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■オープニング本文 「あ、そうだコクリちゃん」 飛空船チョコレート・ハウスのオーナー、対馬涼子が「そういえば」といった感じで声を上げた。 つい先ほど、空陸連動作戦でアヤカシの拠点「岩人形の河原」を攻略したご褒美と今年のろりぃ隊の活躍のご褒美を兼ねて、まだまだ泳げる常夏の島・尖月島でのバカンスを決定したばかりだ。涼子は愛おしそうにコクリ・コクル(iz0150)の右手を両手で包んでいる。 「副艦長の八幡島は、コクリちゃんに少しでも長い時間、チョコレート・ハウスに乗って欲しいって言ってたわ。彼にもご褒美が必要だから、海の次は空でバカンスをしましょうね?」 「空でバカンス?」 コクリ、聞き返した。 確かに、空は空で気持ちが良いのは知っているが。 「難しく考えることはないわ。いつもコクリちゃんたちがチョコレート・ハウスに乗るときってお仕事ばかりだから、気分的にはゆったりできないでしょう? 今度は仕事抜きでチョコレート・ハウスに乗るの。コクリちゃんや、みんなの別荘のような感覚で」 「わあっ!」 コクリ、目を輝かせた。 「私もご一緒して、そうね、私はコクリちゃんと相部屋。開拓者も2人で相部屋で寝泊りして、大部屋の食堂で食事して‥‥。客船じゃないから楽しむところは特にないけど、滑空艇もあるからそれで空の散歩に出かけてもいいし。‥‥そうだ、蝶の群れが空高く飛ぶ秘密の場所があるのよ」 「えっ!」 この情報に、コクリはびっくりした。 「ヒミツの場所で、運がよければ、だけど」 「なんでそんなこと知ってるの?」 「空をゆっくり飛んでたら、たまにそういう発見があるらしいの。渡りの蝶らしいわ。‥‥あまり人に知られてないのは、大きな森の上なんかを飛んでるし、やっぱり蝶だから遠くからだとよく見えないかららしいの。そのヒミツの場所だって、それと知ってる人でも運が良くなければ見ることができないんですって」 私も一度見てみたかったのよ、とウインクする涼子。 「へええっ。見れなくてもいいから、行ってみたいなぁ。みんなと一緒に、依頼とは関係なしに気楽に空の旅って、楽しそう」 わくわくと目を輝かせるコクリ。 「じゃ、決まりね。尖月島で遊ぶ人とは別に、10人まで集まってもらって大丈夫よ。空いた2人部屋は六つで、私とコクリちゃんが一つ使うからそれ以上は無理だけど」 「すごいなぁ。‥‥涼子さん、大好きっ」 「あらあら」 思わず涼子に抱きつくコクリだった。 というわけで、チョコレート・ハウスに乗り組んで泊りがけのバカンスフライトに同行してもらえる開拓者、求ム。 夕食は甲板でバーベキューとなりそう。チョコレートもある程度食べることができます。お楽しみとして大凶入りチョコも用意してます(一つだけたっぷり山葵入り)。ほかに空の散歩ができます。飛行系の朋友を持ってない人には、艦備え付けの滑空艇が貸し出されます。 運がよければ、蝶の渡りも見ることができます。滑空艇であれば、最接近もできそうです(生物系の朋友は蝶が怖がりそう)。 |
■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
のばら(ia1380)
13歳・女・サ
瀧鷲 漸(ia8176)
25歳・女・サ
ベアトリーチェ(ia8478)
12歳・女・陰
アーシャ・エルダー(ib0054)
20歳・女・騎
アクエリア・ルティス(ib0331)
17歳・女・騎
シャルロット・S・S(ib2621)
16歳・女・騎
ローゼリア(ib5674)
15歳・女・砲
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
キサラ・ルイシコフ(ib6693)
13歳・女・吟 |
