【美湯】温泉天国♪
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 25人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/03/10 19:38



■オープニング本文

「チョコレート輸送航路確認のお仕事は、とっても助かったわ。ありがとね」
 きゅっ、と杯を傾けた女性がまろやかな笑みをたたえて、銚子を両手で持って酌をしたばかりの少年に言った。
「ボクも空を飛べて‥‥」
「もっとゆっくり、女の子らしく優しく喋ってね」
 少年――いや、どうやら少女らしい――の唇に人差し指をちょん、とつけた女性は、起こした上体をまた肘掛に収め柳のような姿を見せる。
「コクリちゃんもチョコレートを食べて表情も甘くなってきたことだし、今度はまた温泉に入ってもらって麗しくなってもらおうかしらね‥‥」
 女性は、気ままな商人の対馬涼子。若いというにはアレで、かといって表現を誤れば即刻敵扱いされてしまう微妙なお年頃である。
「あ‥‥。ボクは前にも入ったから」
 銚子を持って控えていたコクリ・コクル(iz0150)は、「え〜っ!」と不満の声を上げようとしたのを押さえつつゆっくり言った。
「そう。前にもコクリちゃんは入ったわよね。‥‥その、白い『美人の湯』の開発がある程度終わったの。温泉宿にするにはまだ早いけど、どれだけの人がのんびりできるか試したいのよねぇ。ほら、まかないさんも大人数の接客を練習しなくちゃいけないしね」
「わあっ、ついに完成したんですね。それならボクも見てみたいな☆」
「う〜ん。まあ、今のがコクリちゃんの魅力かぁ‥‥」
 健康的なにっこり笑顔のコクリに、涼子はしぶしぶ納得したり。
「じゃあ、早速開拓者ギルドに‥‥あれ、そんなことをしても人が集まるような気もするね」
 何せ『美人の湯』で評判だった白い温泉だしねぇと頭を掻くコクリ。
「ううん、いいのよ。チョコレート輸送でもお世話になったし、その前の新大陸開拓準備の依頼でも開拓者の皆さんにはお世話になりましたからね。‥‥コクリちゃんも、お友達とか開拓者の仲間と一緒の方が楽しめるでしょ? それに、コクリちゃんからも日頃の感謝をする機会だから、それとなく接待してあげてね」
「分かったよ。‥‥対馬さん、ありがとっ☆」
「あらあら、もう」
 抱きつくコクリに、まんざらでもない様子の涼子だった。


■参加者一覧
/ 水鏡 絵梨乃(ia0191) / 酒々井 統真(ia0893) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 皇 りょう(ia1673) / フェルル=グライフ(ia4572) / からす(ia6525) / ユリア・ソル(ia9996) / エルディン・バウアー(ib0066) / アルーシュ・リトナ(ib0119) / 琥龍 蒼羅(ib0214) / リン・ヴィタメール(ib0231) / シルフィリア・オーク(ib0350) / グリムバルド(ib0608) / 琉宇(ib1119) / 朽葉・生(ib2229) / 白藤(ib2527) / プレシア・ベルティーニ(ib3541) / 常磐(ib3792) / 一 千草(ib4564) / ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918) / 神支那 灰桜(ib5226) / ライラ・コルセット(ib5401) / 白仙(ib5691) / アリア・シュタイン(ib5959) / 翠荀(ib6164


