【浪志】ミラーシ、塾へ
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/10/28 17:45



■オープニング本文

 ここは神楽の都。
 場所は珈琲喫茶「南那亭」。
「不思議な感覚です」
 白い湯気立つカップを傾け感慨深げに言うのは舞妓のエルフ、クジュト・ラブア(iz0230)。もっとも、今は長い金髪もそのままに普段着でリラックスしているが。
「故郷を捨てたはずの男が、異国の地で思いがけず故郷の味に出合い懐かしむとは‥‥」
 大部族に裏切られ敗北し故郷を追われた苦い経験と珈琲の苦い味が被るが、ここはぐっと飲み込む。珈琲に罪も恨みもない。
「‥‥しかし、若干味が違うような?」
 慣れ親しんだ味とは香気の点で異なるか。
「ええ。泰国南西部の南那産ですから、アル=カマル産とは味が違うそうです」
 店員の深夜真世(iz0135)がメイド服の裾――いや、今日は青いエプロンドレスを着ているぞ。なにやらルンルンと幸せそうだ――を翻して説明した。ふうん、とクジュト。
 そこへ。
「こんにちは、クジュトさん」
 いきなり同席してきた、大きなアサシンマスクをした男が話しかけてきた。
「いやですね。あっしですよ?」
 そう低い声を出すと、こげ茶色のもふら面を被って背を丸めた。
「もの字さんでしたか」
「日の当たる場所では、それなりの格好をしますよ」
 得心のいったクジュトに、もふら面の男は肩で笑った。
「今回は急ぎの用件です。‥‥前に話した『東堂俊一』。この男の動きが活発化してます。彼はこれから大きな仕事をして大いに人脈を作るでしょう。ぜひ、彼と親しくなっておいて下さい」
「なぜです?」
「これから新たにのし上がろうとする男は、必ず有力者を接待をするでしょう。これから新たに界隈でのし上がろうとするミラーシ座にとって、有力なお得意様候補です」
 ずばり言い切るもふら面の男。クジュトも、「分かりました」と素直である。事の重要性を瞬時に理解したようだ。
「彼は忙しいはずなので直接訪れて何か手伝えることはないか聞いてみるといいです。‥‥彼と組しておいて損はないですから、頑張ってください」

 後日。
 クジュトは東堂俊一なる人物に会うことができた。
 場所は、東堂が子どもたちに読み書きや算盤、剣術などを教えている私塾だった。
「こんにちは〜」
「こんにちは、先生に御用ですか?」
 広い敷地を行くうちに、すれ違う子どもたちが礼儀正しく挨拶をする。
「こんにちは。‥‥ええ。東堂先生にご挨拶に参りました」
 にっこりクジュトが返すと、ぱあっと表情を明るくする子ども。「先生〜っ」とぱたぱた駆け出したり、「こっちこっち」とクジュトの手を引いて走り出したり。もちろん成人まぎわの子もいるようで、そういった子らは落ち着いた様子で目礼しすれ違う。
 そして――。
 眼鏡を掛けた、撫で付けるような黒い長髪の書生風の――いや、それでいて足の運びや佇まいが腕の立つ剣客そのものの男の前まで案内された。
「お客様ですか?」
 泰然自若。
 それでいて子どもに目をやった時の一瞬の眼差しは、嘘偽りのない慈愛を含んでいた。
(ほう‥‥)
 内心、クジュトは感心した。
 仮に舞台であれば、一発で観衆の心をさらっただろう。べたべたしない、一瞬の表情がいいのだ。押し付けてくる感じはまったくない。
(見習いたいものですね)
 クジュトが東堂を一方的に信頼した瞬間である。
 その後、クジュトは東堂と何を話したかよく覚えていない。
 ともかく、もふら面の男に言われた人物の名を出し、東堂が協力者を求めていること、自分も協力できることを話した。
「協力、ですか。‥‥そういわれましても」
 東堂、かまをかけたッ!
「私がここを訪ねて『協力できます』と言えることが、私のできることになるでしょう。それで不足であれば、吟遊詩人で舞妓をしていますが、以前は‥‥」
 クジュトも含みを持たせて返す。
 と、ここで東堂は面を明るくした。
「吟遊詩人で舞妓ですか。‥‥では後日、ここの子どもたちに歌や演奏などを指導していただけませんか?」
「ええ、喜んで」
 会話の着地点を探していたクジュトも、喜んでこの話に乗った。
(おそらく、その間に私について調べるのでしょう)
 そんな思いもあるが、むしろそうして欲しいと期待している。

