【四月】くらうどげ〜と
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: イベント
危険
難易度: 易しい
参加人数: 28人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/04/26 23:34



■オープニング本文

 豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎などと呼ばれていたころ、とかなんとかいわれるような時代も一昔前になったねとか言われるようになってしまった現代。
「舵天照のギルドで依頼の予約はしたし、火の元は確認したしぃ〜」
 マンションに一人暮らしをしている深夜真世(iz0135)は、玄関の鏡でリップのノリとかを確認しながら出勤の準備をしていた。
 時は、たそがれ。
 夜に働く――いや、夜に生きる者たちが動き出す、時間。
「じゃ、行って来ます〜」
 誰もいない、明かりを消した部屋に言ってから長い髪をなびかせる。
 街はにぎやか。
 勤務を終えて帰宅する人、学業が終わって家路に就く学生――。
 そんな人波に逆らい泳ぐように真世は歩く。
――なんで、こんなに人がいるんだろう。
 ふと、思う。
 たくさんの人。
 その中で、どれだけ知った顔がいるだろう。
 いや、すべての人と顔見知りになることなぞ不可能であろう。
 それでも思う。
 自分は、独りぼっちだな、と。
 別に、気ままな一人暮らしが嫌いなのではない。にぎやかでないとイヤというわけでもない。
「人と会って話して‥‥他愛のない話でも、話してくれた人はにっこりしてくれて、そんな笑顔が『ああ、いいな』って感じで‥‥」
 思わず口にしてしまった。
「だから、私は働いてる」
 顔を上げた真世。
 そこには、「くらうど☆げ〜と」と書かれたネオンサインが暗くたたずんでいる。開店すれば、明るくにぎやかに輝き出すだろう。
――そう。ここは高級ナイトクラブ「くらうど☆げ〜と」。
 紳士淑女の社交場。
 店名変更したばかりの、ミッドナイトパラダイスなえっちくないオシャレでキュートなお酒飲み場。
「よしっ、新たな気持ちで頑張るぞっ☆」
 真世は両手を拳にして胸の前で合わせてきゅ〜んってして、従業員通用口に向うのだった。
「あっ。真世さん、待ってくださ〜い。‥‥おはようございます。きょうからまた頑張ろうね♪」
 外見未成年というか、少女としか思えないような外見のコクリ・コクル(iz0150)が真世に手を振り駈け寄ってくる。
 いや、他にも次々と。
 店内改装もありしばらく店は閉まっていた。
 ホストとして接客する女性、男性、従業員とも、再出発の思いで晴れ晴れとした顔つき。
 繁華街は薄暗くなり、ネオンサインが灯るようになった。
 この新たな店も、また。

 そんなこんなで、高級ナイトクラブ「くらうど☆げ〜と」、もうすぐ開店ですっ!

※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません


■参加者一覧
/ 静雪 蒼(ia0219) / 葛城 深墨(ia0422) / 柚乃(ia0638) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 真珠朗(ia3553) / からす(ia6525) / リューリャ・ドラッケン(ia8037) / 和奏(ia8807) / 村雨 紫狼(ia9073) / 劫光(ia9510) / 千代田清顕(ia9802) / リーディア(ia9818) / アグネス・ユーリ(ib0058) / エルディン・バウアー(ib0066) / ラシュディア(ib0112) / 琥龍 蒼羅(ib0214) / 御陰 桜(ib0271) / シルフィリア・オーク(ib0350) / 琉宇(ib1119) / 白藤(ib2527) / 西光寺 百合(ib2997) / マーリカ・メリ(ib3099) / 常磐(ib3792) / 一 千草(ib4564) / リンスガルト・ギーベリ(ib5184) / リィムナ・ピサレット(ib5201) / 天鬼 征五郎(ib6559


■リプレイ本文


「あ。真世さん、コクリさん。おはようございます」
 深夜真世(iz0135)やコクリ・コクル(iz0150)が更衣室から出ると、すでに礼野 真夢紀(ia1144)がエプロン姿で忙しそうに働いていた。
 エプロン姿といっても、ホストガールではない。
「真夢紀さん、ボクなんかより可愛いんだから接客に出るとお客さんに喜ばれると思うんだけどな〜」
「私は勤労学生なんですよ? 飲食店のアルバイトとして許可もらってるだけんですから」
 くすっと笑う真夢紀。彼女は厨房の調理員として働いているのだ。証拠に、真世のようにメイド服ではなく、コクリのようにセーラー服でもない。
「ダメよ、コクリちゃん。真夢紀ちゃんが接客で出たら、真夢紀ちゃんみたいに美味しい料理を作ってくれる子がいなくなるでしょう〜」
 男性更衣室からやってきた女性、もとい、男性‥‥というか、オカマさんの華 真王(iz0187)(以下、マオ)がコクリの頬を人差指でちょんとつついて指摘した。えらく露出度の高い、海賊風の格好をしている。
「そうだよぅ。マオさんのいうように、真夢紀ちゃんには美味しいスイーツを作ってもらわないとね〜」
「よねぇ、真世ちゃん」
 スイーツ談義で盛り上がるマオと真世を尻目に、真夢紀はコクリに向き直っている。
「先生だって来る可能性0じゃないんですから」
「そんな先生、真夢紀さんの魅力で骨抜きに‥‥」
 にっこり真夢紀にドス黒なことを言うコクリ。が、これは女性更衣室から出てきた男性、もとい、男装女性のシルフィリア・オーク(ib0350)がコクリの頭にぽんと手を置き言葉を止めた。
「もうお客さんがいらっしゃってるから、そこまでね?」
 っていうか、シルフィリアさん? タイトなタキシードできゅうって細身に決めてますが、襟から胸のトップ付近までが完全露出するシャツぢゃないですか、それ。上にぽろりとこぼれても知りませんよ?
「ええっ、本当ですかシルフィリアさん? いけない。それじゃ、すぐに美味しいものの準備をしますね」
 ひらりとエプロンを翻し厨房に急ぐ真夢紀。元気な娘である。
 ところで、客は。
「やあ、今夜も使わせて貰うよ」
 店の入り口に、黒いドレス姿の小さな姿があった。
 半分客で半分店側の専属楽師・からす(ia6525)だ。
「いらっしゃいませ。席まで案内する‥‥どうぞ‥‥」
 すっ、と寄っていくのは一 千草(ib4564)。黒い上下と銀色の短髪が好対照で、細い面やストイックな言葉遣いと相まって、よりスタイリッシュに映る。
「やあ、一殿はいつも硬いな」
 黒の袖無しドレスをまとうからすは幼く見えるが誰も本当の年齢を知らない。背は低いが、妙に世慣れている。黒い衣装に黒い髪、赤い瞳がミステリアスで、晒した二の腕の白さと儚さは見る者をはっとさせる。
「いつも通り、そういう性分で」
 性格なのだろう。千草はいつもからすが座る席を案内する。
「じゃあ、いつも通りの物をもらおうかな」
「分かった。弟に用意させよう」
 千草、からすが黒い弦楽器のケースを置いたのを確認して厨房に戻るのだった。


