怒髪、天を衝け!
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/11/28 22:59



■オープニング本文

「へっ、開拓者どもは多少腕が立つかも知れねぇが‥‥おつむの方はからきしだな!」
「まったくだな! あいつ等、今頃騙されたのに気付いて地団駄踏んでやがるぜ!」

 げたげたと笑う男達、まったくもって腹立たしい光景である。
 ここは神楽の都からほど近い街道筋にある大きなボロ屋敷の中。
 集っているのは任侠集団『鷺蔵(さぎくら)一家』、とは名ばかりのごろつき崩れたちだ。
 話によるとどうやら彼らは開拓者を騙して金を稼いだようだ。
 この一家、どうやら構成員だけは多いようで、様々な詐欺を働いているようだ。
 粗悪品を売りつける、街道で困っている振りをして金を奪う。
 スリ、置き引き、その他もろもろ。どれもケチな犯罪である。

 そんな卑怯なごろつき集団に怒りを覚える者たちがいる。
 不幸にも、もしくは不注意にも被害に遭った開拓者。
 弱き者のために、自分が代わりに天誅を下してやろうと決意した開拓者。
 話を聞いて、成敗してやろうとやってきた開拓者。

 どうやら今日が、この一家の最後の日になるようだ。
 数だけは多いだろうが、苦戦することは無いだろう。
 怒りを晴らす好機がやってきたのだ。存分に暴れてやろうではないか。

 さて、どうする?


■参加者一覧
雪ノ下 真沙羅(ia0224
18歳・女・志
相川・勝一(ia0675
12歳・男・サ
キース・グレイン(ia1248
25歳・女・シ
ペケ(ia5365
18歳・女・シ
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
猪 雷梅(ib5411
25歳・女・砲
熾弦(ib7860
17歳・女・巫
月雲 左京(ib8108
18歳・女・サ


■リプレイ本文

●猛る者たち
 この世には、決して怒らせてはならない者たちがいる。
 それを鷺蔵一家は痛感することになるだろう。

「私の財布をスろうなんていい度胸じゃねえか、あ?」
 ケラケラと笑いつつ、げしげし足下の男を踏んづけている女開拓者が1人。猪 雷梅(ib5411)だ。
「て、てめぇ! こんなコトしてどうなるかわかってんのか! 俺は鷺蔵一家の‥‥ぐほっ」
 げしげしげしげし。見事な蹴りが踏まれて転げつつも強がる男の背中に連打。容赦なしである。
「ほー、最近噂の鷺蔵一家か。そいつぁいいな。結構金貯めこんでんだろ?」
「な‥‥」
 脅そうとしたら逆効果だったようで、男は腕を捻りあげられつつ、
「‥‥ほら、てめーらのねぐらを教えろよ。さもなきゃこのまま役所に引っ張るぜ?」
「へっ! 仲間を売るようなこたぁ‥‥あっ折れる折れる! わかったっ! わかったからっ!!」
 強がる男だったが、腕をめきめきと捻られてあっさり前言撤回。
 猪は、ケラケラと笑い続けながら鷺蔵一家の本拠地へと向かうのだった。

「‥‥もう、許せません!」
 街道をとぼとぼ歩く女志士が1人。
 鎧からはみ出すほどに豊かな胸が目立つ彼女は雪ノ下 真沙羅(ia0224)だ。
「新しい着物を仕立ててもらおうとしたら、あんな眼にあうなんて‥‥」
 そんな彼女がふと視線をあげれば、前を行くのは知り合いの姿があった。
「‥‥フンドシ一丁で依頼を受けさせられるとは‥‥」
 どういう状況でそんなことになったのかが気になるがそれはともかく。
 前を進んでいたのは小柄なサムライは相川・勝一(ia0675)だった。
「って、勝一様もいらしてたんですか!? い、一体何で‥‥?」
「あ、あれ? 真沙羅さんがどうしてここに‥‥まさか真沙羅さんもアイツらに騙されたとか‥‥」
「え、わ、私は‥‥」
 ということでお互いあたふたと事情を説明し合えば。
「‥‥それはひどい目に遭いましたね」
「勝一様、一緒に参りましょうか‥‥」
「ええ、こうなったら皆の恨みも晴らさないとですね‥‥相川・勝一‥‥参る!」
 2人とも恥ずかしさとお互いの境遇の相乗効果で怒り倍増。
 ほど近い鷺蔵一家の本拠地を目指して一気に突き進むのだった。

