【尖月】イルカを訪ねて
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/05/16 20:24



■オープニング本文

「ほう、イルカ!」
 志士の海老園次々郎が話題を振ったとき、その男の態度はがらっと変わったという。
「噂にゃ聞いてるが、海に出る男でもなけりゃお目に掛るこたぁねぇからなぁ」
 話を聞いていたのは、熱血貸本絵師こと下駄路某吾(げたろ・ぼうご)(iz0163)。どうやら好奇心の琴糸に触れたのだろう。にやりと顎をさすっている。
「へえぇ。男でも興味がありますか」
「男じゃねえ。漢だ」
「なんだかなぁ」
 それはさておき。
「イルカに乗って海を泳いだりできるってのは、現地の人の話で」
「おお、おとぎばなし風で年頃の娘や子どもに喜ばれるだろうなぁ」
 下駄路、顎をさすってまだ見ぬ構図を夢見る。期待感が高いのだろう、頬が緩んでいる。
「旅泰の林青さんから、真世に話をということだったんですがね」
 実は真世、最近忙しいようでどこかに行っている。コクリも飛びまわっているらしく、つかまらない。下駄路に話が来た理由である。
「‥‥しかし、泳ぐのにはまだ早いだろう?」
「泰国南西部の南那という地方は年中暖かく、冬でも雪が降ることは稀です。もう、こちらの夏のように泳ぐ事ができるんですよ」
 次々郎も尖月島開拓に関わっていたりする。説明も自慢そうだ。
 余談だが、尖月島の開拓作業中の参加者が浜辺でイルカの耳の骨を見つけたことがある。その時から観光目玉にという話も水面化で進んでいたのだが、ここでついに実現に動き出したということだったり。
 閑話休題。
「とにかく、開拓者を雇ってもらって尖月島の沖合いでイルカの群れを探して、楽しく遊んでください。そしてそれを神楽の都で宣伝してもらう。‥‥これはこれからの行楽シーズンに向けて重要な宣伝活動になりますから、しっかりお願いしますよ?」
「そりゃ願ったりで俺が絵にして瓦板をばらまいてやってもいいが、イルカとは楽しく遊べるのか?」
 下駄路、当然の疑問を投げる。
「イルカは好奇心旺盛のようですから、近くにさえ行けば寄って来るでしょう。攻撃的態度をとると逃げるのでそれだけは注意を。‥‥もちろん、そういう性格なので攻撃を仕掛けてくる事もないようです」
「ほぉぉぉ。ほんじゃ、早速開拓者ギルドに依頼するが、あんたはどうすんだ?」
 下駄路、なぜ次々郎自身が動かないのか聞いてみた。
「今、ギルドではアル=カマルっていう新大陸に力を入れているらしく、特に戦闘要員はそちらに動員を掛けたがってるようなんですよ。‥‥私もそちらに刈り出されているわけで」
「分かった。もう、新大陸から仕事を終えて帰ってきてるのもいるんだろう? そういう人材に骨休めにどうかという線で当たってみるかな」
 申し訳なさそうにする次々郎に、下駄路はたくましく言ってみせるのだった。

 そんなこんなで、尖月島でバカンスをしつつ沖合いにいると言われているイルカの群れを探し出し、たっぷり戯れてくれる人材、求ム。
 朋友同行で、一緒に楽しむ事もできるだろう。
 船は、尖月島に手漕ぎの小さな漁船があるので、これを使って出航できる。下駄路はこれに乗って同行し、開拓者がイルカと遊ぶ姿を描く。
 水着は各種が貸し出されるので、好きなものを選ぶ事。


■参加者一覧
乃木亜(ia1245
20歳・女・志
ラシュディア(ib0112
23歳・男・騎
御陰 桜(ib0271
19歳・女・シ
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
罔象(ib5429
15歳・女・砲


