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■オープニング本文 「間違いなく、こちらに興味を持ってるな。‥‥アンタあたり、狙われてからかわれそうだなぁ」 「な、何で私が狙われなくちゃならないのよっ」 泰国は南那。領地際の村外れに構えた南那正規軍本営で、そんな会話が聞こえる。 「真世さん、だったな。‥‥馬に乗れちゃいるが、ただ乗ってるだけって印象だからさ」 「う‥‥。まあ、弱いとこから攻めるのは戦いの基本だけど」 現在南那正規軍が侵入者として警戒・戦闘している紅風馬軍の捕虜、論利(ロンリ)と開拓者の深夜真世(iz0135)である。ともに、南那正規軍の保有する軍馬の世話を手伝っている。ちなみに論利、捕虜のはずだが牢に入れられたり縛られたりすることもなく客扱いされている。このあたり、前回開拓者に説得されたりしたのも効いているようだ。 「それもあるが、『鍛えりゃ伸びるのになぁ。もったいないなぁ』とかいう感じだな」 「な、何よそれ。前まで敵だったくせに。‥‥そりゃ、いまは違うけど」 真世、真っ赤になって論利に向き直る。彼女の持っていたニンジンを食べていた馬は、突然口元からニンジンが離れ、不満そうにぶひんといなないていたり。 「紅風馬軍は、風だ。気ままに泰を巡り、いくつかある風の故郷に戻ってまた、旅に出る。‥‥詳しくは話せねぇが、その中でかさばらねぇ金目のものを取ってきたり、途中で仕入れた情報をさる筋に売る。旅の中では、生きるために略奪もするし、よそ者を嫌う土地で戦闘をすることもある。もちろんアヤカシと戦うことも」 「答えになってないじゃない」 「つまり、紅風馬軍は常に人が減ってるってこった。‥‥だから、積極的に仲間を求めたりする。ひとつの所にとどまるのが嫌な奴、故郷を捨てたがってる奴、守るものがなくなって腐っていた奴、とかな。ま、乗馬が巧くて強い奴が前提だが」 だから、「こちらに興味を持ってな」と言ったのか、と納得する真世。 「正規軍の連中は動きに自由さが乏しくて見るところはねぇが、今まで手伝ってきた開拓者は別だ。ありゃ、風になれる。‥‥そして、アンタみたいな中途半端なのを見ると、鍛えてやりたくなるんだよ」 「別に敵に鍛えてもらいたくなんかないわよっ」 にやにやする論利からぷいと顔をそむける真世。世話をしていた馬はニンジンが戻ってきたと、うれしそうに噛み付く。「いたた」と真世。ニンジンと一緒に少し手もかじられたようだ。 ここで、偵察に出ていた瞬膳(シュンゼン)隊長が戻ってきた。 「‥‥いいな。開拓者は良い仕事をしてくれている」 ひらりと降りて、馬を撫でてやる瞬膳。開拓者に調練を兼ねて預けている馬に乗っていたのだ。 「勇敢で、粘り強い。‥‥やはり、基本的に型破りな実戦経験の少ない正規軍が調練するより、常に戦場で生き残っている開拓者に使われたほうが応用のききやすい軍馬になるようですね」 「そうだな、ここの馬は悪くはないんだが、総じて大人しいな」 「そっかなぁ?」 実は元々よそ者で開拓者をしていた瞬膳がそんなことを言うと、論利も同調したり。唯一真世だけが、「大人しくないって言われても、私、たくさん落馬したし」とか不満顔。 「もちろん、統率の取れた防衛活動には今のままの方が扱いやすいがな」 「逆に、常在戦場の紅風馬軍なんかと当ると苦労する、か?」 「そうだな」 「ちょっと瞬膳さん、何納得してんですか」 瞬膳と論利のやり取りに突っ込む真世。 「ともかく、次に紅風馬軍に当ったら気を付けな。アンタは狙われて遊ばれたり、頭の紅風山千(コウフウ・サンセン)あたりは一騎打ちを挑んでくるぞ」 「一騎打ち?」 「そう。開拓者の技量を見極めて、仲間に誘うためにな」 そして、またしても依頼で訪れた開拓者が巡回中に、紅風馬軍と遭遇することとなる。 何と、今回はアヤカシ「大団子虫」の群れに襲われている集落で、紅風馬軍がアヤカシと戦っているのだ。 いつものように、正規軍から借り自ら名付けた馬に乗ってこの事態に遭遇した開拓者たちは、現場に急ぐのだった。 村はすでに、家屋倒壊などかなりの被害を受けている――。 |
