農家とジャガイモを守れ
マスター名:千影ウレイ
シナリオ形態: ショート
EX :相棒
難易度: 普通
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/09/03 19:15



■オープニング本文

●突然変異
 夏の暑い時期が過ぎ、残暑が残るものの涼しくなる季節。理穴で農業を営む鈴里夫妻は農作物の栽培に励んでいた。
「今年も美味しいジャガイモが取れるといいですね、あなた」
「そうだなあ。俺たちのジャガイモは里一番ってなあ!」
 妻牧子の言葉に、夫の草助は朗らかに答える。
 理穴のとある里で作られるジャガイモはこの地方では有名な特産物で、とくに鈴里夫妻の作るジャガイモは美味と評判だった。
 今年も鈴里ジャガイモのファンに応えるため、夫妻はせっせと農作業に従事している。
「今年はアヤカシの影響で不作だろうと言われているけれど‥‥うちは大丈夫かしらね?」
「なぁに、このあたりはアヤカシもいないし、今年は特別な肥料を使っているから問題ないさ!」
 明るく言葉を返す草助に、畑の様子を眺めながら牧子が穏やかに微笑んだ。
「そうね。おかげでいつもより育ちが良いみたいだわ‥‥」
 今年のジャガイモは、例年よりもよく育っていた。不作の気配など微塵も感じられない。
 むしろ、育ち過ぎではないかとさえ思うくらいだ。
「父ちゃん、母ちゃん! 晩御飯できたよ!」
 畑の傍にある自宅から娘の恵の声が聞こえた。恵は十三歳だが、立派に草助と牧子の仕事を支えている。
 恵の横では息子の陽が、恵の着物の袖を引っ張りながら草助と牧子を見つめていた。
 陽はまだ物心付いたばかりの、非常におとなしい少年だ。
「おう、そうだな! すっかり日も沈んでしまったし、他の作業は明日にするか‥‥」
 草助はぐっと伸びをして、子どもたちが待つ家に帰ろうとする。そのときガサリと葉が擦れる音が聞こえた。
「? なんだ?」
 反射的に振り向くが何もいない。茂みに潜んでいた獣でも通り過ぎたのだろうか。
「あなた、どうしたの? 早く戻りましょう」
 牧子が不思議そうに草助を見た後、家にいる子どもたちへと目を向ける。
「‥‥ジャガイモ‥‥」
 普段はほとんど喋らない陽が、ぼんやりとした声で呟いた。その瞬間、葉を揺らす大きな音が畑全体に響き渡る。
「な、なんだ? 何が起こって‥‥」
 草助が周囲を見まわそうとした瞬間、牧子の悲鳴が上がった。
「きゃあああああっ!!!」
「牧子!?」
 牧子は地面から突然現れた太い蔓に背中を叩かれ、その場に膝を付く。
 太い蔓を視界に捉えた直後、大きなでこぼこした物体が地面から飛び出してきた。
「な、なんだこりゃああああ!」
 草助は突然のことに声を上げる。その物体のかたちは、まさしくジャガイモだった。
 しかし、ただのジャガイモではない。鋭い牙に猛獣のような双眸が印象的な怪物だった。
『キシャアアアアア!!!』
 巨大なジャガイモの怪物は雄叫びを上げると、素早い動きで夫妻に襲い掛かる。
「に、逃げろ‥‥!」
 草助が恐怖に顔を引きつらせた。牧子を連れて何とか逃げ出し、恵や陽がいる家へと駆け込む。
「父ちゃん、母ちゃん!!!」
 恵はおぞましい状況に頭が真っ白になりかけるも、扉をピシャリと締めてアヤカシが家に入ってこないようにした。
 怪物が家の壁にぶつかる音が、何度も響き渡る。
「っ‥‥ど、どうしてジャガイモが‥‥ど、どうしましょう‥‥」
「助けを待つしか‥‥とにかく家の中にいよう! 外に出るのは危険だ‥‥!」

●ギルドへの依頼
 ギルドに依頼が届いたのは、ジャガイモの怪物が出現してから一日後の夕方だった。
 鈴里一家の家に向かおうとした出荷業者が、ジャガイモのアヤカシが畑で暴れている所を目撃しギルドに連絡したのだ。
 目撃時刻は昼間で、地中から時折姿を現して畑を荒らしては、すぐさま地中に潜る動作を繰り返していたという。
 動きは緩慢だという話だが、地中での活動や夜間は活発化する可能性があるため油断はできないだろう。
 そして、鈴里一家については村に助けを求めに来ていないため、恐らく家から一歩も出られずにいるのだろうとのことだ。
 依頼を受けたギルド職員は、依頼の張り紙を廊下に張り出した。
「育てていた作物が突然アヤカシに‥‥か。生業としている者には、たまったものではないだろう」
 とくにジャガイモはこれからが旬だというのに、とんだ災難である。作物がすべて駄目になれば生活に影響が出ることは確実だ。
 なるべく無事な作物は保護して欲しいと、出荷業者である依頼主も言っていた。
 しかし、アヤカシの数がわかっていない以上、正常なジャガイモだけを傷付けないことは困難であるように思える。
「開拓者さんたちの腕に期待するしかないな‥‥」
 職員は一人呟くと、ふうっと息を付いて顔を顰めた。


■参加者一覧
ペケ(ia5365
18歳・女・シ
テト・シュタイナー(ib7902
18歳・女・泰
莉乃(ib9744
15歳・女・志
ハイディ・デーニッツ(ib9872
21歳・女・砲


■リプレイ本文

●いざジャガイモ狩り!
