好奇心が招いた危険
マスター名:千影ウレイ
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/11/15 20:23



■オープニング本文

●黒い影

 理穴の東部に位置するとある村には、1つの伝承が存在した。
 村の北部には深い森がある。森の奥には、ずっと昔に巫女が建てたと言われている祠がある。
 その祠には、巫女が残した宝が眠っているという伝承だ。それは現在も、神聖な力で守られているらしい。
 その伝承を信じ、彼らは森に足を踏み入れていた。
「不気味な場所だな〜。やっぱりこうでなくっちゃな!」
 生い茂る草を掻き分けながら、少年は目を輝かせる。 
「いいの? お兄ちゃん‥‥危険だから入るなって、お父さんやお母さんに言われてたのに‥‥」
 少年の後ろを歩く少女‥‥少年の妹が、遠慮がちに少年を見つめた。
 兄と呼ばれた少年は、振り向いてにっと笑う。
「大丈夫だって! お守りも持ってきてるし‥‥」
 得意げに鼻を鳴らし、少年はポケットを探る。しかし、予想していた感触はなかった。
「‥‥あれ‥‥」
「お兄ちゃん?」
「な、なんでもねえよ! さあ、行こうぜ」
 少年は適当にごまかすと、躊躇なく進んでいく。
「もう帰ろうよ‥‥夕方だし、お父さんとお母さんが心配するよ」
「いまさら何だよ。お前だって興味あるんだろ? 祠のお宝!」
「う、うん、そうだけど‥‥やっぱり怖いよ‥‥」 
 入ることを禁じられている森に、少年たちは足を踏み入れていた。
 宝の眠る危険な森‥‥少年たちの好奇心を動かすには十分だった。
 森の奥に進むと、祠が見えてくる。
「伝承の祠って、あれかな? 行ってみようぜ!」
「ほ、本当に大丈夫かなあ?」
「なんだ? まだ怖いのかよ。臆病だなあ」
「お、臆病じゃないよ!」
 少女はむきになって、少年よりも足早に歩き出す。
「おい、そんなに急ぐと転‥‥」
 言いかけたところで、少年が言葉を切った。背後から低い唸り声が聞こえる。
 少年の背中から、冷や汗が噴き出した。
「お兄ちゃん‥‥?」
 少女が不思議に思い、振り返った。そして、恐怖に顔を引きつらせる。
 狼の姿をしたアヤカシが、少年の後ろで赤い瞳をギラギラと輝かせていた。
「きゃあああああああ!!!!!!」
 少女が悲鳴を上げる。
「に、逃げるぞ!」
 少年は駆け出し、少女の腕を掴んだ。
「逃げるってどこに!?」
「祠だ!」
 少年は祠に向かって走る。祠の中に入れば、アヤカシも手を出せないかもしれない。
 祠に逃げ込み、扉を閉じる。アヤカシはそれ以上追ってこなかった。
 その代わりに、遠吠えが耳に届く。‥‥仲間を呼んでいるのかもしれない。
 荒い息を吐いて、二人は床に座り込んだ。
「‥‥どうしよう‥‥」
 少年は震える手をぎゅっと握りしめる。このままでは村に帰れない。
「誰か、助けて‥‥」
 狭い祠の中で、少女が瞳に涙を浮かべながら弱々しく呟いた。



●子どもたちの捜索

「森に行ったきり、帰ってこないんです‥‥子どもたちを助けてください‥‥」
 風信器から聞こえる母親の声は、泣いているように震えていた。
 ギルドに依頼が舞い込んだのは、子どもたちが行方不明になった翌日のことだった。
 依頼主は子どもたちの両親だ。村の北部にある森に入り、子どもたちを探してほしいとのこと。
 森の入口には、子どもに持たせていたお守りが落ちていた。森に入ったことは間違いないという。
「まだ生きているかもしれません‥‥どうか、お願いします」

 


■参加者一覧
風間 悠姫(ia5434
25歳・女・シ
一心(ia8409
20歳・男・弓
利穏(ia9760
14歳・男・陰
レオ・バンディケッド(ib6751
17歳・男・騎
エルレーン(ib7455
18歳・女・志
仁志川 航(ib7701
23歳・男・志
テト・シュタイナー(ib7902
18歳・女・泰
華魄 熾火(ib7959
28歳・女・サ


