【チョコ】陸上討伐隊☆
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/09/07 23:04



■オープニング本文

●納涼ワインパーティーにて
「ほう、あれがこのチョコレートを運んだ船の艦長さんですか。とても可愛らしいですね」
 神楽の都の川辺でにぎわう夕涼みパーティーで、チョコレート・ハウス乗組員が振舞ったチョコを食べていたジルベリア人が驚きの声を上げていた。
 その視線の先では、緑色のエプロンドレスを着て仲間と一緒に愛想を振りまいているコクリ・コクル(iz0150)がいた。
「ええ。そうですよ」
「コクリの嬢ちゃんは可愛いだけじゃなく、つおいぜ」
 チョコレート・ハウスオーナーの対馬涼子がにっこりすると、隣にいた八幡島副艦長が親指を立てていた。
「強い?」
「チョコレート・ハウスは戦闘もできるから『船長』ではなく『艦長』なんですよ。操船はこの八幡島が担いますが、戦闘は開拓者のコクリが担います」
「あんな可愛い女の子が艦長で戦闘も‥‥。これはまた、浪漫ですなぁ」
 ジルベリア人はいたく感心したようだ。
「まあ、船の中とか戦闘中はあの格好じゃないが、ウチの船はご覧の通り年頃の女の子がたくさん乗ることもあるからな。俺以外は品があるし、奇麗なもんさ」
 がはは、と八幡島。
「気に入りました。商材には浪漫や美談があればまたとない魅力となります。チョコレート・ハウスのチョコレート。私どももお取り引きさせていただきましょう」
 ジルベリア人は晴れやかに契約確約の言葉を口にした。そして。
「‥‥それともう一つ。これは無理にとは言いませんし、あなた方を試したりするつもりではないですが、ちょっとした困りごとを解決してほしいのです」
「どういったことでしょう?」
 涼子が涼しく応じる。
「実は、飛空船の航路確保をしていただきたいのです」

●岩人形の河原
「コクリちゃん、今日はお疲れ様。とっても評判良かったわよ」
「ホント? 良かった。みんなも頑張ってくれたんだよ」
 パーティーの終わり際に、涼子はコクリを呼んで労をねぎらっていた。
「それでね。ちょっと攻略して欲しいアヤカシの拠点があるのよ」
「攻略?」
「そう。チョコレートの取り引きをしてくれたお客様だから、ぜひとも期待に応えて信頼を固めたくはあるのよね。でも、ちょっと厄介なの」
 ドレス姿のコクリを愛おしそうに見て、引くに引けない依頼であることを伝える。
 内容は、次の通り。

 武天のある地域に、アヤカシのたまり場として恐れられている地点がある。
 山中で民家は近くにないので人畜無害とも言えるが、飛空船で交易する商人にとっては必ずしもそうとはいえないことがある。
 今回のケースもそれで、ある大きな街から街への一直線上に位置していた。さまざまな品目を扱い町から町への巡回取り引きをする場合には問題ないが、特定品目だけを取り扱う直送取り引きをする場合は非常に効率を悪くすることになる。
 ともかく、そのアヤカシのたまり場は「岩人形の河原」と呼ばれていた。
 その空域を飛べば、羽根蟻アヤカシの大群が雲霞の如く襲ってくるという。
 羽蟻アヤカシは犬程度の体長で大きくはなく、一般人でも徒党を組めば数匹を相手にできる程度の強さしかないが、百匹単位で群れをなす。さらに恐ろしいことに、飛び続けることより何かに取り付こうとする習性があるため、足が遅く対空戦力のない飛空船が襲われようものなら重量超過で沈められてしまうという。
 羽蟻アヤカシは普段、空域直下の森林に潜む。
 過去、これを陸戦で退治しようとしたこともあるが、ここでさらに厄介な事態に直面することとなる。
 羽蟻アヤカシの生息する森林には見晴らしの良い水の枯れた河原が一本通っている。
 ここに、女性の大人の2倍程度の大きさのある大型アヤカシ、岩人形3体と朧車3体のアヤカシがいるのだ。
 陸戦部隊は手強い岩人形と、素早い朧車に対応しつつ、対空にも気を配らなければならないという困難な状況にされされ大被害を受け撤退したという。
 チョコレート・ハウスに期待されているのは、チョコレート・ハウスを囮に飛ばして羽蟻アヤカシを一手に引き受け、その隙に陸戦部隊が地上の岩人形と朧車を排除できないかというものだった。