 村から離れた農作地帯にある鈴里家には、村を抜けて馬車で向かう。依頼主の屋敷前で開拓者たちは落ち合い、依頼主が手配した馬車に乗ることになった。
「あら、私以外にも獣人さん、宜しくお願いしますね?」
 ハイディ・デーニッツ(ib9872)はテト・シュタイナー(ib7902)の姿を見つけると、柔らかな声で挨拶した。
「おお、お前さんも獣人か。今回は宜しく頼むぜ?」
 テトは明るい笑みを浮かべ、ハイディに言葉を返す。
「ジャガイモがアヤカシ化するなんて、想像するだけで気持ち悪いです‥‥『キモイモ』ってところでしょうか」
 馬車の席に腰掛けつつ、ペケ(ia5365)は想像したアヤカシの醜悪さに眉を寄せる。
「奇妙なことも起こるものですね。お芋が相手なら、斬るのも難しくなさそうです。鈴里一家のためにも、すぐに片付けてしまいましょう」
 莉乃(ib9744)は意気込むように告げると、馬車へ乗り込んだ。
 三日月が空のてっぺんに昇った頃、開拓者たちは鈴里家のある畑地帯に到着した。
 畑から少し離れた場所で降り、鈴里家に向かう。月明かりに照らされた畑の向こうに、灯りの消えた鈴里家が見えた。家屋の周囲は全方向が畑に囲まれている。
「鈴里家の皆さんは無事でしょうか‥‥」
 ハイディが家屋に目を向けて呟く。ペケが周囲を見渡し、アヤカシの様子を探る。
 地中からは出ておらず、畑の至るところから蔓が飛び出しては再び地中に潜り込む動作を繰り返していた。
 鈴里家の家屋は、遠目からではよく見えないが壊されている箇所はなさそうだ。
 ペケが聴覚を研ぎ澄ませると、地中をズルズルと這う音がいくつも聞こえてくる。
「‥‥まだこちらに気づいていないようです。家に近づいたとき、気付いて地中から飛び出してくるかもしれないですね」
 ペケはそう告げて、アヤカシの潜む畑を鋭く睨んだ。
「家に被害が及べば、かえって鈴里一家を危険に晒すかもしれませんね。先にアヤカシを倒した方が良さそうです」
 莉乃は刀を前に構え、戦う体勢に入る。どこから来ても対処できるよう、神経を集中させた。
「視界が悪いですから、松明で辺りを照らしますね。なるべく皆さんの周囲を照らせるように動きます」
 ハイディは弾を銃に装填した後、松明を取り出した。それと同時に、テトも自分の松明を出すと魔槍砲の中程に括り付けた。
「何があるか分からねぇからな。俺様のは槍に括り付けるから、そっちはそっちで使ってくれ」
「わかりました。それでは‥‥」
 松明に火が灯り、周囲が明るく照らし出される。畑から伸びるアヤカシの蔓が、くっきりと光に浮かび上がった。
 瞬間、アヤカシが光に反応して太い蔓を地中から外へと飛び出させる。四人の存在に気づいたのだ。複数のアヤカシたちが、醜悪な姿を地中から現す。
 ジャガイモの胴体に鋭い牙と猛獣のような瞳が、松明の光に照らされて赤く輝いた。
「まさにキモイモ‥‥実に気持ち悪いです!」
 ペケが拳を構えて身を低くする。アヤカシは太い蔓を素早く振り回し、ペケの体を捕えようとした
 蔓の動きを先読みし、ペケは攻撃を回避する。高く跳躍して降り立った先の地中から這いずる音を察知した。
 アヤカシが下から迫ってくる。恐らく出てくる場所はすぐ隣だ。
「ここっ!」
 地面からアヤカシが出てきた瞬間、アヤカシの胴体に向かって拳を繰り出す。
 鉄をも貫く拳がアヤカシの体に命中し、体半分が粉々に砕け散った。
「ペケさん、ここは任せます」
