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■オープニング本文 「いやあ、前然。前の猫族の集落じゃ、海の近くだったけど泳げなくて残念だなぁ?」 「仕方ないだろ? 浜にはアヤカシの詰まった難破船が漂着しててそれどころじゃなかったし」 ニヤニヤ笑いながら言う兵馬(ヒョウマ)に、口を尖らせて前然(ゼンゼン)が返した。 「でも良かったな。次の町は山中の水どころだ。川でたっぷり泳げるぜ?」 兵馬がしつこいのは、前然が泳ぎに自信がないから。 というか泳げなかったのだが、昨夏に開拓者にしごかれて――もとい、鍛えられて何とか泳げるようになったのであるが苦手は苦手のままだったり。 「まあ、川で泳がなくても支流では釣りも楽しめるっていう話だし」 「あれ? 皆美は陳新と泳がなくていいの?」 そっと前然に助け舟を出した皆美(みなみ)だったが、すぐさま烈花(レッカ)にからかわれたり。この展開に陳新(チンシン)が一瞬在恋(ザイレン)の方を向いてから視線を空に逃がした。陳新の視線に気付いた在恋も、真っ赤になってもじもじしたり。この様子に、紫星(シセイ)が、はあっとため息。一人闘国(トウゴク)のみが我関せずで黒猫の集星(シュウセイ)を抱いてじゃれるに任せている。 そう。 香鈴雑技団の子供たち8人は、次の町を目指している。 その道中、息抜きの夏休みとして遠回りし、川辺の町に立ち寄ることにしたのだ。 「ともかく、泳ぐにせよ泳がないにせよ、去年は海に行ったんだから、今年は山だ」 雑技団のリーダー、前然が毅然として言う。 「まあ、そこには誰も異存は無いでしょうな」 にこにこと雑技団の後見人、初老の泰拳士の記利里(キリリ)が口を出した。‥‥昨年激しく多数意見に逆らって山を主張したのは前然に他ならなかったのだが。 「それと、開拓者を呼ぶのは当然として、今年はちょっと鍛えてもらおうと思うんだが」 「鍛えるって、クラスに準じたスキルの修行ね」 前然の言葉に、紫星が身を乗り出した。 「いいのですか?」 記利里が改めて聞いたのは、雑技団に志体持ちは4人しかいないから。これが原因で雑技団分裂の危機があったから。それにもかかわらず記利里の言葉に好意的な響きがあるのは、彼が子供たちを戦闘要員もしくは有能な人材として育て最終的に雑技団の出資者である氏族に迎え入れる使命を帯びているから。 「‥‥立派な、開拓者の兄さんや姉さんのようにならなくちゃいけないんでしょ? だから、もういいんですよ」 代表して口を開いたのは、陳新だった。 「志体のない僕たちも一緒に受け入れてもらえるんですよね? だったら、とにかく立派な大人にならなくちゃ」 「前然や烈花だけ必要で俺たちが必要ない、じゃ俺のプライドが許さないからな」 健気に続ける陳新に、へへっと不敵に言い放つ兵馬。 「開拓者の皆さんを今までことあるごとに呼んできましたが、いま本当にそれは間違いではなかったと実感しましたよ」 立派な開拓者の姿を見続けて、精神的に育った雑技の子供たち。この様子に記利里は目頭を押さえるのだった。 「ともかく、川で泳いだり釣りをしたりして遊んで、昼ご飯を食べてからスキルの特訓をしたり得意な演目を訓練したりする、でいいな」 「おお!」 前然の言葉に、皆が声を合わせるのだった。 そんなこんなで、香鈴雑技団の子供たちと川遊びをして各種指導をしてもらえる開拓者、求ム。 |
■参加者一覧
アルティア・L・ナイン(ia1273)
28歳・男・ジ
九法 慧介(ia2194)
20歳・男・シ
からす(ia6525)
13歳・女・弓
エメラルド・シルフィユ(ia8476)
