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■オープニング本文 ここは天儀、国は武天。 とある街道の抜け道となる、人里離れた山の中。 木々のない広場に、ばさりと旗の掲げられた砦がある。 旗には、何ともへにゃりとしてお世辞にも巧いとは言えない、それでいて味のある崩れっぷりの武者猫の絵。 キャラクターの名前は「泰ニャン」というが、それは余談。 「あいよ、いらっしぇい。‥‥おおい、旅でお疲れの行商旦那一人、ご案内だぜぇ!」 不意に響く威勢のいい声。 「ほいよ、山賊焼きと山賊むすび、味噌汁付きで四人前、上がったぜ」 じゅう、と鶏肉の焼ける音も。そしてまた誰かが訪れたようだ。 「お、もう一人。‥‥義賊が守るお宿『山賊砦』にようこそ。ここぁ、座敷の作法も上品な振る舞いも必要ねぇ気楽な場所だ。腹いっぱい昼飯を食っていってくれよ」 そう、ここは山賊砦。 泰国からあぶれて流れついたチンピラが改心し、「泰猫隊」として人生を一からやり直すと杯を交した、誓いの場所。 元気に働き、周囲の平和を守る。 商売だって繁盛繁盛。 今日も武天は天儀晴れ――。 「すまんっ。あんたらの腕を見込んで頼みがあるっ!」 昼の客足がなくなったころ、山賊砦に一人の男が駆け込んで来た。薬売りや行商人のように、大きな荷物があるわけではない。 「どうした、ケモノにでも襲われたか?」 「違うっ。アヤカシだ。アヤカシの大群にっ」 ごほっとむせる男。 対応した泰猫隊の男は水を差し出しとにかく落ち着くよう言った。 「‥‥すまない。なあ、あんたらが、昔ここを根城にしていたあくどい山賊を倒し、この前はあっちの村の蛍アヤカシを退治した泰猫隊だろ? 頼む。俺たちの集落が危ないんだ。ぜひ、力を貸してくれ」 泰猫隊リーダーの瑞鵬(ズイホウ)がやって来て詳しく聞くと、どうやらイノシシより大きな蟻アヤカシの集団が集落近くの里山に多く出現して、日々居住地に行動範囲を広げているので退治してほしいという内容だった。 「‥‥ははぁ。今開拓者ギルドに出回り始めてる頼みごとに似てるなぁ」 ここで口を開いたのは、同席していた旅泰(りょたい)商人の林青(リンセイ)。瑞鵬たちをここに連れて来た縁で、泰猫隊を何かと支援している立場だ。 「どういうことです? 林青さん」 「なに、武天の伊織の里付近で、軍隊蟻というアヤカシの退治依頼が開拓者ギルドに多く出ててな。おそらくその付近のアヤカシが活性化しているのではないかと言われてるんだが‥‥」 「そう、ですね。敵がアヤカシと分かっているなら、開拓者に頼むほうがいい」 林青のつぶやきを引継ぎ、瑞鵬はきっぱりと言う。 「いや、逆にそういった依頼が多すぎるか何かで、いまギルドで開拓者の集まりが悪いらしい。ほかにもいろいろあるようだ」 実際、伊織の里関連だけでも多彩な依頼が寄せられている。何か大きな動きがあるのではないかと目端の利く者は見ているようだが、ともかく人員の分散により開拓者の集まりは比較的悪くなっているとされている。真相はともかく。 「‥‥分かった。とにかく、時間稼ぎはしよう」 瑞鵬、この話を受けた。。 「ともかく、私の方からも開拓者を募ってみる」 林青もそれだけ言った。 こうして、泰猫隊の守る防衛線に駆け付け合流し、軍隊蟻を退治する開拓者の募集がギルドに張り出されることとなる。 瑞鵬たち泰猫隊18人は、副隊長の錐間(キリマ)の策で集落手前の川まで引き、水量は少なく底も浅いながら水害に備え深く整備された土手を堀として防衛活動を続けていた。最終ラインである。 おかげで泰猫隊に犠牲者はまったくないが、敵の数も増加しているという状態に。 一気に滅することができるか、怒涛のように突破されるかの瀬戸際である。 開拓者の奮起と、泰猫隊の適切な運用が求められる。 腕の見せどころだ。 |