「あらっ?」
 千草がすっ、すっと歩く後ろで、ホストガールのリーディア(ia9818)が首を傾げていた。膝丈メイド服から白いニーソックスに包まれた足がくねりと伸びている。
「あの、今日はホストの人はみんな出勤ですよね?」
 リーディア、ちょうどやって来た橘鉄州斎(iz0008)を捕まえて聞いてみた。
「そうだが。‥‥ああ、あいつは寝込んでるからって、真世が言ってたぜ」
 袖にきらめくカフスをしっかり固定し直しながら、ホストの鉄州斉が応じた。口の端がニヤニヤと崩れている。鉄州斉を贔屓にする女性客がこの場にいたら、リーディアには嫉妬の視線が集まったろう。彼のこの表情を見るために、女性客はそれなりの努力や策謀をめぐらせていたりするのだ。
「ゼ‥‥、あの人、そんなこと一言も‥‥」
「そりゃそうだなぁ。何せ、あいつは気ままだし連絡も寄越さないからな」
 ゼロ(iz0003)だとは言い切らなかったリーディアだが、鉄州斉には手に取るように分かるらしい。
「寝込んでる‥‥大変じゃないですかっ! それになんで私に言わず、真世さんなんかに‥‥」
「そりゃ、付き合ってるのがバレないから‥‥って、あ〜あ、行っちまいやがったか」
 くらくらと落ち着きを失い真世を探しに行くリーディア。鉄州斉の言葉ももう耳に入ってない様子で。

――とん、たたん。
 やれやれ、と後ろで束ねた長い髪に手をやる鉄州斉の前を、フリフリ和服とその長い袖が舞うように横切った。
「え?」
 と、その姿が止まり振り向いた。突然後ろから声を掛けられたのだ。
「今日は何時もよりハードになるから飛ばすなと言ったんだ」
 その視線の先には、鼻から上を覆うマスカレードをつけた燕尾服の男が立っていた。ホストの竜哉(ia8037)である。
「分かりましたですよ、竜哉さん」
 ふふっ、と微笑むフリフリ和服の女性は、ホストガールのマーリカ・メリ(ib3099)。
「おい、俺は『D』で呼ぶようにな。それが通称だ」
「はいはい。分かりましたよ、『DICE』の『D』さん」
「違う。『DISTANCE』の『D』だ」
 再びびしり、と決める竜哉――じゃなかった、D。マーリカの方は、いつものこだわりに苦笑するしかない。
「実際、私たちは正体を知ってるんだから‥‥」
「ぶつくさ言わない。ほら、これを持って行って」
 Dに葡萄酒とチーズを渡され、からすに持って行くマーリカだった。


 さて、くらうど☆げ〜との店先。
「先輩、僕はこういうところ苦手ですよ!」
「出来る男はこういうとこで遊んで何ぼじゃ。ほら、これも新人研修。行くぜ」
 仕事が終わったサラリーマンたちだ。入店を嫌がったのはラシュディア(ib0112)で、強引なのが下駄路 某吾(iz0163)。
「いらっしゃいませ。‥‥あら、お久し振り。ご指名は如何なさいますか?」
「よっ、今晩も結い上げた髪が色っぽいぜ。‥‥早いから任せるよ」
 出迎えた白藤(ib2527)は、無防備な紺色のキャミソールドレス姿。下駄路は慣れた風だが、ラシュディアはこれだけで赤くなっている。
「では、私が‥‥」
「あ‥‥」
 白藤が席に案内し自ら接客し始めたとき、ラシュディアが声を上げた。
「あんな子供が」
「あら、コクリちゃんをご指名?」
 そういうわけでは、と言うラシュディアの言葉に背を向け白藤が立ち、むっつりして歩いていたコクリを呼んだ。
「コクリちゃん、笑顔を忘れずにね? 笑顔で人を癒せるから」
 エッチなことをされたのだろう。目の端の涙を拭いてやると、ぎゅって抱き締めて落ち着けてやった。そして、ラシュディアの隣に案内する。
「コクリっていうんだ。宜しくな。‥‥酒も飲めない年なのに、こんなお店で働けるなんて凄いな。でもお酒のことを聞かれた時にどう答えるんだ」
 おっかなびっくりで飲んでいたラシュディアだが、コクリ相手では口が回った。新社会人になったばかりの彼。もしかしたら、そういう立場で光るのかもしれないと下駄路は見る。
「ボクはそういうの、お客様に教えてもらったから」
「はは、なるほどな」
「‥‥なるなど。ラシュディアはロリコン、と」
「ち、違いますよ、下駄路先輩〜」
 ‥‥違うらしい。

