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■オープニング本文 山の天気は変わりやすい、とは良く言う話だ。 だが、今回はその天気の変わりやすさが命に関わる。 貴方は、たまたまその雪深い理穴の山中にいた。 訓練のため? アヤカシを追って? それとも観光? 理由は様々にあるだろう、だがその結果、ひどい猛吹雪に遭ってしまったのだ。 ちょっと先の視界も効かないほどの猛吹雪にはさすがの開拓者でもどうにもならない。 さらにまずいのが気温の低下だ。 いかに優れた生命力を誇る開拓者でも、この寒さは命に関わる。 何とかしなければ、いずれ食料も尽きてしまうだろう……。 そんな貴方は、雪の中一筋の希望を見つけた。 吹雪の向こうに微かに浮かび上がる明かり、人家の灯だ。 雪をかき分け、貴方はやっとその場所にたどり着いた。 そこは、山中に一時避難のために作られた小さな小屋だった。 炭焼きなどにも使われているのだろう、幸い暖を取るための薪は豊富にあるようだ。 だが、問題なのは食糧だ。 非常に強い吹雪はなかなかに止みそうに無い。 特に山の中腹から麓にかけて、強い風が吹き続けているようで下山するにはしばらくかかるだろう。 そんな中、少ない食料でなんとか生き延びる必要があるのだが……。 だが、それだけでは無いようだ。 開拓者の一人が語るには、この近くでアヤカシの氷人形が出るとのこと。 氷で出来た巨大な人型のアヤカシ、アイスゴーレムとも言われる強敵だ。 このままのんびりとこの小屋にいては、襲撃を受けてしまう可能性がある。 やっとの思いでたどり着いた貴方だったが、あまりやすんでいる暇は無いようだ。 食料の確保と、アヤカシの撃破。 小屋の周囲の吹雪は多少弱まってはいるものの、その二つをまず片付けなければならない。 さて、どうする? |
■参加者一覧
相川・勝一(ia0675)
12歳・男・サ
からす(ia6525)
13歳・女・弓
ネオン・L・メサイア(ia8051)
26歳・女・シ
利穏(ia9760)
14歳・男・陰
郭 雪華(ib5506)
20歳・女・砲
アルセリオン(ib6163)
29歳・男・巫
巳(ib6432)
18歳・男・シ
アナ・ダールストレーム(ib8823)
35歳・女・志 |
■リプレイ本文 ●予期せぬ客たち 「珍しい物が見れると雪山を登ってみればこの様だ」 雪の中ぼやきながらすすむのはアルセリオン(ib6163)だ。 手にした魔杖「ドラコアーテム」も今は、体を支え足場を確かめる役目に使うしかない。 そう、彼は遭難一歩手前であった。 「甘く見た訳ではないが、僕とした事が油断したようだ…」 巫女の技・あまよみによる天候予測を習得しているアルセリオンですら、この急変は予想外だったよう。 彼の目に映ったのは、吹雪の中にうっすらとともる灯りだった。 「む、灯りだ。これは九死に一生を得たというところか……」 急いで進み、がらりと板戸を開くのだが、 「……きぐるみ? 僕は寒さで夢でも見ているんだろうか」 土間から少し離れた囲炉裏端にて、入り口を振り向く数名の人影。 なぜか大半が着ぐるみ姿、思わずアルセリオンは数度瞬きをするのだった。 アルセリオンが小屋へとたどり着く少し前、小屋の中ではこんな会話が。 「それにしても偶然集まった皆が何故……そろいもそろって着ぐるみを?」 もっともな疑問を口にしたのはすでに小屋にたどり着いていた利穏(ia9760)だ。 「巫山戯ているわけではない。まるごとの防寒性能は先の合戦でも実証されているのだ」 しれっと言い放つからす(ia6525)だ。だが、彼女の装備は着ぐるみの「まるごとからす」だ。 「からすさん、それって……」 「………フッ。からすがまるごとからすを着ている、と?」 「ええ、まんまですし」 じと目の中、からすは堂々と、荷物から取りだしたもの、それは。 「ふざけているわけじゃないぞ? ここに、まるごとにゃんこもある。如何?」 とのこと。どうにも本意のつかめないからすであった。 「それにしても……これだけ揃うと着ぐるみ博覧会、ですね?」 あははと笑いながら、自分もまるごととらさん姿な相川・勝一(ia0675)。 