【南那】急襲!紅風馬軍
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/04/04 22:04



■オープニング本文

 泰国南西部はすでに春を迎えている。
 場所は、南那。
「親衛隊でもこれまで偵察中に紅風馬軍(コウフウバグン)とは数度遭遇していますが、敵はまだ強行には出てきていませんでした」
 その北西に位置する村の天幕で南那親衛隊の瞬膳(シュンゼン)隊長が簡易の椅子に座りコーヒーを飲みながら話している。作戦台の向こうに座る、深夜真世(iz0135)に話しているのだ。
「私なんかに丁寧な言葉遣いなんてしなくてもいいのに‥‥」
「手荒いのがお好きならそうしますが、我々は庶民の友でなくてはなりませんから」
 恐縮して呟く真世に、優雅に言う瞬膳。
「でも、瞬膳さんたちって兵隊でしょ?」
「平時の防衛戦力です。任務はむしろ庶民と接する時の方が多いですから、荒くれ者の集団では領地を預かる椀氏に圧政のそしりがいってしまいます。穏やかに統治するためには、我々が穏やかである必要があるのです」
 その代わり、強さや戦力を見せるために展覧試合や競馬を定期的に催しているというわけだ。
「平時の防衛戦力って‥‥」
「ここ南那は位置的にあまりに外れているのです。海路はぐるりと遠くなる位置取りで、陸の主要路からも外れている。農生産力が低いので特に豊かではなく、領地闘争をするのであれば戦略的価値は低く。さらに外部から攻略しようとした場合、東西の山地が難所となり、加えてアヤカシが多くいるので自然の要害となっています。防衛には北の街道を封じる城塞を守ればいいだけ。‥‥必要なのは、対空防御と高機動力を誇る陸上哨戒能力だけというわけです」
「でも、馬賊はその自然の要害を突破して来たんでしょう?」
「従って、敵の数は100を下るでしょう。賊ならではと言えます」
「じゃ、私たちを雇う理由は?」
 真世、しつこい。
 この問いに、瞬膳は涼やかに微笑した。
「閉鎖的な南那の風潮を崩したいのと‥‥」
「崩したいのと?」
 目を丸くして身を乗り出す真世。
「我々が小競り合いで負けた時、開拓者に汚名を被ってもらうためです」
「はあ?」
 さすがの真世も呆れた。
「言いましたよね、親衛隊は平時の防衛戦力であると。‥‥領地を守れば一時的な勝ち負けはどうでもいいのです。仮に戦略的に引いた場合でも、平和の象徴たる我々が負けたとあると民の動揺は激しくなる」
「負けたら私たちのせいなのね‥‥」
「その代わり、勝ったら全部開拓者の手柄です。‥‥まあ、最終的に負けないことが我々の使命ですから負けはありません。ご安心下さい」
「ほへえ、言いきるんだ?」
「賊ごときに領地が滅亡はないでしょう。肝要なのは、民が苦しむ前に追い払うことです。‥‥実は紅風馬軍、というか馬賊の特徴として、戦えば引き際が速い、ということがあります」
 実際、数日前に陸輸の商隊が襲われた時も救助に掛けつけた親衛隊と1度剣を交しただけで逃げて行った。
「それって、親衛隊が負けた事になるのかなぁ?」
「そう取る民もいます。とはいえ、馬賊はこの例のように『負けない戦い』を仕掛けています。‥‥当然ですよね、彼らは侵略軍ではなく、ただ単に風のように舞い込んできて、風のように吹き荒れて、風のように去っていこうとしているのですから」
「ひっど〜い。その風に吹かれてひどい目にあった人はどうなるのよ〜っ」
 真世がここまで言ったところで状況に変化があった。
「隊長、狼煙ですっ。ここから近い地点の部隊です」
「近場の部隊、ということは人数は少ないな‥‥。よし、済まないが真世君は詰めている開拓者と一緒に現場に急行してください」
「うんっ。‥‥目的は?」
「敵と遭遇した騎馬分隊の援護。‥‥追い払うだけでもいいし、捕縛してもわざと逃がして追跡してもいい。この辺は現場の判断に任せる。集落が近いから、そこに行かせることだけは避けてください」
 つまり、戦いやすいように戦ってよい、と。
「隊長、同分隊から2発目の狼煙を確認。色は赤ですっ!」
「‥‥5倍近く、か。まずいな」
 つまり、敵総数は約15騎近く。
 これでは仮に敵が志体持ちではないとしても追い払うまでにはいかないだろう。逆に、志体持ちがいれば危機的状況である。
「すぐ、行って来ますね」
 仲間の開拓者の元に駆け出す真世だった。


