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■オープニング本文 ●炎を纏ったアヤカシ 雪が深く降り積もる頃、とある農村では深刻な事態が起きていた。 「アヤカシだ! アヤカシが来たぞおおお!!!」 日が沈みきった夜、村の男が空気を裂かんばかりの大声を上げる。 カンカンと危険を知らせる鐘が村に響き渡り、外にいた人々は家の中へと逃げ込んだ。 炎を身に纏ったアヤカシたちが、村を風のように駆け抜けていく。 火の粉を撒き散らしながら、アヤカシたちは村を通り過ぎて行った。 「一体どうして、アヤカシなんか‥‥今までは一度も出なかったのに!」 アヤカシが残していった火を消しながら、村の若い男が嘆く。 数日前から、炎を纏ったアヤカシ‥‥『火兎』が農村を襲うようになった。 夜に突然やってきて、あっという間に去っていくのだ。 家屋や人に対する被害よりも、際立って甚大な被害を被っているものがあった。 毎年、この時期になると作られる『かまくら』だ。 この村では昔から、冬になると雪でかまくらを作り、守り神である精霊を祀って 祭壇の前で食べ物を食すという祭りが行われている。 かまくらをつくるとそこに精霊が宿り、その中で食べ物を食べると健康になれるとされてきた。 その伝統行事が、突然発生した火兎によって壊されようとしている。 火兎が来る度に、かまくらは溶かされ、めちゃくちゃにされていた。 男は村の広場へと行き、壊されたかまくらを確認する。 炎によって溶かさたそれは、無残な形状を晒していた。 既に完成していたものから作りかけのものまで、火兎は無差別に壊していく。 火兎が去り、家から出てきた人々が壊されたかまくらの前で項垂れている。 「せっかく作ったのに、これじゃ精霊さまが降りてこれないよ‥‥」 一人の子どもが、ぽつりと呟いた。冷たく乾いた空気の中、瞼と唇が震えている。 「‥‥このままでは駄目だ‥‥」 男が眉を寄せ、拳をぎゅっと握った。その背後から、雪を踏みしめる音が聞こえてくる。 「かまくらには精霊さまが宿る‥‥もしかすると、火兎どもは最近この付近に住みつき、わしらを襲う前に村の守り神である精霊さまを排除しようとしているのかもしれぬ‥‥」 「村長!」 男が振り返ると、村長と呼ばれた老人はスッと瞳を細めた。 「この村は精霊さまあってこそ、恵みを授かることができるのじゃ。このままにはしておけぬ」 村長の視線は、かまくらの残骸に向けられている。 「近くの森を住処にしているのでしょうが‥‥どのあたりを拠点にしているのか、まったくわかりません‥‥」 男は溜息をつきながら言うと、空を見上げた。空はどんよりとした灰色をしている。今にも雪が降りそうだ。 「‥‥かくなるうえは、しっかりと手を打たないといかんな」 男の傍らで村長は表情を引き締める。硬い声が、冬の澄んだ空気に凛と響いたのであった。 ●依頼の内容 農村を襲うアヤカシ、火兎を討伐する依頼はすぐにギルドへと届けられた。 ギルドの職員は依頼の内容に複雑な表情を浮かべる。 「火兎を誘き寄せるために、かまくらを作る必要あり‥‥か。壊されるものを作るのは何と言うか‥‥切ないな」 かまくらを作るには、それなりに時間が掛かる。 村人も総出でかまくら作りに携わるが、できれば開拓者にも手伝って欲しいとのことだ。 その上アヤカシ退治とは、大変な任務である。 「‥‥早く解決するといいな‥‥」 ギルドの掲示板に依頼を張り出しながら、職員は故郷の雪国のことを想った。 |
■参加者一覧
菫(ia5258)
20歳・女・サ
ペケ(ia5365)
18歳・女・シ
露羽(ia5413)
23歳・男・シ
賀 雨鈴(ia9967)
18歳・女・弓