■リプレイ本文


「‥‥遠いな。これでは帰りに湯冷めしてしまうぞ」
 ぱらぱらと秘湯にやって来る開拓者の中で、前方をまじまじと見たアリア・シュタイン(ib5959)が静かに言った。
「まだお宿が建設中だからだよっ。完成すれば‥‥」
「ああ、そうだったわね。ごめんあそばせ」
 出迎えたコクリの剣幕に困ったアリアは、お嬢様言葉で雰囲気を和らげる。
「まあ初対面だし、無料で入るのも悪いから巡回偵察くらいはさせてくれ」
 アリア、緑の服に銀色の髪の毛と、冬の森に入ると迷彩になることこの上ない服装のまま、周囲の警戒・哨戒活動に出掛けていった。
 次に、ユリア・ヴァル(ia9996)がやってきた。
「報酬はいらないわよ」
「え〜。困りますよ」
 当然、コクリは抗議する。
「肌に磨きがかかるんですってね。‥‥それなら、対価を払うのが当然のこと」
「そんなぁ」
 ユリアの頑なな態度にコクリは涙目。
「そうね。‥‥それじゃ、私の言うことを聞いてくれるなら、受け取ってあげるわ。あとでいらっしゃい」
 あまりのあっけなさにユリアの方が折れた。ふふっ、とコクリの細い顎を指先で支えると、悠然と温泉へと向かうのだった。
 入れ替わりに、対馬涼子がやって来る。
「あ、コクリちゃん。これ渡しておきますね?」
「何、コレ?」
 手渡されたのは、大きな手の平のついた棒だ。
「『ぽろりはんど』っていう道具よ。それじゃ、がんばってね」
 一体、何を頑張れというのだろうか?


 さて、男女更衣室前。
 分かれ目で立ち止まっているのは、ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)だ。
「むぅ、混浴‥‥。覗きのしようがないのですよ‥‥。仕方ないので更衣室に行くですよ」
 それだけつぶやくと、銀色の狐しっぽをくりんって回してから当然のように女子更衣室に向う。
 が。
「きゃ〜っ」
「ちょっと〜!」
 どったんばったん。
「あぅ〜。ちょっと間違えただけなのに、ひどいのですよ〜」
 真っ赤になったネプが頭を抱えて出てきた。手桶も一緒に飛んできている。‥‥当然の仕打ちだが、ホントに間違えただけなのか?
 と、この時。
 ころん、からからから、とたらいが落ちて回る音。
「え? こここ、混浴だと!?」
 皇 りょう(ia1673)がたらいを取り落としたまま愕然とした表情で固まっていた。
「美人の湯というものに漬かればこの私もと思ったが、混浴っ!」
「どうかしました?」
 コクリがやって来て聞く。
「む? 『男女七歳にして――』などという言葉があってだな‥‥」
 ここでピンときたりょう。
「まさか、しきたりなのか?」
 思わず頷くコクリ。
「そうか‥‥。それならば仕方あるまい」
 思わず天を仰ぎ両目を右手で覆うりょう。「行こう」とコクリの手を取り肩を落としたまま女子更衣室へと入るのだった。


 さて、白い湯では。
「神父は教会の看板を背負っています。美肌の湯で私の美を磨くもの、神父たるものの務め」
 エルディン・バウアー(ib0066)。28歳、男性。聖職者である。
 手は腰に右足は湯の縁となる岩に掛けて、堂々の仁王立ち。遠くに巡らせた瞳はさわやかに澄み渡っている。
「混浴ということで時間をずらすという配慮もまた、神父のたしなみ」
 ちなみにタオルは頭の上。って、エルディンさん。ここってたおるを巻いてなくちゃ入っちゃいけないんですよ?
「はっ!」
 そんなルール知らんとばかりに一気に飛び込む。
 ざぷ〜ん。
 そのまま平泳ぎ。
 す〜いと長い体で優雅に泳いで、ターン。戻ってくる。
 その時。
「やあ」
 岩場の上から声がした。
 からす(ia6525)である。今日もお茶を飲んでいた。
「何時からそこに?」
 ざばっと上がり聞くエルディン。「君が遊び始める前からずっと」と、返すからすに困ったように目を伏せる。
「おや、見えるかい?」
「タオルは座った下を隠しませんが、この角度からだと見えそうで見えませんね」
「君は見えるよ」
 ‥‥あの、からすさん? 薄く笑うのはいいですけど、ちょっとは動揺するなり赤くなりなりしないんですか?
「磨かれた肉体の造形は芸術の原点とも言える」
 ずずず、と茶を飲みつつ付け加えた。実際は、白い湯気にエルディンの前は守られモロには見えないのだが。
「ふむ。芸術ということなら遠慮はいりませんね」
 ふんっ、と上腕筋を強調するポーズを取ってみるエルイディンだったり。
 しかし、冷静な二人の芸術劇場はここまで。
「おーんせんおーんせん。入り方は水浴びと同じかなー?」
 翠荀(ib6164)の天真爛漫な声がする。
「温泉‥‥美人の湯? おはだぷにぷに‥‥!?」
「そうそう。白仙の肌がぷにぷにになるぞ」
 白仙(ib5691)と水鏡 絵梨乃(ia0191)の声もする。
「美肌の湯やなんて♪。女を磨きますで」
「美人の湯ねぇ〜。しっとりつるつるの玉のお肌になれるかな?」
 リン・ヴィタメール(ib0231)とシルフィリア・オーク(ib0350)もやって来ているらしい。
「そろそろ人が来る。タオルを正したらどうか?」
「湿ったタオルが肌にピッタリ付く感触は‥‥あ゛‥‥ど、どうも、こんばんは。いい湯ですね」
 ニヤリと言うからすに、初志貫徹のエルディン。その割に動揺して片言だったりするが。
 ともかく、全てを包み隠す白い湯に漬かり騒ぎを回避するエルディンだった。


