ゆがむ心
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
無料
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/07/30 22:53



■オープニング本文

 人より優れた才を持って生まれることは、恵まれたことである。
 が、その恵みが悲劇を生むことも。

 武天のとある氏族の傍系にて。
 志体を持つ子が十数年前生まれる。
 これは家の名をあげる機会であると、両親は子を大切に育てた。
 たった1人の跡継ぎであり、さらに才能を持つとあれば、それはもう溺愛。
 期待に応えるよう、その子は自身の才を開花させた。
 だが、才あるが故に驕り、愛されるが故に歪む。
 一度たりとも自身をしかることの無かった両親に対して、子は小さな暴君となった。
 才能あるが故に、逆らうことも出来ず。
 親は、ただ子供の言うことに従うだけの僕となりはてたのである。

 その先は良くある話。
 おなじく志体を持つ者の中でも彼はある程度の才を示す。
 サムライとして、彼は特に弓を取っては、近隣では並ぶ者無しであった。
 そうなれば、ますます増長の度を高めていくのも必然。
 だが、自身が所詮井の中にあって大海を知らない蛙であることに気づくのはそれからすぐで。
 世に出れば、優れた先達と、自身よりさらに才能に溢れる者も居て。
 しかし、そこで謙虚さを学ぶには、その男は歪みすぎていた。

 事件が起きる。
 一般人に対して矢を放ち、怪我を負わせること数十度。
 犯人は、志体を持つサムライの若者。
 すぐさま警備隊によって追われ捕縛。
 すぐに、罪を認めるも、彼を捕まえたその地の警備隊を傷つけ逃亡。
 逃亡後、一時噂は無くなるが、数ヶ月後。
 山間の街道にて、山賊団の噂。
 その山賊団の首領は、若くて弓を使う男だという。

 事態を重く見たその地の領主は、開拓者に依頼をだした。
 その若い男が率いる山賊の被害を止めてくれ、と。

 さて、どうする?


■参加者一覧
幸乃(ia0035
22歳・女・巫
小野 咬竜(ia0038
24歳・男・サ
鷺ノ宮 月夜(ia0073
20歳・女・巫
鈴梅雛(ia0116
12歳・女・巫
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
十河 茜火(ia0749
18歳・女・陰
睡蓮(ia1156
22歳・女・サ


■リプレイ本文

●それぞれの思い
 開拓者と一言に言っても、様々な生い立ちがあるもので。
 依頼を受けるに至った思いも、また様々である。

 ギルドの伝手によって、最寄りの宿場町までやってきた開拓者一行。
 すでに作戦はきまっている。
 ただし、蛇と呼ばれる弓使いが率いる山賊の戦力がはっきりと分からないのも事実。
 だが、依頼を受けたからには尻込みするわけにはいかず、後は臨機応変に動くのみ。
 そして、開拓者達は、動く時間を明け方と決めたようであった。
 それまでの間、その小さな宿場町にて身を休める開拓者達、いったい彼らはどう考えているのだろうか。

「何で、盗賊になろうなんて、思ったんでしょう」
 ちょこんと宿場町の端にある水茶屋に腰を下ろして、つぶやく鈴梅雛(ia0116)。
 彼女からすれば、今回の首謀者、蛇の行動は理解できないのだろう。
 山賊の話を周囲の店の人や、旅人から聞きつつも、不思議そうに思案する鈴梅なのだが。
「‥‥元を正せば、親が原因なのかもしれんが、愚か者なのさ」
 ぷかりと紫煙をあげつつ、小野 咬竜(ia0038)が言う。
 その横で、ダンゴを囓りながら、かくんと頷いて、
「まったくです。ひとに、迷惑をかけるだなんて」
 と、睡蓮(ia1156)。
 街道の向こうに目を向ければ、ちらほらと行き交う人の流れ。
 山賊と彼らを率いる蛇は街道を通る人々を狙うという話で、どこか行き交う人々も足早である。
 そんな街道の様子を見ながら、この依頼を成功させねばと、改めて思う開拓者達なのであった。