■参加者一覧
真珠朗(ia3553)
27歳・男・泰
新咲 香澄(ia6036)
17歳・女・陰
瀧鷲 漸(ia8176)
25歳・女・サ
ジルベール・ダリエ(ia9952)
27歳・男・志
アーシャ・エルダー(ib0054)
20歳・女・騎
アイシャ・プレーヴェ(ib0251)
20歳・女・弓
ロック・J・グリフィス(ib0293)
25歳・男・騎
クロウ・カルガギラ(ib6817)
19歳・男・砂 |
■リプレイ本文 ● 「うわっ、何だ?」 その集落の住民の悲劇の始まりだった。 ゴゴゴゴゴ、という地響きを不気味に思い、その正体が段々畑開発地から近寄ってくる丸い物体であると分かった時には、すでに手遅れだった。 バコッ! ガサガサガサッ! 「ひいいいっ!」 高速接近してきた丸い球は好き放題に家屋や木々にぶつかっては集落を蹂躙しまくっている。 「に、逃げろっ」 「‥‥と、言われてもどうすれば」 右に、左に、好き放題転がりまくっている謎の球体。 「ぐっ!」 「ああっ、壁が崩されたっ」 「こりゃ、家の中も危ないかもしれん」 外にいれば轢かれる可能性が高く、家屋内に避難すればそのまま潰される危険性もある。 そんな、未知のアヤカシの暴虐の中――。 「野郎ども、突っ込めっ!」 赤い布を腕に巻いた騎馬集団が、集落に突っ込んできた。 紅風山千の率いる紅風馬軍15騎である。 「これまで通りだ。併走して回転の中心を叩けっ!」 紅風山千の声が飛ぶ。 しかし、敵の大団子虫は50体弱。 今までこの戦法で効果を上げてきたようだが、苦戦をすることとなる――。 ● その頃、付近を巡回警備していた開拓者。 ごごん、と家屋が崩れ土煙の上がる状況を見て色めきたった。 「あれ見てっ!」 深夜真世(iz0135)が仲間を振り返り叫ぶ。 「またあのアヤカシみたいですね」 「アイシャの言ってた大団子虫か」 アルタイルを駆るアイシャ・プレーヴェ(ib0251)が言えば、隣にベガに乗るアーシャ・エルダー(ib0054)が並ぶ。 「あの団子虫アヤカシも厄介だが‥‥あの連中もいるのか」 不敵に目を細めたのは、ホーエンツォレルンの鞍に納まる瀧鷲 漸(ia8176)。 「とにかく、行くぞっ!」 白蘭花を駆るロック・J・グリフィス(ib0293)が駆け出した。 「レグルス、今回も期待してるよっ!」 反応よく新咲 香澄(ia6036)も飛び出す。信頼するレグルスに身を任せた。 「真世さん、後方支援を頼みますよ」 アーシャも動く。アイシャが追った。 出遅れ、「あ」と声を漏らした真世。 「俺‥‥帰ったらこれ奥さんに渡すんや」 ジルベール(ia9952)は真世に「誓いの指輪」を見せてから、また大切に懐に仕舞った。真世、彼の奥さんを知っている。「だから、な」という風にウインクを残してミネルヴァと一体となって駆け出すジルベール。真世もやる気になった。 「よ〜し」 「こうもへびぃだと真世お嬢さんと、いちゃこらしてる暇がないじゃないすか」 腰を上げた真世のお尻を、真珠朗(ia3553)が手を伸ばしタッチしてぢごくうさぎに拍車を掛けて加速する。「きゃん、も〜」とか不平を言って真世が続いた。 そこへ、クロウ・カルガギラ(ib6817)が並んできた。 「初めましてだな。‥‥馬に乗っての戦闘か。面白そうじゃん。宜しく頼むな」 ん〜、と気持ち良さそうに空を仰いでから、にこり。 「クロウさん、馬は、慣れた?」 「ここまでで反応や速度は確かめた。ルズガル、いい馬だぜ?」 そう言うとルズガルを撫でてやり、さらに加速する。 