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■オープニング本文 「‥‥ふぅ」 雑技公演に招かれた町で、香鈴雑技団の歌姫・在恋(ザイレン)が窓の外を見て溜息をついていた。すでに公演は好評の内に終わっている。 「どうしたの、在恋?」 テーブルの向いに座ってちくちく縫い物をしていた皆美(みなみ)が顔を上げて聞いてみた。 「雨だなあ、って‥‥」 「そうね。雨よね」 ふぅ‥‥、ちくちく。 それきり押し黙る2人。 そこへ、雑技団の道化・陳新(チンシン)がやって来た。 「在恋、皆美。次の目的地が決まったよ」 明るく声を掛けるが、2人の表情はどこか沈んでいる。「仕方ないか」とこっそり呟く陳新。長く続く雨は、いい思い出がない。先に訪れた町も、巨大な「祟り蛇神」というアヤカシに出くわし開拓者と一緒に退治したばかりだ。‥‥町はボロボロにされてしまったが。 そんな、暗い雰囲気を察知した陳新。 でも、と言い掛けてやめた。 口の中に消えて出なかった言葉は、「それでも町は一緒になって立て直したし、バラバラになりかけた雑技団もまた一緒に再出発できた」。雑技の子どもたちは子どもたちなりに、自分たちでできる事をしてきた。なんら恥じるところも悔やむところもない。 でも。 「でも、いい情報もあるよ」 陳新、務めて明るく続ける。 「次に行く村には、『音楽の神童』って呼ばれてる女の子がいるんだって。‥‥特に二胡の演奏が見事で、都の楽士から『直接指導するから来なさい』って招かれてるらしいよ」 「え? 二胡の演奏が見事‥‥」 この情報に明るく顔を上げた在恋。 「私もちょっと教えてもらうつもりだけどね」 「あ。‥‥どんな女の子なんだろう。私もその子の演奏で歌ったみたいな」 陳新と在恋の盛り上がりに、皆美もちくちくと針が乗り出したようだ。 にこにこ、ちくちく。 場所は変わって、雑技団の来訪予定の村。 「はぁ‥‥」 窓際で、二胡を抱えた少女が溜息をついていた。 「どうしたんだよ、貢令(クレイ)」 「今年は蛙の鳴き声が少ないなって‥‥」 貢令、問い掛けて来た男の子にそんなことを言った。 「ん〜。オレにはそんなの分かんないよ」 「あっ!」 首を捻る男の子には構わず大声を上げた貢令。 「どうしたんだよ?」 「あ、あ‥‥。蛙の鳴き声が増えた。‥‥ううん、何だか鳴き声が変わった」 「分かんないよ、そんなの」 「ねえっ、ねえっ。ヘンだよ。おかしい。‥‥何だか不吉な鳴き声なの。村の上(かみ)の沼の方からするわ。‥‥ねえっ、何かヘンなの。行ってみよう?」 「ん、しょうがねぇなぁ」 こうして、傘を差し出掛けた2人だった。途中で村人がこれを見送っている。 これが、貢令ら2人を見た最後だったという。 「なんじゃ、この紅紫色の沼は‥‥」 帰らない貢令の捜索に出た村人は、見慣れた沼の変わり果てた姿に驚愕していた。ギゴギゴと蛙の不吉な鳴き声が耳にうるさい。 「沼の水が、こんな色に染まっているなんて‥‥」 紅紫色をした沼の水。 調べるため、恐る恐る棒切れでつつく村人。特に棒に変わったところはない。 「あっ!」 この時、見守っていた村人の一人が足を滑らせ沼に落ちた。浅いので溺れる事はない。無事に立ちあがる。が、底はぬかるんでいるのでぐらりとふらついた。 と、そのまま踏張りもせずに、不自然に倒れたっ! 「おいっ!」 目がうつろだったため、後に毒ではないかと見られることになる。 それはともかく、悲劇はさらに続いた。 「うわっ!」 沼から長い何かが飛んできて絡み、また一人が沼に引き込まれたのだ。 「な、なんじゃ、あの大蝦蟇はっ!」 「いやまて、落ちた者らが大蝦蟇の方に‥‥」 「うわあっ。まだおるっ! 逃げろぉ」 指差し、そして慌てて逃げる村人。 落ちた2人は人形のように抵抗もせずに、紅紫色をした沼の中央に向って引きずられて行くのだった‥‥。 後日、村に到着した香鈴雑技団は、村人が雇った開拓者たちと顔を合わせる事になる。 |