21歳・女・志
煌夜(ia9065)
24歳・女・志
宿奈 芳純(ia9695)
25歳・男・陰
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
真名(ib1222)
17歳・女・陰 |
■リプレイ本文 ● ぴた、と伸ばされた苦無「獄導」の先は鋭い。 (ん?) 宿奈 芳純(ia9695)がこの様子に眉を顰めた。 彼が前然に「訓練をするなら」と記念にクナイを贈ったのだが、前然の雰囲気が変わったのだ。 クナイの先より鋭い、前然の瞳。 「ありがとう、陰陽さん。大切にする」 しかし、それは一瞬。にっこり前然が微笑んだ。もう、先の鋭さはない。 「それなら良かったです」 紫星に朱春弓を贈りつつ、芳純が言う。 「後からの訓練が楽しみだな」 芳純は前然の様子に不安を覚えつつも、事前に用意してもらっていた大きな樽などの確認作業に勤しむのだった。 その傍らで。 「手品兄ィ〜」 「おぉ、香鈴の可愛い弟妹達! 凄い久しぶりー」 抱きつく兵馬の肩や皆美をなでてやりながら九法 慧介(ia2194)がにこにこしていた。 「えっ。手品兄ィ、彼女ができたんだ〜」 「まあ、自分のことはいいよ」 慧介は皆美の頭をぽふり。 「在恋、皆、お久しぶりね」 慧介と皆美を見ていた在恋は真名(ib1222)に気付いた。 「あ、前に一緒に舞台に立ってくれた」 「五行陰陽朱雀寮の真名よ。来れなかった姉さんに、在恋によろしくって‥‥」 在恋は、一緒に舞台に立った仲間との再会ににっこりする。 その時。 「川周辺か。鍛練にはとても良い」 す、とからす(ia6525)が在恋の背後に現れて言う。びくっ、と飛び上がる在恋。 「今回は山で訓練か。‥‥山はいい。水着にならずとも済む」 さらに在恋、びくっ。今度は横からエメラルド・シルフィユ(ia8476)が現れた。 「水着姉ェは、普段の格好も水着姿みたいじゃないか」 「おお、前然は泳ぎ上達したかな? というか、待て。これは代々伝わる神聖な衣装で‥‥」 横から突っ込んできた前然に、真っ赤になるエメラルド。してやったりの前然だったが、今度は彼の背後から煌夜(ia9065)が現れびくっ、とする。 「川、良いわね。去年泳ぎを教えるっていっておきながら海についていけなかったものね?」 「ちょい、ステラ姉ェ。それはもういいから」 「訓練だな。俺も手を貸す。‥‥とはいえ、気を張る必要はないぞ」 今度は違う方向から琥龍 蒼羅(ib0214)ふっと現れ、さらりと言う。さらに慌てる前然。 「どっちの訓練だよ、蒼兄ィ」 ああ、カオス。 その一方で。 「賑やかだね」 「アル兄ィは騒がないんですか?」 ふっ、と笑ったアルティア・L・ナイン(ia1273)に、陳新が聞いた。 「前の依頼では、気を使わせてしまったね」 「そんなことないですし、また会えて嬉しいですよ」 「何やってんだ、陳新。まずは泳ぐゼっ!」 二人の前を、赤いビキニの烈花が駆け抜けていくのだった。 ● 「お茶姉さんは釣りですか」 声を掛けられからすが顔を上げると闘国がいた。 「いいものだよ?」 にこりとして浮きを見る。が、改めて顔を上げた。 「そうだ。そこに持参した野菜や肉があるから、使うと良い。魚だけでは偏るからね」 無言で頷く闘国。ついでに問う。 「遊ばないんですか?」 「釣りは遊びさね。‥‥それに、待つ事も鍛練」 まったく沈む気配すらない浮きを気にすることなく、泳いだりして遊んでいる子どもたちを見る。下流には、芳純がいた。水着に着替えることなく歩いては、ざぶんと結界呪符「白」で壁を作っている。そこの辺りから急に流れが速くなる危険地帯で、影ながら子どもたちの安全を守っているようだ。 