【香鈴】雲から降るもの
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/07/19 20:22



■オープニング本文

 泰国を巡る気ままな公演の旅を続ける香鈴雑技団は、その途上である村を訪ねていた。
「公演予定はなかったが、ちょっとやって喜んでもらったな」
「そうだね。もともとこういう小さな公演の方が得意だし、裕福な人たちに楽しんでもらうより貧しい人たちに喜んでもらいたいし」
 雑技団のリーダー、前然(ゼンゼン)の言葉に道化の陳新(チンシン)が肯いた。彼ら自身、身よりもなく大きな町でその日暮らしの貧しい生活をしていた。演技を見せる相手としても心置きないし、そういった人たちを勇気づけたいという思いもある。
「とはいえ、我が主人の援助にあまり頼らずやるとなれば、それなりの収入は必要ですよ?」
「分かっちゃいるが、香者(コウシャ)が記利里(キリリ)の主人の養子になってる。‥‥時がくれば運命は受け入れるよ」
 雑技団の初老の後見人、記利里の指摘に答える前然。いずれは前然たちを有能な兵士に、と思い出資していると知り反発もしたが、もうすべてを受け入れる心の準備ができていた。
「‥‥私自身も、今の状態が好ましいと以前に言いましたが」
「記利里のご主人さんの出資がなければ、出発の町で野たれ死にが関の山。旅先での出会いの場をもらったし、感謝してるんですよ? たとえその後、自由がなくなってもそれはもう仕方のないことですよ」
 誰の味方か勘違いされては困ると記利里が真剣な声を出すと、陳新が笑った。寂しさも交じる。
「できるだけ、この状態を長く続けるよう配慮致します」
 記利里の顔つきは、子供を相手にしているものではない。大人と大人の話をしている顔つきだ。
 その時であった。
「おおい、うれしい知らせだゼ」
 烈花(レッカ)が勢い込んでやって来た。
「もうちょっとしたら、開拓者が来るんだって。‥‥次の予定はないだろう? 数日出発を遅らせよう」
 何と、村人が開拓者にアヤカシ退治を依頼して、もうすぐ到着するのだという。
「兵馬(ヒョウマ)や在恋(ザイレン)なんかは『だれが来るんだろう』ってそわそわしてるんだゼ」
 烈花自身もそわそわうきうきしていたり。
「待った。‥‥俺たちがいて邪魔にならねぇような依頼か?」
「この時期だけ、村の奥の森で大きな蜘蛛がでるんだってサ。村には被害はないけど、森の動物が食われているらしい。‥‥で、近年は森にエサがなくなったのか、動物が村近くにまで出るようになったんで、念のため先に出向いて退治してもらおうって」
 突っ込む前然に、答える烈花。
 つまり、想定戦場は森の奥。
「ならまあ、大丈夫か‥‥」
 滞在延長を決める前然。
 が、この判断があだとなる。

 開拓者が夜半に到着し、翌日。
 雨が、降った。
 いや、それだけではない。
「な、なんだこりゃ?」
 バシバシ屋根を叩くような音がするが、雨脚は緩やか。
 不審に感じ屋外にでた村人は、目を剥き驚いた。
「か、蛙じゃ。蛙が降ってきおる!」
 なんだなんだ、と次々屋外に出て驚く村人。
 村は、村の大地は小さな蛙だらけになっていた。
「奥の森でだけ蛙が異常に多いのは、もしかしたらこれが原因じゃったのかのぅ」
 呑気に言う老人もいたが、さらに驚愕の現象が村人に降りかかるッ!
「く、蜘蛛じゃっ。今度は蜘蛛が雨雲から糸を垂らして降りて来たっ」
「な、何だ。この大きさはっ」
「数も多いっ」
「あ!」
 ここで、事態に気付いたものがいた。
「こいつら、森の奥に出るアヤカシの化け蜘蛛じゃぁぁぁぁぁっ!」
 つつつー、と黒い雲から糸を伝って降りてくるアヤカシの何と不気味なことか。
 この世の終わりを見るように、村人たちは身を震わせながら家の中へととって返すのだった。

「どうする、前然?」
「開拓者にすぐ相談だ。俺と烈花と闘国、紫星も出るっ。陳新たちは屋内へ」
「田んぼに様子を見に行った村人も多い。何とか助けないと」
「くっ。蛙を食わずに人を襲い始めたようだ‥‥」
 矢継ぎ早の会話を交わす前然と陳新。
 ここで、戦闘準備を整えた開拓者が二人の肩に手をやるのだった。
 さあ、行動開始である。


