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■オープニング本文 ●蟲の置き土産 守将鍋島何某は、やれやれといった様子で床机に腰を下した。 「ふむ。まず第一波は撃退、といったところかな」 部下が桶に水を汲んで現れ、差し出す。 「しかし、平野部での激突もはじまったとお聞きしました」 「うむ‥‥そちら次第だ、まだ警戒を緩めるなよ」 柄杓で水を煽り、守将は口元を拭った。 「南郷砦が陥落したとの報もあった。アヤカシどもめ、本腰を入れて攻勢に出ているのかもしれん」 やがて、彼は櫓に登って連なる山々を見回した。 偵察も必要だが、何より――余裕のあるうちに、はぐれアヤカシだけでも始末しておくべきかもしれない。頭の中で頷き、彼は新たな指示を飛ばした。 森の中、アヤカシが草木を揺らす。 木々の付け根には、白く丸い物体が多勢並んでいたり、繭に覆われた物体が張り付いていたりする。じわりと空気が重くなった。周囲に暗き気配が漂いはじめる。 やがて、その一角を食い破って現れた蟲は、がちがちと歯を噛み鳴らして鳴いた。 アヤカシの卵――瘴気から生ずる筈のアヤカシの卵。面妖である。何故かは解らない。どのような妖術を用いたのかも。しかし眼前に突きつけられた事実は覆しようも無い。 ひときわ大きなどす黒い卵が、どんと脈動した。 ●ミラーシ座その後 神楽の都の居酒屋、夜。 「クジュトさん、まずいですぜ」 「『も』の字さん、ですね?」 背中から声を掛けられて金髪のエルフ、クジュト・ラブアは振り向くこともなく言った。 「ええ、私です。『も』の字です」 もの字、と呼ばれた男はクジュトの隣に座ると、一瞬だけ顔を隠していたもふらさまのお面を上げて見せた。 「先日はお世話になりました。仲間も出来て『ミラーシ座』としてやっていくことに‥‥」 「おっと、そこまで」 もの字はクジュトの感謝の言葉を止めた。 「先日のあれ、ちょいと成功しすぎたようでしてね。‥‥旦那たち、客側からは評判は上々なんですが、同業者にはやっかむ者も多いようで」 クジュト、あからさまに嫌な顔をした。 「私たちが敢えて、既存一座のお得意さんを奪わないよう、わざわざ伝統やしきたりから外れた流儀でやってるっていうのに」 「気にせず奪っちまやいいんですよ。そういう業界さ」 「それをやると、故郷で私の一族がオアシスを追われてしまったことと同じことをすることになってしまう。‥‥権力を握っている者はどうしてこう度量が狭いか」 「‥‥そう思う人物が滅ぼしてしまわねぇから、ますます手がつけらんなくなるんですよ」 もの字、この業界で苦労した過去があるようだ。裏の仲介役をやっているくらいなのでそういうこともあるだろう。 「ともかく、一度神楽の都から姿をくらましてください。なに、連続して座敷に上がって目立たない限り大きな排除の動きはないハズで」 「待ってください。『気にせずやればいい』と言ってすぐまた『姿をくらませてください』ですか? 支離滅裂ですよ?」 クジュトの指摘に、もの字は「へへへ‥‥」と頭をかいた。 「旦那にゃ、隠し事はできませんなぁ。‥‥正直、旦那にひと仕事してもらいたくて」 「あなたにはお世話になりましたが、お断りさせていただきましょう」 「武天の方で大きな合戦があるのは、開拓者でしたらご存知でしょう? そこで、二つのことをしてもらいたいんです。一つが、土産話のための情報収集。‥‥アヤカシの卵があるそうで、神楽の都の裏の世界ではこういう面妖な話は喜ばれますんでね。もう一つが、向こうの戦場に行っている『東堂俊一』という男にこの手紙を渡してください。中身はただの挨拶文です。あなたが直接、東堂俊一に会って、その印象を私に教えてくれればそれで良いです」 内容を先に言わないのでクジュトはばっさり断ったのだが、もの字は急ぎ用件を言い切った。 「東堂俊一?」 「ええ。