【泰猫】ほたるの墓道
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/06/21 19:25



■オープニング本文

「すっかりお客さんが減ったんですよー」
「減ったんですよー」
 天儀は武天の某山中。
 泰国出身のチンピラが流れ流れて心を入れ替え居着いた山道の宿「山賊砦」に村娘たちの声が響く。
「まあ、冬の間は雪に沈んでここを越えようって旅人もいなかったからな‥‥」
 元チンピラたちの頭、瑞鵬(ズイホウ)が唸る。
 瑞鵬たちは世話になった店長のいる料理店の名を取って、「泰猫隊」として活躍している。この砦も実は山賊の根城だったが、開拓者に指揮してもらって彼らが落した。以来、「良い山賊の守る旅の宿」として周辺の村の就労受け皿となりつつ評判も良く運営していた。
 しかし。
 初めて向える冬は積雪で山賊砦が経営できなくなり、いきなり存続の危機を迎えた。
 この難局を打破したのは、出稼ぎ。
 泰猫隊結成のきっかけを作った料理店と旅泰の持ち込んだ、泰国の村でのアヤカシ退治と住み込み警備を請け負い、食い扶持を減らす事で乗り切った。
 半面、戻ってくると経営空白期間の重さを実感する事となる。世の中、なかなかうまくいかないものである。
「一から宣伝をしなくちゃならないかもなぁ」
「それなら、良い手がある」
 腕を組む瑞鵬に進言したのは、知恵袋の錐間(きりま)。
「にぎやかな町とは反対側の宿場町近くで、アヤカシじゃないかって事件が発生している。この困りごとを俺たちが引き受け開拓者を雇って解決する」
 理路整然と話す錐間。
「今の状態で開拓者を雇っても、後に資金難になるぞ」
「なに、解決した後に、ちょっと宣伝を兼ねて現地で山賊焼きなんかを販売して儲けさせてもらえばいいのさ」
 難色を示す瑞鵬に、錐間はここで待つより多くの客に食べてもらえること、料理単体では儲けになること、いい宣伝になることを数え上げては指を折る。どうやら「ちょっと」という言葉とは裏腹に、派手に商売する腹積りらしい。
「それに、宣伝ならそっちとは反対方向にあるにぎやかな町の方がいいに決まっている」
 瑞鵬、正論を吐く。
「いや、これからの季節はなんだかんだで行商人が増える。梅雨に入れば急ぎの行商人が増えて近道となるここの利用者も去年並に戻る可能性が高い。‥‥新たな客を増やすには、田舎から都会に行く者を増やすべきだ」
 なぜなら、田舎から出た者は田舎に帰るから、と。
「確かに、これまでは都会の方で宣伝してばかりだったな」
 つぶやく瑞鵬に、よし、行けると周りの泰猫隊が乗り気となる。
「よし、決まった。‥‥それで、肝心のアヤカシ退治を失敗する、じゃ逆効果だ。難しいアヤカシ現象なのか?」
「おそらく、蛍の光に紛れているのだとは思うんだが‥‥」
 アヤカシ現象の発生している状況は以下の通りである。

 ある宿場町の外れにある、共同墓地。
 そこへ夕暮れに向った人が帰ってこないのである。
「そういえば、そこに向った子どもたちは『蛍がいるのを見た』と言っておったな」
 住民からはそんな情報が出てくる。
 夕暮れ後に墓場へ至る道に足を踏み込む者がいる理由である。
「しかし、あの道沿いに小川はなかろう。蛍がおるとは到底思えん」
「いや、『キンボタル』だな」
 どこぞの世界では「ヒメボタル」と言われるとかいうのは余談。水辺に生息するほかの種より瞬く感覚が短いのだとか。
 ともかく。
「昼間に墓に向った者は、誰も行方不明者はおらん」
「夜、ということはやっぱり突然現われた蛍が怪しいな」
「いや、小数なら前からおったぞ」
「おおい。あの辺りの木の幹に大きな傷跡‥‥何か大きなものがぶつかったような跡があったそうじゃ」
「‥‥でっかい、人食いの蛍でもおるんかな」
 住民の議論はそこまで進み、おお、桑原桑原と身をすくめた所で停止していた。
「まあ、夜に近寄らなきゃええだけの話ではあるの」
 正論である。加えて、比較的平穏な町で開拓者を呼びなれていない事もある。
 しかし、確実に住民の心に落ちる不安。
「やっぱり、どうにかせにゃなるまい」
 アヤカシ現象と位置付け、行方不明者の葬儀が終わった後の話である。

