【香鈴】猫族、月へ祈る
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/08/29 19:43



■オープニング本文

「いやあ、面白かったネ。ぜひ、あたいらの集落でゆっくりしていくアル」
「ちょっと‥‥」
「アンタたちの集落って‥‥」
「もちろん、猫族の集落アル」
 きゃいきゃい陳新(チンシン)の腕を取った猫の獣人は、そのまま今すぐレッツゴーな勢い。突然の流れに言葉を失う陳新はそのままに、いつも元気な烈花(レッカ)が突っ込む。
 いきなりの展開だが、ここは泰国のとある町。
 泰国を気ままに雑技公演の旅を続ける香鈴(カリン)雑技団はここにいた。
 町の顔役に後ろ盾となってもらった公演は大盛況で、しばらく小さな公演ばかりしていた彼らも大満足。続けて広場などで小規模な雑技披露をしていたのだが、ここで件の猫族に陳新が抱き付かれてしまったというわけだ。
「す、少なくともこの町でお世話になっている人がいるから、その人たちに許可はもらわないと」
「そんなの関係ないアル。ちょっと遠いけど、今すぐ行くネ。みんな喜ぶアル」
 陳新に顔を寄せキスでもしそうな勢いに、雑技団の皆美(みなみ)と在恋(ザイレン)が不満そうな目をし、紫星(シセイ)が露骨に不快感を表わしすうっと息を吸い込んだ。
「待った。‥‥俺たちはこの町で、開拓者と待ち合わせているんだ。彼らが来ないと、ここは動けない」
 紫星(シセイ)を制して、リーダーの前然(ゼンゼン)が毅然として言った。猫族の娘も、開拓者への依頼の重さは理解しているようで、「今すぐ」度の高いせっかちな様子から落ちついたようだ。
「まったく陳新たら‥‥。いつもならこのくらいの知恵、回るじゃないのよ。何やってんだか‥‥。まったくだらしないんだから」
 前然の隣で紫星がぶちぶち言うが、その目がまた見開かれた。
「開拓者! さらにちょうどいいアル。あたいらも、実は開拓者を雇うためこの町に来てたヨ」
 大歓喜! な感じでさらにうぎゅーと陳新に抱きつく猫族娘。皆美がさらにジト目で陳新を見る。
「‥‥でも、あたいら開拓者を雇ったことがなくてどうしていいか分からなかったアル。困ってたところ、あんたたちの公演見たネ。とっても素晴らしかったアル。おかげで開拓者にお願いすることもすっかり忘れてたヨ」
「ちょっと‥‥。まずは君の名前を教えて」
「あたいの名前は、リャン。あんたは、陳新いってたネ。‥‥ぜひ、あたいらの集落でアヤカシ退治をしてほしいアル」
「あ」
「おいおい。何だよ、この女‥‥」
 熱烈猫族娘のリャン、何と陳新のほっぺにキスをした。皆美が無言で泣き出しそうな顔をすると紫星が怒り交じりの声をあげ、兵馬(ヒョウマ)がいつのまにか「集落に行ってゆっくりする」から「アヤカシ退治をする」にすり変わった猫の目的な主張に呆れかえる。
「リャン、とにかく待ってくれ」
 止める前然。
「よし、その条件飲んだネ。交渉成立アル。開拓者が到着したら、ここで待ち合わせてあたいらの集落に出発アル。あたいは、一緒に来たおやじ殿に開拓者雇えたこと伝えるアル。‥‥これで、無事にお月様にサンマのご馳走をお備えできるアル」
「あ。猫族の神事の季節か」
「そうアル。秋を前にお月様にお供えして祈りを捧げるネ。でも、新鮮なサンマを獲ろうにも浜の船の近くに難破船が流れついてそこから幽霊アヤカシがたくさん出てきたネ。このままだと神事ができないヨ」
 つぶやいた陳新に、リャンはここぞとばかりに顔を近付けうるうるとお願いする。
「分かったからとにかく離れなさい。うっとおしいったらありゃしない」
 リャンを陳新から引き剥がす紫星。
 この話がまとまった瞬間でもある。

 こうして、実は別件で開拓者ギルドに依頼をする直前だった香鈴雑技団は、難破船から出てくるアヤカシ退治を依頼するのだった。
 戦場は、流れついた難破船を中心に半径4スクエア半円の砂浜。
 存在するアヤカシは、手ごわい亡霊武者数体に、幽霊約10体、怨霊5体前後、さらにカラスのような雲骸が多数いる。難破船は、海上船の改良タイプの飛空船で何と逆さまになって流れついている。浜側にさらした右舷に大穴が空いており、内部にはここから突入もできる。基本的に敵は隠れており、2スクエア半径エリアに近寄ると出てきて襲いかかって来る。
 猫族はこの浜から物理的に出港できないわけではない状況ではあるが、当然ながらアヤカシと浜で住み分けるなどという非常識はしないため、完全退治を望んでいる。
 開拓者の戦略は、いかに。