‥‥あっしみたいな裏の社会の男が気にして、女形なんてえ表情演技の上手い人に人となりを見てもらいたいなんていうような人物です」 「善人か悪人かは一目で分かるものでもないでしょうに」 「いや、あっしが旦那を見初めたように、『この人はやってくれる』と思わす何かがあるかないかが分かればそれでよし、ですよ。‥‥できれば旦那も、今までのしがらみのない新たな人脈を作っておいてもらいたいというのもあります。この世界で一座をやるなら」 「分かりました。引き受けましょう」 くい、と酒を干してクジュトは武天行きを決意するのだった。 「じゃ、ギルドには『アヤカシの卵の調査』で求人を出しておきます。戦場絵師も募っておきます。そちらを主にして、東堂俊一の方はクジュトさん一人で運がよければ、ということで」 「卵の退治は?」 「こちらがいるのは、土産話。旦那の顔に傷がついてもですし、戦闘は必要ないですよ」 こうして一般人の絵師、下駄路 某吾(iz0163)を連れて戦場へと赴くことになる。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
露羽(ia5413)
23歳・男・シ
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
エメラルド・シルフィユ(ia8476)
21歳・女・志
リスティア・サヴィン(ib0242)
22歳・女・吟
クロウ・カルガギラ(ib6817)
19歳・男・砂
シャハマ(ib7081)
45歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ● クジュト・ラブアら開拓者8人と下駄路 某吾(iz0163)は、高橋の里を訪れていた。 「アヤカシって瘴気が凝って自然に型なすものだと思っていたけど‥‥」 魔術師のシャハマ(ib7081)が、小鳥のように小首を傾げてつぶやく。 「卵から産まれるものだったのね」 「楽しそうに言うねぇ」 その嬉しそうな様子に某吾が呆れた。 「それは、知らなかったことを知ることができますから」 「前会った時もそうだったが、本当に『好奇の知識人』だな、あんたは」 某吾が言ったところで、露羽(ia5413)も会話に加わってきた。 「アヤカシの卵の存在は、確かに不思議ですよね」 目を細めう〜んと考えを巡らせる露羽。 その横には、竜哉(ia8037)。 「ああ。卵という現象が、蟲という習性の賜物かどうか、というところか?」 調べる点はすでに目星がついてるようで。 「‥‥気にはなりますが、まずは土産話をちゃんと持ち帰れるよう頑張りましょうか」 露羽が話をまとめ、「よろしくお願いしますね」と微笑してクジュトを振り返る。 と、ここで羅喉丸(ia0347)が声を上げた。 「クジュトさん。方位磁石を用意しようと思ったんだが、もうあるようだな」 「ええ。本当に我々に調査させたいのか、これを渡さねば怪しまれると思ったかは不明ですが渡されました」 クジュトが取り出して見せる。 「そうそう。何か依頼の経緯が複雑なんでしょ?」 クジュトの微妙に言い回しに、リスティア・バルテス(ib0242)が身を乗り出してきた。 「そうですね。私を一旦どこか遠くにやっておきたいのか、本当に東堂俊一に会わせておきたいのか‥‥」 「東堂俊一、ねぇ」 リスティアは東堂について詳しくはないが、明らかに流れ的におかしいと感じている。青い瞳を不審そうに横に流しながら、心に刻んでいる。 「まあ、前よりは開拓者らしい仕事だ」 対照的にゆったりしているのが、エメラルド・シルフィユ(ia8476)。クジュトとの再会に笑みをこぼす。クジュトも目尻を下げた。 「しかし卵調査で戦闘が不要とは‥‥どう見る、クジュト?」 「興味本位で動機が不純です。でも、仕事ですし」 「やはり、な。‥‥お前も言ったが、卵は口実の可能性もある。害意はないかもしれんが、気をつけろ」 うむ、とエメラルドに頷くクジュト。 「さて、こうしてばかりもいられない。花ノ山城周辺の地図などは準備してある。行こう」 行動開始を促す羅喉丸だった。 ● 「俺たちは別行動を取るから」 竜哉は気軽に言って、高橋の里に残った。リスティアとエメラルドも一緒である。 「でも、あたしたちも後から花ノ山城には行くんだからね、座長!」 「それはそれとして、久し振りだな、某吾。‥‥以前の絵の事で貴様にたぁっぷり話したい事があったぞ」 何やら以前の依頼で、貸本にお色気たっぷりに描かれたことのあるエメラルドがゆらぁり、と某吾に詰め寄ったり。 「とと。それじゃ、俺たちは行くからな!」 逃げる某吾。 そんなこんなで、出発したクジュトたち。 花ノ山城には問題なく到着。 城内は兵たちが行き交う中、別の開拓者グループもいた。 「被らない方面から行こう」 城内軍監役らと交渉した羅喉丸を先頭に、森へと分け入った。 「‥‥ん、どうしました?」 羅喉丸に続くクジュトが視線を感じ、振り返った。 そこには、クロウ・カルガギラ(ib6817)がいた。 「いや、過去の事は捨てた、と聞いたんでね」 「ああ、貴方もアル・カマル出身者ですね」 にこりと笑みを返すクジュト。 「野暮なことを聞く気はないが、まあ、よろしくな。同郷の縁だ。力になる」 「ありがとうございます。貴方みたいな方ばかりがオアシスに入ってきたのだったら‥‥」 「いいさ、それ以上は」 辛い思い出でもあるのか、力のないクジュト。クロウはその肩を優しく叩く。 「ともかく、まずは水源を探ろうと思うんだ。‥‥あらかた城で特徴的な地形は聞いてきた。代わりに、コッチの得た情報も提供する、ってな」 ウインクするクロウ。 「もしかしたら、もう卵が城にあるかとも思ったのですけど‥‥。まあ、見つければ潰してしまいたいと思うのが普通の人の感情かしらね」 くすくすと余裕のあるのは、シャハマ。観察する気満々だ。 「じゃあ、とにかくあっちだな」 羅喉丸が地図を広げて指差した。 「ん? ちょっと待ってください」 ここで、超感覚で周囲を警戒していた露羽の赤い瞳が鋭くなった。抜き足でさらに気になる方に近寄る。すっ、とシャハマが下がり退路確認をする。羅喉丸がクジュトと某吾の前に出て、クロウがくわっと目を見開く。 「アヤカシか」 つぶやき軸線をずらすクロウ。 そして、前に行った露羽。 (数は7匹‥‥) 遭遇は不可避と判断した。 「羽根蟻です。寄られる前に叩きます!」 露羽、刹手裏剣を投げて叫んだ。 一匹を叩くが、これで大きな羽根蟻アヤカシは気付いた。一気に飛ぶ。 露羽を襲ったのは、2匹。身を引きながら、逆手持ちした刀「血雨」で裁く。 「く‥‥、抜かれたか」 露羽が振り向くと、聖なる矢が一匹を仕留めていた。 「アヤカシだけに効くんですよ」 シャハマのホーリーアローだ。続けて銃声。さらに気合いの声。 「音はするがまあ、すぐ動けばいい」 「泰国の技もなかなかのものだろう?」 フリントロックピストルで仕留めたクロウに、落とした腰に力強く構えた掌から気功波を放った羅喉丸がお国自慢をするようにクジュトを振り返っていた。 「私の出番はないようですね」 ナイフを構えていたクジュトがにこやかに。彼の前まで迫っていた最後の一匹は、シャハマの2発目で落としていた。 ● その頃、高橋の里。 白いセイントローブをなびかせリスティアが絶好調だった。 「出血大サービス、無料御奉仕。あたしの歌を聞けーい♪」 茶屋の前でバイオリンの弓をかざすと、左肩口に乗せた楽器と共に優雅に体を揺らして和みのあるメロディを紡ぎ始めた。前奏に続き、恋の歌をうたう。 「私たちは旅の芸人一座だ。道中で面白い話も集めてるんだが、最近どうだ?」 エメラルドが酒を頼んで、茶屋娘に聞いた。エメラルドの口調が軽いのは、さすがに日中なので酔客が少ないため。仮に突っ込めば、「酔っ払いの相手は得意でない」と、ツンするだろう。 「ええと‥‥」 「すまないが、俺は先に行かせて貰う。アヤカシの卵ってのを早く知りたいんでね」 茶屋娘の様子を見て、竜哉が腰を浮かせた。 「あっ。待ってください」 まだ注文を取ってない茶屋娘は慌ててアヤカシの卵について、他の客に声を掛け始めた。 