■リプレイ本文


「じゃ、また夕方に迎えに来ますから」
 満潮で三日月形をした尖月島で、開拓者を連れて来たこの仕事の依頼者・林青がそう言って背を向けた。やがて彼の飛空船、万年青丸(おもとまる)が空に浮き、空輸の定期便任務へと戻っていった。
「コレって前にさか〜シたとこよねぇ?」
 ばさーっ、とふもらのケープを脱いだ御陰 桜(ib0271)が、ぴんくのびきに姿になって白い白い砂浜を駆け出す。
「桃〜、行くよ〜♪」
 さくさくさくっと形を作る足跡を、朋友の忍犬「桃(もも)♀」が辿って走る。「わんっ!」との一声は、「海で水練ですね桜様、頑張ります!」とでも言うかのような小気味良い響きがあった。長いポニーテールが揺れて振り返る桜の笑顔がまぶしい。髪とおっきな胸を包むなどするびきにが桃色でそろい、おしゃれである。
「桃!」
「わんっ!」
 球「友だち」を海に蹴る桜と、泳いで取りに行く桃。
「ふふっ。藍玉ものびのびと泳げるから、いいかも」
 そんな桜たちを見て、乃木亜(ia1245)も相棒を振り返った。
「ピィ!」
 ミヅチの藍玉(らんたま)が首を上げて嬉しそうに言うと、ふよふよ浮いて積極的に海へと向かった。この姿を見て、来て良かったと感じる乃木亜。すらっとした白い足を現地特産の長いあろはしゃつから伸ばした姿で藍玉の後を追う。
 そして、素朴な疑問を口にする男が一人。
「久し振りに来たけど、リゾート地でイルカと遊んで報酬を貰う、なんていいのかな?」
 ラシュディア(ib0112)である。彼は尖月島開拓には最初から携わっていたりする。
「いいんじゃねぇか、ラシュディア? 逆に報酬分はきっちり、あの林青ってぇのに稼がせてやるのが腕ってもんさ」
「相変わらずだね、下駄路は」
 下駄路 某吾(iz0163)の熱血ぶりに笑顔を見せるラシュディアであった。
 そしてその二人の前を横切る影が一つ。
「イルカと遊ぶ♪ イルカと遊ぶ♪ 楽しみ楽しみ〜♪」
 るーんるーんるーん、とご機嫌なのは、リィムナ・ピサレット(ib5201)。
 って、リィムナさん。何で釣り道具一式を担いでんですか?
「サジ太〜、おいで〜。林青から教えてもらった爆釣スポットに行くよ〜」
 朋友を呼ぶ声に、迅鷹のサジタリオがひょ〜い、と低空飛行でリィムナを掠めるように飛び過ぎたり。サジ太ものびのび楽しんでるようだ。
 そして逆に、下駄路やラシュディアに近寄ってくる人物がいる。
「なぁなぁっ! あの家、楽しそうだなっ」
 羽喰 琥珀(ib3263)だ。尖月島名物の高床式別荘を指差して目を輝かせている。「遊びの達人」で知られる虎の獣人は南のりぞーと無人島でも元気全開。「うわ〜っ」と弓状に広がる海岸線をぐるーっと見たり。遊ぶ気満々である。
「では、私はまずイルカ探索と発見から始めます」
 そんなことを言うのは、罔象(ib5429)。
「発見しましたら急いで仲間達のもとへ戻り場所等の情報を連絡します」
 マスケット「クルマルス」を抱く砲術士は15才。任務に忠実である。
 と、ラシュディアに向き直った。
「もしよろしければこの地の絶景地点や遊ぶ場所、美味しいものなどご存知でしたら教えて頂けませんか?」
 肩を竦めてにっこりする罔象。任務は任務として、少女らしくいろいろ興味はあるようだ。
「そうそう、イルカ探しだったよな」
 ここで、波打ち際にレッツゴーしかけてた琥珀が本来の目的を奇跡的に思い出し振り向いた。
「南那の漁師達にこの時期イルカをどの辺りで見かけるか、習性や特徴なんかを聞いて来ようぜ!」
 拳を突き上げ飛び跳ねる。
「そうだな。その場所の危険度なんかも聞いておきたいな‥‥イルカを餌にする鮫とかいないといいんだけども」
 ラシュディア、張り切る琥珀を落ち着かせるように言う。
「どうすれば背中に乗れるか、もだな」
 ここ重要と、琥珀。
「それもですが、イルカのおよその外見も聞いておかないといけませんね」
 二人の様子を見てくすくす笑う罔象だった。


