【初出撃】彫り師と砥石
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/03/14 17:08



■オープニング本文

「よ〜う、下駄路」
 茶屋で背を丸め、湯呑みを両手でくるんでいた下駄路某吾(げたろ・ぼうご)(iz0163)は、突然横合いから声を掛けられた。
「‥‥ああ、なんだい。近等(ちから)じゃねぇか。どしたい?」
 下駄路が笑顔を向けた先には、大柄な男がこれまた温厚そうな笑顔で立っていた。
「まあ、座れ座れ。‥‥おおい、みたらし団子を二皿くれねぇか」
 どうやら親しい男らしい。下駄路は店の奥に向って注文すると、長いすの端に座り直し近等という男を歓迎した。
 この男の名は、結城田近等(ゆうきだ・ちから)。彫り物の細工師だ。
「最近、貸本の仕事を回せずすまねェな」
「な〜に、こう寒いと細かい仕事は辛いんでなぁ〜。また下駄路と遅潮と組んで楽しい仕事がしたいがねぇ」
 大きな体に間伸びした口調。そして人の良さそうな笑顔。
 結城田、そういう男らしい。絵師の下駄路某吾、作家の厚木遅潮(あつき・ちしお)、そして彫り師の結城田近等の三人組で貸本を世に出版している。日ごろ下駄路が「貸本は合体だ!」と叫んでいる理由である。
「そりゃそ〜と、ひとつ頼まれてくれねぇ〜かな」
「何だ、改まって」
「実はなぁ」
 結城田が言うには、どうも先日から降り続いた大雨で土砂崩れした山から、新たな砥石の鉱脈が見つかりそうだというのだ。
「質はい〜いようだねぇ。‥‥この時期の雨は、ひと雨ごとに温かくなるって言うが、新しい宝の山ももたらしてくれるとはありがたい限りだ〜ね」
 いつもよりにこにこしながら言う結城田。
 ちなみに。
 彫り師に必要なのは、純粋に彫る技術も必要だが、自分に必要な形の刃物を自分で打つ技量、そして自らの感性を表現できるだけの切れ味を持つ彫刻刀に砥ぐ能力も必要となってくる。他人の仕上げた既存の彫刻刀で彫っている間は、所詮世間一般での巧者の域でしかない、という職業世界である。平たく言うと、一般的に出回っている既製品で彫ってる間は、所詮一般的な物しかできないということだ。質の良い砥石が宝と言う理由である。
 閑話休題。
 この言葉を聞いた下駄路は、長いすに座る角度を変えより結城田をまっすぐ見詰める。視線は、鋭い。
「待て。そりゃめでたい限りだが、なんでこの俺に頼みなんだ?」
「弱ったことにな〜、死人にとり付いたアヤカシも一緒に土砂崩れでわんさと現われて作業ができん〜というわけで‥‥」
「俺は開拓者じゃねぇぞ」
 のんびり口調の結城田をぴしりと遮る下駄路。
「下駄路は慣れてるだろ〜。開拓者ギルドにいらいす‥‥」
「遅潮に言え」
 下駄路、またもぴしゃり。ちなみに結城田。こんなだが彫る時の手は早いとか。
「遅潮は〜、下駄路が動かないと動かないから〜」
「ち、どいつもこいつもしょうがねぇなぁ」
「‥‥本当は、下駄路に話せばこの話を貸本にしてくれるかなぁ〜と」
 乗り気なさそうにそっぽを向いた下駄路に、ぼそりと寂しそうな結城田の呟き。
「まったく、どいつもこいつもしょうがねぇ。‥‥一丁、この俺が使いっ走りしてやっからありがたく思えよ?」
 がらりと態度を変え、嬉しそうににやりとする下駄路。
 何だかそういうことになるようで。

 そんなこんなで、土砂崩れした崖に隣接する広い平地にいるアヤカシ約50体を退治する依頼が開拓者ギルドに張り出された。
 同行する下駄路など三人はほぼ安全地帯である、崖とは反対側で距離のある林に隠れて戦闘を見守り、貸本の題材とする予定(依頼金補填の一部であるため非同行を勧めるなら報酬減額)。開拓者の戦場突入場所も同所。
 今まで放置されていたのは、誰かが近付くとアヤカシ「屍人」が追って来て徘徊範囲が広がる可能性があったため。逆に言うと中途半端な戦力で戦い撤退した場合、アヤカシの徘徊範囲が広がり麓の集落へすぐにでも到達する危険がある。
 また、敵がいないと土に潜る習性があるようで、いまは土砂崩れして広範囲を覆う、比較的柔らかい土に潜伏している。
 現場の山は狼がいたようだが、今は退治されるなどして存在せず、ケモノに襲われる心配はないという。


