【PM】希望の剣
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: ショート
EX :危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/11/26 23:06



■オープニング本文

※このシナリオはパンプキンマジック・シナリオです。
 オープニングは架空のものであり、DTSの世界観に一切影響を与えません。

 開拓者は冒険の果てに何を見るのか。
 これはその最後の一幕。
 世界の敵となった者と、それを討とうとする者たちの物語だ。

 幾つもの死線を越えて、貴方の力は遙かな高みへとたどり着いた。
 アヤカシを屠り、国を守り、仲間を助け、世界を救いつづけたのだ。
 だが、その結果‥‥待っていたのは敵意だった。
 強すぎる力を得た貴方はまさに一騎当千。
 並ぶ者無き勇者、孤高の達人、救国の英雄、世界の救い主。
 だがそんな力を持つ者を、敵よりもなお恐ろしいと思う者たちがいた。
 幾度も世界を救ったのに、貴方はまるで化け物のように扱われたのだ。

 そこで、貴方には二つの道がある。
 一つは、たとえ裏切られようと、自らの正義を信じて希望の剣となる道。
 そしてもう一つが、世界を滅ぼそうと自らの心のまま世界の敵となる道だ。
 どちらを選ぶ?

 ‥‥そう、ならば貴方は希望の剣だ。

 さて、どうする?


■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163
20歳・男・サ
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
礼野 真夢紀(ia1144
10歳・女・巫
月酌 幻鬼(ia4931
30歳・男・サ
ベアトリーチェ(ia8478
12歳・女・陰
ルキノ(ib6603
20歳・女・砂


■リプレイ本文

●それぞれの平和
「むー、釣れぬなぁ〜」
 1人川面に釣り竿をたれる偉丈夫。月酌 幻鬼(ia4931)はその日も暇をもてあましていた。
 だが、不意に彼はがばっと体を起こすと、
「‥‥ん? お? これはこれは、大物が釣れたなぁ〜」
 急にけたけたと笑い出すのだった。
 ちょうど、そのころ開拓者ギルドには世界の敵たちへの一大反撃作戦が計画されていたようだ。
 その情報を、いち早くとらえた月酌は、得物を手に戦場へと向かうのだった。
 戦うためではない、戦いの果てに鬼と化した男は遊びに行くのだ。
 最も人の味方とは遠いようなこの男、どうやら今回ばかりは人の希望となるようだ。
 ‥‥あくまで結果的に、だが。

 同じ頃、礼野 真夢紀(ia1144)の故郷をギルドの職員が訪ねていた。
 ギルドの切り札とされる希望の剣、それがこの小さな少女なのだ。
 土地の守り神から下賜された羽衣、その力をふるう彼女は最強の開拓者の1人であった。
 その強すぎる力は恐れられることもあった。だが、彼女には確かな味方がいた。
 家族や親友に支えられた真夢紀は、けっして人の道を外れることはなかったのである。
 そして今回も、彼女は人類の希望としてギルドの要請を受けた。
「わかりました‥‥それでは行って参ります」
 2人の姉とその伴侶、甥や姪たちに笑顔を向け真夢紀は戦場に向かった。
 敵は悪名高き大アヤカシの少女とそれを守る骨の仮面騎士、白銀の魔女と紅淵の魔神だという。
 彼女には精霊がささやきが聞こえていた。危険だ、となんども彼女を止める声として。
 だが、それでも彼女は仲間たちを救うために、危険な戦場へと向かうのだった。

 同じようにギルドの訪問を受ける者はほかにもいた。
 だがこちらの様子はまるで違う。
 そこかしこに積まれているのは高価な宝飾品。どれもこれも献上物のようだ。
 すべては、この屋敷の主を恐れ、その怒りに触れないがために贈られた物であった。
 その屋敷の主は、今日も今日とて屋敷の最奥で怠惰を貪っていた。
 最上級の酒を嘗め、そして献上品として捧げられた美姫たちを愛でる最強の陰陽師。
 それがここの主、葛切 カズラ(ia0725)である。
「‥‥ふーん、同類かそれとも右か左に道を踏み外していった人たちか」
 ギルドからの書状に目を通しながらカズラはつぶやいた。
 人類の敵を同類とのたまう彼女も、また危険な人物であった。しかし、
「どちらにせよ、頼まれたんだから引き受けないとね」
 そう軽く言って、彼女は式で作り出した巨大な蛇神を使役して屋敷から飛び立つのだった。

