【浪志】闇に煌く凶刃
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/10/12 23:00



■オープニング本文

 薄暗い飲み屋。
 その店の奥で、もふらの面が闇にぼうっ、と浮かんだ。
「この度はお疲れ様でした。貸本絵師の絵もあって、アヤカシの卵の話は好評でしたよ?」
 言ったもふら面の男の肩が揺れている。笑っているのであろう。
「それは何より」
 もふら面の男にそう言われ、興も乗らぬ、とばからにくいっと猪口を開けたのはエルフの舞妓、クジュト・ラブア(iz0230)。開拓者仲間と共に神楽の都を離れ、調査に赴いたがやはり面妖なことを面白がるだけのための依頼は面白くないらしい。もっとも、新たに開拓者仲間と知り合えたのが収穫なのでそれはそれで感謝しているのだが。
「へへへ‥‥。それでですね?」
 続けたもふら面の男に、ほら来た、と嫌な顔をするクジュト。
「いい話があるんですよ。‥‥うまくいけば、クジュトの旦那もミラーシ座も、神楽の都の業界で確固たる地位を築くことのできる話が」
「今までお世話になりましたね」
 席を立つクジュト。
 もふら面の男には感謝しているが、どうも好きになれない。
「待ってくれ、旦那。今度は真っ当な話だ。‥‥舞妓や芸人が困ってるんだ。これに手を貸せば、絶対旦那を悪く言う奴はいなくなるっ!」
 必死にとどめるもふら面の男。
「困っている?」
「ああ、そうだ。昨晩、仕事帰りの芸人・舞妓が四人殺されたんだ。‥‥おそらく、辻斬りアヤカシに遭ったんじゃないかって」
 ぎろりと振り返るクジュトに、必死に引き止めるもふら面の男がこくこくと頷いている。
 聞くとその被害者たち。
 旅篭街と芸人・舞妓たちの多く住む街区を結ぶ路上で斬られた。
 ただし、下手人の足跡はない。人外、つまりアヤカシの仕業ではないかと見られている理由である。
「役人はどう言っています?」
「ここのところ、町に多く入り込んだアヤカシが密かに活動してるんでそれに違いないと踏んだが、今朝になって別の場所でアヤカシが退治したっていう話で、これで一件落着と‥‥」
 へへへ、ともふら面の男が話す。
「検証は? アヤカシは町に多く入り込んでいるのでしょう? 別件の可能性も‥‥」
 ここでもふら面の男は掌を掲げてクジュトの言葉を遮った。
「クジュトさん、出番ですよ。あっしがすぐに開拓者を雇うんで、今晩にでも『退治する』と出掛けてください。仮にもういなくても、実は別件でクジュトさんたちが退治したことにします。本当に別件だった場合は、退治するか、改めて開拓者を雇うなりで本退治をすればいい。‥‥とにかく、いち早く動いてこの事件の主導権を握って、他の一座の舞妓や芸人のために危険を顧みず汗を流しているという姿を見せてください。それが信用に繋がります」
「‥‥分かった」
 やり方はともかく、クジュトとしては困っている人――権力や社会的影響力もない庶民に限るが――を方っては置けない。
「できれば、別件できっちり退治したいものですが」
「ふうっ‥‥。ともかく、被害者の足跡からきっちり逃がすことなく仕留めてある辺り、下手人は四人程度かそれ以上らしいです。確実に仕留めるため、あと六人、あっしの方で雇っておきますぜ」
 世渡り下手っぽいクジュトに溜息をつきながら、ふもら面の男は話をまとめるのであった。


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
露羽(ia5413
23歳・男・シ
新咲 香澄(ia6036
17歳・女・陰
ルエラ・ファールバルト(ia9645
20歳・女・志
リスティア・サヴィン(ib0242
22歳・女・吟


