菊愛でる花
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/12/07 19:32



■オープニング本文

 武天にある商業都市、芳野。そこは大勢の人が集まる賑やかな街である。
 人が集まれば、活気が生まれ、活気があれば催し物が盛んになるのが人の世の道理。
 そんなわけで、ここ芳野では最近もっぱら季節の祭である菊の市が話題であった。
 場所は芳野の郊外にあるお寺の参道周辺。
 市の期間中は、その参道沿いに多くの菊が飾られ、出店も出ればそれはもう祭だ。
 園芸家たちが丹精こめて育てた見事な菊たちが参道を飾り、庶民はそれを見て賑わうというわけである。
 さて、そんな庶民が大いに賑わう芳野の菊市。
 にぎわいがあれば遊びに行きたくなるのは人の性。
 そして、そんな菊の市の話を聞いて、是非遊びに行きましょうと言ったのは、
「菊の市に、繰り出すのも良いのではありませんか?」
「うーむ、しかしなぁ。動くとなると大所帯になるし、連れて行くなら留守番を残すわけにもいけないし‥‥」
 思案顔で首をひねっているのは、遊女屋『桜花楼』の主人、陣右衛門だった。
 彼を前にして、筆頭の看板女郎である紅山らとともに、菊の市に行きたい行きたいと強請る女郎達。
 もちろん、我が儘を言っているのは年若い禿や新造たちなのだが、
「今年の菊はことさら見事だと、御贔屓のお客人に聞きんした。折角でござんす、皆で見なんしえ?」
 からからと笑いながら妹分達の援護をする看板女郎の朝霧。
 そんな言葉を聞いて、陣右衛門は思い悩むのであった。
 人の八つの徳を忘れた亡八とも呼ばれる女郎屋の主人でありながら、陣右衛門は情に厚い男だ。
 なんとかして、皆を連れて行く手は無いものかと考えていたのだが。
 つい、つい、とその手を引くのは、瀟洒な着物に身を包んだ同じく看板女郎の初雪だ。
「‥‥陣右衛門様、一つ考えがございます」
 と、微かに頬を染めながら告げる初雪。
「いつもながらでは御座いますが、此度も開拓者の方々にご助力をお頼みしては如何ですか?」
 そう言われて、陣右衛門ははたと手を打つのだった。
 今回問題だったのは、女ばかりの大所帯を守り、さらには手伝いが足りないということだ。
 だが、確かに開拓者ならば其の当たり問題なく手伝ってくれる者もいるだろう。
 ならば一つ頼んでみようではないか、と決めた陣右衛門。
「‥‥そうとまで言われては仕方ない。みんな、ちゃんと準備をするんだよ」
 笑顔を見せる陣右衛門に、娘達は黄色い歓声で応えるのだった。

 ということで、開拓者には一つの依頼が出された。
 芳野のとある寺の参道で大々的に行われる菊の市。菊まつりとも言われるこの催しが依頼の舞台。
 やることは、桜花楼の面々の手伝いと護衛である。

 さて、どうする?


■参加者一覧
滋藤 柾鷹(ia9130
27歳・男・サ
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
宮鷺 カヅキ(ib4230
21歳・女・シ
ルシフェル=アルトロ(ib6763
23歳・男・砂
ミカエル=アルトロ(ib6764
23歳・男・砂
和 茜(ib7838
16歳・女・サ
華角 牡丹(ib8144
19歳・女・ジ


