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■オープニング本文 武州の動乱は一応の解決を見た。 しかし、アヤカシの活動は大アヤカシが倒されたからといって減少するわけではない。 そんな折、ギルドに急報が入った。場所は理穴の外れの森林部。 そこで、大規模なアヤカシの群れの活動が観測されたというのだ。 それは瘴海の活動と連動したものだったのかもしれないが、詳細は不明だ。 現在、その群れはとくに目的があるわけではないようであった。 特定の指示系統に属するわけでもないようで、単にゆっくりと森林部を通行中。 しかし、問題はまっすぐその群れが直進を続けると数日後に人里に出てしまうことであった。 そこで、開拓者ギルドは先手を打って攻撃を加えることに決定。 戦闘予定場所は森林内部、少数精鋭による遊撃戦で、人里に出る前に撃破を目指すつもりだ。 なお敵戦力に関しては、そこまで多くの情報が集まっているわけではない。 現在把握できる範囲では虫系アヤカシと粘泥甲冑の混成部隊のようである。 今回の作戦決行に際し、ギルドは朋友の使用を許可した。 使用する種類の制限はないが、場所は森林内部。 種類によっては不利になることがありえるので、その点を留意するようにと言うことである。 さて、どうする? |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
乃木亜(ia1245)
20歳・女・志
叢雲・暁(ia5363)
16歳・女・シ
瀧鷲 漸(ia8176)
25歳・女・サ
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓
クリスティア・クロイツ(ib5414)
18歳・女・砲
丈 平次郎(ib5866)
48歳・男・サ |
■リプレイ本文 「さてっと‥‥まずは偵察だね。行くよ、花月」 昼なお暗い森の中、開拓者達はひっそりと進軍し、アヤカシの侵攻予定路の近くまでやってきていた。 花月、と迅鷹に声をかけたのは水鏡 絵梨乃(ia0191)だ。 手のひらにのせた芋羊羹の欠片を啄んでいた迅鷹の花月は、主の言葉に応じてばさっと飛び上がる。 そして、花月はそのまま光と化して絵梨乃の背中に吸い込まれていったのだった。 それは開拓者との絆を高めた迅鷹だけが修得しうる技、友なる翼だ。 次の瞬間、絵梨乃の背からは光で出来た翼が生じた。 確認するように二度三度その翼を動かす絵梨乃、彼女はそのまま地を蹴って飛び上がって。 迅鷹の如く力強く羽ばたくと、彼女は一気に木々の背を越えて急上昇するのだった。 うっそうと生い茂る木々の頂きにふわりと降り立つと、分離した花月を肩に乗せる絵梨乃。 ぐるりと周囲を見回せば、そこには2人の先客がいた。 1人は絵梨乃と同じように身軽に木の枝に立っているシノビ、叢雲・暁(ia5363)だ。 「凄い! 迅鷹ってそんなことが出来るんだね〜‥‥うちのハスキー君もああいうの出来たらいいのに」 ちらっと地面に目を向ける暁。 そこにはご主人様大丈夫? とばかりに首を傾げる忍犬の姿が。 暁は、見上げているハスキー君にぱたぱたと手を振って応えてから絵梨乃に向き直って、 「アヤカシの群れはあっちの方角だね。微かに見えるとおもうんだけど‥‥」 「‥‥んー、ああ。なんとか見えるかな。でも、こっちから見えるってことは危ないんじゃ?」 「大丈夫だと思うよ〜。