■リプレイ本文


 わお〜ん、と神楽の都の外れに犬の遠吠えが響く。
 夜空の月は丸くさやかで星の輝きは少ない。
 青い、薄闇。
 そんな町外れで提灯の明かりが一つ。
 民家の板塀を背後に、三つの人影が歩いていた。
「ぷっ、くくく‥‥」
 その一つが、笑いを堪えるように手を口元に添えていた。
「まー、リスの気持ちも分かるがナ」
 笑いを堪えていたのはリスティア・バルテス(ib0242)で、理解を示したのが梢・飛鈴(ia0034)だ。
「しっ。不自然だと思われるじゃないか」
 こっちは超感覚で音にも注意してるんだからね、と不満そうに言うの三人目は、天河 ふしぎ(ia1037)。
「不自然‥‥」
 呆れる飛鈴に、くくくとさらに笑うリスティア。
「こ、これは被害者の現状を見て、これが一番自然だと思っただけなんだぞ。別に好きでしてるわけじゃないんだからなっ」
 ふしぎは真剣さに欠ける仲間に業を煮やし振り返った。
 さすが男・ふしぎ。正すところは正すっ!
 が、ここで耐えられずぷぷぷとリスティアが笑う。
「‥‥そんなに似合ってないかな?」
 真っ赤になって我が身を見るふしぎ。何と、彼は髪を結い上げきっちり着物を着て舞妓に変装していた。これにリスティアが口を挟む。
「似合ってるから笑ってるのよ」
「まー、リスの言う通りダ」
「それならいいんだけど」
 ‥‥そこへ落ち着きますか、ふしぎさん。

「ああっ。どうせ話すならもうちょっと華やかな雰囲気に‥‥」
 囮三人を見ることのできる民家の間の路地で、クジュト・ラブア(iz0230)がやきもきしていた。
「あー、クジュトさんとは初めてだもんねぇ。ボクも、ふしぎさんも」
 クジュトの隣で笑いを堪えているのは、新咲 香澄(ia6036)。
「まあ、今は林側に不審な様子はないですし‥‥」
 二人の後ろで道を挟んだ向こうの森を暗視している露羽(ia5413)が、異常なしを伝える。
「クジュトさん、いざという時はあまり突出しないで下さいね。私と新咲さんで守りますので」
 ルエラ・ファールバルト(ia9645)もここに潜伏している。大きな盾を持っているので隠れる場所が限られるとも言うが。
「次の潜伏場所に移動しましょう」
 囮三人が潜伏場所に近付いたので、まずは露羽とルエラが移動した。
「刀好きらしいね? ボクの風也もなかなかのものなんだよぉ」
「ほう、これは‥‥」
 残った香澄は、クジュトに自分が好んで使う忍刀「風也」を見せていた。
「ほら、髪が斬れない。女性のだけねっ♪」
「曰く付きですか。短い刀身で軽やかに扱えそうですね」
 雑談に熱が帯びる。仕事上良い状態ではないがつまり、今はまだ本命の時間帯ではないと読んでいる。
 それに、真の目的は「犯人討伐に動いていることを見せる」こと。
 本当に今夜も辻斬り犯が出るかどうかも分からないのだ。 

 そして、二人の前を通り過ぎた囮三人組。
「被害者の夜仕事をちゃんと最後までしたほうが良かったかしら?」
 つぶやくリスティア。実際に、ある一座の仕事にミラーシ座の一員としてゲスト出演していたりも。もちろん、念のために仕事の終わる随分前から現場を警戒しているのだが。
「夜仕事‥‥」
「天は誤解すんナ」
 ご覧のように一見ぐだぐだだが、これにはちゃんとした背景がある。
 すでにきっちりと事前調査し、警戒すべき点ははっきりしているのだ。


 時は遡り、夕刻前。
 場所は、薄暗い飲み屋。
「‥‥あン? アタシの面に何か付いとるカ」
「いや、もふら面を被るのがここで流行っているのかな、と思ったので」
 初めてメンバーが集まった時、クジュトと飛鈴はそんな話を交わした。
 飛鈴がもふらさまの面を頭に被っていたからである。
「流行なんか知らんがナ」
「今度から、あっしの方が別のもふら面をかぶった方が良さそうですねぇ」
 何時も通りと言う飛鈴に、もふら面の男はそう言って肩を揺らす。
「ともかく時間はまだあります。何も残っていない可能性もありますけど、ひとまず調べてみましょうか?」
「現場百ぺん、捜査の基本は脚だ! って言うもんね」
 露羽が白く細い指を立てた。無論、これは皆の思うところでもある。声を上げたふしぎをはじめまずは現場に行ってみることとなる。