 かくして、泰猫隊が開拓者を雇ってのアヤカシ退治を請け負うのだった。


■参加者一覧
ラシュディア(ib0112
23歳・男・騎
来島剛禅(ib0128
32歳・男・魔
ロック・J・グリフィス(ib0293
25歳・男・騎
蓮 神音(ib2662
14歳・女・泰
エリーセ(ib5117
15歳・女・騎
リンスガルト・ギーベリ(ib5184
10歳・女・泰
セシリア=L=モルゲン(ib5665
24歳・女・ジ


■リプレイ本文


「『縁のある身だ、力になれる時には力になる』か。いいなぁ」
「義侠だよなぁ。俺たちも‥‥」
 く〜っ、と泰猫隊の男たちが額に手を当て顔を左右に振る。ロック・J・グリフィス(ib0293)の堂々とした様子と言葉に惚れ惚れしているのだ。
「そういえばロックさん。イメージが変わりましたね」
「ん、この格好か?神楽の都で暮らす事も多くなったのでな、少々郷に従ってみたというわけだ」
 新衣装は気風良く上着をざっくり着ていた。
 それはそれとして。
 ここは件の宿場町。
 時は、日中。
 到着した開拓者と瑞鵬ら泰猫隊は、早速アヤカシ退治に向けての活動を開始している。
「今回は夜だから、事前の準備をしておかないとな」
 ラシュディア(ib0112)がまず想定戦闘区域の調査とばかりに動き始める。
「ンフフ。退治の前にはちゃんと下調べしないとねェ」
 ぴしり、と手にした血茨の鞭を両手で伸ばすセシリア=L=モルゲン(ib5665)も同じ意向だ。
「ラシュディアさん。俺たちも行きますぜ」
「あ、姉さん。そんな格好で行くんで?」
 山賊砦奪還で共に戦ったラシュディアを慕う者に、セシリアの大きな胸とかくびれた腰とかが露なままの衣装を心配する者も。
「誘い込んで殲滅するのよ? ちょうどいいんじゃない? ンフフ」
 何とも妖艶的な笑みに、それ以上何も言えない泰猫隊。
 ここで、カツ、と踵を鳴らしエリーセ(ib5117)がやって来た。
「む、立派になったな」
「白いお嬢さんじゃないすか!」
 わらわらと集まる泰猫隊。
「あの時より凛々しくなって‥‥」
「あれからの活躍を話してくださいよ」
 彼女の指揮で共に戦った者たちにもてはやされる。
 そして小さな姿が。リンスガルト・ギーベリ(ib5184)だ。
「久しいな泰猫の」
「おおっ。小さな隊長さんっ」
「あれ、何抱えてるんですか?」
「ひ、秘密じゃ」
 リンス、泰国の村を一緒に奪還した者が、戦士の面構えになっていることを喜ぶ。‥‥って、リンスさん。手帳とか手荷物をなんで隠すんですか?
「積もる話もあるでしょうが、日中の場所確認は大切です」
「クリスさんの言う通りだ。行くぞ」
 静かに指摘する来島剛禅(ib0128)(以下、クリス)の言葉を受けて、泰猫隊リーダーの瑞鵬が皆をまとめた。泰猫隊には何度も力を貸し適切なアドバイスをしているクリス、すっかり指導者として慕われているようで。
「じゃ、行きましょー、おにーさんたち」
 いつも明るい 石動 神音(ib2662)が、両お下げをるんるん揺らして歩き出す。‥‥ナゼに浮き浮きしているかは、秘密☆。