 さて、やって来た女性陣。
「いやっほーっ♪ って、あっつぃっ!?」
 先頭切ってざぶ〜んと飛び込んだ翠荀は、びくっと犬耳を立てて慌てて出たり。
「なに、温泉って熱かったの!? ってか入り方間違ってるの? うち」
 いや、間違ってないよと白仙と絵梨乃がにこにこしている。
「これはいいわね〜」
 早速両腕を上げて髪を纏め上げるシルフィリア。無防備な脇の下から、ばばんと大きく質量のある、それでいて形の良い胸、しまった腰、そして豊満なヒップがきれいなラインで一枚の巻きタオルに包まれていた。すっと右足を前にして、引いた左足は横にする姿勢がすらりとしてこのくびれ芸術を際立たせている。タオルが裾ギリギリの短さなのもまた蠱惑的で。
「シー姉はんと一緒に温泉やなんて初やね」
「そうねぇ、リンちゃん」
 シー姉、ハグり。
「わっ! ちょっ、そないなとこ触ったらあきまへんえ!?」
「あら、ごめんね」
 リンが真っ赤になってぷいっとそっぽを向くのは、シルフィリアがリンの胸を確認したから。
「ううっ、えいっ! ‥‥わわ、なにこれ」
 仕返しに抱き付き返す。‥‥なにって、それが男の天国ですが? かくしてリン、のぼせてふらふらとしばし休憩。
 そして、新たに朽葉・生(ib2229)がやって来た。短い裾のタオル姿は、ほっそりと身も髪も白い。
「小手毬隊の皆から、少し熱すぎと聞きました」
 一緒のコクリにそんな話をすると、フローズを適当に乱射。このあたり、心も白い。
「‥‥あ、危ないですね」
 適当に泳いでいたエルディン、危機一髪。
 そして、生の隣で別の直撃を受けた人。
「あ゛〜、ごぐり゛ぢゃ゛ぁ゛ぁ゛ん゛! 前゛回゛ばごめ゛ん゛な゛ざい゛な゛の゛ぉ゛〜!」
「うわっ!」
 コクリがプレシア・ベルティーニ(ib3541)から抱き付かれていた。
 見ると、プレシアは涙でぐちゃぐちゃ、しかも鼻水びろ〜ん。
「って、プレシアさんその格好!」
「ほみ?」
「いや、離れないでいいですから」
 なんとプレシア、素っ裸。無防備な豊満な体を、コクリから奪ったぽろりはんどで隠す生。
「お風呂はタオル付けて入っちゃダメなんだよ〜? お師匠さまが言ってたもん」
 無邪気な首長に、いやあのね説明。が、「あ、たいちょ〜」ときびすを返す。
 そして、新たな悲劇がッ!