 場面は、殺害現場。
「さて、何か見つかるかな?」
 香澄が膝をついて地面をじっと見る。
「何も痕跡がなかったっていうけど、別の目が入ると分からないからね」
 熱心に目を走らせるが、すでに痕跡は判別できない。
「とはいえ、少なくとも人為的に痕跡を消された、という感じではありませんね」
「足跡が無い‥‥。刀のアヤカシやら刀に乗り移ったアヤカシぽいのもいるし‥‥」
 香澄と一緒に入念に確認する露羽。傍では飛鈴が今まで戦ったり見聞きしてきた記憶を手繰っている。
「もしもそれなら、刀傷に特徴があるかも。‥‥それじゃあたしは番屋に行って来るわね」
 ひらりと白いローブを翻すリスティア。
「ティア、待って。僕も行く」
 林側の木の上からしゅた、と下りたふしぎが付いて行く。彼の名誉のために記しておくが、遊んでいたわけではない。樹上潜伏の痕跡の有無を調べていたのだ。
「では、私は聞き込みをしてみましょう。集合は先の店でいいですね?」
 いつの間にか市女笠と外套で身を包んだルエラが細い顎を引いて会釈していた。特徴的な赤い髪の毛は市女笠に隠れ、開拓者らしい装備は外套で目立たない。
「ボクも行くよ。今回に限らず、この近辺で同じような事件があったかもだからね」
 顔を上げた香澄が衣服の埃を払いながら立ち上がる。
「私は、被害者の物が盗まれていないか確認しましょう」
「では、ともかく番屋ですね。ティアさんたちを追いましょう」
 露羽とクジュトも動いた。
 そして、一人残った飛鈴。
「まだ、アヤカシでも開拓者崩れでも普通の人間でもありそうで絞れんからナァ」
 ぶつくさぼやきながら、板塀の上を調べて回る。空飛ぶ刀のアヤカシでない場合、ここを越えたなら痕跡は残るはず。次に、林の痕跡を。小枝の折れとかあれば、当然潜伏や進行ルートの特定に繋がるのではあるが‥‥。
「ふム?」
 芳しくない。腕を組み頭を傾げ、これは本当に宙を浮く刀のアヤカシかと思いを巡らせる。

 さて、番屋に向かった四人。
 すでに遺体は実家に戻され、通夜の準備が進んでいるという。リスティアとふしぎはそちらに向かった。
「そうですか。物取りの線はない、と」
 露羽は、調査した者に聞いて思ったとおりだと頷く。
「四人でしたし、恨みつらみの先もないようですね」
 クジュトもううむ、と唸る。
 飛鈴の見解もあわせ、宙に浮く刀のアヤカシの線が濃くなった。
 そして、遺体確認組は。
「あまり気分のいい事ではないけれど‥‥」
 遺族に「必ず仇をとるから」と頭を下げたリスティアが、棺桶の前で犠牲者の冥福を祈ってから、蓋を開ける。
「‥‥右袈裟」
 聞いたとおりで、見事な一撃。
 通常の剣客が放つ太刀筋そのもので、傷口に変わったところはなかった。
 手分けしたふしぎからの話も、同じ様子だったという。

 聞き込みをしたルエラと香澄からは、有力な情報はなかった。民家側からは、その時も今までもおかしなことはなかったということになる。
 結果、犯人は宙に浮く刀のアヤカシである可能性が高く、林側から襲ったという見解に。刀傷の検分から人型のアヤカシである可能性も残しつつ、夜を待つこととなった。