■リプレイ本文

●子どもたちを救え 
正午を過ぎた頃、一同は森に到着した。
「村人に聞いたけど、森には祠しかないらしい」
 仁志川航(ib7701)は、村人から聞いた情報を皆に伝える。
「子どもたちが生きているとすれば、祠にいる可能性が高いですね」
 航の言葉に、一心(ia8409)が森の奥を見据えた。祠は森の奥に建てられている。
「急いで祠に行きましょう。まだきっと、間に合います!」
 利穏(ia9760)は強く頷いた。一刻も早く救出しなければならない。
「全員で向かおうぜ。敵が出てきたら作戦どおり、殲滅班と保護班に分かれよう!」
 レオ・バンディケッド(ib6751)は、やる気満々といった風に拳をぐっと握りしめる。
「絶対に子どもたちを救ってみせるぜ!」
 テト・シュタイナー(ib7902)は強気な笑みを浮かべた。

 広い森ではないものの、何も考えずに歩けば道に迷う。
 風間悠姫(ia5434)は足元に視線を落とし、ジッと目を凝らした。
「見づらいけど‥‥二つの足跡が奥に続いてるわね。狼か何かの足跡も、二人を追う形で続いてるわ。拙いかもしれない‥‥」
「その跡を辿っていけば、子どもたちの居場所がわかるかもね」
 エルレーン(ib7455)が、通りがかりの木に刀で矢印を刻みながら言葉を返す。
 航がその様子を、感心したように見つめる。
「へえ、木に矢印を残してるのか。気が利くね」
「こうしておけば、森から出るときに迷わないと思って‥‥」
 航の言葉に、エルレーンは少し照れたように微笑んだ。
 一方、エルレーンとは対照的に、華魄熾火(ib7959)は物憂げな表情をしていた。
 それに気付き、航は熾火に声を掛ける。
「どうしたの? 具合でも悪い?」
「いや‥‥子どもが安心して遊べる森はないのかと思うと、心苦しくてな」 
 熾火は静かに言葉を紡ぐと、悲しげに眉を寄せた。
 ちょうどそのときだった。茂みからガサガサと複数の音がする。一同は反射的に武器を構えた。
「どうやら、敵のおでましのようだぜ」
 テトが周囲の気配に耳をそばだてた。茂みの隙間から、いくつもの赤い瞳が覗く。
 エルレーンは心眼を使い、敵の数を確認する。
「数は‥‥10体いる」
「多いですね」
 エルレーンの言葉に、利穏が意識を集中させるように短剣を握りしめた。
「前方の敵を突破して、子どもの救助に向かえればいいのですが‥‥」
 冷静な声で言いつつ、一心は行く手を阻む敵を鋭い視線で見つめる。
 敵が牙を剥き、一斉に襲いかかってきた。素早い身のこなしで不規則に動きながら向かってくる。
「あぁ、何と煩わしい‥‥っ」
 前方から襲ってきた敵に、熾火は大薙刀を振るいスマッシュを叩き込んだ。
「敵は私たちが引きつけるよ! 保護班は救助へ!」
 エルレーンが刀を大ぶりに振り回し、敵に存在をアピールする。
「ほーら、こっちだ! 来いよッ」
 テトも敵の注意を引くように銃を発砲した。
「任された、其方も‥‥どうかご無事で」
 熾火は殲滅班の4人に礼を言った。敵を任せ、保護班は祠に行こうとする。
 1体の敵がそれに気付いて追ってきた。レオが敵を鋭く睨み付ける。
「付いて来られたら困るんだよ!」
 大剣を振るい、ソードクラッシュを放つ。敵は縦に切り裂かれ崩れ落ちた。
「さすがね。‥‥さて、私が先行して祠の様子を見てくるわ」
 悠姫は早駆を使い、風のように駆ける。一心、レオ、熾火もそのあとを追うように走っていった。

