段々畑でつかまえて
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/01/19 20:30



■オープニング本文

「えええ〜。なんでなんで〜」
 天儀は武天のとある地方。
 海岸線と山が切迫している日当たりの良い温暖湿潤の土地の村で、元気な少女がぶーたれていた。
「聞き分けろ。子どもらの鬼ごっこどころじゃねぇんだ」
「そうじゃ。みかん畑に鬼火がたくさんでとるんじゃ」
「このままじゃ収穫できんし、木を燃やされたらこの村もおしまいじゃあ」
 大人たちは口々に異常な事態を話ながら慌てている。
「おおい。追い払いに行った若い衆が帰ってきたで」
「ほうほうの体じゃ、ほうほうの体じゃ」
 どうやら村で駆逐隊を組織したようだが、あっさり逃げ帰ってきたようだ。そのため、被害は服や髪の毛が焦げた程度で済んでいる。対アヤカシ戦である。無理に戦わなかったのは不幸中の幸いといえた。
「あいつら、火を吹いたり体当たりしてきおる」
 攻撃を受けた者はそうまくしたてる。
「どのくらいの大きさで、どのくらいおったか」
「大きさは、人の顔くらい。それ全部が炎で、自由自在に飛びやがる」
 報告した若者の例えを借りるなら、首から上の顔だけが怒髪天をついたように炎を上げて燃え盛りながら宙を舞って襲いかかってくるというところか。聞いた者たちは、「嫌な例えだなぁ」と内心つぶやき顔をしかめる。
「数は分からん。かなりおるじゃろう」
 後者の問いには、別の若い衆が答えた。
「まあ、な。下から見ても広い段々畑のあちこちに鬼火が見え隠れするけえのぉ」
「みかんの木はもちろん、周囲に火が燃え移らんか心配じゃあ」
 村人たちは不安そうに段々畑を見上げる。
「火は一瞬じゃけえ、いきなり体が火だるまになったりはないみたいじゃがの」
 攻撃を食らった若者が自分の服を見ながら言う。肌はひりひりするが、服は少し焦げている程度だ。
「しかし、みかんの木を燃やされないまでも焦がされ収穫が落ちるようでは、村が立ち行かん。というか、収穫前に実を焦がされたら売れるモンも売れなくなるじゃねぇか」
「そうじゃ、即刻排除じゃ!」
「おおっ!」

「あーあ。鬼ごっこ、できないんだってさ」
 先ほどの少女、菜奈美は盛り上がる大人たちに背を向け歩き去っていた。やがて彼女の帰りを待っていた少年たちの集団に、そう言う。
「幸次郎、良かったな。私に捕まえられて泣きべそかかなくて済んだぞ」
 菜奈美は少年たちの中の、華奢な一人に意地悪そうに言った。どうやらずいぶんおてんばらしい。
(いいな、菜奈美ちゃん)
 その光景を、羨望の眼差しで見る少女が一人。
(幸次郎君とあんなに自然に話ができて)
 名を、綾華といった。こちらはおてんば菜奈美とは正反対の様子。
「おおい。結局、開拓者ってのを雇ってやっつけてもらうことになったらしいよ」
 別の少年がやって来て報告した。
「開拓者。聞いたことあるぜ、強いんだろう」
「じゃあ、あっという間に鬼火をやっつけてくれるよね」
「ああ。そんで、収穫を手伝ってから鬼ごっこだ!」
 おお、と子どもたちも盛り上がる。

 かくして、約10段で幅は広大・奥行きあまりなしの段々畑で、鬼火掃討戦が開始される。
 敵は鬼火のみで数は多数。段々畑に広く薄く分布しているが、整然とまんべんなく植えられているみかんの木により視界は不良。遭遇戦必至だ。加えて、みかんへの被害を抑えるため迅速な行動が要求されている。
 作業後は、みかん狩りと鬼ごっこが待っている。人の背丈程度の段々畑をよじ登って下りてと、楽しさ自由自在だ。


