狙われた二人・後
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 難しい
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/11/19 23:29



■オープニング本文

 記憶を失ってしまった泰拳士、綾麗(リンリー)とアヤカシに付け狙われる少女、陽花(ヨウカ)。
 2人を廻る盗賊の襲撃は無事撃退された。
 盗賊たちの大半は逃げ去ってしまったが、とらえた残党の話に寄れば金で雇われた賊徒だという。
 狙いは綾麗の運んでいた荷だったようだ。しかしそれは不可解なこと。
 なぜなら、綾麗はその荷をすでに奪われているからである。

 その後、2人を保護する儀弐王側近の文官、保上明征氏と開拓者の調査の結果、判明したことがある。
 荷を奪ったのは襲撃に遭い、逃げ延びた綾麗を襲った別口の盗賊であるというだ。
 綾麗の持っていた荷、それは価値の高いもののようで、最初から彼女は狙われていたのだろう。
 そして、何者かが荷を狙った襲撃をおこし、彼女はそこからなんとか逃げ出した。
 しかし、怪我もあり身動きが取れなくなり、その逃避行の最中で街道沿いの賊と遭遇。
 そこで荷を奪われてしまった、ということが判明したのである。
 未だに綾麗の記憶は戻らないが、どうやら荷はかなり貴重なものなのだろう。
 もちろん、保上明征氏と開拓者達はその荷の奪還の準備を進めている。
 だが、ここでもう一つの不審な事件が発生していた。
 それは、再び屋敷を狙う者たちが現れたのだという。

「‥‥不思議だねぇ。だって、撃退したはずの盗賊たちがまた姿を現してるんだって?」
「ええ、どうやらそのようです。でも‥‥どうも、もっと厄介なことが起きてる気がします」
 不思議だと首をひねっているのは屋敷の居候、中務佐平次。
 そして、眉を寄せて不安そうな顔でそれに応えているのは、陽花の兄の淑栄(シュクエイ)である。
「でも、確か‥‥盗賊たちの根城はもぬけの殻だったんだよねぇ? それに‥‥」
 声を潜める佐平次。盗賊が掴まったあと、もちろん盗賊たちの根城には捜査の手がおよんだ。
 だがそこで発見されたのは‥‥
「‥‥盗賊たちの根城は、血痕だらけだったんだよね」
「はい、どうやら逃げ帰ったところをアヤカシに襲撃されたのでは、という話ですが‥‥」
 首をひねる淑栄。謎は深まるばかりであった。

 だが、そんな中でふと閃いたのは佐平次であった。
 前回屋敷を狙った盗賊たちの襲撃は、綾麗の荷を狙ったものであった。
 おそらく、それは最初に荷を狙った何者かの指図によるものだったのだろう。
 だが、その何者かはすでに荷が別の盗賊によって奪われていることを知らなかったようだ。
 そのため、見当違いにもこの屋敷に襲撃が行われたというわけだ。
 しかし、ならばなぜ二度目の襲撃の気配があるというのか。
 佐平次が閃いたのはそこだ。同じ盗賊が二度来るからといって“本当にその盗賊は同じ者たちなのか?”
「‥‥そう言えば、淑栄くん。君と妹の陽花くんを狙うアヤカシは、人に化けるんだよね?」
「はい、その通りです。『暗鬼』と仮に呼んでいますが、暗鬼は姿どころか記憶までそっくり化けるとか」
「うんうん。それで最近、それとは違う下手くそな化け方のアヤカシもいるんだってね」
「ええ、保上様曰く、この周辺でも目撃証言があるそうですが、それが?」
「‥‥‥下手な化けアヤカシは暗鬼の部下で、さらに暗鬼たちが盗賊を襲ったとしたら?」
 はっと顔を上げる淑栄。
 暗鬼は喰らった相手の記憶を読み取り、それを我がものに出来るという。
 ならば、一度屋敷を襲撃してその配置やこちらの戦力を知っている賊を喰らえばどうなるか。
「‥‥こっちの手の内を知っているアヤカシが襲いに来る、ってことですよね」

 どうやら今回の敵は淑栄と陽花を執拗に狙い続けるアヤカシ、暗鬼のようだ。
 暗鬼は淑栄の開拓者仲間の永錬というサムライを喰らい、淑栄たちを罠にはめた仇敵である。
 淑栄とその仲間の陰陽師、甲雲は罠にはまり、その際甲雲は炎鬼と鎧鬼に襲われ死亡。
 淑栄も罠におびき寄せられたものの、開拓者の働きにより助かったという背景がある。
 見た目では、同じ盗賊たちによる二度目の襲撃なのだが、中身は全く別物だ。
 襲い来るのは、アヤカシ達の群れ。しかも、こちらの手を知っているというおまけ付きである。
 前回に増して厳しさを増すこの護衛の任務だが、彼女たちが頼れるのは開拓者だけだ。

 さて、どうする?