■リプレイ本文


「……寒……もう、菊の季節が来たのですね。早いものです」
 吐息を白く染めながら、芳野の町中を歩く宮鷺 カヅキ(ib4230)。
 彼女は、その吐息で手をこしこしとこすり合わせつつ、周囲をぐるりと見回した。
 彼女が歩いているのは菊市の会場である寺の参道だ。
 まだ市の当日ではないがすでに準備は進んでいるようで、そこかしこに菊が。
 もちろんそれだけでは無い。行商に出店、それに道沿いの店々も菊に絡めた品々を準備中のようで。
「さて、良いものが見つかると良いのですが」
 足取りも軽く宮鷺は道を進み、お目当ての商品を探すのだった。
 そんな道の途中、虎縞のしっぽをぴこぴこ振りながら交渉中の少年が一人。
「んー、数はまだわかんないけど、明日大勢でくるから、準備しといてくれよっ!」
「あいよっ! 菊花細工で良いんだよな? まかせとけぃ!」
 羽喰 琥珀(ib3263)が交渉している相手はとある屋台の職人のようだ。
 熱々の飴を柔らかいうちに造形して見事な飴細工を作る職人に土産物を準備して貰った羽喰。
 準備は万端かと思いきや、
「……よし! じゃ、次は宿の料理人のところに行かないとなっ!」
 なんだか非常に忙しい様子。まだ若いのに良く気の利く少年開拓者であった。
 職人のところから駆け足で宿へと向かう羽喰、彼とすれ違う人たちの中に目立つ二人組がいた。
「菊のお祭りか〜。天儀はお祭り好きだね」
「そうだな。天儀には四季があるから、色んなお祭りが多いんだろうな」
 華やかな天儀の町中にあって、非常に目を引く二人、その理由の一つは彼らは双子だったからである。
 そして、双子以上に目立つ理由は二人の容姿。すらりと高い背丈、きらめく金の髪、そして赤く輝く瞳。
 ルシフェル=アルトロ(ib6763)とミカエル=アルトロ(ib6764)は観光しつつ、情報収集中のようであった。
「出来れば、一輪咲きの鉢を準備出来ると良いんだがな」
 落ち着いた雰囲気のミカエルがそういって、あたりを見回せば、
「うん、あとは菊を使った化粧品とか匂い袋とかも……小間物屋とかにあるのかな?」
 明るい雰囲気のルシフェルも、同じようにきょろきょろと周囲を探してみるのだった。
 しかし、二人ともまだどうやら天儀の街になれていないよう。
 今ひとつ、どこにどんなお店があるかがわからない、となれば取るべき手は一つ。
「ねぇねぇ、そこの綺麗なおねーさん。お勧めのお店ってない?」
「なぁ、少し教えて欲しい事があるんだが……教えて貰って良いか?」
 左右から、同じ顔の美形に違うことを聞かれて、びっくりする娘さんたちが続出したとか。
 ……しかし二人はその後無事目的を果たせたようで、意気揚々と戦利品を携えて宿へと戻るのだった。
 そして、もう二人、これまた特徴的な姿の二人組が芳野の街を歩いていた。
「ボクの感性じゃ、みんなとはズレてるかもしれないけど……」
「そんなことありんせん。女郎はもとより、新造の娘さんらは、みんな年頃の女の子でありんすよ」
 ちょっと不安そうな和 茜(ib7838)に華角 牡丹(ib8144)はそう答えた。
 ちなみに、何故目立つのかというと。
「おう、俺の名前はフランネルだ、よろしくな!」
 和の右手の熊の人形が自己紹介。そう、これが一つ目の原因だ。
 妙にゴツイ声でしゃべる左手の熊人形、そしてうさぎ耳の少女。目立たないわけは無い。
 そしてもう一つ、隣の華角の容姿も目立つ原因であった。
 妓楼の新米花魁だという彼女、さすがに普段の衣装では無いが、華やかな姿はやはり目立つもの。
 それに何よりも注意を引くのはその口調だ。
 独特の言葉遣いは、妓楼の人間たち独特の物。廓言葉と呼ばれるその口調も目立っているようで。
「本当、お店がいっぱいだね! もう一軒ぐらい見て回って良い?」
「ようござりいす。わっちもお付き合いいたしんしょう」
 女郎たちはどんな物を喜ぶのか、そんなことを華角から聞きつつ和は小間物屋を見て回るのだった。