■参加者一覧
瑞姫(ia0121
17歳・女・巫
巳斗(ia0966
14歳・男・志
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
氷(ia1083
29歳・男・陰
御神村 茉織(ia5355
26歳・男・シ
鞍馬 雪斗(ia5470
21歳・男・巫
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
ベアトリーチェ(ia8478
12歳・女・陰


■リプレイ本文


「ボクたちが来たからにはもう安心してください。‥‥こんなにも素敵な場所にアヤカシが住み着くなんて、羨ま‥‥でなく、許せませんッ」
 巳斗(ia0966)が村人たちの前で、くるくると表情を変えながら気を吐いている。依頼のあった村に着くなり、「うわ〜‥‥とっても良い香りですね!」 と満面の笑顔をつくったり。どうやら甘い物、というか果物類に目がない様子だ。
「作戦は下段から上段へ。二班に分かれてそれぞれ両端から真ん中までを担当します。挟撃して真ん中あたりで上に登って、そこから端に掃討し両サイドから上に、の繰り返しです」
 てきぱきと作戦行動を村人に開示してみせる。
「ほお。しっかり者の嫁になりそうじゃの」
「ボ、ボクは男ですっ」
 村人の誤解に反応し、爪先立ちで訂正する巳斗。見た目からして誤解されても仕方がない。
「あ〜。‥‥とにかく、オレは巳斗君・雪斗君と一緒に左から廻る班でよかったかな?」
 頭をかきながら氷(ia1083)が話を戻した。
「随分と大きい畑だな‥‥、これは厳しそうだ」
 同じ班となる雪斗(ia5470)が、鬼火の居つく段々畑を見上げて呟いた。
「‥‥あの〜。お嬢さんも男で?」
 控えめに聞く村人。どうやら雪斗、女性と見間違われたようだ。
 それはともかく、なにやらほかの村人と話して準備に忙しい者もいる。
「うんうん。燃え移ったら大変だよね。‥‥あっ、一応大きな布と水を入れた桶用意して。大丈夫、みか‥‥畑は僕達が絶対守るから!」
 ご当地グルメが好きな一面もありそうな天河ふしぎ(ia1037) だが、一体何をするつもりか。って、いざというとき消火するつもりに決まってはいるが。
「まー、折角のみかんが台無しになるんは俺としても困るからな」
 黒い忍び装束の御神村茉織(ia5355)が言う。なかなかの洒落者で、赤い髪紐を肩の後ろに跳ねのけすまし顔。
「あ。でも、その手順じゃと下に逃げられたら‥‥」
「一段下には、あたしが控えるつもりです」
 疑問を口にした村人は、びくっと飛び上がった。近くにいた鈴木透子(ia5664)に気付かなかったようで、いきなり思いもしないところから返事があって驚いたのだ。
「そうすると、人数が半端では?」
「戦力配分はバランスをとってますから」
 若いが何気に落ち着きがある。ちなみに透子の言う通りで、班は四人と三人の振り分けになるが攻撃の主力となる三人の志士は少ない方に二人を当てている。
「ところで、蜜柑って美味しいのかしら?」
 不意に、ベアトリーチェ(ia8478)がぼそりと疑問を口にした。またも村人はぎくりと飛び上がる。異国情緒あふれる様子とぶっきらぼうな物言いに言葉を失ったのだ。
「もちろちん美味しいですよ♪」
「ん? まあな」
「‥‥はっ。別に、みかんにつられてなんかじゃ、無いんだからなっ!」
 果物はすべからく支持する立場にある巳斗がみかんのような甘い表情で太鼓判を押し、御神村が涼しい表情で肯定。直後に、ふしぎが「美味しいみかんを食べるためにここに来ました」的な特殊用語でオチをつける。ベアトリーチェとしては、最後の特殊用語が一番馴染みのある表現らしく、一瞬瞳を大きくして反応した。
 それはそれとして、もう一人、開拓者がいませんよ。
「ああ〜。ここのふもらさま、みかんの香りがいたします〜」
「そんなことないもふ」
「きっとみかん畑にいるからに違いありません」
「そ、そうもふか?」
 声のする方に目を転じると、瑞姫(ia0121)がこの村のもふらさまに抱きついていた。目敏い。というか、さすが人呼んで「もふりすと」。違いが分かるらしい。なんとも幸せそうな表情だ。
「‥‥蜜柑がそんなに良いものなら、たまには全力を尽くそうかしらね」
 ぼそりと、ベアトリーチェ。瞳に妖しい色がある。
 かくして、到着した直後ではあるが全力戦闘が始まる。


