の休憩を挟みながら、一行は戦いの気配に鋭く神経を張り詰めさせていた。
 一行はちょうど、岩肌が覗くようになってきた、山の7合目に探していた場所を見つけたのだ。
 険しい斜面が続く中、1カ所だけぽっかりとなだらかな場所があって。
 もしかすると、遙か昔に大きな岩がそこから崩れ落ちたりしたのかもしれない。
 山で戦う場合は、その足場が問題となる。
 急すぎる斜面では、武器を振るうことすら難しく。
 また、いかに開拓者といえど、斜面を転がり落ちるようなことがあれば、怪我は免れないだろう。
 ゆえに、まず重要視したのは足場の確保である。
 武器を振るうためにも、まず足場が無ければそれは出来ないことで。
 それは同時にアヤカシにも足場を与えてしまうことになる。
 しかしそれでも一匹で強大な力を持つアヤカシと戦うためには、数名で協力することが不可欠なのだ。
 よって、彼らはこの場所になんとか狙いの鎧鬼をおびき出すために行動を開始した。
 余計な荷物は、近くに隠し、武装だけをしっかりと身につけて、一行はまとまって探索開始である。

●鎧の鬼と開拓者
 始めに、その気配に気づいたのは双樹だった。
 開拓者10名は周囲に意識を配りつつ、一団となって移動中。しかし、山はなかなか視界が通らない。
 ゆっくりと進みながら、探すこと数刻、時刻は昼過ぎを回っていた。
 最後に休憩したのが、ちょうど昼頃だっただろうか。
 一行は進行速度を落として周囲の索敵に意識を集中、体力的には楽だが精神的には疲れるもので。
 そんな中、双樹が気づいた違和感は音だった。
 気温が変わるほどの高い山ではなく、まだ多少なりと木々はあるわけで。
 本来ならば、まだ鳥の声は聞こえるはずであった。
 だが、一行が踏み込んだその一画では、不思議と鳥の声が聞こえず。
 そのことに気づいた双樹は、そっと刀に手を置いて。
 そうすると、周囲の開拓者達も異変と違和感に気づく。
 にわかに走る緊張、そして次の瞬間。

 グルゥゥォォオオオオオ!!!!
 飛び上がる影。
 一行の居た斜面からわずかに下に居た巨大な影が、駆け上がりながら飛び上がってきた。
 手にした巨大な鉞と、全身を包む鎧、鎧鬼である。
 その周囲には、小鬼の姿も。
 小鬼は斜面に阻まれて、集まりが悪いようだが、それでもぞろぞろと姿を現して。
 一瞬の虚を突かれた開拓者達、しかし、隙は見せなかった。
 鎧鬼に向かう三つの影。
「‥‥さて、鬼退治と行こうか」
 太刀を抜き払い、鎧姿の除夜が前に出て。
「成る程、楽しめそうな相手だ‥‥」
 右京はぴたりと業物の先を向かってくる鎧鬼へと向けて。
「ククッ‥‥さぁて、これが本当の鬼ごっこ、手のナル方へってか」
 槍を構える空は不敵に笑う。
 鎧鬼の一撃は、当たれば肉が爆ぜ、骨が砕ける一撃だ。
 振るう鉞の一撃が、岩を削り砕く様子を見ればそれは分かる。
 だが、この場所では、一行は連携して鎧鬼と戦うことが出来ない。
 戦うための場所におびき寄せるための、決死の鬼ごっこが始まるのであった。

 鎧鬼と切り結ぶ三名に先行して、退きながら小鬼を迎撃する後衛とその護衛達。
 彼らは、遊撃として動く開拓者とも連携して、急ぎ道を戻っていた。
 幸いにも、縄を使って登らねばならないような急峻な斜面は途中にない。
 しかし、脚を踏み外せば危険な山道が続き、弱い小鬼といえども危険は十分だ。
「古来より鬼退治は人の仕事‥‥宴は終わりだ、去れアヤカシ共!」
 居合一閃、双樹は迫ってきていた小鬼を一刀で切り伏せて。
 小鬼達は、ぞろぞろと群れてきているのだが、幸いに連携するほどの知恵は無く。
 小柄さを生かして器用に山肌を駆け上ってくるのだが、各個撃破の良い的であった。
「ここで苦戦するわけにはいきませんしね。確実に、潰してやります‥‥燃えろ‥‥!」
 炎を纏う業物を振るうのは累。
 周囲が狭く、後衛を守りつつ戦うために、基本は防戦だ。
 しかし小さい体で器用に業物を振るって、小鬼を牽制、そしてそんな小鬼には。
「そら、ちょっとびりびりするよ?」
 召還したのは雷を操る式、折々の式が小鬼に直撃すれば、脚を滑らせた小鬼は、斜面を転がっていって。

「どうやら、鎧鬼は一匹だけのようですね‥‥それならばっ!」
 きりりと引き絞った弓から放たれた矢は、小鬼を射貫き。
 足場が悪ければこそ、矢はかなりの威力を発揮しているようで。
 おもしろいように小鬼達は斜面を転がりあっという間に数を減らして。
「ああ、小鬼をさっさと倒せば加勢ができるな。さぁ、小鬼ども、かかっておいで!」
 咆哮を上げて、小鬼をおびき寄せつつ凛々子は刀を一閃。
 そして後衛一行はやっと予定の場所へと戻ってくることに成功した。
 もし、彼らが自分たちに有利な場所で戦おうとせず山肌で戦っていたら?
 その場合は、個の力で勝る鎧鬼に一人、また一人と討たれていたかもしれない。
 もし、役割分担をはっきりさせていなかったら?
 その場合、個々が分断されて、各個撃破されていたかもしれない。

