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■オープニング本文 「素敵素敵。ばっちりよ、コクリちゃん」 うふふ、と両手を合わせて我がことのように喜んでいるのは、中型飛空船「チョコレート・ハウス」のオーナー、対馬良子。ろりぃ隊出資財団のメンバーだったり、コーヒー通商組合の一員だったりと、最近活躍している商人である。 「う‥‥まさかここまで派手なドレスだったなんて」 緑色と純白が目にまぶしいフリフリなエプロンドレス姿のコクリ・コクル(iz0150)は顔を真っ赤に染めて、しきりと背中のほうを気にしたり横に広がる短いスカートの裾を気にしている。 「チョコレートを富裕の層のおじ様やおば様に売り込むんですもの。このくらいじゃないと敵はくらくらしないわよ?」 涼子は自分がくらくらうっとりしながら言う。 どうやら、神楽の都でこちらに来ているジルベリア人が川辺で立食の納涼パーティーをするらしい。ここにお邪魔して、ジルベリアの富裕層にチョコレートの大口取引を決めたいらしい。 「でも、どうして緑色なの?」 コクリが口元に人差し指を添えて聞く。唇の紅がまぶしいのは可愛らしく化粧しているから。この様子に「うんうん。その調子よ、コクリちゃん」と満足そうな涼子。 「‥‥チョコレート、黒いから緑色はイメージが違うような気がするよ?」 「それはね」 重ねて聞くコクリに、涼子はコクリの頭をなでなでしながら口調を改めた。 「コーヒーもそうだけど、黒い食べ物や飲み物って馴染みがないでしょ? ちゃんと緑色した植物から取れたもので、得体の知れない食べ物ではなく、安心できる食べ物だって強調する狙いがあるの」 「ふうん。たしかに、得体の知れないものは口にしたくないかな」 「それに、若くてみずみずしくてさわやかな印象のあるコクリちゃんがその格好をすれば、『森の天使の贈り物』みたいな演出ができるでしょ? ジルベリアの富裕層が集まる川辺の納涼パーティーには、私も八幡島も出席します。チョコレート・ハウス艦長として、しっかり働いてくださいね。何せ、チョコレート・ハウスの運命がかかっているんですから」 「うんっ、分かったよ。とにかく、ろりぃ隊出資財団のおじ様たちの前のように可愛らしくしてればいいんだね」 「そうそう。加えて今回は、コクリちゃんたちから積極的に声を掛けて回ってね」 船の運命がかかっていると言われて張り切るコクリ艦長。涼子もにっこりと応援する。 「あれ? そういえば、どうしてジルベリアの人のパーティーを狙うの」 「チョコレートって、暑かったら溶けてしまうでしょ? 気候の涼しいジルベリアが一番の市場になると思うの」 「だったら、当日もチョコレート溶けちゃうかもだよ。‥‥ううん、それまでどうやって保管しておくの?」 「造り酒屋の冷暗所に置かせてもらってるけど、確かに氷も必要かもね‥‥。それに、チョコレートをどうやって食べてもらって、気に入ってもらうか‥‥」 うーん、と頭をひねり初めた涼子。 「私も別の懸案で考える暇がないわ。当然、コクリちゃんと一緒に着飾ってもらってチョコレートを勧めてもらう開拓者を雇うつもりでした。だから、集まった仲間といろいろ考えてみてね」 ウインクする涼子。 そんなこんなで、コクリと一緒に神楽の都のある河原で夕刻開かれる、ジルベリア人の納涼パーティーでチョコレートを給仕してもらう仲間の募集が掛けられた。「チョコレート・ハウス」の名を知ってもらうことが目的である。 衣装は涼子が各種在庫を保有しており、不可能や不都合のない程度のものを貸し出すことができる。 まずいことに立食パーティーの正体は、同郷のワインの飲み会。ワインに合うというわけではないチョコレートは若干の苦戦を強いられるという面がある。化粧をしたり着飾ったりする理由でもある。 また、こういう立食パーティーでは最近、スリの被害が出ているという。 予期せぬ事態が発生するかもしれない。 |