■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
各務原 義視(ia4917)
19歳・男・陰
ルエラ・ファールバルト(ia9645)
20歳・女・志
ラシュディア(ib0112)
23歳・男・騎
ロック・J・グリフィス(ib0293)
25歳・男・騎
エリーセ(ib5117)
15歳・女・騎
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
スレダ(ib6629)
14歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ● 「くっそぉ〜。今日は何なんだ。‥‥何で次から次へとアリンコが来るんだっ!」 「ぼやくなっ。今までと同じ、横払い攻撃で時間を稼げっ。きっと開拓者が来る」 泰猫隊は苦戦してた。 集落に到着してから、居住地手前にある深い堀でほぼ流れのない川を上手く利用。敵を追い払う戦いを繰り広げていた。敵の蟻アヤカシの数はあまり減っていないが、無理をしていないので泰猫隊メンバーも健在である。 半面、泰猫隊の疲労は蓄積し敵の数も増え、ついに400匹に達した敵の総攻撃にさられていた。 「とにかく長い槍を振り回して空間を作り、橋を守れ。弓術隊は橋以外から回りこむ敵を狙え。当らなくてもいい。手前に落とせよ」 泰猫隊リーダーの瑞鵬が声を張る。 「いや、弓も橋を狙って。‥‥このままじゃ中央を突破される」 副官の錐間が追加の指示を出す。蟻が密集しているので当りやすいという読みもある。 しかし、蟻アヤカシは今までのように下がらない。 「とにかく間に合わねぇ。弾幕を張ってくれ」 「無茶言うな。下からも回り込んでるんだぞ」 ――これは拙いぞ。 誰もが感じていた。 敗戦の予感。 つまり全滅し、故郷を離れたこの場所で命運尽きるのかと、誰もが思った時だった――。 ● 橋の敵正面に、突然一陣の風が割り込んだ。 「みんな、無事かっ」 きらめく短い忍刀「蝮」が蟻を一撃で屠る。 「ラシュディアさんっ!」 「まったく、志体持ちじゃないのに、そんな奴らを相手取ったら‥‥」 落とした腰を上げちらっと振り向いてから、「斥候の要」ことラシュディア(ib0112)が微笑んだ。すぐさま前を向くと刀を振るい、崩れかけていた最前線を支える。 「最初から全開で行かせてもらうぜ」 続けて、背後からの声。 「轟け、迅竜の咆哮。吹き荒れろ――トルネード・キリク!」 ごうっ、と風が荒ぶった。 振り返る泰猫隊。 そこには、アクセラレートで急いで来た風雅 哲心(ia0135)が「オレイカルコス」を掲げたまま立っていた。感じる術の手応えは、いい。 「よしっ。橋は落ちなかったな」 味方は無風の安全地帯に固まっている。哲心の心配は橋だけであった。結果、橋の上や左右の堀の下にいたアヤカシだけが吹っ飛んで消滅した。敵総数、約一割減。 「みんな、待たせたっ! 俺達が来たからにはもう安心だ、さぁ、この山場を乗り切り、一気に押し返すぞっ!」 ばさっと泰猫隊の旗を振って橋のたもとに突き立てたのは、ロック・J・グリフィス(ib0293)。そのまま残った敵を討っているラシュディアの横を抜け出て、一瞬空白地帯となった橋の真ん中に聖十字の盾を構えてがっしりとそそり立った。「もう、ここは通さん」と背中が語る。騎槍「ドニェーストル」を改めて構えた。 「瑞鵬さんっ。この橋で迎撃するので、討ち漏らした敵や川を渡って土手をのぼってくる敵への対処をお願いします。‥‥状況によって橋を落しますよっ」 声を張って指示を出すのは、各務原 義視(ia4917)。軍師らしく、まずは全軍掌握。主戦場の橋に開拓者を集中配置し両翼を泰猫隊で固める陣形を指示した。 「待ってくれ。