 後にこの村で、開拓者たちの戦いは「双蛇の崖のぼり」と言われ語り草となった。
 さて、前線は右側、ふしぎ・瑞姫・御神村・ベアトリーチェの班。
 前進をやめ腰を落としたのは、ふしぎ。額に付けた「ゴーグル」に手をやり集中する。――心眼だ。
「いるいる。そこの木陰と、遠くはあの辺とあっち」
「そこのは俺が盾になる。頼むぜ」
 御神村が砂防壁のスキルを使い敵の攻撃を受けきる覚悟をして、動いた。目当ての鬼火を視界に捕らえる。
 が、ここで予期せぬ展開が。
「おわっ!」
 何と、火炎が飛んできたのだ。
「うわっ!」
 御神村の後ろで、水がこぼれる音がした。ふしぎだ。まだ水の入った桶と布を持っていたらしく、今の火炎で落とした――いや、いきなり有効活用したらしい。ちなみに、「め」の文字が丸々と書かれた背中の旗指物は無事だ。
「このおっ」
 ふしぎ、前に出ながら怒りの斬馬刀。ダウンスイングで一撃必殺。勢いで大地も耕した。
 ふと、その様子を見て御神村は一抹の不安を抱くのだった。
「次、来ましたわ」
 支援の瑞姫が状況を伝える。ひらひら踊ったかと思うと、びしりと攻撃目標を扇子で差す。神楽舞・攻だ。敵はまだ距離がある。
「この距離なら私がやるわ。フシギ。あなたは前を見ていなさい」
 式神人形を手にするベアトリーチェが無表情に遠距離の敵と正対する。
「赤き薔薇よ、彼の者を切り裂く刃となれ!」
 瞬間、薔薇を模した式神人形からカマイタチのような式が敵目掛けて飛んでいった。こちらも一撃で敵を無に帰す。満足いく結果だったのか、彼女の瞳が細められた。
 が、すぐに開かれることになる。
「そこにいるのは任せるわよ」
 至近距離に新手の鬼火が現れたのだ。すっ、と身を引く。
 とはいえ、ふしぎからは若干距離がある。
「火事に繋がる心配がないのだけはほっとしたが、一応な」
 御神村が水遁で狙った。新手の鬼火は下からの水柱を喰らい戸惑っている。この隙にふしぎが詰めて止めを刺した。若干、蜜柑の枝を落とすこととなったが。