「‥‥羽蟻アヤカシは全滅させなくていいの?」
 コクリが首を傾げる。
「岩人形と朧車さえやっつけておけば、後は何とかなるからいいらしいわ。『無理をしてチョコレート・ハウスを失っては、せっかくの取り引きが台無しになりますし』って言ってくれたわ」
「分かった。みんなとも相談してみるよ」
 コクリは、チョコレート・ハウスを気遣ってくれた相手の思い遣りを意気に感じたようだ。
「あ、コクリちゃん。頼もしいんだけど、ここではもうちょっと可愛らしい笑顔のままでね」
 ウインクしてその場をたしなめる涼子だった。


■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
ロック・J・グリフィス(ib0293
25歳・男・騎
シャルロット・S・S(ib2621
16歳・女・騎
プレシア・ベルティーニ(ib3541
18歳・女・陰
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
アナス・ディアズイ(ib5668
16歳・女・騎


■リプレイ本文


「コクリちゃぁあぁぁあぁんっ♪」
――どっか〜ん☆
 狐っ娘、プレシア・ベルティーニ(ib3541)の抱き付きが見事にコクリ・コクル(iz0150)に奇麗に入った。
 突然だが、ここはアヤカシのたまり場「岩人形の河原」から一番近い人里。時はチョコレート・ハウスの空陸連動作戦前。
「プレシアさん、今回は空と陸に分かれるけどよろしくね。って、あれ?」
「あ、これはお供のくーちゃんだよ〜☆」
 すりすりしてくるプレシアが肩にいる金色の管狐を紹介した。
『玖耀と言う。ふむ、いつも我が主が世話になっておるようだな。‥‥いや、我が主がまとわりついているのか』
「ぶー、くーちゃんひど‥‥」
『よろしく頼むの』
 玖耀(以下、くーちゃん)はプレシアの抗議は無視して渋い音の声で改めて頭を下げると、くるんと三本尻尾でコクリの頬を撫でて消えた。
 そのプレシアの肩に手を乗せ、巴 渓(ia1334)が登場した。
「よ、コクリ。こっちは隠密待機から一気にぶっ潰して合図する予定だ。その手筈で頼むぜ」
 ウインクして作戦を話す。
「うんっ。分かったよ、渓さん」
「空を荒らすアヤカシの巣を放っておく事もできんからな。上は頼むぞ、コクリ嬢」
 ロック・J・グリフィス(ib0293)も力強く言う。
「空のコクリちゃんの分までがんばりますの!」
 改めてコクリに抱きついたのは、シャルロット・S・S(ib2621)。
「ボクたちも頑張るから、みんな無理はだめだよ」
「大丈夫、岩人形も朧車もみーんなやっつけるよ! コクリちゃんこそ、無理はしないでね?」
 リィムナ・ピサレット(ib5201)も狼煙銃を手に元気がいい。
「そうだな。そっちにゃ重体者がいると聞く。死なない程度に無理をしろ、と伝えておいてくれ。あと、これもな」
 渓はコクリにぽいっと何かを投げて渡した。包帯と薬草である。
「上から羽蟻アヤカシが来ても花月がいるから大丈。コクリはあまり無理しちゃだめだぞ」
 隣で水鏡 絵梨乃(ia0191)もにこにこ。肩に乗った迅鷹の花月は、ぎらぎらした瞳でやる気満々だ。
「作戦は奇襲だ。手早く片付けるよう全力で行くから負担はあまりかからないだろう」
 ぽん、とコクリの肩を叩いて風雅 哲心(ia0135)が動き始める。
「うん‥‥。アナスさんも、お願いしますね」
 コクリは哲心に頷いて、アーマーケースを確認していたアナス・ディアズイ(ib5668)に声を掛けた。
「今回は直接守ることができませんが、下で皆を守ってきます」
 さらさらの長い金髪を振り払って向き直り、赤い衣装のアナスは服の色のように明確に言い放つのだった。
「じゃあ行って来るよ、コクリ嬢」
 アーマーケースを背負ったロックも、薔薇の花を掲げて戦場へと歩み始めた。
「コクリちゃんも無理しないでね〜? それじゃ〜、行ってくるよ〜!」
 抱きついていたプレシアも手を振って出発した。