‥‥交通の要衝、集落の財産でもある橋を落すのかっ」 「橋は誰が造りましたか。真の財産を見誤らないことですっ。‥‥誰も、ここで死んではなりません。あなたたちも!」 泰猫隊から上がった声を、優先順位を解くことで納得させた義視。自らも斬撃符を放ち戦線を支える。 「ん‥‥?」 ここで、哲心が気付いた。 (トルネード・キリクを警戒したのか?) 何と、橋に集中して寄せていた敵が左右広くに展開し始めていたのだ。先ほどより密集度が低くなり、範囲攻撃の効率が悪くなっている。 (まあ、いい) 複雑になった戦線。 哲心は攻撃をアークブラストに切り替えるのだった。 ● さて、義視の指示に従い右翼に展開した泰猫隊。 「くそっ。蟻はこの程度の堀、難なく上ってくるな」 とはいえ角度のある堀では、槍の大薙ぎ攻撃一発で蟻は下に落ちていた。 しかし、今は数が違う。 広範囲に槍を振るう分、横へ横へと新たに回り込まれている。 「しまった。堀を上がられたっ!」 ついに防衛ラインを突破されるが、セイントローブがなびき瑠璃色の精霊力を纏った降魔刀がひらめいた。 「ルエラと申します。よろしくお願いします」 どん、とベイル「翼竜鱗」を大地に構えたルエラ・ファールバルト(ia9645)が絶対防衛の覚悟で支援に入った。戦中を思わせない薄い微笑が泰猫隊に安心感を与える。間髪入れずベイルが障壁の輝きを放つ。 「せっかちですね」 防盾術も使い、次々と止めた敵を討つ。纏めた赤い長髪が激しく揺れるさまは「紅赤の志士 」の二つ名にふさわしい戦果を見せる。 一方、橋の左翼。 堀を登った蟻を、一瞬早く誰かが寄せて割り込み対峙した。 「皆、無事かっ!」 「白いお嬢さんっ!」 なびくロイヤルナイト・サーコートが落ち着いて現れた姿に、泰猫隊が歓声を上げた。 交わした約束はいつの日か、凛々しく成長を遂げた姿はすでに堂々たる騎士。それでいて見据えた瞳の初々しさはあの時のまま。十字剣「スィエールイー」を振るうエリーセ(ib5117)、ただいま参上。 「助かった。これで生きて帰れる‥‥」 「うむ、帰るぞ。思い返してみれば私はまだ山賊焼きを食べていないのだ」 疲弊の激しい仲間に皮の水筒を投げて渡し頬を緩めるも、すぐにきりっと面を引き締めた。 「‥‥そのためにも、敵を全滅させるぞ」 「おおっ!」 泰猫隊の士気が、爆発した。 右翼に展開してくる蟻を、叩く、叩く、叩く。 「戦友の窮地にこうして馳せ参じる事が叶った私は幸せ者だ」 戦う最中にもつぶやくエリーセ。 が。 「‥‥おかしい。私の考えでは前に出ず橋を中心に戦うのが良いと思ったが」 エリーセは戦いながらも首を巡らせる。 回り込む敵に対応するため、結構橋から離れてしまっていた。完全包囲されるのも問題なので仕方なく前に出ている。 (数の差を考えると戦場を幅広く使われるのが怖い。初期段階では橋を組みやすしと見せたかったのだが‥‥) あるいは、絶大な効果を見せた範囲魔法スキルの影響か。 ともかく、戦線は広がっていた。 ● エリーセが不審に思った少し前。 「泰猫さん達、前に出ないでね!」 主戦場の橋詰め二列目で明るい声が響いていた。右で結った髪が可愛く揺れる少女は、魔杖「ドラコアーテム」を掲げる。 今日も元気いっぱい、リィムナ・ピサレット(ib5201)である。 頭上に呼んだ火球、杖は魔槍砲のように構え‥‥。 「距離〜、目標捕捉! メテオストライク、シュート!」 アヤカシはあたしの魔砲でぶっ飛ばし☆とばかりにメテオストライク。狙う着弾点は反対の橋詰めのアヤカシだ。 「ちゅど〜ん!」 とは、リィムナの叫び。 見事に着弾、大爆発し辺りのアヤカシを吹っ飛ばす。 「まだまだいくよ〜っ」 主に敵後続を狙い、大量滅殺している。 「よし、押し込める。私も行こう」 好機と見て前に出ようとする義視。