 こうして開拓者ギルドに、東堂俊一の私塾で歌や踊り、演奏などを教えて触れ合ってもらえる人材を募る依頼が張り出された。
 舞妓が来るということで、すでに子の親たちは珍しがったり舞い上がったりして、野次馬根性丸出しらしく今からグダグダになることが予想されている。
「一日なのできっちり教える必要もないでしょう。まずは楽しさを伝えれば」
 クジュトがそうつぶやくような、気軽な内容である。


■参加者一覧
美空(ia0225
13歳・女・砂
エメラルド・シルフィユ(ia8476
21歳・女・志
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
レートフェティ(ib0123
19歳・女・吟
ニーナ・サヴィン(ib0168
19歳・女・吟
リスティア・サヴィン(ib0242
22歳・女・吟
Kyrie(ib5916
23歳・男・陰
キサラ・ルイシコフ(ib6693
13歳・女・吟


■リプレイ本文


 東堂の私塾「清誠塾(しゅんせいじゅく)」の庭は、いつもと違う様相を呈していた。
 子どもたちは年齢幅はあるものの、少年からチビッ子までが大人しく静かに立ち並んでいたのだが‥‥。
「きゃ〜っ。舞妓さぁ〜ん!」
「異国の吟遊詩人さんも素敵〜っ!」
「あれすご〜いっ!」
 なにやら外野の保護者や周辺住民の野次馬が黄色い悲鳴が飛び交っている。
 ここで、女形の格好をしたエルフの舞妓、クジュト・ラブア(iz0230)がミラーシ座長として深々と頭を下げた。しゃらん、と涼やかな音とともに揺れる簪の飾り。ここで、大人たちのざわめきもぴたと止んだ。
「本日は多忙の東堂俊一(iz0229)先生の代わりに、私どもミラーシ座が舞や音楽の素晴らしさを伝えたいと思います。よろしくお願いしますね」
「はい、質問です」
 早速子どもたちから挙手が。「はい、どうぞ」とクジュト。
「どうして外なんですか? 舞妓さんとか琴の人はお座敷で舞ったり演奏したりするんじゃないんですか?」
「それはね‥‥」
 真面目に聞く子どもに向かって、にっこり微笑むクジュト。
「こういうことっ!」 
 赤毛と白いローブをなびかせ、リスティア・バルテス(ib0242)が右に駆け出した。
「ミラーシ一座、白の吟遊詩人、リスティア・バルテスよ。ティアって呼んで☆よろしくね〜」
 ハーブを奏でつつ、元気いっぱいに明るく挨拶して右手を挙げる。
「リスティア姉さんたら‥‥」
 波打つ金髪と青いケープをなびかせニーナ・サヴィン(ib0168)がティアを追う。
 それと同時に、中央から今度はKyrie(ib5916)(以下、キリエ)が左に動いていた。
「では皆さん、私と一緒にレッツダンシング!」
 いつもの黒のロングコートではなく、バラージスーツを着て腰にサッシュを巻くという軽快で爽やかな格好でくるりと一回転。ぴたりと右手を横に伸ばしたポーズを決め天儀ではあまり見られない舞へと誘う。
 そして、元の位置。
「座長も皆さまもお世話になります。子どもたちに音楽の良さが伝わるようにね」
 レートフェティ(ib0123)が紫の瞳を淡く煙らせ微笑。パンの葦笛を構える。
「ええ。頑張りましょう」
 クジュトも横笛を取り出した。
「まークジュト座長の女装っぷりと対抗したいが、まずはお仕事〜」
 おや、くぐもった声がするぞ?
 何と、村雨 紫狼(ia9073)は、もこもこなまるごともーもー姿で短い腕を横にフリフリしつつ肩を揺らせてリズムを取っている。子どもたちの声援が集中する。
「音楽は楽しいモノだってみんなにも知って欲しいですの〜」
 ててて、っと駆け出し紫狼のまるごともーもーの横につけたのは、キサラ・ルイシコフ(ib6693)。オレンジの衣装が素敵な、ちっちゃな可愛らしい女の子だ。詩聖の竪琴で演奏に入ると、子どもたちは目を見張った。自分たちと似たような子どもが立派に演奏していることに感心したのだ。
 庭に流れるリズム。
 心躍らすダンス。
 好奇心のままに教わりたいところへ行く子どもたち、遠巻きに見ていたはずなのにいつの間にか近寄り交ざり始める大人たち。
 清誠塾の特別な一日が動き始めた。