「じゃ、先に出るぜぃ!」
「おお。それじゃ、俺たちは聞き込み組みと釣りの嬢ちゃんが戻ってから追うぜ」
 尖月島の桟橋から漁船を出す下駄路を、彼の貸本製作仲間である厚木遅潮(あつきちしお)と結城田力(ゆうきだちから)が見送った。 
「ピィピィ」
「下駄路さん、藍玉が『急いで行きましょう』ですって」
「おいで、桃〜。あたしたちも行くわよ〜♪」
「わんっ」
「おおっ。任せときな、乃木亜の嬢ちゃん。俺らはこれでも鍛えてっからなぁ」
 ぎぎぎと櫂を操り出港する。その上空を、ラシュディアの天津、琥珀の菫青(きんせい)、罔象の瓢が舞い上がり南那本土方面へと飛んでいった。いずれも早い。さすが駿龍三騎のそろい踏みである。おっと、琥珀を乗せた菫青がその菫青石のような色をした体を鋭い姿勢にして先行した。はしゃいだ琥珀が拍車を掛けたのか、普段は穏やかで落ち着いた性格ながら一端ぶち切れるとかなり凶暴になってしまう菫青の性格が出たのかは謎。もっとも、天津も瓢もしっかり付いて行くので乱れはない。
 一方、桟橋からさらに沖側の、島の尖った部分にて。
「来たっ! これは大物かもね♪」
 ぐぎぎと曲がる釣竿。すでに釣りを始めていたリィムナが会心のアタリに足を踏ん張って格闘していた。
 リィムナ。
 魔術師で決して体力に恵まれているわけではない。
 しかし、「豪快一本釣り」の称号に懸けて負けられない戦いがあるッ!
「とうっ!」
 びんびん暴れる獲物との引き合いに勝ち、ざっぱ〜んとおっきな魚を上げる。活きがいい。フローズで凍らせて鮮度を保つ手も考えたが魚篭に入れるにとどめておいた。
「ゴカイとかえさは浜を掘ってばっちり集めたから、どんどん釣るよ〜」
 これは入れ食いと判断し、スキルを使う時間を惜しんだのだった。岩場では、サジ太がその様子に翼を広げたりして一緒に喜ぶ。
「あ、サジ太は空を飛んでおいてよ。私がまだここにいるって遠くからでも分かるから」
 こくこくと頷いて飛び上がるサジ太。賢い。言い付けどおりに、リィムナの頭上の位置で円を描くように飛ぶ。下では、またもざぱ〜んと魚が上がっていた。

 そして、南那の海岸に向かった3人。
「な、なんじゃ?」
 塩作りに精を出していた住民が、着地した龍に驚いていた。
「なーなー。イルカってどの当りで見かける?」
「ちょっと待てって」
 まっすぐ聞く琥珀を止めて、ラシュディアが自分たちが以前に尖月島のアヤカシを退治したこと、今回はイルカを探しに来たことを説明する。これでようやく、閉鎖的でよそ者に警戒する現地住民も安心したようだ。
「最近はどのあたりでイルカを見かけたかご存知ですか?」
 聞く罔象に、親切に教える住民たちだった。
「なるほど、三角形のような背びれがあるんですね」
「‥‥先に探しに行った乃木亜、大丈夫かな?」
 新たな情報を住民から聞き出しうんうんと納得する罔象の横で首を傾げるラシュディア。確かに、乃木亜らは正確な情報を持っていない。
「でっかくて珍しい魚を探してんだ。大丈夫だろ?」
 両手を頭の後ろに組んで琥珀が気楽に言った。
 果たして、どうか。
 ともかく、急いで取って返す三人だった。


「せ〜の!」
 ざぶん、と沖合い。
 桜と桃が一緒に海に潜っていた。
「いい、藍玉? 私たちはイルカを探さなくちゃならないの」
 止めた船では、ミヅチの藍玉を前に、乃木亜が茶色い瞳を不安そうに瞬かせていた。
「ピ?」
「ううん、分からないですか‥‥。とにかく、大きな魚みたいな姿を探してください。私が乗れる位の大きさです」
「ピッ♪」
 ようやく藍玉はピンと来たようで、早速イルカ探しの海中遊泳に出掛けていった。
 ざぱん、と藍玉が消えていった水面に浮き上がる姿があった。
「も〜駄目ぇん。‥‥桃の勝ちだから上がってらっしゃい」
 どうやら桜、イルカ探しではなく愛犬桃と潜りっこをしていたようで。
 って、なかなか上がって来ませんよ?
「あ、そうね。桃って水呼吸のスキルがあったっけ‥‥」
 しまった、と桜。二時間くらい潜っていられるスキルだ。勝ち目はない。
「わんっ♪」
 しかし、桃は主人思い。自分が頼りになるところを見せたと分かるとすぐに上がってきた。
「桃、頑張ったわね♪」
 ご褒美に船に上がってからお腹をもふもふシて上げるとデレデレにくぅんくぅん。
「ふぅん、桃っていうのか」
「首筋の桃の花の形の模様がきゅ〜と♪ な芝わんこよん」
 感心して覗き込む下駄路に、んふふと得意そうに説明する桜であった。
 と、またざぶん。
 今度は藍玉が戻ってきたのだ。
「ええとそれじゃなくて」
 あらら、と苦笑する乃木亜。藍玉がくわえていたのは、小ぶりのエイだった。
「もっと大きい。‥‥このくらい? それと、捕まえてこなくていいからね?」
 おっきく両腕を広げて説明する乃木亜。ついでに、藍玉の口でぐったりしているエイを哀れに思って付け加えた。「ピ‥‥」とうなだれる藍玉。怒ったのではないから、と首を抱いてやる乃木亜だった。
「あらん。そういえば、いるかって話しをするんじゃなかったかしらん?」
 ひらめいた桜は超感覚。
「う〜ん? あっちの音かしら?」
 といっても、イルカの鳴き声を聞いたことがないので釈然とせず。変わった音には注意はしているのだが。