 時は夜に戻る。
 場所は、再び夜の殺害現場。
 今度は四人が歩いていた。女性の人影である。
 しなり、と一人が腰をくねらせ会話を振ったようで、途端にくすくすという控えめな笑い声が響く。
「まったく、クジュトさんは真面目なんだから」
 そんな不満の声は、潜伏組の香澄。
 結局、クジュトは囮組に交じったようだ。
「そんな人ですよ」
 くすり、と露羽が声を忍ばせ笑った。クジュトとの付き合いは三度目。最後にはこうなると思っていた。
「でも、手筈は変わりませんよ?」
「もちろんだよ、ルエラさん」
 青い瞳で覗き込むルエラに、力強く言う香澄だった。
 改めて、三人が前を見る。
 すでに何度ここを囮組が通ったか。
 事件の翌日でもあり、ここを通るものは開拓者以外にはいない。
 いや、一人いた。
 被害のあった一座代表の男だった。
「無用心に過ぎます」
 この時はさすがに、気付いたクジュトが潜伏場所から出て注意した。
「苦楽を共にした仲間が亡くなったのだ。つらい道も共に歩んだ。それなのに、最期の道を歩んでいるのは今までやれ邪道だ余所者だと爪弾きにしていた者。‥‥何が仲間だ。お笑い種じゃないか」
 ふふん、と自嘲する男。
「さもありましょうが‥‥」
「ああ、分かっている。一度通るだけだ。‥‥それで満足だ。通夜に戻る。クジュト君だったな。すまないがそれまで、護衛を頼む」
「分かりました」
 結局、何事もなくその男は通夜に戻ったのだが。
 最後に、爪弾き者だったはずのクジュトに深々と頭を下げていた。

 ともかく、囮と潜伏の地味な作業は続く。
 すでに満月に近い月は、天頂を通り過ぎていた。
 不意に、群雲がすっぽりと月を隠した。
「ここまで暗くなるか‥‥」
 潜伏組の香澄が夜空を気にして見上げた時だった!
「来たっ!」
 超感覚で警戒していた露羽が鋭く小さく言った。
 露羽の指差す先、林の中。
 確かに素早く動く人影があった。
「速いですね」
 見開かれる青い瞳に揺れる赤いポニーテール。ルエラが腰を浮かせた。
「前の現場より手前の位置。ここからは遠いね」
「挟撃を狙いたかったですが、仕方ありません。出ましょう」
 香澄の言葉に、決断した露羽の言葉。
 もう、不審者たちは林から出て囮組の横っ腹に突っ込むだろう。それだけ音もなく速い。
 人の形をしているが、明らかに大地を蹴っている様子はない。
 謎の敵であるッ!


 すうっ、と林から抜けて大跳躍する敵の人影。その数、六。大上段に刀を構え囮組に襲い掛かる。
 それにしても何と距離の長い跳躍か。一気に間合いが詰まるッ!
「む、人型かイ」
 囮組で、敵の気配にいち早く気付いたのは飛鈴だった。
 飛鈴が何度も頭の中で繰り返した想定戦闘。
 人型か刀型の二種類を用意していた。
 今、その動きをする時!
――ざっ!
 自ら動いて一気に敵との距離を詰めた。隙がある内に先を取ったのだ。
「来たわね‥‥。行くわよ、皆!」
 リスティアの言葉を背中で聞きつつ、飛鈴は膝蹴り。
 綺麗に敵の懐に入る。
 そしてこの時、月の群雲が行った。
 ふしぎの提灯と月明かりではっきりする敵の正体。
「なんダ?」
 飛鈴、敵がただの人型をした雲のような存在だと見抜く。あっさり瘴気に戻るアヤカシに拍子抜けするが、次の瞬間。
――どざっ!
 飛鈴が体を捻りながら大地に落ちた。
「くっ。そういうことカ」
 斬戟を喰らったが、これで敵の正体が完全に割れた。
 敵アヤカシは、人型をした雲骸と刀に取り付いた「イタンキプンキ(器の番人)」の二体一組である。人型を倒した後、刀だけが飛鈴を襲ったのである。その後、大地を跳ねる刀。
「あたしの曲をきけーい!」
 ここで、バックステップをしたリスティアがヴァイオリンを奏でて援護。奴隷戦士の葛藤でとにかく奇襲してきた敵の守りを弱らせる。
 ここから、戦いは瞬間の攻防を見せるッ!
「これ以上の犠牲者を増やさないんだからなっ!」
 明かりを置いたため初動が遅れたふしぎも夜で時を止め前に出る。霊剣「御雷」が雲骸をばっさり横薙ぎ。半面、刀から反撃が。
 クジュトも、リスティアと同じく飛び退り時間稼ぎ。
 この隙に、横合いから火線が届く。
「間に合えっ! お得意の火輪っ」
 立ち止まった香澄は指を差し炎を操る小さな式を召還。貴重な遠距離援護を放つ。
「突然に命を奪われた人たちはさぞ無念だった事でしょうね‥‥。敵討ち、させてもらいますよ?」
 静かに刹手裏剣を投げるは、露羽。
 これで、跳躍から着地した右翼の敵は崩れた。残りは刀のみとなる。それらが、今度は香澄や露羽を襲うっ!
 そして、一気にその敵をすり抜ける者が。
「ここは私にっ! 飛鈴さんはクジュトさんやリスティアさんを」
 ルエラが、ざざざ、と横滑りしながらベイル「翼竜鱗」を掲げ最前線に割り込んだ。
「ま、怪我しない程度にフォローしてやろかい」
 飛鈴が首を巡らせると、クジュトは主に刀で受けつつリスティアの前で体を張っていた。
「刀だったら叩き折れ!」
 飛鈴が叫んだのは、敵の注意を引くため。ひらりと凶刃が軌跡を変え襲ってきたのを裏一重で引きつけ‥‥。
「これでオシマイだ」
 たんっ、と片手を大地に着くと型も無理な体勢もへったくれもなく強引に伸身。鋭い蹴りを突き上げる。
 絶破昇竜脚の一撃は早い敵の動きを捉え、刀身を叩き折った。
――ヒュッ!
 刹那、戦場に口笛が響いた。


