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■オープニング本文 理穴の小さな小さな領地、葉山の地。 ここは一度は魔の森に飲み込まれた領地であった。 しかし、合戦の勝利によって魔の森は縮小、領地は奪還可能となったのだ。 その後、開拓者の手によって、この領地を占拠していた鬼たちは退けられた。 無事、領地は人々の手に戻り、寒さの厳しいこの季節でありながら、活力にあふれていた。 さて、そんなある日、遠く異国から聞こえてくるのはやはりアヤカシの被害の便りばかり。 不安に駆られた領主、葉山雪之丞はふとあることを思いついた。 実はこの領地、まだまだ住人は少なく、多くの人間が領主直属の兵士たちである。 今は地道に新たな住人を募っているのだが、兵士たちは家族とともにのんびりと暮らしている。 しかし、いつアヤカシの被害が再び及ぶかわからないならば、訓練をせねば! というわけで、軍事教練を行うこととなったようである。 誰が先生をやるのか? それはもちろん開拓者だ。 少年領主の雪之丞は、開拓者を強く信頼しているようで、今回も是非にと開拓者にお呼びが。 もちろん、歴戦の開拓者のみを求めているわけでは無い。 協力してもらえる開拓者がいれば、領主はきっと歓迎してくれるだろう。 さて、どうする? |
■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116)
12歳・女・巫
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
ヘラルディア(ia0397)
18歳・女・巫
霧咲 水奏(ia9145)
28歳・女・弓
サーシャ(ia9980)
16歳・女・騎
レヴェリー・ルナクロス(ia9985)
20歳・女・騎
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
玖雀(ib6816)
29歳・男・シ
エルレーン(ib7455)
18歳・女・志
藤田 千歳(ib8121)
18歳・男・志 |
■リプレイ本文 ●激烈な訓練 早朝の葉山領、領主館前庭。再建の進む領主館の前庭に十数人の人影が。 それは訓練に励む葉山領のサムライたちである。 「そこ、もっと腰を落として。槍を突くときは、足運びも重要ですからね」 教官は二人、兵たちの間で槍の指導をしている三笠 三四郎(ia0163)と 「槍術は広い場所でこそ威力を発揮する。平原や広い路……槍の射程は強さそのものだ」 前で模範の構えをとり、そう語る藤田 千歳(ib8121)だった。 彼らの指導を受けているのは10名ほどの兵たちだ。 槍の訓練中のようで、新米サムライたちは三笠と藤田の言葉に従って槍を振るっていた。 「三間槍持てば、武芸を知らない農民ですら手練れを倒す……集団運用も合戦では有効だ」 そういって、藤田が槍にまつわる術理を説けば、 「槍は百兵の祖、百兵の王とも言われます。身につけるためには長い修練が必要ですが……」 こちらは三笠、見回りながらそれぞれの構えを見て、穂先の下がりや構えの乱れを修正しつつ、 「基本の動きを突き詰めていけば、それが必殺の一撃となりますよ。さて、次は払いの訓練を」 そういって、二人は兵士たちをまとめ上げ、次の指導に移るのだった。 兵士たちの年齢はそれほど二人の開拓者と変わりない。 しかし兵士たちは領地奪還の時に開拓者たちの指揮の下で闘ったため、信頼はあるようだ。 さらに言えば、藤田の技量は彼ら新米兵士を優に超え、三笠の技量に至ってはさらに遙か上だ。 まだ若く、仕官したばかりの兵士たちは、それ故に二人の指導に懸命について行くのだった。 さて、サムライ兵士の総数は30名とか。他の者たちはというと……。 「はいはい、へばらない〜。まだまだですよ〜。実戦では完全武装で長時間動くことも多々ありますからね〜」 領主館裏庭。建材置き場のさらに裏手にて、完全武装で動き回る10名の兵士たちの姿が。 ニコニコと指導しているのはサーシャ(ia9980)だ。