そんな光景を見て優しい眼差しをするからす。 と、浮きが沈んだ。 「待つもんだね」 ぴしゃ、と水面が跳ねて魚が上がる。 闘国も喜び、とりあえず野菜や肉を運ぶのだった。 「じゃ、私は料理でもつくってあげようかな。いつもはどうしてるの?」 闘国が天幕に戻ると、真名がいた。 「主に、記利里さんで、私と在恋と‥‥陳新さんが手伝ってくれます」 皆美はそう言って、横にいる陳新をちらっと見て気にする。 「そうなんだ。‥‥あらっ。闘国、それどうしたの?」 真名に聞かれ答える闘国。 「ふうん。じゃ、魚も期待できるのね。‥‥それじゃ、私はキノコ取りでもしようかしら」 「じゃ、付いて行きますよ。‥‥真名さん」 陳新が真名のあだ名に迷いつつ、付いて行く。在恋も。 皆美は、二人がついて行けば十分である雰囲気を察し、遠慮した。名残惜しそうに。 ここで、場面は離れる。 深い場所にある岩に、水着姿の慧介が腰掛けている。 「ふうん。‥‥お。兵馬、お帰り。ほら、見てみな。皆美とか陳新とかから何やら面白い気配がするよー」 「あ、ホントだ。でも、分かれたぜ?」 「在恋に気を使ったのかな?」 ここまで言って、慧介はあれっ、と思った。 昨年は、陳新の恋の相談に乗ってやった。陳新は在恋が好きで、在恋は前然が好き。そして、見た感じでは皆美は陳新が好き、といったところか。 「兵馬は、誰が好きなんだい?」 いろいろあるんだなぁ、としみじみ思ったところで、兵馬に聞いてみた。 「へっ。男は愛だの恋だのじゃないぜ!」 「こいつぅ!」 「わわっ、手品兄ィ!」 ざぶ〜ん。 慧介、兵馬を抱えたまま飛び込んだ。 そして、再び天幕。 「アルティア様は泳がれませんので?」 「泳ぐのは苦手だし、肌をさらすのもね。釣りでもして来よう」 記利里に声を掛けられ答えるアルティア。竿を持っている。 「私も行きます」 ててて、と皆美が寄る。「じゃあ行こう」と歩くと、からすがいた。 「君もかい?」 「釣れてますね、お茶姉さん。‥‥私がエサをつけるのとか手伝いますね」 「じゃ、お願いしようかな」 からすと並んで座り、アルティアも釣り糸を垂らすのだった。 ● 時は遡る。 「では、貴公に私の剣と精霊術を以って実戦のいろはを叩き込んでくれる。いいかっ!」 「ちょっと水着姉ェ、今は遊びじゃ‥‥」 「返事は『イエス、マム』だ!」 腕を組み鬼軍曹然として声を張るエメラルド。前然はうへえと肩をすくめる。 「よし! まずは‥‥いたっ」 ここで、ついーっと朱雀のような小鳥が飛んできてつんつんエメラルドをつついて消えた。式である。 飛んできた方を見ると、真名がいた。陳新と在恋を連れている。 「ん? 真名か? 邪魔をする‥‥わっ。こらっ!」 さらに飛んできた朱色の鳥がつつく。 「まったく。やりすぎに加え反省の色がないんだから‥‥。ね、二人とも。式の形は術者によって違うわ。なんでそれぞれなのかっていうと皆集中しやすい形っていうのが違うから」 「真名さんは朱雀なんですね」 「髪型も翼みたいだし、似合ってます」 真名の説明に、陳新と在恋が納得する。「仲間に陰陽師向きはいないかもだけど、知っておくと役に立つわ」と教えているのだ。 それはそれとして、前然。 「あ、ステラ姉ェ。泳ぎの練習だったよね?」 煌夜が近付いたのを見て、彼女の方に逃げた。 「あら。渋るかと思ったけど、いい心がけね。一年越しだけど、約束は約束。毎年泳ぎでからかわれないよう頑張りましょ?」 赤いビキニ水着の煌夜はにっこり。 一方、エメラルド。 「まあ、私は水着を持って来ていないしな‥‥むっ。今度は何だ?」 ぱたぱたと真名の式がまたやって来た。