 森林を行く陸戦部隊。
 以前に討伐隊が動いただけあって情報がある。問題なく潜伏予定地まで駒を進めた。
「くそっ。森に羽蟻アヤカシが多いな」
 木々に隠れ、渓が吐き捨てていた。
「この距離だとどうだ、リィムナ?」
「微妙に射程外だけど、出てからメテオを打ち込めば大丈夫」
 渓に返すリィムナ。
 つまり、メテオストライクを撃ってから奇襲開始ではなく、奇襲開始して動いてから撃てばいいと元気良く手順を話す。
「俺も、できるだけ近寄ってからトルネード・キリクで巻き込むつもりだ」
 哲心も静かに言う。
「下は砂や砂利で足場は悪いぞ。大丈夫か?」
「大丈夫だよー。あたしは妹たちと外を駆け回って育ったんだ。駆けっこは得意だよ!」
 機動力には自信のある絵梨乃が聞くと、リィムナは元気強気の爽やか笑顔。
「隠密行動ですから、声は落としてくださいね」
 あまりの元気の良さにアナスがにっこりなだめたり。
「くーちゃんに調べてもらうとかは〜?」
「自衛戦闘以外は避けたいですから、特にいいでしょう」
 プレシアとアナスの会話。
 そう。
 陸戦部隊は攻撃力特化で編成したため、隠密維持能力に若干欠けた。
 ゆえに、もう少し前に、ができない。
「そうだ。箱に入って、静か〜に行けばいいの〜」
 ひらめいたプレシアが、ほみ、と口走った。
『ふむ、箱はあるのか? それに箱に隠れずともよかろうに』
「でもその方が静か〜な感じがするの〜」
 思わず出て来て突っ込むくーちゃんに、ぷいって横向くプレシア。って、静かにするんじゃなかったんですか?
 それはともかく。
「やはり、ここからでは区別がつかんか‥‥やっかいな相手だな」
「アレとアレは確実だろう。‥‥残りの一体はその奥の見えにくい巨石のどれかだろうなぁ」
 河原の巨石群から岩人形の特定をしていたロックがうーんと唸り、渓が唇を噛む。
「それにしても、岩人形はそれぞれ離れているですの」
「前に攻撃した奴らも似たような戦法だろう。アヤカシの方が知恵をつけたのかもしれん」
 シャルが残念がり、哲心が冷静に話す。範囲魔法は微妙に一網打尽とはいかないようだ。
 おっと、気にしなくてはなならないのは前ばかりではない。
「ほみ〜。それにしても羽蟻アヤカシが多いみたい〜」
 きょろ、とプレシアが周りを見て指をくわえる。耳ぴくぴく。
「頭下げろって。‥‥シャルロットはこの位置からでも大丈夫か?」
「はいですの。皆さんと突撃するですの」
 アーマーを導入したばかりのシャルロットを気遣う渓。シャルに迷いはない。
「どのみち、これだけ羽蟻アヤカシがいるんじゃここからだな」
「仕方ありません。やるしかないですね」
 絵梨乃が諦めの声を出し、慎重にアーマーを展開したいアナスが同意した。
 そして、その時だった。