そんな相川をもふもふと抱きかかえて暖を取っているのはネオン・L・メサイア(ia8051)だった。 「ふむ、吹雪かれるとはな……我とした事が迂闊だったが、これも試練だ」 そして、しばしもふもふもふと相川を撫でてみて。 「うむ、それにしても暖かい。なかなか良いものだな」 「ね、ネオンさんちょ、何をー!? は、恥ずかしいのですけど!?」 目を白黒させつつ赤面するという、なかなかに器用な反応をする相川であった。 そして、着ぐるみ博覧会だという相川の言葉の通り、そこにはもう二つ着ぐるみがやってきた。 「あーあ、参ったなぁこりゃ。まさかこんな面倒に巻き込まれっとはなぁ………春が間近だってぇのによ」 ぼやきつつ雪まみれで現れたのは巳(ib6432)だ。 からすと違いこちらは名前と異なるまるごとふくろう姿だ。 そんな巳は、意外と動きやすいというまるごとふくろうから雪を払って、ほうとため息と一つ。そして 「どうせ吹雪くんなら桜にしてもらいてぇもんだ」 そういって小屋の中を見れば、びっくり顔の面々に思わず巳も面食らってみたり。 見つめ合うまるごとふくろうとまるごととらさん&まるごとからす。非常に不可思議な光景である。 そんなときに、最後の着ぐるみがやってきた。 「うーん、山の天気はほんと読めないわね。迂闊だったわ……あら、着ぐるみがいっぱいね」 むぎゅっと入り口に引っかかりつつ小屋に入ってきたのはアナ・ダールストレーム(ib8823)だ。 だが、おそらく彼女がだれなのかは他の開拓者たちにも分からなかっただろう。 なぜなら彼女はすっぽりと闇目玉を模した着ぐるみに包まれていたからだ。 外から小屋へと雪まみれで現れた闇目玉、それに押されてぽてっと転がりかける着ぐるみフクロウ。 それを見ているのは、女性開拓者に抱かれたまるごととらさんと、正座してお茶を啜るまるごとからす。 そんな光景に、先に小屋で暖を取っていた開拓者最後の一人、郭 雪華(ib5506)は 「何でまるごとシリーズなんだか……。特にやみめだま……シュール以外の何物でもない……」 とぽつり。まったくもって正論だが、そんなときに、登場したのがアルセリオンだった。 「……きぐるみ? 僕は寒さで夢でも見ているんだろうか」 思わずこぼれたアルセリオンの言葉だったが、応えたのはまるごとからすだ。 「いや、夢でも妖精さんの集会場でも、ましてや魑魅魍魎の会合でもないぞ」 そういって、再び手にしたのは、余ったまるごとにゃんこだ。 「防寒性能に優れたまるごと装備が集まったのは偶然……そう、偶然なのだよ。幸い予備がある。如何?」 そう言われ、からすにじっと見つめられるアルセリオン。彼は思わず首を横にぶんぶんと拒否の構え。 するとからすは、残念そうに一同を振り向いて。 「……ふむ、暖かいのだがな。ではネオン殿は如何?」 「うむ、私でも着られるだろうか?」 「えええ、ネオンさん、着るんですか!?」 「……なんだ勝一、問題でもあるのか?」 ということで、開拓者八名のうち、なんと五名がまるごと装備に身を包むこととなるのだった。 ●役割分担 「とりあえず、アヤカシの反応は無いようだ」 鏡弦を使用して、周囲を索敵するからす。 とりあえず一息ついた開拓者たちは、獲物を探すために出発しようとしていた。 「水に関しては……周囲に要らないってくらいありますけど、食料は必須ですね」 近くの木に印を付けている相川。 「動物の足跡をたどれば、食用植物の群生地なども見つかるかも知れないな」 こちらは、天気を確認するために空を仰いでいるアルセリオン。 「こうして純粋に狩りを行うのも久々だな」 そして最後は、弓を手に楽しげなネオンであった。 幸い、天候は落ち着いているようだ。まだちらちらと雪は降っているものの、強い風は収まっている。 山裾の方に目をやれば、木々の合間から見えるのは、もうもうと舞っている地吹雪。 まだまだそちらは収まらないだろうという感じで、とりあえず一行は獲物を探しに出るのだった。 一方、小屋に残された方も、忙しく働き始めていた。 「罠……や工作された後はありませんね。数週間前にも人が来てたのでしょう」 小屋の中を見て回っていた利穏はそう言えば、皆も確認を終えたようで。 