■参加者一覧
萬 以蔵(ia0099
16歳・男・泰
新咲 香澄(ia6036
17歳・女・陰
龍威 光(ia9081
14歳・男・志
ジルベール・ダリエ(ia9952
27歳・男・志
アーシャ・エルダー(ib0054
20歳・女・騎
ロック・J・グリフィス(ib0293
25歳・男・騎
龍水仙 凪沙(ib5119
19歳・女・陰
平賀 爽(ib6101
22歳・女・志


■リプレイ本文


 時に、待つことも開拓者の大切な仕事となる。
 本営天幕の外、開拓者たちがたむろしている場所。
「白蘭花、調子はどうだ?」
「ロックさん、珈琲が入りましたよ?」
 南那での愛馬・白蘭花の世話をしていたロック・J・グリフィス(ib0293)に、、アーシャ・エルダー(ib0054)がおっとりと声を掛けていた。待機中とあってのんびりした雰囲気である。
「今回はこのお馬さんと一緒ですねぃ」
 その近くでは、毎回馬を乗り換えている龍威 光(ia9081)が本日の騎乗馬を決めていた。
「あ‥‥」
 さらに離れた場所では、平賀 爽(ib6101)が寂しそうな顔をしていた。
 その視線の先で、ととと、とその場から逃げている黒猫。
「そんな必死に逃げなくても‥‥」
 着物の袖を目尻に当てて、くすん。
 ちなみに爽、青白い肌の蛇獣人だったり。
 と、この時、爽の目が一頭の馬と合った。青毛の軍馬である。
 果たして、逃げない。
 それどこか彼女に寄って来るではないか。
 すっと、眼差しが柔らかくなる。紅の映える口元が緩む。
「君が初めてだよ、逃げずにいてくれたのは‥‥」
 爽、この馬を「幸」と名付けた。運命の出会いであった。
 そして、これを見て破顔していたジルベール(ia9952)。
「ん?」
 突然空に上がった信号弾に気付き、座っていた椅子から立ち上がった。
「おおい、味方が敵馬賊と遭遇したぞっ!」
「見ろ、もう一発。‥‥て、敵は五倍以上だとっ」
 二度目の信号弾を見て騒がしくなる本陣。
 ここで、深夜真世(iz0135)が天幕から出てきた。
「瞬膳さんが出動してくださいって。敵を追い払えるならあとの判断は現場に任せるって」
「やれやれ、珈琲タイムと洒落込もうとしていたんだがな‥‥」
 目蓋を閉じて立ち上がるロック。すぐさま面を上げ戦士の目付きとなる。
「行くぞみんな、40秒で仕度だっ!」
 ジルベリア的な単位で言うと、装備を固め始める。
「出番? さて、馬賊を追い払うとしましょ‥‥痛っ、シギュン、嬉しいけど今は毛づくろいしてる場合じゃないの〜」
 愛馬・シギュンのお世話をしていた龍水仙 凪沙(ib5119)は、馬からがぶっと長い髪の毛に噛み付かれていた。よっぽどシギュンから気に入られたようで。
「レグルス、今回もよろしくお願いするよ、信頼してるからねっ」
 ひらりと愛馬に乗るのは、新咲 香澄(ia6036)。彼女も愛馬との再会を喜んでいる。ぶるん、と彼女の声に応じたレグルスもやる気十分。香澄を気に入っているようだ。
「馬賊のお手並み拝見といこか。なぁミネルヴァ」
 ジルベールの身も軽い。羽織ったフリンジ付きの羽織をひらめかしたかと思うと、馬上の人に。「ハッ!」と掛け声一つでミネルヴァと飛び出した。
「練習無しでいきなり実戦か‥‥これはすぐに上達しそうですねぇ」
「とにかく騎馬分隊3騎を救出して紅風馬軍を追い払うんですねぃ!」
 長いまつげの目で前を見据えると、爽が幸と出る。光も今日が初めての馬と折り合い急いで追い掛ける。
「真世さん、行きますよっ」
「ああん、アーシャさん。待って〜」
 アイシャのベガと真世の静日和を最後に、開拓者の8騎が出撃するのだった。