 日中の調査を終えて、夜。
 大ホタルの出る墓への道で。
「わあっ、きれーい。たくさん光ってる」
 神音が、恋する乙女そのものの表情で、乱舞するホタルを見詰めていた。
 風があるのだろう。木々の高い位置でざざっ、と枝揺れの音がする。
「ふむ、ここからはマシャエライトじゃない方がいいですね」
 クリスは、自分の近くに漂っていた光源をぺしりと叩いた。するとスキルの光源は一瞬で消えうせた。星明りのみの暗さとなる。
「総数把握は必要」
 敵が大ホタルなだけに、明かりでその存在が分かると判断する。
 が、それらしき大きな光はない。
「遠くだと光も小さく見えるよな? 囮も兼ねて行ってこよう」
 ラシュディア、カンテラの明かりをシャッターで隠し、前へと進んだ。
「暗闇で位置が掴めぬと言うのは、何ともやりにくいものだ」
 見送るロックは、胸に飾った高貴なる薔薇を撫でながら。
「‥‥しかし、ヒカリゴケがないとは」
 どうやら光源を準備しようとしたが、うまくいかなかったようである。
「これを使うと良い。妾は両手が塞がるのがイヤなのでな」
「助かる、リンス。‥‥しかし、ホタル狩りか。本当に狩るのだから些か風流さには欠けるのが残念だ」
 そんなこんなで右手へと進む。そちらに囮になりに行くようだ。
「神音も別の場所で囮をしてくるよ」
 ふんわり淡く光る提灯を取り出す神音は、左手へ。そのままふわっ、ふわっ、とホタルが飛ぶように操っては、昼間に迎撃場所として整えていた広い場所へと向かう。
 そして、残った本隊。
「とにかく、泰猫隊の評判を上げるぞ」
「言われるまでもないの!」
 クリスの周りで、ベイル「翼竜鱗」を前に出し闇照の剣を引き構えるエリーセと、バルカンソードの切っ先を前に出しベイルを体の側で固めるリンスガルトが広範囲警戒をする。
「ンフフ‥‥」
 微笑しつつ二本の鞭を持つセシリアは、昼に目星をつけておいた迎撃場所を見て確認していた。
 さあ、これで準備は万端。
 現場は、相変わらずどこかでざざざっと枝擦れの音がしている。


 さて、先行したラシュディア。
「普通のホタルしかいないな‥‥。このまま潜むか」
 特に大きな光源が遠くにあって、それが小さく見えるという現象もないと確認した。シノビらしい戦法に切り替える。
 そして、ロック。
「さぁ来い、こっちの水は甘いぞ」
 爽やかな微笑と共に、リンスガルトから借りたカンテラのシャッターを開け派手に振り回し始める。もしもヒカリゴケが手に入っていればこれを撒くつもりだったが。
 しかし、ロックの方にもアヤカシは来なかった。
「うーん、剛禅おにーさんの方は大丈夫かなぁ?」
 神音の方にもいないらしい。本隊を振り返る神音。
 そしてここで、神音は息を飲むのであったッ!
「剛禅おにーさん、上、上っ!」
 なんと、本隊のはるか上のスギの枝に大きな光が灯ったのだッ! いくつも、いくつも。
 駆け出す神音。しかし、間に合うはずがない。
 いや、声が間に合った。
 ぼとぼとどさり、と落ちるアヤカシに、散開して難を逃れる本隊の開拓者たち。
「平面を警戒させておいて垂直からですか」
 飛び退いて転がったクリス。再びマシャエライトの明かりをつける。これが戦闘の合図となった。
「総数五体だ。討ちもらすなっ」
 ベイルを前に出して余裕を作ったエリーセはよく見ている。仲間に敵の数を知らせた。
「やはり不意打ちか」
 リンスガルトも切り替えが早い。オーラドライブで真紅のオーラを纏い、敵の甲殻の隙間を狙う一撃。重い一撃が決まるが、若干外れたこともあり敵は健在。
「意外と硬いぞっ」
「ンフフ‥‥頼むわよォ」
 リンスの言葉と交錯するように、セシリアが本隊から離れる。豊かな‥‥というか、豊か過ぎる胸を揺らし、走る。
 そしてぴし、と血茨の鞭を構えると、結界呪符「黒」を召還。追って来ていた大ホタルがぶつかる。
「じゃ、お願いねェ」
 クリスに視線を送ってから、もう一枚。Vの字の谷間に大ホタルを追い込んだのだ。
「おあつらえ向きですね、セシリア君」
 クリスはこの敵にブリザーストーム。いつもより効果的で、大ホタルは一撃で姿を消した。 
「クリス。四時の方角からほたる接近!」
「む」
「剛禅おにーさん、神音に任せてっ」
 対峙する敵の行動パターンを呼んで流し切りしたエリーセが叫んだ。クリス、無防備だったが、神音が長駆戻ってきていた。
 走る前傾姿勢のまま突きを入れられたのは、クリスが体を半歩引いたから。神音の二撃目は、左のアッパーカット。百虎箭疾歩だ。
 いや、さらに先手を取るぞっ!
「吹っ飛べー!」
 右ストレートは、これが気の爆発、爆砕拳っ!
 見事吹っ飛ぶ大ホタル。そして消滅。
「汝に任せた」
 リンスガルトは、バリイで敵を止めエリーセの前に。エリーセ、これをきっちり仕留める。
 しかし、戦いはまだ終わらない。