とはいえ、手前の敵はロック、ラシュディアが退治しているがまだ多い。 そこへ、アル=シャムス出身のエルフ、スレダ(ib6629)が駆けつけた。 「道を作ってやるですから、ちょい待つですよ。‥‥負傷してない方、護衛お願いするです」 泰猫の槍隊を護衛に最前線へと出る理由は‥‥。 「空に煌く七つの星よ。力を貸してくれです‥‥っ!」 手前に掲げる直径30cmは「三角縁神獣鏡」。 南方アル=カマル出身エルフの正面広範囲にブリザードストームが今、吹き荒れるッ! 「よし、ありがとう」 開いた隙間を走る義視。蟻が左右から詰めるがかすり傷など意にも介さない。 ちょうど、この時だった。 護衛とともに下がるスレダが気付いた。 「誘引液が付いた物があるかもしれねーですし、作り直しが出来る物は廃棄しておいた方が良いかもですね。この橋も‥‥ん?」 視野が広くなり、戦況に気付いた。 左右両翼に蟻が広範囲に散り、泰猫の弓隊の攻撃をかいくぐり遠巻きから堀を突破しているのだ。 範囲攻撃を警戒し、敵たる我々を狙っているといえばそれまでだが、集落へ一気に突破する蟻がいない。 「誘引液か敵隊長の指示か、ともかく‥‥」 スレダ、サンダーに切り替え個別に狙う。 そして、別の戦場。 エリーセも気付いた。 「おい、誘引液で狙われてるかもしれないぞ」 「ホントですかい、お嬢さん」 エリーセから声を掛けられた泰猫隊員が自分の体を匂ってみるが、そんなことで分かるはずもない。 とにかく、今までの戦いで誘引液を浴びていた泰猫隊を左右に展開させたことで範囲攻撃の効率が落ちる、密度散漫な広域戦の様相を見せ始めるのだった。 ● さて、正面に切り込んだ義視。 「精鋭もなく数で寄せる愚をその身で払うがいい」 抜いた短刀は「彷徨う刃」。やたら範囲の広い無差別攻撃スキル「悲恋姫」の呪いの悲鳴を響かせる。全周の多くの敵がこれでくたばるが、敵の密度が薄らいでいるので範囲のわりに敵総数を削れなかった。 それでも、さすがに開拓者の広範囲攻撃。すでに敵は総数から三割程度に減少している。 「どうします?」 橋の上で、瑞鵬が開拓者に助言を求めていた。 「義視の援護に行く。牽制の弓を‥‥。槍を持つ者は俺と共に防衛線を維持しつつ、突き返しだっ。数は多いがそれだけだ、怯むなっ‥‥さぁ、俺に続け」 即座にロックが指揮を取った。仲間を前線で見捨てるわけにはいかない。 マントをばさっと翻し、ハーフムーンスマッシュで景気付けをすると一気に出る。泰猫隊も士気を上げ付き従う。前線では義視、下がりながら前に来るよう手招きをしていた。今、結界呪符「白」を出した。敵の分散は見て取ったようで、出来るだけ前で囮になり泰猫隊の負担を減らす覚悟だ。 「く‥‥」 ラシュディアは、ロックの殿を支援するか堀へと広がる敵を討つか迷った。 「身軽な俺は、妨害に徹するか」 ラシュディア、忍ぶ道を選んだ。右翼の堀に取り付いた蟻へ打剣で手裏剣を放ち、早駆でルエラの援護へ。 「ラシュディアさん、遠くに回った敵がそのまま集落へ行かないか気になります。ここは私が責任持って防ぎますので、そちらを」 ルエラは心眼「集」を使う。索敵範囲は広い。加えて、自ら防御を率先し泰猫を守りながら、確実に敵を倒している手堅い戦いを繰り広げている。逆に言うと、弓の手が足りずに大きく回る敵に対応できず放置している状況だ。 「分かった、任せてくれ」 どのみち一撃離脱は俺の戦い、と動きまくるラシュディアだった。 「ここは三角の中心か? ちょうどいい。数の暴力には慣れてるんでな。徹底的に叩き潰して行くまでだ。瑞鵬、続けっ」 哲心は、正面・左翼・右翼の戦場に対し中央となった橋で遠距離攻撃部隊の指揮を取っていた。 「いいか、とにかく撃てっ。‥・響け、豪竜の咆哮。穿ち貫け――アークブラスト!」 ド派手に戦い、味方の気勢を上げる。 「も〜。