 そして、戦いの場にて、小鬼はまだ数がいるようであったが。
「来たわ、なんとか持ちこたえているみたいね」
 遅れてやってきた鎧鬼を引き寄せる三名の仲間を見て、つぶやく紫鈴。
 彼女は、小鬼に対して力の歪みを放ち、牽制していたのだが、援護のために位置を変えて。
「小鬼もだいぶ倒しましたし、間に合いました‥‥」
 同じく力の歪みを放って、林太郎が小鬼の体勢を崩させれば、そこに巳斗の矢が命中し。
「コイツで最後、だったら‥‥」
 最後の一匹とおぼしき小鬼を累が切り伏せて、その瞬間ちょうど、鎧鬼と三名の開拓者達も合流。
 いよいよ、鎧鬼討伐の本番である。

 無理に急いで山間をかけてきたせいか、鎧鬼に対峙していた、空、右京、除夜の三名は所々に怪我を負っていて。
 しかし、なんとか無事に、予定の場所に合流、ここではなんと10対1という構図である。
「ヒヒッ、もういいのカァ?」
 にたりと笑みを浮かべる空、防御の要であった彼は怪我が多めだったが、すぐさま紫鈴の癒しの風が。
 槍を構え直し、戦意十分な空を前に鎧鬼も攻めあぐねているようで。
 それと挟み込むようにして除夜、他の二人に比べると小柄ながら、やっと足場をしっかりと得て。
 重心を低く、力強く地を踏みしめて構えるその姿には迫力があり。
 そして正面の右京、いよいよ開拓者側の迎撃態勢が整い。
「前に戦った死人は痛みを感てはいなかったが‥‥貴様はどうだ」
 その言葉と共に、反撃は開始された。

 まずは紫鈴と林太郎、二人の巫女による援護が開拓者達を強化する。
 そして、小鬼達を掃討し、まだ小鬼が残っているときのために警戒する累と凛々子に背中を任せて後衛も協力。
 巳斗は、ひらりと足場を駆け上がると、一同を見下ろせる岩の上から弓を引き絞り。
「まずは一撃っ!」
 開拓者相手に切り結んでいた鎧鬼、予想外の位置から放たれた矢の一撃には不意を打たれて、命中。
 鎧の合間を穿つ一撃であった。
 さらに、追撃。
「ずいぶんと頑丈そうな鎧だけど、わたしのビリビリ攻撃は耐えられるかなっ?」
 折々の放つ雷撃の式、矢で不意を突かれた鎧鬼にそれに抵抗する術は無く、紫電が命中。
 続くのは飛燕の一撃。
「立風の居合は刹那の一刀。目で見てかわせると思うなよ化生‥‥!」
 双樹は、前衛の援護、走り込んでは神速の居合い、さらに妙技によって刀を鞘に戻し、なんと居合いの二連撃。
 さすがのこの連続攻撃には鎧鬼もぐらついて。
 しかし、鎧鬼もさるもの、踏みとどまって鉞で双樹を狙うが。
「オマエの相手は俺だぜェ?」
 鉞の一撃を受けて、そらす槍の一撃。空は炎を武器に纏わせて、さらに脚を狙って横なぎの一撃。
 膝をつく鎧鬼、その横手に立つのは、深紅の鎧の除夜だ。
「来夜流‥‥岩切」
 大上段から振り下ろされる刀が鎧ごと砕けとばかりに胴を袈裟斬りにして。
 砕ける鎧、そしてそこに。
「我が刃よ、奴の身を貫き‥‥喰らい尽くせ!」
 踏み込んで刀で放った直閃は、鎧鬼ののど元を深々と貫いて。
 ゆっくりと崩れ落ちる鎧鬼、倒れればその体は徐々に瘴気へと化して消えていき。
 一行は無事、鎧鬼を討ち果たし、その滅びを確認しながら、やっと一息つくのであった。

●結び
「やれやれ、またこれから山を下りないとならないってのがつらいな‥‥」
 と、凛々子。手にしたみかんの果汁を煽りつつ、それでも、軽口をたたけるのは無事に依頼が終わったからで。
「無事、災いの芽は摘めたようですね」
 累も一息、あのあと、休憩もそこそこに残党を討ち漏らしがいないかを確認した一行。
 どうやらもうアヤカシの気配は無いようで、やっと山を下りるようだ。
「‥‥やっと景色が楽しめるね。今度は、依頼抜きで来たいところだよ」
 ふっと笑みを浮かべて折々がそういえば、一行は慌てて夕日が沈んでしまう前に下山しはじめて
 そんな中、見晴らしの良い場所から折々はさらさらと一句。
「鬼討ちて 得たる報酬 絶景か」
 無事、依頼は成功、開拓者達は、山の景色を楽しみつつ、山を下りるのだった。