「じゃ、まずは……とりあえず罠でも作っておくか。この雪だから、ダメ元だけどなぁ」 小屋内の資材を見て回る巳。彼は郭やアナと罠の準備をするようだ。 「しかし……罠は何を? この深い雪……鳴子は雪で鳴らなくなるかも……」 郭の言葉にしばし頭を悩ませる三名。それを尻目に利穏は炊事場を確認して。 「うーん。暖まる料理が作りたいところですが……獲物が捕れると良いですね〜」 そうのほほんとほほえむのだった。 獲物探し中の一行は、すでにいくつか食材を見つけていた。 雪深い山といえども、雪の積もり方には多少の差異があるのだ。 「ふむ……これは食べられるものですよね?」 アルセリオンが見つけたのは、雪の薄いところから伸びている野蒜だった。 一応からすの野草図鑑で確認して、まずはそれを入手。 「わ、こんなところに洞窟が。食べられるキノコでもあるかな?」 相川が率先して洞窟を探せば、いくつか食用のキノコが見つかったり。 そして、この季節ならばと、渓流沿いを探して一同が見つけたのは蕗の薹だ。 こうしてある程度の量が集まったのだが、やはりこれでは物足りない。どうしたものかと思っていると、 「……ふむ、足跡があるな。これは何かに追われて逃げている鹿か……」 それに気付いたのは、狩人のネオンであった。 見れば離れた間隔で雪に刻まれた小さな痕跡が。 「逃げている、ですか?」 アルセリオンがそう聞けば、頷くネオン。 「ああ、こうして間隔が開いていると言うことは、普通では無く跳ねるように移動していたと言うことだ」 「なるほど。それじゃあ、これを追って鹿を探しに行きますか?」 そう尋ねる相川だったが、なんとネオンは首をかしげて、もう一人の弓使いからすに尋ねた。 「たしかにそれも一つの手だが……もう一つ選択肢がある」 ほほえみを浮べるネオン、それに応えてからすは。 「うむ、鹿が何かから逃げているということは……鹿を追う何かがいるということだ」 そういって、鹿の逃げ去った向きと反対側を見据えるからすとネオン。 どうやら二人の弓使いの狙いはさらに大物のようで。 「……アヤカシ、でなければ、挑戦してみましょうか」 アルセリオンの言葉に、一同は頷いて。ゆっくりと雪をかき分けて進んでいくのだった。 ●穏やかな囲炉裏の側で 「あら、戻ってきたみたいね。どうやら大猟だったみたいよ」 そろそろ暗くなり始める夕刻手前、外で罠を仕掛けていたアナは仲間の姿を見つけて手を振って。 「ただいま戻りました。……罠ですか?」 「色々考えたんだがな。雪に左右されねぇように落とし穴と鳴子を組み合わせた、ってとこだな」 相川の言葉に応える巳。罠は穴に何かが落ちれば、縄が引かれ鳴子がなる仕掛けのようだ。 「一応、小さく目印の棒が立ててあるから、落ちないようにな……ところで何が取れたんだ?」 山菜やキノコの他に彼らが抱えているのは、毛皮に包まれたひとかたまりの肉だった。 「ああ、こちらは熊肉です。血がアヤカシを呼ぶといけないですからね。向こうで解体してきました」 アルセリオンが言うように、彼らは熊を発見しそれを倒し、解体してきたようだ。 「さすがに全部は持ってこなかった。量も多かったし、一部を森に返すのも狩人の定めというところだな」 そういって、熊の毛皮に包まれた塊をほいと手渡すネオンたち。 「それじゃあ、私も利穏さんを手伝ってくるわね」 肉や山菜を受け取ったアナは、一足先に小屋へと戻って。 残る面々も罠を確かめ、雪を払って。ちらちらと雪が降り続ける中、一同はやっと一息つくのだった。 小屋の中はすでに十二分に温められていた。 開拓者たちは思い思いに、外套やまるごと装備を乾かしながら、囲炉裏端へ。 利穏やアナが用意したのは鍋だった。 新鮮な熊肉と野蒜やキノコ類も手に入ったからにはやはり熊鍋が一番というわけだ。 一同、出来たての鍋に箸を付けようとすると、アナが言った。 「知ってる? 食べる時にいただきますというのは、貴方の命を頂きます。という意味があるそうよ」 アナのそんな言葉に、改めて開拓者たち一同は目の前の鍋に視線を向ける。 今回、個々に集まった面々は、遭難しかけたもののこうして、暖かい食べ物まで準備することが出来た。 