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
煌夜(ia9065
24歳・女・志
奈良柴 ミレイ(ia9601
17歳・女・サ
宿奈 芳純(ia9695
25歳・男・陰
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
ロック・J・グリフィス(ib0293
25歳・男・騎
将門(ib1770
25歳・男・サ
セシリア=L=モルゲン(ib5665
24歳・女・ジ


■リプレイ本文


「あれがその難破船、か。見事に逆さまになっているな」
 戦場となる砂浜を前にした森林で、琥龍 蒼羅(ib0214)が口元を引き締める。
 木々を縫った視線の先には、まるで茶碗を伏せたような形で大きな船が砂浜に打ち揚げられていた。
「ンフフ‥‥。あそこからぞぉろぞぉろ出てくるのねぇ」
 ぴしり、と鞭をしごいて上唇をぺろりと舐めるのは、「妖艶香蓮陰陽」ことセシリア=L=モルゲン
ib5665)。あそこ、とはひっくり返った船の側面にぽっかり空いた穴。先は暗くて見えない。
「そうアル。あたいたちが近寄ろうとしたらわんさと幽霊とかが出てきて酷い目に遭いそうになったアル」
「ちょっと待って、リャン」
 にゃっ! と気勢を上げた猫族のリャンに、香鈴雑技団の陳新が突っ込んだ。
「何で近寄ろうとしたの?」
「難破船にお宝は付きものあるヨ〜♪」
「よく無事に逃げられたナぁ」
「あたいたちの逃げ足に敵うものなんてないアル!」
 陳新にはらぶらぶに答えた一方、烈花にはとげとげしく返す。陳新の腕に抱きついている状況もあり、皆美はおろおろ泣き出しそうだったり。
「はぁっ‥‥。精霊と関係の深い猫族の文化には私も興味あるんだけど」
 この様子を見て額に手をやるのは、煌夜(ia9065)。「香鈴のステラ姉ェ」としては、妹たちの辛そうな姿を見たくはない。
「しーっ。しばらく静かに。‥‥今は夏ですが、陳新さんには春が来たようですね」
「陰陽さん〜」
 「香鈴の陰陽さん」こと、宿奈 芳純(ia9695)が穏やかに割って入ったのだが、これには陳新が困ったような声をあげ、皆美はさらに泣きそうに。
「‥‥からかって申し訳ありません」
「ぷ。‥‥冗談を言ってくれるようになったんだから、それは嬉しいゼ?」
 空気を読んで謝る芳純に、兵馬が喜んでばんばん背中を叩く。
 ここで、すっと立ち上がる人物が。
「秋刀魚を供える神事か、面白い‥‥。俺は、ロック・J・グリフィスという、以後お見知りおきを」
 胸の前で右手を水平にして騎士の礼をするロック・J・グリフィス(ib0293)。
「ちょ‥‥。あんた、大丈夫? 潜伏してんのよ、今」
 慌てて突っ込む奈良柴 ミレイ(ia9601)。
「奴らは出てきていないので大丈夫だ。‥‥異郷の神事というのを眺めるのもまた一興、それに、美しい猫族のお嬢さんの頼みとあれば、無下にするわけにも行くまい」
 ふっ、と掲げた薔薇の花をリャンの方に向け言い放つ。リャンはこの演出で両手を組んで胸キュン。陳新はこの隙に脱出した。
「ま、とりあえず、砂浜からじりじりと近付いて敵が接近してくるのを叩いてお終い、だナ」
 梢・飛鈴(ia0034)は背後のやり取りを一瞥しただけで、敵の監視を続けている。
「ああ。じりじり、だな。陣形を整えて難破船に近付くしかないだろう。まあ、俺は前しかできんから後ろは任せる」
 「戦略の将」こと将門(ib1770)も、状況からそう判断した。
「旋風(カゼ)姉ェ、頼むゼ」
 リーダーの前然が声を掛けると、「香鈴の旋風姉ェ」こと飛鈴は振り返って不敵に顎を引くのだった。