 莉乃は手短に告げると、家屋から数メートルほどしか離れていない位置にいるアヤカシ目掛けて走り出した。
「わかりました! さくっとキモイモを‥‥わわっ!」
 前に足を踏み出そうとした瞬間、地面からむき出しになったジャガイモの蔓に足を取られ、ペケは前方向に倒れ込んだ。その隙を突いて、アヤカシの蔓が迫ってくる。
 すぐに起き上がりその場から飛び退く‥‥が、ひらりとした褌が蔓に絡み取られ、そのまま強く引っ張られる。
 まるで結び目を解くように、しゅるりと褌が体から滑り抜けた。
「あ‥‥」
 股に夜特有の冷たい風が吹き抜けるも、ペケは全身が熱くなる感覚を感じた。
 蔓に絡み取られた褌が、宙でひらひらと旗のように靡いている。
「こっ‥…この!! 返しなさあああい!!!」
 どこからそんな力が湧いたのか、ペケは今まで以上の素早さと腕力を発揮しアヤカシを殺意の篭った拳で殴り付けた。
 他方、莉乃は家屋の前で姿を晒しているアヤカシへと向かう。地中から僅かに蔓を出し、アヤカシは莉乃の足を絡め取ろうとする。
 蔓が出ると同時に聞こえる葉の音と盛り上がる地面に注意を向け、寸でのところで蔓を避けていく。
 莉乃の接近にアヤカシは、業を煮やしたように蔓を思い切り突き出した。
 刀で蔓を敢えて受け止めると、絡み付こうとするそれを強く掴む。
 一メートルほどあるアヤカシは意外にも軽く、引っ張られて地中から浮き上がった。
「大きく育ったものですね。しかし中身は空っぽ‥‥収穫、させてもらいます」
 蔓をさらに強く引っ張り、アヤカシを家屋から引き離す。アヤカシは宙を舞い、刀に絡み付いた蔓の力が弱まった。
 莉乃はアヤカシの落下予測地点に素早く脚を踏み出し、アヤカシの胴体を寸断した。
 松明の光と月光に照らされ、刀が波紋を淡く光らせる。ボトボトとアヤカシの破片が崩れ落ち、瘴気となって消滅した。
 しかしまだ終わりではない。別のアヤカシが地上に飛び出し莉乃に襲いかかる。
「三体‥‥多いですね」
 複数同時の強襲は、さらに高度な回避と攻撃を要求される。刀を構えながら、莉乃は敵に視線を集中させた。
 瞬間、襲い来るアヤカシのうちの一体が、横から突き出された巨大な魔槍砲に貫かれる。
「そうはさせねぇっての、この野郎!」
 テトが、莉乃に気を取られているアヤカシに向かって跳躍し、その胴体に武器を突き刺したのだ。
 貫かれたアヤカシは苦しげに呻き声を上げながら地面に倒れ伏す。
 激昂した残りのアヤカシが、奇声を上げながらテトに向かって突進した。
 続けざまに繰り出された蔓をテトは魔槍砲の先で切断し、アヤカシの懐に踏み込むとギョロリとしたアヤカシの瞳に魔槍砲を突き刺す。
 アヤカシが甲高い叫びを上げ、その場で動きを停止させる。
「芽をくり貫くだけじゃ済まさねぇぜ?」
 テトは突き刺した武器をさらに深く食い込ませると、弧を描くようにアヤカシの胴体を斬り裂いた。
 次々とアヤカシが撃破されるも、残ったアヤカシの勢いが削がれることはない。
 変わらず凶暴な牙を剥いて、素早く蔓を振るわせては開拓者たちを食らおうとする。
 蔓がテトの魔槍砲‥‥松明を括りつけた部分に当たり、松明が吹き飛ばされた。
「ちっ、灯りが‥‥」
「灯りならこちらに!」
 松明が吹き飛ばされたことに気づいたハイディが、テト、莉乃と対峙するアヤカシに弾丸を放つ。
 体内に食い込んだ弾丸に痛みを感じたのか、アヤカシは凶暴な瞳をハイディへと向けた。その隙をついて、莉乃とテトが同時に攻撃を入れる。