■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086
21歳・女・魔
音有・兵真(ia0221
21歳・男・泰
黎乃壬弥(ia3249
38歳・男・志
滋藤 柾鷹(ia9130
27歳・男・サ
ゼタル・マグスレード(ia9253
26歳・男・陰
白 桜香(ib0392
16歳・女・巫


■リプレイ本文

●助っ人来たる
 理穴の都、奏生郊外にある保上明征の屋敷にて。
 前回に引き続き、護衛の任務を受けた開拓者達は早くも準備を始めていた。
「‥‥喰らった相手の能力を真似るアヤカシ‥‥ですか」
 ふ、と首を傾げて考える様子を見せる朝比奈 空(ia0086)。
 淑栄と陽花から、二人を狙うアヤカシ『暗鬼』の話を聞いたのだろう。
 その中でも、記憶ごと開拓者の技術すら奪うこの力は厄介と思うようで。
「‥‥そのうえ、この人数で護衛とはまた難儀な事で」
 そう朝比奈は呟くのだった。
「例え人手が足りずとも、絶対に護らねばならぬ」
 朝比奈の呟きに滋藤 柾鷹(ia9130)はキッパリといいながら、
「‥‥しかし、人数については大丈夫だろう。手伝いを頼んだからな」
 すると、丁度良く屋敷の戸を叩く音が。
 中務佐平次と音有・兵真(ia0221)が屋敷の扉を開ける。すると2人の前には、
「‥‥滋藤さんと音有さんに呼ばれてお手伝いに来ました」
 ぺこりとお辞儀をする巫女、白 桜香(ib0392)と。
「ま、呼ばれた分の仕事はしねぇとな‥‥なあ、高官の屋敷なら、高い酒とかあるんじゃねぇかな?」
 にぃと笑みを浮かべる大男、黎乃壬弥(ia3249)が。
 二人は滋藤と音有の親しい者のようで、応援にやってきたのだ。
 その二人を加えた一同は改めて作戦を練り、対策を考えるのだった。

●平穏と備え
 綾麗と手の甲を合わせ対峙する音有。お互いにじりじりと呼吸を計っていた。
 次の瞬間、先に動いたのは綾麗。体に覚えた技なのか、音有の小手を払いながらひねりを加えた拳打。
 しかし音有の方が一枚上手。放たれた拳を肘で払い、そのまま肘を跳ね上げる。
 拳を躱され、胸の前でぴたりと寸止めされた肘を見て、驚く綾麗。
「一本! ‥‥ちがうかな。えーと、技あり?」
「いや、それは天儀式ですね。この場合、勝負あり、かと」
 なぜか審判役だった佐平次の声に、苦笑しつつ応える淑栄。
 彼らはみんなでそろって、綾麗と音有の組み手を見学していたのであった。音有の、
「動かずに籠もってばかりよりは良いだろう?」
 という言葉で、組み手を始めたようであった。
 もちろん気を抜いているわけではない。周囲から分からないように屋敷の守りは固められつつある。
 同時に、より警戒を深めた開拓者達は、屋敷内部でもいくつかの策を考え出したようだ。
 だが、だからといって気を張るだけではだめだというのも一理ある。
「篝火の用意はこの辺りで‥‥と、なんだか賑やかだな」
 盛り上がっている庭にひょこりと顔をだしたのはゼタル・マグスレード(ia9253)だ。
 文官然とした青年は、篝火を再配置したりと忙しく準備中のようであった。
「よーし、こっちも終わりだ。いやぁ、一仕事終わった後の酒は美味いもんだな」
 丁度同じ頃、ごろーんと縁側に転がりつつ、早速持ち出した銘酒を嘗めている黎乃。
 黎乃は、なぜか屋根の上に簡易の見張り台を作っていたようで準備は進んでいるようであった。

