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■オープニング本文 御前試合会場。 「な、なんだ?」 大観衆を前にちょうど戦っていた志士が振るった剣に起こった異変に首をかしげた。 「私の『炎魂縛武』の炎の燃え盛りっぷりの調子が悪い」 どうも剣に纏った炎の量と紅さに不満があるようだ。 「‥‥あれっ? 私の『神風恩寵』ももうちょっと普段は聞くんだけど」 「おかしいっ。俺の『荒鷹陣』はもうちょっとこう、もうちょっとこう‥‥」 「あれっ? 空気撃は効くんだな?」 どうやらスキルの威力が激烈に落ちているらしい。‥‥例外もあるようだが。 「いやまて、斬り付けたときの切れ味も落ちてるじゃないかっ!」 なんと、物理攻撃の威力まで下がっているらしい。 「なんだ? 新手のアヤカシの攻撃かッ!」 試合を中止し、周囲をキョロキョロと警戒する10人。 「いつの間にか、どこからか新たな知覚攻撃でも食らったかな?」 「ううん、そんな感じはなかったわ」 競っていたチーム同士だが、同じ被害を受けているとなれば協力する。 ――その時ッ! どごん、どごん。 「見ろっ! あれは何だッ!」 観客から叫び声が上がり、人々はそれぞれ指差す。 なんと、その先には別の世界で言うところのサッカーゴールが姿を現しているではないか。向かい合って二つ、ちょうどサッカーのフィールドの広さだ。 いや、それだけではない。 人の大きさをした、長方形の物体まで現れているではないかっ! そして、ぽぽんと一人が人型に姿になった。 「ごきげんよう、開拓者の諸君。我々サッカーアヤカシの挑戦状、受け取ってもらう」 冠を被り王しゃくを持った、偉そうな男性――後に、彼は自分のことを「皇帝(エンペラー)」と名乗った――が言った。 「‥‥ちょっと待て。えらく唐突でないか?」 「バカ野郎。話が進まないだろうがっ!」 開拓者の突っ込みに、ぽぽんと新たに人型となった男――小さな荷物をくくりつけた棒を担ぐ、「愚者(フール)」という男である――がいきり立った。 「まあまあ、説明しよう」 ぼぼん、と新たに姿を買えた男は、「隠者(ハーミット)」という。 いわく、いま開拓者たちが御前試合をしていて練力技の威力が落ちたのは、今現れた生態型拠点「サッカーゴール」の片方から発せられる「エエックスネブラ・パルス」という超音波の影響らしい。これは耳を塞ごうが効果があり、「サッカーゴール」を倒さない限り影響があるのだという。 さらに、開拓者の振るった武器の威力が落ちたのは、隠者の差し出した「サッカーボール」の散布する「ゼエッフル粒子」によるものだという。これは、「サッカーゴール」が倒れればサッカーボールへの攻撃が可能になり、倒せば消えるそうだ。 「ちなみに、『サッカーゴール』は『サッカーボール』を蹴り込むことでダメージを受ける。‥‥ただし、『サッカーゴール』はひねくれ者でな。正面より前から蹴られて、この中に入れなければダメージを受けんのじゃ。五点を入れると消滅するが、手を使った場合は、機嫌を損ねてダメージ゛を受けてくれんぞ?」 なんだそりゃ、な開拓者一同。 「とにかくお前ら、これを読めっ!」 愚者が一冊の本を差し出してくる。 「どれどれ‥‥あっ!」 本を手に取った開拓者は、頭を抱えて膝をついた。「どうした?」と仲間が駆け寄る。 「なるほど、これがサッカーか‥‥」 晴れ晴れと顔を上げる、膝をついた開拓者。本の内容を瞬時に理解したようだ。 にかっ、と笑うサッカーアヤカシ一同。 「つまり、我々とサッカーしようぜ、ということだな」 「うるせえっ、アヤカシなら今ここでぶった切ってやるっ!」 「ははは、我々はサッカーゴールを倒さないと切れんな。‥‥逆に、我々の守るゴールを倒せば我々は自動的に消える」 「‥‥俺たちの守るゴールが倒れたら?」 「お前たちの守るゴールは、『エエックスネブラ・パルス』を放つゴールの抑え役だ。