 そして、もっと根深い怒りを覚える者たちもいた。
「‥‥天儀の人間は信用ならないと決めつける気はないけれど‥‥」
 はぁ、と人知れずため息をつく修羅が1人。彼女は熾弦(ib7860)だ。
 彼女は仲間の同族、修羅が詐欺にあったという話を聞いて、手を貸すことにしたようだ。
 どうやら彼女以外にも、数名開拓者がすでに現地へと向かっているとの話で、彼女も急いでいるのだが。
「‥‥あら。珍しいわね」
 彼女が気づいたのは、同じように道を急ぐ修羅の姿だった。
 この道が続いている先は街の外れ。せいぜい鷺蔵一家の本拠地がある程度だ。
 とすれば、前を行く修羅の少女もなにか因縁があるのだろう。そう熾弦は考えて声をかける。
「そこの人、あなたもこの先の鷺蔵一家になにかされたの?」
「えっ? わ、わたくしは‥‥」
 はっと顔を上げて身を固くする修羅の少女は月雲 左京(ib8108)だ。
 だが、月雲は声をかけてきた相手が同族である修羅だと気づいて、態度を軟化させるのだった。
「‥‥そう、大切なものを、ね‥‥いいわ、一緒に行きましょう。私に考えがあるわ」
「ありがとう御座います‥‥では参りましょう」
 月雲は、髪に隠れた緋色の瞳をぱちぱちと瞬かせて同行者を歓迎。2人はそろって歩を進めるのだった。

 笑いつつ、恥ずかしがりつつ、もしくは心底からの怒りに燃える開拓者たち。
「‥‥んむむ。さっきから凄いオーラ的なアレを発しながら向かう方々がおられますよー」
 ひょこっと木の上からそんな怒り心頭の開拓者を発見したのはペケ(ia5365)だ。
「そんなにアッタマくる事があったんでしょうか? 超気になるし、ついてってみましょうか」
 こうしてさらに1名様ご案内。ますます状況はややこしくなるのであった。

●混乱、混沌、大混戦!
「やっぱりな。随分と好き勝手にやってくれているようだと、聞いていたが‥‥」
 怒る開拓者たちが鷺蔵一家の本拠地に到着するより少し前。
 そこにはすでに屋敷周囲を観察する開拓者の姿があった。
「‥‥その報い、受けて貰わねばな」
 拳に拳布を巻き直しつつ、静かにつぶやいたのはキース・グレイン(ia1248)。
 彼女はギルドへの被害報告を受けて、密かにこの屋敷を調査にやってきたようだ。
 とりあえず、どうやって一網打尽にするかと考えながら、まずは撒菱の準備を始めるキース。
 すると、同じように撒菱をまいている開拓者がいた。
「や、奇遇だなー。俺もこいつらには痛い眼見て貰おうとおもってさ」
 にぱっと笑ってそういったのは羽喰 琥珀(ib3263)だ。
 コレで開拓者は2人。さてどうやって対処するかとキースが切り出せば、
「んー、たぶん大丈夫だと思うよー。ほっといても、味方がくるみたいだし」
 そういって羽喰が指さした先には、
 街道を急ぐ2人の修羅。熾弦は悠々と、月雲は静かな怒りと不安を漂わせて。
 その後ろから羞恥と怒りで真っ赤な顔をした雪ノ下と、仮面の相川が。
 そして、別方向から楽しげな笑い声と叫び声。おそらく猪と哀れな下っ端だろう。
 さらにはそのすべてを不思議そうな顔で追いかけるペケ。
「なるほど。なら俺たちは、逃がさないように構えてれば良さそうだな」
「あと、やり過ぎないように、かな? ‥‥あはは、こりゃ今日はこいつらの命日確定だなー」
「‥‥全くだ」
 やれやれとキースが肩をすくめてみたり。
 ともかく、状況は一気に動くようであった。


「あぁん? 修羅の女が、やってきただぁ?」
「ああ、それなら頭、きっと、あれでさぁ」
 がやがやと騒がしい屋敷の奥で、お頭といわれた髭面の男に、話しかけたのは下っ端の1人だ。
「修羅と親交を深める為に仲を取り持つ組織を作りたい‥‥てな世迷い言を真に受けたんでさぁ」
 げらげらそういう男に、なーるほどとお頭が頷くのだった。