●朝日と共に
 早朝、すでに山賊達が根城にしている廃墟と化した屋敷跡へと一直線に進む一団。
 迷うこともなく、進む開拓者は4名だけだった。
 彼らは正面から山賊達へと喧嘩を売りに行くのだ。
 まだ白々と、夜が明け始めた山をのしのしと登れば、遠くにぽつんと屋敷跡が。
 残っているのは屋根と柱だけといっていいような粗末な廃墟だが、大勢の足跡が山賊達の痕跡をしめし。
 開拓者達は、狙い通り山賊達の先を制して、作戦が運んでいることを確信したのだった。
 罠も歩哨も居ないことに気づいた開拓者は、ますますその確信を強くする。
 なぜならそれは山賊らが力と数に頼っているだけで、組織だって動いているわけではないという証拠で。
 そして、これからがいよいよ本番である。
「さて‥‥いっちょやるとするか」
 静かに呟く風雅 哲心(ia0135)の言葉に、
「楽しくやろうじゃないのー」
 十河 茜火(ia0749)も、口の端に笑みを浮かべて告げるのであった。

 ぶんと、音を立てて振るわれた長巻は、柱の一本をへし折って
「なっ、てめぇらは一体なんなん、ぐぇっ!」
 ついでに、気づいて駆け寄ってきた山賊の1人をぶっ飛ばす。長巻を振るうのは紅色の髪の偉丈夫だ。
「聞けい山賊諸君。俺の名は小野咬竜! 貴様らの討伐を請け負う事となった者にござる。」
 まだ、明け方、粗末な小屋で風雨をしのぐ山賊達は、その大音声の口上に跳ね起きて。
「貴様らの身は、ただ俺達に蹂躙されることを待つのみと知れ!」
 好戦的な咬竜の笑みに、それぞれは武器を取っていきり立つ。
 さすがに、山賊といえども、自分たちが犯罪者である自覚はあったようで、身近に武器を準備していて。
 出鼻をくじかれたものの、山賊は大所帯。
 対する開拓者はたった4人、しかも内2人は女性と見て、甘く見た山賊達は、にやにやと笑みを浮かべ。
「たった、それだけの人数で俺たちを討伐に来たのか? おい、女だけ置いてとっとと‥‥」
「‥‥自分の体で一番好きなトコ言ってみてー。抵抗するならソコからスパッと、ね」
 下卑た笑みを浮かべる山賊の一人に向けて、茜火が放つ斬撃符。
 その刃は、山賊が持つ鉈ごと切り刻むと、血がしぶいて。
 ざわと、動揺が走り、さらには哲心も、つかみかかってこようとした1人を峰打ちで倒すと。
「まだ抵抗するなら命の保証はねぇぞ、それでもやるなら死ぬ気で来い!」
 さすがにこう言われれば、山賊達は開拓者達をにらんだまま動きを止める。
 組織だった戦闘をするわけでもない彼らは、数では自身達が有利だと知っているのだろう。
 だが、怪我するのが分かってて仕掛けるのもためらわれるという、卑しい思考が山賊達の顔には見て取れて。
 そして同時に、3人の後ろに控えていたもう1人の開拓者、雛は懸念を口にする。
「‥‥蛇の人は、何処に居るんでしょう?」
 その言葉に応えるようにして、屋敷の中から飛来したのは、矢であった。