■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
緋炎 龍牙(ia0190
26歳・男・サ
神鳥 隼人(ib3024
34歳・男・砲
杉野 九寿重(ib3226
16歳・女・志
八十島・千景(ib5000
14歳・女・サ
コトハ(ib6081
16歳・女・シ
笹倉 靖(ib6125
23歳・男・巫
エレナ(ib6205
22歳・女・騎


■リプレイ本文


 開拓者の8人と下駄路某吾(iz0163)・結城田近等・厚木遅潮の3人組は砥石の新たな鉱脈のある崖と土砂の広がる広場の見える場所に到達していた。もちろん、隣接する林の中から身を隠しつつ。
「ま〜あ、見た目どぉり危険なんかなさそ〜なんだけどね」
 結城田がのんびり言う。
 確かに現場は平穏そのものだ。
「なあ、あの崖。まだ崩れるんじゃねぇのか?」
 下駄路が対面遠くにある崖の上を指差した。長雨で水を吸うだけ吸い、見るからに脆そうだ。ぼろ、と今も小さく崩れたりしている。
「これだけ広いんだ。近寄らなけりゃいいだけだろ」
 遅潮がバッサリ切り捨てる。
「フィールドが広い上、どこに潜んでいるかも分からない状態でございます。隊を3つに分け、役割を分担して効率良く対処致しましょう。くれぐれもアヤカシを討ちもらしたりしないよう注意を払ってください」
 刃渡りの短い山刀、マキリを両腰に収めているコトハ(ib6081)が理路整然と言う。
「奥行きもあるが、横にも広い。事前の手筈どおりの組み分けでいいな。‥‥敵は出てくりゃ寄ってくるだろう。崩れても問題はなかろう」
 手筈を再確認する風雅 哲心(ia0135)。腰を上げる。
「下駄路たちはこの辺で待っててなー?」
 赤毛の笹倉 靖(ib6125)が続く。
「散歩にでも行くような気軽さで言うなぁ」
「何もないと思うけど、何かあったら直ぐ叫べよ? 哲心とかが駆けつけるからっ!」
 ぼそりとつぶやく下駄路に、不敵な笑みを絶やさず気軽に付け加える靖。
「アンタは戻っちゃくれねぇのかよ?」
「あ? 俺はいかねーよ。怪我したんなら行くけどさ」
「くれぐれも私たちの邪魔にならないように気をつけてください」
 下駄路と靖のやり取りを聞いて、コトハが怪我するようなことはするなと釘を差し走る。
「コトハさん、あまり無理はなさらないでくださいね」
 コンビを組む八十島・千景(ib5000)が陣羽織「白鳥」の裾で口元を隠しつつ軽やかに続く。腰に帯びるは刀「乞食清光」。鍛えに鍛えた逸品だ。
「じゃ、僕たちも行こう」
 柔和な表情で緋炎 龍牙(ia0190)が立ち上がった。この様子を見て、この兄ちゃんこんな優しそうな顔で戦えるかいなと心配する下駄路だったり。
「雨か‥‥。これで少しは障気も浄化できようさ」
 わずかな霧雨が肌を湿らせ始めたところ、金髪に水牛の角が見える神威人、エレナ(ib6205)が動いた。龍牙と同じ組だ。雨はともかく、これを機に自らの手で瘴気を一掃したいという意気込み。銀の瞳に凛とした意思が輝く。
「下駄路様、行って来ますね」
 言葉は柔らかいが長い黒髪にピンと天を突く犬耳。若き志士・杉野 九寿重(ib3226)、流儀に則って腰を上げると戦場に掛ける。彼女も龍牙・エレナと同じ組。
「アンタはいいのかい?」
「はは、いいんだよ。コレだからな」
 残った神鳥 隼人(ib3024)に聞く下駄路。隼人は鳥銃「遠雷」を見せ付けてから弾と火薬を装填する。
 さあ、準備は万端だ。


