【槍砲】発掘☆ろりぃ隊
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/06/06 17:38



■オープニング本文


 魔槍砲。それは本来アル=カマル製の特殊銃を指す。
 宝珠が組み込まれた長銃身型であり、先端には槍のような刃が装着可能。宝珠近くの樋口から火薬や専用の薬品を詰め込む構造を持つ。
 しかし魔槍砲には銃口が存在しない。そして多くの魔槍砲は弾丸を込める手順さえ必要とせず、練力消費によるスキルを代替えとする。
 銃身の先端から時に放たれる火炎、爆炎は一見すれば精霊魔法のようだが物理的な攻撃能力を有す。
 これまで改良が続けられてきた魔槍砲だがここにきて停滞気味。アル=カマルの宝珠加工技術の行き詰まりが原因といわれている。
 このような状況下で朱藩国王『興志宗末』と万屋商店代表『万屋黒藍』は魔槍砲に注目していた。


「コクリ、お願いがあるんじゃ〜!」
「ち、ちょっとぉ!」
 コクリ・コクル(iz0150)が神楽の都に近い森にある神威の樹上の隠れ里でうたた寝をしていると、突然何者かに襲い掛かられた。不覚にもぐっすり眠っていたのだ。がくがく肩を揺すられる。
「おお、起きてくれたか。すまんがわしらのお願いを聞いてほしいんじゃっ!」
 横になっていたコクリに襲い掛かっていたというか覆い被さったのは、ろりぃ隊出資財団のエロ親父商人だった。
「あ、あぶないなぁ、もう。‥‥用事があるならもうちょっと優しく起こしてよ?」
 コクリ、志体のない一般人を思いっきり突き飛ばすところだった。もしそうしていたならエロ親父の命はなかったかもしれないが、それはそれで世の中平和に近付いたかもしれないというのは別の話。ともかくコクリ、不覚にもぐっすり眠っていたばかりか、全身がふにゃふにゃ幸せいっぱいな感じになるような気持ちいい夢を見ていたので咄嗟に抵抗ができず、体に力も入らなかったのだ。不幸中の幸いというか、幸い中の不幸というか。
 いやまて。
 コクリ、上半身を起こして膝を崩しまだ全身に力の入らない状態で座っているぞ。しかも気持ちいい夢を見ていたせいか頬が火照っている。先の「優しく起こしてよ?」はもう、誘いの言葉にしか聞こえない。
「おおお。コクリも色っぽくなったの〜」
「駄目〜っ!」
 改めて飛びつこうとするエロ親父だが、コクリは右手でがっちり親父の首元を押さえてガードする。コクリの悲鳴が色っぽいものだからこの攻防はしばらく続いたとか。‥‥ところで、お触りなしの紳士協定はどこいった。
 閑話休題。
「‥‥いま商人の間では、新大陸『アル=カマル』から入ってきた『魔槍砲』という武器が注目されておるんじゃ。何でも、朱藩の興志王が本腰を入れとるようで、これだけじゃとワシら小さい商人はうまい汁を吸うことはできんどうでもいい話なんじゃが‥‥」
 コクリの淹れたクマザサ茶を飲んで落ち着いたろりぃ隊出資財団のエロ親父は、ようやく商売の話をしはじめていた。
「ところが、さすが鍛冶場の興志王。この武器の強化にこだわっとるようでな、さまざまな効果を試すため、各種宝珠の原石を求めておるようなんじゃ。現在、いろんな商人が開拓者を使って宝珠の原石を集めて競争が激しくなっておる」
 ふんふん、と大人しく聞いているコクリ。
「しかし、わしらは慌てることはない。何せ、コクリをはじめとする『ろりぃ隊』がおるからなっ!」
「ふうん。よく分からないけど、お願いってのはボクたち『華の小手毬隊』にしか頼めないような仕事があるからしてほしいってことだね」
「その通り! ‥‥『ろりぃ隊』って呼んでほしいが」
 コクリの言葉に胸を張るエロ親父商人。余計な一言がついたが。
「簡単に言うと、まだ採掘しきっていない宝珠の洞窟があるんじゃが、ここの本坑道にはコクリの二倍以上の背丈のある非常に強い『静かなる汗血鬼』というアヤカシが閉じ込められておる。天井の低い試験採掘用の坑道があるので、ここを通って洞窟内に侵入して、退治してほしいんじゃ」
 真顔で説明するエロ親父商人。ここを攻略すれば、まだまだ宝珠の原石が出てくるのが確実視されているので重要な仕事であるようだ。
「うん、分かった。ボクたちろりぃ隊にしかできない仕事なら、がぜんやる気が出るよ☆」
「おおっ、さすが『ろりぃ隊のコクリ』じゃ。チョコレート・ハウスとかいうのもいいが、やっぱり『ろりぃ隊』が似合う」
 エロ親父、ことさら「ろりぃ隊」にこだわる。というかまあ、そういう嗜好の人なのだからしょうがない。