■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034)
21歳・女・泰
真珠朗(ia3553)
27歳・男・泰
煌夜(ia9065)
24歳・女・志
霧咲 水奏(ia9145)
28歳・女・弓
茜ヶ原 ほとり(ia9204)
19歳・女・弓
宿奈 芳純(ia9695)
25歳・男・陰
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ |
■リプレイ本文 ● 依頼のあった村で開拓者が打ち合わせをしていると、宿奈 芳純(ia9695) が知人を見つけた。ここには到着したばかりの、子どもの一団。香鈴雑技団である。 「あれっ。陰陽さん?」 「これは、雑技団の皆さん」 先に陳新に声を掛けられ、にっこりと挨拶をする芳純。いつも澄ました顔ににっこりと優しさが浮かぶ。 「あ、ホントだ。弓姉ェもステラ姉ェもいるゼ」 兵馬が続いて声を上げる。 「おや、斯様な場所で香鈴の友人らとお会いする事になるとは思いませんでしたな」 「そこそこ厄介なだけのアヤカシ退治依頼だと思ってたら‥‥元気そうでなにより」 見知った子どもたちの元気な姿にくすくす笑う霧咲 水奏(ia9145) に、思いもしなかった再会に頬が緩む煌夜(ia9065) 。 「‥‥これは、格好悪いところを見せられなくなりそうで、ちょっと緊張しちゃうかも」 「何言ってんだか。たまにはステラ姉ェの格好悪いところを見てみたいくらいさ」 くすくす笑ういつもの様子の煌夜に、やっぱり嬉しさで頬の緩む前然が突っ込む。 「ねえ‥‥」 「ああ、ほとり殿は初めてでしたな。拙者たちと、この香鈴雑技団の子どもたちは‥‥」 「一緒に旅をする、アタシたちの大切なだよ! ‥‥今となっちゃ、俺たちみたいに家族みたいなもんサ」 友人の水奏に控えめに聞く茜ヶ原 ほとり(ia9204) 。水奏が説明しようとしたところ、烈華が力強く言った。「家族みたいなもの」は言い過ぎかもと感じたようだが、「雑技団は家族みたいなものだから」とつぶやいて付け加える。 「あ、集星」 この時、紫星の抱いていた黒猫がとんと降りて開拓者の足に擦り寄った。 「よう、久し振りだな」 屈んで集星を抱いてやったのは、「香鈴の蒼兄ィ」こと琥龍 蒼羅(ib0214) だ。 「わぁ、みんなも来てたんだ、あれから元気してた?」 村人と話していたのを中断して元気に寄って来たのは、ルンルン・パムポップン(ib0234)。 「忍者姉さんも元気そうですね」 「あ、皆美ちゃん。聞いてよ、毒大蝦蟇アヤカシだって。まったく‥‥」 「‥‥偶然だな。ルンルンが言ったとおり、こんな時でなければゆっくり話も出来るのだが」 微笑しただけで蒼羅の表情が引き締まったのは、仕事中だから。‥‥ここの機会とばかりに集星を抱いてはいるが。それはそれとして、なぜにルンルンはぷんぷんしてるのだろう? 「みんな困ってるし、大ガマはニンジャのステイタス、その評判を落とす様なアヤカシは絶対許さないんだからっ!」 ぐっと拳を固め、義憤と私憤に燃えているようだ。 ここで、また一人近寄ってきた。 「やぁ、相変わらず。ぼーいずあんどがーるずに会うのも久しぶりすねぇ」 「キザ兄ィ」 真珠朗(ia3553) である。兵馬の口にした呼び名には苦笑するが。 「元気にせいしゅんしてるすか? あたしの胸に飛び込んできてくれて構いませんよ?」 真珠朗は烈華や在恋など女性陣にそう挨拶する。烈華はにやりと兵馬と目配せして‥‥。 「おわっ!」 せーので、在恋や皆美、陳新など連れて真珠朗に飛び込んで抱きついた。 「闘国?」 