集まってくんないなぁ」 ぶーたれてるのは、リィムナ。 もっとも、敵は密集せずとも地形的に効果的な堀の底に向かって‥‥。 「ブリザーストームで氷結殺虫!」 「イケてるぜ、嬢ちゃん」 「ホント?」 威力に拳を固める泰猫。リィムナは喜ぶ。 その背後にはスレダ。 「それじゃ、被らねーよーに」 スレダも堀に向かってブリザーストーム。うねる吹雪は効果抜群だ。 「川が魔法で凍るってーのは‥‥」 「ねーみてーですね」 「‥‥口調を真似るんじゃねーです」 じと、と泰猫隊員を睨んだり。が、「ま、利害あったにしても神砂船の件では手を貸して貰ったですからね。今度は私たちが手伝う番ですよ」とかつぶやく。悪い気はしてないようだ。 そして、左翼。 「固まれ。落ち着いて対処しろ」 エリーセが健気に士気を取って戦っていた。 これまで若干苦しかったが、ぐっと踏みとどまり涼しい顔を作る。出来るだけ敵の攻撃が集中するよう振る舞うが、泰猫隊の見ている所で疲れるところを見せるわけにはいかない。小さな体で頑張っている。そしていま、カウンターで敵をまた葬る。 「お嬢さんに負担を掛けるな」 泰猫たちもそれと分かって歯を食いしばる。 ここで、スレダのブリザーストームが横の堀を走った。 「すまない。助かる」 一瞬振り向き手を上げると、それに答えるスレダがいた。 再び、右翼。 「あっ。敵が随分減ってます。今度は逃げられないように」 ルエラが広域索敵し、状況を知らせた。 「よし、敵に退路を与えるな! こちらの方向は結界で妨害する」 「敵の数も後僅かだ、一気に攻めに転じて殲滅するぞっ」 最突出地点で粘っていた義視が壁を作り、ロックがここからだとばかりに気合を入れる。 「後は一匹一匹だね」 リィムナは可愛らしいキューピッドボウを取り出しぺしぺしと。 「よくやった。後は任せて休んでろ」 哲心は疲労の色濃い泰猫隊員に回復薬を投げて渡し、自身はアークブラストを放つ。 「撃ち漏らしがないようにします」 「おう。姉ェさんに続くぜっ」 ルエラに続きまだまだ戦う泰猫もいる。 敵の殲滅は、もうすぐ――。 ● 結果、敵は全滅。負傷者は多かったが、泰猫隊と開拓者に死者はいない。 「誘引液が気になる。すぐには村に戻らないほうがいいか」 戦闘後、その場にエリーセが大の字に転がった。上品とは言いがたいが、むしろ楽しげに泰猫隊も真似しごろん。 「やあ、瑞鵬。泰猫隊の名前も随分と有名になったみたいだな。発足から関ってる身としては、なんだか嬉しいよ」 「素直に嬉しいですよ、ラシュディアさん。それだけ人々の役に立ってるってことですから」 瑞鵬は、充実している隊の状況を笑顔を示した。 ここで、偵察に出ていたルエラが戻ってきた。 「討ち漏らしはないようですね。さ、皆さんお疲れ様でした」 甘酒や岩清水を配る。 「あれだけの数も、倒してしまえば何も残らぬか‥‥にしても疲れた、戻ったらティータイムと洒落込みたい所だ」 ロックが薔薇を香りを楽しみながら至福の時を夢見る。ここで、ピンと来る者が。 「そうだ。皆でおいしいものでも作って食べたいな。勿論、お手伝いするよ!」 ブリスターで負傷者の回復をしていたリィムナが主張した。 「お、そうだ。白いお嬢さんにも山賊焼きを食べてもらわなくちゃだしな」 「集落の者も呼ぼう」 わあっと盛り上がる。 一方、橋で。 「どうする、義視?」 「落すのが確実ですがルエラさんの報告もあります。このままの方がいいでしょう」 仮に次に来るとしたらここを通るはずですから、と義視。 「じゃ、祈っておくですか。安心させるにはこのくらいはしねーとです」 スレダが、すっと橋の中心に立った。 「瘴気が星に還り、精霊となってこの地に降り注ぐ事を‥‥」 背後では、煙が上がり始めていた。夕餉の火。 やがて、鶏肉の焼けるいい匂いも。 空には、一番星が輝き始めていた。 |