【北戦】強き者の狂気
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/12/19 23:55



■オープニング本文

●狂気襲来
 ふらり、街道を歩く青年が1人。
 この寒いのに、ただ単衣を羽織っただけのその青年は、一目で異質だった。
 黒い髪、黒い瞳は珍しくない。珍しいのは、黒い肌だ。
 光沢もなく塗りつぶしたかのように真っ黒な肌、そこには生気は感じられず、ただただ異質だった。
「……あはは、嘆き悲しむ姿を愛でる、だなんて、気が利いているなぁ」
 にこにこと白い歯を見せて笑う青年は楽しげである。だが、しゃべっていることは尋常では無い。
「無力を感じて、絶望して……そして狂気に囚われる。本当に最高だなぁ」
 にたり、浮かべる笑みはどこか狂気を含んでいた。
 そんな青年の視線の先には、小さな村の広場にいる開拓者の集団があった。
 どうやらギルドの依頼を受けて、その村にやってきたようだ。
 その眼前に立ちふさがる青年。
「……む、そこの男。何か用か? 我々は急いでいるのだが……」
 開拓者集団の先頭、まとめ役とおぼしき男が青年に声をかけた。
 そして、たまたまその場にいた村の人々は、その様子を不思議そうに見つめるのだが、
「うん、ちょっとした用がね。……開拓者には最悪の苦痛を味わって貰うんだ」
 にっこりとそう言う青年に、開拓者たちはとっさに武器を構えた。
 人の姿ながらその容姿は異質。ならば、アヤカシだろう。
 だが、次の変化は開拓者の予想を完全に超えていた。
「……いや、最高の、かな? 苦痛、恐怖、狂気、絶望……いい、本当にイイよ! あは、あはははっ!」
 ぐにゃりと青年の姿が溶けて崩れた。
 そして裏返るように内側から爆ぜるのは、黒い無機質な触手の群れ。
 爆発的に触手の群れが伸びて、形作るのは巨大な人型。触手の群れの隙間に、泣き叫ぶ人の顔と赤い巨眼。
「さあ、さあさあさあさあ! 狂気を知って貰おうか! 自分以外は全て敵、そんな恐怖の世界だ!」
 不気味なことにその巨人が放つのは先ほどの青年の声のままだ。
 ぎらりと真っ赤な瞳が輝くと、開拓者と村人は身動きもとれずに、その魔眼に魅入られるのだった。

 恐慌状態に陥った開拓者と村の一報が風信術によってギルドにもたらされた。
 原因は一切不明。依頼中の開拓者が突如恐慌状態に陥ったというのがまず一つ。
 同時に彼ら開拓者が依頼のために赴いていた村も現在混乱中だという。
 なお開拓者はその村にある一番堅牢な建物である村長の屋敷に籠城。
 外からの言葉を一切聞き入れようとせず、その反応は尋常では無かったという。
 同時に村は、完全な恐慌状態。だがどうやらそれは開拓者が原因では無いようであった。
 ある村人はなにかを恐れるように恐慌状態に。または、手当たり次第周囲を攻撃する者も。
 多くの者は混乱状態で、村は完全に機能を停止しているのだという。

 そこでギルドは新たに開拓者を送り、その状況を鎮圧することとなった。
 一隊は、籠城中の開拓者の鎮圧。こちらは戦闘状況となるだろう。
 もう一隊は村の混乱を沈めること。100名近く村民がいる村なので、迅速な鎮圧が求められている。
 注意点は死傷者を可能な限り出さないこと。そのためには、早さが重要だ。

●疑問
「……混乱の原因は、やはりアヤカシだろうな……」
 ギルド依頼調べ役の庄堂巌は、そうつぶやきながら報告に目を通していた。
 だがまだ情報は錯綜していて、さっぱり実体がつかめない。
 周囲の目撃証言も要領を得ないものが多く、どうやら現場はだいぶ混乱しているようだ。
 だが、庄堂はその中で一つ気になる報告を見た。それはたまたま近くを通過した行商人の子供の証言だ。
「大きな人が立っていた? ……真っ黒で赤い眼、三角にとんがった頭……」
 悪い予感を感じた庄堂は、友人の利諒にこのことを調べて貰おうと、彼のもとに向かうのだった。
 ……そしてすこし後にもたらされた情報は、予想を超えてやっかいなものだった。

●正体
 冥越八禍衆の一体、無有羅。それがどうやら今回の原因のようだ。
 狂気のアヤカシとして伝えられていた上級アヤカシ、その報告は長らくもたらされていなかった。
 だが動き出した以上、なにかが水面下で進んでいるのだろう。
 ならばギルドも備えなければならない。おそらく、大きな戦いが起きるのだろう。

 さて、どうする?