「ぐっ。‥‥まいったっすよ」 前然の目配せで、怪力の闘国が抱き付きついに倒れこむ真珠朗だった。みんな、笑顔。 「楽しそうだナ。無事にカカシは手に入ったアルぜ」 最後まで村人と交渉していた梢・飛鈴(ia0034)がやって来た。 「それじゃ‥‥」 ちゃっかり武具の防水処理をしていたほとりが、飛鈴の交渉していた村人に会釈して一同を振り返った。 準備万端。出発である。 ● さて、現場の沼に到着した開拓者たち。 「聞いていた通り、かなりの広さがあるな」 「蛙の鳴き声がやんだわね」 蒼羅と煌夜のつぶやき。ギゴギゴという鳴き声は先ほどから止まっている。 「まばらに、10体以上はおりますな」 瞳を閉じて鏡弦に集中していた水奏が言う。 「ほぼ沼に姿を隠したようです。‥‥次は水中を探ってみます」 芳純は人魂の小鳥で鳥瞰した様子を伝え、今度は同じく人魂の魚を沼に放ってみた。 「蛙カ。‥‥ぬめっとしてるからアタシはあんま好きじゃないンだがナァ。殴りづらいし」 とかなんとか言いつつ、飛鈴は拳をぱしぱし掌に打ち付けてやる気満々。 「紅紫色で視界が悪いと思った瞬間、人魂が消えました。‥‥毒、ではあるようですね」 「とっておきはあるし、このまま作戦実行しちゃいましょう」 残念そうな芳純を元気付けるように、ルンルンがぐっと拳を固める。 作戦は、二手に分かれてぐるっと沼を回りつつ討伐すること。 「弓は、二人だね」 「そうですな、ほとり殿。拙者たちは別の組になると致しましょう」 そっとささやくほとりの意を汲み、水奏が別々になるようにした。 こうして、開拓者たちは二手に分かれた。 そんなこんなで、東回り組。 飛鈴、真珠朗、ほとり、蒼羅が行く。 「さて、上手くカカシにつられて釣れればご喝采ってトコロかいナ」 飛鈴が早速、背負ってきた案山子を準備した。最初に動いたのは、やっぱり重いからというのは余談。 「どっせい!」 「なんすか、その掛け声は」 「田舎流だナ。ここの村人がそう言って持ってきタ」 真珠朗の突っ込みにさらりと答える飛鈴。 「ひっかかるかな?」 「来タッ!」 素朴な疑問を口にしたほとりだが、手応えを感じる飛鈴。ぐっと引っ張る。 が、ここでとんでもないことが! 何と大蝦蟇、大跳躍ッ! すでに案山子を放しているため、飛鈴は尻餅をついている。 そこに覆い被さるように跳んできてるぞッ。 「舌以外にも攻撃手段があると思ったが‥‥」 敵の手の内を見ようと控えていた蒼羅が敵の落ち際を叩きにいくが、ここで舌が襲ってきた。直線ではなく、振り子運動のように振り回してきている 「直線的な動きと変わらん。読むのは容易い事だが」 蒼羅、虎徹を鞘走らせて舌の先を切り払う。雪折だ。 そのまま銀杏で収めるのは、別の敵に狙われるかもという読みから。‥‥大蝦蟇の大質量はもう止められないという判断でもある。 「ぐッ」 飛鈴は裏一重から瞬脚で、もろに食らうのだけは避けた。 「次が来るかもすよ?」 「とはいえ、蛙は‥‥苦手です」 真珠朗も次の敵が来ると読んだ。迎撃は弓のほとりが有効と声を掛けるが、彼女は上長下短の華妖弓を上がってきた大蝦蟇に向けた。飛鈴の援護射撃である。 「いきなりドロドロとは許せないアルぜっ」 射撃の後に踊りかかるは、飛鈴。さっきの体当たりがかすったダメージは、痛みだけではない。 そして、問答無用の極神点穴ッ! 舌が来るがそんなのお構いなしに、連発っ! ‥‥どっちにしてもドロドロになる密接戦闘をするつもりだったのだが、それはそれだ。 ちなみに、次の敵が襲ってくるということはなかった。縄張り意識があるのかもしれない。 ● そして、西回り組。 煌夜、水奏、芳純、ルンルンが行く。 「あっ!」 芳純が声を上げたのは、人魂で出した小鳥に大蝦蟇が舌で攻撃したから。小鳥、すぐに消える。 「逃しませぬ」 水奏が弓「神緑」で速射するが、さすがに水中に引くのが早い。