●殲滅班の戦い
「保護班は行ったね‥‥さて、時間稼ぎといくか」
 航は刀を構え、唸り声を上げる敵を見据える。
「祠側から引き離して、一気に叩きましょう」
 利穏も短剣を構えると、敵を誘うように短剣をゆっくり振った。敵は飢えた瞳を利穏に向ける。
「いい具合に注目を浴びてんじゃねえか。俺様も、負けちゃいられないぜ!」
 テトはにやりと口元を上げると、敵を挑発する。
「おい、狼ども! この俺様が相手だ! かかってきやがれ!」
 テトの挑発に乗り、数体がテトに飛びかかった。反撃はせず、ひたすら防御に徹する。
 次々に繰り出される攻撃を、ギリギリのところで避けた。避けながら、少しずつ祠から引き離していく。
「わ、っととと‥‥! こういうのも楽じゃねーな! ほんと!」
「テトさん、大丈夫ですか!」
 エルレーンが自分に向かってきた敵の攻撃を防ぎながら、呼びかける。
「心配ありがとよ! でも自分の心配もしろよ!」
 テトの言葉の直後、1体の敵がエルレーン目がけて突進する。
 別の敵が刀に噛み付いており、手を離さないと回避できない。
(一撃くらいなら、受けられる‥‥!)
 エルレーンは覚悟を決めて、腹に力を入れた。しかし、予想していた痛みはなかった。
 航がエルレーンと敵の間に入り、短剣で受け止めたのだ。
「航さん‥‥!」
「皆が油断させる役なら、1人くらい守る役がいても良いと思ってね」
 さらりと告げて、航は敵を振り払う。
 防盾術によって攻撃を見切られ、敵は警戒するように航を睨み付けた。
「うわあ、かっこいいなあ‥‥」
 誰に言うわけでもなく、利穏が呟く。
 隙ができたと勘違いした敵が2体、利穏に襲いかかった。
 牙を光らせ、体に噛み付こうとする。
 利穏は身を翻し、敵の攻撃を敢えて寸でのところで避けた。
「さっすが〜。かっこいいねえ」
 航がにこやかに褒めると、利穏は困ったような表情を浮かべた。
「え、あ、そ、そんなことないです‥‥」
「謙遜しなくていいのに。‥‥さて、だいぶ祠から離れたし、そろそろ本気出そうか?」
 現在いる位置を確認し、航が問う。
「ああ、そうだな。さっさと片付けちまおうぜ!」
 航の言葉に、テトが飛びかかってきた敵を槍で斬り飛ばした。
 エルレーンも頷き、刀に噛み付いていた敵を振り払う。
「ここからが本番だよ」
 エルレーンは炎魂縛武を発動させた。炎が刀を包み、燃え盛る剣を作り出す。
「さあ‥‥あなたたちなんて、終わっちゃえ!」
 燃え盛る剣を振り上げ、敵目掛けて一気に下ろす。
 素早い斬撃は次々と、敵を鮮やかに切り裂いた。
 炎の熱と痛みに、敵は苦しげなうめき声を上げる。
「何匹来たって無駄だぜ!」
 テトは運足を駆使し、素早い足捌きで攻撃をひらりとかわす。
 敵を視界におさめ、狙いを定めて槍で貫いた。
 敵は悲鳴にも似た雄叫びを上げる。
「俺たちが弱いと思ったら、大間違いだよ」
 航が刀を振り抜く。舞うように繰り出された斬撃は、周囲を囲んでいた敵を斬り飛ばした。
 不利な状況に追い込まれ、残っている敵がジリジリと後退し始める。
「残るは2体‥‥逃がしませんよ!」
 敵が逃げ出そうとした瞬間、利穏が隼人で退路に回り込んだ。
 そして、即座に剣気を放つ。利穏から湧き出る威圧感に、敵は怯んで動きを止めた。
 動きを止めた敵を、利穏は容赦なく短剣で斬り裂く。
 頸部を裂かれ、敵は鳴き声を上げることもできずに崩れ落ちた。
 利穏が残る1体に目を向ける。敵は雄叫びを上げて最後の一撃を繰り出そうとした。
 威圧感の中、必死に抵抗しようとしているのだ。
 瞬間、敵の頭を弾丸が貫いた。
 鋭い銃声と共に敵は横に吹き飛び、倒れて動かなくなる。
「こういうときの銃だ。持ってきといて良かったぜ」
 槍から銃に持ち替えたテトが、硝煙を息でふうっと吹いた。
「ありがとうございます。テトさん」
「ま、こんなもんよ」
 利穏に礼を言われ、テトは強気な笑みを浮かべる。
「さて‥‥敵も始末したことだし、俺たちも祠に向かおうか」
 敵が他にいないことを確かめ、航は祠がある方向へと目を向ける。
 戦いの痕跡を辿っていけば、祠に着くだろう。
「そうだね。保護班と合流しよう!」
 航の言葉に、エルレーンが強く頷いた。