「盗賊の襲撃の裏に、宿敵・暗鬼が絡んでいるとは‥‥やはり、微かな点と点は線に結びつくのだな」
 ぴたりと陽花と綾麗の側に控えて護衛役を務めている滋藤の言葉に、こくりと陽花は頷いて。
「今回は、私と兄を狙うアヤカシのせいで綾麗さんも危険な目に合わせてしまって‥‥」
 と恐縮する陽花であるが、それに対しては滋藤が首を振って。
「大丈夫だ。また窮屈な思いをさせるだろうが、我らがきっと護りきる」
 と安心させるように請け負う滋藤。そして彼は綾麗にも向き合って。
「それに、綾麗殿の荷を取り戻しに行っている仲間達のためにも‥‥な」
 そういって2人をしっかりと安心させるのであった。
 そこに、組み手を終えて休んでいた音有はふと思い立って、自分の荷物をごそごそと漁り始めた。
 彼がぽんと手渡したのは二つの武器だ。
 楽しそうな妹を眺めていた淑栄には、ジルベリア風の宝剣ドラグヴァンデル。
 そして、黎乃と一緒に銘酒を味見していた佐平次には、宝珠銃「皇帝」を。
「‥‥それぞれが使えそうな物で、一番良いものを選んでおいた。使ってくれ」
「おお‥‥これはエレメンタルロック式の短銃じゃないか! こんなすごいものを」
 なにやら感激している様子の佐平次に、見事な宝剣を矯めつ眇めつ眺めている淑栄。
 2人は、感謝してこの武具を借り受けるのだった。そこで淑栄が思いついたのは、借りたを試すこと。
 ぐるりと見回せば、丁度良く縁側で大の字になっている黎乃がいる。
「‥‥黎乃殿、申し訳ないが少々練習に付き合って貰えないだろうか?」
「え〜? 折角真っ昼間から酒に酔えて良い気持ちだってのに」
 と、巫山戯つつも木刀を持って立ち上がり。
「ふむ、いいか? 負けても酒のせいだからな!」
 とふらふらしつつも言う様子に、思わず一同は笑い声を上げるのであった。
 そんな中で、ふっと笑みを零す綾麗。
「なんだ、笑えるじゃないか。その方が良いぞ」
 と、音有に言われた綾麗は、自然と笑っていた自分の頬に手を添えて。
「そうだ! 女の子はなぁ、笑ってるのが一番だぞ。うちの娘の笑顔の可憐さと言ったら、お前そりゃもう‥‥」
「ほらほら、黎乃殿。一手ご教授お願いします!」
「ああもう、これからうちの娘の可憐さを説明するってのに!」
 と、淑栄に引っ張られていって、またしても笑いが。
 綾麗は、依頼だけの関係でありながらも真摯に心を砕いてくれる開拓者達に心底感謝していた。
 たとえこの先、記憶が戻らなくてもなんとかやっていける気がする。そんな思いで、綾麗は笑うのだった。

●護るべき者
 その日の夕餉も、桜香が作った手製の料理の数々だ。
「アヤカシに対抗するにはまず美味しい食事から、ですよ」
 そう言って桜香が作るご飯の数々は仲間の元へ届けられて。
 ちなみにその日のお品書きは、冷めても美味しい濃い味の焼きお握りに、疲れに嬉しい塩の効いた浅漬け。
 そして晩秋の寒さを払うお味噌汁で、開拓者たちはほっと一息つくのだった。

 その夜の丑三つ時。月は変わりやすい秋の季節故か雲に隠れつつあった。
 静まりかえる屋敷、所々で篝火が焚かれてはいるが、それでも闇を全て払うほどではない。
 その闇の中を動く影があった。軽装で音も立てずに進む男達、それは以前屋敷を襲った盗賊達だ。
 だが、違う。まず表情が一切無い。能面のようなその顔は、まるで作り物のよう。
 視線を交わすこともなく、屋敷のさまざまな所から壁を越え侵入してくる盗賊達。
 飛び上がり壁を登ったり、爪を立てて体を支えたり。
 やはり能力は盗賊達を超えているようで、予想通りアヤカシの群れであった。
 そんなアヤカシ達は、屋敷の所々に張られた鳴子の罠に気付き、それをひらりと飛び越えれば。
 じゃり、敷かれた玉砂利が鳴り、ぱしゃり、見にくい薄い水たまりが音を立てた。
 その次の瞬間、鳴り響く呼子笛。灯りが方々にともり、あっというまに臨戦態勢。
 開拓者の二重三重の罠をさすがのアヤカシ達も看破は出来ず、全面対決の様相となったのであった。
 相手は強敵だ。戦闘力こそがアヤカシの真骨頂であり、それを待ち受ける開拓者達。総力戦である。

