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■オープニング本文 ●前回までのあらすじ 泰国は南西部に、南那という地方がある。 ここに、紅風馬軍が侵入した。 南那の職業軍人たる親衛隊が哨戒任務に当っていたが、当時南那経済に画期的な貢献を果たした開拓者もこの任に借り出されていた。 前回、開拓者は親衛隊に予備戦力として雇われ本部詰めしていたところ、哨戒途中で紅風馬軍と遭遇した友軍への増援として戦線投入された。 遭遇戦の結果、友軍を無事保護し敵を撤退させ、さらに敵の一人たる論利を捕縛するという大成功を収めていた。 結果、敵の馬賊集団は紅風馬軍で間違いないこと、その頭目は紅風山千(コウフウ・サンセン)であることなど情報を手にした。 その情報は、論利から。 紅風馬軍の慣わしに、「敵に捕らえられたら、生き延びることを目的とすること。そのためには仲間の情報を出していい」というものがあるためだ。 加えて、敵の本陣の場所も聞き出した。 瞬膳はすぐさま偵察に出したのだが、敵はすでにいなかったという。 ● 場所は前回と同じ村。居住地から若干外れている、親衛隊の詰める天幕。 「こんにちは、瞬膳さん。もうちょっとしたらみんな到着するはずです」 深夜真世(iz0135)が、開拓者本隊に先駆け到着し天幕を訪れた。愛馬の静日和と一緒である。 「ご苦労様」 迎える瞬膳。状況を真世が聞くと肩を竦めた。 「良い意味でも悪い意味でも、変化はない。‥‥我々の方針は、論利の身柄を盾に話し合いに持ち込み、道を開けてやるから南那から出て行ってもらいたいと交渉するのが最良なんだが‥‥」 「すでに紅風馬軍もここに入るまでの山岳地帯でアヤカシと戦い死者も出ている。気が立ってるし、俺を殺そうとしたことを見ても話し合いに応じる風になさそうだと分かろうに」 「‥‥って、瞬膳さん。なんで捕虜とまったり珈琲飲んでるんですか」 真世が呆れたように、瞬膳は敵の捕虜たる論利に枷もなく同じテーブルに着いて茶飲み話をしているではないか。 「交渉に利用しようとしてるんだ。出来るだけ友好的にしておいたほうがいいだろう?」 「逃げられても知りませんよ?」 さらりという瞬膳に、真世がさらに突っ込む。 「この瞬膳て隊長さんは、俺らの頭目の紅風山千に対抗してるんだよ。‥‥『こっちの軍の頭の人柄もなかなかだろう』ってな?」 「そんなことで張り合っても意味ないのに‥‥」 「いーや、意味はあるよ? ここで俺が逃げて戻ったら、『あっちの隊長もなかなかの人物だぜ』って吹聴するだろうからな」 「‥‥何なのよ、一体」 今度は論利と話して呆れる。 どうも意地の張り合いをしているようで。 ――しかし、ここで状況が一変する。 「紅風馬軍だっ!」 外でそんな叫び声が。 「数が多い。五十騎はいるぞっ」 「まずい。偵察に出て今の時間、本陣は手薄なんだ」 瞬膳にも報告が入る。 「信号弾を放てっ。戦力を呼び戻せばこちらも三十騎になるっ」 「‥‥いや、偵察隊の戻りは遅くなるだろう」 指示を出した瞬膳に、論利が首を振った。 「何っ!」 「この手口はさんざんよそでもやった。数騎があんたら偵察隊に各方面でちょっかい出してるはずだ。‥‥この場所が分かってもすぐに攻めてこなかった理由だな」 論利が冷静に言う。 「目的はなんだ?」 「人質の奪還の場合も、とにかく敵の殲滅の時もあった。‥‥なんとも言えん」 瞬膳の問いに、論利が真面目に答えた。 「ともかく、十騎全員出撃だ。私も出る。村人に迷惑を掛けないよう、前々で戦うぞ」 「私は?」 真世が聞く。 「枷をつけた論利を乗せて隠れて待機。‥‥悪いが、村人が襲われそうになったら目立つように逃げて、適当なところで論利を落とせ」 「‥‥しょうがねぇなぁ」 論利は自ら手械を自分につけるのだった。 |