 ともかく、入り口からしばらくしてすぐの場所で爆破による瓦礫で閉じられた洞窟に向かい、併走する試験採掘用の坑道から回り込んで本坑道に侵入、巨体で強力なアヤカシ「静かなる汗血鬼」を退治してくれる開拓者、求ム。
 

 なお、試験採掘坑道は本坑道の閉じた付近から入ることができる。侵入経路がはっきりしていながら今まで攻略できていない理由は、試験採掘用の坑道に別のアヤカシ「吸血霧」が存在するため。激しく天井の低い状況と相まって、背の高い開拓者では危険な状態となっている。おおむね身長155センチ以下の開拓者が参加条件となっている理由である。
 入った試験採掘用坑道から本坑道には、「手前(入り口に近い)・中間地点・奥(宝珠原石採掘現場に近い)」の三か所から突入できる。参加者はどこから侵入するか、どの順番で本坑道に出るか明記すること(三か所に分かれるのも可)。それぞれの間隔は、約100メートル。本坑道、試験採掘用坑道ともほぼ直線だが、当然暗い。


■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
新咲 香澄(ia6036
17歳・女・陰
猫宮・千佳(ib0045
15歳・女・魔
シャルロット・S・S(ib2621
16歳・女・騎
プレシア・ベルティーニ(ib3541
18歳・女・陰
アナス・ディアズイ(ib5668
16歳・女・騎
キサラ・ルイシコフ(ib6693
13歳・女・吟