 まずアヤカシ達が押し寄せたのは、前回の護衛場所の離れだ。
 しかし飛び込んだアヤカシ達は次々に地縛霊の餌食に。離れの周囲にはゼタルが罠を張っていたようだ。
 罠の一撃はアヤカシたちを倒し斬るには至らなかったよう。アヤカシ達は次々に移動を開始。
 屋敷の要所に散って、痕跡を探すもの。屋敷内部を突き進み、開拓者と娘達を探すもの。
 だが、屋敷の要所要所には巻菱や罠があり、罠にはまればアヤカシ達は足が止まって、
「こちらです! 逃しはしませんよ」
 瘴索結界を使ってアヤカシを見つけ出すのは朝比奈、そして彼女とともにアヤカシを追うのは音有と淑栄。
 泰拳士2人は、その身軽さを生かして、逆にアヤカシ達を狩り出すのであった。

 同時に、屋敷内部に侵入したアヤカシ達は、驚愕していた。
 もちろん能面のような表情には変化はないが、明らかに戸惑っていた理由、それは屋敷内の間取りのせいだ。
 廊下のど真ん中に巨大な箪笥。開け放たれた襖の奧に畳が立てかけられていたりと迷宮のようだったのだ。
 そこで灯りに照らされつつ鎮座していたのは、完全武装の黎乃壬弥!
「ようこそ地獄の三丁目へ」
 面頬の下に笑みを浮かべつつ、右手には槍、左手には刀でアヤカシ達を睨め付ける。
 そして、そのまま一気に踏み込んで、槍で二匹のアヤカシをなぎ払い、そのまま庭までぶっとばす!
 すぐさま跳ね起きるアヤカシ達、強敵を放置するわけにもいかないので、じりじりと距離をつめるが。
「うーん、さすがは高級品! 撃ち心地が良いなぁ♪」
 銃声とともに、にこやかに現れたのは隠れていた佐平次。壬弥の後方の敵を足止めして。
「後ろは頼んだぜ。さぁて、呑んだ酒の分は働こうかね」
 底冷えするような獰猛な視線でアヤカシを見据える壬弥、多勢のアヤカシを相手に大暴れの始まりであった。

 そして、最後の一団は蔵の前に居た。守りを固めた滋藤に、その後ろで瘴索結界を張る桜香。
 さらには桜香と並んで、人魂を飛ばしつつ周囲を警戒するゼタルだ。
 桜香は小太刀を抜きつつ警戒、滋藤たちたった3人の開拓者が最後の砦なのである。
 アヤカシたちはまだここまで攻め斬れていないようで、散発的にやってくる程度。
 それをゼタルが呪声で攻撃し、滋藤が刀の一撃でとどめを刺す。
 桜香の加護結界の援護もあり、まだ彼らは十分に守りの役目を果たしているのであった。
 敵を引き寄せ目立つ戦闘を行う黎乃、遊撃してアヤカシを狩り出す朝比奈と音有。
 この二組がそれぞれしっかりと戦果を上げているからこそなのだが、やはり暗鬼はそれだけで終わらなかった。
 数名の配下とともに現れたのは壮年のサムライ、永錬の姿を借りた暗鬼であった。
 おそらく部下を捨て駒に使ってここにやってきたのだろう。
「‥‥見つけたぞ。もう逃げられん」
 滑らかに暗鬼がそう言えば、その前に立ちはだかる滋藤。
「何の目的で2人を狙う?」
 だが、暗鬼はその言葉には応えず、ただただ刀を抜いて奔り寄って、滋藤と激突。
 滋藤は、全力でそれを迎え撃つのであった。

「‥‥術が使えずとも、闘う術はありますので」
 不用意に近寄ってきたアヤカシを抜き放った魔刀で切り払ったのはなんと術者の朝比奈。
 遊撃班の面々は屋敷要所のアヤカシ達を見事に倒しつつあった。
「前と異なるのは、屋敷だけじゃないぜ、日々変わっていくものだからな!」
 そういって踏み込んだのは音有だ、前回の間合いを知っているのか距離を取るアヤカシ。
 だが言葉の通り、音有の攻撃は前回とは違った。
「逃がさん、貫け!」
 グングニルによる投擲攻撃で、見事アヤカシは倒されるのだった。
 そこで朝比奈の結界が反応、それはゼタルの人魂だった。それは本丸の蔵に強敵出現の知らせ。
「急いで戻りましょう!」
 朝比奈の指示で、一気に罠の合間を縫って音有と淑栄は蔵へと急行するのだった。