■参加者一覧
萬 以蔵(ia0099)
16歳・男・泰
各務原 義視(ia4917)
19歳・男・陰
新咲 香澄(ia6036)
17歳・女・陰
アーシャ・エルダー(ib0054)
20歳・女・騎
雪切・透夜(ib0135)
16歳・男・騎
リン・ヴィタメール(ib0231)
21歳・女・吟
ロック・J・グリフィス(ib0293)
25歳・男・騎
龍水仙 凪沙(ib5119)
19歳・女・陰 |
■リプレイ本文 ● 開拓者は村に向かっていた。 「やっぱりええなぁ」 口を猫のようにしてご機嫌のリン・ヴィタメール(ib0231)が、騎乗する白に近い芦毛の馬、シルフの首筋を撫でている。 「人と馬とは共に歴史を歩んでいます」 リンの横に並んでこくりと頷くのは、各務原 義視(ia4917)。 「やはり、良いものです」 彼も心地よく人馬一体感に身を任せている。大人しそうな馬を借りた。名は「鞍馬」。義視とは合うようで、鞍馬も心地よく走っている。 「ところで、今度はこちらから攻め入る番だよなっ」 鏡王に乗る萬 以蔵(ia0099)も横に付け、ぐっと力こぶを作ってみせる。巨漢で筋肉質の以蔵、身体とも情実しているようで頼もしさが溢れる。 「先に行った真世さん、どうしてますかね?」 「って、本拠が襲われてるっ!」 雪切・透夜(ib0135)が涼やかに言ったところで、新咲 香澄(ia6036)が息を飲んだ。指差す先の村で、紅い布を腕やら腰からに目立つように着けた騎馬が走り回っているではないか。 「あれですか。‥‥黒雛っ」 透夜の穏やかだった顔が、騎士の厳しさに引き締まり、黒い愛馬の速度を上げる。 「あっ! あれは真世さん。‥‥騎馬戦、あまり得意じゃなかったはず」 新たに、ベガ騎乗のアーシャ・エルダー(ib0054)が叫んだ。本陣天幕から離脱する一騎は間違いなく静日和と深夜真世(iz0135)。捕虜の論利を載せている分、苦しそうだ。 「美しき女性を10人がかりで追い回すとは、捨ておくことは出来んな‥‥空賊騎士の誇り、見せてやるとしよう」 払うマントに凛々しく引き締まる瞳。白蘭花の主、ロック・J・グリフィス(ib0293)が長槍「蜻蛉切」を構える。 「私が論利なら‥‥」 シギュンに乗る兎の神威人、龍水仙 凪沙(ib5119)がウサ耳をなびかせながら速度を出す。つぶやきの続きは、「この騒ぎに乗じて逃げる」。口にはしないが、敵の目的をそう読む。もちろん好きにはさせない、との思いがある。 「あ」 ここで、義視がためらった。 真世が逃げた反対側。つまり村の居住地に敵馬賊の存在を視認したのだ。 「そちらは任せた。‥‥良し、ちょっと頼むぞ」 横目で仲間に離脱する旨を伝えると、鞍馬にそう語り掛けて馬首を巡らせる。民を助ける路を選んだ。 「‥‥又しても先手を取られて強襲されたときたもんだね。ようし、おいらも民を助けよう」 「くっ、気になるけど信じる。レグルス、行くよっ!」 「香澄さん、援護します」 以蔵が義視に続き、香澄も追う。戦力分配を見た透夜も集落へ向かうのだった。 ● さて、住民救助に向かった義視、以蔵、香澄、透夜の四人。 民家密集地への道を急ぐが、すでに馬賊の狼藉は始まっている。敵は親衛隊の一人に追われるも、逃げつつ手当たり次第に槍を振り回す。この凶刃に倒れる住民もいた。 「民を斬るか‥‥」 「おいらが横合いから強襲を仕掛ける」 つぶやき速度を落とす義視を追い抜きながら以蔵が声を掛けた。 「ちょこまか路地に入るね。‥‥狙いにくい」 「すでに敵は分散して騒ぎを大きくしているようです。ともかく、行ってきます」 固まった敵を狙おうとした香澄が角度をつけようと横にそれる。透夜は住民救助に一直線。