 さて、からす。
「少しの間、ご一緒してもよろしいかしら?」
 葡萄酒とチーズをやりながらのんびりしていると、来店客から声を掛けられた。落ち着いた声だ。
「わたくし、ここが節目だと聞いて久し振りに寄ったんですよ」
 にっこり笑ってからすの隣に座る鷹来折梅(iz0056)。訪問着をしっとり着る年配女性であるが、立ち居振る舞いは若々しい。
「何か縁でも?」
「ええ。私たちの青春でした」
 聞くからすに、折梅はまるで宝物を抱えるかようににっこりと会釈する。からす、その様子から「弦楽器か」と得心する。
「これは折梅さま。いらっしゃいませ」
 そこへ、ホストの鷹来沙桐(iz0055)がやって来た。黒い服に、紅いシャツ。ネクタイはせずに、太いチョーカー。くだけた感じと引き締まった感じが、彼そのものを表している。
「あら、久し振りに聴きたいわね」
 折梅の言葉で、からすがバイオリンを取り出し、沙桐がピアノについて緩やかに演奏を始めるのだった。
 ちょうど客も増え始めていた。


 そして、また店先。
「ううむ、妾はこの様な場所に来るのは初めてじゃ」
 カツ、とレースアップブーツの踵が鳴り、ひさしの大きなボンネットが揺らめく。
 うろうろと逡巡しているのは、リンスガルト・ギーベリ(ib5184)。白とピンクのふわロリドレスが悩むように何度も揺れる。
「お嬢様、いかがなされました?」
 さすがに見かねて、ホストガール‥‥なのだが、執事服で男装している少年ホストのリィムナ・ピサレット(ib5201)が声を掛けた。
「いや、妾は別に‥‥」
「では、一緒に素敵な時間をどうぞ」
 リィムナはリンスガルトの手を取った。
「ふむ、筋の良い‥‥きゃっ!」
 リンスガルト、慣れない靴をは‥‥いや、ちょっと油断してバランスを崩した。
「‥‥あ」
「今の可愛い悲鳴は、もちろん聞いていませんでしたよ?」
 地面に倒れるかと思ったが、リィムナの胸の中。息も温かいほど近くでささやかれ、そして極上の微笑み。リンスガルトは真っ赤になってリィムナの腕の中できゅうって小さくなる。そのまますっとすくわれ、お姫様抱っこ。
「では、こちらに」
 席に案内し座らせる。
 リィムナの役目は、ここまで。案内役の仕事に戻る。
 と、抵抗を感じた。
 振り返ると、リンスガルトがリィムナの袖をつかみ、腰砕けのまま上目遣いで潤んだ視線をしていた。う〜、と言葉にならない願い。
「かしこまりました。お望みのままに」
 座るリィムナに、歓喜の抱きつきをするリンスガルト。そのまま顔を胸にうずめる。髪に、優しく触れる手を感じる――。


 代わりに、西渦(iz0072)が案内役に立つ。
「くらうど☆げ〜と‥‥」
「ん、どうしたの?」
 店名を見上げる少年風の客を見て、西渦がちょこんと腰を屈めた。
「確か、あるネットゲームの中の高級ナイトクラブと言えば100日通いをすると何かいいことがあったはず‥‥」
 あの、琉宇(ib1119)さん、それは無茶振りですよ?
 しかし、西渦は凄腕の案内役。
 次の瞬間、とんでもない発言をするッ!
「ええ。もちろん、100日通いをするとよいことがあるわよ?」
 ちょっと、西渦さんあなた何勝手なこと言ってんですかっ。
「本当? 称号や朋友がもらえるとか」
「それはないけど、もっといいことがあるわよ?」
 うふふ、と人差指を口の前で立てる西渦。「ホント? それなら」と琉宇、入店。
「どんないいことがあるのかなぁ?」
 わくわくの琉宇。ここで、きょろと周りを見る西渦。遠くで目の合ったホストガールの東湖(iz0073)がびくっ、と嫌な予感に身を縮める。
「あ、東湖。コクリと代わって」
 ほっ、と安堵してラシュディアの席に行く東湖。代わりにコクリが来る。ごしょごしょと耳打ちする西渦。え〜とかコクリが言うが、ごにょと付け加えて納得させる。
「ねえっ、どんな‥‥」
 期待する琉宇。と、その口をコクリが塞いだ。ちゅっ、と甘い音がしたとかしないとか。
「つ、続きは100日後だからね‥‥」
 真っ赤になって消え入りそうな声で言うコクリ。
「うん‥‥。コクリさん、だね。ソフトカクテル、一緒に飲もう?」
 仲良くソフトカクテルを飲む琉宇とコクリ。
 西渦、凄腕の案内役である。