それが倒れれば、『エエックスネブラ・パルス』の影響が天儀全土に渡り、アヤカシ天国に一歩近付くというわけだ」 ここで、観客席から一人の開拓者が颯爽と飛び降り登場した。 「そんなことは、俺たちがさせねぇゼ!」 ああ、君は11番目の戦士ッ! 「グッドッ! 人数を我々に合わせたということは、勝負を受けたということだな。それでは、キック・オフだ。‥‥こちらのゴールの影響の方が強いので、ボールは君たちだ。かかってくるがいい」 というわけで、開拓者11人対タロットカードの名前のついたサッカーアヤカシの親善‥‥じゃなかった。天儀の命運を掛けたサッカー勝負が、いま、キック・オフッ! ‥‥ご都合主義って言わないこと。 ※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません |
■参加者一覧
葛城 深墨(ia0422)
21歳・男・陰
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ
ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)
15歳・男・騎
ベルナデット東條(ib5223)
16歳・女・志
翠荀(ib6164)
12歳・女・泰 |
■リプレイ本文 フィールドに、静けさが渡った。 立つはカード型をしたタロットアヤカシ11体に、それに対峙する開拓者11人。 いや、開拓者の一人が膝をついて屈んでいるぞ? その人物は、手の平をのせていたサッカールールブックから今、手を離した。すっと立ち上がる。 「マニュアルは分厚くて良くわかんなかったけど‥‥わかりました、その挑戦受けましょう‥‥貴方達の野望、真正面から打ち破っちゃいます!」 びしりと敵を指差しそそり立つは、今日も元気でいつ忍ぶ、「自由に舞う花☆」ことルンルン・パムポップン(ib0234)。ひょうと渡った風が試合開始の予感を運ぶ。 「グッドッ! それでは紳士的に試合開始といこうではないか」 敵主将の皇帝が受けて立ち、ボールを投げて寄越した。 「さっかーさっかー! ボールはうちらだね? とことんあばれるよー!」 このボールを止めるのは犬の獣人・翠荀(ib6164)。元気にがおがおと息巻いている。 そして、ポジションに着く開拓者たち。 「サッカー? 聞いたことも無いが、要はそれで勝利すればアヤカシどもを倒せるのだろう?」 中盤の位置に下がるベルナデット東條(ib5223)が面を伏せたまま静かに言う。 「‥‥なら、勝利するまで」 上げた顔、大きく開いた赤い瞳に闘争心が宿る。 「深夜はそこ。コクリはそっちね。さて、と‥‥。あたしの見こんだ男の子の生き様、特等席で見ていてあげますか」 ゴールキーパーを志願した鴇ノ宮 風葉(ia0799)が最後列のゴール前まで下がる。 「はぅ‥‥えーと‥‥とりあえず手でボールに触らなかったらいいのですよね?」 風葉の前に位置するは、狐の獣人・ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)。 「ネプくん!」 「は、はぅ‥‥! 鴇ちゃん、頑張るのですよ!」 しっかりしろと声を掛ける風葉にも、とりあえず振り返って元気良くぶんぶん手を振ってごまかす。 「‥‥」 そんな中、雪斗(ia5470)が一人嫌な予感に額に手を添えるのだが、彼にも思うところはある。 「タロット師の端くれとして、聞いた以上は捨て置けんな‥‥」 改めて前を向く雪斗。どうやら敵が気に入らないらしい。というか、自分が退治に適任だと自覚している。 そして彼の背中を通り過ぎる男。 「さっかー? おぉ‥‥なんか、ちょっと面白そうだ。が‥‥」 癖っ毛をくしゃりと手でかき横目で敵を確認するのは、葛城 深墨(ia0422)。 「こんなのに天儀の命運がかかってるって思うと悲しいけどな‥‥」 敵は、ぽぽぽぽ〜ん、とカードの形から人の形に姿を変えている。今まで大規模戦などで戦ってきたアヤカシなどと比べるとふざけた手法で襲ってきたものだ。 