 場所は一旦、長屋に移る。
「昼には、早いな」
 琥龍 蒼羅(ib0214)が大きな背もたれのある座椅子に腰掛けのんびりしていた。横の卓には、茶。
「まあ特に何かしなければならない、ということは無いか」
「哨戒に出る、とかおっしゃって散歩に出る方もいましたよ?」
 ここで働くことになった村娘が涼しい面差しの蒼羅に頬を染めながら言う。
「それも良かったかもしれんが、最近は戦い続きだった。今日はゆっくり体を休めるさ」
「一杯、いかがですか?」
「いや、いい。酒はなしだ」
 気を利かした村娘だが蒼羅、つれない。
「おや、お茶かい、蒼羅殿?」
「からすか。なぜ外から? ‥‥しかもその格好」
「だぶだぶだな。‥‥アリア殿が外を歩いているのを見て、代わってもらった」
 なんとからす、岩の上から強引に外に下り、外周巡回していたアリアと服を取りかえっこして戻ってきたのだ。当然アリアは、タオル一枚でお湯の中。
 ところで、蒼羅の座る居心地のいい座椅子は他にない。
「じゃ、譲ろう。オレはそろそろ入ってくる」
「それじゃたおるを何枚か持って行ってください。‥‥嫌がる人が持って行ってないんですよ」
 先の村娘が大きなタオルを蒼羅に渡す。おそらくプレシアの分に違いない。


 時間は生がフローズをぶちかましたあたりに戻る。
「美人の湯か〜。たっのしみ〜♪」
 ライラ・コルセット(ib5401)がたおる巻き姿で更衣室から現れた。肩もうなじも胸元も白く、ほっそり。元箱入り娘だっただけはある。お嬢様生活も飽きたナ、な感じで開拓者になったという天真爛漫な鉄砲娘だ。
「ライラ、温泉楽しみだね、美肌効果も高いらしいよ」
 待っていたのは連れの天河 ふしぎ(ia1037)だ。
「ふしぎちゃん‥‥」
「ほら、砲術士って火薬を使うから肌荒れとか」
「そうそう。いつもは火薬なんかで肌を傷めちゃってるけど、美人の湯なら大丈夫よねー。これで、後数年すれば、絶世の美女に‥‥」
 ふふふふ、と野望に燃えるライラ。会話が弾む。
 で、細い岩場の隙間を通って湯に着き、固まった。
「って、混浴? ‥‥混浴なんて知らなかったんだからなっ」
「わあっ。おっふろ♪ おっふろ♪」
 赤くなるふしぎだが、野望の前にそんなんどうでもいいライラ。
「あ、たいちょ〜」
 ここで、全裸(意思を持つような白い湯気が纏わりついている)のプレシアが寄って来た。
「わわ、ここではたおるをつけなきゃいけないんだからな」
「ほみゅ、分かったの〜。でもぉ、たいちょ〜は、何で上までタオル巻いてるのぉ〜?」
 ここでプレシア、ほみゅほみゅとふしぎのタオルをめくるという暴挙に出る! というか、何故に女性用の長たおるを巻いて胸まで隠しているのか、天河ふしぎッ!
――ここからの展開は速いので、特別にゆっくり再生する。
 ぺろん、とふしぎの長たおるの裾をめくるプレシア。狐耳ぴこぴこ揺らしながら覗き込む。ついでに楽しいこと大好き娘のライラも覗き込む。あわわと裾を押さえるふしぎだが間に合っていない。が、二人とも特段顔を赤くはしないぞ、どうしたのだ。
 と、ここで背後から絵梨乃と白仙が登場。
 絵梨乃、澄ました顔でふしぎの背筋を狙う。つつつ、ぞわわ、でえびぞりのふしぎ。そしてたおるにひっかかる指先。ええい面倒だと一気に引く絵梨乃っ!
「ああっ!」
 ここで、一同驚きの声が上がった。
「べ、別に恥かしくないんだからな!」
 いや、恥かしがってるよ、ふしぎさん。しかも両手で隠してるのは胸だし。
 下は‥‥男用のたおるをしっかり巻いていた。
「ほみゅ?」
「いや、それはまずいから」
 さらにめくろうとしたプレシアを白仙がとめる。ああ、白仙さん、今日は身も心も白いようで。
「とにかくタオルをつけろ」
 ここで蒼羅登場。背後からプレシアをたおる巻きにする。