 そして、上空三人組。
「ターゲットスコープ‥‥」
 目撃多発地点に到着すると、罔象がクルマルスを構えた。集中力を高め銃の長距離射撃でも命中するほどの状態に自分を高め、いるかを探していた。‥‥もちろんクルマルスを構えたのは気分である。
「あ、いました。波かと思いましたが、白い部分に三角形の背びれがいくつか見えます‥‥」
「よし、それじゃ俺は下駄路たちの船を誘導して呼んでくる」
「そんじゃ俺はリィムナだな」
 ラシュディアが反対方向に見える漁船に向かい、琥珀は尖月島にとって返すのだった。

 さて、リィムナは?
「サジ太、急降下!」
 釣りはすでに終わり、なにやら呼子笛を長く吹いているぞ。
 この合図で上空に魚を持って飛行待機していたサジ太が水面に一直線に急降下してきた。
「今だっ、ピッ!」
 リィムナが短く吹いたタイミングで掴んでいた魚を落とし急上昇離脱。
「よ〜し、さっすがサジ太。‥‥あっ、お〜い。琥珀? イルカ、見つかったの? よっし!」
 白い歯を見せ満足そうな笑顔を見せたところに、呼びに来た琥珀の菫青がやって来た。準備も訓練も万端と魚篭を持ち、サジ太を呼び戻して遅潮と力の待っていた漁船に乗る。いざ出港だが‥‥。リィムナ、にまっといたずらっぽい笑顔を浮かべてるぞ。合流してから一体何をするつもりだろう。
「よっ、と」
 漁船は遅潮が漕いでいるが、速くはない。
「ほらほら早く。イルカがいなくなるかもだから俺に任せなって」
 見かねた琥珀、何と荒縄を使って駿龍の菫青で漁船を曳航。さすがは遊びの達人というか、遊びの利いたアイデアはもちろん、楽しいことを目の前にするとせっかちなところもあるようで。