■リプレイ本文


「シャルさん、どうしたの?」
 出発前、コクリ・コクル(iz0150)はシャルロット・S・S(ib2621)(以下、シャル)の様子がおかしいことに気付いた。
「シャルは不覚にも直前の合戦で負傷してしまいましたの‥‥」
 金髪を揺らし俯くシャル。青い瞳が翳る。
 だが、それは一瞬。
「でもなんとか足手まといにはならない様に調査を頑張りたいですの!」
 気丈に言い切る。
 シャル。
 すでに傷は癒えている。よほど厳しい戦闘で問題ないだろうが、今回は厳しい戦闘が待っていると目されている。だからこそ、逃げたくない。だからこそ、自分が頑張らないといけないと思っている。
 なぜなら、自分は小手毬隊だから。
「シャルさんはいつも足手まといなんかじゃないよ。だって‥‥」
「コクリちゃん久し振りにゃ〜♪ 今回もよろしくなのにゃ♪」
 コクリの言葉が途切れたのは、猫宮・千佳(ib0045)が横っ飛びに抱きついてきたから。
「にゃ、シャルお姉ちゃんは、病み上がりにゃ? でも、あたしもついてるし、大丈夫にゃ!」
 千佳、気合が入っていたのだが事情を聞いてさらに気合が入った様子だ。「コクリちゃんもするにゃ」と言ってから、一緒に「にゃ!」と右拳を力強く上げる。
「騎士のアナス・ディアズイ(ib5668)と申します。よろしくお願いします」
「アナスお姉ちゃんもやるにゃ!」
 千佳、気合入りまくり。やって来たアナスにも「にゃ!」と右拳を上げさせる。
「あ゛〜ごぐり゛ぢゃ゛ぁ゛ぁ゛ん゛!!」
 ここで超絶突進する狐っ娘あり。
「前゛回゛も゛ごめ゛ん゛な゛ざい゛な゛の゛ぉ゛〜!!」
 狐の神威人・プレシア・ベルティーニ(ib3541)である。
 って、プレシアさん。あなたまた涙で顔ぐちゃぐちゃ&鼻水びろ〜んでコクリに抱きついてますよ?
「涙はいいけど鼻水は嫌〜っ」
「プレシアさん? 今回はよろしくお願いしますね。はい、ちーん」
 アナスがぺりっとコクリに抱きつくプレシアを剥がして、鼻をかませる。
「コクリちゃん、今回もよろしくだよっ。‥‥ほら、これで大丈夫」
 コクリの方は、ちょうどやって来た新咲 香澄(ia6036)が拭き拭き。
 そして、天河 ふしぎ(ia1037)がやって来た。
「何か危険なアヤカシと戦うって聞いたから‥‥コクリ、今回も宜しくね」
 黒くて大きな三角襟の衣装に赤いマフラーを靡かせている。
「あやや、たいちょーも来たの〜? たいちょーって、やっぱり女の子だったんだね☆」
「危険な依頼みたいだから、コクリの力になりたくて‥‥じょ、女装趣味なんか無いんだからなっ、後で気がついたんだぞっ」
 プレシアの突っ込みで赤くなるふしぎ。今回はろりぃ隊☆での出撃で、出資者の強い意向で背の低い女性が求められている。男のふしぎが参加できたのは、ひとえに女性に見えるからだ。というか、趣味云々ではなく普段着からして女性服なのであるッ!
 ともかく。
「あ、ふしぎちゃんは‥‥可愛いから大丈夫だねっ♪」
 香澄が念のためにわざと口に出しておく。
「ふしぎちゃんっていうなー」
「はいはい。じゃ、張り切って行こう!」
「行くにゃ!」
 ふしぎをあしらっておいて、右拳を上げる香澄。千佳も上げる。
「こうしてボクたちろりぃ探検隊は、トクガワマイ・ゾウキンってのが眠っているという、鉱山の中に入っていくのであった‥‥」
 ナゼにナレーション口調だ、プレシアさん?
「宝珠ですよ」
 アナスさん、訂正ありがとうございます。