当ったかどうかは微妙なところだ。 そのまま水面は静かになり、にらみ合いとなる。 「もう一度人魂を出しましょうか?」 「同じことになるはずよ」 皆に確認する芳純を煌夜が止めた。 「それじゃ、例の作戦、いっちゃいましょうか?」 ルンルンがうきうきと焙烙玉を取り出す。 「何かこういう事してると、ちっさな頃を思い出しちゃいます」 導線に火をつけると、タイミングを計ってぽいっと投げるルンルン。妙に手際のいい理由は、ルンルン自らが語ったとおりだ。 ばこぉん、という爆発音。 が、アヤカシはぷか〜、とも浮いてこない。 ルンルンに向けられる、白い目。 「えっ? ええ? こういう悪戯しませんでした?」 「しないわよ」 「あまり良い漁の仕方ではありません」 同意を求めるルンルンだが、煌夜は首を振り、芳純は微妙に眉を顰めた。 「あ、顔を出したようですな。舌が来ますっ!」 「そんなの私には、お見通しなんだからっ!」 これならどう、とばかりにルンルンが夜で一瞬時を止めると舌の伸びた先を確認。水蜘蛛と早駆で一気に大蝦蟇の位置まで行くと、グニェーフソードを突き立てた。 その頃、東回り組。 「若い子からぱわー貰うのはいいとして、アヤカシに押し潰されるのはゴメンすね」 次のポイントで、今度は真珠朗が仕掛ける。 「時期的にゃちょいと早い上に、華もないすけど。一つ花火といきましょう」 こちらでも焙烙玉を使うようだ。 ――どどん! 「また蛙が飛び出て来てくれりゃ、楽できてイイんすが」 武器を弓に切り替える真珠朗。側ではほとりがやはり弓を構えて待機。 「‥‥出鼻を、くじけば」 速射と強射で飛び上がりざまを狙えば、勢いを殺せると読む。ほとり、口数は少ないが狙う瞳に一撃必殺の覚悟が宿る、。 が、でできたのは舌だった。 「おっ!」 正面の真珠朗の腕に絡まった。撃てない。引きも早い。 「目を狙えっ」 蒼羅が手裏剣「鶴」を投げる。早い。 もちろんほとりも動いている。若干遅れたのは、まず動いたから。 「よし。‥‥いい感じ」 目を狙ったのだが、入射角度が体表面に対し垂直に程遠いので横に動いたのだ。大蝦蟇の体表面はたしかにぬめりがあり、被弾経始に優れていた。 「おっとっと」 両目に攻撃を食らった敵はたまらず水中に。真珠朗がさらに引きずられる。というか、底がずぶずぶなのでこれはまずいぞ。 「これを」 ほとり、これあるを期して縄付きの矢を用意していた。真珠朗の横を狙う。これを握ってようやく舌を振りほどく真珠朗。蒼羅は追撃の焙烙玉を投じる。 この爆発で、大蝦蟇が水中からざばっと大跳躍。 「来たカ。今度は返り討ちダナ」 今度は押し潰しを食らわない飛鈴。 べしゃりと大地に自爆したところを点穴を連続で打ち込みの刑に処した。 ● 敵の動きには個性があるようで。 「ふむ、手応えはあったのですが出てきませんな」 西回り組で、水奏が目だけ出していた大蝦蟇に速射を食らわせ今度は命中させたのだが、それきり出てこない。 「深いところに潜ったのでしょうかな?」 ふふふと楽しそうに焙烙玉を取り出す。この様子を見たルンルンが「わあっ。水奏さん、仲間ですっ」とかお目めキラキラさせたのは余談。 ――どこん! だが、出てこない。水中には本当にダメージが通りにくいようだ。 「まだいるわね。水中に潜まれたままじゃどうにもならないし」 煌夜が心眼「集」で索敵、随分引いていることが分かったため、囮になることを申し出た。そのまま不気味な色の沼に入水する。 「頼んだわよ?」 念のため苦心石灰をかけ、いざという時の防盾術を覚悟する。攻撃一切なしの専守。ゆえに、振り向き加減に仲間に声を掛けた。信頼している。いつものおふざけの表情は無しだ。 敵の反応は早かった。 すぐに舌が飛んできて煌夜の腕に絡む。 いや、水奏が先即封で反応していた。無茶苦茶早い。 