報告では、粘泥甲冑とか、蟲アヤカシばかりだって話だし」 と暁が応えれば、その言葉を引き継ぐのは、高空からばさばさと降り立ったもう1人の先客だ。 「これ以上近づけば危ういかもしれんが、この距離なら鈍いアヤカシばかりのアレには気付かれんだろう」 グリフォンのゲヘナに跨っている瀧鷲 漸(ia8176)がそうこたえるのだった。 進軍するアヤカシの大軍、それに対して遊撃戦を仕掛ける開拓者。 そういう状況であれば、いくつかの作戦が想定されるのだが、今回開拓者達は強襲を選んだようだ。 遊撃戦となれば、敵の誘導や散発的に攻める奇襲の手を取ることも多いのだが今回は違う。 まず、罠を仕掛ける時間が無いことと、時間がかかればアヤカシが人里に出てしまう可能性があるのだ。 そうした可能性を見越した上で、被害が多く出ることになりかねない強襲作戦を選んだのだろう。 もちろん開拓者達は無策でアヤカシに挑むわけではなさそうだ。 それぞれの戦力や装備、配置に細心の注意を払っての強襲撃破。 はたしてそれが上手く行くのかどうか、それは戦いが始まればわかることだろう。 そして戦闘を前に、開拓者達一団は、先回りして待ち伏せ場所を選定していた。 目端の利くシノビの暁が同行していた分、開拓者達はアヤカシに気付かれなかったようで。 しかし、なかなかグリフォンが行動できるような場所が見付かず。 結果、そうした場所の中でももっともマシな、広い窪地を待ち伏せ場所とするようであった。 おそらくそこはかつて沢だったのだろう。 だが今では水も涸れ、うっそうと木々が生い茂っている。 ここならば、アヤカシ達が来るまで身を隠す場所も多く、一気に攻めることもできるだろう。 開拓者達はそれぞれの場所に潜み、アヤカシ達の到着を待つのだった。 ●戦いの前に どうやらアヤカシ達の脚はそんなに早くないようで、到着まではまだまだ時間があるようだ。 偵察役の漸や暁が木の上からアヤカシを監視しているなか、開拓者達はどうしてるかというと、 「なーなー、平の字。アヤカシどもはまだ来ねーのか?」 「‥‥」 「まぁ、この駒蔵さまがお出ましとあっちゃあ、アヤカシといえども恐れいるってなもんだな!」 「‥‥‥」 「な、なーなーなー、平の字よー‥‥」 「静かにしてろ」 ぎゅむっと丈 平次郎(ib5866)に掴まれて静かになったのはその相棒の猫又、駒蔵だ。 口数の多いべらんめえな猫又と、寡黙な容貌魁偉のサムライは周辺の様子をうかがっているようで。 足場や木の様子など、闘う準備に余念がない平次郎と、妙に暇そうな駒蔵であった。 そんな様子を興味深げに見ながら、抱え大筒を設置しているのはクリスティア・クロイツ(ib5414)だ。 木々の合間の窪地を選んだのは、彼女が計画しているある作戦のためでもあるようで、 「この辺でよろしいですか? お嬢様」 「ええ、そろそろアヤカシもやってくるでしょう。準備に取りかかりましょうか」 クリスティアが連れているのは騎士のような外見をした土偶ゴーレムのクリス。 巨大な携行型大砲をどっかりと木々の合間におくと、クリスティアの魔槍砲を受けとるクリス。 木々の陰に隠れて大砲で狙いを付ける黒衣の女砲術士とそれを護るように立つ騎士ゴーレム。 二人は、他の仲間にもこっそりと目配せをしながら、慎重に時を伺うのだった。 「‥‥いよいよ来たな。波璃、そろそろ戻りな」 望遠鏡で木々の間に視線をやっていたのは、不破 颯(ib0495)だ。 散開して偵察をしていた暁や漸もそれぞれ配置についたようで、いよいよアヤカシ達は近づいてきていた。 