そして、両陣営とも準備ができた。 ――ピピーッ! 審判が笛を吹き、ボールは翠荀からルンルンにちょこんと蹴り出された。 キック・オフである。 なお、両陣営のメンバーは次の通り。 ・開拓者チーム GK:風葉 DF:深墨 DF:ネプ DF:烈花 DF:コクリ MF:ベルナデット MF:前然 MF:真世 MF:雪斗 FW:翠荀 FW:ルンルン ・アヤカシチーム GK:吊るされた男 DF:世界 DF:死 DF:隠者 DF:愚者 MF:恋人たち MF:戦車 MF:正義 MF:皇帝 MF:力 FW:塔 ● 「行くよ、ルンりゅん!」 さて、ドリブルで切り込む翠荀。がっつり走って敵の守備をひきつけたところ、パスを出す。 「スカイくんとコープくんの伝説だって、私達の前では霞んじゃうんだからっ!」 翠荀とゴールデンコンビを組むルンルンが走りこんでいる。奔刃術ドリブルの切れは良く、地平線の彼方から来る‥‥もとい、次々やって来る敵をひらりひらりとかわす。 やがて敵の最終ライン。世界が立ちはだかる。 「よ〜し、天儀の歴史がまた一ページで真実は見えるかなのです!」 「ザ・ワールド!」 ルンルン、謎な気合十分だったがあっさり世界にボールを奪われた。 「はっ、いつのまにボールが‥‥。あっ、ありのまま今起こった事を話すぜ、なのです」 ズッ・ギャ〜ンと驚きの表情で世界を振り返るルンルン。しかし、真実は見えた。どうやら一瞬時を止められたようだ。敵の特殊能力である。 そしてボールは中盤の恋人(女性形)に。 「私、頑張るんだからっ」 「ラバーズッ!」 へろへろ弓使いの真世が突っ込むが、恋人の特殊能力は分身。壁パスのワンツーであっさり抜かれる。 そしてボールは力(女性形)に。 「ストレングスッ!」 前然が行くが、力の特殊能力は獅子を呼び出すこと。威嚇して隙を作ると、大きく左隅に蹴り出したッ! 「チャリオッツッ!」 その左翼を、戦車が行くッ。どうやら戦車(女性)の特殊能力は馬二頭立ての戦車を召還か。一気に左サイドを文字通り駆け上がる。 「相手の左に女性が多くて嬉しい、とか思ったけど、獅子に戦車に‥‥ってずるくねーか」 ぼやきながらも深墨が必死に追う。って、深墨さん。そういう下心があったのね? それはそれとして、戦車がざりざりと車体を横にして飛んできたボールを止める。どうやらハンド扱いではないらしい。 「ご苦労様です」 力が長い髪を撥ね退け優雅に下車すると、戦車は消えた。そして中央に大きく蹴り入れる。センタリングだっ。敵は塔がペナルティーエリアに入っているッ! オフサイドは無いぞっ。 そして、空中戦。 リベロのネプが下がるが、敵をマークする烈花とともに寄せきれてない。というか、根本的に高さで負けている。 「落雷ヘディング!」 塔、打点の高いヘディングシュートッ! 流すようにゴールの遠い上隅に流したっ。対するキーパーの風葉も背が低い。って、風葉さん。何座ってお茶飲みつつ茶菓子食べてるんですかっ! 「あによ、要するに球が入らなきゃいーんでしょ?」 きら〜ん、と風葉の目が光る。 そして、会場の全員が目を疑ったッ! ――どごん。 何と、ゴール隅の前に黒い壁が現れシュートを阻んだのだッ! これぞ鉄壁の守り。 「ナイス、風葉さん」 ぽーんと流れた球は逆サイドのコクリが押さえ、さあ、反撃だ。 ● しかし、敵の戻りは早い。コクリのロングパスは密かに回り込んでいた隠者に弾き返された。 「ここはきっちり攻めに繋ぎたいな‥‥。茨よ穿て、強かなる緑の護り手たる汝が意思をここに‥‥」 こぼれ球をキープした雪斗が中盤の底で戦線の再構築を図る。と、力が近寄っていた。 「‥‥鳴動しろ!」 地面から魔法の蔦が伸びた。近寄っていた力、ライオンを出す前に地べたに「きゃん」とひっくり返った。そのまま、よよよと泣き崩れる。 「力の逆位置は『立ち向かう勇気や情熱が失われること』‥‥。上手くいきましたね」 ふ、と微笑してルンルンにパス。