 ところで、くらうど☆げ〜とはカウンター席も充実している。
「よお、ゼロ。寝込んでたんじゃなかったのか?」
「なんだ、竜‥‥じゃなかった、D。寝込んでたのは俺の妹だぜ?」
 女性客の相手を避けたむろしていた竜哉が、遅れてやってきたゼロ(iz0003)に手を上げ挨拶した。ホスト衣装のゼロの方は、怪訝な顔つき。
「真世がそう言いふらしてた。リーディアなんか心配してたぜ」
「あの娘は‥‥」
 カウンターに寄りかかりながら、そんな話。まだ指名してない女性客は、すらっとした姿で立ち話するホストたちを見てはきゃいきゃいしたりするのだ。
「ふうっ。‥‥やはり俺は裏方が合うな」
 ここで新たに、琥龍 蒼羅(ib0214)がやって来た。執事服姿で指名を受け、女性客と飲みながら談笑した後だったりする。
「何よ。いつもより表情も出てたし、口調も柔らかかったからお客さんも喜んでたじゃない」
 ホスト服、というか、宝塚的の格好をしている羽柴麻貴(iz0048)がやってきて突っ込んだ。
「手も握られてたし」
「弱ったもんだ。‥‥が、音楽の話になったのでな」
 弾んだ会話の理由をそう説明する。
「じゃ、蒼羅。後で付き合って」
「シャンソンか、麻貴?」
 悪くない、と下がる蒼羅だった。
「‥‥今日は客が多いんだ。人手が足りないから蒼羅に出てもらったんだがな」
「では、客から引き抜きましょう」
 ため息をつく竜哉に、エルディン・バウアー(ib0066)がにこにこ微笑しながら寄って来るのだった。
「そりゃ面白ぇな」
 くつくつとゼロが笑った時だった。
「さぁて、ゼロのメイド服姿を指差して笑ってやるかな」
 そんなことを言いつつ、劫光(ia9510)が来店していた。
「いらっしゃいませ。ご指名などは‥‥」
 フリフリの白いバルーンスリーブのシャツ姿の東湖が聞いていたのだが‥‥。
「あそこで笑っている劫光殿を何とかしちゃいましょうか」
 さわやかに言うエルディン。早速行動に移るゼロ。
「‥‥ごめんなさい。お客様にご指名が掛かったようで」
「おいっ!」
「お前は黙って俺についてくりゃいいんだ、劫光」
 東湖の前を横切り、劫光を連行するゼロ。
 のち、更衣室から出てくる二人。
「‥‥どうしてこうなった?」
「ぐちってんじゃねぇ。ほら、ご指名だぜ」
 劫光、なんだかんだで臨時ホストに。


 次に来店したのは、千代田清顕(ia9802)。ピンストライプのスーツがシャープな、会社帰りのエリート社員だ。
「やあ百合さん。今日も綺麗だね」
 今日も西光寺 百合(ib2997)を指名。深紅の深スリットドレスでやってきた百合を早速褒める。
「‥‥私ばっかりに構ってくれなくてもいいのよ?」
「百合さんの黒髪に、黒い長手袋と黒いピンヒールはとても合うね。結い上げた髪に赤い羽飾りもまとまりがあって良い」
「また千代田さんが冗談ばっかり‥‥」
 かわす百合だが、清顕は構いまくり。
(千代田さんは優しいから、接客が苦手な私を気遣ってくれているのかも)
 そんなことを思って切ない気持ちになる百合。その恥じらい交じりの様子がまた魅力的で。
「ボトルの追加頼めるかい。‥‥ご褒美にそろそろ営業時間外も付き合って欲しいものだけど」
「え?」
「君も飲みなよ。たまには酔って、しなだれかかってきてくれると嬉しいね」
 こっそり腰を抱く清顕。びくっ、と伸び上がるような反応に「おや?」とも思うが、顔は耳まで真っ赤で瞳をウルウルさせて恥かしがっている百合を見て気分を悪くする男がいるだろうか。
「薄暗い店内で見る君も綺麗だけど‥‥たまには日の光の下で君を見てみたいものだね。知ってるかい? 桜が満開だって」
「ええ、桜は奇麗ですよね。‥‥私と違って」
 そっぽを向いた。寂しげな印象がある。そんな様子を愛おしく思うのは、自然だろう。今日の今まで控えめだった清顕の表情が変わった。
「‥‥今のデートの誘いなんだけど、分かってる?」
 細い顎に指をかけてこちらを向かせてから、すっと口を真っ赤な耳元に。こそっとつぶやく。
「で、デート‥‥?」
 また冗談を、とも思う百合だが、こう近寄られては顔を横に振れない。
 遠慮がちに、縦に小さく頷く。
 そしてそうすることで、自分の中の嬉しさを改めて感じ胸に温かさを覚える百合だった。