 一方、左側。
「前で盾となるつもりだったが‥‥」
 雪斗が呟きながら腰を沈める。鬼火と遭遇したのはいいが、先に攻撃を仕掛けるにはおあつらえ向き。
「泡沫の夢と化せ」
 下段から両手でがっちりホールドした刀「河内善貞」で斬り上げる。若干、長い銀髪が跳ね上がる。得意の防盾術を使うまでもない。
「ここならっ」
 その後ろから、巳斗がみかんの木に当たらないよう少し移動しながら近距離射撃。軽量の泰弓を使いこなして狙い、鬼火に引導を渡す。
「こんだけ集まってくるなんて、アヤカシにもうまいもんってのが判るのかねぇ‥‥ま、直接被害が出ないだけマシかな」
 ふぁぁ、と欠伸交じりで氷が言う。余裕、というより心を落ち着けているのかもしれない。‥‥いや、ただ自堕落なだけかも。
「被害は、出ますよ」
 巳斗が言葉を絞り出した。
「矢は、鬼火に刺さりませんでした。気をつけたけど、奥のみかんの木に刺さりました」
「とはいえ、退治しないとさらに被害が出る。とにかく、行こう。あっちのみんなも待ってる。‥‥そうだよね、氷さん」
「‥‥ん? そうそう。サボってないサボってない」
 思い入れが強いだけに無念がにじむ巳斗に、雪斗が気持ちを切り替えるよう促した。氷は、またも欠伸をしていたようで。
「ああっと! 雪斗君後ろ〜!」
 突然、氷が巳斗の背後を指差した。新たな鬼火が回り込んでいる。
 今度は、位置関係がいい。
 巳斗は振り返りざま状況を把握すると、寄せられる前に2連射した。見事、撃退する。敵を通り抜けた矢は2本とも石垣に刺さっていた。
「あの、ところで」
「や、ごめんごめん」
 氷、サボってないのはいいが声をかけるときに名前を間違っていたようだ。
 と、そこへ右側からの4人がやって来た。
「あ、ふしぎ。‥‥そっちはどうだ?」
「べ、べつに汗をかいたわけじゃないんだからなっ」
 ふしぎが持つ濡れた布は、あくまで消火用。もっとも、今回は幸いにも燃える事態にはなりそうにないのだったが。声を掛けた雪斗の方は、いつもな感じの彼の反応にくすっと笑みが漏れる。
「あっ! 上からです」
 警戒を緩めなかった右側組の瑞姫が、上の畑にいた鬼火に気付いた。そのまま力の歪みで攻撃し奇襲の危機から一行を救う。
「あなた、やるわね」
「もふらさまを買う資‥‥けふん。皆様が困っているようですので、頑張りますよ!」
 吸心符を用意していたベアトリーチェが褒めておき、瑞姫がぐ、と可憐に力こぶしをつくろうとしてみたり。
「とにかく、狭い。長物持ってるのは枝に注意な。火も吐くからできるだけ早めで」
 御神村が緒戦で気付いた点を手短にまとめて、先を促した。上の段に取り付く開拓者たち。先に瑞姫が上にいた敵を倒しているので特に動作中を狙われることもなかった。

 そして、ここで本腰を入れる人物が一人。
「よし。ここから出番ですね」
 段々畑の下で全体を見渡していた透子が、ついに動く。
「下に逃げたら大きな声を出して教えてください」
 それだけ言って、上に行く仲間を見送った。
 さて、彼女の役目。
 常に主戦場の下の段にいて、上から逃げてくるかもしれない鬼火を討つことだ。
 果たして、閑職か激戦区か。
「透子君、一体行ったからね〜」
 しばらく暇でただ上に行ってただけだが、やがて右からふしぎの声がする。心眼で察知したのだろう。位置情報はない。
「ええっと‥‥。いたっ!」
 発見するや否や、斬撃符。どうやら一撃で倒せるようだ。
「透子さん、この先で下に降りたのがちらっと見えた」
 こんどは、左の巳斗から。
 ‥‥移動距離が、長い。
「っと、3体? 火の用心、火の用心」
 斬撃符で一体を屠っておいてから、片手棍に切り替え距離を詰める。果たして、大丈夫か?
 と、突然虎が彼女を追い抜き鬼火に食いかかった。誰かの魂喰だ。同時に、矢がもう一方の鬼火を襲う。
 振り返ると、氷と巳斗が上段の端から手を振っていた。
 忙しい役目になったようだが、フォローもしてもらったようで。