「瞬膳さんは、おそらく味方3騎はまっすぐこっちに逃げてきてるだろうって。‥‥ただ、南の方に集落があるから、そっちには追い込むなって‥‥あっ」
「起伏があって先は見えないね。‥‥じゃあ、人魂を飛ばしてみようかな」
 真世の言葉に、凪沙が小鳥を飛ばす。前方視認はおろそかになるが、シギュンを信頼し身を委ねる。
「馬に乗って戦うっていうのはつまり、一人で戦わんでもエエってことや」
 真世の危なっかしい騎乗に気付いたジルベールは真世と併走。凪沙を例に取って気持ちを落ち着けてやる。
「危ない時は馬が助けてくれる。そう思ったらちょっと気持ちが楽にならへん?」
「この先まっすぐだね。‥‥うわあ、逃げてる逃げてる」
 ジルベールの笑顔。そして凪沙の声。
「釣り野伏をするですねぃ」
「敵側面を突くなら任せてもらおう。‥‥時間との勝負ならば、迅雷のごとき素早さで駆け付けるとしようか。頼んだぞ、白蘭花」
 光の言葉は全員の思いでもあった。ロックがするするっと馬軍から離れる。
「凪沙さん、頼むねっ。後はまっすぐ急ごう。敵は多いからこのくらいがちょうどいい」
「分かったよ、香澄さん。集落には向かわせないよ〜っ」
 即座に人員配分を口にする香澄。仲良しの凪沙はこの一言で理解してロックを追う。
 平原とはいっても起伏が激しいので視線は通らない。
 引き付けるためには隠密裏に接近しなくてはならないし、まっすぐ走るより地形に合わせうねって走るほう方が速い。南那は平野部が少ないが、こういった丘陵地帯は多い。河など水系が乏しいので農地転用には向かず、民家も建たない。あるいは、紅風馬軍などの馬賊の生態に合うかもしれない。実際、馬が走ると様になる。
 騎馬の一団と、回り込む2騎。これらが芸術的なうねりを見せながら走り、現場へと急ぐ――。
 そして、開拓者本隊。丘の稜線を越えたところで敵を補足した。
「いました。苦戦してますね」
「真世さん、弓の用意を」
 アーシャの声に、光が指示を出す。「え、えっ?」と真世。
「真夜さん、緊張しないでね。練習の通りやればいいんだから」
「それに、俺らも居てるしな」
 香澄が真世を気遣い、 戦弓「夏侯妙才」を構えるジルベールも声を掛ける。ジルベール、安息流騎射術でまったく揺ぎ無い。これを見て弓を構える真世も、騎射の技術で安定する。これには、彼女の特訓に付き合ってきたアーシャや光もにっこりとする。
「私も、ロングボウで狙います」
「ほんじゃまあ、行くでっ」
 爽も構えたところ、ジルベールの合図で弓を放つ。敵も気付いていたようで回避行動に。が、これは計算のうち。目的は敵の速度の低下だ。逃げる友軍3騎はここで速度を上げた。
 「友軍救助に向いますっ!」
 アーシャの声が凛々しくなった。
 突撃である。