颯の声に、慌ててぱたぱたと戻ってきたのは迅鷹の波璃である。 颯が潜んでいる場所は、クリスティアが潜むのと同じように戦闘場所から距離をとった位置のようで。 開拓者達はそれぞれ連携できる距離で散開しつつ、待ち伏せをしているようだ。 その布陣を見れば、大体今回の作戦が見えてくる。 それはまず最初に強烈な集中攻撃を仕掛け、あとはそれぞれ各個撃破を狙うというものであろう。 敵軍の数は多く、戦力で言えば開拓者の方が遥かに不利だ。 それは相棒という強力な戦力を連れていたとしても、覆らないほどの戦力差なのである。 そうなればあとは作戦でその劣勢をどう跳ね返すか、ということになる。 それが上手く行くかどうかは、これからの開拓者の働きにかかっているというわけだ。 「粘泥に虫共に、意外と沢山残党がいたもんだねぇ。こりゃちゃっちゃと片づけないとなぁ」 颯は、肩に降り立った迅鷹の波璃の背を撫でてから、改めて獲物の弓を構えてアヤカシ達を一瞥して。 そして、後ろを振り向けばそこにはミズチを連れた乃木亜(ia1245)が控えていた。 「‥‥まだ合戦は終わっていないんですね」 悲しげに表情を曇らせれば、それを心配するようにピィピィと頭を寄せるミヅチの藍玉。 この二人は、今回アヤカシ達のまとめ役となっているであろう粘泥甲冑を狙う者たちであった。 2人が静かに息を殺していると、そこにぬっと現れたのは漸。 彼女もまた粘泥甲冑を担当するつもりのようで。 「‥‥ゲヘナを存分に行動させることはやはり難しいようだ。なので、ゲヘナは守りに回らせる」 そう言ってハルバードを構える漸。魔神を自称する巨躯の女戦士は相棒のゲヘナを撫でながら。 「突破口は私が開く。強化と援護、頼んだぞ」 ぶっきらぼうに言う漸に、2人は静かに頷くのだった。 ●戦いの始まり ぞろぞろと進軍してくる軍隊蟻の群れとその中核に化甲虫、最後尾に粘泥甲冑。 そんな布陣のアヤカシの群れを見据えて、静かに抱え大筒を構えるクリスティア。 戦いの始まりを告げたのは彼女の一撃だった。 「彷徨い惑いて人に仇なす邪悪な子らよ‥‥神の名の下に、断罪致しますわ」 静かに呟いたクリスティア、その体を支え反動に備える従者、ゴーレムのクリス。 「それでは皆様、撃たせて頂きますわ。クリス‥‥宜しくて?」 「承りました、お嬢様」 そう応えるクリスと、仲間の合図に合わせて、ついにクリスティアは大筒の一撃を放つのだった。 本来は固定目標に対して放たれる為の抱え大筒。 だが、今回は進路の通り動くアヤカシの群れ相手、狙いを付けるのは容易かった。 砲術士のクリスティアが放った炸裂弾は狙い通り、敵軍の中央に着弾。 どうやら軍隊蟻を十体以上、化甲虫を数体巻き込んで大爆発を引き起こしたようだ。 突然の奇襲、これに敵が算を乱せば、それこそ開拓者の思うつぼ。 しかし、今回のアヤカシ達は高い知能を持たない類の者たちばかりであった。 それは高度な作戦をとれないという難点はあるものの、恐怖を感じないという利点があったのだ。 奇襲に対しても恐怖を感じず、混乱することなくただただ敵に対して反応する。 そして例え仲間がいくら倒れようと、決して諦めることがないアヤカシの群れ。 危険を承知で開拓者達は一気に、彼らアヤカシを殲滅するために突貫するのであった。 「汪牙! 森はお前の主たる狩場、頼んだぞ」 敵アヤカシの中で、最も数が多い軍隊蟻はまず散開し始めた模様。 そこに斬り込んでいったのは焔 龍牙(ia0904)とその相棒、迅鷹の汪牙だ。 「蟻を散らばらせないようにするぞ!」 