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
アルティア・L・ナイン(ia1273
28歳・男・ジ
真珠朗(ia3553
27歳・男・泰
瀧鷲 漸(ia8176
25歳・女・サ
煌夜(ia9065
24歳・女・志
宿奈 芳純(ia9695
25歳・男・陰
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ


■リプレイ本文


「も、もうこの世はお終いじゃ〜っ」
 悲痛な叫びが交錯する。
 さすがにもうカエルの群れは降ってはいないが、まだアヤカシの化け蜘蛛がつつつー、と低く黒い雲の隙間から糸を垂らして降りてきている。
 村ではカエルが飛び交い、すでに降りてきている化け蜘蛛がカエルを食ったり‥‥。
「うわぁぁぁぁっ!」
 逃げ遅れた村人に取り付いては押し倒し、体液を吸うように生命力を奪っていた。組み敷かれた村人は見る見るうちに青黒い顔つきとなって力なく地面に横たわる。
「よし。準備は済んだゼ、前然」
 烈花の声。手甲を装備している。斧の闘国、弓の紫星もいる。そして、前然は軽そうな刀。
「開拓者に止められたらすぐに‥‥」
「戦う意思があるのなら止めるつもりは無い」
 陳新が言った瞬間、肩に手を掛けられた。
 振り向くと、琥龍 蒼羅(ib0214)がいた。
「ただし‥‥無茶はしないと約束するなら、だ。前然、烈花、ついて来い!」
「おお、蒼兄ィ」
 走り出す蒼羅に呼ばれ、二人がついて行く。
「あまり無理せずに! けど頼りにしてるからね」
 声を掛けた煌夜(ia9065)に、前然と烈花が嬉しそうに振り返って親指を立てる。
 その横合いから蜘蛛が来る。
「おっと、油断は禁物すよ?」
 瞬脚で追いついてきた真珠朗(ia3553) がこれを叩く。
「キザ兄ィ、カッコいいゼ」
「これがいい男の条件すよ」
 烈花の掛け声に、前然を見る真珠朗。そしてさらに横に並ぶ者が。
「蛙時々、蜘蛛か。アヤカシでさえなければ、面白いと言えるのだけど──あまり、無理せぬようにね」
 アルティア・L・ナイン(ia1273) だ。
 子どもたちを囲むよう、蒼羅・真珠朗・アルティアで三角形を組む。
 このまま、村人の多く残る田んぼへと急行するのだった。

 そして、先ほどの場所。
 煌夜が残った雑技団メンバーを確認している。
 闘国と紫星に話している姿を見つけた。
「二人は私と。村人を治療して回ります」
「分かったわ。‥‥よろしく、陰陽さん」
 宿奈 芳純(ia9695)である。
「厄介な事態にはなったが‥‥。魔神たる私がやるのは敵を倒すことだけだ」
「速攻で潰して帰るカ。蛙だけに」
 他に、瀧鷲 漸(ia8176) が滾り、梢・飛鈴(ia0034)が動き始めた。
「在恋ちゃん。私達が来たからには、もう安心なのです!」
「あ、はい。戸締りはしっかり、ですね。ニンジャ姉さん」
 ルンルン・パムポップン(ib0234)に笑顔で元気づけられた在恋が顔を上げて言いつけを復唱する。
「しっかし、あの姉ェ。前もそうだが、旋風(かぜ)のようだな」
「ニンジャ姉ェと組んで動き回るつもりだね。‥‥さ、僕たちは避難しよう。ステラ姉ェ、頑張ってください」
 飛鈴に感心した兵馬を、陳新が屋内に連れて行く。
「任せて。‥‥じゃ、私は漸さんと組んで集落のアヤカシを」
 煌夜はウインクを残し、漸を追い始めた。
 道にうじゃうじゃいたカエルは大方物陰に避難し、化け蜘蛛は逃げ遅れた村人を襲ったり、新たな獲物を求めて目を光らせたりしている状況である。


