|
■オープニング本文 泰国、群島から成る国であり、南部は非常に暖かいことで知られている。 その南方の群島を廻る小さな商船が今回の舞台だ。 泰国にも飛行船はもちろんある。だが、貨物の関係もあり普通の船ももちろん豊富。 島々を回り、商売をし、また時には人を運ぶ。 そんな中型の商船に、あなたたち開拓者は乗り込んでいた。 季節は冬だ。だが泰国の南方は常夏の季節。 海は青々と、夏のように晴れ渡り、船上を吹き抜ける風も暖かい。 長袖なんてもってのほかだ、このまま泳いでしまいたいぐらいの気候である。 だが、そうのんきなことも言ってられないようで……。 何の因果か、どうやらこの船、偽装した武装海賊船だったようだ。 海をゆく商船を狙う海賊船、乗っている者たちは皆、賊だった模様。 そんな商船に乗り込んでしまったのがあなたたち開拓者だ。 ちょっと他の島まで運んで貰うつもりだった? たまたま募集が出ていた料理番の仕事をやる予定だった? 密航しようと荷物に紛れていた? 理由はそれぞれ様々だろうが、気付いたときには陸の見えない海の上。 周りはすべて、どこからどう見てもかたぎでは無い海賊ばかりである。 海賊たちはあなたたちに問う。 「運が悪かったな! おまえらには二つ選択肢がある」 ぴっと指を一本立てる海賊の船長。 「ひとつめ、金目の物を渡してから、おとなしく海に飛び込んで、鮫の餌になる」 海を指さしてから、ぴっと二本目の指。 「ふたつめ、俺たちの仲間になる。あ、女は特に優遇してやるぜ」 げらげらと笑いながら、そう言い切った海賊たち。 だが貴方には三つ目の選択肢がある。 こいつらをぶっ飛ばして船を奪うという選択肢だ。 改めて聞く必要はなさそうだが、一応聞いておこう。 さて、どうする? |
■参加者一覧
浅井 灰音(ia7439)
20歳・女・志
瀧鷲 漸(ia8176)
25歳・女・サ
エメラルド・シルフィユ(ia8476)
21歳・女・志
レヴェリー・ルナクロス(ia9985)
20歳・女・騎
ロック・J・グリフィス(ib0293)
25歳・男・騎
フィリー・N・ヴァラハ(ib0445)
24歳・女・騎
猫宮 京香(ib0927)
25歳・女・弓
シーラ・シャトールノー(ib5285)
17歳・女・騎 |
■リプレイ本文 ●南海を進む船は揚々と 「……なんて汚い厨房なのかしら。許せないわね」 怒り心頭で厨房を見回すシーラ・シャトールノー(ib5285)はこの船の新人料理人だ。 「厨房の精霊の怒りが聞こえてきそうだわ。まずは徹底的に磨かないと……ん?」 と、腕まくりをするシーラだが、なにやら船上が賑やかだ。 どうやら誰かが闘っているらしい。怪訝な顔をするシーラだが、食堂にいた下っ端海賊は、 「ああ、料理番のねーちゃんは知らなかったか? この船は海賊船なんだ。ま、おとなしくしてりゃすぐ片付く」 そういって、自分も出て行こうとするのだが、 「……なにそれ。約束が違うじゃない。そんな話、聞いてなかったわよ」 シーラの手には鍋蓋と麺棒が。 彼女はゆっくりと、背を向けて食堂から出て行こうとする下っ端の背後に立つのだった。 騒動の原因は、甲板上の1人の男だった。 「運が悪かったと思ってあきらめるんだな……って、話を聞きやがれ!」 「……無粋なやつらだ」 ぼそっとつぶやいて、自前の寝椅子から起き上がるロック・J・グリフィス(ib0293)。 だが、つぎにロックが口にした言葉は、手下たちの予想を超えていた。 「……まあいい。船長のところに挨拶に出向かねばならんな。案内を頼む?」 「はぁ? お、おまえは開拓者じゃ無いのか? ……同業者か!」 勝手に勘違いする手下。 「い、いや。たとえ同業者でもなんでハゲンのお頭に会わせる必要があるんだ!」 「ふん。こんな所でのんびり寛いでる事自体、変だと思わなかったのか?」 ぐっと下っ端は言葉に詰まる。 「素直に案内せねば、ハゲンにどやされるのはおまえらの方だぞ」 「お頭と知り合いなのか……しかたねぇ、ついてきな。ああ、だが武器は預からせて貰うぞ」 「わかったわかった。早くするんだな」 ハゲンの名前を出されては、下っ端はおとなしくロックを先導。もちろん、すべてロックのはったりだ。 