晴雨萌楽(ib1999)
18歳・女・ジ
春風 たんぽぽ(ib6888)
16歳・女・魔
ラグナ・グラウシード(ib8459)
19歳・男・騎
向井・操(ib8606)
19歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●いざ、かまくら作り! 冷気が突き刺さるような早朝、開拓者たちは村人の案内で広場に到着した。 「私たちも手伝います」 作業を始める開拓者たちに、村人が声を掛ける。村人たちは道具を準備して、広場に集まっていた。 「それは助かるわ。よろしくお願いするわね」 賀雨鈴(ia9967)は穏やかに微笑んだ後、雪集めに取り掛かる。 開拓者たちは二人ずつに分かれ、四個のかまくらを近い間隔で作ることにした。 菫(ia5258)と雨鈴の班では、村人に教わりながら作っている。 「雪のブロック‥‥きれいに作るのはなかなか難しいな」 菫は土台となるブロックの形を、丁寧に整えている。 「菫さん、それくらいで良いんじゃないかしら。十分きれいよ」 「‥‥はっ、ついつい張り切りすぎてしまった‥‥まだアヤカシ退治もあるのにスイマセン‥‥」 菫は恥ずかしそうに顔を俯かせる。雨鈴は柔らかな笑みを浮かべた。 「悪いことではないわ。心を込めて作るのは良いことよ」 雪を一カ所に集めながら、雨鈴が朗らかに言葉を紡ぐ。 菫はほっと息を付いた後、大事なことを思い出して村人に尋ねた。 「そうだ‥‥火兎はどの時間帯にどの方角から来るのですか?」 「戌の刻くらいに、西の方から来るんだ」 村人の言葉に菫はふむ、と頷いた。 ペケ(ia5365)とラグナ・グラウシード(ib8459)の班も、せっせと作業に取り掛かっている。 「雪集めは私に任せるです!」 ペケが素早い動作で雪をかき集め、一カ所にまとめていく。 「うぅ、て、手がかじかむ‥‥」 体を震わせながら、ラグナがぶつぶつと呟く。 ラグナは雪で作った兎を模した帽子に真っ白なマントを着込んでいた。 それでも寒がりな上冷え性であるラグナにとって、かまくら作りはなかなか大変な作業だった。 「ラグナさん、ファイトです。私も頑張りますから!」 「うむ‥‥素晴らしいかまくらを作ってみせるぞ! せっかくだから大きいのを作ろうではないか」 ペケの応援に応えるように、ラグナは手を動かし始める。 てきぱきと動くうちに、体の冷えも和らいできた。 「飾りも欲しいところだな‥‥これでどうだ、私とお揃いだぞ♪」 寒さに慣れてきたラグナは、目を輝かせながら小さな兎を作り、かまくらの上にのせた。 他方、春風たんぽぽ(ib6888)と露羽(ia5413)の班も村人に教わりつつ、かまくら作りに励んでいた。 「飾りとか、どういった物を使うのでしょう?」 雪のブロックを積み上げながら、露羽が素朴な疑問を浮かべる。 「木で作った飾りや布飾りを使うらしいですよ」 ムスタシュィルを村の周囲に発動させた後、たんぽぽもかまくら作りに取り掛かる。 「そうなのですか。それも壊されるとなると‥‥残念ですよね。このままだと人にも被害が及ぶことになるでしょうし、この際ですから一網打尽にしてしまいましょう」 露羽はブロックの表面を軽く撫でながら微笑んだ。 「そうですね‥‥できるだけ壊されないように、最善を尽くしましょう!」 たんぽぽは力強く頷くと、ブロックを積み上げていった。 モユラ(ib1999)と向井・操(ib8606)の班も、楽しみながらかまくら作りに専念している。 「やー懐かしいネ、童心に帰るっていうか!」 モユラが表情を綻ばせながら、出来上がってきたかまくらを見やる。 「うむ‥‥もう少し手を加えさせてもらうぞ」 操はスケッチを取り出すと、それとかまくらを照らし合わせた。 