今度は緑色の布切れを咥えている。 「何故、私の水着をっ!」 というわけで泳いでください、エメラルドさん。 前然の水泳特訓は順調だった。 「そうそう、それが平泳ぎ。上達したじゃない。‥‥じゃ、これで最後。私のところまで泳いでね」 「そのくらいの距離なら」 煌夜は、ここでにまり。何と、手拍子しながら後退している。前然も気付いたが、意地を見せ苦しい顔をしつつも頑張る。 が、水をかく腕に力がなくなった。限界が近い。 「はい、ここまで。よく頑張ったわね」 「ちょっ、がぼっ‥‥」 特訓終了と同時に前然がじたばたしているのは、煌夜がおっきな胸で包み込むように前然を受け止めたから。真っ赤になってしがみついた煌夜の柔らかく繊細な肌にさらに慌ててがぼがぼしている。煌夜は悪戯そうに笑うだけ。 「よし、次は私の特訓だな」 ここで、どどんと緑ビキニのエメラルド登場。前然の目はエメラルドのどどんとおっきな胸に。またこうなるのでは、という視線だが‥‥。 「こらっ、どこを見てるかっ!」 「ご、誤解だ水着姉ッ」 「その呼び名はやめろっ!」 「泳いで逃げるわよ、前然君」 「待って、ステラ姉ェ」 「待たんか、こら」 ばしゃばしゃとなにやら再び特訓開始のようで。 その手前を逆に、蒼羅が泳ぎさった。 「ちょっと待ちなさいよ、蒼兄ィ」 ばしゃばしゃと黒ビキニの紫星が泳いで追いかけている。「私だって‥‥大人なんですからねっ!」とか言って平泳ぎからクロールに。 「まあ、特訓になっていいか」 身に覚えはないが、とにかくちょうど良いと本気で逃げる蒼羅。最後にはわざと捕まってやったのではあるが。 そんな光景の見渡せるところ。 「ふむ、釣れたね」 騒ぎをにっこり見ていたからすが、釣竿にはっとして魚を釣り上げた。 その、隣では。 「‥‥釣れませんね」 「釣れないね。何かコツがあるのかな?」 皆美がぼんやり言い、アルティアものんびりと答えていたり。 「話は弾んでいるようだから、それでいいのさ」 こっそり聞かれないようにつぶやくからすだったり。 ● 昼食はおにぎりのほか、からすとアルティアの釣った魚の塩焼きに野菜炒め。 「腹が減っては、な」 ふふふ、とからす。 今度は特訓だ。 「アル兄ぃ。前は凄かったよねっ!」 「蜘蛛の時のアルティエかい? 感覚的にやっているから言葉で教えるのは難しい」 烈花は、前に見た軽やかな跳躍に憧れアルティアを捕まえていた。 「じゃあ、やって見せてよ!」 無邪気なものである。アルティアもリクエストに応えて披露してやっている。 その近くでは、前然と煌夜。 「ほら、水泳の方が頑張ったじゃない。本気を出しても、本気の私には届かないわよ? 工夫を凝らしてみなさい」 剣の特訓だったが、実戦さながらの厳しさに前然も本気を出して、竹のナイフを投げていたのだ。しかし、鍛え抜いた技はあっさり防がれた。次の一撃が踏み込めない。 「ちくしょう!」 声を荒げ、フェイントを入れ始める前然。 「そうそう。今のはいいわよ」 それでも、届かない。 「‥‥」 これを、芳純が言葉もなく見ていた。前に見た、鋭い前然の瞳が気に掛かる。 「前然はチンピラをしていた頃に人を殺してるし、雑技団に入っても敵に取り入り生き延びるため、怪我した人に止めを刺したことあるから‥‥」 陳新が芳純の様子に気付き、前然の殺気の理由を話した。 「みんなが下町で生き残れたのは、彼と闘国のおかげでもあるんだ」 「守る人のため、というのならいいんですよ」 芳純は優しく言って、風呂の準備を進めるのであった。陳新は頷き、彼を手伝う。 そして、前然を気にする者はほかにもいた。 「俺だって負けるかよっ!」 兵馬である。 「得意なのは剣舞だと聞いた。