武器をおとなしく渡したが、ロックの手には盾が。彼は悠々とハゲンの所に向かうのだった。 船室にて。 船にとって水は貴重なものだが、ここでそれを贅沢に使う1人の女性が。 豪奢な湯船にお湯を張り、入浴中の彼女はエメラルド・シルフィユ(ia8476)。 じつはその豪奢な湯船、海賊が他の客船から盗んだものだったのだが、それはそれ。 わざわざお湯を厨房から運んで優雅に入浴中の彼女は少々不機嫌のようで、 「まったく、人の体ばかりじろじろと見おって、虫の好かん船員たちだ……む? なにやら騒がしいな」 物音や怒声に気付いてざばりと湯船から上がるエメラルド。 濡れ髪をばさっと振るいつつ、服を身につけて。そこにやってきたのは、下っ端たちだ。 「へっ、こんな時に入浴中とは……って、もう上がってたのか。チッ」 残念ながらサービスシーンには間に合わず、舌打ちする下っ端2人。 「なるほど。この船は海賊船だったわけか。ならば船員に品が無いのも頷ける」 エメラルドは余裕の表情でそう答えれば、挑発された下っ端海賊2人は 「……てめぇ、武器も無いのに余裕じゃねぇか。へっ、強気な女も悪かねぇぜ!」 と、襲いかかろうとした。しかし一閃、丸腰のエメラルドから放たれたのは雷の蹴り。 それが1人を打ち倒す。遠距離から放たれたそれに驚くもう1人。 その隙に距離を詰めたエメラルドは、今度は精霊剣で燐光を帯びた拳で、残る1人を撃破。 「やれやれ、やはり下品極まりないな。さて、これも主の思し召し。海賊どもを捕らえよとの導きだろう」 心眼を使いつつ、静かにエメラルドは移動し始めるのだった。 ●海賊たちの受難の日 「おとなしくしてな! おまえらが開拓者だってことはわかってるんだぜ。運が無かったな!」 船室の戸をばーんと開けて踏み込んでくる数名の海賊。彼らの狙いは船室内の女性2人だ。 2人とも、妙齢の女性。開拓者だろうが装備が無ければ、数の多い海賊たちが負けるはずはない。 おそらくは良い思いをしようとやってきたのだろう。どいつも好色そうな顔で2人を睨め付けていて。 「……そんな。うそ……」 はらりと涙すらこぼしつつ、崩れそうになる方は猫宮 京香(ib0927)。 「大丈夫よ、京香。私が守ってあげるわ」 そう、強く言ったのはレヴェリー・ルナクロス(ia9985)だ。 「おーおー、美しい友情だねぇ? でも、どうするつもりだ? まさか素手で切り抜けるつもりか?」 笑い声を上げる海賊たちだが、その前にふらりと近寄るレヴェリー。 思わず海賊の1人が、船上用の短弓を構えるのだが。 「……おねがい。彼女にはひどいことをしないで。……わ、私はどうなってもいいから!」 そうレヴェリーは言ったのだった。 うら若い女性の涙の嘆願。しかもレヴェリーは普段着、蒸し暑い泰国の夏向きの薄着姿だ。 その薄着をぐいと押し上げているのはレヴェリーの豊かな胸。 ごくりと生唾を飲み込んで、いやらしい笑みを浮かべた海賊たちは、 「ふーむ、そうまでいうなら……まぁ、悪いようにはしねぇけど、それはお前の働きにかかってるなぁ」 にやにやと海賊たちはそういって、きっと頭の中は桃色な想像で一杯なのだろう。 思わず部屋にやってきていた3人の海賊は、レヴェリーの姿を上から下までなめ回すように見つめて。 仮面をしていても、たぶんわかる美貌、豊かな胸、そして短めの裾からすらりと伸びた足……。 その足が目にも止まらぬ速度で跳ね上がって、戦闘の海賊の急所に膝蹴りをたたき込んだ! ぐぅ、っと白目でぶくぶく泡を吹いて崩れ落ちる海賊、なにが怒ったのか判明する前に、次の一撃。 レヴェリーは、スタッキングで短弓を持つ海賊に接近、下顎に掌底一撃で昏倒させ弓を奪った。 その弓をレヴェリーは泣き崩れていた京香に投げ渡す。もちろん、2人の行動はすべて演技だ。 弓を受け取った京香はにっこりと笑うと、 「良い思いが出来なくて残念でしたね〜。代わりに、しっかりと急所を撃ち抜いてあげますね〜♪」 そういって弓を引き絞る。不利を悟った最後の1人は逃走しようとするのだが、 「逃げると……もっとひどいですよ〜?」 そういって、放った矢はとすっと急所間際に突き刺さり、賊を壁に縫い止めた。 