が、彼女はマークされてるぞ? 「流石愚者‥‥そっちは私の影なんだからっ!」 理の分身で愚者をだまくらかし進むルンルン。そして右45度の遠目からシュート。 しかし、これはクロスバーからぷらぷらしている吊るされた男が振り子運動で反応。弾き返す。 「シュートチャ〜ンス」 こぼれ球には翠荀が瞬脚で走りこんでるぞっ。吊るされた男は振り子運動のタイミングを図りつつ待っている。 「わふわっふーっ!」 はしゃぐ翠荀。ここで暴れずしてどこで暴れるっ。破軍と疾風脚で決めるぜ、必殺シュートっ! ――ぼぐっ、ばさーっ! ピピーッ、とゴールの笛が鳴るっ。 「いやっふー!」 跳びはね喜ぶ翠荀。キャッチした吊るされた男ごと押し込む破壊力で、見事ゴールを奪った。 先制点は開拓者だ。 ――ピピ〜っ。 今度は、アヤカシからのキックオフ。 ゴール前まで攻め込まれ、またも塔に高いクロスが送られる。 「あ! 今ピカッって光った!!」 「落雷かっ!」 叫ぶベルナデット。この言葉でうろたえた塔。ボールは流れ正義の足元に。 「どうした? 隙だらけだぞ‥‥」 ベルナデットはさらに動く。心覆で殺気を消したスライディングで、正義からボールを奪った。華やかな一撃で、挑発の言葉も忘れない。 「貴様、正々堂々と正面から来ないかっ!」 背後で吠える正義の声がするが、これが正義だとばかりに聞く耳も持たないベルナデット。って、べるなさん。先の言葉といい、今日はえらく口撃的ですね? もちろん、アヤカシ側はその喧嘩、買ったとばかりにベルナデットに襲い掛かる。やばいですよ、べるなさん。 「受け取れ‥‥が魂を‥‥!」 早々にボールをパスして手放す手堅いプレー。しかも紅蓮紅葉の炎のパスだ。 狙ったのは、右の空きスペース。 走り込むは、人魂できっちり全体を見ていた葛城深墨っ。付いて来た死は審判から見えない位置で呪縛符の刑。置き去りにした走りで、いまがっちりトラップ。 そして、どうする? 上がってくるは前然に雪斗。恋人たちがこれに付いている。 「じゃ、貰いに行くか」 深墨、自ら中央に切り込んだ。慌てて世界が寄って来る。 そして、時間を止められたっ! ――ピピー。 審判の笛で、プレーが止まった。 何と深墨が倒れているのだ。しかも、ペナルティーエリア。 「上手いこと貰えたな」 にやりとする深墨。どうせ時を止められるならと、その瞬間を狙って倒れたのだ。 世界は激しく抗議するが、状況証拠から黒と判断されたらしい。フリーキックである。 深墨、これをきっちり決めて二点目ゲット。 ● そしてここで、まさかの事態が発生する。 「もう一発っ」 「しつっこいわね」 風葉の守るゴールが攻め込まれているのだ。 中盤はすれ違い様にアイヴィーバインドを張る雪斗とベルナデットの口撃で支配している。とはいえ、開拓者側のゴール前は、右サイドバックの深墨以外は背が低く非常に高さに脆かった。 「もう一発!」 「ちょっとネプくん、頑張りなさいよ」 風葉は黒い壁で敵のシュートを何度も弾くが、こぼれ球が拾えず滅多打ちされているのだ。ここで風葉、黒い壁の角度を変えて召還し、ネプの方向に弾き返す。 「はぅ」 スタッキングで健気に守っていたネプ。この好機に、ついに本性を爆発させるッ! 「ま、まさか」 会場全体が、ざわめいた。 一体、誰がこの事態を予想しえたであろう。 「相手ゴールまで突撃なのです!」 ネプ、棒立ちの敵を尻目にゴールへまっしぐら。 何と、自分の狐しっぽでボールを包んで走っていたのだッ! ――ピピー。ピ・ピ・ピーッ! 何度も鳴らされる笛。 「‥‥はぅ? 手は使ってないのですよー」 「バカ野郎。腰から上での非紳士的ボールコントロールはハンドなんだよ」 両手を広げて潔白を主張するが、アヤカシの正義から紳士道やらスポーツマンシップやらをとうとうと言い聞かされる羽目になる。ネプ。しっぽへにょん。 そして、この反則でPK。 ここで深墨は呪声でキッカーを惑わし、枠を外させる。 が、風葉の守りはカーブを想定して枠より広く壁を作る。