その声とともに龍牙が放つのは志士の技、桔梗によるカマイタチだ。 それに合わせるように汪牙も泣き声を上げつつ風斬波。 アヤカシとしては小型の軍隊蟻は、強烈な一撃を受けて瘴気と化して。 だが、一抱えもあるような大きなアヤカシ蟻の数は、どうやら50を優に超えているようだ。 囲まれては不利と、龍牙は全開で技を放ち敵を押しとどめるのだった。 同じように、軍隊蟻を相手にしているのは、暁とハスキー君だ。 「いくよ、ハスキー君! まずは咆哮烈!!」 奔刃術で忍刀を手に軍隊蟻をなぎ払っていく暁。 彼女の持ち味は、シノビの機動力だ。木々を足場に縦横に飛び回り軍隊蟻を寄せ付けない。 そして彼女の相棒もまた、同じように機動力で圧倒的有利に立っていた。 木を足場に縦横に飛び回り、放つのは忍犬の技、咆哮烈だ。 群れでこそ真価を発揮する軍隊蟻、だが掴まらない彼女たちにはその脅威は届かない。 圧倒的な速度でもって、軍隊蟻を翻弄する1人と1匹はあっという間に軍隊蟻を削っていくのだった。 そして軍隊蟻対応の最後の1人は、抱え大筒で砲撃を打ち込んだクリスティアだ。 「まずは砲撃支援を行います。クリス。10秒ほど堪えて下さいな」 「お任せ下さい、お嬢様」 前に出るのは騎士型土偶ゴーレムのクリス。剣を振るって軍隊蟻をなぎ払う。 そしてその間に装填を完了したクリスティア。 連射型の魔槍砲「連昴」を構えて、龍牙と暁を援護しながら砲撃を続けて。 あっというまに軍隊蟻の大軍を減らしていくのだった。 ●激戦苦戦 軍隊蟻相手の攻勢はどうやら開拓者有利のよう。しかし他の戦いはどうだろう? 「いくぜぇ! マージーカールーシュゥゥゥト×2ィィ!!」 かけるにー、まで叫んで弓を放ったのは颯だ。 「一度言ってみたかった。後悔も反省もしていない」 という顔で満足げだが、放った矢はその珍奇な叫びにも関わらず高威力だ。 迅鷹の波璃が、煌きの刃によって同化し攻撃力を高めていたようで、粘泥甲冑に突き立つ二本の矢。 戦場を回り込むようにして、粘泥甲冑を狙う三名の開拓者は上手く位置を取れたようであった。 もちろん、アヤカシもただやられているわけではない。 迎え撃つ粘泥甲冑、意外と素早い動きで漸の進路を塞ぎ複数で包囲の構えである。 それを許さぬ後続の颯とそれを援護する乃木亜。 「‥‥術で援護します。頑張って下さい!」 乃木亜は神楽舞でまず近くの2人を援護。攻撃力を上昇させて、 その援護を受けて、一気に漸は攻勢に転じるのだった。 「ゲヘナ、1匹任せたぞ!」 大振りな斧槍「ヴィルヘルム」を振るう魔神、漸。 彼女は、粘泥甲冑の1匹を力任せにぶっ飛ばすと、それを相棒のゲヘナの前にはじき飛ばした。 木々の間で身動きが取りにくい大型のグリフォンと言えども、敵が眼前にいれば十分というわけだ。 獅子咆哮にスマッシュクロウで粘泥甲冑を攻撃するゲヘナ。 それを満足げに一瞥してから、自身に襲いかかろうとしている粘泥甲冑に向き直り。 「‥‥ふん、貴様等、塵一つ残らんと思え、魔神の一撃、喰らうが良い」 オウガバトルと破軍をこめた強烈な一撃を振りかざし、一気に粘泥甲冑を押し返すのだった。 今回の戦いは大きく分けて三つに分割されているようであった。 まずは開拓者優勢の軍隊蟻。 数で勝る軍隊蟻と言えども砲撃と志士の浄化攻撃にシノビの速度が相手ではもうじき決着がつくだろう。 そして、敵で最も強敵の粘泥甲冑。ここには巫女による援護と弓の遠距離攻撃がついている。 多少の不利はあったものの、巫女の援護があれば継続戦闘が可能で。 