■参加者一覧
鈴梅雛(ia0116
12歳・女・巫
鬼啼里 鎮璃(ia0871
18歳・男・志
斑鳩(ia1002
19歳・女・巫
霧崎 灯華(ia1054
18歳・女・陰
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
野乃原・那美(ia5377
15歳・女・シ
レヴェリー・ルナクロス(ia9985
20歳・女・騎
破軍(ib8103
19歳・男・サ


■リプレイ本文

●恐怖
 周囲すべてが敵に。それは、どれほどの恐怖なのか?
 開拓者たる者、つねに周囲には警戒を。油断はせずに周囲すべてが敵だと思え。そう言葉で言うのは簡単だ。
 だが信頼すべき相手が一切居らず、周囲すべてが敵だという状況に置かれてしまえば、どう感じるだろうか。
 いつ、攻撃がくるかわからない恐怖。しかも敵は自分の手の内をよく知る元仲間たちだ。
 それは単なる正体不明の敵が相手の時以上に恐ろしい。
 黒い肌の青年が巨大なアヤカシに変貌した時のことは忘れたわけではない。
 なにか術を掛けられたのかもしれないと言うことすら覚えている。
 だが、それ以上に、かつての仲間が敵として間近に居ることだけが脳裏に刻まれている。
 自分の鼓動だけが高く聞こえる闇の中、絶対の孤独を感じつつ、たった一人。
 そんな恐怖の中、開拓者たちはただじっと、周囲を警戒しおびえているのであった。

 そんな仲間たちを救おうとする開拓者たちが居た。
「狂気を操り人々の心を弄ぶとは、何て恐ろしい相手なの……」
 ぎりと仮面の下の顔に怒りをにじませて言うレヴェリー・ルナクロス(ia9985)。
「これだけの人数を同時に、しかも長時間錯乱させ続けるなんて。冥越八禍衆に数えられるだけはありますね」
 そしてレヴェリーの言葉に頷きながら鈴梅雛(ia0116)もそう言って。
 彼女たちは無有羅の危険度を理解しているのだろう。
 ……開拓者たる者、その志体によって高い抵抗力を備えているのが普通だ。
 だが、この冥越八禍衆はその抵抗をものともせずに大量の開拓者と村人を恐慌状態に陥らせたのである。
「混乱状態の開拓者も厄介極まりないですが、同じ轍を踏まない様、我々もこの先気を付けませんと」
 飄々と鬼啼里 鎮璃(ia0871)がそういえば、一同は頷いて。
 周囲を一応確認する開拓者たちだったが、現在、無有羅の姿は無いようであった。
 だが、警戒を密にしつつ、開拓者は急いでいた。
 なにせ、時間が無いのだ。
 恐慌状態で籠城中の開拓者たちは、それぞれがばらばらに村長の屋敷内で籠城中なのだ。
 籠城側は、個々の連携がとれないだけ不利だ。鎮圧自体はそう難しいことでは無いだろう。
 だが、相手は混乱しているものの味方なのだ。
 彼らには何の罪も無いわけで、その身柄を安全に保つことこそが重要である。
 時間を掛ければ、籠城している開拓者同士で傷つけ合ってしまうだろう。
 故に、迅速に。だが、同時に安全に。そう考えて、開拓者たちは急いで準備を進めているのだった。