「だから感謝しないとね。それにちゃんと残さずに食べないと、失礼よね」 「うむ、命の糧に感謝」 からすがそう答えれば、一同もそれぞれの形で応えて、のんびりと夕餉が始まるのだった。 はじめはどうなることかと思ったが、とりあえず何とか命をつなぐことは出来たようだ。 となれば、後は最後の心配事だけ。この近くに居るというアヤカシ、氷人形に関してだけである。 そんな一同を、壁際に並んで見守る乾燥中の着ぐるみたち。 「ん? どうしたんだぁ?」 食後に、ごろごろしながら煙管をくゆらせていた巳は、神妙な面持ちのアルセリオンに声をかけた。 すると、アルセリオンは、その視線を壁際の着ぐるみから巳に向けて。 「……僕は、珍しい物が見れると聞いてこの雪山を登ってみたのだが」 そう言いながら、アルセリオンは壁際に並んで、くてっとなっている着ぐるみを指しながら。 「珍しい物とは、あのきぐるみのことなのだろうか、と思ってね」 「まぁ、確かにこれも珍しい光景ではあるな」 くつくつと巳は笑いながら応えるのだった。 ●決戦のち下山 「……来ましたか」 はっと立ち上がる郭。からんと小さくなった鳴子の音に開拓者たちは皆同時に気付いた。 すでに小屋にやってきてから四日目、アルセリオンのよれば、明日には天候が収まるというその日の朝。 罠に反応があり、寝ていた仲間を含め、全員が一斉に準備を始める。 アルセリオンの瘴索結界、利穏の人魂、からすの鏡弦に巳の超越聴覚。 索敵用の技を同時に発動させ、一気に場所を特定する。油断無く毎日準備をしていたからこその早業だ。 「雪とは言え塗れたら使い物にならないからね……」 郭が、銃に耐水防御を施しながら、外に出れば、まだ薄暗い朝の山、その姿はあった。 罠の落とし穴に足を取られて動きを止めた氷の巨人だ。 「この状況で小屋を破壊されたらたまらん。お前の相手は俺がしてやる!」 「私、割と楽しみにしてたのよ。……私の燃える心とこの剣の攻撃に耐えれるかしら。いくわよ!」 まず飛び出したのは相川とアナだ。 二人は後衛の盾になるために一気にゴーレムへと襲いかかった。 足を狙う郭、からすやネオンの援護射撃にあっという間にゴーレムは疲弊していく。 だが、それでも開拓者たちは油断していなかった。 「……敵は一体だけでしょうか?」 「いえ、もう一体来ます」 利穏の言葉に応えるアルセリオン、油断無く準備していた瘴索結界がもう一体を捕らえたのだ。 それに応えたのは、 「お、じゃあそっちは俺が迎え撃つぜ。間違えて俺を撃たねぇでくれよ」 にやりと笑った巳がまず飛び出した。彼は二体目を上手く誘導し、同士討ちを狙う。 二体目はまんまとその策にひっかかり、足を取られた一体目に拳を放つ。 避けようとする一体目だったが、 「意味もなく同じ所を狙っていたわけじゃない…」 郭の射撃が一体目の足を穿った。体勢を崩し避け損なう一体目。 そしてだめ押しのように、二体目の目には矢が飛来する。放ったのはネオンだ。 「備えあれば憂いなし、と言うからな」 その連携で、一体目は同族の拳で粉砕されるのだった。 そして残る二体目はこうなってしまえばあとは集中攻撃の的だ。 「……塵と化し消えるが良い」 そのからすの一撃に、ついに二体目も粉砕され瘴気へと帰るのだった。 そして何の憂いもなく最後の一日を開拓者たちはのんびりと過ごすこととなる。 明日には、山を下りることとなるだろう。ならば少し気を抜いても平気というわけで。 「……やっぱりこの光景が珍しいもの、かもしれませんね」 アルセリオンが見ているのは、からすの持ち込んだ花札をしている仲間たちだった。 ちなみに、ふくろうとからす、闇目玉にとらさんが現在は勝負の最中のようだ。 そんな光景を見て、郭がぽつりと、 「やっぱり雪山に闇目玉はシュールだね……一緒にギルドに持ってけば追加報酬でももらえるかな」 そんなつぶやきに、思わず利穏やアナが噴き出したり。 そして次の日、無事に彼らは山を後にするのだった。 こうして奇妙な数日間は終わった。本来ならば、山小屋での静かな日々になったのだろうが……。 「なかなか興味深い経験だったな」 ネオンが言うように、どうやらまるごと装備の印象がすべてを持って行ってしまったようだ。 |