‥‥冷静に、舞うように」 アルティアは、熱くなって猪突猛進する兵馬に受け流しなどやってみせ、逆に攻勢に出て受け流しをしてみるよう仕向けたり。 そして、闘国。 「お願いします」 「ああ、いいよ」 慧介が快く立ち合いに応じた。闘国に長物を持たせる。 「‥‥今のが、攻防一体の『水仙』。隙ができたら、こうっ!」 打ち込ませておいて、切払を峰打ちで披露。力だけでは何もできないこと、円の動きが大切であることを教え込む。 「手品兄ィ、俺にもっ!」 「兵馬はしょうがないなぁ。‥‥よし、それじゃお互いの腰に括りつけた鞠を取り合う勝負をしよう。遊び感覚だが、負ければこれな」 慧介は墨と筆を取り出す。目の周りにくるっと墨をつける手まねをして。 そして、紫星はからすと。 「ほら。柿なんて簡単よ」 「じゃあ次は、魚を狙ってみようか」 が、これはちょっとコツがいるようで。 「動きの先を読むか、或いは避けられないようにするのだ」 そして、林で実戦。紫星と烈花が組む。 「ちょっと紫星。ちゃんと援護して」 「逆にこっちが狙われたのよっ」 「ふふっ。動き止まれば狙われるぞ」 かなり激しい戦闘になっている。 「動きならっ!」 烈花、いつか見た三角跳びでからすに迫る。 しかし。 「弓術師を甘く見ては困るな」 「きゃんっ!」 からす、弓から手品のようにハリセン「笑神」に持ち替え叩きこむ。すぱ〜ん、といい音。 さらに次がある。下がりながらの先即封。烈花をけん制してからわざと紫星に接近。こんどは山姥包丁で凄んだり。 「負けたわ」 「ほら、次は俺に付き合ってもらう。夕食を取りに行くぞ」 へたり込んだ紫星のそばに、今度は蒼羅が立った。 「蒼兄ィは前然に手裏剣を教えてたんじゃ?」 「筋はいい。後は練習だけだ。‥‥兵馬も頑張ってる。負けたくはなかろう」 見ると、前然は一人で練習を続け、兵馬はエメラルドと剣術稽古を積んでいた。 「くっ。行くわ」 歯を食いしばり立ち上がる紫星だった。 ● そして、夕暮れ。 「夕食は私が腕を振るったから、たくさん食べてね」 「うまいっ。料理の上手な姉さんだぁ」 真名が言うが早いか、きのこご飯をがっつく兵馬。 が。 「あっ! そっちはダメ」 「辛っ!」 ひーひー唇を押さえる兵馬。 「それは自分用の、辛い鍋で‥‥」 「そういや、前も生姜の鍋を作ってたっけ‥‥。こりゃ、『香辛姉ェ』だな」 烈花が前の記憶を手繰りつぶやく。 「いいか、紫星。弓使いにこだわることはないぞ。スキル、特に前衛系には武器を問わず使える物も多い」 「蒼兄ィのやってた、篭手払いを弓で使ったり、ね」 食べながら復習する蒼羅と紫星。これを見て、そういえば、と工夫することを教えられた前然が煌夜を見る。煌夜は、視線で芳純を見るよう伝える。 「さあ、湯が沸きました。後から汗を流してください」 樽の中からほこほこと湯気。 「これもスキルの応用らしいよ」 手伝った陳新が説明する。 「皆美は、好きな人とかどうなんだい?」 慧介は皆美と食べながら。もっとも、恥じ入って返事はなかったが。 「アル兄ぃは、釣りで苦労したそうで」 「常日頃釣りをしているけど、まともに釣れた試しがない」 芳純をようやく食事に連れて来た陳新は、アルティアとそんな話。アルティアは困った風もなく言うが。 そして、真名。 「香辛姉さん。今度、私と皆美に料理を教えてくださいね?」 「いいわよ。弟子になる? ‥‥その呼び名は微妙だけど」 在恋に言われ、喜びつつも複雑な表情の真名。 「ま、いろいろさね」 ずずず、とからすはお茶を飲む。 この後、順番に水着になって芳純が作った風呂に入って、のんびりと最後の夏の思い出を作るのだった。 |