「前然、猫族は任せたぞ」
「分かった。蒼(ソウ)兄ィ」
 振り向き指示を出す「香鈴の蒼兄ィ」こと蒼羅。前然は念のために戦闘準備をしながら親指を立てる。
 さあ、開拓者8人が砂浜に出た。
 さくり、とここで煌夜が止まり、横に手を伸ばして仲間を止めた。
 煌夜は心眼「集」の使い手。この程度の距離なら気配を探れる。
「中にはうようよ居るわね。‥‥穴付近に集まっている、って感じじゃないかな。なるべく多数に一気に襲いかかられないようにしたいけど」
「できる限り徐々に外に誘い出して退治、ですね。偵察も兼ねて、誘い出してみましょう」
 煌夜の視線の意味に気付き、芳純が人魂で小鳥を出した。「それっ」と宙に放る。
 ぱたたっ、と飛んだ小鳥は難なく穴から船内に侵入した。
「意外と外には来ないな」
「ね、中はどうなのよ?」
 ふむ、と顎に手をやる将門に、内部探査の結果をねだるミレイ。
「入ったとたんやられました。今ので入り口近くに亡霊武者が移動しましたから、次はすぐ来るかもしれません」
 中空を見据え小鳥視線になっていた芳純が普段の様子に戻ると、私見を混ぜて報告した。
「じゃ、近付くカイな」
 ずい、と歩を進める飛鈴。
「ンフフ。さくっとヤってしまうわよォ。ンフ」
 隣でセシリアも妖しく笑みを浮かべ、ブーツですらーっと長く映える脚をモデル歩調に進めて続いた。‥‥腰の揺れる歩き方なので、連動して巨大すぎる胸の双球が好き放題揺れている。この様子に眉間に手をやり溜息を吐くのは、煌夜。
「前然くんとか、赤くなってたわねぇ‥‥」
 それを言うなら煌夜もからかったことはあるが、まあそれはそれ。
 ともかく、静かな攻防が続く。


 さて、森から半分ちょい手前の距離まで近付いた。
「咆哮、いくか?」
「俺はいつでもいいよ?」
 間合いで戦う志士、蒼羅が仲間を振り返ると、唯一咆哮を準備したサムライ、ミレイがいつでもOKと面を引き締める。
「いや、炙り出しに使ったほうがいい」
「なるほど、船内探索時に敵が残ってるのも厄介だしな」
 将門の指摘に、うむ、と納得する蒼羅。
 さらに前進する。
 その時。
――墜ちるゥ。
 不気味な叫びが脳に響いた。
「‥‥勘弁してほしいわね」
 く、と頭を押さえてミレイが嫌な顔をする。
「呪声ですか?」
「来たぞっ!‥‥しかし、透過するか」
 誘き寄せに人魂で小鳥を出した芳純がミレイに気を使う。しかしその時にはもう敵の幽霊が出ていた。ロックが叫ぶ。船底部分各所から一気に湧き出してきた様子はおぞましかったが、ロックは揺るがない精神力で凜とした声を張り聖十字の盾を前に出し、騎槍「ドニェーストル」を構える。
「接近は我慢しろ。この場で迎撃だ」
「ンフフ。‥‥いらっしゃぁい」
 将門が接近の戦線拡大に釘を差す。セシリアなぞは敵を誘うように妖艶な動きをして、若干下がる。
 一方の敵、亡霊は飛んでいるだけに寄りが速い。
「亡霊カ‥‥ま、打撃が通じれば特に恐れる必要もないカ」
 手数なら任せろとばかりに飛鈴が正面に位置した。
「ちょっと、次が来るわよっ!」
 索敵を続けていた煌夜が叫ぶ。
 何と、今度は穴から大量の黒いカラスが一斉に飛び出してきたのだ。
「んじゃ、サービスといくかいナ」
 泰拳袍「獣夜」をひらめかせ脚絆「瞬風」装備の脚を美しい円軌道で放っていた飛鈴が、ここで本気の旋風脚。亡霊に対し回転を加えた蹴りの一撃必殺に切り替える。
――戦力の逐次投入は愚の骨頂ゥ〜。
 さらに呪言葉。今度は怨霊で威力が高い。
「囲まれたか。‥‥こいつら、もしかしたら戦い慣れしてるかもしれんな」
「来た。全力出撃みたいだな」
 刀「嵐」で嵐を呼ぶような戦いを繰り広げていた将門がそんな判断をしつつ不動で守りも固めた時、蒼羅の声が響いた。
「来たわね。‥‥もう、けちってらんないか」
 カラス型の雲骸をばっさばっさと一撃で倒していた煌夜が、改めて船の穴を見る。
 そこからは、立派な鎧兜と手にした大きな刀のみの姿があった。
 五体。
 宙を浮かびながら高速で迫ってくる。
「こっちよ、バカ武者! ‥‥後ろ、頼んだわ」
 ここでミレイが金髪ツインテールをひと振りしてそそり立ち、渾身の咆哮。仲間に背中を預け、突貫する。