●保護班の救出活動
 殲滅班と分かれ、保護班はまっすぐ祠へと向かっていた。悠姫は先行して祠周辺の様子を探る。
 敵が1体、祠を見張るようにうろついていた。
(‥‥すぐに倒せるわね)
 悠姫は忍刀を手に抜足で敵の背後から近づき、目にも止まらぬ速さで背中を切り裂いた。
 鋭い刃に体を深く抉られ、敵はその場に崩れ落ちる。
 それと同時に、複数の足音が聞こえてきた。一心、レオ、熾火の3人が到着したのだ。
「悠姫さん、祠の周りはどうなってますか?」
 一心が悠姫に問い掛ける。
「敵がいたけど始末したわ。今は安全なはずよ。祠の中を確かめましょう」
 悠姫は忍刀を懐におさめながら、祠に近づき扉に手を掛けた。
 祠の中に向かって呼び掛ける。
「おーい、誰かいる?助けに来たわよ!」
「‥‥え、人‥‥?」
「助けがきたの‥‥?」
 祠の中から、子どもたちの囁くような声が聞こえた。間違いない。子どもたちは祠の中にいる。
 悠姫は祠の扉を開いた。子どもたちの驚いた顔が、視界に飛び込む。
「やっぱりここにいたんですね‥‥怪我はありませんか?」
 一心が子どもたちに優しく声を掛ける。緊張の糸が緩んだのか、少女の瞳から涙がこぼれる。
「ふえぇ‥‥こ‥‥怖かったよお‥‥」
「この一流騎士様が来たからにはもう安心だぜ!」
 少女を元気付けるように、レオが明るく笑った。しかし、少女は泣きじゃくるばかりだ。
 少年も泣きそうな顔をしながら俯いている。
「‥‥罰が当たるかもしれない‥‥祠のお宝を飲んじゃったんだ」
 少年が弱々しい声で呟いた。ふと、熾火が祠の隅に空の陶器が転がっていることに気付く。
 熾火はそれを拾い上げると、ほんの僅かに残っていた中身を確かめた。
「これは‥‥水だな」
「たぶん、それが祠のお宝なんだ‥‥でも、喉が渇いてて‥‥2人で飲んじゃったんだ‥‥」
 子どもたちは怯えるように体を震わせていた。
 熾火は子どもたちの頭を優しく撫で、そっと抱きしめる。
「‥‥生きるために、仕方がなかったのだろう。森に来てしまったことを反省しているのなら、罰など当たらぬ」
 熾火の温かな言葉に、子どもたちの震えがおさまる。
 熾火の腰に抱き付いて、涙をすすっていた。だいぶ落ち着いたようだ。
「そろそろ村に帰りましょう。ここにいては、また敵が来るかもしれません」
 外の様子を伺っていた一心が、皆に目を向ける。一心の言葉に、悠姫はこくりと頷いた。
「そうね。子どもたちは私が連れていくわ。ほら、乗りなさい」
 悠姫は少年を背負う。
「もう1人は俺が連れていくぜ。1人で連れてくのは大変だろ?」
 レオは朗らかに言うと、少女の膝裏に手を入れて一気に持ち上げる。
「きゃっ‥‥」
 いきなりお姫様だっこをされ、少女は顔を赤らめた。非常に恥ずかしそうだ。
「少し揺れるけど、我慢してくれよ?」
「‥‥私がその子を連れて行こうか?」
 少女の様子を見て、悠姫が提案する。レオが答える前に、少女が口を開いた。
「ううん、いいの! これで‥‥」
 少女はレオの服をぎゅっと握った。どこか惚けたような顔で、少女はレオを見上げている。
 悠姫は少女の気持ちを察し、くすりと笑みをこぼした。
「そう‥‥わかったわ。それじゃあ、行きましょうか」
「待ってください。‥‥どうやら、まだ残っていたようです」
 一心が冷静な声で告げる。一心の目線の先、祠の正面に敵が2体待ち構えていた。
「残党でしょうか‥‥先にあれを始末しなければ。自分がやります」
 弓を構えながら、一心は静かに敵を見据える。
「おい、1人で大丈夫か?」
 レオが心配そうに問うと、一心は僅かに口元を上げた。
「任せてください」
 一言そう告げて、祠の外へと走り出た。それを待っていた敵が、2体同時に飛びかかる。
 一心は横に跳躍し攻撃を避けると、敵の着地点に瞬速の矢を放つ。
 六節によって連射された矢は、雷のように2体の脚部へと突き刺さった。
 敵は苦しげに呻きながら、その場にうずくまる。
「これで終わりです」
 機動力を失った敵の急所に、一心は矢を打ち込んだ。
 敵は弱々しい鳴き声を上げながら、その場に倒れ伏す。
「こちらの様子を窺わず、すぐに襲い掛かってくるとは‥‥敵も浅はかだな」
 熾火が敵の死体を見降ろしながら呟いた。
「アヤカシはこの祠に子どもがいることを知っていたはずです。足跡が祠のすぐ近くで止まっていましたから」
 一心は地面に残る足跡を見ながら、考えを巡らせる。
「理由はわかりませんが、敵は祠に入ることができなかった。‥‥だから、しびれを切らしていたに違いありません」
「1人でも祠から出てくれば、すぐに襲ってくると考えたのだな」
 熾火の言葉に、一心は静かに頷いた。
「はい。行動を起こせば隙ができます。その隙を狙いました。様子を窺うだけだったとしても、そのときは皆さんと共に対処すれば良いだけですから」
「どちらに転んでも被害はなかったってことね」
 悠姫とレオが、子どもたちを連れて祠から出てくる。
「さて、今のうちに殲滅班と合流して村に戻るか!」
 レオの言葉に、一同は祠をあとにした。