「‥‥っしまった‥‥!」 「乃木亜さん! 波璃、風斬波!!」 時には乃木亜が攻め寄られてしまうこともあるのだが、そこで活躍したのは乃木亜の相棒、ミズチの藍玉だ。 咄嗟に颯が命じて波璃が放った風斬波が粘泥甲冑の一撃を弾き、藍玉の水牢が甲冑の動きをとらえる。 そこを穿つのが颯の矢。こうして地道に1匹ずつ倒しているようであった。 粘泥甲冑は強敵だが、今回数が少なかったのが幸いしたのだろう。 そして残ったのは化甲虫を相手にしている2人だ。 平次郎と絵梨乃の相手は、大柄な平次郎と大差ない大きさの巨大な甲虫アヤカシだ。 2人とも熟練の開拓者といえども、実は最も危険な相手と闘うことになった2人、否二組の開拓者。 戦いの趨勢は、彼らの行動にかかっているようであった。 「平次郎さん、先行するよ!」 砲撃の後、先に飛び出したのはもちろん泰拳士の絵梨乃だ。 それを迎え撃つ化甲虫。突進の一撃で突っ込んでくるがそれをひらりと躱す絵梨乃。 酔拳の達人である絵梨乃は直線的な動きではとらえられないようだ。 そのまま一気に甲虫たちの中央に飛び込む絵梨乃。狙うのは煌きの刃で強化した崩震脚だ。 「駒蔵、援護だ」 「おうともよ、平の字。ここはおいらに任せなあ!」 巻き込まれないように距離を取りつつ、平次郎の言葉に応える駒蔵。 鎌鼬を放って絵梨乃が崩震脚を放つ隙を作って。 そして絵梨乃は、一気に甲虫の1匹に踵落としをぶち込みつつの崩震脚一撃! どかんと地面に叩きつけられ、さらに放たれる衝撃波は、アヤカシ達に大きなダメージを与えたようであった。 動かなくなる化甲虫たち。倒したかと思われたのだが、 「へっへーん!この駒蔵さまにかかりゃあ虫の十匹や二十匹‥‥にゃああああ!?」 思わず駒蔵がそんな声を上げるのだが、ひっくり返っていた甲虫たちも起き上がって 「まだ生きてたあーー!!? おおおお助けぇぇええ!」 どうやら防御に長け生命力も豊富な化甲虫たちはまだまだ健在のよう。 もちろん油断無く構えていた平次郎は、大剣グニェーフソードを抜き放って。 「油断するな駒蔵、静かにしろ」 ぴしゃりとそういって、駒蔵を背中に護りつつ、化甲虫相手に一気に斬りかかるのだった。 極神点穴を使って化甲虫を倒すため攻撃を重ねる絵梨乃。 彼女を補佐するのは迅鷹の花月だ。攻撃の威力を高め、時には離れて援護をする強力な相棒である。 一方、平次郎も大剣を振り回して鬼神の如き活躍をこなしていた。 それを補佐するのは、優秀な術使いである猫又だ。 「平次郎! 後ろがお留守だぜ! これで貸し一つだぜ」 そういって平次郎の後ろに近づいていた死にかけの化甲虫に鎌鼬を放つ駒蔵だったが、 「‥‥お前もな。これで貸し無しだ」 轟と振るった大剣の一撃で、今まさに駒蔵に飛びかかってきた1匹をなぎ払う平次郎。 見当を続ける彼らであったが、絵梨乃と平次郎は戦い初めて早々にあることに気付いてた。 絵梨乃は、若いながらも数多くの戦闘経験によって。 そして、平次郎は過去を知らない身でありながらも、その体に染みついた年月によって。 彼らが気付いたのは、このままでは自分たちの所は押し切られる可能性がある、ということであった。 化甲虫は防御に長け、さらには数が多い。 倒すのに時間がかかるとなれば、今の戦力では持たないだろう。 そう判断した2人は、即座に作戦を切り替えた。 「駒蔵、木を狙うぞ」 「? まあいいや。おいらにかかれば木の一本や二本、楽勝だぜ!」 平次郎は、大剣を斧のように木に叩き込んで、即座にその意図をくみ取った絵梨乃。 