「……次は、急所に当てますよ? そっちの方が良かったでしょうか〜」 ぶんぶんと首がもげそうな速度で首を振る海賊。 それを取り戻した剣を鞘に収めたままゴツンと叩いて気絶させたレヴェリーは、 「京香に連れられての旅……無事に終わると思っていたけど、甘かったわね」 そういって肩をすくめるのだった。対して京香は 「あらあら、まったり船旅のはずが面白い事になってしまいましたね〜」 「……まあ、他の開拓者も居るみたいだし、海賊たちには不運よね。それじゃ、行きましょうか」 そういって、レヴェリーは装備を京香に渡し、2人は甲板に向かうのだった。 船内を賑わす怒号と戦闘音、それはひとりの女性を追う者だった。 追われているのは浅井 灰音(ia7439)。覇気なく剣を手に、船倉を走っていた。 追っているのは数名の海賊、なかなかの手練れのようだが、本来ならば灰音が苦戦する相手ではない。 しかし、どうやら灰音は本調子じゃ無いようだ。剣を手に、海賊の攻撃を受け流して、 「……ここは海賊の船だったのか……それなら、闘うしか無いか……」 しかし、やはり剣は重く感じられ、受け流すのが精一杯。このままでは、と思われたのだった。 逃げながらやっと甲板上に出た灰音、だが、そこに居たのは数名に囲まれて闘う知己の姿だった。 「温いな! そんな攻撃じゃ、この魔神には傷一つ与えられないぞ!」 ハルバードを振り回し、数名を相手取っている瀧鷲 漸(ia8176)。 囲まれた2人は背中合わせに闘うはめになるのだった。 その中でもやはり、やはり力の出ない灰音を見て、漸は、 「おい、どうしたんだ? 灰音の得意な事はなんだ? それを貫き通せばいいだろ」 そうこともなげに言って。そんな言葉を聞きながら、灰音は剣を手に海賊の曲刀をはじき、反撃。 手に伝わるのは敵を切る感覚。それをかみしめつつ、 「この感覚。ああ、そうか……私は……」 灰音が思い出したのは戦いへの渇望だ。灰音は素早く懐から銃を抜くとそれを構えて、 「……そうだ、これこそが私なんだ。戦いを楽しむバトルマニア、それこそが私……」 笑みを浮かべ、勘を取り戻した灰音は、漸とともに、周囲の敵を圧倒していくのだった。 ●全滅必至 「あーよく寝た!」 ばっこーんと木箱が粉砕、中から出てきたのはフィリー・N・ヴァラハ(ib0445)だ。 どうやら密航していたようで、木箱の中で熟睡してたとか。 粉々になった木箱、木くずが晴れると、そこには驚愕した海賊が1人。 「て、てめぇ! そんなところに隠れてたのか! 覚悟しやがれっ」 思わず襲いかかる海賊。彼もびっくりしたのだろう。しかし、そんな攻撃を食らうフィリーではなかった。 「そんなんじゃ、フィリーさんを捕まえられないよっ」 ひらりと飛び上がり、樽の上に着地、そのまま、他の樽を蹴飛ばして海賊に直撃させて、 「……よーくわからないけど、海賊船だったのかな?」 耳を澄ませば、甲板や船内から戦いの音が。海賊がどうのとの怒声も聞こえてきて、 「ま、とりあえずぶっ飛ばせばいいんだね〜。らくしょ〜らくしょ〜」 そういってフィリーは船内を駆け出すのだった。 さて、フィリーが通りかかったのは食堂の前、丁度海賊が1人出てくるところだ。 構えようとするフィリー、しかし、その海賊は、白目向いて昏倒。 「……あら、貴方も開拓者みたいね。とんだところに乗り合わせたわね」 麺棒で海賊の後頭部をぶっとばしたシーラがその背後からひょっこり。 2人はずんずんと甲板に向かって進むのだった。 その途中、3人の海賊に囲まれていた女性を発見。 「乱暴は、やめて……」 しおらしくおびえた振りをしているのはエメラルドだ。 彼女に魔の手が伸びようとしていたそのとき、フィリーとシーラが登場。 「お、てめぇらも仲間かっ!」 そう振り向いた瞬間もう遅い。エメラルドはこの機会を待っていたのだ。 エメラルドは雷鳴剣を帯びた蹴りで1人を攻撃し一撃を撃破。 シーラは鍋蓋で攻撃を受け止め麺棒で1人をぶっ飛ばし昏倒。 そして、フィリーはオーラドライブ付の回し蹴り一撃で沈黙。 あっというまに3人を撃退。そのまま3人は甲板へと急ぐのだった。 甲板ではすでに、激戦が繰り広げられていた。 