 ざざざ、と砂浜をミレイ、ロック、蒼羅、将門、飛鈴が走る。
「一気に畳むぞ」
 蒼羅の掛け声。
 五人の背後では、蛇と熊鷹が乱れ飛んでいる。
「ンフフッ!!もっとよォ。このくらいでは足りないわァン。ンフ」
「喰いなさい」
 豊富な練力量を武器に、セシリアと芳純が好き放題蛇神や魂喰いを連発しているのだ。
 片や、丸めて掲げた鞭から巨大な蛇が1匹ずつ飛んでいく姿。
 もう一方は、構えた黄泉笏から獰猛な熊鷹が1匹ずつバサバサ生み出される。
 続く練力と合わせ、亡霊どもに劣らず恐ろしい光景ではある。
「存分にあばれてらっしゃい」
 その、両翼引き気味の中心から、煌夜。鍛えた降魔刀は雑魚を一刀滅殺できる威力だ。両手持ちの確かな剣戟。次を狙う鋭い瞳。緩みなく次々亡霊を落し仲間を励ます。
「その言葉に甘えさせてもらう。‥‥テンプルナイツトルネード‥‥塩となれ、アヤカシよ!」
 聖堂騎士剣で突っ込んだロックは、しかしッ!
「何ィ?」
 渾身の一撃を耐え切る亡霊武者。塩と化した半身にも戦意は衰えず、手痛い反撃を食らう。
「容赦しない!」
 蒼羅も反撃を食っていた。燃える瞳に決意が宿る。すでに銀杏で次なる一手は万端。次の瞬間、またも魔刀「ズル・ハヤト」で雪折一閃!
「コイツ、恐れを知らんカ」
 連続の手数で勝負している飛鈴も傷みに顔をゆがめていた。
 片手をついて先手の蹴りを敵胴丸に叩き込んだが、反撃を食った。それでも飛鈴の予定の行動は止まらず、起き上がりざま敵顎下に右の蹴り。
 が、ここからが連環腿の、いや、飛鈴の極意。
 先の蹴りを予備運動に、さらに本蹴りの左を高々と。仰け反る敵はすぐさま体制を立て直すが、その動きは思うつぼ。宙に浮き振り上げた脚を旋蹴落として頭に落とすッ!
「しつっこいナ」
 目を見開きつつ、最後に旋風脚をくるり・くるり。ようやく片付けた。
「化け物め‥‥」
 将門も、まさかの手傷を負い目を見開いて振り返っていた。得意の新陰流で仕留め切れなかったのだ。
 さらに敵の攻撃。覚悟を決め構えを固める将門。
「柳生新陰流が奥義っ!」
 瞬間、刀の切っ先が幾つにも分身したっ! いや、残像である。
 そして、激突っ。
 切っ先を伸ばした将門の瞳は、ぶれない。その背後で亡霊武者が崩れた。
 これぞ柳生無明剣。
「まったく、手こずらせてくれたわね」
 ばさっと高くひらめいた傾奇羽織が落ち着くと、薙刀「巴御前」を叩き込んで俯いたままのミレイのすまし顔が現れた。結構痛い目にあったようだ。
「‥‥雑魚はまだ居るようね」
 そのまま構え直し、残敵討伐に取って返すのだった。