「じゃあ、シャルがたいまつ持ちますですの」
 一行は現場の鉱山へと到着し、本坑道の行き止まり地点から天井の低い試験採掘用に入った。
 二列縦隊で、アナス・香澄組、千佳・プレシア組、シャルロット、ふしぎ・コクリ組の順である。
「やっぱり低いね。ふしぎさんは頭ぶつけないように気をつけてだよ」
「相変わらずの狭いところにゃー。小さくて喜んでいい‥‥のかにゃー?」
 後列を振り返る香澄に、苦笑している千佳。
 香澄が振り返って全体を見る余裕があるのは、共に先頭を行きベイル「翼竜鱗」を掲げるアナスの存在が大きい。赤い服にしっとり長い金髪が映える彼女には、防御面で安心感がある。
 その、ふしぎ。
「僕‥‥そういう趣味があるわけじゃ、無いんだからなっ」
 ぶちぶちコクリに言い訳をしている。どうも女装のことを言っているらしい。身長が高いので少し腰を屈めながら歩いている。殿を担当する理由である。
「魔槍砲ってどんなものなんでしょうか‥‥」
 次にぼそりと口を開いたのは、シャル。槍と聞いて黙ってはいられない。
「楽しみだよね」
「烏賊さんみたいな槍ないでしょうか?」
 そんな思いを描く海鮮ネタ武器好きのシャルに、コクリは苦笑せざるを得ない。
 と、ここで先頭のアナスが足を止めベイルを構える。
「‥‥いました。複数来てます」
 前方、暗くて見えにくいが黒い吸血霧が漂っていた。
「ふみ、纏まっているならあたしの出番にゃね♪マジカル☆ブリザードにゃ♪」
「まだ来るかっ!主砲発射っ!」
 二列目から射程ある千佳が吹雪を呼んだ。隙間を空けていた前列のアナスはこの後、すかさず千佳を守る位置に。隣では香澄が火炎獣を召還し火炎放射。片や本来拡散するが威力が収束、片や短距離ながら一直線に敵を攻撃。ともに狭い場所を利した攻撃だ。
「あっ、こっちからもですのっ」
 前方を殲滅した時、三列目のシャルが叫んで横にゴートシールドを掲げた。
 その方向には、通路はない。
 しかし、ここは試験採掘坑道。
 人は通れないような細い亀裂のような採掘後があちこちに残っているのだ。本坑道は、この調査試掘を経て大きく掘られることになる。試験採掘坑道のそれたる証である。
「シャルさんっ」
 コクリの苦無とふしぎの散華三枚手裏剣が飛ぶ。
「ふみゅ。さすがたいちょー。これで安心だね〜♪」
 くりんと尻尾をふるプレシア。細い場所から来ただけに敵は一体。ここはこれ以上の混乱はなかった。
「奇襲を受けないよう注意したんだけどにゃ」
「早めに本坑道に入った方が良さそうかな?」
「にゃっ♪」
 千佳と香澄が話し合い、本坑道には手前から入ることになった。
「分かれ道は前に進んで汗血鬼のもとへ向かったほうがいいのでは?」
 アナスが分かれ道で聞いた。
「奥にいる、ということだね?」
 コクリがアナスの主張の真意を確認した。
「出たときの不意打ちが、こわいな」
「まあ、手前から調べる気持ちでいこうよ」
 ふしぎが顎に手を添え考え、香澄がまとめた。
 よほど何か考えのない限り、妥当な探索方法である。
 しかし、これが後にあだとなるのだった。


「特に物音はしないな」
「心眼でも特になにも‥‥」
 本坑道へ出る地点で、ふしぎが超越感覚で、コクリが心眼で汗血鬼が潜伏しているか確認した。
「だめだ。ボクの人魂だと光の届く範囲でないと見れないや」
 香澄は鼠を出して先に本坑道へ行かせたが、見える範囲での危険はない。
 結局、警戒しながら本坑道へと突入。
「うーん、気持ちいいね」
 天井制限のなくなったふしぎは伸びをして心地良さそうだ。
「この行き止まりの向こうが入り口なんですね」
 アナスがしみじみ言う。まずは逆走して背後側に敵がいないか確認したのだ。
 これで、背後を気にせず探索・戦闘ができる。
「よし。改めて奥に踏み込もう」
 コクリの号令で再び奥へと向かう。