「コクリさん、こっちへ。汚れた体を流してあげましょう」
 鼻水だらけのコクリは、生につれられ対面流しっこ。
「あはは、くすぐったい」
「こういうところをしっかり洗わないと駄目ですよ」
 この微笑ましい様子を遠くから見ていたのは、酒々井 統真(ia0893)。今来たばかりだ。
「ま、後ろにいるなら目のやり場に困ることもねぇ」
「何か言いました?」
「いや。‥‥髪、洗ってやる約束だったよな?」
 後ろからついて来ていた金髪豊かなフェルル=グライフ(ia4572)が小首を傾げたが、笑顔で返す。
「ええ。私は、背中を流してあげたいって言いました」
 にっこりとフェルル。道中口にした思いやりに、「髪を洗ってやる」という思いやりの言葉が返ってきた。フェルル、それがこの上なく嬉しい。思いの共有。そんな、感覚。
 そして、台に座り背を向ける統真。
 遠くから新たに声が。
「こんなところ紹介してくれたふしぎちゃんには感謝ねー」
「ぼっ、僕は男なんだからなっ、やっぱこういうのは‥‥わわ、背中位自分で‥‥ありがとう」
 ふしぎとライラが背中の流しっこをしていた。
「統真さん?」
「何でもねぇ」
 思わず目をつぶる統真。ほかに知り合いも散見される。恥かしさもある。
「統真さんの背中って大きく見えて頼もしいですっ」
 鍛えられた背中をまじまじ見られる感覚。そして、優しく丁寧に拭いてもらった。
 今度は、フェルルに座ってもらう。ボリュームのある髪が流れる。
「‥‥綺麗な髪、だよな、ほんと」
 丁寧に指でくしけずりながら言う。
「あ、すまん」
「大丈夫ですよっ。‥‥撫でてくれている時みたいです」
 ちょっと引っかかっただけで謝る統真。フェルルは髪に触れる優しさと湯とは違う温もりに淡い笑みをたたえる。
「今度はボクが背中を流してあげるね。‥‥へえ〜。生さんのうなじって、色っぽいんだ〜」
 聞こえたそんな声に、ちょっとした悪戯心も芽生える。いや、今という宝物のような時を大切にしたかったのだ。
 周りを気につつ真心を込め、そっとすくった長髪にキスをした。
 秘密である。