■リプレイ本文 ● チョコレート・ハウスは空の上。 「ん、んー」 甲板で両手を上げ思いっきり伸びをするのは、瀧鷲 漸(ia8176)。「ふうっ」と両腕を下ろすと質感豊かな胸もたわわに揺れて落ち着く。彼女の心ももちろん。 「う‥‥」 これに、身長差でぶつかりそうになったコクリ・コクル(iz0150)は真っ赤になる。漸は軽く笑ってぽんと頭を撫で歩み去った。 「艦長?」 見送っていたコクリが振り向くと、フランヴェル・ギーベリ(ib5897)がいた。 「先の依頼、ボクの単独行動が君の瞳に涙を浮かべさせてしまったと聞いた。‥‥短慮なボクを許してくれ」 「あ、いや。ボクも慌てちゃって‥‥」 全てを言わさず、す、と持参した薔薇の花束を捧げるフラン。お詫びのようだ。 「ところで、コクリと呼んでもいいかな?」 とりあえずコクリに受け取ってもらい、改めて顔を寄せる。 「う、うん。ボクもフランさんって呼んでるし」 この様子に、ふふっと微笑するフランだった。 ここで、人影がすっと近付いてきた。 「やっぱり空は気晴らしするには丁度いいわね」 花束から一輪の薔薇を抜き出す。はっ、とコクリがその人物の顔を見た。 「そう思わないかしら、コクリ」 目蓋を閉じて香りを楽しんでいたのは、ベアトリーチェ(ia8478)だった。「それじゃ」とその場を後にする。 「コクリちゃん! お招きありがとうございますの〜♪」 今度はシャルロット・S・S(ib2621)がやって来て、手を取って飛び跳ねながら一緒になれたことを喜ぶ。上下に揺すられさあっ、と薔薇の花びらが流れた先に、二人の人物が歩み寄ってきていた。 「はじめまして。アクアって呼んでね?」 そこには、アクエリア・ルティス(ib0331)が首を傾げていた。ピンクの踊り子風衣装が可愛らしい。 「それにしても、素敵な見晴らし。‥‥で、どこを食べていいの?」 「アクアさん、この船はお菓子じゃないですの〜!」 ボケるアクアに、突っ込むシャル。「あ、そうだ」と、改めてアクアを紹介するシャルだった。 「騎士さんなの?」 「アクアは昔からそうですわね。‥‥同じ騎士学校の同窓生で、幼馴染ですわ」 コクリの疑問に答えたのはアクアの隣に立つ猫の獣人、ローゼリア(ib5674)。 「二人とも奔放で在学中は手を焼いたものですが‥‥」 まさかこんな所でも、と猫耳をへにゃり。 「べ、別に軽装なのは可愛いからであって、騎士が可愛くしちゃいけないってわけでもないでしょう」 「に、賑やかだなぁ」 「いつもこうなんですの」 真っ赤になって反論するアクア、二人の様子に気圧されるコクリ、そして涼しげなシャル。 「ともかく、シャルは余りはしゃぎません様に。また会えましたわね、コクリ。お招きありがとうございますの」 はっと気付いて、佇まいを改めるローザ。どたばたトリオだと勘違いされるわけにはいかない。もちろん三人とも育ちはいいらしいのだが。 「よお、コクリの嬢ちゃん」 ここで、八幡島副艦長がやって来た。対馬涼子も一緒だ。 「折角、対馬のお嬢さんがいるんだ。この機会にチョコレート・ハウスの全力出撃を見せて差し上げてェンだがな」 にやりと親指を指を差す。その先では、漸などが空に飛び立つ準備をしていた。 「分かった。‥‥ショコラ隊、全員出撃! 朋友、回せっ!」 凜と叫んで駆け出すコクリだった。 ● 忙しくなるチョコレート・ハウスの甲板。 「行くわよ、ダンテ」 きり、と前を向いたのはベアトリーチェ。彼女の朋友、駿龍・ダンテがグァ、と鳴き翼を広げる。りちぇの銀髪やスカートの裾がはためき、空へ。 「セルム!」 アーシャ・エルダー(ib0054)は相棒の鷲獅鳥の名を呼び走り寄る。アーシャが乗ると、雄々しく後ろ足立ちし、ばさりと飛び立った。 「確かに、先に慣れておくべきだな。‥‥借りるぞ」 風雅 哲心(ia0135)は、艦備え付けの滑空艇を借りた。 そして、コクリも滑空艇カンナ・ニソルで離陸した。 