しかし兵士たちは全員へろへろだ。 なぜなら、具足一式を装備した上で、早朝から塹壕掘り、土嚢運びをすでに数時間続けているからである。 「体力も付きますし、ついでに再建や防備も進むなんて、一石二鳥ですね〜」 今は資材運びの手伝いをしているようだが、はじめは土嚢を抱えて、壁を昇ったり。フル装備で。 他には荒れ放題の堀の掘り直しと領主屋敷周囲の防備を整えたり。これもフル装備で。 「あ、あの……休憩は……」 「そうですねぇ。力尽きない程度にしないと、明日以降の訓練に響きますし……」 疲労困憊の様子の一人にそう尋ねられたサーシャは首をかしげて、 だが、そんなとき一人の兵士が、土を詰めた袋を手に掘りを昇ろうとしてずるりと足を滑らせた。 フル装備で疲れていれば仕方ないとはいえ、掘を転がり落ちるのは危険だ。 誰もが緊張したのだが、滑った兵士の襟首をがっちりとつかんで、片手で引き上げるサーシャ。 そのまま、気をつけてくださいねとにっこり笑うサーシャだったのだが、 「あら、話の途中でしたわね。休憩ですか?」 「い、いえ! 大丈夫ですので、作業を続行します!」 と、慌てて戻っていく兵士たち。 「あらあら? ……うふふ♪」 見た目優しいお姉さん。しかし身の丈七尺超えた女騎士で、片手で完全武装の兵士を引き上げる膂力。 それに感銘を受けたのか、びびっただけなのかはわからないが、とりあえず訓練は続くようだった。 再建の進む領主屋敷に、小さな武道場が。そこに先生と10名の生徒が。 「さあ、次の三人、かかってらっしゃい!」 「「「はいっ!」」」 道着姿のレヴェリー・ルナクロス(ia9985)がりりしくそういえば、木剣を手に兵士たちが殺到。 一人目の攻撃を木剣ではじき、体勢を崩し反撃。二人目の攻撃は回避。すれ違いざまに投げ飛ばす。 そこに三人目。 「もらったっ!」 なかなか鋭い突きを、なんと柄頭で受けとめるレヴェリー、そのまま最後の一人も拳で一撃。 「まだまだ甘いわよ。今度は次の4人、遠慮は無用よ!」 そうぴしりと言うレヴェリー、ますます訓練は白熱するのだった。 どうやら兵士担当の教官はそれぞれ基礎訓練、体力特訓、実戦訓練を受け持つよう。 レヴェリーは実戦訓練担当だ。 しかし、一つ不思議な点が。防具の上からとはいえ、木剣での実戦稽古。結構痛いものである。 なにの、なぜだか楽しげな訓練風景、その原因は…… 「休むのはまだ早いわよ。もう少し、一緒に頑張りましょうね?」 にっこりと笑い、投げ飛ばした兵に手を貸す仮面のレヴェリー。 そんなレヴェリーに手を引かれて、はにかむまだ若い兵士。 葉山領の兵たちは、相続権の無い武家の次男三男や滅んだ家の子息、そして仕える家のない浪人たちだ。 年かさの者もいないわけではないが、ほとんどはまだ若い男である。 ……まだ住民の少ない葉山領、兵士は男ばかり。そこで励ましの言葉をくれる若い女性開拓者の教官。 なぜ皆が楽しげなのかは推して知るべしである。 「ほら、そんな簡単に背後を取られたら、人質にされてしまうわよ」 多対一の戦い方を指導中なので、1人を後ろから締め上げ盾にするレヴェリー。 なんだか苦しいけど嬉しそうに鼻の下を伸ばして締め上げられている仲間を見つつ、 「あれ、羨ましいな」「うん、良いなあれ」「投げ技も良いよな、次も本気で行くぞ!」 そんな感じで元気に訓練が続くのであった。 理穴は弓術士の国だ。もちろんこの領にも弓使いは多い。 「絶える事なき矢雨は、アヤカシにとって脅威になりますからね。矢を射る早さを磨くのは重要でございます」 領主屋敷の裏にある山、そこに小さな修練場があった。 弓用の巻き藁を斜面に並べ、屋根があるだけの小さな弓場。そこの指導役は霧咲 水奏(ia9145)だ。 「まずはそれぞれ即射に磨きをかけてくださいませ。その後、集団での運用に関して訓練を致しましょう」 訓練の手引きはすべて霧咲が自ら考えたものだ。 1人で15人の弓術士の指導を受け持つ霧咲、だがどうやら彼女はこの手の仕事には向いていたようで。 「……集団での弓の運用の利点は、面制圧が出来ることでありまする」 訓練の合間に、座学の時間。15名の弓兵たちとともに運用の練習とその理の議論中のようだ。 