■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
のばら(ia1380)
13歳・女・サ
新咲 香澄(ia6036)
17歳・女・陰
猫宮・千佳(ib0045)
15歳・女・魔
シャルロット・S・S(ib2621)
16歳・女・騎
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)
15歳・男・騎
ナキ=シャラーラ(ib7034)
10歳・女・吟 |
■リプレイ本文 ● 暑い日中が終わり、川辺には涼しい風が吹き始めていた。 「天儀の夏は我々には辛いですなぁ」 「しかし、交易が活発化して一年と少し。儲けさせてもらっているし、喜んでもらっている」 「そうですなぁ。誰かが橋渡しを頑張らねばなりませんから」 「それにしても暑い」 「なぁに。こうしてワインを傾けつつ夕涼みできるの喜びが極上のものになりましたからな」 ハハハ、ウフフとすでにジルベリア人のワインパーティーはたけなわだった。 「涼子お嬢さん、コクリの嬢ちゃんたち、そろそろ出れるぜ」 「分かりました。‥‥勝負です!」 きりっ、と面を上げる涼子だった。 ● その、少し前。 チョコレート・ハウス乗組員専用のてぇんとの中で。 「わあ‥‥コクリちゃん素敵ですの〜」 「シ、シャルさん、そんな格好でっ!」 下着姿のシャルロット・S・S(ib2621)が着ようとしたメイド服を胸に抱いたままで、コクリ・コクル(iz0150) の緑のエプロンドレス姿を見ていた。 「さぁ、コクリちゃん一緒にチョコをしっかり売り込もうねっ♪」 そこへ新咲 香澄(ia6036)が。コクリとそろいの青色ドレスだ。 「ひらひらドレス‥‥恥かしいのです。‥‥えと、上は脱いだ方が?」 おそろいの赤色ドレスを着たのばら(ia1380)もいる。って、のばらさん、ワンピだから無理だし、フリフリスカートにいつものチューブトップだけだとおへそにチョコが付くかもですよ? 「ボクもちょっと恥ずかしいけど、こういう格好もたまにはいいね。コクリちゃんもだけど、他の人もよく似合ってるよ」 「じゃあ、シャルはおそろいの黄色を着るですの☆」 香澄の褒め言葉を聞き、シャルはうぎゅむぎゅと黄色のおそろいドレスを頭から着る。 と、その時。 「コクリちゃん今回もよろしくにゃ〜♪」 「わわっ!」 がすーっ、と横っ飛びにゃんこは猫宮・千佳(ib0045)。コクリ、抱き付き挨拶には随分慣れたが‥‥。 「あっ。ダメ、千佳さん。頬紅ついちゃう」 「うに〜。ま、ちょうどいいにゃ♪」 「やぁんっ」 頬擦りした千佳、反対のほっぺもすりすりして化粧完了。そして服は? 「いつもと似てるけどちょっと違うのにゃ♪ 軽装バージョンにゃ〜♪」 「確かに。いつものオレンジのエプロンドレスだけど、半袖でフードがなくて、胸元もちょっと開いて‥‥」 「よ、あんたがコクリか。艦長って聞いたからもっとごつい姉御かと思ったんだがな〜」 きゃいきゃいしてると、小さなジプシー少女、ナキ=シャラーラ(ib7034)が来た。着替えの途中らしく、布面積の激烈に少ない下着姿だったり。 「じゃ、あたしがシャルの持ってたメイド服を着るかな。‥‥へへ、何かコクリ自身が甘いお菓子みてーな感じがするぜ。絶対弄られるタイプだろ!」 「そんなことないよ。そんなこというなら‥‥」 「やったな。仕返しだ」 頬擦りして頬紅つけるコクリに、口紅持ってコクリの唇を狙うナキ。隣では口紅をつけたのばらが指を伸ばして爪にも紅を塗ってたり。 「隣はにぎやかそうだなぁ」 衝立の隣では、白いシャツを着た羽喰 琥珀(ib3263)が顔を上げていた。緑色の上着に袖を通しつつ向こうのきゃいきゃい声にそわそわしてたり。 