全身で受ける大空の風。 「いつ飛んでも気持ちいい‥‥」 んー、と幸せを全身で感じる。 その横へ、すっと寄り添う影。 「コクリちゃん達とお出掛け嬉しいの〜♪」 キサラ・ルイシコフ(ib6693)が艦載滑空艇を借りて飛んでいる。相棒の迅鷹、リリーも並んですいー、ばさばさと楽しそう。 その向こうには大きな姿。 「たまにはのんびりするのもいいものだ。そうだろゲヘナ」 漸とそり相棒、鷲獅鳥のゲヘナグリュプスが大きく翼を広げてぴたりとつけていた。 「コクリさ〜ん」 反対から、声。 振り向くと、のばら(ia1380)が横についていた。 「お久しぶりの千代蓮さん。兼石さんも一緒で、とても嬉しいんですよっ」 チョコレート・ハウスを彼女独特の表現で口にすると、騎乗する炎龍、義流 兼石の首筋を撫でる。 「‥‥ほう。これがチョコレート・ハウスか。この前は下から眺めることしかできなかったからな」 哲心も並びにやって来た。のばらの一言で船を見下ろし、改めて感心する。 長方形の箱型の船体。 輸送を目的とした中型飛空船として珍しい形状ではないが、先の戦闘ではこの船を囮にし、この船のために戦った。自分たちの守ったものとして感慨深いものがある。 「この前の敵はしつこかったですからね〜」 アーシャもやって来てしみじみ。 「アーシャ先輩、待ってですの〜」 続いてシャル。甲龍、サンダーフェロウに乗ってアーシャについて来た。 「なによ、シャルったら呼んでおいてアーシャとばっかり」 さらに炎龍に乗って続くアクアがぷく〜、と膨れる。シャルがアーシャと同室になってしまい機嫌を損ねているのだが、先の軽装がどうのこうので分かるとおりそういう性格らしい。 「いいもん! ローザと遊ぶもん!」 「今回はゆっくりできそう‥‥だと思ったのですけどね」 つん、としてから減速し寄ってくるアクアに、駿龍ガイエルで続いていたローザはやれやれと吐息。 「ふふっ。素敵なバカンスになりそうだね」 滑空艇、ポーラースターのフランも並び、さらにベアトリーチェが並んで編隊の完成した。 チョコレート・ハウスの甲板で見上げていた涼子は「壮観だわね」と大歓喜。年甲斐もな‥‥こほん。若い娘のようにきゃっきゃと手を叩いて喜んでいたという。 そして、上空。 「もういいわよね。自由な飛行も見てもらいましょう?」 ベアトリーチェがつんするように、すっと隊列から抜けた。 「よし、そうだね」 コクリは自由飛行の指示を出し、散った。 この様子にも涼子は目を輝かした。次に何が起きるか、とどきどきしながらずうっと、ずうっと、コクリたちの気紛れな飛行を見上げているのだった。 ● 「じゃ、コクリさんを鬼にしてかくれんぼしましょう」 模範出撃飛行が終わり甲板に集合すると、アーシャがそんなことを言ったりも。 「ちょっと、なんでボクにいきなり決定?」 「アーシャあなたねえ‥‥子供じゃないんだから」 ががん、と異議を唱えるコクリ。アクアは呆れている。 が。 「楽しそうですの! シャルは賛成ですの、先輩♪」 「100数えてくださいよ〜」 シャルが爪先立ちをして熱烈同意すると、アーシャがきっぱり言い切る。 「また随分と子供っぽい事を‥‥」 「ふふっ」 「みんなでいっぱい遊ぶの〜」 ローザもやれやれな感じだったが、フランとキサラが賛成。わーっ、と散り始めた。 「くっ、待ちなさいよ負けないんですからねっ」 「‥‥仕方ないですわね」 いつの間にかヤル気になっていたアクアを追うローザだったり。 「‥‥」 そして、コクリの無言の視線。 哲心と漸がまだ残ってたのだ。 「優しいな。だが俺はいい」 苦笑する哲心。しゅん、とするコクリ。 「分かった。面白そうなので混ぜてもらう」 この様子にくすくす笑い、漸は参加。ぽふりとコクリの頭に手をやり隠れ始める。コクリ、笑顔。哲心はこの様子にふふ、と笑う。 そして。 「ここがいいですっ。