 それとは別の場所。
「よ、どうした?」
 湯の縁石に腰掛けるグリムバルド(ib0608)が、新たにやって来た琉宇(ib1119)に声を掛けた。
「混浴だったんだね‥‥。そういうの、僕は苦手だなぁ」
「ははっ」
「笑うことないでしょ?」
「いつも元気そうだと思って見てたが、琉宇もしょげることあるんだなぁ」
「‥‥お風呂は好きだよ。こういう寒いときのあったかいお風呂って気持ちいいよね」
 琉宇、冗談の一つも出ない。調子が悪いのではない。すでに周りはかなりにぎやかになっている。さらに騒ぐ気になれない。
「ん〜いいお湯♪」
 なんとも悦楽な声がしたので目を転じると、ユリアが宝石のように目をキラキラ輝かせながら白い湯を手ですくって肩や胸元など肌に丹念にかけている。長たおるを岩に掛け、胸元まで漬かっている。肌に直接湯が触れるようにしているのだ。
「美人はお肌にも気を抜かないのよ♪」
 視線に気付いたのだろう。琉宇にウインク。
「美人の湯、ですか‥‥、。これ以上女っぽくなったら、困るのですよ‥‥あぅ‥‥」
 視線をそらせた先に、ネプが来ていた。恥かしいのか女性から離れた場所を求める。
「って、ここなの?」
「はぅ♪」
「ここは比較的静かだな」
 満足げなネプに、蒼羅もやって来る。
 ところが。
「岩に登るのです! きっと岩の上の方が、見晴らしがいいのですよ!」
 突然ネプがざばばと立ち上がる。突然何、な感じでネプを見上げる琉宇と蒼羅。そして実際に岩に登り始めるネプにあきれる。
「まあ、上がれば厄介払いだろう」
「そうだね」
 どっこい、想定外の事態。
 何と、たおるが舞い落ちたのだ。ぽろりである。
「ちょっとネプさん、駄目だよ」
 ぽろりはんど片手にコクリが来る。
「あら、コクリちゃん。さっきの約束果たしてね♪」
「あ、ユリアさん。‥‥じゃ、琉宇さんあとよろしく」
 琉宇、ばしゃんと落ちてきたネプにタイミングよくぽろりはんどを合わせる。
「悔しいのです。難所があったのですよ」
「やれやれだね」
 わざわざ立って地団駄踏むネプの腰をしっかり隠しつつ呆れる琉宇だった。
「おっと、連れが来た。じゃあな」
 ここでグリムバルドは席を外した。


「グリム?」
 彼の向かった先には、アルーシュ・リトナ(ib0119)がいた。さっと隠し気味にした胸は、派手ではないが形が良‥‥アルーシュが恥ずかしがっているので以下略。
「漬かりましょ。ね?」
 体型のくっきりするたおる巻きに照れたアルーシュはグリムの手を取ってととんとつま先走りをするとゆっくり湯に入った。
「やれやれ」
「お湯‥‥ミルクは入っていないんですよね? 不思議‥‥」
 しっとりした水質の湯をすくって見ては、白さと肌に絡むような手応えに目を丸くする。
「でも、とっても良いお湯♪」
「ルゥの肌がよりしっとりすればそれでいい」
 隣に座るグリムの肩に身を預けるアルーシュ。
 この時、あれ、と目が見開かれた。
「傷跡‥‥。男性は傷跡が勲章と言いますけど、本当ですか?」
 おず、と聞いてみた。
「弱さゆえ、のもあるがな。ほとんど勲章さ」
「あ‥‥」
 左肩口の大きな三爪痕には、さすがに声を失った。
「どうしてこんな‥‥」
「ああ、そりゃ秘密だ。‥‥背中には傷がないぜ。そっちを見てな」
「意地悪」
 ぷいっと背中合わせになる。楽しそうで誇らしそうなグリムの様子から暗い過去はないと分かる。が、少し蚊帳の外感が。仕返しにぐいと体重を掛ける。
 しかし、大きな背中は動じない。
「本当に大きい‥‥」
「あ?」
「このお湯はお肌に良いって事ですから傷跡にもきっと‥‥。よく温まって、体を労わって下さいね」
 照れを悟られないよう、努めて冷静に言い直す。でもやっぱり言葉の端々にうれしさが。
 グリムは特に気付かない。
 秘密である。