 まずは爽が本隊から右に、ジルベールが左に開いた。射線の確保である。
「馬上から狙うのは中々難しいですね‥‥」
 逃げてくる友軍3騎の援護射撃をしながら首をひねる爽。
 当たらない。
 しかし、選んだ馬、幸はおとなしい。安心して騎乗射撃ができる。穏やかな性格に感謝する爽だった。
 中央からは、だらりとブロークンバロウを垂らしたアーシャが突っ込む。
「また会いましたね。これ以上、あなたたちの好きにはさせません!」
 ぶうん、とブロークンバロウを振り回す。リーチがある分旋回範囲が広い。これは敵を狙った一撃ではなく、空間を作るための攻撃。敵の足が鈍る。
 もう1騎、光が突っ込んできている。
 呼子笛を吹き鳴らしている。
 これも敵を警戒させるのに抜群の効果を誇った。敵は一瞬、周りからの増援を警戒したが、何事もなかったことに安堵する。が、この隙は大きい。
「皆さん、こっちへ! 真世さん、引くよ」
 逃げてきた3騎を先に行かせる香澄。友軍との合流はこれで成功である。
 外から弓で威嚇射撃するジルベールに爽、前衛のアーシャと光の後ろからは香澄の火輪に真世の弓が援護する。
 しかし、多勢に無勢。
 味方3騎の疲労は激しく、戦闘行動にはもう移れない。いまだ戦力差は2倍。
「行かせないですねぃ」
 心眼で戦況を広く見た光が、両翼に開こうとする敵後続に気付きそれを追う。名刀「ソメイヨシノ」を振るうが、ダメージ狙いというより霍乱狙いだ。
 アーシャは、下がった。
 中央を抜かれた敵が真世に切りかかろうとしていたのだ。
「きゃっ!」
 振りかぶる敵に、もう駄目だ、と観念した真世。しかし、思っていたが痛みはない。
「‥‥大丈夫ですよ、こういうのも騎士の役目ですからね〜」
 アーシャが騎士盾「ホネスティ」でがっちり防いでいたのだ。そのまま数合やりあう。どうやら志体持ちのようだ。
「私はアーシャ・エルダー。これほどの手練と戦えるのは騎士としても本望、せめて名前を教えていただけませんか」
「‥‥ふんっ」
 必死の防戦中、不敵にアーシャが問うて見る。敵は知るかという風に攻撃を繰り返す。アーシャ、長物の懐に入られて防戦一方となる。
「くっ、強いね。なんとか食い止めないと‥‥みんな、頑張るよ」
 同じく中央引き気味だった香澄が、真世を守りつつ声を張る。‥‥真世、アーシャの周辺が激戦になったので離れたが、またも敵に襲われたようで。というか、明らかに狙われている。やはり未熟な乗馬技術が出ているのだろう。
「‥‥睨み返すとは、やりますね」
 爽もピンチに陥っていた。蛇ににらまれた蛙になるかと敵の馬賊を睨んでフェイントをかまして足元を狙ったが、矢は防具にすべり効果なし。逆に狙われるという薮蛇状態に。というか、弓を持ってると詰められるようで。
 というか、危ないですよ、爽さんッ!
「大丈夫ですねぃ。下がりつつ戦いましょう」
 ここは光が横合いから援護に。小回りの利く男である。
「こんなに強いなんて聞いてへんで!」
 逆翼ではジルベールが慌てていた。馬の調子でも悪いのか? 「うわ!こっち来んなー!」とかとにかく彼らしくない。
 いや、威嚇射撃をしつつ逃げるとかいう芸当は妙に上手い。
「どうする?」
 この様子に、敵に迷いが走ったようだ。強いのか弱いのか分からない。そんな声が聞こえる。敵は、ジルベールの外すときは外し、仲間が危ないときは仰け反らせるような技術的ショットをきっちり見分けている。
「‥‥方向と距離は概ねこれで分かった。深追いすべきではあるまい。何せ、敵の本拠地に近付いてるんだからな」
「しかし、こいつら素人ですぜ。見てください、あの女のへっぴり腰」
 どうやら真世と爽の様子を見て、開拓者の撤退行動は演技ではなく完全に弱者の集団と見られたようだ。これで、敵の早期撤収はなくなった。
 戦いは、続くッ!


 仮に、ここで敵が追ってこず反転していたとしたら、ジルベールが狼煙銃を撃っていただろう。
 ジルベール、ほっとして逃げと威嚇射撃に集中していた。
 そして、戦況が変わる。
「よしっ。ロックさん、準備して」
 丘の影に隠れ人魂でタイミングを見ていた見計らっていた凪沙がロックを振り返る。
「待っていた。横腹に突っ込むぞ」
 言うや否や、出撃するロック。もう、撤退する味方と追う敵を目視確認した。最大戦速で遭遇地点を目指す。
「集落には絶対に行かせないよっ」
 凪沙も呪殺符「海妖」を手にロックを追う。
 そして、大きく息を吸い込み式を召還。
「迸れっ!」
 繰り出すは得意の雷閃。光る雷撃は3スクエアの距離を一瞬で渡り背中から無防備な敵を撃つッ!
「何だっ!」
「騎兵隊参上だ‥‥。これ以上の狼藉、俺と白蘭花が許しはせぬ‥‥ロック・J・グリフィス、参る!」
 振り返る敵に、掲げた槍「白薔薇」とともにど迫力のカミエテッドチャージ。2スクエアを一気に詰める加速は攻撃後の防御をまったく考えない構え。仮にロックに問えば「ふっ」と鼻で笑われるだろう。ここが騎士の魂の見せ所っ。守るもののため、為さねばならぬことのため、いま、十分な助走と加速で己が体を槍とするッ!
「くそっ。なんだ、こいつら?」
 敵も、やるっ。
 きっちり防御で被害を抑える。そればかりか、ちゃんと数騎が凪沙方面に転進している。
「させへんで」
 ジルベール、ここで本気になる。バーストアローでとにかく敵を混乱させる。
「さぁ、ここからが本番だよっ」
 ぐるりと馬首を巡らせる香澄。陰陽符「玉藻御前」の装填枚数は通常の三倍。まだまだ余力がある。
「主砲発射っ!」
 火炎獣。
 ジルベールの攻撃とあわせ、敵はこの範囲攻撃で散り散りとなる。
「気配を消すのは得意ですよ」
 爽はここぞとばかりに味方にまぎれる。そこから足元狙いで矢を放つ。
「回り込ませないですねぃ」
 我慢の防盾術から一転、光が凪沙の援護に走る。とにかく剣を振るって、止めではなく敵の戦意をくじきながら。
 が。
 ここで、とんでもないことが発生するッ!