●子どもたちの笑顔
 この後、殲滅班と保護班は合流に成功し、敵と遭遇することもなく村に帰ることができた。
 エルレーンが残した矢印のおかげで、迷うこともなかった。
 幸い子どもたちに怪我はなく、激しい衰弱も見られなかった。
 エルレーンや航が持ってきた菓子を食べて体力を補い、子どもたちは村に戻った。
「子どもたちを助けてくださって、本当にありがとうございます‥‥」
 母親が礼をすると、子どもたちもそれに倣うように頭を下げる。
「危ないことしてごめんなさい‥‥」
「お前らな、人に心配掛けてどーすんだよ。ったく‥‥俺様がその手の冒険の仕方を教えてやろうか?」
「ううん‥‥もう森にはいかないよ。ありがと、おねえちゃん」
 テトの言葉に、少年は首を振った。
「いい子ね。もう今度から、無茶しちゃダメよ?」
 身を屈めて少年と目線を合わせながら、悠姫がにこりと微笑む。
「もう危険な所へは行かない事だぜ? 一流騎士との約束だ!」
「うん、もう行かない!」
 レオの言葉に、少女がはっきりと頷いた。レオは少女に、にかっと明るい笑みを返す。
「子は里の宝と言う、よく学び、よく育て」
 熾火は子どもたちの頭を優しく撫でる。
 子どもたちは恐れることなく、可愛らしい笑みを浮かべた。
 一方航は、子どもたちを眺めながら軽く息をつく。
「まあ‥‥力試しができる場所があるのは、悪くないと思うけどね。今後のこともあるし、あとでギルドに言って森の状況を調べてもらった方がいいね」
「そうですね。環境が変わっているかもしれませんし」
 一心が思案するように顎に手を当てる。
 残党が生きている可能性はあるが、相当の数を倒したのだ。数はかなり減っているだろう。
 航と一心の会話に、エルレーンは同意するように頷きながら子どもたちの笑顔を見ていた。
(ああ‥‥守ることができて、本当に良かった‥‥)
「これからも、仲良くするんですよ」
 利穏は子どもたちに優しく微笑みかけた。子どもたちは元気な声で、こくりと頷いた。
 こうして開拓者たちは子どもたちを助け出し、小さな命を守り抜くことに成功したのであった。