実際、すでに住民と馬賊が交錯する乱戦の様相を呈していた。 「‥‥おのれっ。民を襲わず私と戦うがいいっ!」 単騎で敵の五騎を追ってきた親衛隊は、完全に無視されていた。馬賊は「はっはぁい!」と囃し声を残し逃げ回り、とにかく手当たり次第に住民や家屋に斬り付けていた。 あるいは、ここの馬賊の目的は家屋をできるだけ傷つけることだったのかもしれない。どちらかというと意味のない破壊が多い。逆に、人はあまり狙わない。 今、馬賊二騎が合流したが、追ってくる親衛隊からは逃げつつ民家の引き戸などに突きをくれている。数的有利もあり、親衛隊を倒す手もあろうに。 「はっ。鬼さんこちらだ!」 いい気になる馬賊だが、前を向いて息を飲んだ。 ばさっ、と目の前で白鳥が飛んだような気がしたのだ。 そして、バトルアックスの大薙ぎ払いが来るッ! 「うおっ!」 「あぶなっ!」 左右に別れかわす馬賊。 「左をお願いします」 言ったのは、「風の連想」こと透夜。 外套をなびかせたハーフムーンスマッシュで一気に戦いの流れを引き寄せ、親衛隊に指示を出す。 「野郎っ!」 「逃げますか‥‥」 続けて流し切りを見舞うが、追いながらでは手応えが浅い。騎士の透夜としては戦いにくい相手ではある。結局、この敵には止めを差しきれず逃げられた。ただし、透夜としては蹴散らすだけでも民を守ったこととなり、満足であった。 そして、別の場所。 「その手にゃ乗るかよ」 敵が鞍上で上体をそらせつつにやにやしていた。 物陰から出た以蔵が、離れた場所から気功波を放ったのだ。避けられたのは当てるつもりではなかったため。 「止まってくれりゃ、普通の戦闘と変わらないよな」 進行方向前に撃ったので、敵は当然止まる。一気に詰めて上手いこと戦闘に持ち込めた。 「その手も見え見えだ」 以蔵の転倒狙いの空気撃は、気功波を見た後では警戒されたか。敵は接近戦でも槍を上手く使って反撃に出る。 しかし。 「おいらとしてはこれでいいな、っと!」 石突の攻撃を食らっても耐える。生命波動を使いつつ、食らう覚悟があった。続けての空気撃が入り、一人を捕縛した。 ● 結局、居住区での戦闘は早く終わった。 「さーてと、主砲発射っ!」 香澄が民家から離れた敵一騎に対し、ど派手に火炎獣をぶっ放していた。 「戦力の逐次投入は愚の骨頂とも言う」 親衛隊が追っていた敵に対し、義視が体制十分な白狐。召還した大型の白狐は神々しく、九尾をひらめかせ襲い掛かると一気に敵の体を引き裂き戦闘不能にした。 「深追いはしないほうがいいな、うん。親衛隊を助けにいかねぇと」 以蔵が最激戦区へと行く。義視もこれに同調した。親衛隊一人は敵を縛るなどの作業と共に、念のためここにとどまる。 「真世さんも気になるけど‥‥」 「まず天幕でしょうね、香澄さん」 火輪で敵を追っていた香澄が手綱を引き締めた。ひひんとレグルスが止まり、進路を変える。透夜が寄り添い脇を固めた。 そして、展開の早さを知った。 すでに天幕は荒らされるだけ荒らされ、敵の五騎はいなかった。 真世の追撃に加わっていたのである。 ● 「真世さんっ、捕虜を手放してっ!」 ベガを急がせるアーシャが叫んだ。 もう、真世の乗る静日和は馬賊に囲まれていた。攻撃を受けてないのは捕虜の論利が乗っているからか。いや、事態はそういう段階ではない。併走されながら威嚇を受け投降を迫られているではないか。 「あっ! あいつ、やっぱり。自分で手枷つけてたからなぁ」 シギュンの凪沙が声を上げたのは、論利が手枷を外していたから。 そのまま論利は真世を背中から抱いて落馬した。 「真世嬢‥‥。許さんっ、速攻で行くぞ白蘭花。ロック・J・グリフィス参る!」 長い髪のように赤く怒りに燃えるロックが、騎士としての名誉と誇りを誓いオウガバトル。人馬一体の突貫はこれぞ騎士。