かまくらの表面を削ったり丸くした雪のブロックをはめ込んだりと、忙しなく動く。 「ん? 何して‥‥うわわっ、これはすごいね!」 モユラが目を瞬かせつつ、操が手を加えたかまくらを見上げる。 先ほどまで普通のかまくらだったものに、巨大な目玉が付いていた。 ギョロリと剥いた目玉が殺気に満ちた視線を放っているようだ。 「つい最近、このようなアヤカシと出会ってな。かまくらと形が似ているし作ってみた」 操は腕を組みながら、なかなかの出来栄えに口元を上げた。 度々休憩を挟みながら、開拓者たちは思い思いのかまくらを作った。 村人たちの手助けもあり、日が沈み始める前に完成する。 「後はもう大丈夫です、これ以上恐ろしい目には合わせませんから、少し待っていてください」 菫の自信に満ちた言葉に、村人は願うような眼差しを向けた。 「頼んだよ、開拓者さんたち」 「はい! あとは私たちにお任せください。村の伝統はきちんと護ります♪」 たんぽぽはにっこりと微笑んだ後、気を引き締めるように杖を握り直す。 村人を帰らせた後、皆で協力して掘った穴にモユラが罠を仕掛けた。 「相手の狙いがわかってんなら、こんなに簡単な話もないやね」 各かまくらの脇に二つずつ罠を仕込み、そのことを皆に知らせる。 こうして、火兎を迎え撃つ準備は整った。 ●火兎襲撃 日が沈み、火兎が現れる戌の刻が近付いてきた。 月は雲に隠れ、不穏な影が広場に落ちる。冷たい風が広場を吹き抜けた。 「! 西から気配が複数‥‥速いです」 何かの気配を察知して、たんぽぽが皆に知らせる。 広場の向こうからいくつもの黒い影が近づいてきた。 広場に入る直前、黒い影は背中から炎を噴き上げる。間違いなく火兎だ。 数は十数体といったところだ。 「皆さんの武器を強化します!」 たんぽぽは、すぐにホーリーコートを発動させた。 皆の武器を順番に、眩い光で包み込む。 「これはいい‥‥感謝するぞ!」 操が光り輝く刀を構え、迎撃の態勢をとった。 火兎たちが広場の中に駆け込んでくる。かまくらを確認すると、迷うことなく向かってきた。 「かまくらに到達する前に、何匹か始末しておかないとね」 雨鈴は静かに言うと、弦を掻き鳴らす。 弦の音は周囲に響き渡り、雨鈴と火兎の間に異質な空気の震えを生じさせた。 「‥‥行くわよ」 火兎の正確な位置を把握した雨鈴は、研ぎ澄まされた矢を放つ。 放たれた無数の矢が火兎の体に突き刺さり、動きを鈍らせた。 急所に矢が当たったのか何匹かの火兎は倒れ、その場でもがく。 それでもなお残りの火兎たちは、真っ直ぐにかまくらへと突進してきた。 「一方向から一直線に向かってくるわ。すごい勢いよ、気をつけて」 雨鈴は鏡弦で確かめた情報を皆に伝える。 矢を逃れた火兎たちが、真っ先にかまくらへと到達した。 「これ以上の横暴は許さん‥‥一匹残らず叩き潰してくれる!」 接近してくる火兎に、菫が咆哮のような叫び声を放つ。 数匹の火兎がそれに驚いて怯んだ。 動きが鈍った火兎に、すかさずスマッシュを叩き込む。 渾身の一撃を叩き込まれ、火兎が呻き声をあげた。 「逃がさんっ!」 逃げようとする火兎を、菫は剣気を放ち威圧する。 動けなくなったところを強く踏み付け、斧を勢いよく振り下ろす。 火兎は擦れた悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちた。 「村の祭りを邪魔する馬鹿兎ども! 精霊に代わってお仕置きですよ!!」 ペケがかまくらの中から飛び出し、拳と拳を打ち合わせる。 体内の気の流れを活性化させ、素早い動きで火兎へと攻撃を繰り出した。 一番大きな火兎の懐に潜り込み、下から拳を突き出す。 