しかし、海賊たちは数が多い上に一応志体持ち。なかなかにしぶとい。 そこに、姿を見せたのは船長だ。名を大鮫のハゲン、なかなかに手練れらしい。 その前に立っているのは、手下に案内させたロックだ。 「馬鹿野郎! 全部コイツのはったりだ、こいつも開拓者の一味だ……なにをぐずぐずしてやがる!」 「ちっ、ちくしょう! だましやがったな」 そう言われて、下手をうった案内役の手下は、曲刀を抜いてロックに襲いかかるのだが、 「……案内ご苦労」 武器が無くとも、盾で一撃をいなし、そのままシールドノック一撃。 しかし、実はロックは囲まれていた。 甲板にいるのはロック、そして戦い始めていた漸と灰音だけだ。 「へっ、てめぇらたった3人でなにが出来る! 少々倒されたとしてもこっちはまだ30人はいるぞ!」 どうやら予想より人数は多かったようで、ずらりと彼らを囲む海賊一味。 だが、返答はまたしても予想外だった。 ぶんと手にしたハルバードで、甲板に積まれた空き箱を木っ端みじんにする漸。 「貴様に残された選択肢は2つに1つだ。このヴィルヘルムの錆になるか、おとなしく捕まるかだ」 「ふふ……さあ、貴方達は私を楽しませてくれるのかな」 そう漸と灰音は啖呵を切った。そして、それを楽しそうに見るロックは、 「と、そこのお嬢さん、一緒に斬ろうとするのは勘弁願いたいな」 と優雅に一礼。 「さて、俺は空賊騎士ロック・J・グリフィス……大蛸のハゲ、この船今より俺が頂く」 そういって笑うのだった。大鮫のハゲン。どうやら痛いところを突かれたようで。 「俺様は、泣く子も黙る大鮫のハゲンだ! やっちまえ野郎共!」 そういって一気に襲いかかろうとするのだが……。 「今まで何人の罪なき人々を……絶対に許さないわ」 どーんと海賊の一角を蹴散らして現れたのはレヴェリー。 「あらあら、集まってると……良い的ですね〜。皆纏めて当たってくださいよ〜♪」 そして乱射で急所をばしばし打ち抜く京香だった。 まず戦線が軽く崩壊。さらに、 「あそこに弓使いが!」 別の出口から出てきたのはエメラルドたち。心眼を使って、弓使いを発見したエメラルドはまず雷鳴剣。 続いて、帆柱上に潜んでいた見張りには、 「あまいです! フィリーさんショット!!」 フィリーが、珍奇なネーミングの技でオーラショット一撃。見張りは帆柱から転落。続いて、 「超必殺☆ファイナルウルトラゴッドフィンガーナックルァー!」 とフィリーはオーラドライブ全開で、エメラルドとともに包囲を崩す。 昏倒した賊たちをきりきり縛り上げるのはシーラ。そんな彼女がふと顔を上げてみれば 「……あら、もう終わったみたいね」 甲板は、昏倒したり悶絶している海賊たちが転がっていて。 「結局はこんなもんか……正直物足りないね」 「ふん、まったく。口だけだったな」 灰音と漸、そしてロックの3人を相手に、10秒も持たず大蛸、もとい大鮫のハゲンは倒されたのだった。 さて、その後どうなったのかというと。 「俺の友は空だ、海の上を這うのは御免被る。この船は、港に着いたら司法の手に引き渡すとしよう」 船長代理のロックはそういってマントをばさり。 ちなみにハゲンは縛られて、他の下っ端たちも開拓者の監視の下こき使われつつ港へ引き返していた。 「船は売り払って、財宝も回収し、それを補填してもらえるようにしましょう!」 そう意気込んでハゲンから財宝の隠し場所をはかせているのはレヴェリー。 京香とレヴェリーの2人による、飴と鞭の……いな、鞭と鞭の尋問で、どうやら財宝の場所は判明したようで。 「此れで少しでも報われてくれれば……」 「そうですね。きっと大丈夫ですよ〜。終わったら、今度こそ、普通の船旅に行きましょうね〜」 そう、京香はレヴェリーに言うのだった。 そして、最後は厨房。 「そこ! 鍋がまだ汚れています! もっと力を入れて磨きなさい」 海賊下っ端たちをきりきり働かせて厨房を磨き直したシーラは、生まれ変わった厨房で料理の腕を振るって。 「さて、できましたよ〜」 『待ってました!!』 港までの短い航海は、美味しい物づくしだったとか。 海賊たちには最悪の展開となったが、開拓者たちは、このときばかりは常夏の船旅を楽しめたことだろう。 |