戦場まではすぐそこだ。 ● 突撃する開拓者9人の前で、集落は壊滅しつつあり、紅風馬軍も苦戦をしていた。 「俺も風なら、あの者達もまた風というわけか‥‥」 先頭のロックが薔薇の花を手にとって穏やかに目を閉じた。そして、次の瞬間。 「ならば今は共にアヤカシを討とう、この風に従って!」 ひゅん、と投擲するような振りをしてから薔薇の花を戻し、加速する。 「おおおおおっ!」 ランスと盾を構えた騎士スタイルのまま突っ込むと、武器に聖なる精霊力を宿らせる。 そして、手近な大団子虫に渾身の突き。 が、敵の被弾経始は良好。突きも流れる可能性があるが‥‥。 なんと、攻撃を受けた敵の装甲がぼろりと白い粉となり、崩れた。 いや、粉ではない。塩だ。 これが、聖堂騎士剣の威力ッ! そしてすぐ背後の、後続。 「すまないが、すり鉢状の底に追い込んでくれ」 「任せなって。こういう高機動作戦は、故郷で父や兄とさんざんやったもんさ」 漸の声にクロウが動いた。 「援護は任せて!」 香澄も仲間を見捨てない。 クロウに向かっていた大団子虫に呪縛符を放つ。 高速移動するアヤカシを、一気に伸びた草が絡ん足を鈍らせる。そして後ろにいた大団子虫もぶつけて威力を殺す。 「ありがたい」 曲騎を使い馬首を巡らせ、フリントロックピストルをぶっ放つ。 「上手くいきゃ、渋滞を作って相互ダメージを‥‥」 「‥‥あまり相互ダメージはなさそうよ?」 クロウのつぶやきに、ようやく追いついた真世が突っ込んだり。 「仲間を認識しとる、ゆうことかな? 真世さん、コレ」 「え、焙烙玉?」 真世に寄せて来たジルベールが武器を渡す。 「敵が密集してるとこに投げ込んでくれるか? 5秒で爆発するから投げたら即離脱やで」 「即離脱って〜」 「紅風馬軍‥‥。この集落への被害を食い止める為、今のこの一時我らも共に戦わせて貰う! 行くぞ、白蘭花」 どたばたする間に、ロックが行く。戦いつつ流れてきた紅風馬軍の数騎と近くなっていたのだ。 「ちっ、南那の騎馬部隊か‥‥。その格好は手強い方だな」 なんと、頭の紅風山千だ。よく日に焼けた肌に、鍛え抜いた体に覇気が漲っている。 いま、ロックとともに挟撃して大団子虫を倒した。 「アヤカシの脅威の前に、人間同士で争うのは滑稽でしょう?」 アーシャも突っ込んできて、厄介なことになる前に「アヤカシ退治優先」を印象付ける攻撃を繰り出す。 そこへ、矢がとすとすと降る。大団子虫への止めとなった。 「今はアヤカシに集中します!」 アイシャの援護射撃だ。 「とにかく一塊にしろっ!」 漸が声を荒げる。覇気では負けない。 ● とはいえ、敵は大質量で好きに動いている。 ――タァン! 「‥‥サクッとイっちゃいたかったんすけどねぇ」 ああ、面倒だ、と真珠朗は今撃った宝珠銃「皇帝」を仕舞った。敵の外皮装甲は破壊したが、まだくたばっていない。手間の掛かるアヤカシに、今度は忍刀「風也」を掲げて殺到し切りかかる。 「く」 数が数だけに、この隙に敵が転がって来る。どしんと喰らうが抜けて、先の大団子虫を倒す。 (これじゃ、空気撃でも一緒すかねぇ) やってみるが、直撃で敵の丸まった状態を解除し動きが鈍ったまではいいとして、そこからやはり手数をぶち込むことに。 「ん?」 そんな真珠朗の目が、見開かれた。 「ちょっ、家に逃げても無駄すよ? とにかく高いほうへ逃げなさい」 逃げ惑う住民を見て、南を示した。 が、住民の反応の鈍いこと。 「面で潰す技持ってきてないんで、囲まれないようにしてたんすが‥‥」 真珠朗、あえて囮になりに行く。 手段は、とにかく忍刀で空気撃。 上手く丸まった状態からのろのろな元の姿に戻ると、他のアヤカシが転がってくるのをある程度防いでくれる。加えて――。 「受けを許す程、あたしの攻撃は遅くないすし?」 サクサクと手数重視で周りの動きの鈍ったアヤカシを倒しまくる。 