 結局、みかんの枝など若干傷付けたようだが、その半面村人が考えていたより格段に早く鬼火を掃討した。
「ようし、早速収穫じゃ」
「わあい、これで遊べるよ」
 とにかく、村では大人も子どもも大喜びだ。
「まだ危ないよ」
 と釘を刺すのは、透子。それで聞き分けるほど子どもたちは大人しいわけではなく。
「まったくもう」
 ため息をついて、妥協案を口にする。
「鬼は二人。逃げる人もバラバラではなく一緒に逃げること。‥‥最初の鬼は、綾華と幸次郎で」
 にまっ、と透子。綾華と幸次郎は顔を見合わせ、赤くなってたり。
 さて、別の場所では。
「木登りは子供のとっから慣れてっからな。‥‥って、必要ない?」
 御神村の残念そうな声が響く。ふしぎも収穫組で、出番を待ってる。
「収穫しやすいよう、剪定して上に伸びる枝は切り落としとる。じゃから、背は低いし下から横に広がっとるじゃろ」
「下の方の枝の先端に甘い実を付けると聞いたことがあります」
 瑞姫が横から手を伸ばし、目当ての実を収穫。橙の実に親指を立てると、皮に含まれた水分がしぶきとなって飛び散った。初恋のような甘酸っぱい香りが鼻をくすぐる。
「御神村様もふしぎ様も、どうぞ」
「あ。食べてもいいのか? いただきまーす」
「ボタン鍋にカキの浜焼き。ついに今度はデザートかぁ」
 実を分けて渡す瑞姫。三人一緒に、欠けた月のような房を口に運ぶ。
「うん、うめぇ」
「うまいっ。‥‥あっ、雪斗も呼んで来よう」
「うふ。甘いです」
 そしてまた別の場所。
「ん、あ? 鬼ごっこ?」
 陽だまりで、みかんを育む日差しを一身に浴びて気持ちよさそうにお昼寝タイムを気取っていた氷が現実に引き戻されていた。遊び相手を探す子どもたちに目を付けられたらしい。
「ん〜、どうせなら鬼ごっこより宝探しでもしないか? 実はアヤカシ退治の合間に畑のどこかにあるものを隠しといたんだ」
 って、氷さん。それって口からでまかせではないでしょうか?
 しかし子どもたちは純真なもので、騙されているとも知らず表情を明るくして宝探しに出かけていった。
 さらに別の場所。
「鬼ごっこ? そんな面倒なことを何で私がしなきゃいけないのよ。そういうのは元気が有り余っている連中に任せるわ」
 つん、とベアトリーチェが細いあごをそらす。みかんの美味しさは理解したようで、収穫に余念がない。
「しつっこいわね。私はいいって‥‥。ちょっと、待ちなさいよ!」
 あの、りちぇさん。作業現場から離れてないですか?
「失礼な‥‥。私はこれでも十代後半よ。年上は敬いなさい?」
 だから子ども扱いされただけで熱くなることは‥‥。
「良いわ、付き合ってあげようじゃない。後悔しても知らないわよ」
 かくして彼女、鬼ごっこに参戦。どっちが後悔したかは、秘密。
「捕まえちゃうぞっ。‥‥おねーちゃんじゃない、おにーちゃんなんだからなっ!」
「騙されるな。あれはおねーちゃんだから」
 ふしぎはすでに鬼ごっこに参加中だ。って、雪斗がにこにこしながら逃げてる子どもに悪魔のささやきをしてたり。一緒ににげてる透子も、にっこり。
「なあ、おい。綾華は幸次郎のこと、嫌いかい。‥‥ふうん。好きだけど、きっと自分より菜奈美ちゃんの方が好きにきまってる、と。‥‥本当にそうかなぁ」
 御神村は、一緒に逃げている綾華に恋の手助け。「逃げてていいのかい」などと聞いてみたり。
「おおい、菓子が焼けたってよ」
 村の方で子どもたちを呼ぶ声がした。
「皆さんで、仲良く分け合って食べましょうね♪」
 どうやら料理上手の巳斗が腕を振るったらしい。
 村の子どもたちはあまり馴染みのない、それでいて甘くて美味しい焼き菓子に夢中だった。
 ちなみに、開拓者たちも夢中だったり。
 ところで、氷は?
「‥‥」
 昼寝をしていた場所で、子どもに畑で見つけたという矢を出されて返答に困っていた。「ああ、それが宝だ」と答えるべきか、「違う」と答えるべきか。
 そして、りちぇさん。
「‥‥大人気なかったかもしれない」
 焼き菓子をかじり風景を見ながら、ぼそりと後悔の念。ごく一部の子どもはへろへろに疲れていたという。

 そんな楽しい時間を過ごしながら、開拓者たちは心身ともに回復して帰途に就くのだった。