「きゃっ!」
 何と、急激な戦況の変化に耐えられず、真世が落馬していたのだッ!
 いや、状況は複雑だ。
 時に、香澄の主砲発射後のジルベールのバーストアローで敵も落馬していた。
「これで捕らえるよっ」
 さらに、香澄の呪縛符で敵の騎馬一体の動きを鈍らせている。
 そして、ロックは下からのユニコーンヘッドで敵を吹っ飛ばしている。
「真世さんっ!」
 声を上げたアーシャが、どこへでも対応できる唯一の人物となっている。
 どうするっ!
「逃げ出さなかった幸のためにも」
 爽が、真世に近付いていた敵の足元を狙い撃った。彼女には夢がある。叶うかどうかは分からない。「友達がたくさんできるといいな」――。そして、彼女は夢を裏切らなかった。戦友のための、一矢。
「感謝します、爽さん。‥‥さあ、一気に形勢逆転と行きますか!」
 アーシャ、迷うことなく呪縛符の利いた敵に長柄槌を大横薙ぎに見舞ったッ!
 ごすっ、と吹っ飛ぶ敵。落馬である。
「凪沙さんっ」
「装填完了っ。‥‥よしっ、行くよ」
 光に守られ符を再装填した凪沙は、接近戦に挑む。
「これでも食らっておくがいい」
 ロックは、落馬させた敵になにやら散布。‥‥えらい臭いですよ、ロックさん。
――あっ!
 それは誰が上げた声だったか。
 開拓者たちは目を疑った。
 何と敵が、落馬した味方に槍を振りかぶっているではないかッ!
「させませんっ!」
 アーシャ、馬を飛び降り武器を捨て、盾の両手構えでその攻撃を防いだ。
 ただし、この一幕は開拓者の完全な隙となった。
 ロックの落馬させた敵はこの隙に馬を追って復帰。‥‥もっとも、これはわざとであるが。
 そして全ての敵が転進した。
 集落の方には行っていない。
「ほーら、真っ直ぐ歩けないわよー?」
 アーシャの守った敵も逃げたが、凪沙の幻影符で上手いこと馬に乗ることができない。
「観念するですねぃ」
 光が駆け寄り、見事捕縛。
 無事、任務遂行である。


 親衛隊本営。
「駄目だな。奴らは森に入って逃げたが、匂いは追えなかった」
「こっちも、矢で結構流血させたんやが、さっぱりや」
 敵の本拠地を探ろうとして、わざと敵を逃がしたロックとジルベールは戦闘後の追跡任務の結果を話した。
「俺の名は、論利(ロンリ)だ。‥‥あの姉ちゃんには感謝してる。何でも話すぜ」
 捕らえた敵は、妙に口が軽い。アーシャが戦闘中に名乗った男であった。
「恩義もあるが、これが紅風馬軍の慣わしだからな」
 敵に捕らえられたら、生き延びることを目的とすること。そのためには仲間の情報を出していい――。
 これが、敵の掟。
「それで滅ぶようなら、そこまでだってよ。‥‥ウチのお頭、『紅風山千』は凄ぇよ。そんなことをさらっと言っちまう。そりゃもう、どこの頭よりすぐれた頭だよ」
 これが瞬膳ら南那正規軍が直面している、敵の正体だった。