「噂は聞くがなぁ」 「調査してても、情報が錯乱することを恐れて相当慎重に扱ってるって感じらしいぜ?」 そんな話が集まってくる。 「すまないな。団子は、行きながら食わせてもらう」 「私たちはもうちょっと留まって、東堂俊一についても調べようと思う」 歩き出す竜哉に、エメラルドがそう声を掛けるのだった。 「♪〜♪〜」 エメラルドの横では、演奏を終え拍手で迎えられていたリスティアがさらに口笛を披露したり酒のお酌をしたり。 「こりゃ、本格的に飲むか!」 周りの客は昼間っからそんな乗り。 「あんた、開拓者? じゃあ、東堂俊一って、知ってる?」 リスティア、頃良しと仕掛けた。 「ああ。御船館方面で指揮してるって話だ。‥‥そういう位置にいるってことは才物なんだろうがなぁ」 「エメ?」 「ああ」 リスティアとエメラルドが頷き合う。 戦場が、違う。 というか、かけ離れすぎている。クジュトが東堂俊一と会うことは不可能である。 「強いのか? もしくは悪党上がりだとか?」 「知らんが、子どもを集めて教えてるらしい。文武両道をうたってるらしいぜ」 「策を弄するタイプだな、ありゃ」 聞いたエメラルドは、ふうん。 「では、最近物流などはどうか。不自由してないか?」 「そりゃ不自由してますよぅ。戦の物資は伊織の里に集められてますけど、逆にこっちには商人なんかが近寄ってくれなくて‥‥」 茶屋の娘がぶーたれる。もっとも、休憩客はいるようで。 「早く安心できるようになるといいな」 エメラルドとリスティアはそれだけ言い残して、辞した。 ● さて、竜哉。 「迷惑は掛けたくないしな」 身を隠しつつ、花ノ山城から遠目の森林で活動していた。 なかなか卵を発見できずかなり距離が離れたとも言うが。 「む。‥‥ようやく発見か」 巨石の影に隠れるように、白い大きな卵が並んでいた。大きさは樽程度。明らかにケモノや昆虫の類ではないと分かる。知らぬ者が見ればその禍々しさに震え上がるであろう。 が、竜哉は恐れもせず近寄る。無論、警戒しながら。 「卵、だな。‥‥手触りも」 蟲形状のアヤカシなので、性質を受け継いでいないかと思いを巡らせる。 「違いは、瘴気が集まっているような感じだけ、か」 慎重に、卵の表面を撫でたりこんこん叩いてみる。一つ一つの動きは、慎重。 「周りの草木への影響は、特にはなさそうだな。‥‥まあ、一つだけでは比較検討もできんが」 一瞬、これらを潰すかどうか迷った。 「どうせ孵るのはアヤカシだ。場所を知らせれば城兵が対応するだろう」 一つ潰すことで全部が孵る、もしくは卵ごと一気に潰すつもりが殻にしかダメージが通らず一斉孵化し袋叩きという事態が憚られる。ここはまず報告と判断した。 その後、竜哉の持つ鞭が風を切った。長い射程で一瞬早く先制する。 「蟻アヤカシか。‥‥卵は潰さないで正解だったかもしれんな」 数からして斥候だろう。寄られたところを脚絆「瞬風」で潰し、姿を消した。 鞭を大木の枝に絡め、枝の上に移動したのだ。 すでに倒れたアヤカシの瘴気は晴れている。 仮に他にアヤカシがいても、何があったか分からないだろう。 そしてクジュトたち。 「う‥‥。なんじゃ、こりゃ」 水辺の木々の陰に白い卵が並んでいる様子を見た某吾が眉をしかめていた。あまりにも不気味で禍々しい雰囲気だった。 「産みの親が卵を守っているかも知れないから気を付けておいてね」 それだけ言い残すと、シャハマが引き寄せられるように近寄った。 「おい、シャハマ殿こそ気を付けてくれよ」 「分かった。じゃ、俺は水場を調べつつこちらを警戒するぜ」 羅喉丸が調査に夢中になりそうなシャハマの護衛につき、クロウが小川の調査をしつつ背後方面の警戒を買って出た。 「所詮アヤカシの卵。余計な刺激はよしたほうがいいでしょう。それより、シャハマさんの言う通り卵を守るアヤカシの存在が気になります。それと、生みの親の痕跡‥‥」 「露羽さん、広域警戒は私がしますから存分に調査してください」 クジュトに言われ、露羽は調査に専念。 「すまねぇが、こっちゃこれから集中するんで、頼むぜ?」 