――うわんっ!
 木々が、いや、森全体が唸りを上げたかのような音が響いた。
 一斉に、羽蟻アヤカシが動き始めたのである。腹に響く、重く不気味な羽音だった。
 そしてアヤカシの飛び立った空に一隻の飛空船の姿。
「チョコレート・ハウス‥‥」
「コクリちゃん、来たんだね」
 見上げた哲心がつぶやき、リィムナが待ってましたと気合いを入れる。
「よし、行くぞっ! カイザーバトルシャインッ!」
「X(クロスボーン)機動‥‥コクリ嬢達の為にも、時間をかけるわけにはいかん。行くぞ、愛機よ」
 渓とロックがアーマーケースを展開する。もちろん、アナスも静かにゴールヌイを準備。
「いよいよですの」
 シャルロットは見上げた姿勢からそれと気付いてわたわたとレーヴェを展開。たいした遅れは発生せず、アーマー組の四人は搭乗に移る。
 一方、ほかの四人。
「こっちだ。バレてもいいができるだけ見えにくいほうがいいだろう」
 ざざざ、と哲心が走る。
 森と河原の境界の木々の間。
「サジ太はあたしの護衛だよ!」
 初撃担当のリィムナがサジ太を空に放って続く。迅鷹であれば派手に飛んでも大きく警戒はされまい。それにもう長駆による奇襲は始まっている。
「ボクはタイミングをずらして出ればいいな」
「あっ、待って〜。ボクも行くの〜」
 絵梨乃がくすりと展開を想像して追い、プレシアがぴょんこと跳ねつつ遅れを取り戻す。
 羽蟻アヤカシは、こちらに気付かない。総計約800匹が順次飛び立ち空を黒く染めている。
 もちろん、河原の岩巨人も動かず。
 あるいは、河原が防衛圏であったか。河原の境界あたりの動きには反応しない。
「よし。ゴールヌイ、行けます」
 シールド「グラン」をがっしり構え、右手にいびつに光るはチェーンソー。
 「華の小手毬隊☆」の清き盾、アナスがゴールヌイ、ここで起動。
「シャルも負けませんの」
 シャルのレーヴェも動き出した。駆鎧の鋸刀を構え臨戦態勢。
 この時、アーマー部隊前方でついに、朧車担当班が河原に躍り出てたっ!


 場面は朧車担当班、時は少しだけ遡る。
「ここらでいいだろう、まずはこれをやっておく。‥‥迅竜の息吹よ、我らに疾風の加護を与えよ。――アクセラレート」
『では、殲滅に移ろうか』
 集中する哲心の傍らから、ひょっこりと管狐が姿を現した。緑色の体に紅い目という珍しい容姿は、哲心の朋友、翠嵐牙(すいらんが)。寡黙な管狐で哲心も困る時もあるが、今のように主人が口を出さずとも出番をわきまえている。哲心の気に入っているところである。
「ああ、行くぞ翠嵐牙」
 哲心、「深遠の知恵」で同体化した。
「じゃあ、行ってくるよ」
 リィムナがざっざっ、と左右に体を振る元気な走りで飛び出した。
「よーし、射程ギリギリ!」
 足元の小砂利を弾いて立ち止まり、魔杖「ドラコアーテム」を構えるリィムナ。
「怪しい岩はぜ〜んぶ巻き込んじゃえっ!」
 大きな火炎弾が彼女の頭上に現れ、いま流れ星となった。
――どか〜ん!
 巨石群の中心で炸裂するメテオストライク。岩が邪魔して若干ダメージ効率が悪かったが、それぞれ離れた場所から三つの巨石が動き出した。ぐぐぐと身を起こしたことで腕や頭部、脚部が分かりやすい形となる。
 役目はひとまず終わったとバックステップで距離を取り始めるリィムナ。
「まだまだ先制攻撃は終わらん」
 その横を、哲心が駆け上がっていく。
『そろそろか?』
「そういうことだ。‥‥轟け、迅竜の咆哮。吹き荒れろ――トルネード・キリク!」
 哲心、翠嵐牙に返事しつつアゾットを逆手持ちで構え身を沈めた。そして動きにためを作ったかと思うと、一気にアゾットを持つ手を天にかざし嵐を巻き起こしたっ! 
 旋風にガクガクと身を揺らした岩巨人。
 だがしかし。
「‥‥範囲魔法2連発を耐え抜いたのは、アレがあるからか」
 後方から観察していた絵梨乃が、冷静につぶやいた。
 何と岩巨人。
 体に入った亀裂が見る見るうちに塞がっているではないか!
 再生、である。
 そして戦場はそれどころではない。
「あっ。朧車ってのだよね、あれ。よ〜し、ぺちってすればいいんだね〜」
 水が流れていれば上流側となる方を指差し、プレシアが狐耳をぴこぴこさせる。
 敵はこれで出揃った。
 戦闘は総力戦となる。