「よし、早く漁に出るアル」
「出るアル」
 開拓者がアヤカシを全滅させると同時に、待機していた猫族がわらわらと飛び出しサンマ漁へと出掛けた。
「慌しいわね」
「所詮猫はあんなもんじゃないかしら?」
 呆れる煌夜に、髪を後に跳ね退けて我関せずなミレイ。
「懐かしい型の船だ‥‥空賊になりたての頃はこんな船ばかりだったが」
「じゃ、隅から隅まで探索だな」
 ロックが見上げ、将門が親指で穴を指す。
「心眼では敵は残ってなさそうだが、慎重に行こう」
「ンフフ‥‥。夜光虫を用意してきたわぁ」
 先頭を行く蒼羅に、明かりを用意するセシリア。さすがは夜の似合いそうな陰陽師である。
「これは‥‥。天井を歩くと言うのは少し妙な感覚だな」
 慎重に進む蒼羅。梁の部分や船室の鴨居を跨いだりと常識外の行動が多い。
「腐った板だらけカ‥‥。お、宿」
 突然、探索をしていた飛鈴が芳純を手招きした。
「どうしました?」
「両手を出ス」
 芳純が首を傾げて出した両手に足を掛けると、飛鈴はさらに芳純の肩を足場にし上の階層――実際には下層だが――に上って行ったりも。階段が朽ち果てていたのだ。後続のため縄を垂らしたり。
 そして、探索があらかた終了する。
「どうやら塩の交易船だったのかしらねぇ?」
 無事な樽を開け、中の粉を舐めてセシリアが言う。
「骸が残ってるナ。猫族に弔わせるカ」
「それより、飛空船の動力部分に宝珠が残ってるが‥‥」
 戻ってきた飛鈴。全員揃って将門が聞いた。めぼしい物は宝珠だけだ。
「元々が猫族の船という訳でもないし」
「持ち主の手がかりを調べたが、なかったな」
 うーんと唇に指を添える煌夜。蒼羅はナイスな着眼だったが、空振り。
「ギルドに持ち帰りが良いと思う。ここの部族のことなにも知らないし」
「確か天儀ではこう言うのだろ‥‥猫に宝珠」
 ミレイが言うと、オチをつけるロック。ミレイと飛鈴から突っ込みの手が飛ぶ。
「じゃ、さくっとギルドに持ち帰りね」
 煌夜が話をまとめると、にゃーにゃー猫族たちが戻ってきた。どうやら大漁だったらしい。


「これは、不思議な気分ですね」
 長身の芳純が頭をかいた。
 案内された猫族の集落は、どれも家屋が小さかったのだ。
「ともかく日が暮れるアル。今日は満月。絶好のお供え日和ネ」
 時は夕暮れ。
 リャンが陳新の腕を取って皆を祈祷する場所に連れて行く。これを見て沈みがちな皆美。
「はあっ‥‥」
 この状況に、煌夜が溜息。
 そして、神事の会場。
 なにやらまん丸で大きな石を祭ってある祭壇を中心に、猫族が集まっている。周囲には、かがり火。
「他の猫族とは、ちょっと違う?」
「あたいたちの集落では、こうアルよ?」
「‥‥確かに、集落ごとに少しずつ違うって聞いたことはあるね」
「陳新は物知りあるナ♪」
 紫星の疑問に答えたリャンは、陳新のつぶやきでさらにべったり。
「しっ。始まるよ?」
 これを黙らせた陳新。確かに、神官が前に出て、集まった猫族たちが一斉に頭を垂れた。
 奏上される祝詞。
 打ち払われる弊。
「‥‥天儀の神事に近いですね」
「アル・カマル的な礼もするような‥‥」
「服装は泰あるガ」
 ぼそっと芳純がこぼし、煌夜がこっそり頬をかき、飛鈴が突っ込む。
 とにかくよく分からない。
 そして、大きなサンマ三匹が供えられ、さらに祝詞などが続く――。

「さー。後は飲んで食べて騒ぐネ」
 神事が終わると、いきなりぐっと砕けた雰囲気となった。
「ちょっとリャンちゃん、この神事ってつまり、月をだしに飲んで騒ぎたいの?」
「違うネ。お月様に感謝しつつ、一緒に飲んで騒ぐアル」
 なにやら煌夜がリャンに質問攻めをはじめたようですよ?
「サンマを月に供えてどうなるの? いったいどういう考え方してるんだか」
「お月様、サンマお供えすると喜ぶアル。ほら、あんなまん丸で赤くなって喜んでるネ」
 ミレイのツンに、まだ空に低く大きく見える月を指差すリャン。
「まあ、確かに奇麗だがな」
「そうだな」
 酒を飲みつつ、将門が認め蒼羅も頷く。眺める月は見事であった。
「ところでリャン嬢、お供えの3匹という数には、何かしらの謂われがあるのかな?」
「アンタは好物、一本と二本と三本、どれが嬉しいあるカ?」
 ロックもからかい、にゃにゃんと突っ込むリャン。
 この様子を、皆美がおろおろしながら見詰めていた。
 すると、煌夜がにこっと目配せした。
 気付くと、あれほどリャンにべっとりされていた陳新がやれやれ、といった感じで安堵の溜息を吐いていた。
 ぱあっ、と笑顔の華が咲く皆美。これをみて煌夜も安心した。
 が。
 当の陳新が在恋の方に行ったり。
 ううう、と悲しそうにしたところ、皆美の親友の在恋を連れて陳新がやって来た。
「やれやれ、ね」
 この様子にほっとする煌夜。

 ともかく、猫族の宴はにぎやかに続く。