某吾は戦う男の目付きとなり、筆と半紙帳を取り出した。大きさを伝えるためにシャハマの立ち姿を描いて卵を描いたり角度を変えたりする。 「へぇ、某吾さんは本格的ですね」 「ああ。‥‥俺の絵の師匠はシノビだからな」 感心して聞いた露羽は、某吾の返答ににっこりした。絵画は、偵察任務の多い者に重宝される技能でもある。 「では、こちらも記録しておいて下さい。‥‥この幹の傷は、おそらく大型のアヤカシのつけたものでしょう」 「つまり、大型のアヤカシが卵を産み付けているかもしれない、と」 こくりと頷く露羽であった。 「それにしても、奇妙だ、怖いと思って見れば、見慣れた風景も違うように感じるものですよね」 「そうですわね。ないはずのモノがあると、随分印象が変わってきます。‥‥あら、こんなところに黄色い網を被ったキノコ」 ふうっ、と周りを見渡す露羽に、たっぷり卵を確認したシャハマが満足そうに言う。珍しいキノコを見ることができて、こちらも満足そう。 「しかし、土産話はどうする?」 地図に印をしながら羅喉丸が聞いた。 「別の事例も確認してからにしましょう」 「わかった、クジュト殿。戦闘でも問題ないから、希望があれば遠慮なく言ってくれ」 「大型のアヤカシが生むんなら、この小川筋を確認するか、向こうの開けた場所か、だな」 クジュトに拳を固め力強さを見せた羅喉丸の頭の上から声が降ってきた。クロウが木に登り目を凝らしていたのだ。 「よっ、と。しかし、『森』って凄えよな。山に木がこんなに沢山生えてるなんて、俺の故郷じゃ考えられねえ」 「ええ。故郷を思えば本当に豊かで凄いです。‥‥水も豊かで、これなら醜い争いもないでしょう」 飛び降りるクロウがクジュトの肩を叩く。遠い目をするクジュト。 「おっと。そこの水にも変わったところはなかったぜ。水場が汚されてない、ってのは、いいこった」 砂漠地帯出身者ならではの会話で盛り上がる二人だった。 ● そして時は過ぎ、花ノ山城。 無事に一同は落ち合うことに成功している。 「おそらく、周りの瘴気を集めてるんじゃないかしら?」 「俺もそう思う」 シャハマが身を乗り出し瞳を輝かせると、竜哉も食事をする手を止め頷いた。 「本来、瘴気から生まれると言われているアヤカシがわざわざ卵から孵るっていうのは、より強いアヤカシを産もうとしているんじゃないかしら?」 あれから森に入り卵を見たリスティアが首を捻る。 「まあ、手を出さなかったし孵るところを見たわけではないから何とも言えまい」 エメラルドも唸る。 「でも、何かの準備ってのはあるんじゃない? 一斉に何かしようとか考えてるんじゃないかしら?」 「それは、あるな」 リスティアの言葉に腕を組むエメラルド 。 「そうだとしても、城にも作戦行動というのがあるでしょう。まず報告でしょうね」 「ああ、地図にも場所は記したしな。例え一斉攻撃があるとしても、これで奇襲ではなくなるはずだ」 露羽の言葉に、羅喉丸が頷く。 「土産話については、暑い日なのにひんやりした感じで汗も引いた、とか‥‥」 「実際は、卵そのものだったがな。‥‥不気味さについては、瘴気の集まる気配が表現できんが、それでいいだろう」 シャハマと竜哉が話し合う。 「大型アヤカシの痕跡があったのは、要注意ですけどね」 「ま、森の普通の生物がすでに危険を察知して移動してたみたいだし、後はいつ攻撃が来るか、だな」 露羽が付け加え、クロウも今回の役目は終わったと総括する。十分な偵察の成果である。 「東堂俊一については、またの機会に。土産話は下駄路さんの絵で十分でしょう」 「ま、こういうのはインパクトだ。大型アヤカシが動いてたってのが分かったし、瘴気が集まるってのもいい感じの情報だったぜ?」 クジュトの視線に、下駄路が描いた絵を広げる。 どでかいカブトムシ型のアヤカシが森を闊歩する姿に、異様な雰囲気の卵が描かれている。 ついでに、露出度の高い衣装のエメラルドも描かれていた。 「某吾、貴様〜っ!」 「今回はそのままの衣装じゃねぇかよ」 確かにそうで、渋々引き下がるエメラルドだった。 |