んーしょ、んーしょ‥‥」 場所は食堂。樽の並ぶ隙間に誰かが隠れたのだが‥‥。 「キサラさん、見〜つけた」 どうやら頭隠して羽隠さず。鳥の獣人の証である小さな背中の羽がちょこんと出てたようで。 そして次の瞬間。 「あの、漸さん?」 「見つかったか」 何と、漸は料理係に化けてしれっと厨房にいたのだっ! 「体が大きいからこうしたが‥‥やはりエプロンは胸が苦しいな」 エプロンを外す漸に、あははと苦笑いするコクリ。 今度は、艦長室。 「ぶっ。‥‥あの、誰です?」 そっとベッドの掛け布団を取るコクリ。 「きゃっ!」 「ふふ、一緒に寝心地を確かめるかい?」 中で転がっていたのはフランだった。コクリの悲鳴は、フランが布団を引いたため覆い被さるように倒れかけたため。かろうじて手を付きとめたが、その下でフランが冗談混じりにお誘いのセリフ。 一方、闘志を燃やし隠れるものも。 「かくれんぼとは‥‥心理戦っ! いかに敵の思考を読み取るか‥‥っ!」 のっしと闊歩して隠れ場所を探すのは、アクア。見送る乗組員は目を細くしたらりと汗を流している彼女の様子を見送っては、ざわ‥‥ざわ‥‥している。彼女は、戦略とか先読みとか嵌めるとかぶつぶつぶつぶつ。 そして、はっと立ち止まる。 チョコの倉庫があった。 「ここだっ!」 ばばん、と入ると、何とアーシャがいた。 「ちょ‥‥。ツマミ食いなんてしませんからね」 間の悪いことにアーシャ。チョコの香りだけでも堪能しようと木箱を開けようとしていたのだった。 「そんなことより、ここには先にチョコレートを食べたそうな様子を見せていた私こそが裏をついて隠れるのに最適な‥‥」 「‥‥アクアさんとアーシャさん、見っけ」 ドタバタしているうちに、コクリが来ていたようで。 その後、鬼は代わる。 「こんな事に本気になるなんて大人気ないことは出来ないわ。どうせ、目立つ個性的なのが多いし‥‥」 つん、と小さな顎を逸らしつつ捜しているのは、ベアトリーチェ。 が、なかなか見つからない。 甲板で傍観していた哲心も心配そうに見ていたが‥‥。 「ちまちまと探すのなんて面倒だわっ。こうなったら人魂を使うわよ!」 「ちょっとりちぇさん、そりゃないよ」 鬼のように闘志を燃やす様子に、思わず顔を出したコクリ。 「見っけ。そのつぶやきで動揺するコクリが悪いのよ」 大人気ないなぁ、とか思う哲心。 さらに。 「見つけるわよッ、ローザッ! もう逃げられないッ! かくれんぼからもッ! このわたしからもッ!」 ドッ・ギャ〜ン、と走りつつ探すアクア。 「ちょっと、狙い撃ちですの?」 「今ので出てくるあなたが悪いのよっ! わたしの勝利よォォーーーッ!!」 あまりの恐ろしさに顔を出したローザに勝ち誇る。 もちろん哲心はぞっとしていたり。 ついでに。 「シャル、かけっこは得意なんですのよ? 見つけたら覚悟なさって下さいね♪」 ようやく可愛らしいかくれんぼになってほっとする哲心。が、今度はシャルがこけないかハラハラドキドキ。 そうこうするうち‥‥。 「よし、進路を南南西に取れ」 八幡島の声が響いた。 「あれ?」 その時、倉庫の荷物の中からひょっこり顔を出したのは、のばら。 「わあっ‥‥」 船体の傾きを感じ、窓から外を見た。いつの間にか海が近くなっていた。思わず見とれる。 「のばらさん、見っけですの」 のばらは背後できゃいきゃい喜ぶシャルを手招きして、一緒に風景を見るのだった。 ● 「よし、見えた。お嬢ちゃんたち、今日は運がいいぜ!」 望遠鏡を覗いていた八幡島が大声で喜んでいた。 時は、夕刻少し前。 チョコレート・ハウスの下には広大な森が広がり、遠くには海も見える。 「風のある時に高く飛んで滑空するようで、本当に見れるのは希なんだぜ」 とはいえ、甲板に集まって来たコクリたちには良く見えない。 「ともかく寄せろっ! コクリの嬢ちゃんたちは緊急発進だ。