地面を抉るように軌道を描き、拳が鮮やかに火兎の腹にヒットした。 「まだまだいきますよ?」 宙に浮いた火兎の頭を、思いきり蹴り上げる。重たい一撃に、大きな火兎は地面に倒れ伏した。 その後ろから数匹の火兎が飛び掛かって来る。 「囲まれる‥‥!」 とっさにペケは風神を発動させようとした。その瞬間、火兎たちの頭部に手裏剣が突き刺さる。 火兎は苦しげに鳴いて、距離を取るように引き下がった。 「大丈夫ですか?」 手裏剣を放った露羽がペケに声を掛ける。 「露羽さん、ありがとうございます!」 ペケの言葉に露羽は頷くと刀を構え、火兎を鋭い視線で見据えた。 「大事なかまくらを破壊することは、もう許しません!」 開拓者を無視してかまくらを壊そうとする火兎に、ラグナは大剣を振り翳す。 「これ以上、お前たちの好きにはさせん!」 オーラを体内に集中させ、力を込めた一撃を火兎たちに放つ。 大剣に斬り裂かれた火兎が、地面に叩き付けられる。 「成敗してくれる!」 操は練力を纏わせた刀を振り下ろした。縦に裂かれた火兎は、咆哮を上げながらもがく。 攻撃を受けてもなお、何匹かの火兎は立ち上がり、かまくらへと向かっていく。 「そんなにかまくらが憎いとでも言うのか?」 病的なまでにかまくらを壊そうとする火兎に、操が眉を寄せる。 火兎たちはかまくらを一つ壊し終え、次のかまくらへと走っていく。 兎の飾りをのせたかまくらに目を付け、肉食動物のように兎の飾りへと食い付いた。 「ああーっ! き、貴様らッ、よくも私の雪うさぎたんをーッ!!」 ラグナは瞳を燃え滾らせ、大剣を火兎に向かって振るう。 先ほどよりも圧倒的に力を増した一撃が、火兎たちに振り下ろされた。 ラグナの怒りに恐れをなしたのか、数匹が逃走を図ろうとする。 「逃げられると思うな! いくら可愛いといえど、容赦せん!」 逃げようとする火兎の前に立ち塞がった操の刀が一閃する。 火兎は体を裂かれ、その場に倒れ伏した。開拓者たちの攻撃によって、火兎の数は減っていく。 しかし残る火兎たちは、なおもかまくらを破壊しようとしていた。 「これ以上、かまくらを壊させはしませんよっ‥‥!」 たんぽぽが魔法で生成された蔦で火兎を絡め取る。 しかし、複数いる火兎の勢いを削ぎきることはできない。 蔦に捕えられた火兎の脇から、別の火兎がたんぽぽに飛び掛かろうとした。 「危ない!」 モユラがとっさに斬撃符を放つ。カマイタチのような式が火兎の足目掛けて突進し、鋭く斬り裂いた。 足を負傷した火兎は、飛び掛かる寸前で地面に激突する。 「怪我はないかい?」 「はい、大丈夫です。ありがとうございます!」 「思ったより手強いね‥‥怪我したときは言ってね。手当するからっ!」 たんぽぽの無事を確認しほっと安心するも束の間、モユラは戦闘に集中する。 「ほら、こっちだよ!」 罠の向こう側に立ち、モユラは火兎を挑発した。火兎は凶暴な瞳をモユラに向ける。 モユラはさらに引き付けるため、斬撃符を火兎の足元に打ち込んだ。 興奮した火兎がモユラ目掛けて突っ込んでくる。 「単純だねえ」 モユラがにやりと口元を上げた。火兎が踏んだ地面が崩れ、地中から地縛霊が飛び出す。 土竜が大きな顎で火兎に食らい付き、鋭い牙で噛み砕く。 叫び声をあげる火兎に追い打ちを掛けるため、モユラはさらに斬撃符を打ち込んだ。 火兎は痛々しい叫びを上げながら絶命し、瘴気に戻って霧散する。 開拓者たちの度重なる猛攻に、火兎たちはついに勢いを失った。 残った一匹が、開拓者たちの目が自分に向く前に広場から逃げ出す。 「足跡を追いましょう! 巣を見つけて殲滅しないと」 ペケが火兎を追うため、広場から駈け出した。 「ええ。仲間に知らせて巣を移す可能性もありますし、急がないと」 露羽もペケと共に、疾風のごとく走り出す。 