 先制に動いた朧車班4人のうち、直接打撃力があるのは泰拳士の絵梨乃だけである。
「安全な壁は作ったよ〜」
 引いたリィムナがまずアイアンウォールを展開したのはそういう意味である。
 そして、期待を背に受ける絵梨乃。
「いよいよ仕事だな、ボクに任せろ。花月、おいで」
 ぐび、と古酒を一口飲んでから迅鷹の花月を呼んで疾風の翼。花月が煌く光になると絵梨乃の脚と同化。これを確認してきりっ、と顔を上げた絵梨乃、朧車に向かって全力疾走する。若干弧を描くルートを選ぶ。
 しかし、岩人形はどうする?
 距離を大きく取って潜伏した分、アーマー組が間に合ってない。岩人形の戦場には、一撃かまして撤退しはじめた哲心が残っている。トルネード・キリクを効果的にするため奥深く踏み込んだため、まだ包囲下にあるのだ。敵の再生で一呼吸あったとはいえ、まだ離脱はできてない。
 どうするっ!
――ガスゥン!
 離脱する哲心に迫っていた岩人形の動きを、一体のアーマーが物凄い勢いで取り付いて止めた。
「どうだぁっ!」
 操縦席で気合いの声を上げるのは、渓。
 そう。
 彼女のマフラーを模したような赤いマントを翻す鉄の巨人。
 カイザーバトルシャインっ!
 オーラダッシュで長い距離を一気に詰めた。奇襲準備の不足で開いた距離を気にしなかったのは、これがあるから。
「仲間の援護優先で攻撃はできなかったが、こっからは出し惜しみ無‥‥おおっ!」
 速攻で叩き潰す! の気概でオーラダッシュ後の攻撃態勢を整えようとしていた渓が、操縦席で水平方向に振られた。
 何と、岩人形は相撲の下手投げのようにカイザーバトルシャインを横投げにしていたのだ。岩を投げる力があれば、アーマーを持ち上げられないまでも放ることはできるようで。
「投げただとっ!」
「投げるのは岩だけかと思いましたが」
 迫撃突で続くアーマーの操縦席では、ロックとアナスが想定外の敵の動きに声を上げた。
「巻き込まれたくはないな‥‥」
 振り向きつぶやく哲心。この乱闘に巻き込まれずに済んだようだ。
「でも、おかげで間に合いますのっ」
 これが駆鎧でなければユニコーンヘッドで一気に突っ込めるのに、とシャル。レーヴェの通常歩行で追うしかない彼女にとっては、悪くない展開だ。
 そして、間に合った第二陣のロック。
「アナス嬢、そちらを頼む」
 迫撃突の合間を縫い、クロスボーンで指差し指示する。
「分かりました」
 アナス、ゴールヌイでさらに迫撃突。一番奥の岩人形に向かう。
 そして、ロック。
「最初から全力でいかせて貰う、輝けオーラの光りよ!」
 近場を選んだ隙に、オーラチャージ。岩人形に先制されるが、盾で受け流した。倒れなければ反撃の手は緩まない。
「大きさは五分‥‥力比べでも、こちらは負けていないからな」
 ふっ、と気取ってカウンター。
 そして、倒されたバトルシャイン。
「くそっ、さらに回復してやがるな?」
 体勢を立て直す隙に、敵はさらに崩れた体が元に戻っている。追撃を喰らわなかったのは幸運だったが。
 その、横合いから突っ込んでくるアーマー一体っ!
「間に合いましたですの〜」
「シャルか、やるなっ!」
 がすんと肩口から体当たり。敵は累積被害でボロボロだが、がしりとレーヴェを掴む。バトルシャインと同じく横投げされた。
「こいつ!」
 渓の瞳が怒りに燃える。歯軋りした口から、必殺の雄叫びが響くのであった。