 屋敷の広間に通されたのは、考えがあると言っていた修羅の巫女、熾弦だ。
 それを迎えた鷺蔵一家のお頭、口八丁で美辞麗句を並べ立てて、彼女を迎えた。
 ‥‥もちろん目的は開拓者である熾弦の装備品と金だ。
 熾弦は巫女ながら腰に霊剣を下げていた。見ればかなりの業物だ。
 売れば金になる、そんな思いで語りかけていたのだが‥‥
「えぇ、では双方の友好の為に‥‥それを悪用する集団には、退場願わないとね」
 突然態度を豹変させた熾弦はその霊剣を抜き放つ! 冴え冴えと七色の輝きを見せる黒い刀身が閃いて。
 と、同時に示し合わせて居たもう1人の修羅、月雲の一撃が入り口扉を吹き飛ばす。
「‥‥あの、あの風呂敷を返して頂きます!」
 月雲の刀は修羅の里生まれの実用刀「牙折」。それが放った地断撃は一撃で扉を破壊するのだった。
 だが、まだ鷺蔵一家の面々には余裕があった。
「ちっ! 驚かせやがって、たかが開拓者の女、2人ぐらいじゃねぇか!」
「巫女と、ガキのサムライだけだ。野郎ども、やっちまえ!!」
 さすがにへっぽこ詐欺集団だけあって、典型的な悪役の反応である。
 だが、そんな彼らの予想を超えて、さらに屋敷は大混乱へ。
「ふ、悪人は全て俺が成敗させてもらう! やられたいものからかかってくるがいい!」
 別方向の壁が、槍と刀の一撃で粉砕! そこから現れたのは虎の面の相川だ。
 そしてもう1人。
「あ、オマエはさっきの巨乳女!」
「ひ、ひどいっ!! ‥‥もう許しません!」
 怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にした雪ノ下もそこから踏み込んでくるのだった。
 さらにだめ押し。庭に面した障子が吹き飛んで、転がり込んできたのは投げ飛ばされた下っ端だ。
「ここの親分は部下の教育がなっちゃいねえようだな」
 撒菱の上を転がったのでぎゃーすと痛がっている下っ端をぐりぐりっと踏んで足場にしつつ登場する猪。
「部下の不始末は上司の責任。しっかり責任取ってもらおうじゃねえか!」
 そして、どかんと一発マスケットが火を噴くのだった。
「うぉ、銃だぞ銃!」「逃げろ!」「いや、やっちまえ!」
 こうして右往左往する鷺蔵一家の100名以上との大乱戦が始まるのだった。

「おー、始まったみたいだなー」
 身軽に二階へ駆け上がる小柄な姿は羽喰だ。隠れているやつを心眼で確認して、刀の鯉口を切る。
 一閃! 居合で二階の壁を切り飛ばせば、中には下っ端たちが。
「さーて、詐欺一家、あれ、三下だっけ? ま、どっちでもいーや」
 笑いながら言う羽喰は、そのまま刀を突きつけると
「オメーら年貢の納め時だから、神妙にお縄を頂戴しろって。今なら半殺しにならないですむぜー」
「い、命だけはっ!!」
「‥‥なんだよー。張り合いが無いなー。縛ってくほーが手間がかかってめんどいのになー」
 拍子抜けしつつ、荒縄を取り出した羽喰は、てきぱき雑魚たちを縛り上げるのだった。

 一方、混戦模様の一階広間では、
「戦が本懐でもない巫女相手に、情けない‥‥貴方達は頭が回るのではなく、小賢しいだけ」
 巫女なら弱いはず、そんな先入観で熾弦に襲いかかった下っ端たちは、あっさり返り討ちに遭っていた。
 そんな彼女を狙う一家の中での腕利き。
 どうやら志体持ちのサムライ崩れのよう。だが、それ相手にも熾弦は悠々と構えて。
「‥‥手練れ気取りのようですが‥‥自分たちの為したことを存分に後悔なさい」
 放たれたのは力の歪み。体勢を崩す手練れは、あっさりと熾弦の峰打ちを喰らって昏倒するのだった。

 同じ頃、屋敷内部に進む月雲。
「邪魔立てされる方は、容赦致しませぬ‥‥月雲 左京、参ります」
 相手は少女と侮ってかかってくる相手も多いが月雲の剣技は本物。
 月雲は敵の長脇差しを刀で捌いて反撃の峰打ち、小柄さを生かして戦っていた。
 そして、彼女がたどり着いたのは、盗品を集めた一室だ。そこには彼女の荷を奪った相手が。
「おまえはさっきの! ‥‥わ、わかった! 荷物は返すからっ!」
 情けなくもそう言う相手に、
「‥‥わたくし、これでも今怒っているので御座います」
 自分の誇りより大切だというその荷の中身は、兄の遺髪と自身の折れた角だという。
 それを奪われた彼女は、静かながら激しい怒りに己を焦がしているようで。
「‥‥覚悟なさいませ」
 そして、その不届き者は完膚無きまでに打ち倒されて、月雲は無事荷物を取り戻すのだった。
「‥‥右京‥‥」
 ぎゅっと取り戻した風呂敷を抱きかかえ、月雲は静かにほかの戦いの趨勢を見守るのだった。