構えた長槍「蜻蛉切」が輝きとにかく追うっ! 状況は、開拓者に有利となっていた。 落ちた論利と真世は、囲んでいた馬賊から取り残された形になっているからだ。行き過ぎ慌てて引き返す敵の十騎。 これで、ロックが十分間に合った。 「ぐっ。貴様、やるなっ」 すれ違いざまに振るう槍は半月を描く。 「ここは地上だ、落ちても即死に繋がらない事は、お前達に幸いだったな‥‥」 ふっ、と落馬した敵をロックが見下すのは、空の騎士の誇りから。しかし、敵も戦い慣れしている。落馬で致命傷を避けたようで、戻ってきた馬にすぐに飛び乗る。 別の場所では、論利が真世を逃がして味方を待っている。 この前に堂々と立ちふさがったのは、アーシャ。 「論利さん! 戻ってきてくれるなら、私がメイド服で珈琲を入れて差し上げます!」 論利を背後に、そんなことを言う。 「さもなければまたぶっ飛ばしますっ!」 言ってから、引き返してきた馬賊を振り回した長柄槌でぶっ飛ばした。 そして開拓者後続も追いついて来る。 「凪沙はん、頼んますえ」 「任せてよ。黒き霧に惑うがいいわ!」 リンの視線に凪沙が応じる。放った青白い符は薄く広く瘴気の霧となり蔓延した。これには巻き込まれた馬賊も躊躇する。 「今度はこっちどすえ。‥‥いくで♪」 気分も乗ってバイオリン「サンクトペトロ」を構える。奏でる曲は、精霊の狂想曲。 「おい、何かやばいぞ?」 「構わねぇ、やっちまえ」 敵が、浮ついた。 「論利、大人しくしろっ」 「俺よりあの嬢ちゃんをきっちり逃がせっ!」 アーシャの背後に追いついた凪沙が符を構え凄むと、論利は抵抗もせずに真世の方に顎をしゃくった。 「真世はん、助けに来ましたえ」 真世にはリンが寄り添った。 しかし、ここで戦場はまた新たな様相を見せるっ! ● 「おらあっ、邪魔すんじゃねぇ」 天幕を荒らしていた敵が、ここで後方から追いついてきたのだっ! 最後方だったリンが最前線に立つことになる。 「真世はん、はよぅ馬に乗って」 「うん‥‥。あっ、リンさんっ!」 遅い。この隙に一気の寄りで撃ちかかってくる敵。リンが真世の盾となり激しく痛手を負う。 「真世さんも戦って」 背中越しに叫ぶアーシャは、3騎を相手に余裕がない。 「ううん、乱戦になっちゃうか」 「頼む、威嚇するだけにしてくれっ」 火炎獣を離れた1騎に放つ凪沙に、論利が懇願した。 「手加減できる状況じゃないでしょっ」 凪沙の言う通り。 ほぼ倍の敵に包囲されているのだ。数騎を倒すが、後衛側が総崩れとなっているので開拓者の旗色は悪い。 「哨戒部隊が戻ってくる。時間を稼げっ」 ロックが大声を上げてきっちり複数の敵からの攻撃を防いでいる。動揺を狙っているのだ。 「じゃ、もう一度」 それとわかってまたもや瘴気の霧をばら撒く凪沙。 「あんさんらに、南那はわたしまへんで!」 負傷のリンは、真世と、無理して戻ってきたアーシャらに守られながら必死に焙烙玉を投げる。‥‥移動中の敵に爆破タイミングを合わせられず外れるが、威嚇にはなったか。続けて投げたハイヒールは、なぜか命中。「なんだぁ?」と敵から呆れられたが。 その、次の瞬間。 「ぐはっ!」 呆れていた敵が苦痛の表情に。 「お待たせしました。ようやく追いつきましたよ」 「透夜さんっ!」 民家から天幕に敵を求めていた透夜が、敵包囲陣の後方から流し切りで奇襲をかけたのだ。 「喜ぶのは早いですよ、真世さん」 「そうそう‥‥。容赦はしないからねっ!」 人差指と中指で挟んだ符を火輪として放ち、香澄も到着。 これで流れはまたも開拓者に。特に騎士三人がそろったことが大きかった。 ● そして、敵本隊に向かった二人。 「とにかく時間を稼げっ」 瞬膳の声が響いている。 「大丈夫かっ。おいらたちが来たからには‥‥」 以蔵が敵の繰り出す槍を三節棍の絡踊三操でさばき、払いながら前進する。