「やはりまだいましたか」
 周囲警戒する余裕ができたクリス。林に散らばっていた大ホタルがこちらに寄って来ていることを察知した。
 が、全周囲からではなかった。
「少しの間でも仲間が対する敵の数を減らしたいね」
 本隊から離れた場所で、ラシュディアが忙しく働いていたからだ。
 まずカンテラのシャッターを上げ手裏剣を投じる。気付いた大ホタルが寄って来るところを下がりつつさらに投擲。
「お、早いな」
 追いつかれそうになったら逃げるつもりだったが、敵は点滅の間隔を変え、鋭く飛んできた。接近され攻撃を食らうが、すでに随分痛めつけている。抜きざまに斬り付けた忍刀「蝮」の一撃で敵を倒しこれ以上の消耗戦を避ける。
 一方、ロックも本隊の包囲防止に貢献していた。
 驚異的なのは、長槍「蜻蛉切」を手にしていること。
「林の中の取り回しの悪さなぞ、これで十分! 燃え上がれ俺のオーラよ」
 雄叫びと共に、オウガバトル。
 そして突き、突きっ!
 直線的な攻撃をする敵に、負けじと直線的に応じる。しかし、さらにもう一体が来ているッ!
「蜻蛉切りならぬ螢切り、しかと味わうがいい!」
 ここで、得意のカミエテッドチャージ。敵の攻撃線上であることをいいことに突っ込む。このど迫力の突撃は一撃で敵を屠ることとなる。途中の低木に足を削られダメージを受けようが、振るった槍に一片の悔いなしとそそり立つ。
 そして、本隊。
「亡くなった者達の魂が安らぐ為に、お前達の光は邪魔なのだ!」
 白銀のきらめきを星屑のように振りまく黒い刀身を振るうエリーセ。覚悟の瞳と凛々しく言い放つ言葉の力強さそのままに、敵を倒す。
 が、一体が逃げた。
「そうくるかっ」
 なんと、逃げたと思った大ホタルが、低木に着地し体重を預けみよ〜んと幹をしならせる。そして反動を生かし鋭く戻ってきた。
 彼女はリンスガルトとともに盾を構えるが、この質量と勢いで押し潰される。
 これを離れた場所から見ていたのは、セシリア。
「やってくれるじゃない‥‥ンフフ」
 本隊から離れたため先ほど集中的にやられたが、その敵が今度は味方を攻撃し隙を晒している。「お相手」への返礼とばかりに、いま、蛇神を呼ぶっ!
「きゃっ!」
「おおっ!」
 エリーセとリンスガルトの視界では、反撃しようとした敵が横合いからど派手に噛み付かれていた。当然、大ホタルはこれで消滅。
「どうやら、終わったようですね」
 早駆で戻ってきたラシュディアの横に立つクリスが、彼を追って来ていた敵にホーリーアローを食らわせていた。これでひとまず、襲って来た敵は全滅である。
 のち、林を巡回して数体を各個撃破し、討伐は終わった。