 さて、居住地。
 人々はカエルが降って来るという超常現象に驚きつつも家屋内に避難するという行動で難を逃れていた。
「まずいわね、逃げ遅れている人がいる!」
 叫ぶ煌夜。
 視界の遠くで、村人が複数の蜘蛛に襲われていたのだ。
「届いてっ!」
 急いで降魔刀を鞘走らせる。その軌道から雷の刃が飛んでいく。雷鳴剣。射程ギリギリ届いて蜘蛛を倒すが、群がっていた残りがこちらに気付いて襲い掛かってきた。‥‥一人の村人が多くのアヤカシに襲われたのだ。絶命するのは早い。ぼろ雑巾のようにうち捨てられ横たわっている。
「許さん!」
 これを目の当たりにした漸は魔神が如く憤った。
 はち切れんばかりの胸を弾ませるとオーラ全開。黒混じり赤色のオーラを纏ってそそり立つ。これぞ騎士が極意・オウガバトルッ!
「かかって来い、蜘蛛どもっ」
 漸、初動が遅れた分派手に走る。我が身よ囮となれとばかりにど派手に斧槍「ヴィルヘルム」をぶん回しては突貫する。トップヘビーの薙ぎ払いはうかつに近寄った蜘蛛をあっさりと叩き潰す。
「ん? 動きがおかしい」
 続く煌夜は心眼「集」で改めて戦況確認をしていた。
「ほぅら、単独行動はまずいと思ったわ」
 くるっと振り向くと、何と蜘蛛が水平に円弧を描きながら飛びかかってきていた。蜘蛛の糸を利用して、建物の裏側から横に遠心力を使いぐる〜んと奇襲。これをカウンターで斬り伏せる煌夜。分かっていたからできる芸当である。
 そして、しっかり踏み込んでお辞儀をしていた状態から横を見て漸の様子を伺う。
「無茶やってるわね」
「とにかく手数っ。‥‥煌夜、次はどっちだ?」
 煌夜が呆れたのは、漸が防御も考えずに暴れているから。なびかせたマントが敵の攻撃で随分傷んでいるが、その奥、敵を見据えた瞳は抜き身の刃そのものの鋭さがあった。
「右前方で団子状態。結構遠いわよ」
「残り、頼む」
「いいけどねっ」
 最後の一匹は煌夜がやはり雷鳴剣で仕留めた。漸はすでに次の戦場へと向かっている。
「とにかく、こっちで可能な限り掃討しなくちゃ」
 煌夜も長く編んだ髪をなびかせ前傾姿勢で追う。
 雑技の子どもたちに負担を掛けないように、という思いがある。

 その、雑技の子どもたち。
「これは‥‥」
「何、陰陽さん?」
「こっちへ。家屋の中を狙っている蜘蛛がいます」
 芳純が進行方向を変えた。
 その先には、戸締りをする前に蜘蛛に取り付かれていた家屋があった。
「糸ごと喰らってしまいなさい」
 掲げた呪術人形「必勝達磨」から魂喰いが飛んでいく。
「闘国は通りから来るの押さえてっ」
 矢を放ちながら指示を出す紫星の脇を抜けて、斧を両手持ちした闘国が突っ込む。
 猪突猛進で破壊力十分の一撃を繰り出すが、相打ち。
「いけない。紫星さんはとにかく撃ってください」
 慌てて芳純が駆け寄り治癒符。
「ちょっと、何やってんのよ〜っ」
「これでいい。紫星さん、よくやりましたよ。後はこの影から近寄る敵を狙ってください」
 何と芳純、闘国に応急の手当てするとすぐに結界呪符「白」を展開。戦局を前方一点に限定。自らは先の家屋に取り付いたアヤカシ退治に戻り、そこに威嚇射撃をしていた紫星を塗り壁の影から近寄る敵をけん制させた。ポジションチェンジである。
「今です、闘国さん」
 そして、闘国を突っ込ませてとにかく正面の引き戸を閉める。立て付けが悪かったが、闘国の力で外から強引に締めた。
「これから化け蜘蛛を残らず片付けますので、それまで家から出ないで頂ける様お願いします」
 絶体絶命だった住民を安心させる芳純。
「さ、陰陽さん。次はどっちにいくのよ?」
「そうですね‥‥」
 芳純、子どもたちと上手くやってるようである。