 がやがやと賑わう菊の市。その当日。
 貸し切りにされたこぢんまりとした料理屋の二階には、桜花楼の面々がそろっていた。
 すでに、祭りの熱気が伝わってきたようで、賑やかにはしゃぐ新造や禿たちの声。
 そこには、開拓者たちの賑わいもあった。
「良い匂いがするし、綺麗だし……お姉さん達は花の精みたいだね」
「ふふ、異国のお方にそう言われんと、恥ずかしうおすなぁ」
 ルシフェルの言葉にころころと笑っているのは看板女郎の吉備。
 見れば、床の間には見事な菊の大輪が飾られており、部屋の調度も菊一色。
 菊のお香に菊模様の屏風、ミカエルとルシフェルの尽力によって部屋は見事に飾られていたのであった。
 そんな様子を楽しんでいるような桜花楼の面々に満足げに頷きつつ、
「ふむ、向こうにも花はいたが……天儀の花はかわいかったり綺麗だったり……」
 ルシフェルと同じ顔で訥々と言うミカエル。
「色んな色や香りがあって目の保養だな……着物も綺麗だしな」
「うん、菊もそうだけど、周りは綺麗な花ばかりでお花畑みたい」
 そう女性陣を褒めるアルトロ兄弟に、特に若い新造たちはまんざらでも無い様子で。
 そんな中、隣の部屋から新造たちに手を引かれてやってきたのは緑の地に銀の蹴鞠刺繍が入った袴姿の女性。
 白銀の髪は普段より長く、黒に睡蓮と蝶々の柄が鮮やかな髪留めが映える彼女は、着飾った宮鷺だ。
「おやおや、ようお似合いでおすなぁ。お二方、お友達の艶姿いかがでありんす?」
 ふふっと悪戯顔で言う吉備の言葉に、ルシフェルとミカエルは宮鷺に視線を向けて、
「「よく似合ってるよ」」
 と左右から異口同音に言ったりして。冷静そうな宮鷺の頬に、かすかに朱が浮かぶのであった。

 開拓者同士の賑わいだけでは無い。開拓者と、その彼に縁のある相手と弾む会話もあった。
「……久方ぶりだな、息災だったか?」
 普段の硬い表情はそのまま、少し照れくさそうな顔で滋藤 柾鷹(ia9130)がそういえば。
「滋藤様。此度もまた来てくださって……有難う御座います」
 そんな滋藤を迎えて、ぱっと笑顔を見せる女郎の初雪。
 幾度かの依頼で交流のある初雪は、滋藤には随分と信頼を寄せているのであった。
 今回も、見知った顔が来てくれたことにとても嬉しげで。
「甚右衛門殿はまこと優しき御仁だな。慕われるのも頷ける」
「ええ、私たちには良くしてくださりますし……今回のようなわがままも聞いてくださいますから」
 頬を染めて言う初雪に、滋藤はふむと思案顔。そこに甚右衛門が
「初雪が開拓者にお手伝いを頼めば、と言ってくれましてね。ですからこうして依頼になったわけで」
「む、初雪が提案したのか? 有難い事だ。呼ばれなければ、なかなか来れぬ故な」
 そんな滋藤の言葉に、ますます頬を染めつつも、初雪はぽつりと
「……依頼以外でも、いらしてくだされば良いですのに……」
 とつぶやくのであった。
 

 そして時刻はお昼頃。せっかくのお祭りということで、数人ずつ組になって祭りを楽しもうとの話に。
 開拓者たちはそれぞれいくつか店を見繕っているようで、そこを回ることにしたよう。
 ただし、全員でぞろぞろ動くには少々人数が多すぎる。
 なので、数人ずつ組になって、そしてそれぞれに開拓者がつきあう形で祭りを楽しむこととなったようだ。
 奇しくも看板女郎は4人、それぞれに新造や禿を数名ずつ連れて四組に分ける。
 それを開拓者が引率して見回ることになったのである。