「美空であります。本日は皆さん、よろしくなのであります」
 可愛らしい口調で言う小さな姿は、美空(ia0225)。今日も何やらすっぽりと顔をほとんど覆ってしまう、身長に見合わないくらい大きくて独特のフォルムをした兜を被っている。ここは戦地ではないのでその格好は若さ故の過ちではないかといぶかる人もいるかもしれないが、ああっ!
「わわっ!」
 ほら〜。礼儀正しく深々とお辞儀なんてするからバランス崩してすってんころりんしたじゃないですか〜。
「いつもよりすこうし、頭を下げすぎちゃいましたね」
 前転して座った形でてへへと頭というか兜を掻く姿に、子どもたちはわあっと笑顔の花を咲かせた。前に動いたことだけでなく、心も子どもたちとの距離が詰まったようで。
 おや、別の場所ではなんだかノリの悪いのが残っているぞ。
 ふうっ、とひそかに溜息をついているのは、エメラルド・シルフィユ(ia8476)。
「まあ、クジュトが東堂の信頼を得る為ではある」
 ぼそ、とそんなことをつぶやく。
「‥‥しかし、それ以上に前途有望な少年少女達だ」
 顔を上げて目に入った子どもたちを見てまたぼそり。いや、ここでひとつ力強く頷いたぞ。
「なれば、打算なく誠意を以って導こうぞ」
 きっ、と顔を上げるエメラルド。
 しかし、ああ。
 しゃん、と清らかに一族に伝わる剣舞をひとくさり披露し子どもたちの拍手を得たまではいいのだがその後が。
「芸事とはいえ侮るなかれ。歌にも踊りにもまず必要なのは基礎体力」
 あの、エメさん。口調が何か本気すぎませんか?
「将来の為にもいい。まずは走り込みだ! 何、私は幼少の頃、一日八里を走っていた。君らは少し軽めにその半分を‥‥」
 ここでハリセン「笑神」のすぱーんという小気味良い音が響く。
「ちょっとエメ。あんたは昔っから変わらないわね〜」
 ティアがやって来てこぶしを目の前で固めて力説するエメに突っ込んだのだ。
「ティ、ティア、私は子供達と苦難を乗り越えた喜びを分かち合おうとだな‥‥!」
「苦難はいいの。いつも通りにしてりゃいいのよ。暴走しそうになったらコレで‥‥」
「い、いつも暴走してるようじゃないか!」
「いや、アタシは別にアンタと漫才コンビ組んでる訳じゃないんだけど」
 あの、お二人さん。いい加減演奏とかしてくださいね。‥‥いや、子どもたちにはうけてますけど。


 さて。
 始まったばかりで突然だが、いきなり限界を迎えている男がいる。
「はあはあ‥‥ちいちゃいおんなのこだらけだあ☆」
 まるごともーもー姿の紫狼である。
 今日は日の当たりがよく暖かい。まるごと着て動けば中は蒸し風呂状態で、しかも紫狼自身が何やらリビドー的なもので非常に発熱量がアップしている。幼女に分厚い布越しに抱きつかれ欲望的に‥‥あ、いやいや。
「決してどさくさで幼女たんたちにダキツカレタイトカジャナイデス、ヨ?」
 との本人の談から、この上さらにまるごとを脱いで抱き付きたいわけではないのだっ!
「もーもーダンスして〜」
 黄色い声にこたえて激しくコミカルにうごく紫狼。しかし、これはやってるほうはきついぞ。耳を澄ませばはぁはぁと荒い息が聞こえる。
「あ。もーもーさんの中のお兄さんも疲れるのであまり無理を言っては‥‥」
 クジュトが気付いて幼女に一声掛けたが、それは子どもの夢を奪うだろう。
 しかし、この一言が止めへと繋がった。
「うんっ、分かった。‥‥おにいちゃん、踊ってくれてありがとね」
 無邪気な、舌足らずな感謝の言葉。
 これを聞いた紫狼は幸せのあまり、ばたんきゅうと昇天したのだった。