「真昼間に酒が飲めるっつーのは最高だな」
 ご機嫌な声を上げているのは、神支那 灰桜(ib5226)だ。白い湯に漬かって、浮かべた桶に入れた銚子から一杯。
「美人の湯っていい響きだねぇ。食事終わったらもう1回入れるかな‥‥」
 義兄の灰桜に酌をした白藤(ib2527)が頬に右手の平を添えうっとりつぶやく。
「っはー‥‥美味いな。――妹に酌して貰うのは‥‥悲しいけどな」
「何だ、その悲しいけどってのは?」
「ああん‥‥。白藤、お前、一寸太ったか? 菓子食いすぎなんじゃねぇの?」
「なっ! お酌したのに。それなのに‥‥私は太ってないっ!」
 白藤、魂の叫び。ざばっと思わず立ち上がるが、ほっそりしている。立つついでに灰桜の杯を奪って、きゅっとあおる。
「姉さん、落ち着いて‥‥。いきなり立つと体の線が」
 一緒に漬かる一 千草(ib4564)が姉の白藤に自重を求める。が、すでに体にぴったり密着の色っぽいたおる姿を晒している。
「っ! 白藤てめぇ勝手に人の酒を取るんじゃねぇ!」
「太ってないって言えっ!」
「んなこと言ってもてめぇ、ここが‥‥」
 灰桜、ガキの頃のようにからかってやろうと白藤の胸を指差す。この瞬間っ!
「桜兄様っ!」
 ぱっこ〜んと桶の音。
 そして静寂。
「せっかくの美湯‥‥。姉さんもゆっくりするといい」
 千草が何事もなかったかのように姉を気遣う。
 そんな白い千草とは好対照に、黒猫獣人の常磐(ib3792)もいた。
「何だこのタオル。‥‥何処から来たんだ?」
 ぷか〜っと漂ってきたたおるを発見していぶかしむ。続いて、のぼせたエルディンが仰向けでぷか〜と漂っていった。ぽろりしているが、ぽろりはんどが乗せてあるので安心だ。
「折角の露天だ。ゆっくりしたい」
 そんなつぶやきと共に無視する常盤。
「バカ野郎、イテェじゃねぇか!」
 ここで、桶攻撃を食らって白い湯に沈んでいた灰桜がざばばと復活した。
「ああ、もう。千草にお酌するから」
 白藤、ツン。髪を纏め上げたうなじの下に鉄紺色の蝶の刺青が舞っている。
「有難う、姉さん。今日は姉さんも酒を飲むといい」
「おい常盤。どう思う、この二人。‥‥兄弟水入らずで楽しく温泉とか言ってたくせに」
「常磐? こっちに来ないと。兄弟水入らずなんだし」
 灰桜を無視して常盤に抱き付く白藤。
「ほっとけ‥‥っ。なっ!? 引っ張るな! 抱きつくな!! タオルが外れる!」
「姉さん。常磐の顔赤くなってる。逆上せる前に‥‥」
「おい千草。止めるんならこう体を張って止めねぇと」
 ああ、この騒ぎに巻き込まれポロリする常盤。見せたくないところはしゃがんで隠すが抱きつかれたり引っ張られたりでもう揉みくちゃだったり。