「衣装‥‥執事服で大丈夫ですかね? ‥‥駄目だったら、用意された衣装とかを着るですが」 隣のネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)は、白いズボンを履きながら。シャツの裾が長いから下着は見えない。言ってから、さらに隣を見る。 「べっ、別に僕、着たくて着るわけじゃないんだぞっ! この間採寸して出来たものだし、コクリとチョコレート・ハウスの未来の為なんだからなっ!」 そこには天河 ふしぎ(ia1037)がいた。コクリたちとおそろいでピンク色のエプロンドレスである。 「うん、身動きはしやすいなっ」 「こ、こっちだって!」 琥珀が得意の居合の構えで執事服の機能性を確認すると、ふしぎも負けずに大剣を構える格好をしたり。 「はう〜、とにかくいっぱい食べるのですー!」 ネプが一番に飛び出し、さあ、給仕開始だ! ● 「涼子さんにはお初にお目にかかります、コクリちゃんには仲良くして頂いてますの」 「ええ。小手毬隊で存じ上げてよ。こちらでもよろしくね」 シャルが涼子に挨拶する。 「対馬の姐さん、頼んでたのは大丈夫か?」 「ええ。お願いしますね、ナキさん」 「あたしに任せとけって!」 ナキは、自分の依頼した一口サイズのチョコを銀盆に盛っては、ひらりん☆と短いメイド服の裾を翻して元気に駆け出していった。太腿の白さがまぶしい。 「ほかにも注文があったのは用意してるからね」 あまり背の高くない少女が言う。 「あれっ? きみは?」 「あ、彼女はね‥‥」 慌てて説明する涼子。少女の名は、実祝(iz0120) という。 「ほら、氷を作ることのできる開拓者がいなかったから」 「『氷霊結』の修行になると思って、特別にお店には内緒で‥‥」 実祝、立場上いろいろあるらしくこそこそと退場。コクリはぺこぺこ頭を下げる。 「うにゃっ。チョコで出来た服は?」 「それは無理!」 千佳のぼやきが聞こえたようで、実祝が振り向いて手を振って答えていた。 「にゃっ! でも、コインチョコはできてるにゃ」 「ホントだ。チョコ・ハウスのマークとみんなの肖像が裏表に‥‥」 千佳の言葉に香澄が喜んで確認したが、すぐに残念そうな顔つきに。 「ゴメンね。時間がなくって、おおかまかな飛空船と女の子の横顔一種類しか無理だったの」 涼子が謝る。飛空船にこれといった特徴はなく、女の子の横顔もコクリっぽくはあったができは悪かった。 「大丈夫。これをボクたちが印象付ければいいんだから」 「そうだね。コクリ、一緒にパーティデビューとチョコレートの売り込み、頑張ろうね!」 元気付けるコクリの手をふしぎが取り、会場内に駆け出した。 「ジルベリア風のパーティーは久しぶりですの〜」 シャルも、とててっと駆け出す。 「お〜い、チョコレート・ハウスのマーク入りのバッヂができてるから、ちゃんとつけろよっ」 「サンキュー、琥珀っ」 琥珀が、偽装砲台を艦首に出した飛空船とカカオの実を浮き彫りにした木製バッチをふしぎなどに投げて渡した。 「ほぅ、何が始まるんだ?」 「可愛らしい子たちがたくさん。ねえ、何なの?」 この時点で、客の受けはいい。 しかし、この後の展開は誰も予想していなかった! ● 「はぅー。チョコ、いりませんか? なのですよ〜」 さて、ネプが一人で頑張っている。 「はぅ‥‥いらない、ですか。失礼しましたなのです‥‥」 どうやら断られたらしい。へにょ、と狐耳と狐尻尾が力なく垂れる。 「でも貴方可愛いから‥‥」 「はぅ? ちょっと上目遣いでの方がいいのです? やってみるのです」 女性客からのアドバイスに、ぴぴんと耳と尻尾を立てるネプ。 「いかがですか、なのです?」 おず‥‥、と次の客に。 果たして、受け取ってもらえたッ! しかし。 「ん‥‥。やはりワインには合わんな」 へにょん。 