「私はこっちに回りますから、向こうはお願いします」
「よし、兎に角、村人に群がってる蜘蛛を散らすことから始めるカイ」
 こちらは、まず屋根に上がったルンルン・飛鈴組。
 ルンルンがピンチな村人を見付け飛鈴に指示を出す。
 その飛鈴。
 屋根から屋根を伝い、旬脚も交えてまさに飛ぶように村人に群がる蜘蛛の場所に到達した。
 複数の敵に対し、そのまま回し蹴りッ! 旋風脚だ。
「ちとグロイな‥‥。ま、弱くて脚をへし折って動けなくする手間もかからずいいガ」
 一発目で一撃でいける手応えを掴んだ飛鈴は、連続旋風脚に入った。
 体軸を斜めにして下から上の円軌道で足の甲をくれてやったかと思うと、そのままくるんくるんと移動し跳躍。状態をしっかり捻ってから体重を乗せて踵を落すなど暴れ放題。 
 それもそのはず。
 うまいこと、囲まれた村人がアヤカシに襲われる直前に助けることができたのだ。
 できるだけ派手に戦って、なおかつ全力で素早く倒すことに専念することで助かった人を逃がすことに成功していた。
 しかし、敵は村全体に分布している。
 単独でうまく逃げられるだろうか?

 一方、ルンルン。
「よし、これ以上の犠牲は絶対出さない、ニンジャ姉にお任せなんだからっ!」
 飛鈴に指示を出した後、近場の敵を倒して彼女を追っていた。奔刃術で駆け抜けながら斬って斬って斬り捲り。
 そしても゜運よく彼女が助けて逃がした村人を迎える形となった。
 結構、敵に追われている。
「早く、あそこの人が扉を開けてくれてるからお世話になっちゃってください」
 避難誘導しながら自ら囮となる。
 そして、無事に逃げ切ったことを確認するときらーんと振り返るッ!
 囲まれ、いま攻撃を喰らっても動じず、腰に付けた「北斗七星の杖」を握ると胸をそらしていま、堂々と天に翳した。
「ジュゲームジュゲームパムポップン‥‥ルンルン忍法真空ハリケーン! 遭都京えーりあんで秋葉掘りなのです」
 謎単語を発して風塵発動。吹けよ風、呼べよ嵐な真空刃乱舞状態で纏いつく蜘蛛どもを一網打尽にしたっ。空から降りることで若干ダメージを受けていた蜘蛛どもはこれだけで黒い瘴気となり消えていった。