「囮は、立てなかったんだな」
 ぼそっ、と遅潮がつぶやいた。
 事前情報では、人が近付けば広場を覆う崩れた土砂からアヤカシが出てくるという。当然、今アヤカシはいない。
「誰かを危険に晒すんじゃなく、全員でっていうのは好感が持てるじゃねぇか」
「しかし、後手を踏むことになる」
 下駄路は気軽だが、遅潮は心配性。
 そして、コトハ・千景組と龍牙・エレナ・九寿重組が土砂付近に到達する。
――ぼこっ。
「うぉい、地面から手ぇ生えたぞ?」
 顔をしかめる靖。しかも土から出た手はおいでおいでするようにゆらゆら揺れた後、地面をついて頭から本体を出した。
「いくぞっ!!」
 盾を前面に最短距離を直進していたエレナが、これは先手が取れると判断するとブロークンバロウを上段高くに構え突っ込む。気合い、いや、誇りを込めた一撃は人型をしたアヤカシ「屍人」を粉砕する。
「敵は脆いですっ」
 すかさず仲間に報告するエレナ。
「何あれ、すっげぇ気持ち悪いんだけど‥‥」
 これを見た靖が口をゆがめる。くたばった敵は黒い瘴気を撒き散らすのはいいが、死体はそのまま残っている。どうやら死体にアヤカシが取り付き活性化したようだ。
「一つ!」
 エレナの横では、九寿重が名刀「ソメイヨシノ」を跳ね上げていた。羽織る厚司織の背中に満月。いま、退治した屍人の散らす黒い瘴気の中、ソメイヨシノの二の太刀の軌道が舞う。
「二つ! ‥‥敵は潜るんでしたよね。出た数と仕留めた数は覚えておいて下さい」
 振るう斬撃数え歌にはそういう意味があった。
 が、敵は一気に大多数が姿を現していた。包囲の危険性がある。
「俺に任せておけ。‥‥骸は骸らしく土で眠っていたまえ」
 忍者刀「闇喪」の横薙ぎ一閃。エレナ、九寿重の横を龍牙が守る。僕から俺に代わった口調は、アサシンマスクを目の下まで上げて戦闘準備をしてから。刃のような目つきに変わり、シノビのように影に動く。
 開拓者、一対一ではまったく危なげがない。
 が。
「ははは、50体近くはいるか。数の暴力というのも侮れんものだな、本当に」
 片目をつぶり遠雷を放つ隼人が落ち着いた笑い声を漏らす。心は平静で穏やかなまま。単動作を駆使しつつ効果的な場所を選んで援護の狙撃を展開している。
 そして最前線では。
「八十島様、まだいけますか?」
 シノビのコトハが走っている。援軍として予想外の場所から現れるのを防ぐため先ずは動き回って敵総数の把握を優先しているのだ。もちろん、両手に抜き放ったマキリで敵を倒しつつの動き。密接戦闘だけに手数は少なく反撃も受けるが、木葉隠で敵の狙いをくらませている。
「厄介な敵というわけではありませんが、数が多いのが拙いですね。‥‥麓の集落まで降りられたら大事です」
 払い抜けの動きから「乞食清光」がひらりと舞う。千景は動きの遅い屍人の包囲を切り抜けると、戦況を改めて確認する。敵は概ね開拓者を狙って集中しつつあるが、林を目指している敵もいる。隼人の狙撃音に反応しているのだ。
 戦線は、広がるだけ広がっていた。
 敵の数や分布状況を確認する戦法はしかし、戦場に別の不確定要素を呼び覚ましていたのだ。