「あらぁ。まあ、紫狼さんじゃない。今日は特にいいわねぇ」
 マオが出迎えたのは、ここの出資者の一人、村雨 紫狼(ia9073)だった。さっぱりと短髪で決めている、IT系ベンチャー企業の若社長だ。
「よ、マオさん。いい男はいるかい?」
「いるわよぅ。目の前に」
「はは。眼福までにしといてな」
 紫狼、慣れている。
「よ、白いスーツ姿じゃねぇか。『俺のためにある』って感じにキメてんな」
「俺もイタリア産だからなぁ」
 カウンターでゼロと軽口を叩き合うと、真顔に。
「これは。引き抜いてもらって感謝ですよ」
 そこへ、エルディンがやって来た。
「ああ。‥‥それより、あそこの彼女に似合うカクテルを」
「指名だな。俺が呼んで来よう」
 ゼロが真世を呼びに行く。真世のお尻を叩いたのは、リーディアを困らせたお仕置きである。
「こんにちは、紫狼さん」
「紫狼殿からの注文です。可愛らしい春の花と暖かな陽射しのような貴女にどうぞ」
 真世がスカートの裾を整えつつやって来た。シェーカーを置いたエルディンが、紫狼に視線を送ってから真世にグラスを差し出した。
「へえっ、桜の花びらがのってる〜。甘くって、ほんのり酔いそう」
 苺みるくのリキュールにうっとりする真世。
「真世さんにぴったりだね。夢の世界のお姫様にふさわしい」
「ああん。それなら紫狼さんは夢の世界の王子様ですよぅ〜」
 紫狼はシンガポールスリングをやりながら、きゃいきゃいいちゃいちゃと。
 と、ここで紫狼、なにやら取り出したぞ。
「わあっ、何コレ?」
 途端にダイヤモンドのように輝く真世の瞳。
「王子様には、お姫様がいる。皆に向けるその笑顔を、僕だけのものにしたいんだ‥‥真世さん」
 何と、時価ン千万円の指輪を取り出し、プロポーズ。
「ええええ〜」
 あまりの展開に目を回す真世。くらくらふらふら。
「今日はお疲れのようです。ここまでで」
 見かねた竜哉が、仮面の下から目蓋を閉じ会釈して真世を下がらせた。
「フラれた、かな」
 カウンターに膝をつき掲げたグラスに、己の顔を写す。歪んでいた。傷心もあるだろう。あるいは、清顕のようにもう一押しが不足したか。
「もっとおバカで積極的な自分なら‥‥エルディン君、傷心に効くカクテルはあるかい」
「これを‥‥」
 エルディン、真世に出したカクテルを出す。
「名は、『陽光』。桜は散れば、次は力強い新緑を枝に宿します」
「花はまた咲く、か」
 ならばおバカでも、と思ったか。表情に余裕が戻り、一気に干す紫狼だった。
 一方の、真世。
「こういう仕事はね、感情移入しすぎると駄目なのさ」
 竜哉にそうささやかれていた。


「こんばんわ、コクリ」
 今度は、セーラー服姿で長い髪をなびかす人物が入店した。コクリを指名である。
「お店が再会して僕、ほんとに嬉しかった‥‥。会えない間も、ずっとコクリの事考えてた」
 天河 ふしぎ(ia1037)である。
「ボクも、ふしぎさんのことを考えてたよ」
「わあっ、嬉しいな。ほら、腕のいい船乗りは一緒にいなくても分かり合える、感じ合えるっていうじゃない? 晴れの日には夜勤明けでも頑張って起きてて、散歩したりしてるじゃないかなぁ?」
「わ、当たり。すごいね、ふしぎさん」
「そりゃ、コクリのことだから」
 にこにこきゃいきゃいと弾む会話。
「そういえばボク、変な夢を見たんだ」
 恥かしがってからコクリが切り出した。内容は、「ボクとふしぎさんが家族で‥‥」とか。
「あ、僕もそれはずっと感じてたよ。初めてあった時から、不思議な繋がりを感じたんだ‥‥まるで離ればなれになってしまった、魂の双子のような、だからつい何度も」
 コクリの手を取り、優しく包む。
 見詰め合う、瞳と瞳。
 頬を染めたのはどちらが先か、今ではどちらも羞恥より期待に染まっている。
「僕には、コクリが僕には特別に思えて‥‥」
「ボクも、ふしぎさんが姉様のように‥‥」
 胸を合わせ抱き合うが、ここで「ん?」と離れる二人。
「‥‥ぼっ、僕は男だっ!」
 なんとふしぎ、男だったッ!
 衝撃の事実(笑)はしかし、グラスが倒れ服を拭うコクリの健気さにうやむやに。
「だったら兄様だね」
 にこっと笑うコクリ。
「僕は、船乗りの正装だと聞いたから‥‥」
「はいはい。小さくて胸の下までしか丈がないけど、ボクの代えの服でいいよね」
 女装は免れる(?)ふしぎだった。


「すまないが、後頼む」
 ツートンの背広に三角帽子を被ったホストの真珠朗(ia3553)がカウンター席に連れて来たのは、良家の娘然とした柚乃(ia0638)だった。
「分かりました」
 エルディンは極上の微笑とともにシェーカーを構えた。
「エルディン、手伝おうか? 1人で大丈夫なら調理場に戻るが‥‥」
 そこへ、腕まくりしたYシャツに緩く黒ネクタイを締めた常磐(ib3792)がやって来た。「おや」とエルディンが瞳を細めたのは、黒ズボンの前にエプロンをしていなかったから。
「いや、このお嬢様に甘味を‥‥。そして、どうぞ」
「わあっ、可愛らしい♪」
 喜ぶ柚乃の前に、チェリーののった赤いカクテル。
「‥‥華やかな味。アルコールはないんですね」
「『紅の癒し』。‥‥額の飾りが素敵です。それにちなんでみました」
「まあっ。伊邪那、お前も飲む?」
 柚乃、気に入ったようで天使の笑顔。こっそり連れて来た管狐に好きにさせる。

 さて、厨房に下がった常盤は?
「おい、つまみ食いするな! 食いたかったら待合室で待ってろ。賄い持って行ってやるから」
「なによぅ。‥‥そりゃ紫狼さん、好きよ? でも、いきなりだったから」
 甘味のやけ食いをしていた真世に注意していたり。
「お疲れ‥‥。待合室で待ってたらどうだ‥‥?」
 戻っていた千草も勧めたため、ようやく真世を追い出すことに成功した。
「直ぐに出来る物なら野菜スティックとかチーズやフルーツの盛り合わせだな‥‥あとはあっさりした物ならお茶漬けか?」
 千草と打ち合わせする常盤の後ろで、シャンソンを披露していた麻貴と蒼羅が戻ってきた。忙しそうな真夢紀を心配する。
「真夢紀さん。皿洗い、手伝いましょうか?」
「大丈夫ですよ、麻貴さん。夕方にちゃんと支度をしてたし、作り置き出来るサラダなんかはある程度作ってましたから」
 真夢紀、常盤と組んでよい仕事をしていたようだ。
「まだ学生なのに凄いな、真夢紀は」
 普段、お世辞などは言わない類の蒼羅が感心して声を絞り出す。
「稼ぐのは大変ですけどバイト代良いですからね、ここ」
 えへ、と笑顔を見せつつ手を止めない真夢紀だっり。