 そしてこちらはしっとりした感じで。 
「ええっ、前も?」
 端の方で白仙の声が挙がった。
「後ろからだし、恥かしくないだろう?」
 絵梨乃と仲良く背中の流しっこをしていたのだが、前も洗いっこすることになったようで。
「ひゃっ!」
 ぷにっ、と背中に押し付けられる豊かなふくらみに思わず飛び上がりそうになる。
「動くと上手く洗えないぞ?」
 むにゅ、ふにゅという背中の感触と、下から自分の胸を持ち上げられ洗われる感触。
「はぅ‥‥」
「ほら、今度はボクも前を流して欲しいな」
「うん‥‥」
 真っ赤になった白仙は、まるで操られるように絵梨乃を背後から抱くように洗うのだった。
 もちろん、にぎやかなのもいる。
「じゃ、コクリちゃん。美容マッサージをお願いね」
 長たおるを敷いて転がるユリアの滑らかな背中に、彼女から渡された液体を掛けて揉み始めるコクリ。「ああ、気持ちいい」とうっとりユリア。至福の表情で眠りに落ちる。
「えらいかわいらしいんやね、一緒に入ろ?」
 口笛で小鳥の囀りを真似ていたリンがやって来ると、そっとコクリを連れ出した。リン、のぼせから無事復帰。
 向かった先は。
「湯の質もいいわね‥‥。肌のキメやハリもいい感じ」
 シルフィリアが漬かって自らの胸元を確認していた。そして近くにアリアもいた。
「はぁ〜極楽ですわね‥‥。じ、じゃない。い、いい湯だな、うん‥‥」
 からすと衣装を交換し岩からとうっ、と湯に降りた後、ここでまったりしている。
 ここで、アリアの口調にきら〜んと光るシルフィリアの瞳。
「きゃあっ!」
 お嬢様的悲鳴を上げるアリア。背後からシルフィリアに抱きつかれたのだ。
 そして事件がッ!
 イヤですわイヤですわしたアリアの動きで、シルフィリアのたおるがぽろりした。ばばんと晒され‥‥いや、白い湯気にちらりんと見え隠れする大きく形の良い胸。
「ほみ。たいちょ〜、あれ見て〜」
「み、見てないんだからな、プレシア」
「素敵な女性もいますね、グリム」
「あー、素敵だ‥‥ぶっ。み、見てないから、ルゥ!」
 広がる波紋。
「シー姉‥‥。あ! きゃっ!?」
 助けに入ったリン、むしろ自分のたおるが半脱ぎに。
「何やってんのさ、も〜」
 コクリが跳躍してから強引にシルフィリアとリンを両脇に抱えて白い湯にどぽん。何とか隠す。
「いやっほ〜」
 飛び込み大好きな翠荀も騒ぎに交ざろうとざぷんと飛び込んで来る。
 しかし、この動きで今度はアリアのタオルがぽろり。目の前のコクリは思わず鼻血。
「い、いやああぁん!! 見られた‥‥男に見られた、親父にも見せたことないのに‥‥」
「Σ@@※♭〜っ! お、男に触られた〜」
 色っぽいアリアに涙目で後ずさる翠荀。
「って、ボクは女の子だよ〜っ」
 ばっとたおるを取るコクリ。
「大祭では統真さん外ばっかり見てて‥‥。けどまた二人で、っていう約束が果たせて嬉しいです♪」
「そ、そうだな。俺は今フェルル以外は見てないからなっ」
 広がる波紋。
「男〜っ!」
「え〜っ! それ酷いよ」
 走って逃げる翠荀とアリアに、追うコクリ。リンとシルフィリアが笑い、むにゃ、とユリアが午睡から目覚める。
「ふむ、男女のイロハは背中流しっこにぽろり‥‥」
 今まで温泉全体を見回し恋人同士や魅力的な女性について勉強していたりょうはふんふんと偏った知識を詰め込んでいた。そしてくるりんっと回って自分のスタイルを気にしたり。短い裾がきわどいところまでめくれる。
「真っ赤だぞ。大丈夫か?」
「きゃあっ!」
 突然やって来た蒼羅の突っ込みに、真っ赤になって湯に隠れるりょうだった。
「ちょっと、いい加減食事にしにくださいな〜!」
 遠くから呼ぶ村娘の声にぞろぞろと湯から上がった。


 その後も騒ぎは続く。
「犬のようにぶるぶるして‥‥丁寧に拭いてあげる」
「いつもこーだからいーよー」
 更衣室では、たくさん泳いで満足した翠荀を白仙が世話していた。なんだかんだ言いつつ従順なのは犬的である。
 そして食事では。
「はぅ! ご馳走なのです!」
 ネプやプレシアが目を輝かせフルもっきゅで食べまくる。
「常磐、顔が赤いぞ。‥‥まだまだ餓鬼だな」
「こ、これは料理に興味を示してるだけだ」
「ほんのり酔ぅてええ気持ちやね♪」
 灰桜、常盤やリンなどはお酒でしっとり。
「グリム? 私ね、天儀の食材だとお豆腐が好きなんですよ」
 アルーシュは料理でしっとり。
 ところで、エルディンさんは?
「音楽に美食に温泉に芸術。‥‥天にも昇る気分というところか」
 のぼせて横になっているところを、からすが扇子であおっていた。
 騒ぎの中でも、優雅に、しっとりと琉宇の名演奏が流れていた。
 ‥‥呪歌が交ざっているあたり、いつもに戻ったか。

 そんなこんなで美人の湯、ひとまず好評のようである。