「敵は逃げかけてるわね。あたしの目はごまかせないんだからねっ!」
 口笛はリスティアだった。武勇の曲の曲に変えて戦場の流れが変わったことを知らせる。
 確かに、敵は蜘蛛の子を散らすように四散し始めている。これが人なら、闇討ちの勘所をわきまえているといえるのだが。
「こっちに逃げる? 陰陽師だからって近接できないとは‥‥」
 火輪で雲骸を屠った香澄は、好都合と二刀をちゃきりと抜き左・右と振れるよう半身で構える。
「限らないよ、っと!」
 瘴刃烈破で崩し、止めの一撃。瘴気に戻る刀アヤカシ。もちろん攻撃を食っているが、逃がさないための判断が光る。
「逃がしはしません!」
 露羽は、蹴りを交え相手のペースを崩し軽快に戦っていた。妙に守りに長けた硬い敵。削りに削って最後は刀「血雨」できっちり敵を屠る。
「こっち、逃げられるわよっ!」
 さらにリスティアが声を張る。
「絶対逃がさないんだからなっ!」
 反応したのは、ふしぎ。正面から奔刃術で一気に左翼へ。逃げる敵の背後につけて、一気に跳躍。
「くらえ必殺クロスエンド!」
 舞妓姿のまま落下しつつ体重を乗せ、御雷と血刀を交差させる様にぶった斬る。
「攻守交替、といった形ですね」
 正面を守っていたルエラもついに降魔刀を振るい完全な攻勢に出ていた。守りつつ手数を振るっていたので、逃げる敵に白梅香一発で決めていた。
「終わったかしら?」
「ええ。周りに敵はいません」
 きょろ、と周りを見渡すリスティアに、心眼「集」で広範囲索敵したルエラが笑みを湛えるのであった。
 この後、念のためにと見張りを続けたがもうアヤカシは現れなかったという。


 後日。
「クジュトさん」
 薄暗い飲み屋で、名前を呼ばれた。
「さる一座からお礼手紙と金一封をいただきました。‥‥界隈でも有力な一座です。今後、ミラーシ座に向けられる冷たい目も緩和されることでしょう」
 ぷ、とクジュトは笑う。
「どうしました、旦那?」
「いや、前より似合ってますよ」
 どうやらもふら面の男。
 かぶる面を焦げ茶色のもふら面に代えたようだった。