村を出て足跡を辿りながら森に入ると、巣はすぐに見つかった。火兎の残党が二匹、逃げ出そうとしている。 「逃がしませんよ!」 ペケは素早く火兎の退路に回り込み、拳を頭部に打ち込んだ。 衝撃にふら付いた火兎を、露羽が目にも止まらぬ速さで斬り裂く。 火兎は鳴き声を上げる暇もなく絶命した。 「‥‥アヤカシの火は消し去るのみです」 瘴気に戻り消えていく火兎を見下ろして、露羽は誰に言うわけでもなく呟いた。 ●ちょっとした奇跡 火兎の殲滅を終え、時刻は亥の刻を回っていた。 残ったかまくらは、モユラと操がつくった巨大な目玉のアヤカシを模したかまくらだけだった。 「‥‥ぐすっ」 無残に壊された自分のかまくらの前で、ラグナがしょんぼりと座り込んでいる。 そんなラグナの肩を、ぽんと菫が叩く。 「また作り直しませんか? 部分的には残っていますし、朝までには作り直せます」 菫は迷いのない目を他の皆にも向けた。 「皆さん、まだ動けますか? ‥‥これでようやく祭りができるんです、やっぱり綺麗なかまくらはないといけないと思うんですけど‥‥」 「そうやね。また作りなおそ!」 モユラは太陽のような笑みを浮かべる。 「そうですね! 火兎もいなくなりましたし、これでお祭りができます♪」 ペケもにっこりと微笑んで、菫の言葉に賛同した。 「改めて作る前に、あったかい飲み物でもいかがですか? 皆さん、冷え切っているでしょうし‥‥」 たんぽぽが人数分のお汁粉と甘酒を取り出す。 「うむ、そうだな‥‥体を温めて、再度かまくら作りといこう! また兎をのっけてやるぞ!」 立ち直ったラグナの言葉に、皆は同様に頷いた。 「美味い‥‥疲れた体に沁みるようだな‥‥」 お汁粉を飲みつつ、操が表情を和ませる。他の皆も飲み物を手に取り、ほっと息を付いた。 甘く温かなお汁粉と甘酒は疲れた体を癒し、冷えた体を優しく温めた。 休憩後、さっそく開拓者たちはかまくら作りに取り掛かる。 深夜にも関わらず、火兎が退治されたことを知った村人たちも途中から参加し、夜が明ける前にはいくつものかまくらが完成していた。 中には昼間作ったものよりも兎の数が増えているものや、猫の耳が付いているものもある。 「開拓者の皆さんも、せっかくですからお祭りに参加していきませんか?」 村長の粋なはからいで、開拓者たちも祭りに参加することになった。 村人たちがかまくらの中に蝋燭を置き、やわらかな光を灯していく。 「かまくらの灯りと夜の景色は、本当に美しいですね。夢の世界にいるようです。また、機会があったらかまくらを作ってみたいですね」 露羽は瞳を細めながら、オレンジに色づくかまくらを眺めた。 早起きした子どもたちが雪を投げ合って遊ぶ様子に、雨鈴は穏やかな笑みを浮かべる。 「お祭りに参加させていただいたお礼に、笛を奏でましょう‥‥」 雨鈴が美しい景色をさらに彩るような笛を奏でた。 心地よい音色に、村人や他の開拓者たちは顔を綻ばせる。 笛の音色が止まった瞬間だった。アヤカシを模したかまくらが、白く眩い光に包み込まれる。 「! かまくらが‥‥」 モユラが驚いて目を向けた。他の皆も同様で、全員の視線がかまくらに注がれる。 光は数秒間瞬いたあと、何事もなかったように消え失せた。 「‥‥やっぱり、精霊さまが村や人々を、守っていたのかもしれませんね‥‥」 ペケは静かに呟くと、光があった場所をぼんやりと見つめる。 「しかし、よりによって、どうしてあのかまくらに‥‥?」 操は首を傾げるが、答えが出ることはなかった。 しだいに夜が明け、空が明るくなっていく。 火兎のいなくなった村には、再び平和な日々が訪れるだろう。 こうして開拓者たちは、無事に任務を成功させたのであった。 |