 人知れず戦場に身を投じる者もいた。
 小さな孤児院で、忙しく働く1人の青年。
 名をミナージュと言う彼は、三笠 三四郎(ia0163)が転生した姿だという。
 子供たちを育て、修行の日々を送るこの青年は、戦乱の気配にはたと気づき、そして神の声を聞いた。
「所詮はこの戦いも神の掌の余興‥‥救って見せましょう」
 そう、彼は世界の敵となった者たちを救うために立ち上がったのであった。
 ほかの者とは全く違った力の持ち主であるミナージュ。
 彼は、救いをもたらすために、急ぎ戦場へと向かうのだった。

 そして、因縁から戦場に身を投じる者たちが。
 奇しくも2人とも、戦いにそれぞれの姉の姿を見つけた者たちだ。
 1人はリーチェ・ローズガーデンという名の魔術師。
 若い身空で隠居暮らしの彼女は、ある日いくつもの街を凍らせた白銀の魔女の話を知った。
「あいつを倒すのは‥‥同じ血を引く私の役目よ。例え私の命を懸けてでも‥‥あいつだけは」
 決意を胸に、隠居暮らしを離れ戦場に身を投じる彼女の本当の名はベアトリーチェ(ia8478)。
 リーナ・クラインの妹、ベアトリーチェ・クラインであった。
 そして最後の1人は、ルキノ(ib6603)という名前の砂迅騎だ。
「‥‥半精霊の踊り子の討伐‥‥」
 彼女には、大きな争乱の際に、はぐれたラティオという名前の姉がいた。
 姉を探しつつ、研鑽を重ねたルキノはすでに並ぶ者無き砂迅騎となっていた。
 だが、姉は見つからない。そんな中、大きな討伐依頼の中に彼女は姉の姿を見た。
 踊りの高みの果てに、そのきざはしからはみ出てしまった姉は、半精霊の魔人と化していたのだ。
 ルキノが姉を連れ帰るために戦いに参加することを決意するのは、そのすぐあとであった。

 こうして、それぞれの背景は違えども、最強の力を持つ開拓者たちが集まった。
 ある者は救いの声に応じて。ある者は仲間のために。
 そして、因縁から戦いに加わる者もいれば、ただただ楽しみから参加する化け物もいた。
 その者たちを含んだ数千の開拓者の軍勢は、凍り付いた戦場へと突き進むのだった。

●希望の戦場
 戦端は開かれた。しかし、数千の開拓者はただ1人の世界の敵相手に足止めを食らっていた。
 恐ろしき敵の名前は騎士ウィンストン・エリニーだ。
 悲壮な覚悟とともに、世界の敵であることで自らの矜持を貫こうとする彼は消して引かなかった。
 このままではいたずらに被害だけが増えるだろう。
 それを感じた希望の剣たちは、最初から全力で仕掛けざるを得ないのだった。
 だが、その状況であっても、遊び気分の男は月酌。まずはほんのじゃれ合いだ。
 人の限界を超え、鬼と化した月酌。その全身が異形へと膨らみ、次々に爆ぜる。
 現れたのは月酌が今まで食らった者たちの姿。
 その姿に変化しさらに分身し、異形の軍勢を生み出したのは月酌の『百億鬼夜行』だ。
 だが、その無数の軍勢をウィンストンの剣風が消し飛ばす。
「は! やはりこの程度の遊びではだめかの?」
 けたけたと笑いながら鬼ごっこのように走り回る鬼の群れ、その中で月酌は笑い声を上げた。
 しかし、仕掛けたのは月酌だけではない。
「なら、これならどう?」
 上空から、式を引き連れて落ちてくるのは葛切カズラ。
 飛び降りながらばらりと符をばらまけば、数百の符がすべて巨大な蛇神へと姿を変えた!
 月酌の鬼も巻き込んでウィンストンに襲いかかる蛇神の群れ。
 さらにそこにたたき込まれたのは、ミナージュの一撃だった。
 数千まで増えた蛇神の群れがウィンストンの防御を崩した一瞬で、ミナージュが放ったのは天罰の一撃。
 周囲の蛇神すべてを爆裂させつつ、ウィンストンを打ち据えた技の名は「怒りの日」。
 すべてを灰燼と化す聖なる一撃を、ウィンストンは耐えた。しかし、彼はそこで膝をついた。
 頭を垂れて、大剣にもたれかかり動かなくなる悲しき騎士。
 だが、戦いはまだ始まったばかりだ。希望の剣たちはそれぞれの相手に向かうのだった。