ああ、かわいそうなネプ君。 って、あれ? ネプ君、なんかもう元気を取り戻してますよ? 「それにしても‥‥色々とおいしそうなもの多いのです。‥‥確か僕も、食べてもいいのですよね?」 なんと、大皿の肉とか野菜とかを「いただきますなのですー♪」とか言いつつ食べ始めたではないかッ! 「お、いい食いっぷりだね〜。それじゃおじさんもこっちのチョコを‥‥」 ネプ君、何とか食べてもらってるようです。 そして、ふしぎとコクリ。 「あはっ。こうだね、ふしぎさん」 「そうそう。雲の間を泳ぐように」 二人してドレスの裾を広げ、時に手を携え、時に離れて視線をつなげて踊っている。その合間に、チョコを入れた籠から付近の人に「ららら♪」と気分よく配っている。 可愛らしく注目を集めているところで、ナキが普段のノリを封印して頑張っていた。 「どうぞお召し上がりになってください、とても甘くておいしいですよーっ」 猫被りまくり。 おかげで手にはしてくれている。 が、やはり肝心の味で反応が悪い。コクリとふしぎのほうもそうだ。 「おかしいな。少しビターに作ったチョコレートは、赤ワインにはぴったりと合うと思ったのに」 首を捻るふしぎ。しかし、それは白ワインと赤ワインとの比較でしかないのかもしれない。 「これならどうだ?」 ナキ、準備していたチョコミルクドリンクを出した。実祝の氷霊結のおかげでしっかり冷えている。 「うん、これはいい。こういうミルクもうまいな」 ああっ! 評価は解けたチョコではなく液体のミルクに集まっている。 その背後で。 「給仕はお任せ下さいですの」 シャルは貴族出身。礼儀正しく‥‥って、こけそうになるしっ! 「おっと」 「あ、ありがとですの。これ、どうぞ‥‥」 どぢっ娘属性、ここでプラスに働く。そして出したのは、おもちにチョコレートを入れてお団子にした「ゆきうさチョコ」。 「これは、変わった味のするお餅だね」 ああっ。ここでも評価はチョコではなくお餅にっ! そこから、ちょっと離れた場所。 「さぁ、チョコハウスのチョコを堪能してね〜」 青色でコクリと同じ衣装だが、ざっくり背中を開けたことで健康的な色香を振り撒いている香澄がとろけるチョコを前に声を張っていた。余談だが、色香につられふらふら〜っとろりぃ隊出資財団の助平おぢさんも来たが、鋭い視線で「西瓜斬りまたみたい?」と一声掛け追っ払っていたり。 「ほう、こうして食すのかね?」 「これは楽しいですわね」 一口サイズの西瓜や野菜を付けて食べるが、変わった出し物としての評価しかなかったようだ。 さらに、琥珀。 「あー、接客ばっかでなかなか飯食えねー。‥‥はい、この肉にかかってるソースですね? チョコを使ったソースで、ワインにとても合うんです。奥様方、どうですか?」 ちょっと琥珀さん、本音が尻尾出してますよっ! でも、ふわふわ揺れる獣人虎しっぽのかわゆさに奥様方は気にならない様子。ちなみに、琥珀が投げやりなのは食べられないばかりではなく、頼んでいたワイン入りチョコが失敗したらしいから。液体を包んで固める工夫をするのに時間が足りなかったらしい。 「チョコは知ってますが、こういうこともできるんですね?」 チョコソース、評価は悪くないがあくまでチョコの使い方としてのみという印象だ。 どうする、取り引き契約までは程遠いぞ! ● 「複雑な形は無理だし、この準備期間じゃ皆さんも満足に加工できなかったようですね‥‥」 元の場所では、涼子が申し訳なさそうにしていた。 「でも、のばらのは作ってくれたのです」 そう言ってのばらが駆け出す。自作した「C・H」の刻印はつたなかったが、のばらの用意してもらったチョコは球形。浅い浮き彫りでも、十分に跡が付く。さあ、のばらも行動開始だ。 「‥‥こ、こほん。チョコのあまーいイメージに沿う様に可愛らしく」 「お嬢さん、何を配っているのかな?」 