「私も子供の頃、村に来た一座に遊んでもらったりしたなぁ♪」
 ニーナが、ほうっ、と空に息を吐き出していた。
 今思えば、その記憶が吟遊詩人になるキッカケだったのかもとか思う。あの時も空は青かった。
「それじゃ、次はあなた。ハープを弾いてみて」
 子どもたちにハープ演奏体験をしているようだ。
「爪弾くには結構力がいるでしょ? こんな繊細そうな楽器なのに不思議よね」
「どう? 綺麗な音でしょう」
「感じた? 同じハープでも持ち主によって音が変わるのよ」
 風に乗るようにくるくる動いて声を掛ける。
「音が変わるのは、持ち主の心が楽器に移るのね。だから‥‥」
 楽器って不思議でしょ、か、自分らしく育ってね、か。消えた言葉は不明だが、ニーナの笑顔は間違いなく子供たちに何かを感じさせていた。
「そうそう。何も楽器を持っていなくても音楽は楽しめるのよ。こうやって、ね♪」
 今度は口笛を吹き始めた。子どもたちに教えもする。
 そんなニーナを眩しそうに見上げる子どもたち。空も青い。
 あるいは、在りし日のニーナもそうだったのかもしれない。
 やがて、エメを連れたティアが帰還。
「エメを連れ戻したわよ」
「リスティア姉さん」
 ちょうど一区切り付いたニーナが声を上げ、「あ」と手を口元に。
「姉さんって言っても本当の姉妹じゃないのよ? 吟遊詩人をやってるとね、世界中に『家族』が増えるの。素敵な事でしょう?」
 孤児もいる子どもたちに、そう言い聞かせウインク。この言葉に子どもたちは憧れの視線を向けていた。
「さ、明るくいこう。どんな歌が聞きたい?」
 バイオリン「サンクトペトロ」を抱え直すティア。演奏と体験がまた始まる。


 別の場所では、踊りを習う子どもたちが。
「これが、ジルべリアの舞踏!」
 キリエが掛け声と共に長身を滑らせた。その動きに目を見張る子どもたち。
「ハッ!」
 板を敷いた場所で、爪先・踵・爪先と細かく体重移動しながら素早く動いている。腰の高さはほぼ変わらず、そこに巻いたサッシュが綺麗になびいている。
 そして、板の床は木製の靴「サボ」の音を大きく反響させる。カ、カカカン、とステップで早いビートを刻んでいる。
 キレのあるステップに、回転を加えたジャンプ!
 カカン、という着地に子どもたちは腰を浮かせた。自分もできるか、いやできるようになりたい。そんな、目付き。キリエの方は流す目の端でその様子を捉えていた。
「ヤッ!」
 緩急をつけたダンスの締めは、前進するかのような歩き方で後退。「月歩」である。
「俺もやってみたい」
「僕にも教えて」
 ダンスが終わったと見るや、子どもたちが寄ってくる。
「ええ。無性に歌ったり踊ったりしたくなることは、とっても大切なことなんです」
 にこりと笑むキリエ。そして子どもたちを立たせて姿勢やステップの基本を指導する。
「歌や踊りを通して心の中にあるもの、想いや感情を表現する、外に向けて発信する」
 爪先と踵の使い方を指導し、顔を前に向けさせ、ばっと横を向かせる。
「そこに基本があります」
 カツンカツンと踵を打ち鳴らし、今教えたことを今度は通してやってみたり。


「あっ。痛いの〜やめてなの〜」
「どうしました? キサラさん」
 てててっと走ってきたキサラが、クジュトにえぐえぐと泣きついた。
「背中の翼やスカートの尾羽をね‥‥」
 そう言って自分の背中を振り返る。ちょっとした弾みでむしられそうになったらしい。鳥の獣人であるが、ちっちゃくて可愛らしいのでその存在がとても不思議で興味深かったのだろう。
「あの‥‥」
 ここで、ばつが悪そうに数人の子どもたちがやってきた。
「ごめんなさい。つい、はしゃぎすぎて勢いが付いて‥‥」
 ここで、くす、とクジュトはこっそり笑った。子どもたちの顔が真っ赤で、まるで気になる異性に悪戯したよう。
「もう乱暴しないから、教えてください」
 さすがに礼儀は正しい。
「‥‥それじゃ実際に体験してみるの〜。 あ〜、乱暴に使ったら〜壊しちゃうからダメなのですよ〜」
 キサラ、気を取り直して用意してきた横笛やオカリナを手渡した。
「う、うん。丁寧に‥‥」
 さっきのことがあり、子どもたちも力加減は慎重だ。
「じゃあ、一緒に音を合わせてみるの〜」
 やがて、つたないながら合奏が。
 ここで、小鳥がキサラの周りに集まって来た。
「あれあれ〜? またスキル使っちゃったですよ〜」
 「小鳥の囀り」だ。気分が良いと無意識に使ってしまうようで。
「わあっ」
 ここで、子どもたちが小鳥に手を伸ばした。小鳥は寸前で交わし、代わりにキサラの羽に触れてしまった。
 今度は乱暴な感じではなく、優しい手つき。羽根も傷付かないだろう。
「くすぐったいの〜」
 キサラの声も笛の音のように軽やか。子どもたちと一緒に微笑みあったという。