「……ま、依頼は守らないとだよね。そこはボクも注意しないとかな」
 忍刀を二刀流で構えつつ、裏口に回り込む野乃原・那美(ia5377)。
 彼女は、人を斬るのが好きという剣呑な性格の持ち主らしいのだが、それでも依頼の目的は理解していた。
 開拓者たる者、その来歴は様々で性質も様々だ。
 しかしながら、その上で依頼を受けたからにはその完遂のために協力するのである。
「さって、見つからないように裏には回り込めたし、あとは静かに潜入出来ると良いんだけど♪」
 だからこそ、彼女は危険な単独での裏からの潜入を志願したのだ。
 中で籠城中の開拓者たちは、周りがすべて敵に見えているわけで、当然反撃が予想される。
 そんな状況でも、適任だからという理由で危険な挟撃役を買って出たのである。
 準備は出来た、あとは正面の突入にあわせて踏み込む機を待つだけだ。
 人斬りの少女は笑みを浮かべつつ、依頼目的を遵守するために、たぎる血を押さえ配置につくのだった。

●破綻
「ふん……敵の術に嵌りやがって……」
 屋敷正面の門の前にて、武器を構えて待つのは一人の修羅、破軍(ib8103)だ。
 たしかに、彼の言うように敵の術中にはまったのは手落ちだともいえるだろう。
 だが、そう思う彼もまた彼らを救うためにこの依頼に手を貸しているのは事実で。
「ここまで派手に洗脳するとなると……やはり情報で聞いたとおりの上級のアヤカシだな」
 藪をつついて蛇が出るか否か、とつぶやきながらも彼は武器を構えて。
 そして、静かに眼前の門に意識を集中するのだった。
 考えることをやめて、ただ目的のために集中。彼の役目は門の突破である。
 すでに準備は万端、あとはきっかけだけであった。

 そして、いよいよ突入を控える開拓者たち。
 志士の鬼啼里の心眼によって、ある程度の配置はつかめていた。
 だが、接近しすぎることで、敵の志士やシノビの注意を引いてしまうことを警戒し、精密な情報収集は不可能。
 大まかにわかった状況のみでの突入を敢行することとなった。
 開拓者の作戦は、迅速な突入。
 破軍と鬼啼里ら前衛、防御重視のレヴェリーら中衛に術攻撃での拘束と援護を行う後衛。
 多少の怪我は妨害を無視し突破するための陣形を選んだようであった。
「今回は、安全性より速度よね」
 そう、鎌を構えながら中衛に加わる霧崎 灯華(ia1054)。
 確かに自分たちの安全性を無視して速度を優先するのは正しい戦略だ。
 しかし、悲恋姫を連発する戦術はさすがに控えたよう。その策が仲間をも巻き込む破壊行為だったからだろう。
 ともかく準備は整った。だが、不安要素が一つ……
「最優先すべきは、敵味方双方に死者が出ないようにする事ですが……」
 最後衛に控える斑鳩(ia1002)はそう言いながら周囲を見回すと、一人開拓者の姿が見えなかった。
 どうやら単独行動をとったよう、深い考えがあってか功を焦ってかは謎だ。
 だが、不安要素となることは確実。急がねばならないと、斑鳩たちは決断を下したようで。
「……仕方ありません。今は亡き冥越のためにもこれ以上好き勝手にはさせられません……行きましょう!」
 静かに、決意をこめて斑鳩が同意を求めれば、正面の突入部隊は応じて。
 時間との勝負の救出劇、その成功のために、開拓者たちは動き出すのだった。

 一方、単独行動中の巴 渓(ia1334)は、
「ただの同士討ち如きで狂気だのと……つまらん事を抜かす」
 とのこと。なにやら狂気に関しては一家言あるようだ。
「狂気、ならば俺もとうに狂ってるさ」
 たしかに。連携のとれない上での独断専行は、一歩間違えば狂気の沙汰だ。
 どうやら派手に暴れ回ることで、陽動になるという計画のようなのだが……。
「滅多にない余興だ、へっ……俺も愉しませて貰うぜ!」
 その動きが吉と出るか凶と出るか。それは、非常に危うい綱渡りなのであった。