 さて、店内は盛り上がってきている。
「い、今のはどうやったでござるか!」
 客のスティーブ・クレーギー(iz0192)が両手を広げて不思議がっている。って、スティーブさん、こんな夢世界でもすってんてんの普段着ですか!
「ちょっとした手品ですよ〜」
 マーリカは、グラスの表面を氷樹で飾ってみたり、飲み物の表面をパチッと小さなサンダーを弾けさせて驚かせたり。生き生きとした笑顔は、傷心気味ブロークンハートのスティーブの表情を明るくさせた。
「思い切って入って良かったでござるっ」
「あらっ、何かあったんですか?」
「春殿‥‥いや、気になる女性とうまくいかないのでござる」
「それでこんなところで女性と遊んでるんですか〜」
 マーリカ、いぢわるっぽく身を寄せてみた。慌てて距離を取るスティーブ。
「いやいやっ。拙者、社交性を高めようとしただけで‥‥」
「お疲れならちょっとだけ休憩されてもいいですよ? 肩に寄りかかっても、膝枕でも‥‥」
「め、滅相もないでござるっ!」
 スティーブさん、あなた何しに来たんですかい!
「ふふっ。素敵な恋をされてるんですね」
「ああ、いかんでござる。世の中こんなに優しさに溢れていたとは‥‥」
 帰るでござる、とスティーブ。どうやらまた片思いと向き合う元気が出たようだ。
「私も、『また会いたい』ってコッソリ約束できる人がいたら素敵なのに」
 見送るマーリカがこぼす。‥‥彼女の好奇心が恋に向かう日は、あるいは近いか。

「‥‥こりゃ、今日は特別可愛らしい娘に当たったなぁ」
 スティーブが明日に向かって走っているその手前のソファで、葛城 深墨(ia0422)が照れ困っていた。
「あたしも今日は退屈しなくて楽しいかな?」
 堂々言うは、伊鈷(iz0122)。見掛け11歳。
「ま、まったり、ゆっくり、美味しいお酒が飲めれば」
 深墨、今日もマイペースだ。
「あたしは、深墨と違って酒は飲めないが‥‥」
「ああ、いいんだよ。やっぱり可愛い子のお酌だと美味いよね」
 と、ここまで言ったところで深墨は固まった。
 何と、遠くにいた西渦と目が合ってしまったのだ。
「ま、まずい‥‥」
「どうした、深墨。ほら、取って置きの芸をしてやるから醒めた風な顔はよせ」
 青くなったのは、以前西渦に「あなたの好きなあの娘に言いつけるわよ?」と釘を刺されたことがあるから。西渦の実行力は、コクリが犠牲?になった件でも明らかだ。どうする? 伊鈷といちゃらぶしてるのがバレたぞ。ロリコンだと言いふらさせるかもしれない。
「‥‥それにしても、馬子にも衣装ってヤツだなぁ」
 って、つぶやいてる場合ですかいっ! ていうか、それ聞こえたらロリコン吹聴決定ですよ?
「深墨、どうした?」
「ああ、なんでもない。それより伊鈷さん? 女の子が喜ぶことやものって何だろうね?」
 寂しそうな伊鈷に、優しい言葉を掛けてやる深隅。どうやら内緒にしてもらう道は諦めたようだ。この影響がどうでるか楽しみである。


「はい、フルーツの盛り合わせとガトーショコラだ」
 常盤が柚乃にスイーツを持って行ったときだった。
「来たのなら、指名します。Dさん、宜しくお願いしますね」
 すっ、と仮面の男がその場を離れ、代わりに執事服を着崩し胸元を開放的にしているホスト、興志王(iz0100)がやって来た。
「おお、柚乃じゃないか。‥‥相変わらず甘味好きだなぁ」
「一緒に食べましょう」
「やれやれ。趣味じゃないが、常盤の斬新なのだろう? 流行るかも知れんのならいただくぜ」
 興志王、相変わらず包み隠ししない。
 そのままたわいのない話となるのだが‥‥。
「う〜ん‥‥実は何か悩み事があったりとか?」
 柚乃、兄を心配する妹のような表情で聞いてみた。この必殺技には興志王も真顔にならざるをえない。
「悩みがねぇほどバカじゃなし、悩みを悩みとして抱えない賢者ってのもつまらんもんだしな」
「一人で抱え込むのって‥‥とても苦しくて辛いですよね。でも、時には差し出される手に頼るのもいいと思うの」
 ここで興志王、ふっと笑った。
「すまねぇな。他店からの引き抜きがあったんだが、柚乃と話して悩みは晴れたよ」
「え?」
「可愛い妹分がいるんじゃあ、この店から移れない、ってな」
 差し出された手の甲にキスをする興志王だった。
 と、ここでホストガールの御陰 桜(ib0271)がやって来た。
「興志ちゃん、いつもの男性からご指名かかってるわよん♪」
 なんと、興志王をちゃん呼ばわり。胸元と背中が大きく開いた赤いシルクのドレスがふわりと扇情的になびく。
「桜、すまねぇな。‥‥あいつか。あいつもここの常連だら、なおさら移れねぇなぁ」
「じゃ、私も行きますので移りましょう」
 桜に連れられ移動する二人。
 そこには、大きな男がどっしりと座っていた。
「ここは将棋サロンじゃねぇんだがなぁ」
「好敵手がいる。打つ理由は他にいるまい」
 呆れる興志王の前に、将棋盤とここの大口客の巨勢王(iz0088)。
 どうもこの二人、競争ごとが好きなようで。
 ぱちん、と差し始めると、すすっと寄って来た人物がいる。
「今日も拝見させてもらいますよ」
 客として来店している大手商社の若き幹部、調(iz0121)である。
 どうも二人の勝負、ここの名物でもあるようで。