 翌日。
 宿場町の広場に、「美味しい山賊料理!」と書かれた旗が翻った。
「さあ。山賊砦名物を食べながら昨晩の退治話を聞くといいよっ。これが『ちゃんと退治した』っていう証拠だよっ」
 泰猫隊の呼び込みの声が響く。
 住民は、もたらされた安心とおいしそうな匂い、何よりお祭り騒ぎに足を止めたり、わざわざ足を運んだり。
「おおっ。このむすびは大きくて荒々しいが、面倒でなくていいなぁ」
「おい、この焼いた鳥足、うめぇぜ。パリッと焼けてるし、タレが違うなぁ」
「何より、外で食ってるっていう気安さがいいねぇ」
 看板料理の山賊むすびと山賊焼きは、がっつがっつと下品に荒々しく食う男性に評判だった。
「はいはい、山菜炊き込みご飯の山賊むすびもあるよっ。美味しく作るからたくさん食べてねー」
 生き生きと動いているのは神音。昨日の昼間に、ちゃっかり戦場の下見がてら集めていたのだ。浮き浮きしていた理由である。
「嬢ちゃん、焼きおにぎりには醤油とお味噌を塗ればいいですかい?」
「うん、そーだよー」
 手伝う泰猫隊と楽しく働いている。
「接客は不慣れだ」
 えぷろん姿でもぢもぢしているのは、エリーセ。
「大丈夫ですよ、白いお嬢さん」
「そうそう。お嬢さんの笑顔があればみんな幸せってもんだぜ」
 隊長、と慕う泰猫隊が、にこにこと守り立てる。
「そ、そうだな。泰猫隊の評判を上げねば‥‥。それに、泰国の仲間もあれから頑張ってると聞いたし、私も頑張らねば」
 慣れないエプロン姿が気恥ずかしく照れていたが、覚悟を決めた。
 決して、器用ではないがその場には細かなことを気にしない雰囲気が出来上がっていた。これが山賊砦の雰囲気なのかもと感じる。
 ふと、周りを見る。
「ンフフッ‥‥。まだ食べられるでしょう?」
 販売を手伝うセシリアが、男性客を中心に客単価を上げまくっている。群がる男はもう、男を上げるのだとばかりに食いまくっていたり。
「見てくれは大雑把だがなかなかの美味だ、そこのお嬢さん方も一つ如何かな?」
 ロックは、おいしそうに食べてナンパ‥‥じゃなかった、販売促進。
「どうぞ、お嬢さん」
 ラシュディアは、執事服を着て涼やかな顔でスマートに給仕。ロックと共に町娘の興味を引きまくっていたり。
 と、なにやら厨房区画でどよめきが起こってますよ?
 リンスガルトである。
「とにかく大きすぎじゃ。女子どもは辛かろう‥‥見ろ」
 ばばん、と泰猫隊に持参した絵を見せる。
「これは、妾がデザインした泰ニャンじゃ」
「泰ニャン‥‥」
 とっほっほ、と泰猫隊。
 そこには、耳出し頭巾に槍を持ち直立した、山賊っぽい猫が描いてある。絵としては下手だが、妙な可愛さがある。
「豪快さで売るのもよいが、可愛らしい偶像を作り活用するのも良いぞ?」
 とにかくこれで「泰ニャンにぎり」を作るのじゃと、大量の猫の顔型の物相型を取り出し目鼻口用の海苔を配るのだった。
「大人が二口で食える位がいいのじゃ」
 ご飯を型抜きさせつつ、えへんと薄い胸を張るリンス。
 果たして――。
「うわあっ、可愛い〜」
「おいしーねー」
「ねえ、お父さん。今度の旅のお土産はこれがいい」
 可愛さもあって子どもたちに大人気だ。


「まあ、商売の原則は、準備です」
 全体の様子を見て、クリスがゆっくりと言う。
「今まで何度も言われましたよね。ちゃんと守ってますよ」
 瑞鵬がにっこり請け合った。
「ただ、気をつけてください。ここで売れれば、行商人が通るだけに、彼らが訪れる出入りの商人の中で真似る人も出るでしょう。可能な限り、中を見せない・しゃべらないでお願いします」
 あ、と瑞鵬は目を丸めた。似たようなことを以前言われていたが、これは失念していた。
「いずれ、故郷に錦を飾る形で『二号店出さないか?』という話も来るかもしれません」
「えっ?」
 瑞鵬、意外な顔をした。彼らは、ここを新たな故郷として頑張っている。それは、クリスも分かっている。一緒に誓いの杯を掲げた。その時には、ラシュディアもいた。ロックもいた。
「山賊砦は、町と町をつなぐもの。いずれは故郷と皆さんをつなぐ役をしてもいいでしょう。あのように‥‥」
 クリスが、エリーセに視線をやった。
 彼女は最初恥かしがっていたが、今はしみじみと笑顔を浮かべていた。彼女の視線の先には、住民たちの心からの笑顔。
「‥‥きっと、あちらにも喜んでくれる人がいます」
 クリスの言葉に、瑞鵬は力強く頷くのだった。

 それはそれとして、リンスガルト。
「‥‥い、言っておくが偶々前日に思いついたのじゃ! いつもこんな可愛いものを考えている訳ではないからなっ!」
 泰ニャン作者はぷんすか言うが、泰猫隊は「はいはい」と笑顔だったり。