●突入
 一刻も早く、そう考えた正面突入班は、一気に突入を開始。その一番手は破軍だ。
 すでに、周囲に罠の無いことは、鈴梅の瘴索結界で判明しているので、すたすたと破軍は進み出る。
「宴会会場はここであっているのかね?」
 修羅の剣豪は、そう軽口を飛ばしながら前に出て、ぎりりと刀を握る腕に力をこめた。そして、
「請求書はギルドにでも頼んでもらいな……」
 その言葉とともに、破軍は正面門に突進、強力で強化された腕力で、強引に門を切り開いた!
 響く轟音、そして屋敷内からは人の動く気配が。
 しかし、開拓者に抜かりは無い。鬼啼里は心眼「集」を発動。籠城している者たちの位置を把握。
「左から一人、上階から一人、一階奥にも一人、一階奥はおそらく弓使いです!」
 その言葉に応じて、前にでるレヴェリー。
 構えているのは、巨大な盾だ。
「何の為に鍛えてきたの、何の為に生きてきたの!? そんな場所に引き籠って――情け無いわよ!」
 レヴェリーが放ったのは挑発の声だ。
 彼女は、しっかりと恐慌中の開拓者の心理状態を看破しているようであった。
 籠城すると言うことは、恐怖で守りに入っていると言うことだ。
 だが、そこであえて自分たちに注意を向けさせる理由。それは、彼らを確保するための囮となるためだ。
「悔しいのなら来なさい! 貴方達のような腰抜けに、そんな勇気があるのならね!」
 敵だと思い込まされている相手にとってこの言葉は強く響いた。
 敵に挑発されれば、恐慌中だろうと、打って出ようとする者もいたのである。
 まずは強烈な矢の一撃が一階奥から。だがそれをがっきりと盾で受け止めるレヴェリー。
 そして同時に、2方向から突貫してくるサムライをそれぞれ破軍と鬼啼里が受け止める。
 あとは、連携と後衛の援護によって彼らを逐一倒し、確保していけば良いのだ。
 作戦は良い滑り出しを迎えたのであった。

「さて、それじゃあ攻撃開始なのだ♪」
 抜足で、するりと裏口から入り込んだ野乃原、正面突破の隙を突いての潜入だ
「素直に拘束されてくれるならいいけど……されてくれなさそうだね」
 誰にも気づかれず、潜入を成功させた野乃原が発見したのは一人の弓術士。
 蒼白になり、周囲を窺いながらどうやらこの裏口に張り込んでいたようだ。
 だが、開拓者の作戦は上手くいった。正面からの突入の瞬間、この弓術士は注意を引かれたのだ。
 そのため、野乃原は気づかれず接近。
「命までは取らないよ♪ だけど、ちょっと痛いのは我慢してね!」
 そして一気に野乃原は、弓を引く腕と弓自体を切りつける。奔刃術での連続攻撃だ。
 あっという間に一人無力化。このまま行けば前衛で劣る開拓者でも押し切れる。
 そう、思っていたのだが……。

 単独行動をしていた巴は、壁を粉砕して突入。しかし、この策を単独でやったのが間違いだった。
 志士と組んでいれば、敵の配置がわかっただろう。
 仲間が居れば、壁を粉砕する役と突入役で連携がとれただろう。
 だが、彼女は自身単独が暴れ回ることを選択したのだ。
 恐慌状態のさなか、壁を粉砕して手数の尽きた相手が目の前に居ればどうするか?
 それは全力での反撃だった。
 壁を粉砕し中に踏み込めば、感知系の技が無い泰拳士は目標を見失う。
 瞬脚があっても距離を稼げるだけ。敵からすれば、狙ってくれと言っているようなものである。
 そして結果、陰陽師による火炎獣、隷役込みの全力術攻撃とサムライによる渾身での払い抜けが巴に殺到。
 猛火に全身を焼かれつつ、強烈な刃の一撃を食らって自分が開けた穴から転がり出る巴。
 だが、被害はそれだけではない。
 炎を仲間にも向ける恐慌状態の陰陽師、それが屋敷に火をつけた。
 あっという間に燃え始める屋敷。だが引くわけにはいけない。恐慌状態の仲間を救うのが今回の任務。
 火が広がり始める中、開拓者たちは果敢に戦いを続けるのだった。