●奇襲応酬
 正面から4名の開拓者が、降伏勧告と同時に囮の役目を果たす間に、奇襲組の4名は、回り込んでいた。
 壁がそこかしこで抜けている屋敷の跡、静かに潜入するのはたやすいものだった。
「‥‥1つの賊を作り上げて、従えて、まとめて、食事にありつかせてる。私なんかより立派じゃない?」
 とりとめもない思考と共に、幸乃(ia0035)は弓を構えたまま、静かに足音を殺して進んでいた。
 先を歩く睡蓮、そのあとを静かにまとまって行く奇襲組の面々だが、ちょうど正面では戦端が開かれたよう。
 そしてそれとほぼ同時に、幸乃はぶつぶつと言う呟きに気づいたのだった。
「‥‥いつもいつも邪魔が‥‥‥何で俺だけが‥‥どいつもこいつも役に立たない‥‥」
 声の主の目には憎悪と同時に怖れの色が。
 物々しい蛇の入れ墨も、醜く顔を歪ませていれば、なおさら目立つようで。
 ちょうど、蛇本人が弓を手に、山賊達の後ろにそっと現れたのであった。
 それを目撃したのは、奇襲組の4名。
 彼の手には弓矢が、前の自分の部下の山賊達に誤射する可能性にももかまわず、きりりと矢を引き絞る蛇。
 その狙いは、蛇に気づいていない正面の開拓者達であった。
 奇襲組の4名は、即座に行動開始。
 飛び出す睡蓮、二刀を抜くと飛燕のように駆けだして蛇を強襲。
 同時に葛切 カズラ(ia0725)は、呪縛符を使い、植物の蔦のように這い寄る触手が蛇に絡みつこうとして。
「っく! お前ら、こっちにもいるぞ。役立たずどもが!!」
 蛇が放った矢は、狙いをそれて咬竜の近くにあった柱へと突き刺さる。
 もし、奇襲が間に合わなければ、あの矢は狙い過たず正面の開拓者のうちだれかを射貫いただろう。
 だが、その狙いははずれた。
 しかし、同時に山賊たちは蛇が上げた声で、奇襲組の面々にやっと気がついてしまった。
 睡蓮は、頭目の蛇を押さえに二刀で斬りかかるものの、蛇は弓でその攻撃を払って、刀を抜いて応戦し。
 同時に奇襲組の面々はそれぞれの弓を構えると、正面の開拓者達と連携して山賊達に狙いをつけるのだった。

 奇襲組は女性ばかりと、侮って、山賊の数名が突貫をかける。
 だが、女性だと侮れば、そこは志体を持ち油断のない開拓者と山賊の差が明確に現れて。
 鷺ノ宮 月夜(ia0073)に向かって手にした粗末な短刀を振りかざして斬りつけようとした山賊は、
「‥‥投降するつもりは無いようですね‥‥」
 弓を手放した月夜、山賊の短刀を持った手首を掴むとひねりながら、投げ飛ばして。
 ぐぇと、背中をしたたかに打ち付けられた山賊は悶絶。
 カズラは、同じように掴みかかってきた山賊の顎に掌打を一発叩き込むと弓でしたたかに殴り飛ばして。
「ほらほら、もっと無様に泣いてみる?」
 ひらひらと手にした符を揺らしながら笑みを浮かべて。
 そして幸乃も巫女ながら弓を構えて、おろおろと挟撃される山賊達に矢を放ちながら。
「‥‥これも仕事ですから」
 また1人、腕を矢で射られて、のたうち回るのであった。

●決着
 正面の開拓者達は、矢で一瞬肝を冷やすものの、即座に立ち直って。
 混戦となりかける戦列を立て直すと、前衛の咬竜と哲心が山賊を打ち倒し。
 同時に、前衛の2人は雛の援護と回復を受けながら、さらに茜火がフレイルで牽制しつつ符で攻撃。
 あっという間に、山賊達は無力化されていくのだった。
 一度、流れが傾けばあっという間だ。しかし蛇は未だに睡蓮と切り結んでいる。
 そこで、咬竜は、
「皆の衆、大将首はあそこじゃ。ここは任せて、疾く行くが良い!!」
 咆哮とともに、長巻で示す先には押され気味の睡蓮が。
「任せろ!」
 駆けだしたのは哲心だ。咬竜に気を取られた山賊達の間を駆け抜けて蛇へと一気に距離を詰め。
 同時に、咬竜は襲いかかってくる山賊達を奇襲組と合流しつつ撃破していき。
 軽傷ながら、じわじわと怪我が増えていく咬竜には雛の癒しの風が。
 そして、同時に雛は、
「‥‥向こうから、逃げようとしてます」
 逃げだそうとしている山賊達に気づいて、それを知らせれば。
 逃げ出そうとした山賊たちに飛ぶのはカズラの呪縛と茜火の鎌鼬。
 そして、ついに残っているのは蛇だけとなる。