「菊花のようですね……」
「あら、そういう貴方も、まるで白菊のよう。よくお似合いですよ」
 すらりとした女郎・紅山を見て、思わずつぶやく宮鷺。
 学識豊かで、諸芸に通じているという紅山は四人の中で最年長だとか。
 落ち着いた雰囲気の彼女は禿たちを連れて、まず最初に祭りへ。案内するのは宮鷺と羽喰だ。
「……さあ、市に繰り出しましょうか」
「ええ、案内よろしくお願いしますね」
 向かう先は、まずは宮鷺の案内で茶店へ。
 まだ小さい禿たちには、ちょっと新鮮な落ち着いた雰囲気の茶店へと一同は向かうのだった。
「ここのお抹茶と栗蒸羊羹、とても美味なのですよー」
 ということでおやつの時間。禿たちはちょっと緊張気味ながらお菓子には大喜び。
 そしてその後は、
「おっちゃん頼んどいたものできてっかー?」
 禿たちと一緒に飴細工の屋台をのぞき込む羽喰。約束しておいたお土産の回収だ。
 といっても、飴細工はその作るところを見るのも楽しいわけで、禿たちはそこで目を奪われて。
「……丁度時間もできましたし、すこし見ていきますか?」
 宮鷺は紅山を連れて、とある店へ。
「綺麗な髪飾り。祭りに合わせて菊の花の柄がかわいらしいわ」
「ええ、菊の花言葉は、高尚……皆さんににぴったりの花なのです」
 そこは髪飾りやかんざしを商う小さな店で、微笑を浮かべて髪飾りを勧める宮鷺。
 髪飾りと飴細工。宮鷺と羽喰のそれぞれの心遣いは、大いに喜ばれるのであった。

「足下大丈夫? 気をつけてね」
「……くまさん、しゃべらへんの?」
「おう、おちびちゃん! 足下に気をつけるんだぞ!」
 別の組と行動を共にするのは和だ。彼女は華角とともに朝霧らを案内中。
「あれ、わっちらと同じう身でありんすか。それは珍しうおすなぁ」
「モシ、今はそれを忘れておくんなんし。同じ女郎でありんすが、わっちは開拓者。今は寛いでおくんなんし」
 華角と同じく廓言葉の朝霧は、花魁ながら開拓者という華角を珍しがっている様子。
 しかし、華角はあくまで女郎たちに一時の癒やしを、ということで。
 艶やかな二人は、フランネルに興味津々な禿たちの後を追いながら、ゆっくりと祭りを散策するのだった。
 禿たちは皆10歳前後だ。先輩女郎や新造の手伝いをしてはいるものの、まだまだ子供。
 やっぱり和の左手のフランネルが気になる様子で。
「にしても店多いなオイ。茜、前見てきた店どこか分かるか?」
 とフランネルが言えば、しゃべったしゃべったとはしゃいでみたり。
「これぞ両手に花ってやつかな?」
「遊んでっと危ねえぞ」
 おどけて見せた和に、つっこみを入れるフランネル。
 そんな様子に禿たちだけではなく朝霧や華角も笑い声を上げるのだった。

 そして、もちろん他の遊女たちも。
 朝霧と紅山が先輩格の二人だとすると、看板女郎の中で吉備と初雪はまだ日が浅い二人だ。
 その吉備は、どうやらアルトロ兄弟を気に入ったようで。
「で……次に市へ行きたいのは何人位、居るんだ?」
「わっちを含めて、四人でありんす。お二人とも、ついてきてくださりんすか?」
 にっこりと笑う吉備と、同じように兄弟が気に入ったらしい新造たち。
 朝霧と紅山たちの組が帰ってくるのと入れ替わりで、二人は彼女たちを連れて祭りに出かけていくのだった。
 そして最後の一人。
 初々しい様子の初雪は、どうやら妹分の新造たちが気を利かせたようで、
「初雪姐様、私たちは吉備姐様と一緒に回ってきますから、気にしないでくださいねっ!」
「もう、あの子たちは……滋藤様、私一人ですけど、お付き合いいただけますか?」
「うむ、そもそも護衛も依頼に含まれているからな」
 ということで、混雑する祭りを初雪は滋藤にそっと手を引かれて見て回ることになったのだとか。