 刀と魔槍砲の鋭い一閃が、二メートルはあるであろうアヤカシをスッパリと捌いた。
「大丈夫ですか? 二人とも」
 弾丸をリロードしながらハイディがテト、莉乃に問う。
「はい、大丈夫です」
「助かったぜ。ありがとな!」
 二人が頷くのを確認して、ハイディは畑の状況を確かめた。
 少し離れたところで、ペケが何やらひどく憤慨した様子で戦っている。ペケが戦ってる場所のすぐ傍には、大きな穴が空いていた。
「あんなところに穴が‥‥肥溜め用の穴か何かでしょうか。今は何もないようですが」
「あそこに引きつけて戦えば、無事なジャガイモに被害が出ないかもしれねぇ」
 ハイディの言葉に、テトが思案するように言う。
「そうですね。あの場に移動しましょう」
 莉乃も同意するように頷いた。三人はすぐさまペケが戦っている場所に向かって駆け出す。
 地中から蔓が三人に襲いかかるが、ハイディが小型の銃で迎撃し、蔓を撃ち落としていく。
 莉乃も近くまで迫った蔓を刀で斬り裂き、攻撃を防ぎながら移動する。
「成敗っ! 褌奪還っ!」
 アヤカシを打ち砕き、奪い返した褌を拳で握り締めつつペケが叫んだ。そんなペケに向かい、莉乃が声を掛ける。
「ペケさんもこちらへ」
「‥‥えっ、あっ、はいっわかりました!」
 我に返ったペケはすぐさま三人がいる穴へと駆け付けた。
 四人が死角をなくすように位置取ると、地中をズルズルと大きい物が這いずる音が聞こえてくる。
「さーて、どっから出てくる? ジャガイモ野郎さんよ!」
 周囲に気を張り巡らせながら、テトは挑発するように口元を上げる。
 テトの声が畑に響いた後、少し離れた地中から、巨大なアヤカシが地面を掘り返すようにして現れた。
 全長は二メートル以上で、今までの中で一番大きい。
「さしずめ親玉というところですかね‥‥」
 ハイディが銃を握り締めながら呟く。
 テトはアヤカシの背後を確認し、屋敷が直線上にないことを確かめると魔槍砲の照準を合わせた。
「親玉だろうがイモはイモだ。‥‥さぁ、ジャガイモらしくこんがりと焼いてやらぁ!」
 テトは魔槍砲に練力を込める。アヤカシがそれを撃たせまいとするように、鋭い蔓を幾数も振りかざし、魔槍砲に向かって伸ばした。
 蔓が近づいた瞬間、莉乃が刀を振るい蔓を切り落とす。
 ペケは蔓を掴むとそのまま引きちぎり、ハイディは銃弾を打ち込むことで魔槍砲に触れようとする蔓を阻止する。
「サンキュー! 行くぜえ!」
 しっかりとアヤカシに狙いを付けて、テトは魔槍砲から爆炎を放った。
 激しい衝撃がアヤカシの体を打ち、アヤカシは雄叫びを上げながらその場に崩れ落ちる。
 往生際が悪いのか、アヤカシはちぎれた蔓を緩く地面に這わせていた。
 しかし、かなり弱っているようだ。
「あと少しです。止めを‥‥」
 ハイディが言いかけて、ふと言葉を止める。
 弱ったアヤカシの向こう、位置的には斜め後方にある鈴里家の屋敷の扉が少しだけ開いていた。
 僅かに届く松明に照らされて、子どもの顔が浮かび上がる。少年は呆けた様子でこちら側を見ていた。
 外の音が気になって、うっかり開けてしまったのだろう。
 アヤカシがそれに気づき、最後の力を振り絞って屋敷へと突進しようとする。
「危ない!」
 ハイディはとっさに駆け出して銃を構える。
 弱ったアヤカシの傷口に銃口を向けた瞬間、銃口からバチリと火花が飛び散った。
 素早く弾を装填し連続で打ち込むことで、的確に急所を射抜く。