「助かるわねっ!」 先に水奏の攻撃が命中している分、狙いがぶれて煌夜の腕への絡み付きが甘かった。うまく脱出する煌夜。 と、ここで想定外のことが。 何と大蝦蟇、口から沼の水をすごい勢いで飛ばしてきたのだッ! 「あると思ったわよ」 屈んで避ける煌夜。ここでお役御免と岸へと上がる。 彼女が安全圏に逃げ、振り向いた時には水奏の矢の連射と芳純の魂喰で止めを差していた。 結局、合わせて10体程度を退治したという。 「‥‥入ったんですね?」 「最後は焙烙玉も使い切ってしまったゆえ」 ほとりに苦笑されて、照れ笑いする水奏。 「蒼羅さんでも毒水を避けられないこともあるようね」 「これは囮で入水したからだ、煌夜」 煌夜としては、見切る戦いをする蒼羅が泥まみれであることが珍しいらしい。 「う〜ん。終わったと思うガ、沼というからには水はもともと奇麗じゃないヨナ」 「敵を確認しがてら、いなくなった子の遺品を探しましょう」 「‥‥そうですね」 仁王立ちし沼を見ては首をひねる飛鈴に、芳純とほとりが遺品探しに動き始めた。 が、それらしいものは探しきれなかった。 日も経ったし、その間に大雨もあった。無理もないだろう。 ● 「まさか、温泉があるなんてね」 「まったくだナ」 村に帰ってから、開拓者たちは大きな温泉で泥とぬめりと疲れをとっていた。煌夜と飛鈴の声がしたが、水奏やほとりもいる。って、ルンルンさん。ここで水蜘蛛をしないでください、隠してください。 「まあ、助かる」 「そっすね。えらい目にも遭いましたし」 こちらは男湯、蒼羅と真珠朗。もちろん芳純もいる。 当然、混浴ではなく壁を隔てて隣接している。 ただ、声はどちらにもよく通り響くようで。 というか、露天なので外の音も聞こえる。 と、ここでッ! ――ギゴギコ‥‥。 「‥‥この鳴き声って、まさか」 ぼそりと、ほとり。 鳴き声は沼の方からだ。 慌ててどたばたと出て行く開拓者たち。 のち、残った一匹を恨みを込めて叩いたという。 沼の水は、これで変な色はなくなった。 ● 「それは大変でしたね」 雑技の裏舞台、楽屋でくすくす皆美が笑っている。 開拓者から、退治話を聞いていたのだ。 「二胡の神童の子に、演奏教えてもらいたかったな‥‥」 「村人も公演を中止にしなかった。これに応えなくちゃな」 しょぼんと言うルンルンに、それを取り成す蒼羅。 今、わああっと歓声が上がった。 どうやら舞台では、陳新と一緒に出た芳純が人魂の鳥を何もなかったはずの風呂敷から出して喝采を浴びていた。 心からの歓声だった。 「心から楽しむことは出来ぬかとも思いましたが、皆の雑技が切欠となりそうですな」 「蒼兄ィと弓姉ェの言う通りだよ。元気だしていこう」 「そうですな、烈花殿。‥‥闘国殿と演技、あれからますます技を磨かれましたかな?」 「ああ、見てなって」 この様子を見て感心している二人がいる。 「なかなかいい雰囲気だナ」 「‥‥ええ」 飛鈴とほとりである。 「ところでステラ姉ェ、今日はえらくめかしこんでない?」 「どうして? いつも通りよ?」 にやにやと前然に突っ込まれたが、さらりと受け流す煌夜。ヌルヌルベトベトだったのは、内緒だ。 「好きだけどね、そういうステラ姉ェ」 にっこりと、前然。 「すまないすね、あの沼で土産はなかったもんで」 真珠朗は、紫星の髪をなでながらそんなことを。 「べ、別に前に栗の菓子をご馳走してもらったからって期待してたわけじゃ」 「紫星、キザ兄さんは出掛けに『カエルってモノによっては、肉以外も色々と喰えるんすよ?』とか言ってたんですよ?」 「うわっ」 横からの在恋の言葉に、「なくてよかったわよ」とかいう感じの紫星。 「さて、そろそろ出番だ。‥‥全員出る。盛り上がっていくゼ」 立ち上がった前然が、皆に気合を入れる。 さあ、雑技公演の見せ場はこれからだ。 |