 こうして開拓者が下調べした店を皆は巡り、祭りの一日を満喫したよう。
 だが、これで終わりでは無い。日が落ちてからも祭りの賑わいは続き、料理屋の二階では宴が。
 華やかな楽の音に、女郎たちの舞。まだまだ宴はこれからのようであった。


 広い座敷には所狭しと桜花楼の面々が集まっていた。
 肌寒い季節、体を暖める菊の花の酒に、羽喰らがあらかじめ用意して貰った菊料理の数々が並んでいて。
 そして食事が一段落すれば、
「コウ、一曲弾かせていただきんす」
 三味線を手に座敷を盛り上げるのは華角、舞うのは紅山に朝霧。
 続いて、羽喰が華角の三味線に合わせるように笛を奏でれば、舞手は宮鷺に。
 宮鷺の舞はゆったりと蝶のようにひらひらと。
 桜花楼の舞しか知らない禿や新造たちの目には、その舞は新鮮でため息が漏れるほど。
「紅葉の扇が鮮やかで、綺麗でありんすな。後で、わっちにも教えておくんなんし?」
 思わず朝霧がそう言うほどであった。
 そんな様子に拍手をするルシフェルにミカエル。さらに宴会が盛り上がれば、
「そうね、次は他の方たちにも踊って貰おうかしら? 和さん、やってみない?」
「え、ボクも? うーん、みんなに教わりながらなら、ね」
 切り出したのは踊りを得意とする紅山だ。急に指名されてびっくりする和だったが、
「おうおう、せっかくだし教えて貰おうじゃねぇか……ついでだ! 滋藤の旦那もどうだい?!」
 と、和の左手のフランネルがそんなことを言い出したり。
「ふむ、皆の芸には感心していたが……何か披露できるものを身につけるもいいだろうな」
 と、滋藤もやる気のよう。これには宴会も大いに賑わって。
 和を紅山が、そして滋藤を初雪が手ほどきしつつ、にわか踊りも交えて祭りの夜は盛り上がるのだった。

 そんな中、窓際に腰を下ろして月を見上げている姿が。女郎の初雪であった。
 時折外を見上げては、遠くに聞こえる祭りの喧噪に耳を傾けて。
 そして部屋の中に目を向ければ、舞う華角や宮鷺にそれを習おうとする新造たちの姿が。
 アルトロ兄弟がそれを真似したりと未だ賑やかな様子が続いている宴席。それを楽しげ見る初雪。
 しかし、時折ほうとつくため息は窓の外へと白く漂って。それを見つけたのは滋藤だ。
「初雪、寒いのではないか?」
「滋藤様……そうですね。すこし冷えてきました」
 ならばと滋藤が掛ける物をとってこようとするのだが、その袖を引き留めて
「いえ、滋藤様。大丈夫ですよ……でも、すこしお付き合い頂けますか?」
 にっこりと笑い返して、初雪が引き寄せたのは片口の銚子だ。
 そして言葉少なに二人だけで呑む滋藤と初雪。そっと滋藤の裾に指先で触れながら、
「今回も、来てくださって有難う御座います。滋藤様が来てくださるのが、初雪は一番嬉しくて……」
「いや、こうした機会は嬉しく思う。密かに楽しみにしていたので……な」
 初雪の言葉に、ぽつりと滋藤が返せば、初雪は滋藤の袖をきゅっと握って。
「……また、来てくださいますか?」
「ああ、必要となれば呼んでくれ。馳せ参じよう」
 そう請け負う言葉に、初雪はそっと目を伏せて、
「……すこし、寒くなってきました」
 そういって、滋藤の袖を掛布代わりに引き寄せて、体を預けながら嬉しげに頬を染めるのだった。

 その後、夜遅くまで続いた宴会もお開きになって。
 無事開拓者たちは依頼を果たし、桜花楼の面々は心底楽しい思い出を作れたようであった。