 駆け付けた哲心が蛇の気を引いた瞬間、今までは押され気味だった睡蓮は、
「‥‥あますぎる」
 鈍った剣先を左の一刀で弾き、下からすくい上げた右の一刀が脇腹をしたたかに峰打ち。
「‥‥ゆだん、まいしん‥‥はい、おわり」
 刀を落としてぐらりと姿勢を崩す蛇の肩口に、さらにとどめの哲心の峰打ち一撃。
 怒りに顔を歪ませたまま、蛇はどさりと倒れるのだった。

●歪んだものは直るのか
「ねーねー、こんなコトやって楽しいのー?」
 縛られ転がる山賊一同と蛇を見ながら茜火はけろっとそう言って。
 心底不思議そうに言いつつ、それ以上は興味なさそうな茜火に、
「上には上が下には下が、それで良いのにね〜」
 と、カズラも言って。
 なかなかに彼女たちは、達観した見方をしているようで。
 また、開拓者として、仕事だからと割り切る面々も。
「あっちからしたら、私たちの方が、突然現れた賊みたいなもの、かしらね?」
 幸乃はそう言いつつも、でも山賊達はそれなりに罪を犯したんだから言い過ぎでしょうかねと首をかしげて。
 同じく、幸乃と共に山を下りつつ、その土地の領主の警備隊を呼びに行っている雛も、首をかしげつつ
「‥‥ひいなたちは、雇われただけですから。勝手には、決められません」
 といって。
 確かに、開拓者からすればこういう相手と対峙するのも単なる仕事だ。
 本当の善悪が何であるか、というのは簡単には決められないものである。
 だが、善悪とは別のところで、純粋に怒りを覚える者がいるのも道理で。

「それだけの腕を持ちながら、何故罪のない人を傷つけた? 力を見せつければ認めてもらえるとでも思ったか?」
 とつとつと蛇を前にして哲心は問いかけて。
 そう言葉をかけても、顔を上げようともせず、縛られたままの蛇に。
「手前ぇ、甘えるのもいい加減にしろよ。いくら才能があっても努力しなければそれは開花するわけねぇだろうが」
 開拓者になると言うことは、それすなわち氏族の縛りからも自由になれると言うことで。
 だが、こうして依頼を受けた開拓者達は、自由を得つつも、それぞれの価値観に従ってこの世界で生きているのだ。
 その中では自分を律し、努力をすることを厭わない彼らのような者たちからすれば、蛇の生き方は逃げでしかない。
 だが、蛇にとっては何を言われようと、一度逃げ始めればもう戻れなかったのかもしれず。
「はっ、てめえらだって俺に勝ったから偉そうなこと言ってるだけじゃねぇか‥‥」
 人を見下すことで自分の粗末な自尊心を満たしてきた蛇にとっては、何を言われても聞く耳を持つほどではなく。
 そんな蛇を前にして、もう1人、咬竜は、自身の煙管を取ると、
「‥‥戯けが!!」
 びしりと頬を殴り飛ばした。
「‥‥おぬしは、悪事を働くといえども人をまとめ上げていたのだろうに‥‥」
 山賊達と蛇の関係は、すでに戦いの中で見えてきていた。
 それは、権威や尊敬による統率ではなく、力による単なる支配であって。
「‥‥他人を認められぬ者に、これ以上の言葉は無駄じゃ」
 そう告げるしか出来ないのであった。

 そして雛と幸乃は、警備兵と共に戻ってきて。
 引っ立てられる山賊と蛇は、山賊として重ねた罪に対してしかるべき罰を受けることになるだろう。
 それを見届けた開拓者一行、言葉には出来ない複雑な思いを抱えつつ。
「‥‥帰りましょうか」
 月夜のすこし寂しげな呟きと共に、この仕事を終え、宿場町を後のするのであった。