「では、2方向から挟まれた場合の運用についてはどうなるのでしょう?」 「その場合、他部隊との連携でございます。総合演習でも重要になるでしょうが、その場合はこちらの陣形を」 そういって、複数の陣形の確認とそれを実際に運用してみて。 時間は短いが、彼女が作った練習計画と運用の手引きは非常に重要となるのであった。 そして、葉山領を守る兵たちの最後の一群、それはシノビたちだった。 「フン、そう簡単にはやられん。……そらそら、こっちは利手を封じてるんだぞ?」 そういってひらひらと動き回るのは指導役の玖雀(ib6816)だ。 シノビ部隊五名を相手に、現在は戦闘演習のようで。 「シノビが闘う場面だってあるんだからな。技は磨いておけよ」 そういって片腕だけで他のシノビの攻撃を受け止め、ひらりと三角跳。 翻弄され、その衣に触れることすら出来ないシノビたちとつききりで訓練をしてやるのだった。 しかし、玖雀の指導はそれだけではないようだ。 彼が五名のシノビを連れて向かった先は、なんと領主屋敷の厨房だった。 数名の料理番が要るのだが、料理番たちも巻き込んで、訓練に疲れた兵士たちにも料理を作るようで。 「いいか! 食える時に食う、それがシノビの基本だからな、残すんじゃねぇぞ!」 まずは、夜も訓練があるシノビ達に料理を振る舞いつつそんなことを言う玖雀。 彼は、この後サムライ兵と弓兵たち皆の分の料理も作るつもりのようで。 「俺はまだ仕事が残ってるけど、先に夜間訓練を進めておくんだぞ。暗視と聞き耳の訓練を中心に……」 と、そこまで言ってぴたりと手を止める玖雀。部下のシノビ達に背を向けたままで、 「……へぇ、俺が作った飯に何か問題でもあったか? 毒は入れてねぇはずだが」 「え、いや。納豆は微妙に苦手で……」 「潜入や密偵中に好き嫌いを言うつもりか……」 いつの間にか料理を作っているはずの玖雀が納豆を除けようとしたシノビの背後に立っていた。 手に持っていたはずの包丁は、いつの間にか苦無に。それをぴたりと首元に添えて。 「良いか? 忍びたるもの、好き嫌いを言っているようじゃ……」 といって説教が始まったり。 普段はとても優しく明るい玖雀だが、二度と好き嫌いはしないとシノビ達は思うのだった。 ●議論は踊る 領主屋敷の奥では議論が進んでいた。 周囲には書き付けや資料が散らばる中で車座になる数名の開拓者と雪之丞。 「まずは巫女が必要では無いでしょうか? 1人か2人は最低でも……」 「ふむふむ、巫女。癒やしの技は確かに必要そうだ」 鈴梅雛(ia0116)の提案にうなずく雪之丞。こくこく。 「一つ防衛案をまとめておきましたが、そこでも必要になるでしょうし、魔術師はいかがでしょう?」 「防衛案?」 「ええ、魔術師はストーンウォールなど、防御の魔法があります。あれを作り城塞都市のようにと」 「おお、じょうさいとし……魔術師も良さそうだ」 ジークリンデ(ib0258)の言葉に、目を輝かせる雪之丞。きらきら。 「龍はどうかな? 荷物も運べるし、移動にも偵察にも使えるよ」 「おお、龍か! 確かにこの地にはまだ専属の厩舎もないし……孫市! 龍はどうじゃ?」 「はい、雪之丞様。財政的にも数騎であれば、人材込みで可能かと」 老臣の孫市に尋ねる雪之丞はその提案に大いに喜びつつも、提案したエルレーン(ib7455)は、 「でも、お互いを思いやる『しんらいかんけい』がないと、うまくいかないんだよ!」 「む、なるほど。しんらいかんけい……どんなことが大事なのだ?」 「うん、まずは道具として使うんじゃ無い、とか」 「ふむふむ……ま、孫市! 何か書くものを取ってくれないか」 胸を張って言ったエルレーンを、雪之丞は見ながらさらに教えを請うたり。 だが、いろいろと意見が増えて雪之丞は大いに混乱中のよう。 そんな雪之丞の頭にぽんと手を置いたのはヘラルディア(ia0397)だ。 「あまり焦らなくても大丈夫ですよ。領地は地道な努力で導かねばなりません」 煙を上げんばかりに考えていた雪之丞はそう言われて肩の力を抜いて。 「気位は立派ですが、結果は早急には出ないのを心置きくださいね」 「う、うむ。