 そして、嵐が訪れたッ!
「さ〜、今夜はダンサーはお休みっ。遊ぶときは自分が思いっきり楽しむよ! 綺麗どころの女の子片っ端から指名するんだからっ」
 胸と腰以外は透け透けの舞台衣装でやって来たのは、アグネス・ユーリ(ib0058)。
「うちも美人さん囲まれとぉおすぇ〜♪」
 そして、黒ゴスロリ完全装備でどこぞのホストガールですか状態の静雪 蒼(ia0219)も一緒だ。 かつん、とぽってりした黒革靴を鳴らす足は、黒ニーソで絶対領域の白い肌が目にまぶしい。
「いらっしゃいませ」
 まずは、リーディアが指名された。その横で蒼が次々指名している。
「リーディア〜、こっちこっち。今日も可愛いわね♪」
 アグネス、おいでおいですると早速なでなで。
 と、ゼロの視線に気付いた。
 ふふん、と勝ち誇るアグネス。リーディアの腰に手を掛けぐっと引き寄せると、ふっと耳元に息を吹きかけたり。「ああんっ」と肩を竦めるリーディアの様子に、ま、よろしくやんなという感じのゼロだったが、ここでさしものゼロも目をひん剥いた。
「リーディアはん、久しいなぁ〜」
 何と、蒼がリーディアの頬にキスしてるではないかっ!
「ゼロさん、こちらお願いね」
 当のゼロは折梅とからすに呼ばれている。「ほら、行くわよぉ」と一緒するマオに連行されたり。っていうか、従業員はおろか客にまでモロバレっていう職場恋愛はどうなのよ? しかも当事者二人はばれてないって信じてるのがまた。
 閑話休題。
「ああ、気持ちええなぁ。‥‥東湖はんも可愛おすえ?」
「はい、蒼さんも可愛いですよ」
 右に座った東湖の酌で、かぱっとあける蒼。ついでに肩を抱く。
「蒼さん、飛ばしすぎじゃないかな?」
 けらけら笑う蒼の左に座ったコクリが心配そうに声を掛ける。
「コクリはんは、心配せんでもよろしおすえ。うちが、しっかり婿に迎えますえ」
 蒼、今度はコクリに両手を回して抱きつきキスをした。‥‥キスをした。そりゃもう、ぶちゅ〜っと押し倒しながら。
 ちなみに蒼、すでに100日通いを達成しているとか。って、長すぎでコクリが腰砕けになってますよ、蒼さん。
「は〜い、マーリカも麻貴も西渦もいらっしゃ〜い♪」
 次々呼び出すアグネス。
「ええっと、今日も最後は膝枕ですね?」
「そうそう。マーリカ、分かってる〜」
 どうやらマーリカ、アグネスにホステス根性を磨かれたようで。
 それはそれとして、アグネス。普通に舞台に立っても派手だが、客としてもやっぱり派手だったり。


「あら。あちらがうらやましいの?」
 はっ、とラシュディアが我に帰ると、男装麗人のホストガール、シルフィリアがすらりと立っていた。胸元の白い肌が、まぶしかった。
「そ、そういうわけじゃ‥‥」
 自己主張する胸の盛り上がりと谷間に、ラシュディアはくらくらだ。
「次を開けましょうか?」
 何とシルフィリア、その胸元から手品のように栓抜きを取り出したではないか。
「い、いや。そうじゃないんだ」
「ロリっぽいのをご指名だとよ、このお兄さんは」
 わっははと下駄路。「あら、それじゃ」とシルフィリアは竜哉を呼んだ。
「仕方ない」
 すすす、とサインプレーのように指を動かす竜哉。これで指示は完了だ。
「じゃ、あたしが来てあげたよ?」
 代わりに幼い伊鈷が来た。これでラシュディアも一安心。‥‥ですよね?
「明日からが楽しみだなぁ」
「下駄路先輩、言いふらすのはなしですよ?」
「もう遅い。今の電話で向こうの同僚にも聞こえたなぁ」
 にやにやと携帯電話から耳を離す下駄路だった。
「ドンマイです、ラシュディアさん。明日はきっと良い事ありますから! あ、エルディンさんカクテル2つお願いします」
 白藤がラシュディアを元気付け、ちょうど給仕ワゴンを押してきたエルディンに注文したり。

 そして、伊鈷のいた深墨の席には、桜が回っていた。
「今晩は、桜です」
 にっこり笑顔の19歳、ぼん・きゅっ・ぼんのないすぼでー。
「桜さんは、あっちはいいの?」
「お客さんこそ、ああいうのはいいんですか?」
「ま、ああいうのも羨ましいけどねー」
「おかわり、いりますか?」
 桜の、ざっくりさらした肌はとても奇麗だ。伏目がちにしていると、どこを見ているのか疑われるぞ?
「‥‥こ、恋人とか、いるの?」
「今はいないですよ?」
「どういう人がタイプなのかな?」
「優しい人がいいです」
 この間も、双方酒が進む。桜、酔わない。淡々と会話が進む。
「じゃあ、趣味は?」
「こ、この子と遊ぶ事です」
 真っ赤になってもじもじしてから、携帯電話を差し出す。ばば〜ん、と愛犬桃のどアップが待ち受け画像となっていた。
 この様子に、深墨もノリ始めた。会話が踊る。いちゃいちゃきゃいきゃい。
 どうやら、深墨のロリコン扱いはなさそうだ。