「ほぅ、こいつぁたしかに人懐っこいなぁ」
 現地に着いた下駄路はそう言って感心した。
 彼の漕ぐ漁船にイルカが並んで泳ぎ出したのだ。
 船を止めると、波間から首を出してこっちを見たり。
「思っていたより大きいんですね‥‥」
「ピ‥‥」
 ぽりぽりと頬を掻く乃木亜。実は臆病な面もある藍玉は乃木亜の側まで来て不安そう。乃木亜はよしよししてやる。‥‥いや、もしかしてこの機会にべったり甘えたかったのかもしれない。
「これは面白そうねぇ」
 桜は、早速いるかと一緒に遊びたい様子。でもどうしたものかと首を傾げる。いつもの癖で夜春を使っておいてから、玉「友だち」を取り出し身振り手振り。まさか‥‥。
「じゃ、行くよ〜」
 ああああ、やっぱり投げた!
 が、これは大当たり。
 イルカは競ってこれを取りに行き、ツンツンつついて運びながら戻ってくると桜の元にポーンと返してきた。
「賢いわね‥‥」
「よ〜し、せっかくここに来たのですから‥‥」
 感心する桜に、覚悟を決めた乃木亜。あろはしゃつを脱いで水着姿になる。藍玉と一緒の色のミズチの水着姿だ。ポニーテールの髪をなびかせとんたたんとステップすると、体を伸ばし放物線。
「ぷあっ。‥‥あはは、すごいです」
 ばしゃんと飛び込むとイルカが集まり優しく身を摺り寄せてきた。
「ピッ!」
 これは楽しそうと藍玉もすいすい泳いで主人の側に。
「あたしが桜でこのコが桃よ、ヨロシクね♪ ‥‥ってわかるかしら?」
 桜も仲良くなろうとまずは船から自己紹介してたり。
「おおい、お待たせ〜」
 ここで、漁船を曳く琥珀の菫青が戻ってきた。すでに青いさあふぱんつ姿で、とうっと菫青の上から飛び込んだ。どぷーんと水柱が上がる。
「あ、遅れるもんか〜」
 漁船に乗ってたリィムナも上着を脱ぎ、真っ白い素肌をさらす。どうやら今日はミズチの水着じゃないようで。っていうか、いつも水着を着てる部分はとても白い。そりゃもう、道徳的にいかがなものかというくらい隠している部分の少ない白ビキニが、実は着てないんじゃない? と勘違いさせるほどだ。
「‥‥な、なあ下駄路。絵を描くのはこの位置でいいか? なんなら俺が船を漕ぐが」
「どうした、ラシュディア? 藪から棒に」
「女性の水着姿をジロジロ見るのは失礼だろう‥‥」
「それじゃ、絵が描けねぇじゃねぇかよ」
「と、とにかくリィムナはあまり見ないほうが‥‥」
「ちゃんと水着を着てるじゃねぇか」
「あれは着てても着てないくらいその‥‥」
「きっちり見てるじゃねぇかよ」
 まあ、ラシュディアはジロジロ見てはないようで。
 一方、乃木亜はイルカに弄ばれていたり。
「きやっ‥‥。え、乗っていいのですか? すいません‥‥」
 潜ったイルカが彼女の下から浮上し、跨る形になった。どうもそういうことらしい。
 大人しく乃木亜が跨ったまま身を任すと、ざぷんざぷんと泳ぎ始める。「ピィピィ♪」と藍玉も横に並んで泳ぐ。
「あ、楽しそう。あたしも一緒に泳ぐ!」
 リィムナはえいっとバンザイしながら飛び込むと、イルカに抱き枕のように抱きついた。イルカもこれを喜び、クルクル身をひねる。何回転かするとリィムナ、しっかり背中に乗っていた。
「よ〜し、乃木亜を追うよ〜っ」
 指差してれっつごー。
「俺も負けるか〜」
 ばしゃばしゃイルカと泳いでいた琥珀もイルカに跨り続く。
「桃はお留守番シててね」
「あははっ。面白いですっ」
 桜もイルカに乗って続き、いつの間にか赤いミズチの水着姿になって海に入ってた罔象もイルカに跨り追い掛ける。って、罔象さん? 水着姿になってもめがね付兜は被ったままなんですね。
「ラシュディア、お前はいいのか?」
「いいんだよ、下駄路。‥‥あ、でも興味がいなわけじゃないから、触るくらいは」
 船から身を乗り出して手を伸ばしたラシュディア。寄って来たイルカのつぶらな目に無警戒となり手を伸ばすが、ここを下駄路に狙われた。
 背中を押されたのだ。
「お、おいっ。下駄路」
「いいから泳いで来いって」
 ざぷんと顔を出して抗議するが、下駄路は爽やかな笑み。と、同時に「わっ」。
 ラシュディア、潜ったイルカに下から掬われたのだ。そのまま背中に跨る形となり、連れ去るように泳がれたり。
「あはは、行って来い」
 さてと、とここで絵筆を取り出す下駄路だった。