 その実体すら捉えられない相手を前に苦戦しているのはルキノだ。
 姉であるラティオの姿は、まるで幻。現れたかと思えば消え、無数に増えたりかき消えたり。
 万象尽くを切り裂く刃も届かず、百発百中の銃撃も空を切り続ける。
 だが、ルキノはあきらめずに攻撃を繰り返し、姉を戦場から引き離した。
 ついてくるラティオ、立ち向かうルキノ。
 しかし一切の攻撃が通用しない相手についにルキノは力尽きかけるのだった。
 あとはもう一方的な蹂躙だ。獲物を捕らえた獣が、それを嬲るように、ルキノを嬲るラティオ。
 だが、どこかその行動には迷いがあるようだ。
 ルキノを確かめるように、何度も攻撃を加えるラティオ。
 そしてルキノは決意した。自身を嬲れば嬲るほど、ラティオの実体は焦点を結び始めている。
 今こそが唯一の好機、ルキノは失望と諦観の中で、静かにその刃を姉へとまっすぐに突き刺すのだった。
「‥‥姉さん、貴方はもう駄目だ」
 悲しみながら、最後の力をふるうルキノ。その刃は確実に半精霊の姉を貫く手応えを返した。
 最期の時、すべてを取り戻した姉のラティオは、ただ妹にありがとうと伝え事切れるのだった。
 ルキノは、姉の遺体を抱きかかえ、戦場を離れた。砂漠へ帰ろう。
 そうつぶやいて、2人は姿を消すのだった。

 紅淵の魔神、瀧鷲と互角の戦いを繰り広げているのは現人鬼の月酌だ。
 瀧鷲のハルバードが生み出す広範囲の衝撃で百億鬼夜行を蹴散らされながらも楽しそうに戦う月酌。
 戦場にいるのは彼らだけではなかった。
 突然飛びかかってくるのはシュラハが生み出した不死の魔獣。
 襲いかかった先は、いつのまにか現れた市松人形のような少女だ。
 だが、その少女はがぱりと口を大きく開けて、魔獣を飲み込んだ!
 月酌は参の遊び「黒鬼」によって少女へと転じていたのだ。
 魔獣をごくりと飲み込む月酌。さすがの不死も喰らわれてしまえば関係ない。
 戦いは五分だった。瀧鷲を援護しているのは白銀の魔女、リーナの魔法がその要のようで。
 だが、月酌はにやりと笑みを浮かべた。そう、そろそろ転機が訪れるという確信があったのだ。
 吹雪が視界を覆い、氷雪が動きを鈍らせる。だが、その白い世界を赤い花弁が切り裂いた。
「紅き薔薇を纏いし妖精よ、彼の者を切り裂きなさい!」
 薔薇の術を放っているのは、リーナの妹ベアトリーチェ。
 白と赤の対決は、五分‥‥いや、わずかに白が優勢だ。
 だが、それでもベアトリーチェはあきらめずに術を放ち続けていた。
 姉を倒すのは、自分しかいない。そう決意しているからだ。

 ベアトリーチェの乱入によって月酌と瀧鷲は一対一となった。
「ははははは! もっとだ、もっと楽しもうぞ!」
「‥‥私が往くのは私の道のみ。例え世界を敵にまわしても。だ」
 吠える月酌に、はねのける瀧鷲。しばし戦いは続いたのだが、その中で突然月酌がこぼした言葉は
「‥‥飽きた」
 だった。さすがのこれには瀧鷲も呆然とする。
 だが、次の瞬間、月酌の体から噴き出した鬼気は尋常のものではなかった。
 とっさに構えた瀧鷲、だが月酌の方が早かった。
 一陣の颶風のように距離を詰めた月酌。その一撃は単なる抜き手だった。
 しかしそれは瀧鷲の胸を見事に貫くのだった。

 ちょうど同じ頃、魔術師同士の戦いも最終局面であった。
 勝負を決めにかかったのは姉のリーナ。白銀の魔女の放つ最大魔術、アブソリュートゼロの一撃!
 すべてを凍らせる絶対零度の秘術が妹のベアトリーチェをおそう。
 だが、その秘術を前にベアトリーチェは高らかに叫んだ。
「来たれ、紅き薔薇の女王! 我が力と成れ!」
 白銀の世界に鮮やかに舞い散る赤い薔薇の花弁。それがベアトリーチェを包み込む。
 花弁は薔薇のドレスへと変化し、同時にベアトリーチェの魔力がかつてないほど高まった。
 そこに、直撃する絶対零度の一撃。すべてが凍り付いたかに思えた次の瞬間、吹き上がる爆炎。
 最大の一撃を破られたリーナ。その隙を逃さず、ベアトリーチェは炎を放つ。
 炎が狙ったのはリーナの心を闇の魔力で縛る魔術書だ。
 そして魔術書が燃え尽きると同時に、リーナはすべてを悟ったようであった。
 薔薇のドレスが崩れ、ぼろぼろの姿で姉の前にやってくるベアトリーチェ。
 リーナは妹の前で、自身を氷へと封印することですべてにけじめをつけるのであった。
 そして、倒れた瀧鷲を見つめる鬼、月酌。
 やがて瀧鷲が目を開いた。月酌は瀧鷲を殺さなかったのだ。破壊したのは彼女を支配する胸の宝珠のみ。
 かすれ声で何故だと尋ねる瀧鷲に月酌は、
「殺しはしないよ遊びに来ただけだから。それに、死なせはしないよ助けに来ただけだから」
 そういって、すこし悲しそうに自身を罰したリーナを見ながらも。
「‥‥鬼さんは誰よりも最低最悪最凶だからね」
 そうとだけ瀧鷲に告げて、満足げに立ち去るのだった。