 仮に戦場を鳥瞰したとすれば、横に長くなっていることが容易に見て取れよう。
 戦場右に、コトハと千景が右方向に動いていた。
 中央には、盾を駆使しつつじっくり戦うエレナと受け流しで包囲を逃れつつ巻き打ちの一撃必殺で手数を受け持つ九寿重が。
「君達は好きなように暴れてくれて構わないよ。後ろは僕が守っておこう」
 中央二人を抜こうとしている敵は、龍牙が忍者刀「闇喪」で黙らせる。
 そして戦場左。
 回りこむ屍人に反応し、新たに屍人が現れている。
「そう簡単に近づけると思うなよ。その前に確実に葬ってやるぜ」
 中間迎撃の哲心はもっぱら左を担当することに。戦弓「夏侯妙才」を白梅香で狙っていたが数が数を呼ぶため埒があかない。ついに刀「鬼神丸」を抜き放つ。
「数が多くなってきたな。それじゃあそろそろ本気で行くとするか」
「‥‥オイ、回復役の俺はどうすりゃいいよ?」
 ちゃきりと構え走り出す哲心に、神風恩寵をいつ使うか戦場を見ていた靖が慌てる。
「一気に片付けたいが、漏れたら頼む。どのみち神風恩寵も遠くじゃ使えんだろう?」
「ま、違いねぇ」
 破邪の剣を抜いてついていく靖。哲心は景気付けに初手は得意の雷鳴剣。ばっさりと格の違いを見せ付ける。
 が、数が数だけにさしもの哲心でさえ一度に相手にすることはできず。
「オイ、二体こっちに来たじゃねぇかよ!」
 剣を振るう靖だが、威力不足。攻撃を食らいながらも二の太刀で屠る。そして銃声。
「すげーな、隼人。流石に外さねぇのは砲術士ってトコ?」
 助かったぜ、と振り向く靖。
「やれやれ、何度見ても人の形をしたモノが死ぬのは気分の良いものでは無いな」
 林では次弾を装填しながら隼人がぼやいていた。
「‥‥まあ、気分が良いアヤカシなんて居ないし、相手が人間の時よりは難しくとも気は楽だが」
 ズドン、と次を屠る。もちろん剣で戦う靖の援護射撃だ。
「‥‥ありゃ、絶対に苦労性だな」
 ぼそりとつぶやいたのは、隼人の近くにいた下駄路。戦闘は哲心に任せる的なことを言ってた割に、結局自分もこまめに動いて戦っている。そして後衛向きの巫女だけに結構敵の攻撃を食らっている。
「敵さん腐ってるよーだが、毒とかねーみてえだ。大丈夫」
 大きな声で一応報告する靖。
「ありゃ、絶対に『いい人』だな」
 呆れ気味に下駄路が言う。
 しかし、これで横に広い戦場は全面を押さえた。
 後は、きっちり数を減らして――。
 開拓者全員がそう思った。
 その時、予期せぬ事態が発生するッ!


 それは、まったくの想定外だった。
 いや、その可能性は考えていた。だが、それ以上を予期していなかった。
 戦場は、急転直下の展開を見せる。
――どどどど‥‥。
「まさか」
 長柄槌を振るったエレナが顔を上げ小さく言った。
「うへぇ。まさかな」
 靖が顔をしかめつつへらりとした声を出す。
 戦場の騒乱が呼び水となったか、長雨の水を吸った崖がまた崩れたのだ。
 ただし、開拓者は深入りしていなかったので被害には遭わない。
 しかし次の瞬間、とんでもない光景を目の当たりにする。
――ぽこっ。
 何と、崩れた土砂の中から新たな四足のアヤカシが多数現れたのだ。
 その立ち姿から、屍狼だと分かる。
――ガウッ!
「新手だ。気をつけろ!」
 敵の増加を気にしていた哲心がすぐに気付き叫ぶ。
 しかし、すぐに戦闘に入る屍狼。動きが速い。戦場のリズムがいま、変わった。
 矢面に立たされたのは、戦場右のコトハ・千景組。特に役目柄突出していたコトハが最初に狙われ、あっという間に囲まれてもみくちゃにされた。
「きっちり、殲滅を図ると致しましょう」
 遅いテンポから速いテンポに切り替えるのに遅れたコトハだが、ここで奥の手を使う。
――ボッ!
 コトハの周囲が燃えたっ!
 火遁である。
「元が屍体というだけあって、良く燃え上がります」
 しかし、テンポ遅れてやって来る屍人の集中攻撃に遭う。
「死者を辱めるその行為、見過ごす訳にはいきません!」
 ここで仲間を助けるため千景が咆哮! アヤカシへの怒りの雄叫びを上げ、寄って来たところを回転切りでなぎ払う。この後の隙はコトハが寄せて対処する。
 そして、中央。
「フン、所詮は木偶ばかり‥‥動きが愚鈍すぎるよ」
 屍人がどうと倒れ瘴気が散るその影に、龍牙がいた。刺突後、蹴りで突き飛ばしつつ刀を抜いたのだ。しなやかに動く体を十分に使い、体術を絡めながら戦うのが流儀だ。
 が、その龍牙。横に吹っ飛ぶ。屍狼に横合いから襲われたのだ。こちらも速度の変化に咄嗟に対応できなかった。
「やってくれる。‥‥さあ、眠りたまえ。――龍槍」
 怒りの龍牙、直閃の平突きで押し返す。さすがに吹っ飛ぶ屍狼。屍人もそうだが、土砂崩れで現れただけにすでに累積ダメージがある様子だ。
「エレナ様、大丈夫ですか?」
「杉野殿、敵が変わろうが揺らぐ私ではないよ」
 エレナは盾を活用し屍狼に対応。努めて突出してなかった九寿重は素早く足を踏み出しソメイヨシノを振り下ろす。一撃の下、エレナの死角をつく敵を倒していた。そしてエレナもきっちりブロークンバロウを正面の敵にどすん。
「あっ!」
 ここで、下駄路たちが声を上げた。
 戦場がまた動き始める。
「おおい、今度は逃げようとするヤツがいるぜ」
 後方から視野を広く持っていた靖が叫ぶのだった。