 そして。
「サジ太、練習の成果を見せる時が来たよっ」
 船に上がったリィムナが上空のサジ太に長い笛を吹く。ぎゅーんと急降下して、短い笛で魚を落とした。
 イルカの方はこれを、わくわくした様子で見上げていたが魚が落ちるとこれに群がった。
「よ〜し、もう一度」
 自分の肩に戻ったサジ太に新たな魚を渡して繰り返す。
 と、今度は様子が違うぞ。
 何と、イルカが落ちてくる魚に向かって飛び上がりこれをキャッチしたのだ。もちろん、これあるを期してリィムナ、若干高い位置から落としているという気の配りようだったり。
「おーっ。さっすがリィムナだなぁ」
 すっかりイルカを手なずけている様子を見て感心しているのは、琥珀。というか、彼自身も何やらしているぞ?
「おーい、菫青ー、もーちょい早く飛んでくれねーかー?」
 何と、琥珀は持参した竹盾に荒縄をくくりつけ、それを駿龍の菫青に引かせているではないか。もちろん、琥珀は竹盾の上でバランスを取りながら海の上を滑っている。
「よっ、と。‥‥アハハー、すっげー楽しいっ!」
 大きめの波をジャンプ台代わりに、大きく飛び跳ねてみたり。
 そして、乃木亜。
「リィムナさんから分けていただきましたから、どうぞ食べてください」
 のんびり波間でイルカに餌付け。
「ピィピィ」
「はいはい。藍玉も、召し上がれ」
 ついでに藍玉もお食事タイムのようで。
「ほら、桃。いったよ〜」
 桜はイルカと桃と一緒にボール遊び。
 その手前に、ほっそりした細い腕が天に伸びる。
 いや、すぐまた水に。
 どうやら罔象が背泳ぎをしているらしい。イルカも、彼女のゆっくりした泳ぎに合わせて泳いでいる。
 ラシュディアは、イルカに跨ったまま周りを大きくぐるりぐるり。どうやら安全確認巡回をしているようで。性格だろう。
「しっかし、我々も泳ぎたいもんだな」
「そりゃそうだが遅潮よ、俺たちが遊んじゃ誰がこれを読者に伝えるんだ?」
 あまりに楽しそうなので遅潮がつぶやくと、絵筆を動かす下駄路がたしなめた。
「でも、楽しさを体験して分かることもあるっていうしなぁ」
「分かった分かった。二人は行ってくりゃいい」
「すまんな、下駄路」
 結局、遅潮と力はイルカと泳いだ。遅潮は、体験することも仕事のうちだ。下駄路は、ひたすら描く――。


 そして神楽の都。
「なーなー、ラシュディア。これって、俺たちが『宣伝にこんなの作ったらどーだろ?』って言った冊子だよな」
「ああ、そのようだな」
 開拓者ギルドで琥珀とラシュディアが一冊の本を手に取っている。
「結局、貸本のようにしたんだな」
 友人の仕事に笑みを湛えながら頁をめくるラシュディア。
 そこには、尖月島の自分たちの思い出が詰まっていた。
「イルカは、リィムナの餌付けで飛び跳ねていたから、それを全身図にしたか‥‥」
 なるほどな、と感心する。
「乃木亜と罔象がイルカに乗って描かれてるな」
 へー、と琥珀。
「あ、琥珀は竹盾で波乗りしてるじゃないか」
「あははっ。俺、こんなカッコ良かったのか〜」
 他にも、砂浜で振り向き桃と駆けっこをしている桜、椰子の木の下で椰子の実ジュースを飲むリィムナ、藍玉と泳ぐ乃木亜、高床式別荘の濡れ縁に座り沈む夕日を眺めている罔象などの絵もあった。
「ラシュディアは、桜の言ってたイルカ型のくっきーを食べてるところなんだな」
 ここだけは実際に体験はしてなかったが、努めて絵にならないようにしていたラシュディアに下駄路が配慮したようだ。
「よ、お二人さん」
 ここで、下駄路が現れた。
「評判はいいぜ、これ。みんなには感謝だな」
 下駄路、にこにこしている。
「乃木亜なんて、『恥ずかしいのであまり水着姿は見ないでください‥‥』なんて言ってたくらいだからなぁ。苦労したんだぜ」
 と、何やらラシュディアがそっぽを向きましたよ?
「どうした?」
「いや、直視したりしてたわけじゃないよ?」
「‥‥絵に義理立てしてどうするよ」
「こんにちは。完成したらしいですね」
 そこへ、乃木亜がやって来た。
「あ‥‥」
 冊子を手に取り頁をめくっていたが、突然真っ赤になった。
「絵を気にしてどうするよ」
「ごめんなさい」
 一応明記しておくが、水着の女性陣は特に色っぽく描かれているわけではない。リィムナはまあ、アレだが。
「でも、みんな楽しそう。藍玉も喜んでたし」
 最後には柔らかい笑みを見せる乃木亜だった。

 そんなこんなで、開拓者たちの遊ぶ姿を記した冊子の評判はよく、大いに尖月島の魅力が伝わったという。