 そしてもう一つの戦いもい最終局面へと向かっていた。
 シュラハの配下である不死者の軍団と戦い続けるのはミナージュと葛切、そして真夢紀だ。
 ミナージュの光速拳が大型の敵を討てば、亡者の群れを葛切の術がなぎ払う。
 開拓者たちを狙ってシュラハの瘴気の弾丸が放たれれば、それをすべて受け止める真夢紀の防御術。
 真夢紀の反撃。城をも破壊する極大精霊砲の一撃は、シュラハを守るレヴェリーの障壁に阻まれる。
 超級の開拓者3人を相手に、シュラハとレヴェリーは五分で戦うのだった。
 シュラハが瘴気を束ね、触手の群れとして開拓者に襲いかからせる。
 それを受け止めたのは葛切の術だ。
 同じように無数の触手を生み出して、触手の群れ同士が絡み合い拮抗。
 だが、戦いは五分であったが、それに巻き込まれる普通の開拓者たちは次々に怪我を負っていた。
 シュラハの無数の配下に、戦闘の余波。それが開拓者たちを傷つけるのだ。
 それに心を痛めるのはやはり真夢紀だ。
 誰1人死なせないために、真夢紀はその力のすべてを使って、仲間を守り癒やし続けていた。
 だが、それも限界がやってくるだろう。
 ならば、その前に最後の手を打つしかないと、真夢紀は決めるのだった。
「‥‥皆さん。ごめんなさい」
 思い描いたのは家族や親友たちの顔だったのか。ぽろりと涙を一粒こぼし、真夢紀は決意とともに叫ぶ。
「我に力与えし女神よ、私の命と引き換えに科の敵を滅ぼしたまえ!!」
 その言葉とともに、羽衣が爆発的な光とともに白い炎と化して戦場を満たした。
 それはシュラハのすべての配下を塵と化し、仲間たちをいやした。
 障壁を張るレヴェリー、しかし真夢紀が命と引き替えにした攻撃だ。
 最強の障壁能力を持つレヴェリーですら、身動きはとれず防御に全力を注がざるを得なかった。
 そこを逃さないミナージュと葛切。
 葛切が放ったのは最強の白狐。白面金毛九尾の妖狐を呼び出し障壁に真っ向からぶつける!
 同時にミナージュの奥義。体にまとう聖なるオーラを爆発的に増加させて構え。
 そして放つのは百八列聖・残像殲手撃。分身し二人をを全方位から取り囲み無数の連打だ。
 最大攻撃を二つ受けたレヴェリーの障壁は、ついに粉砕。
 だが、そこでレヴェリーはシュラハをかばって攻撃を体で受ける!
 守りきられてしまったシュラハ。追撃しようとする葛切とミナージュ。
 しかし、2人よりも早く動いたのはレヴェリーだった。
 自分を見捨てて逃げようとするシュラハ、裏切られたと追いすがるレヴェリー。
 レヴェリーは、シュラハを飲み込んで無明の闇へと消えていくのだった。
 その末路を見て、あっさりときびすを返す葛切に、悲痛な表情を浮かべるミナージュ。
 思いはそれぞれあるだろう。だが、今回も希望の剣たちによって世界の敵は滅ぼされたのだ。
 平和はつかの間かもしれないが、世界はひとまずは救われたのだ。

 その平和に、暇そうにあくびをする鬼もいれば、茫漠たる砂漠を彷徨う者もいる。
 隠居暮らしに戻る魔術師もいれば、その身を精霊に代えて、家族を見守る者もいる。
 怠惰と快楽に身を沈める者もいれば、本性を隠して子供たちのために働く者もいる。
 希望の剣たちは、また活躍の時がくるまで、ただ密やかに生きていくのだった。