平次郎に続いて木に駒蔵が鎌鼬を放って切れ込みをいれれば、それを迅鷹の花月がさらにだめ押し。 そして、大きく切れ込みが入り傾いだ木に蹴りを入れて倒す絵梨乃。 ずずんと倒れる木は甲虫たちの行く手を塞いで。 同じように二本目三本目と木を倒していく平次郎と絵梨乃。 そう、2人は木を盾にして時間稼ぎをする作戦に出たのである。 そうすれば、そこには勝機が。 なぜなら、戦闘経験に長けた2人は、闘いながらも他の戦いの趨勢を感じ取っていたからである。 そして、予想通りそこにやってきたのは、 「間に合ったな! 汪牙、防御を頼む、一気に片を付けるぞ!」 軍隊蟻を倒しきった龍牙と、 「援護致します。叢雲さまは、粘泥甲冑の方へ、こちらは私たちが」 「了解! ハスキー君、行くよ!!」 化甲虫相手にがっしりと組み合い剣を振るうゴーレムのクリスと魔槍砲を構えるクリスティア。 そして彼女の言葉に応えて、木々を足場に飛んでいく暁であった。 「‥‥見せてやる、焔龍の名は伊達じゃない!」 気合いとともに、前に出る龍牙、彼が手にする刀は質実剛健な太刀「阿修羅」だ。 それを大上段に構え、炎魂縛武で強化。そして桔梗の構えから、連続攻撃。 「焔龍 炎桔梗」の名を冠す大技で一気に化甲虫を押し返す。 そして、クリスティアは残る練力も使い尽くすとばかりに魔槍砲での援護。 そうなれば余裕が生まれた平次郎と絵梨乃は再び前線に戻って、 「行くぞ駒蔵、あと少しだ」 「おうともよ! まっ、この駒蔵さまが相手だったんだ‥‥仕様があるめえな! にゃーはっはっは!」 平次郎は大笑する駒蔵と一緒に化甲虫の1匹を相手取り、 「さあ、最後だからね。行くよ花月」 絵梨乃がそう声をかければ、桃色の迅鷹はひときわ高く鳴いて一気に飛んでいくのだった。 「これで終わりかっ!?」 疾風の矢の一撃に、脳天を撃ち抜かれて崩れ落ちる粘泥甲冑。 彼らは暁の援護もあって、辛うじて無事に最後の1匹を倒しきるところであった。 「こいつで最後! 隙を作るから、よろしく!」 三角跳で粘泥甲冑の頭上を取る暁とハスキー君。 それぞれ咆哮烈と手裏剣の一撃で攻撃を加えれば、その隙に接近するのは漸。 魔神と豪語するのも納得の一撃は、粘泥甲冑を中身ごと上下に真っ二つにして。 のこったのは崩れた鎧と瘴気だけ。それも木々の間を吹く風に消えていって。 「終わりだな。ゲヘナ、良くやった」 どすんと斧槍を地面に突き刺して、グリフォンをねぎらう漸の言葉に、やっと皆は一息つくのであった。 「皆さん、怪我がある人はいませんか? ‥‥治療します」 残党が居ないかを確認した一行は、乃木亜に傷を癒してもらっていた。 時には藍玉も癒しの水でそれを手伝い、合間にはぴぃぴぃと甘えているようで。 「お嬢様、お怪我はありませんか?」 「大丈夫よクリス‥‥大いなる我らが父よ。貴方の加護で生き残る事が出来ましたわ」 そういって、クリスティアは敬虔に祈りを捧げるのであった。 そして、 「‥‥なんで俺ぁ前線っぽいところで闘うことが多いのかねぇ?」 これも因果か? とケラケラ笑う颯を龍牙が、 「何とか片付いたな、お疲れさん」 といってねぎらって。そして、治療を終えた平次郎に、 「今回、一番活躍したのはおいらだな! ‥‥っておぉぃ、平の字! おいらを置いていくなぁー!」 つきあいきれんとばかりに駒蔵を置いて歩き出した平次郎を追いかける駒蔵がいたり。 なんとか厳しい依頼を乗り越えた開拓者達は、見事依頼を果たして帰路につくのであった。 |