 屋敷のごろつきたちはほとんどが武力に劣る雑魚ばかりであった。
 それを軽々と蹴散らす相川と雪ノ下。余裕の戦いだが、ふと倒した敵に躓く雪ノ下。
 転んだ先には、相川がいた。
「って、勝一様そこは危な‥‥きゃーっ!」
「ふぅ、このあたりの敵は倒したか。次に‥‥って、真沙羅‥‥うわ! い、息が‥‥」
 と、相川は雪ノ下の胸につぶされてみたり。そんな様子を見て、けらけらと笑うのは猪。
「まったく、なーにをやってるんだか」
 楽しげに言いながら、ずどんと銃撃。手練れの1人が足を打たれてのたうち回れば、
「い、いまだ! 弾をこめさせる前にフクロにしちまえ!」
 諦めの悪い下っ端共が一気に猪を囲もうとする。
「‥‥きゃー、やばーい、やられちまーう」
 だが棒読みの台詞で余裕の猪、弾丸を発射したばかりの熱々の銃口で、向かってくる雑魚の額をジュ。
「‥‥んぬぎゃー!!」
「おお、男前になったな。じゃ、つぎはコイツだ」
 そして、ほかの雑魚相手には、銃身を振るってぶっ飛ばして。
「ぶっ飛んだ先にちょうど撒菱か。誰が撒きやがったが知らねーがいい事すんじゃねーの」
 けらけら笑う猪を見て、雑魚たちは完全にびびったようで一斉に逃げ出すのだった。

 で、大暴れの屋敷から逃げ出した下っ端が遭遇したのは、庭で様子を窺っていたペケだ。
「て、てめぇもやつらの仲‥‥‥間‥‥か?」
 どたどた逃げてきた下っ端たちは、ペケに気づいて上から下まで眺めて。
 そして、なぜかいつも緩んでいるペケの褌に視線を向けた。せくしーしょっとである。
 だが、ペケはその視線を攻撃的なものだと勘違い。たしかに血走ってはいたが。
「‥‥もしかして、私巻き込まれた? ‥‥えぇーい! なら戦うしか無いですね!」
 そして、ペケも大暴れ。奔刃術で雑魚に接近、脳天チョップのみだれうち!
 さらには、まとめて飯綱落としの餌食! あっという間に下っ端たちを殲滅するのだった。
「ふふ、わたしの恐ろしさが伝わっているんですね♪ 動きが鈍すぎますよ」
「‥‥ふ、ふんどし‥‥(ガクリ」
 ちょっとだけ幸せそうな顔で、雑魚の1人はさっくりきぜつするのだった。

 そして同じ頃、とっとと逃げようとしていた鷺蔵一家の頭の前に、キースがいた。
「これだけ事を起こしてただで済むと思っているのか? ならこの上なくおめでたいな」
 ずいと退路をふさぐように立ちふさがるキース。
「覚悟はできてるんだろうな?」
 どんと一歩踏み込んで告げるキースだが、にやりとお頭は笑みを浮かべた。
「へっ! びびっちまったが、良く見りゃ細腕だし、武器ももってねぇ! 舐めるのも大概にしろ小僧!」
 そう吠えて斬りかかってくるお頭。
 それをキースはひらりと避けて、お返しに拳で顎をがつん。
 かくんと膝の力が抜けた親分、そのこめかみを横からキースの肘ががつん。
 くらりとさらにぐらつくお頭、その襟首をつかんで、とどめの膝がアゴをがつん。
 流れるような三連打。ぱったり倒れたお頭を、くるくると手際よくキースは縛り上げつつ、
「‥‥俺は女だ。まったく‥‥」
 やれやれとつぶやくキースであった。

●終わった後も阿鼻叫喚
「同族すら食い物にするとは‥‥」
 つぶやく熾弦は、隣の月雲に目をやって、
「‥‥捜し物は見つかったみたいだね。良かった」
「ありがとう御座います」
 ぎゅっと風呂敷を抱いたまま答える月雲。
 2人はすこし離れたところから、役人が一家を連行するのを眺めていた。
 一家はまるごと捕縛。盗品も回収されたようで、
「いい稼ぎみてーだったし、どれか頂戴しようと思ってたのになー‥‥って、じょーだん冗談」
「猪、さらっと横領しようとするな。そもそも盗品から持っていった所で、あいつらの痛手にはならんぞ」
 盗品の山を見て、残念がる猪にキースが釘を刺したり。

 そして、
「ひっ酷い連中です! お金盗んだり、私のお尻見たり! 詐欺働いたり、私のお尻見たり!」
 今頃になって、事態を把握したペケは、地団駄を踏んでいたり。
「暴力振るったり、私のお尻見たりー!」
「ペケのねーちゃん、お尻はねーちゃんの自業自得だぜー」
 けろっと羽喰に言われてみたり。
 ともかく、一家はさっくり壊滅。やっぱり開拓者を怒らせてはいけないようだ。