●決死の果てに
「……終わったら、ちゃんと治療しますから。少しだけ、我慢してください」
 小さな体で開拓者を運び出したのは、鈴梅雛だ。
 破軍の強烈な一撃で倒されたサムライを運び出して、炎にまかれつつある屋敷を振り返れば、
「さっさと落ちなさい!」
 呪声を放ってから鎌の石突で鳩尾を一撃。
「狂人相手にまともにやり合う気はないわ。ソッコーで型片づけるわよ」
 そう炎の中で笑みを浮かべながら戦い続けているのは霧崎だ。
 倒した相手が暴れないようにと猿ぐつわをかまして、次なる敵に向かって。
 だが、火の周りが予想以上に早い。
 今のところ確保したのは、鈴梅が運び出したサムライ一人に、いま霧崎が拘束したサムライが一人。
 そして火の中を、斑鳩の援護を受けつつ疾駆するのは鬼啼里だ。
「鬼啼里さん、援護します!」
「少々の怪我は我慢していただきましょう」
 相手は弓術士、矢を受けつつも斑鳩の閃癒が鬼啼里の怪我を癒やす。
 そして鬼啼里は肉薄して鎖分銅を投げ放った。
 効果は薄いが、絡みついた鎖分銅が弓を封じた。すぐに解かれてしまうだろうが、隙が出来た。
 一瞬の隙があれば十分。とっさに弓術士が振るった腕を回避して、鬼啼里は居合で一閃。
 さらにここに斑鳩の援護、神楽舞によって一撃は強化されて。
 そして命中の瞬間に、刃を返し峰打ちの一撃。これで鬼啼里が3人目を確保するのだった。

 燃え上がる屋敷に踏みとどまり、確保の希望を捨てない者たちも居た。
「骨の一本や二本は覚悟して貰わねぇとな……」
 残る最後のサムライ、巴を斬った相手が燃え上がる炎を超えて突進してくるのを受け止める破軍。
 がっきりと切り結ぶのだが、どうやら実力は恐慌状態の相手がわずかに上。
 だが、咆哮によって自分に注意を向けさせた破軍は逃げることなど考えても居なかった。
 鍔迫り合いで体が流れた瞬間、好機と攻める敵。だがこれは罠だった。
 破軍は肩口に仕込んだ苦無を口で引き抜いて一撃。
 威力のある攻撃では無かったが意表を突かれた相手。混乱状態も手伝いそこに破軍の峰打ちが命中。
「戦いってのは力だけじゃ勝てないんだよ。頭を使え頭を……」
 そう言いながら、最後のサムライ一人を縛り上げて炎の中から破軍は引き上げるのだった。

 そして、レヴェリーは、シノビ一人を相手に闘っていた。
「来なさい! 受け止めてあげるわ、貴方達の為に!!」
 その覚悟の元に、シノビへブレードファンの一撃でひるませ、盾での体当たり一撃。
 シノビを確保したのだが、そこを狙って弓術士が弓を引き絞る!
 だが、その矢は放たれなかった。
 弓術士の後ろから出てきたのはシノビの野乃原だ。
「よしっと。この人の拘束は任せたのだ♪ ……でも、火がひどくなってきたね」
「ええ、そうですね。残念ながらここまででしょう。脱出しましょう」
 ぎりと歯がみしてレヴェリーは二人を手早く拘束し撤退。
 そして二人を迎えたのはギリギリまで仲間を待っていた斑鳩だ。
 怪我を負っている二人を閃癒で援護。なんとか開拓者たちは脱出するのだった。

 そして、結果が出た。確保できたのは六名。そして開拓者一名が大けがを負ったようだ。
「上級アヤカシの術ですが、多少時間が経っていますし、ひょっとしたら……」
「ええ、怪我の治療と平行してやってみましょう」
 鈴梅の言葉に応じて斑鳩も閃癒と解術の法を使用する。
 幾度か挑戦し、どうやら無事恐慌状態は解除出来たようだ。
 だが、確保した面々も依頼を受けた面々も満身創痍だ。
「もし生きてくのが辛いなら、本人の返答次第では戦死したってことで殺してあげるわ」
 そんな剣呑な事を霧崎が言ったのだが、満身創痍ながらも開拓者たちは否定。
 そして屋敷が燃え落ちて、焼け跡から見つかったのは志士と陰陽師だ。
 炎が一番強かった場所にいた陰陽師と心眼が使えたが故に隠れていた志士が助からなかったようで
「力及びませんでしたね」
「……もっと鍛えないと。私たちも……」
 斑鳩の無念のつぶやきに、静かに決意を述べるレヴェリー。
 だが、開拓者の努力によって全滅は避けられたことだけは評価されるだろう。
 そして、開拓者に絶望を、という無有羅の目的は達成されてしまったのだが、ここからが奮起の時。
 迫る合戦を前に、開拓者は新たに決意を燃やすのであった。