さて、逃げ遅れていた住民は無事か? 「真珠朗さん、こっちは任せとき」 ジルベールが駆け寄って、あわや直撃のところを馬にひょいと乗せて回避していた。そのまま高い場所へと駈けて行く。 ● 「全部は無理だねっ。‥‥だったら、さぁ、上手く渋滞してねっ!」 きっ、と上げた視線は、陰陽師の香澄。呪縛符で手前のアヤカシが止まる。 「上り坂では速度が落ちるとはいえ、落ち着きのない奴らだ」 別方向から聞こえる声は、やたら長い斧槍「ヴィルヘルム」を振るう漸。身体から薄っすらとオーラが立ち上り、武器が輝いているのは、オウガバトルで勝負をかけているから。 「ほらっ! 右、左、右、左‥‥」 傾斜を下りながら、近寄り敵を捌く・捌く・捌く。 斧槍の半径は広く隙ができるはずだが、返す動きで無駄なく振るっている。いや、ホーエンツォレルンの動きや位置取りもいい。破軍を込めて一撃必殺の攻撃が敵装甲を砕く反動を利用し、コンパクトに敵の外皮を潰していく。その後の、動きが鈍り無防備なアヤカシは紅風馬軍が目敏く突いては止めを差して回っている。 そして、敵の動きを鈍らせた香澄。 「こっちも一気に行くよ〜! 主砲発射っ!」 いつも頼りにし、活用している火炎獣。召還から火炎放射で一直線に敵を弱らせる。 一方、元気のいい香澄とは対象に、読みが外れて猛る者も。 「‥‥だったら、ポイントアタックで装甲の隙間を狙うまでですっ!」 アーシャ、実は大団子虫の触覚を狙っていた。 「団子虫は触覚を両方切り落とすと動かなくなる習性があります」 そう解説し、実際にやってみたがそうでもない様子だった。怒りを込めて正攻法で暴れ始めた理由である。 「さあお姉! じゃんじゃん倒してくださいね!」 アーシャの背後からの射線は、妹のアイシャ。死角からアーシャに近付くアヤカシを止めたのだ。 これを大剣「テンペスト」の振り下ろしと突きで片付けるアーシャ。しかし、別のアヤカシに体当たりを食らった。最前線はおしくら饅頭状態でもある。 「アイシャ、私はあの団子虫を狙うから援護お願い! ‥‥ベガ、大丈夫、私と皆を信じてね」 オーラショットで止めた団子虫に突っ込む。アイシャの方はそんな姉を横合いから狙うアヤカシに六節の弾幕で対応する。 「あっ!」 そんなアイシャが声を上げた。 引いていたのだが、アヤカシに狙われた。 「俺を忘れてもらっちゃ困るな」 何と、前線で刀を抜き、ファクタ・カトラスで走り抜けながら切り付け回っていたクロウがここまで戻って来ていた。渦の動きで敵を封じようとしていたが突破されたので、律儀に追ってきていたのだ。 が。 「すまんっ。1匹行った」 叫ぶクロウ。 アイシャは引いて逃げる。 「ふふっ」 いや。アイシャ、笑った。 ――ばこっ! 何と、彼女を追っていた大団子虫が落とし穴にはまったッ! 「窪みがあったから、罠伏りも早かったんですよ」 にっこり微笑み矢の雨を浴びせる。 そして、前線では。 「ああんっ。ちょっと外れて吹っ飛んだだけ〜」 「グッジョブや真世さん!」 焙烙玉をやや外した真世だったが、ジルベールがこれあるを予期し片手剣「ドラグヴァンデル」で志士が必殺の白梅香をぶち込む。 「我らの突撃を受け、塩となれアヤカシよ!」 ロックは、再び聖堂騎士剣で突撃し、敵の化した塩飛沫を撒き散らす。 「ちょっと、ジルベールさん。ぼーっとしてたら危ないよ」 「‥‥ふうん。動いてるモンに激しく反応するんかもな〜」 無防備に立っていたジルベールは、真世の悲鳴にそう返す。 「アヤカシの観察もいいが、馬軍も油断ならんぞ」 漸が寄って来た。 いや、開拓者が皆集まっていた。 アヤカシは、開拓者が主に敵装甲を破壊して、紅風馬軍が止めを差して回ったという感じだった。 その、馬軍が敵の掃討を終えて近寄っていたのだ。 ● 展開は、急だった。 「南那の騎馬部隊、気に入ったぞ。