 時はわずかに遡る。
 この頃には、朧車が好き放題暴走していた。
「これでどうだ!」
 絵梨乃が敵の突進をかわしつつ、反転攻で車輪を狙った。
 半身を翻しながら軸線をずらし微妙に横移動。その反動と体重を乗せた脚がカウンターの一撃となる。見事、車輪の一つを砕いた。
 絵梨乃の動きはそれだけを意味していたのではない。
 初動となる敵との遭遇に、進入角度を大きく取っていた。敵の動きを誘引し突撃方向を変えるためだ。味方のアーマーへと向かっていたのを見事にそらしていた。
 そして、その次の展開も。
「おっと」
 次の朧車の突進をかわす。
――がっしゃん!
 絵梨乃は岩を背後に取っていたので、突進した次の朧車はこれに激突。
 しかし、これはむしろ逆効果。
 旋回しつつ弾かれた朧車の動きに巻き込まれ大きなダメージを負った。
「くっ。‥‥そう都合良くはいかないな」
 敵もダメージがあるとはいえ、捉えられた。再発進で轢かれてしまう。
「させん。‥‥響け、豪竜の咆哮。穿ち貫け――アークブラスト!」
「哲心、助かった」
 敵が衝撃で跳ねる隙に、さらに蹴りを見舞う絵梨乃。
 そして、三台目。
 続いて突進して来ている。
「くーちゃん合体でパワーアップするよ〜!」
 プレシアの呼び掛けでくーちゃんが光となり、陰陽符「アラハバキ」へと同体化する。
「これでどうだ〜!せきしきめいかい‥‥」
『それ以上は言わせん』
 くーちゃんに必殺の雄叫びは止められたが、何か、がプレシアの傍らに召還された。「隷役」を併用した「黄泉より這い出る者」だ。それが、朧車に送られる。
 ガシャン!
 快走を続けていた朧車の様子が、突然よろよろとなった。
「とどめっ!」
 リィムナのアークブラストが走り、一台撃破。
 ここで、予期せぬ事態が発生した!


 地上組は、戦闘開始から集中していた。
 おかげで戦況は有利に。流れを確実に掴んでいた。
 ゆえに、空からのそれは完全な不意打ちとなった。
――ばさあっ!
 何と、空から大きな帆布が戦場付近に舞い落ちてきたのだ。
 羽蟻アヤカシが大量に纏いついているぞッ!
 つまり、結構な数の羽蟻アヤカシが地上戦線に気付き、改めて襲ってきたのである。
「サジ太!」
「花月、こっちはいいから空を頼む。‥‥くっ」
 リィムナと絵梨乃が迅鷹を本格的に対空戦に向かわせた。その隙にも、敵の的になり続けている絵梨乃が朧車の猛攻にされされる。
「車輪一つ潰しただけでダメなら‥‥」
 絵梨乃、覚悟を決めた。
 ふらり、と足取りを不規則に。
 乱酔拳を、ここで使う。
 羽蟻の攻撃を避けて、避けて‥‥朧車の突撃も避けた。そして、朧車にだけはまたも反転攻。車輪をさらに破壊、というかこれが止めの一撃となった。あとは手数を生かして羽蟻を叩くだけ叩く。
 ところで、哲心。
『数が多いようだが、我も出るか?』
「この程度大した事はないさ。 こいつで終わらせる」
 翠嵐牙の声に、狙いの目を輝かせる。
「まってね。いま止めるから」
 リィムナが鉄壁を呼び、朧車を止めた。
「ここだっ」
「よぉし。霊魂砲でぶっ飛ばすぞ。プレシアばすたぁぁぁぁぁっ!」
 哲心のアークブラストとプレシアの霊魂砲が轟いた。
 羽蟻の攻撃を喰らいつつも、これで朧車を全滅させた。