「これから天儀を旅してた時に教えてもらった踊りをお披露目するのであります」
 美空は、巫女の神楽舞でぶいぶい言わせていた(本人談)ところを存分に発揮している。
 って、何やってんですかっ!
「はっ!」
 何と美空、子どもに低い位置で水平に棒を持たせ、自分は仰け反ってそれをくぐろうとしているではないか。そしてどんがどんがと子どもに太鼓を任せて、そのリズムでジリジリと傍目不可能な低さの棒に臨む。
「これが『みんもーダンス』」
 地面すれすれをクリアして、ばっと状態を延ばす美空。喝采を受ける。
「こういうのも踊りなんだ。楽しいなぁ」
「それじゃあ、次は『天柱ダンス』」
 子どもに受けて、美空が暴走するッ!
 今度は濡れ縁の円柱に絡み付いたぞ。そして巻きつくように悪路馬蹄っくなダンス。さっきもそうだが、これでスカートだったらとんでもないことになる。
「秘祭の神事が元でかなりエロイのであります」
 頬を紅潮させあはんと仰け反るポーズを決めてそんなことをつぶやくが、それ以上大きな声で言ったらダメですよ?


「乱暴でなければ扱い方は自由。音で会話をするようにね」
 レートフェティは、ベル、太鼓、米粒入りの紙風船を手渡し丁寧に教えている。
「わあっ。こんなのも楽器なんだね、白いお姉さん」
「ええ。乱暴でなければ扱い方は自由。音で会話をするようにね」
 紙風船をぶんぶん振って中の米粒の音を出し喜んでいる子どもに優しく言うレートフェティ。身近な手作り楽器は、この後塾で流行ったという喜ばれっぷりだ。
「みんな、慣れた? それじゃ、いろんな感情を音にしてみて」
 難しいお題を出したが、さすが東堂の指導を受けているだけあって理解力はある。それぞれ工夫し始める。
「みんな、どんな風にならしてるかな?他の子の音をきいてどんな気持ちになったかな?」
 にこにこ聞いて回って、困っている子には自ら手本を示したり。
 愉快なときは跳ねるようなリズムで、悲しいときはそっとふるえるように‥‥。
 余談だが、レートフェティの具体的で丁寧な指導は親からも評価されたという。
 そして。
「あー暑かった!」
 ここで紫狼が復帰!
 といっても、格好はピンクのロン毛のかつらに「ドレス白雪」などでばっちり女装を決めている。初心者の着こなしではない。
「紫狼さん」
「紫江留って呼んで!」
 突然の女装に唖然とするクジュトにそれだけ言って駆け出す。
「あたしの歌を聴けー!」
「ちょうどいいですね」
「ええ」
 クジュトとレートフェティが頷きあって楽器を構える。キリエもエレメンタル・ピアノを手に戻ってきた。ティアとエメも、ニーナもキサラも。なぜか四股踏んで相撲甚句をしていた美空も。
 響く歌声。重なる演奏。
「さあ、皆も一緒に唄って踊ろう。上手い必要なんてない、楽しいわよ」
 ティアはステップを踏みながらヴァイオリンで合わせる。親たちも乗ってきた。
「な、なんだ? 今日はえらく塾が楽しそうじゃないか」
 その音はご町内に響き渡り、周辺住民をさらに呼ぶのだった。

「随分、私の活動が理解されたようです。とても感謝しますよ」
 後日、この思ってもない賑わいに東堂はクジュトにそう言って感謝したという。
 東堂の名もさらに庶民に知れ渡った。