 本坑道は広い。
 二列縦隊でなくても良く、二人並んでもまったく不自由なく戦闘ができて、おつりがくるくらいの幅がある。 それでも念のため、最初の二列縦隊のままで進む。
「これが、シャルたちの入ってきた穴‥‥」
「ほみゅ。これが二番目の穴だね〜」
「そしてこれが、最後の奥の横穴にゃ♪」
 何事もなく本坑道を進む。
「待って。何かが近寄ってる」
 ここで、ふしぎの超感覚に感ありッ!
「静かなると言う割に、足音立てすぎなんだぞっ」
 言うが、敵は早いっ!
 真赤で筋骨隆々の鬼が、すごい勢いで走ってきてるのだ。ふしぎはそういうが、音は無音に近い。
 しかも、でかい。
 あっという間に攻撃範囲に来たようで、もう巨大な棍棒を振りかぶっているッ!
「私が止めます」
 最前列、アナスがベイルを構える。纏ったオーラが決意を表す。
 そしていま、激突ッ!
(これは‥‥)
 ベイルの中央にある宝珠が障壁を展開するが、敵の質量を止めきれない。とっさにオーラシールドの技術で受け流す。アナス、汗血鬼ともバランスを崩す。下がるアナスと、地面を耕す形で隙を作る汗血鬼。
「よぉ〜し、でっかいのが来るんなら、ボクもでっかいへびではむはむしたげるからね〜!」
 長い袂を払い、プレシアが呪殺符「深愛」を構える。
「んんん〜〜っ、首輪っっ! そして〜、ぶりちゃん召喚!! あいつをはむはむしちゃえ〜♪」
 人差指と中指で挟んだ符から、巨大な蛇ヴリトラを召還させる。蛇の首がどこかはともかく、隷役の首輪もついている。
 そして、隙だらけの汗血鬼に、ガブリ。
 しかしっ!
「プレシアさんっ」
 コクリが叫んで駆け出したのは、汗血鬼が噛まれて大ダメージを受けたにもかかわらず戦意は高いままプレシアに振りかぶっていたから。先に斬りつけるが、逆にプレシアと二人一緒に吹っ飛ばされる。


 もともと、若干無理のある依頼だった。
 巨体で力のある汗血鬼と分かっている時点で、背の低い軽量のろりぃ隊を当てるのは得策ではなかった。いくらろりぃ隊メンバーも志体持ちといえど、体格はともかく体重差はどうしても影響してくる。
「シャルは、皆さんを護り抜きたいですの!」
 この惨状に、シャルが動いた。萌黄色のオーラを纏っている。
 短筒「一機当千」を準備し、ゴートシールドを左手に構えて右手の銃をその上に乗せて固定し、攻防一体で狙いをつける。取り回し優れるだけに、洞窟内での近距離射撃も苦にならない。
 そして、銃声。
 汗血鬼、命中し威力で押し返されるもまったく意に介さない。
「シャル、下がって」
 この間隙に、ふしぎが割ってはいる。夜で刹那の時を止めて牽制の手裏剣を散華で放ち時間稼ぎ。
「やらせないんだからなっ!」
 必死の形相で駆け込み割って入るふしぎ。が、これも吹っ飛ばされる。ただし、シャルはちゃんと安全圏に引いている。時をわずかばかりでも止めた成果であろう。
「簡単には近づけさせないよっ! くらえ、火輪っ!」
 シャルには新たに香澄が護衛につく。とにかく火輪で手数を打つ。
「うー、これでも食らうにゃー! マジカル☆バインドにゃ♪」
 すでに乱戦。千佳はアイヴィーバインドで地面から草を呼び汗血鬼にからませ援護。もうこの状態ではブリザーストームは撃てない。仲間にホーリースペルを掛けるなど猫的に暗躍する。
「新咲さん、猫宮さん、攻撃は頼みます」
「ボクも負けないよっ」
 アナスが戻ってきた。騎士剣「ウーズィ」もあるが、シールドノックを使い守りに徹しつつ攻撃する道を選んだ。コクリも千佳の足止めの間に復帰する。
 それでもやはり、アナスの受け流しから双方崩れ、香澄や千佳、コクリやふしぎが吹っ飛ばされる展開が続く。
「シャルは、足手まといには‥‥」
 皆から守られている。それに報いるために、ひたすら射撃して時間を食っても次弾を込める。
 が、それも限度が。またも汗血鬼が迫っている。
 ここで、プレシアがんんん〜っ、としゃがんで力を込めた。
「でっかいはんぺんっ!」
 んばっ、と大の字ジャンプをすると、ばばんと白い壁が現れた。
「シャルさん、回り込まれてる」
「あわわ‥‥」
 シャル、焙烙玉を放って逆から白い壁の裏に逃げる。汗血鬼はこれを棍棒でナイスショット。余所に飛ばした先でズズンと爆発した。
「いい加減に倒れろっ!」
 この隙に、前転で懐に入ったコクリが斬り付けた。
 そしてこの時、とんでもないことが発生するッ!