この鍛えた棍さばきは変幻自在。敵は突然されされる攻撃の変化についていけず食らうだけ食らっていた。。 「こう、迎撃よりも攻め入って元を断ちたいよな」 以蔵、特訓の成果に気を良くし暴れまくる。 が、しかし。 「ん‥‥。これはまずい」 速度を落とし距離を保つ義視が、いち早く状況に気付いた。 「く、そっ‥‥」 「ここまでかっ」 親衛隊が次々力尽きているのだッ! 支援がまったくないまま数的不利を戦っていたツケである。 「まずいっ、抜かれた!」 敵の動きに、健在の瞬膳が顔を巡らせる。 その先は、真世と論利のいる戦場。 やはり敵の狙いは論利だったか。 「くっ‥‥」 堰を切ったような敵の進撃に、義視もさらされた。白狐を放つだけ放つ遠距離戦から急激に接近戦となり、対応しきれず手傷を負う。 ともかく、戦場は開拓者本隊のいる場所に移る。 ● 「今回はめちゃ疲れるわあ」 またもやって来た多数の敵。凪沙は忙しく瘴気の霧を張りながら声を絞り出した。 「今度は矢も飛んで来てるしぃ〜。‥‥きゃっ」 ようやく弓を構え戦力になっている真世が忙しく撃つ。近くの敵に狙われたが、これはロックがうまくさばいた。 「ロックさん」 「お礼はその笑顔で充分だ‥‥。まぁ、少しだけ贅沢を言わせて貰うなら、事が落ち着いた後に、珈琲を入れて貰えると有り難い」 「時間が惜しいな‥‥。すみませんね、其方に興味なぞないんですよッ」 にこっ、と笑顔を見せるロック。その横を透夜が敵を圧して駆け抜ける。。 「トドメをする暇もないとは‥‥。数にものを言わせているだけですが、やりますね」 アイシャも騎士盾「ホネスティ」を上手く使い多数を相手にする。 騎士3人の粘りは、乱戦の中でも香澄、凪沙、そして夜の子守唄を使うリンを動きやすくしている。‥‥揺れる騎馬相手では隙を作る程度の効果しかなかったが。 「そろそろ頃合いか‥‥。悪い事は言わん、退路のあるうちに撤退する事を進めさせて貰うぞっ」 ロックが吠える。真世が最初に逃げていた方向にわざと隙を作っている。 そして、巨漢の以蔵がこちらに到着。三節棍で暴れまくる様は、ガードで固め気味だった騎士にてこずっていた敵をうろたえさせた。さらに、速度のある軽戦の瞬膳が残った親衛隊 を率いて突撃。義視による斬撃符の射線も来ている。 「くそっ。裏切ったか、論利っ!」 敵のこの言葉が、退却への流れとなった。 「潮だ。引くぞっ!」 浅黒い肌の、精悍な男が合図を出した。無駄のなく筋肉のついた、鋭い眼光の男であった。 「あれが、頭の紅風山千だ」 残った論利が、そうつぶやくのだった。 ● 結局、10人の敵を新たに捕らえた。正確には、怪我により椀那の親衛隊本部まで送られたのだが。一方、親衛隊の被害は6人。村人に死者はなく、負傷者多数。 そしてボロボロになった親衛隊本部天幕。 「おかえりなさいませ、旦那様。珈琲が入りました」 メイド服姿で給仕するアーシャに、論利はもちろん瞬膳も呆れた。 「帝国騎士ですから、約束は守ります」 誇りを込めて言うアーシャ。背後では真世がロックに珈琲を給仕していたり。 それだけではない。 「ほらほら、真世さんも回復どすえ」 「ぶっ。やぁん」 「今後、馬が簡単に入れないように陣を固めるのもいいかもね」 リンが真世の顔にパンプキンパイをべしゃりしたり、香澄が陣の強化を進言してたり‥‥。 「面白い姉ちゃんたちだなぁ‥‥」 論利、この明るさに好意を持った様子。そうそう、とごそごそ何かを取り出した。 「仲間を殺しちゃいねえ見たいだし、前回とあわせてこれがお礼だ」 馬賊の幸運の首飾りだ。しかも人数分。 「逃げるつもりはなかった。何とかあんたらと仲間の橋渡しをしたかったんだがな‥‥」 ただ吹き荒ぶだけの風も、人の心はあるようである。 |