いつまた森に潜るかわからねぇ。南南西を目指して飛びな」 「よしっ。ショコラ隊、全員出撃!」 コクリの号令で再び慌しくなる甲板。 「兼石さん、空のお散歩ですよ。‥‥涼子さんはどうしましょう?」 「私はこれで。のばらさん、いつもありがとね」 振り向いたのばらに、八幡島から渡された望遠鏡を持った涼子がにっこり。 「夕日がきれいな頃には戻れそうだな」 漸がゲヘナと飛び立つ。 「先に行って見つけておくよっ」 コクリはカンナ・ニソルを急起動。一気に空高く舞う。 「あっ、コクリちゃん。待ってくださいですの〜」 どんな時にも全力投球、シャルがサンダーフェロウを駆り全力で追う。 「シャル、いつものドジが出ないよう気をつけてくださいませ」 慌ててローザもガイエルで飛ぶ。 再び全員が空に上がり、一点を目指す。 「あっはは☆」 楽しいのだろう、コクリが旋回した。 「‥‥空は、好きです」 これを見て、のばらがつぶやいた。 ――風が心地よくて、右に左に、上に下に、自由に動けて‥‥地上の色々のことも、考えないで済みますし。 つぶやきは風に消える。 「お家を出る時、ついてきてくれたの、とっても嬉しかったんですよ、兼石さん」 のばらの乗る朋友・兼石をなでてやる。そして、「ありがとう」とも。 ――逃げるしかできない、こんな弱虫と一緒にいてくれて‥‥。 無論、つぶやきは風に消える。 「いたっ!」 先行するコクリが叫び指差す。 「すごいの〜」 キサラも目を輝かせた。 その視線の先には、何匹も何匹も、例えて夜空を流れる天の川のように長く連なって飛ぶ蝶の群れがあった。どうやら羽の色は黒いふちに青い色のようだ。遠くからだと蝶か何か分からない。人々の知るところにならない理由がうかがい知れた。 「素晴らしい‥‥」 珍しく目を見開いているのは、フラン。近付くにつれ、それが蝶の群れだとよく分かる。1匹一匹のはためきが、命の鼓動としてしっかり伝わってくるようだった。 「できるだけ近寄ってみよう」 くいっ、とポーラースターを操る。 「あっ」 ここで、キサラも付いていき「小鳥の囀り」で歌った。気持ち、蝶たちが寄ってきたような感じもする。少なくとも逃げてはいない。迅鷹のリリーが一緒に飛んでいても。 それにしても、何と言う数だろう。 或いは、蝶の雲海といったところか。風に乗り青い羽が小さくそこかしこで動くさまは、斜陽を受けめまいのするような、神聖なきらめきを見せた。 「こういうのを見るのも悪くないわね。何だかちょっと心が落ち着いて‥‥」 珍しく、ベアトリーチェも素直に目を見開いて息を飲んでいた。消えた言葉は「癒される気がする。‥‥こういう風に感じるのって何だか珍しい気がするわね」。ふっと微笑し我に返ると、蝶を邪魔しないようにさまざまな角度から自然の奇跡を堪能する。 「こういう機会もそうそうないし、行ってくるか?」 に、と笑っているのは哲心。管狐の翠嵐牙を召還している。 「ふむ‥‥悪くないな。では変化して行ってくるとしようか」 いつもはぶっきらぼうな翠嵐牙もこの時はそわそわ。早速人魂を使うと緑のしなやかな体は小鳥となり、蝶のほうへと飛び立った。 その後ろには、アーシャ。 「この前戦った虫とは大違いですね〜」 先の合戦ではこのくらい多くの軍隊蟻と戦ったが、やはりアヤカシと普通の蝶は違う。この一言に皆がしみじみと頷いた。まるで、頑張った彼らへの自然からのご褒美のようなひとときだった。 「わあ‥‥綺麗!」 アクアもすっかり素直に感心している。言葉は風に消えたが、唇は「最高の景色をありがとう」と動いていた。 「コクリ、これからはわたしもよろしくね」 代わりにコクリに寄ってウインクしたり。 「夕日も綺麗だな」 漸がつぶやく。 ここで風が変わったか夜を察したか、蝶たちは森の中に沈んでいくのだった。 「あ、待って‥‥。まあ、ここまでは描けたのです」 のばらはこの光景を伝えようと必死に筆記用具を持ちスケッチしていたようだ。