 アヤカシは屋敷の前で動かなくなり、瘴気へと戻れば地中に溶け込むように消えていった。
 扉の傍に駆け寄るとハイディは少年と、慌てて少年を家の中に戻そうとしていた夫妻に話し掛ける。
「もう大丈夫です、安全になるまでもう少し、そのままお待ちくださいね?」
 優しく告げると、屋敷の扉を厳重に締めた。
「親玉を倒したがまだ残党が残ってるぜ。本当に数が多いな」
 屋敷を守るように魔槍砲を構え、テトが生き残りのアヤカシたちを睨む。
「すべて刈り取ります」
 身を低くしながら刀を構え、莉乃が静かに言う。
「油断せずに行きましょう!」
 いつの間にか褌を締め直していたペケが、ぐっと拳を前に突き出した。
「‥‥まだ少し、緩いようですが大丈夫ですか」
 莉乃が僅かに視線をペケの褌に向けると、ペケはこくりと力強く頷く。
「大丈夫です。もう奪われたりなんてしませんからね!」
 四人はそれぞれの武器を構え、アヤカシの残党を滅するべく畑に駆け出したのだった。

●おいしいジャガイモ
 早朝、四人はすべてのアヤカシを倒し終えた。
 正常なジャガイモに気を配りながら戦うのは何かと神経を使う作業だったが、一部のジャガイモを踏んでしまった程度で、大きな損害が出ることがなかったのは幸いといえよう。
「安心しな、アヤカシは全部倒したぜ」
 アヤカシが全滅したことを再確認した後、テトが屋敷の外から声を掛ける。
 少ししてゆっくりと扉が開き、鈴里一家が屋敷の中から顔を覗かせた。
「‥‥開拓者の方々、ですね?」
 一家の長である草助が確認するように問うと、テトは首を縦に振る。
「ああ。依頼を受けてアヤカシ退治に来た。‥‥どこか怪我とか、してねぇか?」
「家族は皆無傷です。助けにきてくださってありがとうございます‥‥!」
 草助は深くお辞儀し、笑顔で感謝の言葉を告げた。
 荒れて盛り上がった土を平らにし、ある程度もとの状態に戻した後、四人は鈴里家で一休みすることとなった。
 鈴里夫妻がお礼にと、収穫したジャガイモを皆に振る舞う。
「皆さん、本当に助かりました‥‥よろしければ、我が家のジャガイモを食べていってください!」
 皮ごと蒸したジャガイモを皿に載せ、草助がテーブルの上に置く。
 白い湯気をほのかに漂わせたジャガイモの良い香りが鼻腔を包んだ。
「こんなにたくさん‥‥良いのですか?」
 山盛りのジャガイモを見て、ハイディが遠慮するように問う。
「ええ、皆さんは私たちの恩人ですから。とっても美味しいんですよ、どうぞ食べてください」
 牧子は明るい声で言うと、人数分の小皿と箸を皆に手渡した。
「それでは、お言葉に甘えて‥‥いただきます」
 莉乃は手を合わせた後、ジャガイモを一つ皿にとって、食べやすいサイズに崩して口に入れる。
「‥‥美味しい」
 莉乃の呟くような言葉に、ペケがこくこくと頷く。
「甘みがあってすごく美味しいです」
「アヤカシ退治の空腹も、このジャガイモで回復できそうですね」
 ハイディは皿にジャガイモをたくさん取りながら嬉しそうに微笑んだ。
 ジャガイモの味を楽しんでいると台所から恵と陽がお茶と、ジャガイモと合わせると美味しい塩などの調味料を盆に載せて運んでくる。
「お前らの親御さんは本当にうまいイモを作るな! 空腹も吹き飛びそうだぜ」
 テトが朗らかに笑うと、子どもたちは嬉しそうに笑った。
 こうして畑を荒らしたアヤカシは駆逐され、僅かな被害は出たものの鈴里家の家業と一家を守りぬくことに成功したのであった。