「逃げるのがいるぜ、穏やか砲台のおっさん」
「‥‥私から簡単に逃げられるとは思わん事だ」
 下駄路からの変な呼び名に顔をしかめつつも、銃を巡らせる隼人。「邪魔だな」と空撃砲で手前にいる屍人を転倒させておいてから、単動作で再装填。奥にいる反転する屍人を狙った。
「目的は殲滅だ、逃げられないように」
 龍牙が戦場を駆ける。苦無「獄導」で逃げようとする敵を優先的に狙う。
「十二っ!」
 九寿重はエレナとともに揺るがず対面する敵と戦っている。
「細々忙しぃな」
 靖はこまめに神風恩寵で味方を癒す。
 別の場所では、千景が回転切りで、コトハが火遁でとにかく滅殺。
 遠近自在に戦う開拓者たちの活躍で、ほぼ戦場は制圧した。
 そして、さらに別の動きをする敵も残っていた。
「ははは、目敏い敵もいるな。‥‥その通り、この鳥銃『遠雷』は近距離射撃には向かなくてね」
「何のんびりいってやがる。あの屍狼、寄せが速ええじゃねぇかよ」
 落ち着いた隼人に、イラつく下駄路。
 そして、隼人の落ち着く理由が明確になる。
「これで最後だっ!」
 屍狼の横合いから、この動きを察知し寄せていた哲心が普段から想像できないように荒ぶり突っ込んでいた。
「すべてを穿つ天狼の牙、その身に刻め!」
 両手でがしりと構えた刀「鬼神丸」が、片手で扱うかのように恐るべき速度で繰り出される。あまりに素早い動きに陣羽織の裾が派手に舞う。北面一刀流奥義がひとつ、これが「秋水」ッ!
 手応えの余韻に浸る哲心の背後で、最後の敵がどうと倒れた。
 戦場が再び、静かになる。

「よ、三人全員怪我してねーか?」
 林に戻ってきた靖が下駄路たちの安否を確認する。
「あのお手前で、こっちに被害があるわけねぇよ」
 三人とも減らず口を叩けるほど元気だ。
「さすがにもういないよな。後になって出てこられても困るぞ」
「ええ。私が数えた限り、もういないはずです」
 哲心のぼやきに、死体の数を改めて数えた九寿重が頷く。
 と、遅潮が書き物をしているのが目に入った。
「何か良い話になる参考にになりましたか?」
「ああ。砥石もそうたが、職人もあんたらも見えないところに細かな技術を使ってる。読者には、そんな見えにくいところを伝えたいね」
 九寿重に笑顔を見せる遅潮。
「刃物を整えるのには砥石が不可欠ですから。良い石が流通できる様になれば良いですね」
「あはっ、その通り〜。木彫り職人だけじゃなく、大工も刀剣商もこれできっと大喜びだねぇ」
 言葉をつなぐ彼女に、今度は結城田が笑顔に。
 そして、下駄路。
「良い絵を描くことは出来ましたでしょうか?」
「あ、すまね。‥‥だが、しっかり見させてもらったから後からちゃんと描けるぜ、任務遂行メイドさん」
 コトハは下駄路に聞いたが、これまた変な呼び名を混ぜつつ笑ってごまかすのだったり。
 ここで、新たな人物たちがやって来た。
「よぉい、早桶の入り用はここでよかったんかね?」
 簡易の棺桶を荷車に載せた男たちが大挙して到着したのだ。
「私が早桶屋を頼みました。残った死体は、二度とアヤカシに操られないよう、手厚く埋葬したいですしね」
「あんた、優しいなぁ」
 気を利かせたエレナに下駄路はため息を漏らすのだった。

 こうして、良質な砥石が採れる鉱脈が確保された。
 後、多くの職人が質の良さにうなったという。