 対朧車班の誘導戦闘に、アーマー組は邪魔者なく戦えていた。
「喰らいやがれええッ! カイザァァッ! トマホォォォクッ!」
 ぐぁば、とギガントアックスを構えたバトルシャインが、レーヴェを投げた後で隙だらけの岩巨人を狙った。小砂利を弾いて赤と白の巨体がどっしり踏み込む。回復せずにレーヴェを投げたツケを払わせるのだと渓が猛るッ!
 回・避・不・能!
 怒りの一撃は岩人形の右肩口に入り、一気に砕いた。
「ほかはっ!」
 マントを翻し戦況を確認する。
 近くで、アナス。
「せっかくです。解体していきたいですね」
 シールド「グラン」でがっちり守りながら戦っている。
 守った後に、不気味な高速回転音を響かせる武器を振り上げる。
――ガガガッ!
 チェーソー。
 一刀両断とはいかないが、敵の体を強引に削る、削るッ!
 その向こうでは、ロック。
 盾で敵の攻撃を受け流したところだ。今まで狙いつつうまくいかなかったが、今度は敵がうまく体勢を崩している。待ちに待ったチャンスだ。
「しつこい。‥‥可憐なお嬢さん方の為にもいい加減くたばってもらう。‥‥くらえクロスボーンが槍の一撃、クロスボーンクラッシュ!」
 脳裏にコクリなど空戦組の顔が浮かぶ。武器を構えて練力を溜めに溜め、大きく足を踏み込んで獣騎槍「トルネード」を捻り込んだ! 敵はひとたまりもない。
 一方、シャル。
「シャルではまだ力不足だと思いますけど‥‥それでも!」
 レーヴェを起し、まだ戦意は衰えない。青い瞳に決意の輝きが宿る!
 アナスのゴールヌイが戦う岩人形の横から、鋸刀で水平に薙ぐ。
「今です」
 たっぷり時間を貰ったアナスが再びチェーンソーを振りかぶる。もう、敵の体はボロボロだ。
――ゴトン。
 砕けた敵の腕などが、地に落ちた。
「よしっ。こっちはいいな!」
「あたしたちも終わってるよ?」
 バトルシャインから出た渓とリィムナが狼煙銃を打ち上げた。これで上空のチョコレート・ハウスに作戦終了が伝わるだろう。
「花月、頑張れ。アーマーを仕舞うだけの時間を稼ぐぞ」
 絵梨乃は「朱雀の嘴」で羽蟻アヤカシと戦う朋友を励ましつつ、自らも今度は羽蟻を狙う。乱酔拳はいまだキレがいいというか千鳥足っているというか、見事な回避を見せる。アーマー初出撃で撤収の時間を多くとってやる。
「くーちゃんも飯綱雷撃で『俺に任せろ〜、ばりばり』って」
『やらぬ』
 プレシアの言葉を無視し、くーちゃんは戦う。
「よし、待たせたな」
「こっちゃいつでも引き上げられるぜっ!」
 アーマーを片付けたロックや渓の声が響く。
「殿は私が務めます」
 アナスがベイルとファルクスを構え皆を守る。
「後は‥‥上だな」
 見上げる哲心。
 チョコレート・ハウスにはまだ羽蟻アヤカシが取り付いているが、大きく回避行動に入っている。
 狼煙銃の合図は伝わっているようだ。

 のち、無事にチョコレート・ハウスと合流した。
 作戦は成功し、チョコレート・ハウスの作戦実行能力などが大きく評価されたという。