――グォオオオオンッ!
 大地を揺るがすような、大きな叫び声。
 静かなる汗血鬼が、初めて口から声を発したのだ。
「え、早い?」
 驚くコクリはあっという間に吹っ飛ばされた。続いて粉砕される白い壁。さらに裏にいたシャルを守る香澄も吹っ飛ばされる。もともと巨体にかかわらず動きが素早く手数も多かったのだが、ここに来てさらに早く力強い。
「くっ、これは‥‥」
 さらにガードに入ったアナス。今まで互角の激突をしていたが怒り狂った汗血鬼の前に今度は盾ごと吹っ飛ばされる。
「そんなばかにゃ」
 千佳のアイヴィーバインドはまだ通用するようだ。
「鬼さんこちら‥‥さぁみんな今だっ!」
 マフラーを汗血鬼の前に投げて、ふしぎが隙を作り自ら霊剣「御雷」で切り込む。
「もう一回、はむはむしちゃえ〜♪」
 プレシアがまたもや蛇神を呼ぶ。
 しかし、一斉攻撃はここまで。
「まさか、吸血霧がこっちに来るなんて」
 いつの間に試験用坑道から来たのだろうか、吸血霧が本坑道に現れたのだ。香澄は取り付く敵についに忍刀「風也」を抜く。
「ボクが遠くでしか戦えないと思ったら大間違いだよっ」
 すっと身を引く香澄。流れるサザンクロス。
 纏いつきを振り払ってから、逆手持ちで一閃。密接戦闘でも不自由なく戦い敵を退ける。
 一方、主戦場。
「もう一度‥‥。皆さん、お願いします」
 アナスが汗血鬼を止めに入る。コクリが苦無を投げ、ふしぎが夜で時を止めアナスを助ける。
「ぶりちゃんっ!」
 前衛の作る隙から蛇神を連発するプレシア。同時にシャルの銃が火を噴き、ようやく汗血鬼は倒れるのだった。
 地に巨体を崩すその時も、名に違わず静かだったという。


「ようやってくれた、ようやってくれた」
 帰還すると、ろりぃ隊出資財団のエロ親父たちは大変ご機嫌だった。相当儲けのよい商売らしい。
「すぐに雇った工夫を入れて宝珠を発掘するだけ発掘せんとな」
「おっと、コクリたちは甘味処ででものんびりしていくといい。ワシらは現場指揮や取引先と話をつけにゃならんでな」
 嵐のように去っていくエロ親父たち。仕事熱心といえばそうだが、妙に様子がおかしい。
「じゃ、みんなで甘い物でも食べに行くにゃ♪」
 千佳はコクリの腕に抱きついてるんるんにゃんにゃん。
 お疲れ様を兼ねて、のんびりと甘いものなどを堪能するのだった。

 後日。
 コクリは例の遺跡で宝珠の発掘作業中、工夫がアヤカシに襲われたという話を聞く。
「実は、吸血霧が残っておって怪我人が出てな」
「そんな‥‥。ゴメンナサイ」
「いや、大きな敵に背の低いコクリらを当てたわしらの責任もある‥‥」
 エロ親父たちが神妙に話すのは、戻ってきたコクリたちがボロボロになっていたことを知っていたから。自分たちの依頼のせいでコクリたちが傷だらけになるほど苦戦したという事実が辛くて、逃げるように仕事に打ち込んだというのが真相らしい。
「なに、コクリたちの傷もよくなってるようだし、ワシらも儲けさせてもらったから」
 優しい笑みを湛えてコクリを慰めるのだった。