 さて。
 場面は「雨が降り出す前に農地の確認を」と、一番多くの人が集まっていた畑に移る――。

「おいっ、アレ」
 烈花が驚き指差した。
 田で襲われた住民はばらばらと村に逃げ帰ろうとして、それを蜘蛛が身軽に飛び跳ねながら先回りしている。状態は悪いが、こちらに向かっていることは運がいい。
「やるなら今のうちすね」
 真珠朗、瞬脚で出る。開いた右翼に見える敵は前然が投げナイフで対応する。
 そして、真珠朗が範囲ギリギリに敵が入るように崩震脚。
「跳ねるんで数は少なかったすが‥‥」
「よし、ここを守るっ!」
「蒼兄ィ。俺たちは?」
「好きに動け。困れば助ける」
「いよっし」
 飛んでタイミングをずらしてやって来る敵に切りつける真珠朗の横に、蒼羅がつける。前然の言葉には蒼羅が手短に。烈花は手甲の腕をぶんと回す。
 その隙間から飛んできた手裏剣「風華」はアルティアの攻撃。脚の傷が癒えず長距離の全力疾走は苦手となったが、役目をわきまえているのは百戦錬磨だ。
「ほら、まずは落ち着いて。敵がどこから来るか分からんでしょ? 逃げる途中にやられますよ」
「キザ兄ィ、なるほど。‥‥さあ、輪の中に入って。俺たちが守るからまずは落ち着いて、周りをよく見て」
 真珠朗の声に前然がピンと来た。
「そうだ。俺達の役目は‥‥、ここを守る事だ」
 蒼羅もどっしり構え、居合で寄って来たアヤカシを退ける。
「そうか‥‥」
「そうだな」
 次第に落ち着きを取り戻し立ち止まった住民たち。
 実際、逃げてもアヤカシは軽やかに飛び跳ねて先回りし襲ってきた。いまもすでに蜘蛛が頭上を越えて先回りしてしまっていたこともあり、開拓者の守る輪の中にとどまる結果となった。
 そして。
「お前たちだけの戦法ではないっ!」
 言ったアルティアの足の先が仄かに輝いた。続いて、軽い一蹴りで空に舞い上がる。
「うおっ、すげぇな」
 烈花の感嘆の声。
 アルティア、ジプシーの妙技「ナディエ」で垂直に飛び上がると、跳躍して回り込もうとしたアヤカシをナイトソードで叩き落した。さらに落下しつつ、体重を乗せた打撃を落し止めを刺す。奇麗な動きである。
「アルティアにーさん、大丈夫すか?」
 落下際の隙――怪我の癒えない右側からアルティアを狙っていた敵は、目敏く戦況を見ていた真珠朗がフォローに入り斬り伏せた。
「すまない」
 真珠朗に礼を言いつつ剣を咥えるアルティア。真珠朗の動いた穴を狙ってくる敵に手裏剣を投げて応じる。
「こ、これが開拓者か‥‥」
「動くな。おい、ここで守ってもらおう。開拓者さんの足手まといになるな」
 住民はさすがに開拓者を信用したようだ。
「それでいい。数で来ようともこの斬竜刀ならば‥‥」
 落ち着いた住民に安堵し、気合いを入れる蒼羅。雪折から銀杏をつないで動き回り、とにかく前から来る敵を屠る。斬竜刀「天墜」は人の背丈より長い。少々離れていても問題なくぶった斬る。
「さすが蒼兄ィ。やるねぇ」
 その背後では、烈花が彼を真似て動き回っては手傷を負わせていく。
 化け蜘蛛の攻撃は、腹を見せて飛びかかってくるの一本槍だ。のしかかって倒してから、噛み付くというパターン。開拓者たちは飛び掛ってくるところを確実に仕留めている。
 しかし、ここで蒼羅の恐れていた展開となる。
 化け蜘蛛が距離を取り始め、糸を吐き出し始めたのだ。
「やはり来たか。気をつけろ」
「ちょぃと耳を塞いでてくださいよ?」
 叫ぶ蒼羅の前に出たのは真珠朗。宝珠銃「皇帝」に切り替えて遠距離を狙い撃つ。
「蒼兄ィ、撤退しよう。ちょうど忍者姉ェや疾風姉ェも来てる」
 前然が指差す方向には、ルンルンと飛鈴が近寄ってきていた。
「これが本当の『上から来るぞ、気をつけろ』って奴カ?」
 屋根を伝っていた飛鈴が飛び降りながらアーマードヒットで敵を叩き潰していた。ルンルンはいち早く合流し、手にしたグニェーフソードで斬りまくる。
 そしてまた、真珠朗の銃声。
 アルティアと前然を先頭に上手く撤退し、残った者は奮戦し敵を殲滅した。


「あの‥‥」
「なんだ?」
 すべてが終わって荒れた村を片付けていた時、漸は針子の皆美に声を掛けられていた。
「その服、どうやって縫製してるんですか?」
「お嬢ちゃんみたいな可愛い娘には、これは作れんな」
 ははっ、と笑う漸。
「‥‥あんまり怖くない人なのかもな」
 これを遠巻きに見ていた兵馬と烈花はそんなことを言いつつ顔を見合わせていたり。
 そして横では、芳純が闘国の腕に包帯を巻いていた。
「治療のできる人がいるといいですね」
 よし、と応急処置は終了した様子。
「というわけで、あたしの胸に飛び込んできていただいて構いませんよ?」
「なんで『というわけ』なのよっ!」
 両手を広げた真珠朗に、黒猫の集星を投げる紫星。真珠朗は紫星を抱きつつこっそり「成長してるすよ。大人の知らない間に成長するのが子供だって話でしょうが」とかつぶやきにやにや。
「しかし後始末も大変ダナ」
「まて、油断は出来んぞ?」
 やれやれ、という感じの飛鈴に、蒼羅が我に帰る。雨雲はもう去ったが、元々森の奥の化け蜘蛛退治が依頼だったはずだ。
「この現象が今年は森ではなく村の上であった、とかかもだけど‥‥」
 念のために森を見て来る、と煌夜。

 翌日。
 結局、森でアヤカシは見られなかったという。
「起こったことにケチをつける気はないけど‥‥」
「不思議な体験でしたよね」
 戻って首を捻る煌夜を労う陳新。
「ルンルンさん、村の人がぜひ食べて、って」
「わあっ、お菓子。在恋ちゃん、一緒に食べちゃいましょう♪」
「‥‥こんな平和な様子を見ると、昨日のことが夢のようだ」
 賑わう在恋とルンルンを見て肩を竦めるアルティア。そっと、痛めた右目に手をやり背を向ける。と、目の前に前然がいた。菓子を持って、にこっと微笑んでいる――。