当然、ラインを割らずに跳ね返る。そして、こぼれることを想定した敵の雪崩攻撃についに押し込まれた。2対1。 と、何だかボールが凄い勢いで相手ゴールに飛んでいきましたよ? 「あたしが格好悪い所を見せてちゃ仕方ない、か。‥‥覚悟なさい、これから一度たりとも点は取らせない」 渋々立ち上がった風葉の、怒りの精霊砲だ。当然、キックオフしてないのでプレーにはまったく関係ない。 これで、ネプもピリっとした。 のち、ゴール前に高い球が浮く。 「もう、高いボールを好きにさせないのですよっ!」 構えた雷同烈虎で走り高跳び。 跳躍一番、オーバーヘッドでクリアする。雄々しく決まった。 そしてオチ際、憎き(本人談・事情不明)恋人たちにズドンと踵落とし。 ――ピピピー。 当然、反則。 「はぅ‥‥。事故なのですよ?」 PKで2対2。 余談であるがネプ、のちに攻撃中に吊るされた男を吊るす紐を切り、オフサイドを取られたりも。 ● 恨みが恨みを呼び荒れる試合の中、深墨のプレーが光っていた。 敵からの、守備の最終ラインの裏をつくパスを止めたかと思うと、逆に味方にサイドチェンジなどスペースを突くパスを通したり。 「あほ毛は切らせな〜いっ!」 揺れる一本髪、翠荀のトリッキーな動きからの必殺シュートで、3対2。 右サイドが安定すると、中盤の底も落ち着きを取り戻した。 「皇帝とはいえ‥‥所詮裸の王様だな。気付いてないのか? 貴様へのパスが減っているぞ。信用されていないだろ?」 「主将のこの私に向かって何を言うかっ! 現にこうしてパスが‥‥ぬおっ」 冴えるベルナデットの口撃と奪い取り。 「我ながら、嫌な性格だ‥‥」 自己嫌悪しつつ、ワンツーから戦車をすっぱ抜いてロングシュート。威力十分。 「きゃんっ!」 敵のクリアボールが真世の顔に当たってそのままゴール。4対2。 「座ってお茶を飲むのをやめた途端、これね‥‥」 自陣ゴール前で腕組みしつつきりっと仁王立ちする風葉は、あまりの暇さ加減に思わずぼやいていたり。 「いやっふー。最後のシュート、いっくよ〜」 翠荀のシュートはバーに弾かれ上空高くに。 「こんな事もあろうかと、エエックスネブラ対応の新型コンバット忍法を憶えてきた私に、隙はないんだからっ」 ルンルンがこのこぼれ球に反応しているッ。ポストを足場に三角跳びでスカイハイ状態。長い滞空時間で伸身から上体ひねりをくわえてゴールを向くと、いま、大空に羽ばたく鷲のように両手を広げオーバーヘッドッ! 背後に太陽が被るっ。 「ルンルン忍法、太陽牙!」 言葉の意味はよく分からずも、とにかく凄い威力。 対するGK吊られた男もきっちり振り子運動を合わせるが、そもそも高角度対空防御は想定していない。 ずぎゃっ、と大地にめり込むボールは横振りの吊られた男の目の前。そのまま高く跳ねてゴールの天井ネットに突き刺さったッ! 5点目。 瞬間、全ての敵が消えた――。 ● 「鴇ちゃん、いっぱい頑張ったのですよ!」 「はいはい、格好良かったわよ、ネプくん?」 くすっと笑ってネプを撫でる風葉。 そしてくしゃりと癖っ毛をかく深墨。 ベルナデットはほっとした様子だ。 「楽しかったよーっ。またしようね〜っ」 翠荀は空に向かってさわやかに‥‥。 ――ん‥‥。 ここで、雪斗は目覚めた。 いつもの部屋。馴染みの布団。 「そういえば、御前試合の日だったな」 変な夢を見た、と頭を振る。そして、いつもの日課でタロットの山から一枚引いて今日一日を尋ねてみる。 星の、正位置。 「偶には、騒ぐのも悪くない」 良い日の予感に、笑みが漏れる。 のち、「そういや面白い夢見たよ〜。いやっふー」、「はぅ〜、見たのです〜」、「あによ雪斗。あんたも見たの?」、「私も見ちゃいました」、「嫌な性格になってたな‥‥」、「どういうわけか、普通にしてたなぁ」などと、出会う仲間と盛り上がることになった。 「やはり不思議な力がある物だと感じるな‥‥」 しみじみとタロットを胸に当てる雪斗だった。 御前試合は、もうすぐ――。 |