 そして、新たな悲劇が。
「あ〜、男どもの嫉妬の視線が楽しいわぁ」
 けらけら笑う蒼はいいとして、この後のアグネスの発言が発端だ。
「あらっ、劫光がホストしてるじゃない。お〜い、お酒切れた〜」
「はいはい、全くなんで俺がこんな事‥‥」
 なんだかんだ言いつつ、酒を持ってくる劫光。
「あ〜っ、こぼれた〜。劫光、お絞りとって!」
 アグネス、劫光を顎で使いまくりだ。
 いや、彼女を忘れていたっ!
「劫光はん、拭いてくれへんのん?」
 足に酒をこぼした蒼が、ほら、と黒ニーソの足をふりふりと投げ出してきている。
「なんで俺が?」
「ホストはん、宜しゅうに」
 艶笑み浮かべて、ノーとは言わさない蒼。
 くっ、と傅き細い脚の汚れを拭く劫光。
――あれ、ちょっと待った。
 これって役得では?
 って、え?
 そんなわけない?
「なあ、アグネス」
「なに、劫光?」
「俺と一緒なら、ここじゃなくても夢を見させてやるぜ?」
「きゃ〜っははは、面白ぉい。どこでそんな冗談を覚えたのぉ」
 ほら、な、と劫光。どうやら本当に役得ではないようで。
 ここで、シルフィリアがこの席に来た。
「まあっ、カッコいいじゃない。シルフィリア」
「ありがとう。皆さん、頑張ってくださいね」
 シルフィリアは投げキッスとともにそういうと、なぜか胸の谷間から花束を取り出していた。そして席の女性に一輪一輪配って歩いたり。
「それじゃ、真夢紀ちゃんを労ってくるわね」
 賑わう店内から、再び裏舞台へ。


「どうしたんスか。いつもは笑顔の素敵なおぜうさん」
 控え室で声を掛けられ、真世は顔を上げた。
「真珠朗さん‥‥」
 真世の顔を見た真珠朗、う、と苦い顔をした。
 明らかに、疲れていたのだ。
「深夜のお嬢さんは、何が飲みたいすか? おぢさんが奢ってあげますよ? ついでに、あたしの胸に飛び込んできてくれても構いませんよ?」
「んもう、バカ」
 真珠朗が微笑んだのは、真世が笑ってくれたから。
 そのまま、真世の隣に座る。
 ‥‥。
 ‥‥‥‥。
「真珠朗さん、お仕事いいんですか?」
「正直、人様を楽しませるとーくって苦手なんすよねぇ」
 遠くを見るようにする真珠朗。
「私だって、得意じゃないよう。現に紫狼さんに‥‥」
 どうやらまだ引きずっているらしい。
「だから言いましたよ? 話さずとも、あたしの胸に飛び込んできてくれてもか‥‥」
 それ以上、言わさなかった。しっとりと真世を受け止める真珠朗。胸元に、ぎゅっと服を掴まれる感触があった。泣いてはいないようではあるが。
 しゃっ、とカーテンを閉じる真珠朗。顔上げる真世。見詰め合って、瞳を閉じて、近くなる唇と唇――。
――がちゃり。
「お疲れ様でした、ゼロさん」
「おいおい、リーディア。まだ仕事は終わってないぜ?」
 控え室に、ゼロとリーディアが入ってきた。飲み物をゼロに差し出すリーディア。
「いいんですよ。真世さんによると、ゼロさんは寝込むほどの病人なんですから」
「あいた。‥‥お前に直接連絡して周りに付き合ってるなんて知られるのもと思ったんだが、悪戯好きの真世はまずかったな」
 知られてないと思ってるのは二人だけですよ?
「あの、私ね?」
 ここで、リーディアが口調を変えた。
「接客も楽しいですけど、一度はお客側になってみたいものですね」
 くすくす笑うリーディア。
 その気配を、カーテンの反対側で真世と真珠朗が聞いている。
「‥‥その時は、独占してもいいです?」
「ああ、構わないぜ」
 どきどきするリーディアの気配が、真世と真珠朗に伝わってくる。
――キス、するのかッ!
 この時、とんでもないことが起こった!


――ばちんっ!
 世界が、闇に落ちた。
 突然の暗闇に、店内で悲鳴が上がる。
「やだっ、誰か触った〜」
「俺の仮面がッ!」
「コクリはん、離れんといて」
「3三成桂」
「1三玉」
「やぁん、服が脱げた〜」
 一部以外パニックになったが、すぐに非常電源が点灯した。
 店内は、将棋を指していた二人以外はてんやわんやの途中だったという。
「店内でなくって良かったかしら」
 真夢紀に抱きつかれていたシルフィリアは、こっそり上にぽろりしていた豊かな胸を誰にも見られずにすんだという。
 そして、控え室。
「あはは、ゼロさんリーディアさん、やっほ〜」
「真世さんに真珠朗さん、やっほ〜」
 もうどうしていいか分からない四人。とりあえず秘密ということになったようで。
 そして店内。
「こらっ、伊邪那」
 どうやら停電の原因は、好きにしていた柚乃の管狐が配電盤で遊んだようで。
 そして、どうしていいか分からないの静寂。
 これを破ったのは、アグネスだった。
「トラブルなんかどんと来い。新装開店おめでとう。これからも楽しませてねっ!」
 おおっ、と、この日はじめて来場者が一緒に乾杯をするのだった。

 なんとかかんとか「くらうど☆げ〜と」無事に新装開店です。