途中までだが、ちゃんと素晴らしい景色を目に焼き付けていたので後から描ける。 「涼子さんの、お土産代わりに‥‥」 描いた絵を胸に抱き、夕日に感謝するのばらだった。 ● 「ホント、すごかったんだから!」 晩は、甲板でバーベキュー。 コクリたちは土産話でクルーと触れ合っている。話題は盛り上がり笑い声も響く。もちろん、肉の焼けるじゅうじゅうという音も。 「畜生、俺たちも自分で飛びながら蝶と戯れたいねぇ」 クルーたちは目を輝かせて話すコクリたちが可愛くてならない。実際、森が近く飛空船だとあまり近寄れないのだ。 「騎士は肉を食べないと力が出ないのですっ」 「シャルも頑張りますの〜っ」 「あなたたち、野菜も食べなさい」 アーシャが肉をがっつき、シャルも見習う。優雅に野菜を多めに食べていたりちぇさんは、二人の皿に野菜をぽいぽいっと。 「ばーべきゅー‥‥。はっ。折角ですし、日ごろの感謝を」 のばらは、エプロンドレスで皆に給仕。 「のばらさん、よだれ」 「はうっ!」 こっそりコクリにいわれ、じゅるりと口元を拭ったり。 「のばらさん、とっても嬉しいわ」 涼子は、のばらの描いた絵ににこにこ♪。 「あんたの狐って、蝶を食べたりゃしなかったのかい?」 哲心はクルーから管狐について突っ込まれている。 「我は我が主の錬力を糧としている故、その手の食事は必要ないのだよ」 「ま、そう言う事だよ」 ふふん、と鼻高々な翠嵐牙に哲心がきゅっと酒をやりつつ朋友を誇る。この後、かなりクルーと話して飲まされたようだが平気だったとか。 「珈琲はどう?」 「頂く」 フランは珈琲を淹れて優雅に給仕していた。漸がのんびりと香りを楽しむ。 「チョコとはこういうものか‥‥」 「こうして飲むのと、珈琲がチョコ味に」 チョコも味わう漸に、フランが珈琲にチョコを溶かして飲んで見せたり。 「じゃ、一つ選んで。運が悪ければ山葵入りだから」 コクリもエプロンドレス姿でチョコの給仕。 「がら゛い゛の゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛〜」 悲鳴を上げたのは、キサラ。あむあむ食べたかと思うと悲鳴を上げ‥‥。 何故に吐き出さず珈琲で飲み込むのかッ! 「だって、お世話になった傭兵団で『一度食べたものは食べきれ、食い物を無駄にするな』って‥‥」 ああ、どこぞの傭兵団の悲しき謎の掟ッ! 「ひぁぁぁぁ〜〜、私もっ? 口がおかしくなりますっ、口直し〜〜!!」 「あはは。一つだけとは言ってないよね、アーシャさん☆」 にこっと残りのチョコを一つまみするコクリ。アーシャはわたわたしつつ‥‥。 ‥‥肉をぱくぱく食べてたり。 「野菜も食べなさいって言ったはずよ?」 りちぇさん、ぎろり。 「バーベキューと聞いて焼きチョコを連想しましたが‥‥」 「あら、アクア。焼いて食べますの?」 アクアとローザはそんなことを言いつつ、仲良くチョコと珈琲を味わっている。きゃいきゃいと華やかだ。 「がはは‥‥。やっぱりチョコレート・ハウスはこう華やかでなくちゃな」 八幡島は酒を飲みつつ上機嫌だった。 ● 深夜。 こっそり、コクリは見回りをしてみた。 「ねーねー、シャルさんせっかく可愛いんだから、彼氏とかどうですか?」 アーシャとシャルはまだ眠ってないようだった。 「‥‥アクアさんとローザさんは、寝たたいかな?」 扉に聞き耳を立て、ほっとするコクリ。のばらとりちぇさんの部屋もそんな感じ。 「フランさん〜。風邪引くよ〜」 「仕方ないね、コクリに従おう」 甲板で寝ようとしたフランを連れて戻ったりも。 「よお。‥‥自分から女の部屋に行くのもあれだしな」 食堂に行くと、哲心がいた。 「しょうがねぇ。飲みなおしと行くか? コクリの嬢ちゃんはお茶だがな」 八幡島もやって来て、夜更かしするのだった。 空の夜は、もう少しだけ続く。 |