見事我らの剣を受け止めきれば仲間として歓迎してやるっ!」 紅風山千が剣をかざして馬を駆り、突貫してきた。 「その見ててイライラするほやっとした娘を出せっ! 鍛えてやる」 山千の部下も続いているぞッ! 「真世さん、下がってて!」 部下を目の敵にした香澄が出る。 「真世お嬢さんは、ねっちょりしっとりあたしが鍛えるんで、お構いなく」 真珠朗も行った! 「たしか、乗馬の技術なら明らかに上だったようだな。だが戦闘の技術なら負けないぞ」 漸も気合い十分。 「挑まれれば騎士として逃げるわけにはいきません」 アーシャの長い髪もなびいたっ! 「真世さんっ! 私の方に」 「うん‥‥」 アイシャは、真世を連れて安全圏に。 「弱点を狙う宣言をして喧嘩に持ち込むとはなぁ」 「敵にも弱点はあるぜ。‥‥たとえば」 ジルベールのぼやきに、クロウがこたえた。龍進で出遅れから一気に最前線へ。そのまま『ファクタ・カトラス』の峰打ちで馬賊の一人を馬から叩き落す。 「やるなっ! 一番強いの、かかって来い」 「お前が紅風山千とやらか、ならば受けて立とう、空賊の誇りにかけて‥‥俺の名は、ロック・J・グリフィス。またの名を空賊騎士金のリボンのロックだっ、いざ参る!」 「トロいっ! 風にはなれんぞ」 何と紅風山千、一気の加速でロックのカミエテッドチャージの前を叩いた。馬賊に騎士道はないようだ。 「だったら、これはいいよな?」 山千の死角から漸が迫る。マントをなびかせるようにしてから、横殴りのブラインドアタックッ! 「やるなっ」 なんと、山千は落馬していた。いや、わざと身を投げ出したのだ。 そしてここからが圧巻。 騎乗していた馬がすぐに戻ってきて、あっという間に騎上の人となっていたのだ。 「ほぅ、前言撤回だ」 続けてそういったのは、落馬しかけていたロックが同じく馬上の人となっていたから。ロックは空賊だ。落ちることへの対処は万全である。 さて、他の場所。 「お前、論利をかばった女だな」 「あの時の! そんな卑怯者に負けるはずはありませんっ」 アーシャ、自信を持った剣にさらに誇りと怒りを乗せた。振りかぶった大剣「テンペスト」の威力は凄まじく、敵をガードごとふっ飛ばす。 「あたしの本気は目の毒すからねぇ。真世お嬢さんいますし」 真珠朗は格下と見て受けに専念。遊んでいる。 「真世さんの前にボクから倒してごらん、まぁ命まではとらないよっ」 いつも本気の香澄は、容赦なく呪縛符を見舞ってから二刀を構える。術は抵抗されたが先手は取った。劣る体格のハンデを感じさせずに終始剣の打ち合いをリードした。 そして、ジルベール。 「南那もアヤカシが増えて物騒やし、この辺で正規軍と協調路線を考えたらどうや。アヤカシと軍両方を相手にしたくないやろ」 手下と一騎打ちをしながら、そう声を張っていた。 「この手合いが居るから、俺達真面目な遊牧民も同類に見られるんだよな。勘弁して欲しいぜ」 すでに勝ち誇っているクロウはわざとらしく大声を出す。 「よっ、と。‥‥掴んだアヤカシ情報を軍に売るとか、アヤカシを片づけて報酬を得るとか、収入が増えれば略奪する理由もない。略奪やめれば軍も敵対する理由はない。持ちつ持たれつで行くっちゅーのはどうや?」 ジルベール、一騎打ちを制してロックと漸が対峙する山千に切りかかる。 「仲間をどうした?」 「元気です。これ、もらいましたよ」 今度は先の相手を圧倒したアーシャが山千に突っかかっていった。胸の馬賊の幸運の首飾りを示す。山千の目つきが変わった。 「よし。だったら、そっちで夕餉を用意しろ。あの森林のアヤカシの情報をくれてやる。‥‥取り引き成立なら、客とその土地に気ままなことはしねぇぜ」 この言葉で両軍、動きを止めた。 取り引き成立である。 「よし、遊びはここまでだ。住民保護を」 山千の言葉に、「なら最初からそうしろよ」とか突っ込むクロウであった。 |