そうだな。急がないようにするよ」 そういって、にこっと笑うのだった。そして、ふと全員が一息つけば時刻はすでに夕刻だ。 ぐーと、雪之丞のお腹の虫が鳴いたので、そろそろ休憩ということで、 「ところで、ヘラルディア。今日のご飯は?」 「私の担当は明日で、今日は玖雀様の担当だったと思いますわ。もうすぐ時間だと思いますけど」 そこへ丁度やってきたのは皆の分のご飯を運んできた玖雀と藤田たちだった。 「よう。兵士たちに先に持って行ってたら遅れちまったな」 そういって配膳する玖雀。暖かい料理は見目良く盛りつけられており、議論で疲れた体には嬉しくて。 「わーい!」「ご飯だー!」 喜んでいるのはエルレーンと雪之丞だったり。そして、そんな玖雀を見ながら思わず藤田がぽつり。 「玖雀殿は、料理に掃除にと本当によく働くのだな。確か早朝から掃除もしていたし、まるでしゅ……」 「主婦って言うんじゃねぇ!」 くるっと振り向いてくわっとにらむ玖雀に、思わず孫市が味噌汁を吹きかけたとか。 ともかく、料理も届いてますます議論は白熱。次々に領のこれからが決まっていくのだった。 ●訓練の成果 後半の期間、開拓者たちの提案は次々に形になっていった。 訓練もかねて領内の再調査。鈴梅とヘラルディアたちは結界でそれを補助。 同時に開拓計画も。鈴梅が提案したもので、基礎訓練の一部として採用されたようだ。 さらに、霧咲の提案で開拓はまずは街道の整備から行われるとか。発展の第一歩としては重要になるだろう。 そして人材拡充は巫女、それから陰陽師と魔術師の募集が行われるようだった。 同時に、龍を数騎雇い入れる計画も始まるのだという。 これからも開拓者たちの提案は、徐々に実績を上げていくだろう。 そして、訓練の総まとめとして最後に大きな模擬戦が行われるようだ。 「がおー! 敵襲だー、敵襲ですなのー!」 「さあ、これが最後の訓練ですよ。かかってらっしゃい!」 「多勢を持って小勢を攻める手、幾度か指南いたしましたね? 実践してくださいね」 兵と対抗するのは開拓者たち、エルレーンに、レヴェリー、サーシャたちが訓練の成果を確かめるつもりのよう。 それだけではない、ジークリンデは魔術の威力を実演と言うことで参加し、魔術を披露。 三笠や藤田、シノビの玖雀も参戦。短い間ながら指導した兵士たちの実力を確かめるのだった。 結果は、残念ながら兵士たちの敗北。しかし、彼らは訓練の成果を実感したようで。 「惜しかったわね。でも、訓練の成果はあったんじゃないかしら? ……みんな素敵だったわよ」 そんなレヴェリーの言葉に、大いに感涙する兵士たちがいたり。 「ほらほらー!うまく協力して、相手の隙をつくんだよぉ!」 エルレーンと一対一で対決して追加訓練して貰う兵がいたり。 そんな賑やかな訓練後の様子を見守るのは、霧咲と雪之丞だった。 霧咲の提案で、士気にも影響するし、戦場に立つのも重要だとのことで雪之丞も模擬戦を見学に来たようで。 「どうですか? いずれは葉山殿が彼らを指揮するわけですから、この空気を知るのも大切かと」 「うむ、心遣い感謝する……領主としてふさわしい男にならねばな!」 そう、ますます気勢を上げる雪之丞であった。 訓練期間は短かったが、訓練計画はこれからも兵たちを強くするのに役立つだろう。 そのことを受けて、兵たちは領主に一つの提案をした。それは彼らの部隊名だ。 サムライは大きく分けて二隊。三笠と藤田の2人から、黒笠隊と白藤隊。 ちなみに、レヴェリーやサーシャ、エルレーンの名をつけようとする者もいたが……。 「レヴェリー様の名をつけるならこっちに!」「いやこっちの方が、レヴェリー様派が多いからこっちだ」 「サーシャ様の名前は譲らないぞ」「いや、それなら巫女のヘラルディアさんも!」 「エルレーン様……」「いや、鈴梅ちゃんもかわいかった!」 「……それは駄目だろ」 とのことで、ファン同士で争いが起きたので、平和的にこの形に。 そして弓部隊は霧咲の名から水霧隊。シノビは玖雀とその苦無から、朱雀衆と名乗ることとなって。 短い期間だったが残したものは大きかったようである。 |