早速、紳士に声を掛けられた。 「えっと‥‥。あ、コクリさん、ちょっと来てください」 「何、のばらさん」 「このくらいのチョコを配ってるのです」 「ほぅ」 何とのばら、コクリを呼んで親指を立ててもらい、それでチョコの大きさをまず示した。 「ジルベリアで留守番している娘も、ちょうどお嬢ちゃんたちくらいなんだよ」 にっこりしてコクリの拳に手をやる紳士。 「ふうん、『C・H』‥‥」 「チョコレート・ハウスっていいます。この飛空船で運んでるんです」 のばら、コイン型のチョコも出した。 「あ、娘みたいな女の子の横顔も‥‥」 紳士の受けはとてもいい。 しかし、口にした後がやはりよくない。暑さもあって後口がよくないのか? 「こ、これをどうぞ」 すかさずのばら、猪口に入ったミルクを出した。 「ああ、こうして食べるといいね。丸いのは口で転がして楽しいし、コイン型の模様はイマイチだが交易しているというドラマ性が面白い。故郷の娘のお土産にちょうどいいかな」 「あ。でものばらたち、今日は売りに来たわけじゃ‥‥」 「わかってるよ。ジルベリアの窓口として、私の財閥に卸すといい。契約の責任者はどこかな?」 わあっと喜ぶのばらとコクリ。 「あ。それと、最初と最後にミルクを勧めるとワインの後口が影響しないかもよ?」 皆が考えたコインのアイデアだけではなく、ミルクの口直しが最後の決め手となったようだった。 ● とはいえ、食べてもらうだけでも効果はあった。 「きゃ〜。可愛いわねぇ」 「にゃっ、あ〜んしてにゃ♪」 千佳は年上女性や素敵な男性に抱き付きまくって可愛がってもらい、チョコを食べてもらっていた。これには首を横に振ることをできず、さらに「ワインの後ではいまひとつ」などという渋い評価も口にはできない。強引抱きつき子猫作戦の勝利である。千佳、とっても幸せそう。 「コクリちゃんこれ美味しいにゃよ? あーん、するにゃ♪」 「あ、あ〜ん」 ぱくっと食べるコクリに、わあっという歓声。 こういう甘ったるい演出もチョコにとって好ましいイメージのようだ。 「料理も食べるにゃ!」 って、今度は料理を食べ始めたり。 「ちょっと、千佳さん」 「あらかた食べてもらったし、俺たちも食おうぜ、コクリ」 琥珀も食べる気だ。 「やっぱ、すげー美味いなー。‥‥って、お召し上がりになってくださいね」 濃厚チョコドリンクを味わっていたナキが突然口調を変えにまっと笑ったのは、お尻を客に触られたから。「だったらチョコ、食べてね」というたくましさは、彼女のこれまでの苦労を物語っているのかもしれない。 「‥‥はぅ! チョコの試食をしてもらわないとなのですよっ!」 「いっぱい食べたみたいだね、ネプ君‥‥」 ここで我に返る、食い専だったネプ。その満足そうな顔に、チョコを食べてもらって寄せられた感想をまとめる大切な作業をしていた香澄が「いまさら」と呆れる。 と、ここでネプの狐耳が動いた。 「スリだっ!」 突然の声。しかし、どこにスリがいるか分からない。 「あれだっ。あたしの目はごまかせねえぜ?」 「よっし、楽しそうだなっ!」 目敏くナキがこそこそしている男を人波の中発見し、出番だとばかりに琥珀が走るっ! のばらも行った! 「ちょっ、なんでその姿で速いんだか」 犯人は、逃げた上流、会場から見えない場所で捕らえた。 「また貴方ですか‥‥めっ、なのです」 タックルして止めたのばらが抱きついていたのは志士の海老園次々朗だった。どうやら、コクリたちの腕が立つことを示すため、わざとスリをするよう依頼されたようで。 「スリはお上に引き渡しました」 後、会場で報告して喝采を浴びるコクリたち。 「じゃ、踊ろう。コクリ」 ふしぎがコクリと踊り出す。拍手が、だんだんと鳴り始めるのだった。 「ふふっ。『強くて信頼できるチョコレート船』として信用されたわ」 後日、涼子は大量の取引契約をしたらしい。 |