 そして、朝比奈たち遊撃班が抜けた分は黎乃のところにしわ寄せが。
 しかし、さらに増えたアヤカシ相手に一歩も引かない佐平次と黎乃。
「おや、焙烙玉の音が‥‥どうやら、蔵のほうで戦いが激化してるみたいだね。どうする?」
「ん? まぁ、俺らはコイツ等をここに足止めする方がいいかもしれねぇな‥‥そぉら、どうしたぁ!」
 佐平次の言葉に、軽く応えつつ不用意に間合いを詰めたアヤカシを槍で串刺しにする黎乃。
 2人は、危険な仕事であることを理解しつつ、その場に足を止めて。
「なんてったって俺の仲間達だから、心配はいらねぇよ。ちゃんと仕事は果たすだろうからな」
 そういって黎乃は槍を手放し、刀を平正眼に構えると、斬りかかってきた相手に片手の平突で返り討ち。
「だから、俺らはここで自分の仕事を果たすぜ。さぁ、もうちょっと地獄に付き合って貰おうか」
 2人が対するアヤカシの数、なんと10以上。だが2人とも一切引かずに立ち向かうのであった。

●闇に逃れて
「ここは決して通さん!!」
 裂帛の気合いで、暗鬼と切り結ぶ滋藤。しかし不動と隼襲を使いつつも、その剣技は互角だ。
 アヤカシの膂力に加わるのは歴戦のサムライの技。さらにはシノビの技すら使う暗鬼は強敵だった。
 だが、滋藤は手傷を負いながら持ちこたえる。そしてゼタルと桜香もアヤカシに立ち向かう。
 暗鬼の配下は増えつつあり、多勢に無勢か。だが救いはやってきた。
「迂闊ですね‥‥消えなさい」
 救援に来た朝比奈は、横合いから暗鬼の配下に刀で白梅香の一撃!
 さらには、音有が爆砕拳の一撃で包囲を崩す。そこに駆け込んで一気に開拓者達は押し返した。
 包囲が解ければ、滋藤も援護を受けて一気に反撃。躱す暗鬼だが、その肩口に見事一撃。
 それを受けて、暗鬼はとーんと飛び退り距離を取った。
 部下は残り数名、一転して暗鬼らアヤカシが窮地だ。だが次の瞬間開拓者は驚愕した。
 じわりと滲むようにして暗鬼の配下達が姿を変える。全員が同じ盗賊に。
 そして暗鬼もその盗賊に姿を変えたのだった。そして一気にアヤカシたちは逃走!
 どれが暗鬼だか分からない状況だが、なんとしても仕留めねばならない!
「撃ち抜き、そして弾けろ‥‥!」
 朝比奈が放ったのは渾身のアイシスケイラル。飛来した氷の弾丸はアヤカシを穿ってはじける!
「我が神槍に二の打は無用、貫け!!」
 破軍全開で、グングニルを投擲する音有、見事にアヤカシの一体が貫かれ消滅!
「逃がすか!」
 滋藤も隼襲で追いすがり、渾身の回転斬り! 一気に二匹のアヤカシをなぎ払う!
 しかし、三者の渾身の追撃に対して、闇から声が応えた。
 ただ一匹逃れた賊、それはにたりと笑うと。
「‥‥貴様等も覚えたぞ」
 そして闇に消える暗鬼。手傷は負わせたが、暗鬼は逃げてしまうのだった。

 屋敷には平穏が訪れた。
「いやぁ、これでやっと酒が呑めるな」
 怪我を桜香に手当てしてもらいつつ、早くも大徳利を手元に引き寄せたのはもちろん黎乃だ。
 だが、それをひょいと取り上げるのは手当てしていた桜香。
「その前に、屋敷の修繕とお片付けをしませんと」
「‥‥確かに、保上の旦那や家人の皆に腰抜かされたら寝覚め悪いからな‥‥」
 しぶしぶ酒を諦めた様子の黎乃に、またしても笑いが起こったようで。
 見事護りきられた陽花と淑栄。そして綾麗もそんな開拓者達の働きに心を打たれたようで。
 私も、と一緒に働きつつ、どこか晴れ晴れとした表情で、一緒に笑いあうのであった。
 依頼は無事終了。見事暗鬼のもくろみは撃退。
 また暗鬼と相まみえることはあるだろうが、ひとまずは平和が訪れるだろう。